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  • RE-F 渋谷凛の全裸身体検査

     渋谷凛の全裸健康診断シリーズ最終作。
     以前訪れたの某国の大使館で親善大使を募集しており、その話が凛の元にも舞い込んだ。最初は断ろうとするものの、親善大使に選ばれた場合、過去の流出動画の削除に協力するという申し出があり、凛はその面接の場へ向かうこととなるのだが、待ち受ける展開はやはり恥ずかしく、そして淫らなものなのだった。

    第1話 面接検証
    第2話 全裸検査
    第3話 大使の仕事
    第4話 医学のために
    第5話 そしてデビューへ


  • 第5話 そしてデビューへ

    前の話 目次

    
    
    
     書籍の中で、乳房への触診について解説が行われている。
     そのページにはバストアップが掲載され、まずは乳房を真正面から見せているが、次のページへ進むと、腋窩や鎖骨のラインなど、リンパ節に触診をする際の、お手本の写真が載せられていた。
     男の手で女体に触れ、診察している様子を手本にしつつ、その下には小さな図解も載せた上、文章は綿密にきっちりと書き込まれている。写真と図解で説明している方法を、文章によっても改めて説明しつつ、しこりの感触についても触れていた。
     こうして乳房を掲載する書籍であれば、当然のように性器の写真も載せている。
     性器のページに行き着くと、そこにまず載っているのはワレメを閉じ合わせた外側の写真であった。分娩台に脚を開いて、恥部を丸晒しにした状態での、陰毛に覆い尽くされたワレメはワレメが見えない。
     肉貝の隠されてしまった性器はまさに毛むくじゃらとしか言いようがない。
     写真は性器が画面中央を占めた撮り方で、肛門までは収めていないが、肛門へと続く溝のラインにも体毛は及んでいる。
     そして、次の写真掲載のページへ行くと、中身を開いた写真で膣やクリトリスについての解説が行われていた。その九割以上は学術的な文面であり、筆者による何らの下心も感じられはしないのだが、たった一文だけ『愛液で湿った状態である』ことを述べた部分があった。
     書籍の掲載写真はことごとくがカラー写真で、画質もそれ相応のものである。
     突起しているクリトリスの形状から、小陰唇のビラつきまで、両手によって肉貝を引き延ばした中身はじっくりと観察可能であった。
     そこからさらにページを進むと、導尿カテーテルや膀胱鏡など、器具の挿入にまつわる内容に辿り着く。挿入の際の方法や注意点など、必要なことを事細かに書いた上、実際にチューブ状の器具の刺さったアソコの写真が載せられていた。
     細い器具だが、尿道口を開いた中へと差し込まれ、先端が膀胱に達した状態の写真が載っている。その隣には実際に膀胱の中身を映した写真が載っている。
     泌尿器系の器具だけに留まらず、経膣プローブを挿入したエコー検査の写真もあった。棒状の器具を挿入して行う超音波検査の一種で、それも立派な医療行為の一つなのだが、こと挿入場面に関して言えば、写真として掲載するとアダルトとしての色が強まる。
     出版した編集側の意図としては、エロコンテンツを載せようとした気持ちは一切ない。
     あくまでお手本や図解の一つとして掲載したに過ぎないが、それはアソコが器具を咥えた写真である。それが医療器具であることを頭ではわかっていても、絵として見れば、ディルドなどのアダルトアイテムが挿入された場面と区別がつきにくい。
     そんな写真さえ、もちろん無修正であった。
     モザイクや修正のかかる場所といったら、顔が映る場合の目の部分だけであり、性器や乳房には何らのぼかしも加わらない。
     肛門に器具を挿入した写真があった。
     やはり、医療器具なわけなのだが、棒状のものを入れているため、その写真だけを見るならアダルトとしての毛色が強い。
     だが、それらの写真の隣には、必ず超音波検査の結果として得られたモノクロ画像が載せられていた。臓器の状態を診るための、専門家でなければ症状の有無などわかりもしない画像だが、この書籍を主に購入するであろう層であれば、いかに健康的であるかがよくわかるはずだった。
     これは確かに医学書である。
     しかし、それでもやはり、裸体の掲載ページは多かった。
    
     筋骨格の解剖図のページまで用意され、そこには全裸の直立不動の写真まで載っている。
    
     全裸写真と隣り合わせに、筋肉を剥き出しにした直立の絵が載っている。レントゲン写真を手がかりに描かれた本人の骨格通りの骨格図も、そのさらに隣で直立している。その身体の向きを真横にしたもの、背面に変えたものがページごとに並んでいるのは、医学というより美術資料と言えるだろう。
     当然、それらの写真についても顔はばっちりと載った上、隠してあるのは黒塗り目線の部分だけである。顎や鼻立ち、頬や顎など、他の顔のパーツは丸わかりで、この本を渋谷凛激似女優の視聴者が見つけたなら、たちまち飛びつくはずだった。
     医学書は分厚く高価なものだ。
     一つ一つの章でページを豊富に持ってあり、解剖図の章にも大量の写真が掲載されている。全身を映した直立写真の、前から横から後ろから、向きを変えてのバリエーションをページごとに並べた上で、手や足を中心としたページもあった。
     手の平を映しただけの写真の、その隣に筋肉を剥き出しにした場合の手が、イラストとして掲載されている。そのさらに隣にあるのは、やはりレントゲンを手がかりに描いた骨の絵で、形状の個人差さえも本人通りとなっている。
     腕のページがある。脚のページがある。
     頭から爪先にかけて、身体の各パーツを順番にピックアップしていく解剖図のページ群は、だから乳房や性器に肛門など、恥部の写真を改めて掲載していた。
    
     乳房の写真は使い回しだ。
    
     バストアップで乳房を真正面から映したものは、乳がん検診の解説ページにあった写真そのままだが、内科や乳がんのページには載ることのなかった横乳の写真もある。大きな乳輪の広がりは、真横から見ればどのようになっているかも、その写真でならじっくりと時間をかけて観察可能なのだった。
     さらに下乳を見上げたアングルの写真が載っている。
     尻の真正面からのアップが載っている。真横から見た場合の尻が載っている。四つん這いになった場合の尻が載っている。
     そのいずれも、皮膚を剥ぎ、筋肉を剥き出しにした場合のイラストを隣に並べ、姿勢による筋肉の形状の変化についてまで、文面による解説が行われている。
    
     そして、アソコのページがあった。
    
     やはり、毛むくじゃらでワレメが見えない、草原によって皮膚の覆い尽くされた写真だが、その隣には毛を剃り落とした場合のものが、イラストとして掲載されている。本人のワレメの形を再現して、ぴったりと閉じ合わさったようでいて、見えてビラのはみ出た部分まで、まるで現物の模写でもしたように丁寧に描き込まれていた。
     中身を開いた場合の写真では、クリトリスの突起が目立ち、小陰唇までよく見える。
     これらに加え、膝やふくらはぎなどのパーツまで細かく網羅した解剖図の章は、人体の学習にも役立つが、やはり美術向きの面も強かった。
    
         *
    
     そして、出版から数週間後。
     アダルトブログの最新記事で、ついにこの医学書が取り上げられる。
    
    『衝撃! 渋谷凛が裸で医学モデルに!?』
    
     そのブログの管理人は、決して確信を持っているわけではない。激似女優と渋谷凛が同一人物である証拠はなく、ただ激似という事実だけで『渋谷凛』の名前を使っている。腹の底ではそっくりさんがいるだけと思っていても、利用できるものは利用して、アクセス稼ぎに徹するというのがその手の人間のやり方だ。
     広告収入で稼ぐ人間は、人目を引く記事タイトルや画像を使い、少しでも注目を集めて収益を得ようとする。
     ブログ記事のサムネイルにアイドルの渋谷凛を設定しているあたり、彼女の名をアクセス稼ぎに利用しているのは、より一層のこと明らかだ。
     医療解説動画の時と同様に、比較検証が行われていた。
     医学書に載っていた限りの写真という写真の数々から、電子書籍を利用してキャプチャー画像を取り出しつつ、その隣にエロ動画のキャプチャーを並べている。顔立ちの比較から、乳首や性器の比較まで、細かなパーツを検証した上での同一人物という判定は、実に説得力のあるものだった。
     特にクリトリスや小陰唇への言及が多かった。
     顔のパーツが似ているだけなら、そっくりな人間の二人目や三人目がいたなどと、いくらでも言い出す余地はある。
     しかし、ホクロや傷跡など、細かな特徴の一致があったらどうか。
     そうした特徴の一致部分として、主に性器の中身は上げられていた。
    
    『どちらの画像を見てもおわかりの通り、クリトリスが米粒のような尖り具合でぷっくりと飛び出ていますね?』
    
     と、そうした文章を書くことで、いかに類似性が高いかをつらつらと述べた上、さらに複数の画像まで使って検証を繰り返す。
    
    『この動画のワンシーンでも性器の中身が見えましたが――』
    
     と言いながら、有名な動画のサムネイルを画像を並べている。動画は現在削除済みである注記を入れつつ、とはいえ切り抜き元の動画がどの動画であるかは明示した上、繰り返し繰り返しの検証を行っていた。
     空港身体検査のエロ動画から切り抜いた性器の中身と、医学書の性器を比較している。エステ系のエロ動画から切り抜いた性器の中身と、医学書の性器を比較している。少しでもクリトリスの確認できた動画から、一つ一つキャプチャー画像を生成して、医学書のページと何回でも飽きることなく比べ続けて、どう考えても間違いなく、絶対的に同一人物であることを主張し続けた。
    
    『この渋谷凛激似女優。もちろん、ただそっくりなだけだとは思うんです。アイドルがこんな動画をいくつも流出させるなんて、ありえませんよね。確かに、他のアイドルにはいくつか流出事件はあったりしますが、いくら何でも数が多すぎかと(汗』
    
     そのブログ内の文章には、そのような一文が書かれていた。
     似ているだけであり、アイドルの渋谷凛とは別人である可能性は十分高い。瓜二つではあるものの、いくらなんでも流出が多すぎる。こう何回も何回も流出させるアイドルは、さすがにいないのではという論調で、渋谷凛張本人であることを否定しようとしていた。
     しかし、ただの激似に過ぎないことを散々に主張していながら、最終的にはこんな風に書いていた。
    
    『ですが、世の中どんな事件や出来事があるかわかりません!
     やっぱり、本物の渋谷凛だったら燃えますよね!
     そうあって欲しいような、欲しくないような。
     もし本物の渋谷凛だったら、ここまで色々と流出したんだし、いっそAVデビューなんてしてくれちゃったりしませんかね?』
    
