目次 次の話




 鬼のような形相でそいつは俺を睨んでいる。凶眼といってもいい。元から目つきは鋭い方だが、俺の仕打ちにとうとう怒りの沸点を超えたのだろう。猛獣さながらの凶悪な表情といったら、今にも俺を食い殺さんばかりの勢いだ。
「アンタ! 私に一体何をしたの! こんな事をさせてタダで済むと思ってるの?」
 物凄い金切り声だ。もう耳が裂けるんじゃないかというほどの怒鳴り声が俺の鼓膜を揺らすのだが、それしきの威嚇に怯えるほど俺は弱い立場じゃない。むしろとんでもなく優位な立場にいて、そいつは喚きながらも抵抗できずにいるわけだ。
「こんな事をさせて。だって? 姉ちゃんが勝手にやっているようにしか見えないけど?」
 我が姉、安藤美影は俺にオナニーを見せつけていた。
 一体どこの変態だろう。姉はわざわざ俺の部屋を訪れベッドに座り、大股開きで秘所を見せつけるかのような大胆なポーズを取り、俺に淫らな行為を見せつけている。指をくねらすようにして股間を揉み、上下に擦って刺激する。既にパンツには濡れシミが出来ており、女の愛液の香りが部屋にほのかに漂っていた。
「勝手じゃない! 見るな! 見るなっつってんだ!」
 姉はもう必死に怒りを見せつけ、とにかく俺を怯ませようと気張っている。とてつもない痴態を見られているのだ。まあ必死にもなるだろう。
 しかし、どうか。
 だったら初めから俺の部屋など訪れないで、人前で大股開きになってオナニーを開始するような変体行為をしなければいい。俺がいるにも関わらず姉は勝手に指でアソコを捏ねくり、頬を赤く染めているわけだ。
「姉ちゃんが勝手にしてるだけじゃん?」
 俺はゆったり椅子に座って、姉のオナニーを優雅な気持ちで鑑賞中だ。
 これは実に気分がいい。さながら権力者になりきって、王様である自分に刃向かっていた人間に「踊れ」とでも命じて実行させている優越感だ。屈辱的な命令のとして「踊れ」はよくあるものだと思うが、言っている側はこんなにもニヤニヤした気分になるものなのか。
 踊るどころかオナニーだもの、優越感が途方もないのも仕方がない。
「勝手になんてしてない! アンタのせいでしょ!」
 親が外出中だからいいものの、やれやれ姉も声がでかい。
 ま、だからこそいいわけだ。
 親の仇でも睨まんばかりの凶悪な表情で、しかし頬から耳まで真っ赤っか。屈辱にまみれた声で叫び続ける姿はもう最高そのものだ。
「俺が何をしたの? 俺は座って見てるだけだろ? そんなに嫌ならオナニーなんて見せるんじゃねーよ。姉ちゃんが勝手に始めたんだろ?」
「こっちだって見せたくて見せてるわけじゃない!」
 姉の指は滑らかに動いて秘所を刺激し続けている。
「へー? 好きで見せてるんじゃないなら、どんな深い事情があって弟にオナニーを鑑賞させてるわけ?」
「させてない! アンタが何かしてるんだ!」
「え? なんで俺が?」
「とぼけるな! 殺すぞ!」
 おお、怖い怖い。
 姉の性格上、きっと本当に俺のことなぞ殺しかねない。昔から平気で弟を蹴ったり殴ったりしてきたやつだ。もし仕返しを許そうものなら、当然それ相応の方法で返してくるだろう。
 だが、そんな心配は一切ない。
 何故なら主導権は俺にある。
 姉は俺の『操作』に従って動くしかないのだ。
 スマートフォンの画面をタッチして、俺は思いついた命令を文章で入力する。メールを送信するような気持ちでアプリの実行ボタンを押し、すると姉は動き始める。姉が俺にオナニーを見せているのはそのせいというわけだ。
「な、何!? 今度は何をさせる気なの!」
