催眠アプリで女にギョウチュウ検査をしてやりたい 第2話

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 ――ギョウチュウ検査。

 2015年度に廃止となった検査だが、自治体の判断によっては、今後も地域や学校しだいでは継続という話である。
 故にこの検査は減りこそすれ絶滅したわけではない。
 ギョウチュウとは腸に寄生する虫であり、寝ている際にお尻の穴から出てきて卵を産む。専用のセロファンを肛門に押し当てるのは、産み付けられた卵が取れるかどうかで、寄生の有無を確かめるためだ。
 そう、セロファンを肛門に押し当てる。
 普通は自分でやることだが――。

 もしも他人にギョウチュウ検査をやられたら、人はどんな気持ちになるか。

 俺がこうしたマニアックな想像をしているのは、実際にそういうマニア性癖が存在して、それをAVにした動画まであるからだ。登場する女の子のお尻にセロファンが当てられ、男の指で肛門をグリグリされる。女の子はいかにも恥ずかしそうに顔を歪めて、その屈辱にひたすら耐え続ける。
 いわゆる少女の羞恥心というものを前面に押し出した作品群。
『見ないで!』
『恥ずかしい!』
 そんな心の叫びを表情にありありと浮かべ、屈辱に耐え忍ぶ姿は、羞恥作品のマニアにとっては非常にそそるものが強い。
 健康診断をテーマにしたAVなら、四つん這いのお尻に対するギョウチュウ検査で肛門をグリグリして、目茶苦茶に恥じらう女の子の表情はまず欠かせない。
 露出をテーマにしたエロ漫画も、いかに恥ずかしい部分を晒して外を出歩き、人に見つかる見つからないを味わうか。それとも、本当はノーパンで出歩いて、いつ中身を見られるともしらない不安な気持ちを味わうか。
 衆人環視の前で裸を観察されてしまったり、オナニーや犬のお散歩をやらされるというのも捨てがたい。
 恥ずかしさ!
 あらゆるシチュエーションによって、恥ずかしさこそを味合わせる。赤面しまくっている女の子の顔を見て、恥じらいっぷりを多いに楽しむ。
 それこそが羞恥の醍醐味。
 いかに恥じらいにかられた女の子を楽しむかが問題であり、そういったジャンルの作品では挿入行為は求められない。
 セックスは無くてもいいという羞恥ファンは多い。
 ただひたすら、恥ずかしがる女性の姿が――赤面っぷりをからだ。
 で、俺もまたその一人だ。
 無論、セックスやフェラチオだって大好きだし、是非とも体験したいのは大前提だ。晴香には色々としてもらいたいが、その一方で、そういうマニアプレイにも興味がある。いずれ挿入はするのだが、羞恥プレイもやってみたい。
 まずは恥ずかしがらせたい。
 やってやる。
 セックスも羞恥プレイも、何もかも!
 本物の催眠アプリなんてものを手に入れておいて、女をどうこうしてやる事を想像すらしないのは男じゃない。
 羞恥心!
 恥ずかしいあまりに死にそうになっているような、晴香の赤面しきった顔が見たい!
 さて、ここで問題がある。
 羞恥プレイを望むにあたって、ではどういう女こそ恥じらいが強いのか。
 セックス未経験!
 催眠アプリには羞恥心が減らない効能こそあるのだが、俺の気分という問題がある。肉棒を受け入れたことがあるし、もう誰かにオッパイ見せたことある女より、全く何一つ経験の無い女の方が恥じらいは強そうだっていうのは、これはもう考えるまでもない。
 となると、だ。
 妹を――晴香を美味しく頂くに当たって、、先にセックスをしてしまうのは順序が違う。

 羞恥の世界にペニスは邪魔っけなのだ。

 いかに恥ずかしい思いをさせ、羞恥に歪む表情や仕草を楽しむかが、羞恥におけるテーマといえる。世の中には羞恥ジャンルを謳いながら何故か普通にセックスをしている作品などが溢れているが、挿入している時点で羞恥じゃない。
 挿入って、こうだろう。
『ああぁぁん! らめええええぇぇ!』
『イっちゃう! イっちゃうのぉぉぉ!』
『あっ、いやぁ! あん! ああん! ひああああん!』
 みたいな。
 要は喘ぎ声が聞こえてくる。
 愛撫をしたり、肉棒を入れてしまっては、それは陵辱とか輪姦とか強制絶頂のような別のエロジャンルに変わってしまう。フェラチオとか手コキだって、相手に奉仕を求める行為なのだから、相手の羞恥心を煽る行為とはちょっと違う。
 視姦、露出、衆人環視。
 極上の恥ずかしさを呼び込む舞台仕立てはその辺りか。
 さて、問題だ。
 セックスも羞恥プレイも両方やりたい。
 しかし、挿入はしない方がいい。
 もちろん、それぞれのプレイは別々に楽しめばいい話で、好きなだけ恥じらいを味合わせたその後で挿入すればいい。催眠アプリの力があれば、羞恥心は薄らぐどころか蓄積していくことになっているのだから、晴香にセックスを体験させたとて慣れられてしまう恐れはない。
 だが、そのためには肝心なことを忘れちゃいけない。