     と、結局は張本人であって欲しい願望について書いている。
     そのブログが次に更新される時、またも医療解説動画の紹介が行われていた。
    
    『渋谷凛! 尿道口を開発される!』
    
     またも、記事のタイトルにアイドルの名前を使い、サムネイルの画像にもアイドルを設定していた。
    
    『はい。もちろん別人だとは思うのですが』
    
     などと、申し訳程度の注釈で、激似に過ぎない可能性を一応は書いておきつつ、動画へのリンクを張り付けている。
     その動画に移動してみれば、医療関係者向けの膀胱鏡挿入についての解説が始まった。
     それは専門的な内容だった。
     どのような場合、どのような目的で、どんな症状を探るべくして膀胱鏡を挿入して、膀胱の中身をカメラで撮影するべきか。その主な例を挙げていきつつ、挿入方法についてひとしきり説明した上で、場面は挿入へ移って行く。
     一人の肥満医師が、尿道口に狙いを定め、細いチューブ状の器具を押し込んでいた。
     その作業が完了することで、尿道口が黒いチューブを加えた無修正の映像が映し出される。何のモザイクもかかっていない、医学資料用の性器の映像は、アダルトブログが散々に比較し続けてきた通りのクリトリスが飛び出ていた。
     包皮を内側から押し退けて、米粒のような、少しだけ細長い突起がそこにはあった。
     その下には半月状の小陰唇が、それぞれ左右外側に向かって倒れている。
     そして、やはりそのキャプチャー画像を使い、この記事の中でも比較検証は行われた。
    
     この情報が話題になるのは言うまでもない。
    
     SNSや他のブログにおいても取り上げられ、ファンのあいだにたちまち共有されていく。少しでも金に余裕のある男は、高い医学書をわざわざ買って手元に置き、とっくに検証の済んだ写真を自分の目によっても見比べていた。
     ファン達の大半は、激似動画をとっくにダウンロードした後だ。
     だからサイト上からは消え去っても、個人のパソコンやタブレットに残ったものまでは根絶しきれず、未だに多くのファンが渋谷凛のあられもない姿をオナニーのネタとしている。
     本当に本人か、ただの激似か。
     真実がどちらであれ、見た目が渋谷凛である時点で、ファン達にとっての価値は十分なものだった。
    
     しかし、この時のファン達は、まだ予想もしていない。
    
     その数年後、渋谷凛がAVデビューを果たすことなど。
     しかも、肛門や乳首の形状から、かつて流出した数々の動画が本当に渋谷凛であったことが、まさか張本人によって証明されるなど、一体誰が予想するだろう。
    
    『渋谷凛! まさかのAVデビュー!』
    
     その煽り文句はブログの記事としても、ネットニュースの記事としても使われて、ネットの海でたちまち拡散されることとなる。
    
         *
    
     渋谷凛のAVデビュー作は、多額の費用をかけて製作された。
     楽曲の使用許可を得るための使用料から、ステージの使用やファンの動員など、もはやAV撮影というより、単なるアイドル事務所のような活動をこなした上で、凛の歌う姿をAV会社自身が撮影したのだ。
     全てはアイドル時代の凛を撮るためだ。
     かつてアイドルとして輝いていた一人の少女が、やがてセクシー路線に舵を取り、AVにデビューするまでの流れを生み出す脚本に沿うためだけに、セックスや肌の露出が何もない、ライブシーンのためだけに大きな手間はかけられていた。
     彼女なら売れる。
     その期待感から、それだけの製作費用をかけられていた。
     AVはドキュメンタリー形式だ。
     大仰なオープニング映像に始まって、ナレーターが渋谷凛についてを語り始める。
    
    『かつて花屋の娘であった少女は、そして一人の男と出会い、アイドルの世界へ一歩踏み出す』
    
     そんな語り口を序章として、本編突入と同時にアイドルとしての活動が始まっていく。レッスンに励む光景をカメラに収め、ライブに備えたリハーサル練習の映像も撮った上、それぞれにナレーターの言葉を添えて進行していく内容は、まず凛のひたむきに打ち込む姿勢について語っていた。
    
    『生涯初のライブを行った時、その心には大きな熱が残ったという』
    
     ナレーターがそう語った直後、画面は切り替わった。
    「あの時、余韻っていうんでしょうか。そういうものが胸に残って、忘れられなくなったんです。それから、ますます真剣にアイドルの道へ進んでいって――」
     それはインタビュー形式の映像だった。
     リハーサルやライブに励む映像と、インタビューの場面を交互に切り替え、その都度凛が喋っている。視聴者が見ることになる完成版の中身としては、凛に対する質問はテロップ表示となり、それに対して凛が答える形である。
    
    『ところが、転機が訪れる。
     枕営業を持ちかけられ、彼女はある日――貞操を失う――』
    
     観客を前に歌っている場面の上に、そんなナレーションの言葉は重ねられていた。
    「やっぱり、少しでも真剣に、少しでも大きな仕事を。っていう気持ちがあって、思えばそこを上手く言いくるめられたんだと思います。美味しい企画をあげるから、っていう風に話を持ちかけられて、それで初めて…………」
     そこからは、凛がいかに性に崩れていくかが語られる。
     枕営業によって処女を失い、やがて不特定多数とのセックスを行うようになっていく中、とある国で行うライブのために、身体検査を受けることとなる。防疫状の理由から、何らのウイルスを持ち込むことのない、まったくの健康体であることを証明しなくてはいけなかった。
     その際の身体検査で全裸を求められ、それがいかに恥ずかしかったかを凛は語った。
    「その時からだと思うんです。私の性癖が歪み始めたのは……」
     あとは数々の経験について、暴露していく流れであった。
    「あの国では新型ウイルスが流行っていたらしくて、空港に着いた時とか、出国の時なんかにも身体検査を受けたんです。それで、同じように恥ずかしい経験を繰り返すことになって――」
     テロップ表示が行う質問に答える形で、凛は惜しげも無くエピソードを語っていく。
     検査の最中に絶頂して、それをからかわれたこと。自分は検査でイってしまった変態ですと、変態宣言をさせられたこと。エステに行けば、そこでも辱めを受けた上、さらには警察に誤認逮捕された時の内容まで、全てを事細かに話していた。
     それは事実上、過去に流出したエロ動画の内容について、裏付けているも同然だった。
     誰もがAVの企画と捉えそうな映像でも、凛が語った内容と照らし合わせて考えれば、辻褄の合う動画はいくらでもあった。
    
    『そして、AVデビューを果たすこととなった渋谷凛。
     彼女は今、初めてAV撮影のカメラの前で服を脱ぎ、男優との絡みを行う』
    
     そんなナレーションを契機として、いよいよベッドシーンへと切り替わる。
     男優が凛をベッドに導いて、柔らかなシーツに寝かせた上で、全身に丁寧な愛撫を始めていく。優しげな手つきで乳房を撫でて、陰毛の膨らみに指を沈めるプロのタッチで、凛はみるみるうちに表情を溶かしていく。
     とろけた瞳は色気に満ちて、実に気持ちよさそうなものとなっていた。
     アソコが愛液をたっぷりと放出して、陰毛が濡れてしまうまで、そう時間はかからない。
     男優はやがて挿入の構えを取り、正常位の凛の中へ男根を沈めていった。
    
    「あぁぁ……!」
    
     凛は大きく喘いでいた。
     甲高い声は、天井を貫かんばかりであった。
    
    「ああっ、あぁん! あぁん! あん! あん!」
    
     ピストンのリズムによって、高らかに上がり続ける喘ぎ声は、胴体のくねり動く反応と共に響き渡る。よがる両手はシーツを掴み、額に汗を浮かべて髪を激しく振り乱せば、その髪が皮膚に張りついていた。
    「あぁっ、あぁぁ……! あぁっ、んっ、んんんぅ……!」
     凛の喘ぎは激しかった。
     男優のピストンがもたらす快感は、凛にとってそれだけ大きなもので、声も自然と大きなものとなっている。握り締めたシーツに対して握力は強まる一方で、そのうち凛は絶頂の震えを全身に広げていた。
     ビクビクとした痙攣が胴体どころか手足にも及んだ上で、高らかに潮は巻き上がる。その噴水が下降へ移り、放射状に降り注いでいくことで、凛自身の腹や周りのシーツには、いくつもの水滴が染み込んでいた。
     絶頂したての肉体から、男優の肉棒は引き抜かれる。
     そして、ハァハァと息を荒げた凛の肢体に、舐め回すようにカメラは動く。視聴者からすれば、画面上に凛の裸体がスライド状に流れているが、それを撮るためには身体にレンズを近づけ、接写状態のカメラをカメラマンが動かしていたわけである。
     表情には色艶があった。
     呼吸を荒くしながらの、頬の火照った表情は、どこか快楽にうっとりしたようであり、満足しきったようでもある。性行為に慣れきって、快感を楽しんでやまない女の、色気に満ちた横顔がそこにはあった。
    
         *
    
    【初めてのAV撮影でしたが、どうでしたでしょうか】
    「そうですね。男優さんがとっても上手くて驚きました」
    【気持ち良かった?】
    「はい。何回もイっちゃいました」
    【AV活動はこれからも続けていく?】
    「そうなりますね。元アイドルとして、これから頑張っていきたいと思います」
    
         *
    
     その後も何度かの絡みを経た上で、このインタビューが締め括りのシーンとして置かれている。
     そして、インタビューも終わった上での最後のシーンで、凛は視聴者に向かって正座をしていた。
    
    「視聴者の皆さん。どうか、これからも渋谷凛を応援して下さい」
    
     このAVは、全裸で視聴者に向かって全裸土下座を行う場面を最後にして終了した。
     ただの終わりではない。
     デビュー作の最後に告げたその言葉は、つまりこれからも渋谷凛のAVは製作され、発売され続けていくことを意味している。締め括りでありながら、今後の期待も煽る全裸土下座に、一体どれほどのファンが興奮で鼻息を荒げたことか。
    
     比較検証は行われた。
    
     肛門や乳首などの手がかりから、過去に流出してきた動画のキャプチャー画像を使って比べることで、もはや確定的と見做される流れとなる。肛門の皺の形状から、乳輪のサイズに加えて、ホクロのような細かいものの一致も含めた検証結果は、瞬く間にネット中に拡散した。ブログというブログの数々が記事を出し、動画チャンネルの所有者が動画の中でその衝撃を語ったことで、情報の広まる速度は電光石火の勢いだった。
     激似と呼ばれた女優の映像は、決して激似などではない。
     本当に渋谷凛の映像だったのだと、全てのファンが知ることとなっていく。
    