 姉は自分がオナニーを中断し、そして姿勢を変え始めていることに驚いていた。まるで自分の体が勝手に操作され、他人の手で動かされでもしているような困惑ぶりだ。見ている分には本当に姉が勝手に姿勢を変え、四つん這いになって俺に尻を向けているようにしか見えないわけだが、本人にはそんなポーズを取る意思はない。なんたって俺に『操作』されているだけなのだ。
 そう、今の俺には姉の肉体の動きを全てコントロールする力がある。
「だから姉ちゃんが勝手にやってるだけだろ? 何? そんなに尻を見て欲しいの? なら好きなだけ眺めてやるよ」
 俺は白いパンツに包まれた豊満な尻を視姦する。
「実にいいね。姉ちゃんの尻はむっちりと膨らんで、パンツを内側から破らんばかりだ。食い込みのせいでゴムからはみ出る尻肉、くっきり浮き出た割れ目がもう勃起もんだよ」
 その方が恥ずかしくて屈辱的だろうと考えて、俺は尻の形や大きさについて一つ一つ声に出して感想を聞かせてやった。
「うるさい! 喋るな!」
「濡れているのがよくわかるよ? シミになってる。オナニーで随分とお汁が出たんだね。そんなに見られながらするオナニーは気持ち良かった?」
 しっとりと湿ったアソコの部分からは割れ目が浮き出ている。
「黙れ!」
「だったらその姿勢やめれば?」
「くっ! このぉ!」
 姉は『操作』に抵抗し、四つん這いをやめようやめようとして強引に動く。だがスマホアプリによる『操作』の力が上回り、見えない力に固定されている姉の体は、きっとそのポーズのまま釘でも刺された状態なのだろう。動こう動こうとして抵抗する挙動は見て取れるが、残念ながら腰を左右に振るような動きにしかなっていなかった。
「あらぁ? ケツなんて振っちゃって。腰をくねらせて左右にフリフリするなんて、メスがオスを誘おうとアピールしているように見えるよ? 柔らかい尻肉がプルって揺れているし、本当にエロいねぇ?」
「うるさい! うるさい!」
 姉は肩越しに俺を睨みつけ、なおも怒りをあらわにしている。
 面白いのでよりケツ振りを激しくするよう命令文を入力し実行ボタンを押すと同時に姉の尻の動きが素早くなる。大胆なスイングで左右に振り回し、ハレンチな行動を取っているにも関わらず、顔では俺に凶眼を向け続ける。この顔つきや態度と行動の一致しない姉の有様が俺には最高でたまらない。
「とにかくやめて!」
「やめるって、俺が何をやめりゃいいんだ? 俺はスマホいじってるだけだけど」
「そのスマホで何かしてるんでしょ! どういうトリックか知らないけど、変な電波でも送る仕組みなんじゃないの?」
 その通りだ。
 俺は以前から『催眠アプリ』というものがあるらしいと噂を聞いていた。人間を自由に操作したり洗脳できるという有り得ない噂である。初めは信じていなかったが、ひょんなきっかけから俺はアプリをダウンロードし、しかも本物であることを知ったのだ。
 命令すれば相手はその通りに動き始める。
 アプリについていた説明書によれば、特殊な電波を送ることで催眠効果を刷り込んでいき、無意識のうちに命令を聞いてしまうものらしい。本人にはそんなつもりはなくとも、脳に送りつけられた命令で体がその通りに動いてしまう。俺は体験していないのでわからないが、おそらく自分の手や足に意思が宿って、好き勝手に動かれるような感覚がするのだろう。
 その気になれば洗脳や快楽堕ちも可能だろうが、俺にはそんなつもりは全くない。相手の性格を書き換えて自由にしたとて、その何が面白いだろう。むしろそいつにはそいつの意思を保たせたまま、その上で体の自由を奪われ勝手に動かされる気持ちを味合わせる。悔しがる表情を拝んでやるのが志向ではないだろうか。