 羞恥プレイの最中はペニスを出さない我慢が必要なのだ。

 無論、例えば本人の目の前で、そいつの裸をオカズにしてやる。ニヤニヤと視姦しながらオナニーのネタにしてやれば、なんだか恥ずかしい思いをさせてやれるには違いないが、少なくとも挿入だの手コキだの尻コキだのは決してできない。やっちゃいけない。
 それをやったら、羞恥プレイじゃなくて普通の性行為になっちまう。
 だから、羞恥プレイには我慢の必要が出てくるわけだ。
 できるのだろうか?
 催眠アプリなんてチートを持って、やろうと思えば晴香とセックスが出来る条件を手にしながら、生のおっぱいやマンコを前にいつまで我慢をしていられるか。童貞である俺は飢えた狼のように暴走して、自分自身で羞恥プレイを台無しにしないか心配だ。
 ああ、心配だ……。
 心配なので、今のうちに俺がセックスに慣れなくてはなるまい。どんなにムスコがギンギンに膨らんでも、肝心な楽しみを終えるまでは出さない我慢を身に付けたいのだ。
 そこで、俺は心に決めた。

 まずは他の女に催眠をかけてやろうと!


     *


 高校、放課後。
 俺はスマートフォンを片手に図書室へ向かった。
 催眠アプリの機能には、ただルール意識を植え付け命令を絶対化する以外にも、恋愛感情を与えたり意識をぼんやしさせるといったオプションがついている。
 さて、俺はこのオプションを利用するべく、いざ目的の女へ向かった。
「あっ、これ……。そのっ、お願いします」
 借りようと思っていた本を手にして、カウンターの図書委員にそれを手渡す。
「……え? あ! はい! ただいま!」
 その子はまるで、自分に声をかけられていたことに時間差で気づいたかのように、慌てふためきながら手続きを開始する。お互い同じクラスの子なので学年は確かめるまでもなく、ただ出席番号だけは伝えて、俺はライトノベルを借りるのだった。
 俺にもあるぞ……。
 自分が話しかけられているのに気づかない。
 二秒か三秒くらいしてから――あっ、俺? と気づいたりする。
 冷静に考えたら、どうして目の前の人間が自分に向かって声を放っているのに、それしきのことに気づかないのか。自分でもわからない。わからないんだけど、人と喋り慣れていないとそういうことが起きたりする。
 この子もそれと同じなのだと、俺は前々から悟っていた。
 同族の匂いとでもいうべきか。なんとなくわかったのだ。
 彼女は井上月子。
 外見上は儚く見える月子を例えるなら、まるで寿命の短い散り際の花だろうか。病的にも見えるほど白い肌は、白いあまりに一週周って透き通った肌として輝いていて、しかし色合いのせいで確実に病弱そうに見えてしまう。実際に持病で入院したことがあったり、入学式のあとにあったこの前の自己紹介でも、病気がちだと語っていた。
 俺は思い出す。
『小さい頃はずっと病院で暮らしていて、当時は外で走り回ったりとかは出来なかったので、ほとんど本を読んで過ごしていました』
 緊張しきったか細い声で、恥ずかしそうに喋っていたのが印象的で覚えていた。
 話によれば、ドクターストップでプールはNG。
 体育の授業でも、激しい運動はまだまだ様子見だというので、普通の子と比べて見学の回数も多くなる。
 妹に言わせればキモい俺だ。
 積極的に他人に話しかけられない性格もあって、病弱そうな儚い美人になどとても近づくことは出来なかったが、さっきのように会話で反応が遅かったり、ぼんやりと考え事をしているのを何度か見たことがあってわかっていた。その点に関してだけは、同類だなーと常々思っていたのだ。
 ま、外見の悪い俺とルックスの良い月子が、ほんの一面だけ似ていたところで、学力やらもろもろの面まで含めてそいつが俺と同格になるとは限らないわけだが。
 見れば彼女は、いつの間にか一人で過ごしている。
 入学後数日の頃は、名前順の問題で廊下側の席にいたが、席替えで窓際になった月子は、それから窓の外を眺める回数が増えていた。長い髪をふわりとなびかせ、青空を眺めるその姿は、まるで画家が絵画で描いた芸術的一瞬のように思えて、美しかった。
 そんな可憐な花。
 病弱な儚い命に見える美白の少女。
 雰囲気もどこか幸薄そうで、もし家が貧乏だったり家庭環境が悪いと言われても、なるほどそんな感じするよねーと、納得してしまいそうな気がする。
 なんかこう、過去にドラマチックな悲劇に見舞われていそう雰囲気がある。
 人慣れしない様子なので、ただクラスメイトに囲まれているだけで、なんだか困ったように苦笑いを浮かべ始める。
 一人で過ごしている時の顔の方が、なんだかうっとりして見える。
 そんな人だ。
 さて、俺はその月子の顔へスマートフォンをかざす。
「……ん? ええと、どうしたの? 太郎君」
「あ、うん。その……」
 俺は言いたいことが言えずに口ごもり、月子は俺の様子でそれを察する。
「……えっ、うん」
 と、俺の言おうとする言葉を待ち始める。
 なんとなーく俺達は意思疎通が通じたからいいものの、今の台詞を文面にして冷静に読み返したら、これ絶対に会話になっていない。
「俺さ……」
 君とシたいんだ。
 そんなことをいきなり口にする勇気はなく、ただ俺はタッチ操作で催眠機能を起動した。

「……っ!」

 月子は一瞬だけ目を丸めて、あとはくらーっと脱力。
 この一瞬にして、月子は虚空を見つめていた。
 あまりにもぼんやりと、意識を朦朧とさせた瞳で、ぼーっと……。

 催眠成功だ。