     渋谷凛はアダルトの世界に転向を終えていた。
    
     これからは、この世界での活躍を続けていく。
     元アイドルという看板を背負った作品は、リリースのたびに売り上げ一位を叩き出し、多大なヒットを打ち出すことにさえなっていくのだ。
    
     反面、一部のファンは思うだろう。
     もうアイドル時代の渋谷凛は、帰って来ることはないのだろうかと……。
    
    
    


     
     
     


  • 第4話 医学のために

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     こうした仕事を数日にわたって繰り返し、最後にはライブの予定を挟んで帰国となるが、その出国前の空港検査でも、やはり肥満男は現れたのだった。
     さらには日本の空港到着後にさえ、ウイルスの持ち込みを検査するため、別室に連れて行かれた。その先々で最後にはセックスを迫られて、何度となく体を許し続けた末に、帰国からさらに数日経った時には医学関係の仕事がやって来ていた。
     医療用の解説動画を撮影して、さらに医学書に掲載する写真も撮りたいそうだ。
     それが単なる普通の撮影では終わらないことを予感して、実際に現場へ行くなり、またしても肥満男と顔を合わせた。ならば脱衣の指示が出るのだろうと、もはやそのつもりで仕事にかかり、凛は実際に裸となった。
     診察風景自体は肥満男と一対一で、しかし周りには撮影スタッフが控えた形で、凛のこの仕事は開始となる。
     まずは内科検診だった。
     触診の際の手本を見せるため、動画としても、書籍用の写真としても撮るらしい。
    「最初はしっかり背筋を伸ばして、両手は膝でお願いしますね?」
     凛の真正面にカメラマンがやって来て、座った凛を映すのにちょうどいい高さにまで腰を下ろしていた。
     レンズを覗き込むことで、片目をカメラに隠した男の顔が目の前に、だから指がシャッターボタンに置かれる様子はすぐわかる。そこに添えられた指が実際に押し込まれ、シャッター音声が鳴った時、自分の胸が撮られたことを深々と実感した。
     写真は一度に複数の種類を撮る。
     まずは座った姿勢を前から横から、次に乳房に近づけて、間近でパシャリとやってくる。その撮られていく感覚に興奮して、息を荒くしそうな凛であったが、実際に内科検診が始まる時には、よりはっきりと息を乱していくことになる。
     写真資料が目的の、診察自体はポーズだけの現場である。実際に症状を探し出し、処方箋を出すわけではない。
     とはいえ、お手本となる手の動きを見せるためにも、肥満男は実際の診察通りに指を押し込み、その様子を動画撮影のカメラに見せている。何かを探らんばかりにして、一箇所ずつ丁寧に指を押し込む触診は、たったそれだけのことが凛には刺激となっていた。
    「あっ、んぅ…………んぅぅ…………」
     きっと、もうアソコは濡れ始めている。
     凛は太ももを擦り合わせ、何かが切ない顔をしながら、その触診行為で乳房に快楽を感じ続ける。
     やがて、手つきは変化してきた。
     皮膚の表面をさすったり、あからさまに乳首を触り、感じさせる目的の手つきとなるが、周りのカメラマンは何も言わない。凛自身すら何も言わずに、肥満男のしている行為を咎めることなく受け入れていた。
     みんなに見られながら、いやらしいタッチをされて、しかも感じさせられる。そんな興奮に息を呑み、どこか緊張でもしたような顔をしながら、凛は乳房に意識をやる。
     大きな乳輪に指を沿わせていた。
     ぐるぐると、ぐるぐると、何周もかけて指を回した。コースの周回を続ける指先は、乳首にもしきりにぶつかって、そのたびに凛は荒めの息を吐き出していた。
     そして、快感が高まったところで指は離れて、首や太ももなどのリンパの触診を開始する。動画にも写真にも、手の動かし方を収めていく。
     動画の場合はそのまま動きを見せればいいが、写真となると複数枚をコマ続きにした載せ方をする場合もある。写真を担当しているカメラマンのため、肥満男は何度も手を停止させながら、シャッター音に合わせて次のポイントに指を動かす方法で触診していた。
     それらが済むと、次に控えるのは婦人科検診だ。
    
     凛は分娩台に上がっていった。
    
     背もたれに背中を預け、アームに両膝を乗せることでの開脚に、やはり抵抗感などもはやない。裸を見せること自体への恥じらいはなく、どちらかといえばケロっとした顔で、凛は撮影や触診を待っていた。
     裸で恥部を映す。
     その点は、雑誌モデルといった撮影に比べれば、決定的な違いではあるものの、ここまで裸を晒し慣れた身だ。凛自身にとっては、もはやその手の撮影に臨むのと変わらない気持ちで、分娩台で股を開くことができていた。
     裸そのものより、むしろアソコの状態がバレる方が恥ずかしい。
     性器への愛撫はされていないのに、ただ男に囲まれた状況だけで興奮して、息を荒くしていることに気づかれれば、既に凛の変態性を知っている肥満男はともかくとして、初対面であるカメラマン二人はどう思うか。
     ドン引きしたり、引き攣った顔でもしてこないか。
     そういった不安もありながら、凛はカメラの接近を静かに受け入れていた。やはり陰毛の処理はしないまま、毛のふっさりとした状態にワレメが覆い隠されてしまっているため、これで見本や資料として扱えるのか、少々心配になってくる。
     最初は数枚、ワレメの上から撮影した。
    
     パシャッ、パシャッ、
    
     と、何度かのシャッターが鳴らされると、次はアソコの中身を撮るために、指で開いて欲しいと言われたため、凛は両手を股へ伸ばした。扉を左右に引っ張って、桃色の肉ヒダを公開すると、早速のようにシャッターは切り落とされた。
    
     パシャッ、パシャッ、
    
     アソコへの接写である。
     こんなところに視線が迫り、しかも撮られている状況は、やはり興奮を煽られる。膣の奥からウズウズとした熱気が溢れ、いつ愛液が染み出してもおかしくはなくなっていた。
     クリトリスが突起する。
     接写状態でのシャッターを聞けば聞くほど、アソコの中身はひどく疼いて、陰核さえもが興奮していた。性器に集まる血流で、みるみるうちに固く突起していくことで、包皮の中から豆粒のようなものが顔を出し、それは間違いなくカメラマンの目に留まっていた。
    「お、クリトリスだね」
     そして、声に出しての指摘までされてしまう。
    「へえ? クリがねぇ?」
     もう一人のカメラマンも、その後ろで好奇心たっぷりにカメラを撫で、自分の動画撮影を楽しみそうにしていた。
     肥満男に目を向ければ、やはりニヤニヤと楽しそうな顔をしている。
    (やばい……)
     この状況は色々とよくなかった。
     人の興奮に気づいた男達が、好奇心に満ちたセクハラめいた視線を向けてくる。そうして出来上がる空気感の中に閉じ込められると、全身の肌が疼いてますますアソコは熱くなり、愛液を分泌しやすくなってしまう。
     しっかりと濡れてくるのは、もう時間の問題だった。
    
     パシャッ、
    
     デジタルカメラの中には同一の写真が複数枚、繰り返しのシャッターで収まっていた。
     肉貝を左右に引っ張ることで、その内側に隠れていた小陰唇も、左右に引き延ばされている。両開きの扉が開いたように、外側へと倒れたビラビラは、外周だけにちょっとした黒ずみを帯びていた。
    
     パシャッ、パシャッ、
    
     あと二回はシャッターを押してから、そのカメラマンは動画カメラマンと入れ替わる。
     動画撮影となれば、手の動きも撮らなければ意味がないため、肥満男も同時に前に出て来ていた。
     既にビニール手袋を嵌めている。
     指が挿入されての刺激が来ると、じっと身構える凛に向け、肥満男は指を迫らせていた。膣口に指先が触れた時、それはみるみるうちに埋まっていく。ただ傍目でははっきりとしないだけで、十分に濡れていたアソコは滑りよく指を受け入れ、根元までしっかりと収まるのだった。 膣内で指が動き始める。
     その様子を動画撮影用のカメラが横から撮っての、婦人科検診の撮影は行われた。
    「あぁ……んっ、んぁぁ…………!」
     凛はすぐに喘いでいた。
     膣内を指で探られて、その動きには性的な意図などない。今の肥満男はいわば撮影に対してポーズを取り、しっかりと手の形を作っている状態だ。モデルがカメラに対する絵作りを意識するように、肥満男は医学書に載せる手本を意識していた。
     愛撫などしていない。
     その純粋な触診に、凛はそれでも脚がヒクつくような挙動を見せて、呼吸もはっきりと荒々しく乱していた。
     愛液が溢れ出す。
     さしてピストンしていない、膣壁を調査するためだけの、最低限の動きしかしない指であっても、凛は十分に感じていた。みるみるうちに染み出る愛液は、膣壁と指の隙間を通って外へと溢れ、膣口のすぐ周囲にある陰毛を濡らし始めていた。
     撮影はそういった形で続いていく。
     肛門に指を入れる光景に、泌尿器検査の様子を見せるため、膀胱鏡と呼ばれる器具の挿入の様子まで披露する。尿道口に異物が入り込む感覚に悶絶したり、直腸用の器具挿入でもやはりまた悶絶して、最後にはMRI検査の様子を撮影した。
     ベッドの上に横たわり、カプセル状の設備の中に入って身体をスキャンする。そんな検査方法さえも全裸のまま、電動式のスライド移動でベッドが移動していく光景にも、カメラは向けられ続けていた。
    
         *
    
     そして、医療解説動画は公開される。
     せっかく、アダルト動画サイトからの削除は進み、拡散の勢いは低下しているというのに、入れ替わりで発表された解説動画は、主に医学生であったり、あるいは一般向けのチャンネルでも投稿され、多くの視聴者を集めていた。
     顔の映った場面がいくらでもあり、ただ黒塗り目線を入れているだけの映像は、まさしく渋谷凛に酷似している。
    
    『エロ動画に出ていた渋谷凛激似の子!?』
    
     という情報は瞬く間に広まって、あらゆるアダルトブログでも検証が行われた。
     まず、乳首ははっきりと映っている。
     いくら顔に目線があっても、鼻や顎など、全てのパーツを誤魔化しているわけではない。その上で大きな乳輪が内科検診の映像でよく目立ち、しかも触診の手本を示す手つきによって、だんだんと乳首が突起していた。
    