 もしも洗脳をするとしたら、逆に心が折れないように精神力を補強してやる。そうする事で決して折れない女の魂を延々と虐め続けてやることができる。
 例えばこんな風にだ。
「見て見て? 私のお尻」
 声帯を操作して台詞を言わせた。
 好きな言葉を喋らせることも可能なのだ。
「は? 何言ってんの?」
「ち、違う! 別に私は何も言っていないわ! 今のは違う!」
 本人の意思を保ったまま、台詞の一つさえも思いのままだ。望まない言葉を喋らされた今の姉の気持ちはどんなものか。想像するだけでゾクゾクする。
「何が違うんだよ。確かに聞こえたぜ? 望み通りもっと近くで見てやろうか」
 俺は姉の尻に顔を近づけ、じっくり視線で舐めまわした。やはりもっちりした丸い膨らみ具合がたまらない。激しいケツ振りの命令は未だ有効なまま姉は左右に振り回しているが、そのプルプルした肉の振動で尻たぶが弾んでいる。おっぱいなんかも揺らせば揺れるが、尻もある程度揺れるわけだ。
 さて、俺は動画撮影で姉のケツ振り運動を撮ってやる。
「何してるの! やめなさい!」
 あーあー声が入ってしまうが、まあいいか。肩越しにこちらを睨みながらも、お尻を激しく振っている有様をじっくり映し、それから運動を中止させる。ただし四つん這いの姿勢は解かせなかった。
「やめろっていうなら姉ちゃんがケツ振るのをやめりゃいいのに、ずーっと続けてたんだから仕方ないだろ? カメラモードにしてもやめない姉ちゃんが悪い」
 俺は肩をすくめながら言ってやる。
「ふざけるな! 勇男のくせに!」
 姉は俺の名を叫んだ。
 勇男って、我が両親は随分とダサい名前をつけてくれちゃってるよね。
「パンツ丸見えだよ?」
「うるさい! 誰が見て言いって言ったの! いいから見るのをやめなさい! 動画も今すぐ消すの!」
 命令口調だ。
「いいじゃん別にさ。よく撮れてるよ?」
 俺は姉の顔に画面を近づけ、目の前で動画を再生してやる。他でもない自分自身の尻が左右にブンブン振り回され、揺れ動いている画面を見るや、さしもの姉もさーっと血の気を引かせていた。
「どうしてこういう事をするの? 私が勇男に何かしたの?」
 私は何もしていない。こんな酷いことをされるほど恨みを買った覚えはない。
 と、さしずめそう言いたげな強い口調だ。
「別に? 姉ちゃんはいいケツしてるし胸がでかいよなーとは思ってたけど」
「……うるさい。あのねぇ、さっきの動画は消しなさい? 今ならまだ許してあげるから、どんなトリックかは知らないけどやめて頂戴」
 この状況で上からものを言うとはさすがは姉だ。
「だから俺は純粋にスマホいじってるだけだっつーの」
「嘘よ。普通の女が好きでこういう事すると思う?」
「普通はしないね」
「そうでしょ?」
「姉ちゃんは変態だったんだ」
「この馬鹿が! なんでそうなるの!」
 パンツ丸出しの四つん這いのくせによく喋る。
 さて、では試しにポーズの固定を解いてみよう。四つん這いの姿勢から解放するが、変わりに新しい文面を姉の脳へ送信する。
『美影は弟に攻撃できない』
 命令は大きく二種類。
 解除しない限り固定で継続されるものと、その場で入力したあいだまでしか効かない瞬間的なものとがある。いちいち解除が面倒な場合は瞬間的な命令をして、継続的に同じ行動を取らせ続けたい場合は固定命令を入れる。
「このぉ!」
 四つん這いが解けるや否や、姉は即座に腕を振り上げ、俺に向かってビンタを繰り出そうとしていた。まさか姉はずっと自分の体を動かそう動かそうと念じ続けていたというのか。さすがにこれには驚いたが、ここで攻撃封じの命令が聞いた。