     まず、胸の検診の映像は、椅子に座って背筋を伸ばした姿勢に向け、固定のアングルから乳房を映し続けていた。
    
     医師と患者の真正面から向き合うところへ、横入りのようなポジションにカメラマンがいることで、斜めから映した乳房を画面左に、逆に右端には少しだけ、白衣の腕が見切れがちに映り込んでいた。
     乳房へとに手が伸びる。ふっくらとした丸みを指で潰して、ポイントごとにしこりの有無を確かめる動作と共に、テロップの文字やナレーターが詳しい解説を交えていた。
     乳がん検診のお手本映像だった。
     テロップ表示の文字においては、乳房に形状に注意を払い、左右差がないかをチェックするようにも書かれていたが、動画視聴者の一体何割がそうした注意に目を向けて、勉強のために見ていることか。
     アダルト情報を経由して、渋谷凛にそっくりだから見に来た視聴者が大半な中、映っている女性モデルはオナニーのネタだった。
     その触診の光景は、まず脇下に手を入れて、そこを四指で揉むようにしながらリンパ節をチェックするものだった。脇に続いて鎖骨のラインにも指を押し込み、もっぱら乳房そのものよりも、その周囲の方を触診するが、その次になっていよいよ乳房に手がいった。
     それはあまり、揉むような触り方とは言えなかった。
     揉むというより、手圧をかけながらスライドさせて擦り抜く。皮膚を伸ばしながら、上から下へと掻き下ろし、外から内へも掻き込んでいく。アダルト動画でよく見る揉みしだく手つきとは大きく異なるものだったが、それでも視聴者は楽しんでいたりする。
     手の甲に濃いめの毛が目立ったゴツゴツとした手つきは、誰から見ても男の手だ。
     男が乳房に触っている。
     その状況だけでも視聴者の興奮を煽り、医療解説をオナニーのネタとして捉えるには十分だった。
     そして、この動画についての情報を載せたアダルトブログでは、過去のエロ動画のキャプチャー画像を使った検証が行われていた。
     顔の部分を並べることで、いかに顔立ちが似通っており、同一人物に見えるかをひとしきり述べた上、さらに乳房を並べていた。
     アダルト動画から抜き取った乳房と、医療動画から抜き取った乳房は、どちらもまったく同じ乳輪の大きさをしていた。平均よりも大きな直径から、乳首がほどよく突起して、いかにも敏感そうに見えるあたりが、まさしく渋谷凛激似女優そのものだ。
     しかも、これと同一の乳房が書籍にも掲載されている。
    
     バストアップ写真がカラーで掲載されていた。
    
     やはり黒塗り目線を入れ、目つきだけは隠しているものの、顎や頬など、その他のパーツは何一つ隠していない。アイドルの渋谷凛とも比べやすい、まさに激似の写真では、証明写真のような真正面のアングルで、乳房から顔にかけてを収めていた。
     もちろん、乳輪は大きい。
     誰かがこの医学書の存在に気づき、激似女優との類似性に気づいたなら、その情報は間違いなくネットの海を流れるだろう。そして、医療解説動画で行われたものと同じ比較によって、どこかのブログが断定的に書いてしまうはずである。
     間違いなく、同一人物であると――。
    
     被写体の乳輪は見ての通り大きく、また興奮しやすい体質のため、乳首は突起状態にある。
    
     写真掲載のページには、そんな記載まで行われている。
     書籍そのものは大真面目な内容で、医学に通じた人間でなければ理解できない用語であったり、ある程度の知識が前提となった書き方もされている。何も詳しくない一般人が読むには適さない、まさに医学志望向けの一冊なのだが、そんな堅苦しい学術書の一文として、そうした体つきに関して指摘する文章がところどころに散りばめられているのだ。
     アソコも、肛門も、果てはMRI検査の際にベッドへ横たわり、全裸で収納されていく場面の写真さえもが使われている。導尿カテーテルや膀胱鏡など、器具の挿入について解説するページに至っては、その器具の刺さった状態の性器が、肛門が、モザイクなど無しに載っていた。
     書籍にここまで使われている以上、ならば医療動画の方についても、性器と肛門をばっちりと映したものが存在している。
     結論から言えば、それらは流出していた。
     医学用の教材であったはずが、しかしアダルトサイトにアップされ、せっかくの削除も束の間に、新しい動画が入れ替わりで登場した形となる。
     ならば当然、アダルトブログにそれらは掲載されていた。
    
     アソコや肛門の比較も、当然のように行われていた。
    
     過去のエロ動画のキャプチャーと、医学解説動画のキャプチャーから、それぞれ性器の写真を並べたページがもう既に存在している。
     記事内の文章では、まずクリトリスについて言及していた。
     包皮の内側から現れて、粒が尖ったように突起しているクリトリスは、どちらも似通った形状や大きさである。それがいかに類似しており、同一人物のものとしか思えないかについて、複数のキャプチャーを使った比較で熱弁していた。
     クリトリスだけではなく、小陰唇にも言及している。
     半月状のビラビラとしたものは、外側の部分が薄らと黒ずみを帯びているのだが、その変色具合が同一だと、ブログ中の文章が断定している。色合いばかりか、サイズや形状まで同一に違いないと語った挙げ句、さらに膣口の形にまで話は及び、その都度その都度、比較のための画像が登場する。
     そうなれば、肛門も比較している。
     医学解説動画から取り出す肛門は、肛門検査の際に大きくアップされるので、比較的に狙ったキャプチャーは取りやすい。対して過去のエロ動画からの肛門は、そこだけが大きく映った場面は限られていたが、しかしブログには二枚の画像が確かに並び、検証は行われていた。
     その記事内で言及するのは、シワの本数についてであった。
     肛門の形には個人差があり、形状が似ていることに触れつつも、本数を数えてみると一致することまで説いた上での、医学解説動画と過去のエロ動画の女優は同一人物であるとの断言は行われた。
     そして、その女優が本物の渋谷凛であると信じる者は、一定数存在している。
     凛が医学解説動画に出たとあらば、もしかしたら医学書にも、そう考える者が現れ、書籍のページからも裸の存在が暴かれるのは、時間の問題となるわけだった。
    
    
    


     
     
     


  • 第3話 大使の仕事

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     凛は心を決めつつあった。
     ここまで変態性が育っていき、興奮しやすくなったのは、ある意味では運命なのだ。裸を晒すことにも抵抗はなくなって、頼まれればストリップもこなす今の自分は、きっとそういう仕事に向いている。
     AVへの転向も悪くない。
     どうせ、初めて会う男であったり、名前を知らない相手とのセックスさえ、もう経験してしまっている。恋愛経験を積んだわけでもないのに、真っ当ではない形で経験人数が増えているのに、乙女らしい感情で貞操を守る理由もなくなっていた。
    
    「……ストリップって」
    
     といっても、凛は顔を顰めていた。
     肥満男と交わってから数日経ち、面接合格を知らせる連絡と共に、プロデューサーが企画用の書類を持って来てのこと。
     その内容に目を通すと、親善大使としてこなして欲しい役目の数々に、心構えといったことが書かれていたが、その一部にはストリップの項目があったのだ。
     曰く、大使館の中庭で脱衣して、オナニーをこなすこと。
    「なんで?」
     これではAVの企画ではないか。
     それとも、もう凛はAVデビューをする扱いになっていて、早速その撮影内容が決まっているのだろうか。親善大使の仕事の中に、AVの仕事が紛れ込んだ結果として、こんな内容が混ざっているのだろうか。
     そうでもなければ、さすがにおかしい。
     しかも、動画資料まで渡されて、ストリップ練習動画と称したものまで見ることになったのでは、もう色々と仕方がない。どういうわけで性的な内容が盛り込まれ、凛にストリップを求めているのか、理由はどうあれやるしかない。
     動画のお手本通り、凛はストリップを練習した。
     単に服を脱ぐだけで、何も難しい技があるわけでも何でもないが、色っぽく肌を出していく踊り子のような身のこなしは、多少は練習を繰り返し、体で覚えておく必要があると感じていた。
     そして、そのさらに数日後には飛行機に乗り、現地到着後にはやはり身体検査を受ける。空港には肥満男が先回りしてきていて、彼と一対一の検査となるのだが、例によっての脱衣の指示で、凛は一糸纏わぬ姿となっていた、
    
    「それじゃあ、まだ測ったばっかりだけど」
    
     肥満男の巻きつけるメジャーが乳房を包み、乳首の真下で目盛りは合わさる。メジャーの太さ以上に乳輪の半径はあり、下弦が僅かにはみ出していた。
    「八三センチ。この前と同じだね」
     数日ほどで変化がないのは当然だ。
     しかし、そのさらに前の身体測定に比べると、バストは一センチだけ膨らんでいた。
     その身体測定のきっかけは枕営業に遡り、その時のセックス相手が肛門に異物を挿入してきたせいで、病院へ行く羽目になったのだ。入った瓶が取れなくなり、病院で摘出措置をしてもらうことになるのだが、その時の医者から何故か身体測定をされたのだ。
     そして、この時の動画すら、流出リストの中にあったのだ。
     おかげであの面接と検証の場において、肛門から物が取れなくなった体験まで話す羽目になっており、この肥満男は凛のそんなエピソードすら知っている。凛は未だに名前すら聞いていないのに、彼の方は随分と凛については知った形だ。
    「ウエストも変わらないね」
     メジャーは腰に移り、そちらは肛門異物事件の時とも変わらない。
     だが、ヒップの方は膨らんでいる。
     メジャーがさらに下へと移り、尻にささやかに食い込んだ時、肥満男が読み上げる数字はこうだった。
    「八九センチ」
     異物事件の日は、八七センチだった。
     あれから、何故だか二センチも大きくなっているのだ。
     身体測定が終わった次には、もちろんのように待っている項目の数々で、またしても放尿や肛門検査が行われる。それらが済まされ、もう終わりかと思ったところで肥満男はコンドームを見せびらかし、どうしたいかをわざとらしく尋ねてくる。
     もうその頃には興奮していて、我慢できずにセックスした。
     時間のこともあるので長々とはできないが、短いあいだではあるが楽しんで、その末の入国となるのであった。
    
         *
    
     空港から車で移動して、ほどなくして大使館に到着する。
     通訳と共に建物へ入っていくのだが、凛は先ほどからチラチラと、その通訳の男を気にしていた。出迎えの車を見た時から、ずっと見覚えがあるような、既視感に囚われ続けていたのだが、しだいしだいに記憶が蘇り、凛はやがてはっきりと思い出していた。
     どうして、この国にいるのだろう。
     凛は以前、海外ライブの際に現地の重役と枕営業のセックスをしたのだが、その途中で警察が突入してきたことがある。どうやら、相手は麻薬容疑のかかった男で、凛はそれに巻き込まれて連行される形となった。
     現地の言葉が話せないため、取調室には通訳の可能な男がついたわけだったが、その通訳こそが今隣にいる通訳その人だ。
     気まずいと言うべきか、何と言うべきか。
     彼とも、セックスをしたことがある。
     無罪を証明したければ、捕まりたくなかったら、といった脅しを受けて奉仕させられ、最終的には挿入まで許すことになり、激しくセックスを行った相手が彼である。
     向こうも、人を見るなりぎょっとした顔をしていた。
     もっとも、それに触れてくることはなく、案内人が建物の中を案内してくれている中、通訳の男はその言葉を淡々と訳している。彼は果たして、再び凛とセックスをしようとする目論見があるのか否か。そのところはわからないが、二人きりでもないのに持ちかけるチャンスがあるはずもなく、彼は仕事に徹していた。
     やがて、大使関係者の部屋まで案内され、通訳を通しながらの打ち合わせの場で、凛は大人と同じテーブルにつく。
     主に行われるのは、活動内容やスケジュールの確認と、それについての細かな打ち合わせであった。
     その後、早速行う内容が中庭でのストリップだ。
     会議から休憩を挟み、時間を迎えるなり案内されて、脱衣現場に到着すると、そこには見学者がずらりと並び立つ。十人にもなる横一列で、大使関係者の面々がスーツを着こなし、楽しみそうに凛へ視線を向けていた。
     彼らだけではない。
     大使館の建物はコの字のような形となっており、それをさらに鉄柵がぐるりと一周囲んでいる。コの字の内側であれば、どこの窓からでも中庭の風景は観察できる。周囲の窓という窓の数々から、多くの人間達が顔を覗かせ、これから起きることを待ち侘びていた。
     まるでショーの開始直前だ。
     何か面白いことが起きると聞きつけ集まった人々に、期待通りの芸でも披露しなくてはならないような、ちょっとしたプレッシャーが凛を襲った。
     大勢の前でのライブに慣れた身だ。
     こうしたプレッシャーで潰れることはないものの、ここで披露するのは歌ではなく、ストリップの方なのだ。
    (れ、練習通りに……)
     凛はカーディガンのボタンに指を触れさせ、一つずつ外し始めた。
     ただ脱ぐのではない。
     動画資料として渡されたストリップでは、より色っぽく、周囲の期待感を煽ったり、挑発するような仕草を交えて裸になっていた。凛もそれを練習して、付け焼き刃ではあるが身に着けている。それを今から披露して、皆を出来るだけ満足させる必要があった。
     仮にも頼まれた仕事をこなしに来ている。
     ここにいる人達の機嫌を損ねても、良いことは何もない。
    「オウ!」
    「セクシー!」
     軽い歓声が上がり始める。
     凛はまず、カーディガンはあっさり脱ぎつつ、ネクタイは高らかに放り投げ、踊るようにくるりと回ってスカートを翻す。遠心力で丈を浮き上げ、しかしショーツが見えるほどには勢いをつけることなく、ただ一瞬の期待だけを煽って終わらせる。
     そして、ワイシャツのボタンをスムーズに外していき、挑発的に肩を剥き出しにしてみせていた。
    「ヒュー!」
     口笛が聞こえて来る。
     窓の方向からだった。
    「スバラシイ!」
    「イロケ、イロケ」
     十人の横並びの列に対しては背中を向け、凛は少しずつワイシャツを下げていく。彼らの視線からしてみれば、長い黒髪に隠れたせいで、背中の剥き出しとなっていく光景は決して見えない。
     だが、ワイシャツさえ下がっていれば、上半身がブラジャーのみに近づいていることは伝わるはず。
     そのまま凛はワイシャツを脱ぎ切ると、髪の下に隠れたホックを外す。片腕で胸を隠して、腕と胸の隙間から引き抜く形でブラジャーを取り去ると、その脱ぎたてを高らかに掲げることで、既に乳房を晒していることをアピールした。
     前を向く。
     指を束ねて、乳首だけを隠しつつ、もう上半身には何もないことを実際に見せびらかす。それでいて乳房の全てを見せているわけでもない、微妙な焦らしを交えた上で、凛は左腕に胸を隠した。
     腕で乳房を潰しつつ、右手でスカートのホックを外す。
     緩めたスカートをそのままばっさり、足元へ落としてしまい、再び背中を向けながら、両手でショーツを下げていく。腰を少し突き出して、くねくねと尻を振ってみせながら、誘わんばかりに脱ぎ捨てると、ついに凛は全裸となった。
     振り向いて、一糸纏わぬ姿を見せつけると、彼らは一斉に拍手を行っていた。
    「いいデスネー」
    「ビューティフル!」
    「コーフンしましたー!」
     皆が皆、満足そうな顔をしていた。
     もっとも、まだこれで終わりではない。凛はその場で足を肩幅ほどに、少しだけがに股気味に腰を落として、アソコに右手を移してやる。
     しんと、静まった。
     拍手がやんで、その代わりにまじまじと熱中してくる視線が突き刺さる。見るべきショーの続きに空気が変わり、その変化を凛は肌に感じ取っていた。
    
    「んぅ……!」
    
     凛はオナニーを開始した。
     主にクリトリスを中心に、指を使って擦り抜く。
    「んあっ、あぁぁ…………!」
     乾いていたはずのアソコは、すぐに愛液を分泌して、それが指にまとわりついた。刺激を待っていたかのように、早速のように濡れ始め、瞬く間に滑りは良いものとなっていた。
    「あっ、あぁぁ……!」
     刺激でびくっと背中が反り返り、凛は天を仰いでしまう。
    「んあっ、あぁっ、あぁぁ……!」
     もう片方の手がアソコへいって、凛はより一層の快楽を貪り始める。最初はパフォーマンスとして始めたはすが、みるみるうちに夢中になって、凛は青空に向かって喘いでいた。
    「あっ、あぁっ、あぁぁっ、あぁぁ……!」
     かなりの興奮に至っていた。
     青空の下で肌を晒して、それを大勢の人々に見てもらう。その特異な状況は、凛に眠った変態性をいくらでも刺激して、肉体のスイッチなどもうとっくに入っていたのだ。
    
    「あぁぁ――――――――――――――」
    
     そして、凛は絶頂する。
     そのまま後ろに倒れてしまうのではないかと思うほど、より大きく背中を反らしての、それでいて両手はアソコを貪る滑稽なポーズとなって、凛はその場に潮を撒き散らす。飛沫で石畳を軽く汚して、直後に膝を突いているのであった。
    
         *
    
     親善大使の仕事では、広報活動のために国中を回っていき、様々な観光名所や美味しい店、オススメのホテルなどを紹介して回っていく。それら撮影を込みにした仕事の最中、凛は何故だか全裸であった。
     全裸というのが、衣装設定とされていた。
     安全ピンは使えないため、マジックテープで止める腕章が特別に用意され、それを二の腕に巻いての活動で、移動中さえ一度も服を着ていない。
     誰も、裸を疑問にしない。
     ごく普通に服を着た人間に接するように、観光地の案内任やホテルのオーナー、レストランの店員といった面々は、その現場その現場で対応をしてくれていた。
     活動は広報アピールだけに留まらない。
     握手会のセッティングがされていたのだ。
     この国にもファンがいるということで、渋谷凛のファンを集める内容も組み込まれ、その一環として握手会は開催されるが、それは通常の握手会とは趣が異なっている。
     まず、会場を用意して、そこにファンの列を作る自体は、よくある握手会と変わらない。
     ただし、実際に握手を行う現場は、周囲の視線を遮ったテント内という、二人きりのスペースとなっている。見張り役が立っているので、厳密には三人になるのだが、集まったファンの一人一人に持ち時間が設定されており、その持ち時間に応じて一緒に過ごすこととなる。
     大半は一分かそこらである。
     入って来たファンがスマートフォンやタブレットで証明用の画面を見せ、それを見張り役がその都度確認する。
     そして、たった一分の時間の中で、ファンは握手を求めてくるが、凛が裸である以上は当然のように胸やアソコに視線が来る。
    
    「は、はじめまして! お会いできて光栄です!」
    「いつも応援してます」
    「この前のライブ、すっごく良かったです!」
    
     といったファンの言葉は、まともな握手会でかけてもらえるそれと同じだが、その次に出てくる台詞の数々はこうである。
    
    「あの、おっぱいって、触ってもいいんでしょうか」
    「お尻が見てみたいです」
    「ハグとかよろしいでしょうか」
    
     集まってくるファン達は、一体どのような募集方法を経て、どのように応募してきたのか。プロデューサーや他の関係者達は、口の固い者しか集めていないという一点張りで、凛としてはそれを信じておくしかない。
     きっと秘密裏のイベントで、表沙汰にはならないはずだと信じながら対応した。
     大学生に見える青年から、毛の抜け落ちた高齢者まで、年齢層様々な男達の手を握り、そしてリクエストに合わせて乳房を触らせる。アソコを触りたいと言われれば触らせて、一時間のうちに何本かの指が挿入された。
     二時間後には外に並んだ列は消化されるが、これは前半が終わっただけらしい。
     前半の部では、持ち時間が数分以内のファンだけが集まって、列で並んでもらった上での対応になったのだが、後半の部ではより長い持ち時間のファンがやって来る。一人あたり二〇分や三〇分もあるというのに、それを列で捌くということはなく、ファンの方が決められた時間にやって来て、決まった時間に中へと入る流れであった。
    