「――って、あれ?」
 姉のビンタはビンタにならず、手首のスナップが俺の頬を打つ直前まではいくものの、ぴたりと止まる。振りぬけなかった手は俺の肩にポンと乗せられ、姉は弟をぶてなかった事に困惑していた。
 攻撃できない、とインプットした効果が現れ、命令解除をしない限り姉は永遠に俺を蹴ることも殴ることもできないのだ。
 そう、永遠に。
「すぐそうやって暴力だよ。ま、躊躇ってくれたみたいで助かったけど」
「だ、だって! アンタが私に何かしたんでしょ! 怒って当然よ!」
「はいはい」
「だいたいね。いつどうやってトリックを仕掛けたかは知らないけど、こんな方法でなきゃ姉とまともに話せないの? だからアンタはいつまでたっても勇男なんじゃない。一体どの辺が勇気ある男よ。全然勇男じゃないじゃない! 雑魚男の方が相応しいくらいね」
 あー腹立つわー。
 何よりも腹が立つのは、姉は美影っていう割とよさげな名前なのに俺はイサオとかいうダサすぎる名前なことだよ。なんだよ勇男って。確かに普通っちゃ普通の名前だが、ここまでダサいとキラキラネームの方がマシに思える。もちろん光宙(ピカチュウ)なんてネーミングよりはずっといいんだが、もう少し格好いい名前をチョイスしろよ。
「この雑魚男が。話しなさい? どうやって私を操ったの? どうやって私にあんなことをさせたのか。スマホで何かやったんだろうけど、それだけじゃ有り得ないわよね。でも現実に私はアンタに操作された。そうとしか考えられない。どうやったの?」
 姉は俺の両肩を掴み、険のある顔で問い詰めてくる。
「どうもこうも、俺は本当にスマホ触ってるだけだよ」
 命令を入力してアプリ中の実行ボタンを押しているだけだから、一つも嘘はないわけだ。
「ならアンタのスマホは魔法のスマホだとでもいうの?」
「さあ?」
「何よその態度。姉にあんなことさせた挙句にシラを切るって、かなり最低だと思うわ。そんなんだからモテないのよ。いい? アンタみたいな愚図を好きになる女は存在しない。勇男ごときに何が悲しくて惚れるのかしら?」
「…………」
 今その話はいいだろ。
「悔しかったらなんとか言いなよ!」
 ったく、姉は一体どっちを怒っているんだ? 俺が姉を操作したことか? それとも俺が非モテ男子であることを怒り始めているのか? 話題はそっちに移ったのか?
「勇男! なんとか言いなさい!」
「あーあ、うるせぇよ」
 入力しよう。
『俺に抱き付いて甘えまくる』
 姉は俺の首に腕を回して、飛びつくかのように俺をベッドへ押し倒し、全身を密着させてきた。足が絡んで胸板には乳房があたり、耳横で姉の熱い吐息が蒸れてくる。やばい、これは勃起する。いや既に尻を見てしていたけど、こうして全身で姉の体を意識すると、より血流が下半身に集中する。
「あ、あれ? 勇男! 今度は私に何させたの!」
 耳元で怒鳴られた。
「あーもう、鼓膜に響く。姉ちゃんが勝手に俺に抱き付いてるんだろ?」
「抱き付いてない!」
「抱き付いてるじゃん」
「付いてない!」
 口では言い張る姉だけれど、胸板に頭をすりすりしてきている。締め付けんばかりに顔を押し付け密着してくる姉の甘え方は、まさしく女の子が大好きな男を捕まえてホールドしているのと変わらない。
「姉ちゃんってそんなに俺が好き?」
「違う! こんなこと私はしてない。してないのに!」
 体では甘え、口では否定。
 そして拳は握り固められ、悔しそうに震えていた。



 
 
 

コメント一覧

    コメント投稿

    CAPTCHA