    「あなたは……」
    「や、やあ」
    
     目の前には、通訳の男が立っていた。
    「今はファンとして、っていうことですか?」
    「そうなるね。仕事中はほら、そういう接し方はできないから」
    「わかりました。来てくれてありがとうございます」
    「では、早速……」
     通訳は右手を差し出してくる。
     凛はそれを握ってやり、手始めに握手に応じるが、彼の持ち時間は三〇分だ。手を握るだけでその時間を過ごすはずもなく、あるべき要求は行われた。
    「フェラ、お願いできる?」
    「ええ、構いませんけど」
     凛はすぐに膝を突き、通訳のベルトを外し始める。
    (確かに、AVデビューしてもいいやって、思いはしたんだけどさ……)
     それにしたって、その返事をまだ一度もしていないのに、こんなファンの集め方など、これではまるで風俗嬢だ。枕営業のように、秘密裏の時間を過ごすのと違い、まるでそういう店で働くような扱いには思うところがあった。
    (まだ何も言ってないのに)
     AVデビューに応じる旨は、誰にも伝えていないのに、既にこういった扱いだ。さすがに引っかかるとは思いながらも、初対面の男を順番に捌いていくことに、自分でも驚くほどに抵抗がなかったのだ。
     そして、今は通訳のトランクスを下げ、そこから飛び出す肉棒に手を添える。
     咥えることさえ躊躇いなく行って、凛はフェラチオを開始していた。
    「はじゅるぅ……じゅっ、ずぅじゅぅぅ……!」
     唾液を駆使して音を立て、凛は頭を振りたくる。
    「ふじゅっ、ずじゅぅ――じゅぅ――じゅじゅぅぅ――――」
     前後運動によって口内に逸物を出入りさせ、舌も丹念に駆使して刺激を与えると、すぐにでもカウパーの味が広がり始める。
     もはや熟練のフェラチオだ。
     その経験人数がまさか百や二百に至っているはずがないにせよ、枕営業を介して特定の相手には繰り返しの経験を重ねている。その経験が技術となって、取調室に入ったあの時も、凛は必死な奉仕をしたものだった。
     そういえば、無罪の証明に協力して欲しければ――といった具合に、凛は奉仕を強要されていた。その時は彼の機嫌を損ねるわけにはいかず、少しでも満足をしてもらおうと、本当に必死であった。
     それに比べれば、今のフェラチオは随分楽だ。
    「はじゅるぅぅ――じゅっ、ずりゅぅぅぅ――――――!」
     機嫌を損ねたせいで投獄の憂き目に遭うような、切実な状況というわけではない。ただ過剰すぎるほどのファンサービスをしているだけで、精神的にはあの時よりもやりやすい。
    「じゅるるるぅぅぅ――――じゅっ、じゅぅぅ――――!」
     凛はたっぷりと唾液を広げ、それを駆使した口技で刺激を与えた。
     口内に分泌されるものを舌に集めて、それを竿に塗りたくる。頬の内側の部分も使って浸透させ、口呼吸も交えることで鳴らしている水音は、まさしくAVやアダルト漫画で見るフェラチオのそれだった。
     ほどなくして、通訳の男は射精する。
     一度きりでは時間が余り、もう一度加えた上で切り上げとなるのであった。
    
    
    


     
     
     


  • 第2話 全裸検査

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     それから、面接が面接らしい形に変わったのは、検証が終わってからのことだった。
     椅子に座って面接官と向かい合い、質問に答えたり、自己アピールを行っていく。多くの面接と変わらない光景へと移り変わるも、ただ一般的といえないのは、凛が全裸という点だった。面接が終わるまで衣服を着用する許可はなく、終了まで着てはならないと言いつけられていた。
     そうした中で、凛はすらすらと言葉を並べる。
     親善大使になったら何がしたいか、どんな風に活動をするつもりか。面接としてあって然るべき質問にも、当然のように答えは用意してあった。ここぞとばかりに自己アピールをそつなくこなし、そんな凛の様子を見ることで、面接官の一人一人が満足そうに頷いていた。
     感触は悪くない。
     幾度となくオーディションを受けてきた経験から、凛はそれを肌で感じていた。
     しかし、その時である。
    
    「ところで、アダルト路線への転向に興味はないかね?」
    
     面接官の一人が急に話題を変えてくる。
    「え……?」
     凛は呆然とした。
     アダルト路線?
     咄嗟に思い浮かべたのはヘアヌードの写真集だったが、面接官らの含みのある表情を見ていると、それだけで終わるような気がしない。プロデューサーも何とも言えない微妙な表情というべきか、その一方で肥満男はニヤニヤしている。
     まさかとは思うが……。
     いや、しかし、さすがに表沙汰では年齢が……。
    
    「AVに出てみないかね?」
    
     予感そのものはしていた。
     男達の醸し出す奇妙な雰囲気が、それを予感させていた。
     だが、実際に言われてみると衝撃である。
    「それって、本気で……?」
     そう尋ねずにはいられなかった。
     そもそも、流出動画の削除に全面的な協力をしてくれるというから、こうして面接に赴いた上、検証にも付き合ったのだ。せっかく削除してもらうのに、その後にAVデビューをするのでは、いくら何でも意味がない。
     どうせ枕営業をやってきた身ではあっても、隠れてするのと堂々とするのとでは、まったく訳が違ってくる。
    「私も賛成だよ」
     それは事務所の人間の、上層部から来た男の発言だった。
    「し、しかし……」
     その隣でプロデューサーが何かを言いかけるも、それ以上の言葉が続かない。
    「どの道、一度流出したものを渋谷凛本人だと信じている人達は増えていてね。動画サイトからは消すことができるかもしれないが、保存されてしまった個人のデータまではどうにもならない。それがまた、数年後に密かにアップロードされないとも限らないわけだ」
    「それは、そうかもしれませんが……」
     凛にも、それに対する反論は浮かばない。
     だが、だからといってAVの話になるのは合点がいかなかった。
    「これだけイメージに泥がついたんだ。年齢? なんとか誤魔化せばいい。いっそAVに出てイメージの転換を図った方が事務所としても都合がいい。さもなくば、私としては引退すら考えて欲しいところだよ」
     その言葉に、プロデューサーがぎょっとした顔をして、凛も表情を青くしていた。
    「どうかね?」
     何も返す言葉が浮かばない。
     動画を削除するとはいっても、それとは別に、事務所としては何らかの処分を検討している。それをプロデューサーが食い止めきれるとは限らない。というのが、きっと現在の状況なのだ。
    (アイドルをやめたいとは思わない)
     ずっと、ここまでやってきたのだ。
     これからも、あの時ライブで感じた熱を味わい、多くのファンを沸かせたい。
    (だけど……)
     そもそもの活動ができなくなれば、ライブも何もなくなるわけだ。
    「ま、すぐには答えられないだろう。今はまだ保留でいいが、よくよく考えておいて欲しいところだ」
    「…………」
     最後まで、何の言葉も出せなかった。
     まさか本当に凛の引退が検討されていて、引退かAVデビューか、二つに一つの状況を突きつけられでもしているのだろうか。その漠然とした恐怖感に、凛の心は冷え込んでいた。
    
         *
    
     その後日、まだ何の答えも出せないうちに、しかし親善大使の仕事だけは正式に決定して、ビザ獲得のための手続きに出向くこととなる。
     もっとも、その現場であの肥満男が現れた時、それが普通の手続きでは終わらないことを凛は悟った。
    
    「以前も聞いている通り、あちらの国では新型ウイルスが流行している。出国前と、それから到着後の空港。帰りの出発前。三回は身体検査を受けてもらうことになる」
    
     防疫が厳しくなっている関係上、その国への行き来がある場合、厳しい検査を受けることが義務付けられる。その担当医として現れた肥満男は、そして凛のことを検査室に案内すると、白く清潔な部屋の中、一対一での検査が始まった。
     そう、二人きりだ。
     そうなると、あるべき展開があるのだろうかと予感しながら、凛は肥満男の指示に粛々と従って脱いでいく。やはり裸には慣れきって、セックスも経験してきているだけ、男の前で脱ぐことに躊躇いはなくなっていた。
     最初の頃なら、どんなに抵抗感があったことか。
     この慣れは、自分自身の変化を実感させる。
    「うんうん。相変わらず、毛は生やしっぱなしというわけだ」
     全裸で肥満男の前に立ち、真正面から向かい合うなり、肥満男は無遠慮に手を伸ばす。検査とはまるで関係無い、ただ触ってみたいだけの手つきで乳房に触り、当たり前のように揉み始めているのだが、凛はもはやそれ自体には何も言わない。
    「剃る許可はなかなかもらえないので」
    「ああ、そうだったね」
    「検査って、以前と同じなんですか?」
    「以前のものに加えて、検尿に写真撮影、直腸検温、肛門PCR検査があるね」
    「そうですか」
     それらは別にいい。
     ほとんど慣れてしまってはいるものの、せっかく動画を削除してもらえる手前、それなのに写真撮影があるというのは、何となく納得しきれないものがある。それを口に出して反抗しても仕方がないので、何も言わずにいるのだが、思うところはあるわけだった。
    「では早速始めようね」
    「はい」
     この部屋には身長計に体重計、診察用ベッドなど、必要なものは一通り揃っている。見ればデスクに電子タブレットも置いてあり、測定データの記入やチェックは電子書類によって行うのかもしれなかった。
     しかし、最初は写真撮影らしい。
     肥満男がカメラを構えた前に立ち、まずは直立不動で構えていると、パシャリとシャッター音声が鳴らされる。続けて横向き、それから背面。姿勢そのものは変えないまま、向きだけを変え続けての撮影は、ただ全身を収めるだけではない。
     尻や胸など、恥部のアップも撮影した。
     さらにM字開脚となり、アソコや肛門も撮った上で、次の内容に移っていく流れとなる。
     凛は身長計へと案内される。
     その案内の方法は、尻に手を置いてのエスコートだった。紳士的な男がレディの手を取り、共に歩いて行くような場面を一度はどこかで見るものだが、その代わりのように尻を掴んで進んで行く。
     尻たぶに食い込む指を感じながら歩んだ先の、身長計の台へと足を乗せ、凛はそこで背筋を伸ばした。
     真っ直ぐ、気をつけの姿勢を取った時、肥満男はまず凛の裸体を眺めてくる。
    (もう何度も見てるのに)
     今更、まだ視姦がしたいのかと呆れつつ、凛はその視線を受け止める。
     ぴったりと脇を閉じてはいても、やはり未処理の脇毛は幾本もはみ出して、縮れた毛先が手前に見える。陰毛も伸びきって、毛むくじゃらの固まりが肉貝をほとんど覆い尽くしていた。
     そして、乳輪は大きく、乳首も突起を始めている。
     育ちに育った変態性がため、こうして検査の場で裸にさせられているだけで、凛はどうしても興奮をしてしまう。さほど激しい発情というわけでなく、ほのかに色めき立っている程度ではあるものの、乳首が普通よりも硬くなっているわけだった。
     肥満男はバーを手に、凛の頭へ下ろしていく。
     その硬さが頭部に触れた時、数字を確認するための顔が迫って、耳のすぐ近くに肥満男の息遣いを感じていた。ほんの数秒感の中、髪に隠れた耳の穴へと、生温かい呼吸の風が入り込んでくるのであった。
     肥満男はやはりタブレットを手に取って、電子書類の中へ書き込みを行っている。
     それを済ませて、次は体重を測った後、スリーサイズの計測となって、凛の乳房にはメジャーが巻きつく。
     ぐるりと巻きついたメジャーの目盛りは、乳首の真下で合わせてあった。
     ちょっとした締め付けにより、ほんのかすかに食い込む乳房の上で、乳輪がメジャーからはみ出していた。乳首の真下という位置は、円形の中でも位置が低い。中央へのセットというより、そのもう少し下へ当てている形になるが、なおも端がはみ出していた。
     その乳輪を見やりつつ、肥満男は数値の方に目を移す。
     そして、書き込む。
     ウエストに巻き直し、今度はヘソの辺りに目盛りを合わせ、それも書く。また次の位置へと巻き直すと、伸びきった陰毛がメジャーの上にかかってくるので、その位置では数字が読みにくく、性器の上で合わせるはずだったのだろう目盛りは、もう少し太もも寄りとなっていた。
     そうしてスリーサイズの計測が終わった後、次に肥満男が用意するのは尿瓶であった。
     それを見ただけで、凛にはもう次の展開が見えていた。
    「経験はいくらでもあったよね?」
    「そうですね。なんというか、不本意ながら……」
     元はといえば、こうした経験さえしていなければ、変態チックとしか言い様のない性癖や興奮のスイッチなど芽生えていない。普通の常識的な感覚しかなかった頃の自分を思い出し、それが懐かしいような悲しいような気持ちに駆られつつ、凛は静かに診察台へと上がっていく。
     尿瓶を受け取ると、すぐに取るべき体勢を取っていた。
     そこに躊躇いはない。
     むしろ、あるのは興奮の方である。
     ちょうど良く、意識さえすれば出せるだけの尿意はあった。体育座りに近い形で、脚をM字にしつつの姿勢となり、尿瓶の口をアソコに添える。最初の数秒は何事も起こらずに、しかしもう少しだけ経って来た時、膀胱に溜まっていたものが外へと動き、やがて凛の放尿は始まった。
    
     ジョロロロロロロロ………………。
    
     黄色いものが、尿瓶の中に溜まっていく。
     じょうろに近い形状の、口の部分をラッパのように広げたその中で、筒の内側とでもいうべき壁に、直線状の放水は当たっている。そこを着弾地点として、壁伝いのように広がる尿は、みるみるうちに底へ溜まってやがて途切れた。
     陰毛の多いアソコである。
     尿を出し切った後になっても、毛の内側に滴が残り、だからトイレではいつも紙で拭き取る。肥満男もそのための紙を用意してくれており、尿瓶と交換で受け取ると、凛はすぐにアソコを綺麗に清掃した。
     これで身体測定や尿検査が済んだことになる。
     正確には、尿の成分分析はまだこれからで、ただ提出が終わっただけの形になるが、ともかく凛がこなすべき内容は進んだわけだ。
     その後は内科検診に移っていき、凛は椅子に座って肥満男と向かい合う。手始めにペンライトで口内を照らされて、まぶたの裏側の血色を確かめられる。さらに胸の中央に聴診器が当たって来ると、金属のひんやりとした感触が皮膚に染みついてきた。
     すぐに凛自身の体温で温まり、冷気は気にならなくなるのだが、最初の一瞬だけは少しばかり冷たかった。
     肥満男は心音に耳を傾けている。
     その表情を見ていると、今はまともに医師としてやっているのだろうと感じられるが、にやりとした目つきに切り替わるなり、お次は触診であることを悟った。胸に両手が伸びてきて、どこまで診察目的なのかもわからない、怪しい指遣いで揉まれ始めた。
    「んぅ……」
     指が絡みついてきた瞬間、凛は甘い痺れを乳房に感じる。
     肥満男は手の平全体を駆使して味わいながら、ねっとりと指を蠢かせ、小刻みに踊らせてくる。その揉み方がみるみるうちに感度を高め、凛の乳房の内側には、甘ったるい何かが充満したかのようになっていた。
     乳首がつままれ、そのまま指で責められる。
    「んぅぅ……んぁぁ……あっ、んぅ…………」
     凛は甘い声を吐き出していた。
     胸だけでも、十分に感じてしまう。
    「んぅぅ……んっ、あぁ……」
     心地良かった。
     上下に弾き続けたり、つまんで捏ねる刺激によって、乳首を中心としてもたらされる快感は、まろやかに細胞を溶かしていく。乳房に充満したものは、容器から溢れるように広がり始め、このままでは全身にまで行き渡りそうだった。
    「あぁぁ……」
     頭まで痺れてくる。
     脳でピリッと、何かが弾ける。
     ピクッと、頭と肩が同時に跳ね上がっていた。
    
    「んぅ――――!」
    
     そして、イってしまっていた。
     胸をやられているだけで絶頂して、股のあいだに愛液を漏らした凛は、座っていた椅子のシートを濡らすことになるのであった。
    
         *
    
     それから、凛は四つん這いとなっていた。
     置いてある枕に頭を置き、床に頬でも擦り付けるような形となって、尻だけを高らかとした四つん這いは、直腸検温のために出された指示である。肛門に体温計を刺すだけなら、こんな格好である必要はないのだが、しかし凛は従っていた。
     文句を言わずに従うのは、きっと興奮するからだと、凛は自分で思っている。
     事実、穴の中に押し込まれ、皺が棒を咥える瞬間、たったそれだけの摩擦が刺激となって、腰が左右に動いてしまった。ただ体温計を挿入するだけの作業で肥満男を苦戦させ、どうにか刺激を我慢して、じっとしようと堪えた結果、やっとのことで突き刺された。
     尻から体温計を生やしている。
     温度を測り終わるまでのあいだ、肥満男は尻の真後ろからまじまじと、凛の下腹部を視姦してくることになる。視診なのか視姦なのか、もはや凛の方からでは区別が付かず、その都度表情を確かめでもしない限りは目的がわからない。
     もっとも、どちらでも良かった。
     視姦だろうと構わない。むしろ、視姦であってくれた方が興奮するとさえ、凛は思ってしまっていた。
    「……まだ、かかりそうですか?」
    「この体温計、ちょっと時間がかかるみたいでね。ま、まだ正確だから使ってるんだけど」
    「へえ、古いんですか」
    「そこそこにね」
     ぺたりと、尻に手が置かれる。
     両手でもって尻たぶが撫で回され、凛はその刺激にさえ腰をうずうずと震わせた。少しの摩擦さえもが気持ち良く、異常なまでに感じてしまう。ただ性的経験を重ねただけでなく、過去に何度か媚薬を飲んできたのも、感度の発達に一役買っているのだろうかと、凛自身は考えていた。
     手の平全体を駆使して撫で回され、その摩擦の音が届いて来る。
     じわっと、愛液が染み出てきた。
    「また濡れてきてるね」
    「……すみません。感じやすくて」
    「いいや、別にいいと思うよ?」
     肥満男から見た光景は、どんなものだろうかと想像する。
     まず、尻毛も剃っていない以上、皺の形に沿った放射状の毛が伸びている。その中心に体温計が刺さるとなると、植物の茎の部分が頭を掠めた。根元から草を生やして、中心からは茎を伸ばした花などの形を連想していた。
     そして、その数センチ下にはワレメがある。
     ワレメといっても、陰毛に隠れて見えないだろうが、濡れてきている感触が凛自身にもわかるほどの状態だ。肉貝の表面で、毛が愛液に固まって、元はふっさりとしていた膨らみが今や潰れているはずだ。
     いっそ、アソコも触って欲しい。
     そんな気持ちさえもがよぎった時、体温計は引き抜かれる。ようやく体温が出たところで直腸検温は終了して、次の検査へ移るのだが、その内容もまた肛門だ。
    
     このまま続けて行うのは、肛門PCR検査である。
    
     PCRとは、正式にはポリメラーゼ連鎖反応と言われている。
     これはDNAを複製・増幅させる反応のことであり、限られたサンプルから十分な解析を行うために用いられる手法である。
     これを利用した方法がPCR検査と言われるわけだが、ウイルス検査などを目的とするにあたって、より確実な採取を行うにこしたことはない。
     防疫上、入国時に新たなウイルスを持ち込むことがないと証明するため、この検査もまた現在では義務付けられているらしい。凛はポーズを変えないまま、尻を差し出した状態のままに待ち侘びると、すぐに肥満男は準備を進めた。
     包装ビニールを破く音が凛には聞こえた。
     それは医療用の綿棒で、表面に粘膜を付着させ、採取を行う用途なのだが、枕に頬を押しつけている凛には見えない。ただ知識と経験から、綿棒に違いないと捉えていた。
     先ほどの体温計より、さらに細いものが肛門に触れてくる。
    「んぅ……!」
     尻がビクっと動いてしまう。
    「おやおや」
     押さえるためか、尻たぶに手が置かれるも、ただ添えているだけの手の平など、動きを固定するだけの力はない。ただ、動かないように我慢しようと思う気持ちだけが補強され、凛は次に綿棒が触れてくる瞬間を待ち構えた。
     そして、触れてくる。
    「んあっ!」
     今度は奥に引っ込んだ。
     肥満男からすれば、遠のくように逃げた形になったはずだったが、肩や頭が下についた状態である。尻の位置をスライドさせるにも限度があり、たった一センチもずれればいい程度の、微妙にビクっと動いた程度のものに留まった。
     それを追うようにして、綿棒は肛門に追従していた。
     さながら、追いかけていた相手が急に目の前で立ち止まった形となって、その背中にぶつかりでもするように、綿棒の先端は肛門に当たって来る。そのまま皺の窄まりに押し込まれ、細々とした感触が埋まってきた。
     より細い物の感触なので、先ほどよりも異物感は少なかった。
     しかし、綿棒に粘液が付着して、菌類が浸透するまで待つ時間、凛はひたすら尻を撫でられ続けていた。可愛がるかのような、よしよし、といった手つきに晒されて、凛の尻は上下左右に動き続けた。
    「うっ、あぁ……あっ、あの……」
     やはり、気持ち良かったのだ。
     手での摩擦で刺激を感じて、尻がピクっと動いてしまう。反射的に右へ逃げたり、左へ逃げたりする結果、まるで上下左右に振りたくり、尻だけを使ったダンスでも披露しているようになっていた。
    「可愛い反応だね」
    「あっ、うぅ……あんまり、遊ばれると……その……」
    「肛門にきゅっと力が入って、綿棒が上下に動いているね」
    「やぁ……い、言わないで下さい…………!」
     性器や肛門を見られていながら、指摘されればそんなことが恥ずかしくなってくる。凛は今更になって赤らんで、顔に羞恥を浮かべていた。
    
         *
    
     そして、最後の最後で凛は仰向けとなり、大きく股を開いていた。どうぞ挿入して下さいと言わんばかりのM字開脚をさせられて、さも検査の一環であるように、肥満男はアソコに顔を近づけていた。
     体温を感じかねない至近距離まで、肥満男の顔は間近に迫っている。
     ほどなくして、ビニール手袋を嵌めた両手でアソコに触れ、陰毛を掻き分けながら肉ビラの観察を始めていた。その時のアソコはとっくの昔のように愛液を垂れ流し、ふんわりと膨らんで見えていたはずの毛量は、水気の吸収によってすっかり潰れてしまっていた。
     ワレメが左右に開かれる。
     中身に直接視線を注がれて、指先がビラビラとした部分を触っていた。
     トサカのような、半月状の小陰唇は、両開きの扉が開いたように両側へと寝かされている。そのさらに上を見てみれば、クリトリスが著しく突起していた。長さ数ミリに及ぶ豆が飛び出て、見るからに硬くなっていた。
    「んぅぅ……んっ、あぁ…………」
     当然、気持ちいい。
     すっかり感度の増した肉体は、一度スイッチが入ってしまえば、こうしたことで簡単に愛液を分泌する。初めから濡れている状態だったが、より一層の分泌を重ねることで、さらに水気を広げていた。
     アソコから流れ出す愛液は、滴となって皮膚を伝う。尻の割れ目の溝に流れて、肛門にまで到達することで、尻毛さえも濡らしていく。そのうち毛先からシーツへと、水気は移っていくようになり、お漏らしの痕跡に似た形で、徐々に円が形成され始めていた。
     肥満男は小陰唇に触っていた。
     まずは右側のビラビラから、指先でそーっと捲り、優しく撫でる。もう片方のビラビラも捲ってみて、愛撫によって刺激していた。
     愛液の分泌は進んでいく。
     ぬかるみが増すにつれ、シーツへと流れ落ちていく量も増え、凛の尻にはお漏らしじみた円が面積を広げていた。
    「はぁ……あっ、んぅ……んぁ……あっ、あぁぁ…………」
     凛は悩ましげに顔を振り、汗ばんだ額に前髪を張り付ける。
     快感に悩まされた表情は、ひどく色気に満ちていた。吐息も熱気に満ち溢れ、呼吸が喘ぎ混じりになったところで、肥満男はクリトリスにタッチする。
    「ひん!」
     びくりと、太ももが弾んでいた。
    「ひあっ、あぁ……!」
     上下に擦ると、さらに喘いだ。
    「よく感じるね?」
    「だ、だって……! あぁ……! あんっ、あぁぁ……!」
     凛はその刺激にいとも簡単に翻弄され、より激しく髪を振り乱した。クリトリスから指は離れて、小陰唇に戻っても、声は乱れたままに喘ぎ続ける。半月状のラインに沿って上下に擦り、その摩擦は愛液故に滑りがいい。
    「んぁっ、あっ、あぁぁ……! あぁぁ……!」
     イキそうになっていた。
     凛はいとも簡単に、絶頂の直前にまでやって来ていた。
    「おっと」
     しかし、肥満男はぴったりと手を止める。
    「え……」
    「どうしたのかな?」
    「いえ、あの…………」
     凛としては、イクつもりでいた。
     このまま絶頂させてもらえるものと思っていたのが、急に指を止められて、その困惑を顔に浮かべていた。
     そんな自分に気づいてから、凛はハっと顔色を変えていた。
     何の疑問も浮かばなかった。
     検査中に性的な愛撫をされ、イカされそうになることへの疑問がなく、むしろ期待すらしている自分がいた。健康診断の最中に、たとえ脱衣の必要性はあったとしても、望まぬ性行為に及んで来られれば、それは立派な性被害だ。
     冷静に考えれば、警察を呼んで被害を訴えても構わない行為をされている。
     診察とは関係のない、ただの愛撫で触っていたことくらい、医学など知らない凛でもわかる。相手が肥満男であり、既にもろもろの経験を経た間柄だからといって、いかに感覚が麻痺しているかを思うとぞっとする。
     やはり、良くない。
     レディースコミックのレイプ描写を読みたがる読者がいるからと、では実際に強姦被害に遭って見たい女性が一体どれほど存在するか。しかし、凛の場合はこのまま肥満男がコンドームを装着して、挿入してくることを望んでしまっていた。
     明らかにおかしいのだ。
     犯罪の被害に遭ってまで喜ぶなど、いくらなんでもどうかしている。そこまで性癖が歪んでしまうのは、身の安全のためにも良くないはずだ。
    「凛ちゃん。今、何を心配しているのかな?」
     人の心を見透かしたかのように、肥満男は尋ねてくる。
    「いえ、その……なんていうか…………」
    「言ってごらん?」
     迷いや衝撃のような何かが、きっと顔に出ていたのだろう。
     肥満男は正直な告白を求めてくるが、あなたのしていたことは本当は犯罪で、私は本来あなたを訴えるべきではないか。そんな悩みを少しでも抱いたなど、本人に対しては言いにくい。
    「ほら、凛ちゃん」
     しかし、追求は止まらない。
     あくまで白状させるつもりでいるのだろうか。
    「ほらほら」
     そんな肥満男を前に、凛はどうにか言葉を選びつつ、とうとう話すことに決めていた。直接的な言い回しは避けながらも、この今の変態性は良くないはずだと、そう肥満男に打ち明けているのだった。
    「なるほどね? レイプ被害の最中に本当に悦んじゃうほど歪んだら、確かに身の安全のためによく無さそうだね?」
    「なのに、正直言うと……今、セックスしたくて……」
    「本当に正直に言ってくれたね?」
    「いえその、そうなんですけど……」
     確かに、普通は言いにくいことを言ったのだが。
     しつこく追求してきたのは肥満男の方である。
    「だったら、尚更AVデビューがいいんじゃないかな?」
    「え……」
     凛はぎょっとした。
     普通、いかに性欲を抑えたり、自分をコントロールするかについて考えるのが、この悩みに関してあるべき方向性ではないだろうか。それをむしろ、変態性を加速させそうな道を示すなど、凛はさすがに困惑していた。
    「真面目な話、普段から満足していれば、よくわからない男に迫られても、無駄に興奮しないでかわせるはずじゃないのかな?」
    「それは……」
     その通りな気がしてしまった。
    「エステの時だって、オナニー現場を押さえられて興奮したでしょう? 健康診断で裸になったり、海外で取調室に入れられた時とか、色んな時に興奮しているね?」
    「……はい」
    「AV女優になれば、日頃からセックスできる。欲求不満にはなりにくいよね。自分自身の性欲に流されることさえなければ、絶対に駄目だと思う時には、きちんと自分の身を守れるようになるはずだよ」
     自分の身を守るためにAVデビューと考えると、本末転倒もいいところだ。
     ただ、この先もずっと、この芽生えてしまった変態性と付き合いながら生きていくのだろうかと思うと、未来が悩ましく思えてくる。
     いっそ、アリかもしれない。
     凛が積んできた経験は、一般的な貞操観念の範囲を超えている。普通はトラウマになりそうな体験でさえ、興奮してしまった過去がある。それだけ爛れたものを抱えた今、AVに出ることにも、本当の意味での抵抗はないのだろう。
     動画の削除を求めたのも、アイドルとしての活動に支障が出ると思ったからだ。
     自分の裸が拡散されて、それを嫌だと思う気持ちは、きっともう残っていない。裸を撮られ、それが販売されるのは、もう平気になってしまっているはずだった。
    「ま、今ここで答えを決める必要はないけどね。ただ――」
    「ひあ!」
     凛は喘いだ。
     改めてクリトリスを触られて、体中がビクっと跳ね上がっていた。
    「この場所は、このままでいいのかな?」
     そう問われると、答えられない。
     こんな話をした手前、我慢した方が良さそうな気はするのだが、とはいえ見知らぬ相手にレイプされるわけではない。むしろ、肥満男は凛の同意を得ようとしている。より正確には、ムラムラさせた上で流れ的にセックスをしようと目論んでいるのだろうが、それでも構わないような気持ちは確かにあった。
    「……よくない、です」
     と、凛は答えていた。
    「だったら、今回は認めようか。自分は変態だって」
    「…………」
     自分の変態性に関する悩みを打ち明けて、その直後に言われた台詞がこれでは、閉口したくもなるわけだった。
     だが、それでも凛は興奮した。
     自ら変態であることを認め、その上で犯されるというシチュエーションは、もはやそれほど凛の性癖をくすぐるものはない。
    
    「……わ、私は、あらゆるシチュエーションで裸にされたり、セックスを求められることに興奮をしてしまいます。そんな、変態女です」
    
     我ながら、随分とあっさり認めたものだと思う。
     その次の瞬間には、肥満男はもうコンドームの装着を始めていた。ポケットに入れていたらしいゴムの包装を破くなり、すぐさま肉棒に被せてそれを宛がう。凛の入り口に当たった亀頭は、濡れきったアソコへスムーズに入り込み、ぬるっと滑り込む勢いで根元まで収まっていた。
    「あぁ……あっ、あぁ……!」
     すぐにピストンは始まった。
    「うーん! 最高だよ! アイドルとのセックスは!」
    「あん! ああん! あん! あん! あん! あん!」
     肥満男の行う激しい腰使いに、凛は全身を揺らされていた。股に腰がぶつかる勢いに応じて体中に振動を帯びながら、髪を揺らして乳房も揺らす。大きな乳輪と共に乳首が上下に揺さぶられ、脚もしきりによがっていた。
    
    「あぁぁ――――――!」
    
     本当に、すぐさまイっていた。
     先ほどの寸止めで、そのまま絶頂の準備をしていた凛の体は、待っていましたとばかりに電流を弾けさせ、それは脳天や指先にかけて激しく伝わる。頭を真っ白にして大きく喘ぎ、背中を浮き上げながら胴体を痙攣させる。
     イっている最中の体に対して、肥満男のピストンは止まらない。
    「あぁ……! 気持ちいいなぁ……!」
     唇の両端が完全に吊り上がり、ニヤけきった顔で腰を振る。
    「あぁぁあああ! ああっ、ああああああ!」
     雄叫びのような喘ぎ声にまで至っていた。
     激しさを増す凛の喘ぎは、周囲にいくらでも唾を飛ばして、愛液も滴らせる。脳の全てが快楽へと染まり変わって、もう何も考えることすらできず、凛はただひたすらに快楽に翻弄された。
    「あぁぁぁああ――!」
     また、イっていた。
     潮吹きとなるはずだった絶頂で、しかし肥満男の腰がアソコを塞いだために、潮は潮とならずに終わっていた。しかし、ゼロ距離噴射となったおかげか、肥満男の下腹部はぐっしょりと、陰毛が全て肌に張りつくほどに濡れてしまっていた。
    「あぁぁ――――!」
     二人のセックスは続く。
     腰を止めない肥満男と、何度でもイキ続ける凛のまぐわいは、向こう数時間も続いてようやく終わりを迎えることとなる。
     その頃には、使用済みのコンドームが幾つも周囲に散乱していた。