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 催眠アプリ。
 スマートフォンのネットで発見し、悪戯半分にダウンロードしてはみたが、まさか本当に効果があるとは思わない。
 俺がこいつを試したのは、ほぼ冷やかしからだった。
 本物だったらなーって期待も、本心からいえばありはした。
 けれど、信じるかどうかは別の話で、ただ妄想が現実になればいいのにという夢とロマンを思って実験したのだ。
 結論からいえば、効果はあった。

「……しょうがないわね。お兄ちゃん」

 俺の部屋を訪れた妹が、俺の目の前でスカートをたくし上げている。肌触りの良さそうな純白の生地があらわとなり、汚れ一つない真新しさに目を奪われ、俺は時間も忘れて妹のパンツを眺め続けた。
 妹の名は泉野晴香。
 特に仲が悪いというわけでもなく、普通に話もするし本の貸し借りもする。特別に嫌われるということもなく、険悪というわけでもなく、兄妹としてはいたって一般的な仲の良さなのだろうと思う。
 ただ、妹はたまーに俺をコキ使う。
『ちょっと新刊買ってきてくれる?』
『あっ、シャンプー切れてるんだけど!』
『おつかい頼まれちゃったから行ってきてー』
 などなど、俺をパシリに使いたがる。
 しかも、一方的な頼みのくせに断れば文句を言う。
 それに晴香的には、俺は一応キモいらしい。
『お兄ちゃんって顔キモいし、彼女いないでしょ』
『たぶんね。三十過ぎてもお兄ちゃんは童貞だよ?』
 考えてみれば普通に口は悪いし、嫌味は多いか。
 しかし、こんな妹でも言えば漫画を貸してくれたり、話しかけても無視はされない。オタク趣味が通じているので、見たいアニメさえ一致すれば、一緒にテレビを見ることさえあった。
 一応、だ。
 本当に一応のところ、普通の仲を維持できている。
 晴香に言わせれば、それは家族として生まれた頃から同じ屋根の下で育ったせいで、感覚が麻痺しているという理屈らしい。俺に本来備わっているキモさが気にもならないから、とりあえず普通の兄妹をやっている。もし自分の感覚に麻痺がなければ、絶対に自分は兄を嫌いだったと語っていた。
 さらに言えば、こういうことだ。
『私の心が広いから、お兄ちゃんみたいのでも相手できるっていうかね』
 学校では友達というべき友達がおらず、教室の女子グループが俺の方向を見ながらクスクスと笑っていたりするあたり、ひょっとしたらこの理不尽な言葉が真実なのかもと、ちょっとくらいは思ってしまう。
 エロゲーで遊んだり、休日は二次元エロ画像を漁るのが仕事と化しているのを思えば、冷静に考えると俺は確かに擁護できない存在なのだろう。
『家の中ではお喋りくらい別に全然してあげるんだけど、もし外で私を見かけても、絶対に話しかけたりしないでよね。お兄ちゃんって、キモ男のオーラが出てるから』
 何にせよ、こういう言葉をストレートに言ってくる妹だ。
 もしかしたら、これで怒らない俺だって十分に心が広いのではという気が少しはする。
『何がキモいか教えてあげようか?』
『飾る気ゼロだから服装がダサい。意味もなくオドオドしてる。他人と目を合わせようとしないし、声が小さいからボソボソしてて何言ってるか全く聞き取れない。自分を堂々とアピールできなさそうだし、人の輪には入れない。入らないんじゃなくて、入れない』
 フルボッコだ。
 しかも、返す言葉が無いから辛い。
 せめて少しは優しい言い回しに変えてくれてもいいだろうに、全てを直球な言葉で伝えてくるのが晴香という妹だ。
 今、俺の目の前にあるパンツは、そんな妹のものなのだ。
「す、すごい……!」
 俺は興奮していた。
 濃厚で生々しいエロスなら、俺はネットでいくらでも見てきたが、人格ある生の女性が相手だと、俺の気持ちも変わってくる。散々セックスの動画や好みのエロ漫画を見てきているにも関わらず、たかがパンツがあまりにも素晴らしいものに感じた。
「なに興奮してんのよ……!」
 晴香の顔は赤い。
 頬を朱色に染めながら、キツめの表情で顔を固めて表情を隠している。
 ――こっ、こんなの恥ずかしくもなんともないけど?
 ――別に全然平気ですけど? 何か?
 とでも言いたげな顔をしていた。
「い、いや……。白なんだね?」
「ちょっ、ちょっと! そういうのは言わなくていい!」
「……すみません」
「まあ、許すけど……」
 本当に真っ赤な顔で、目を合わせるのが気まずいかのように顔を背け、じーっと横を向いてしまう。
 そんな恥じらいからなる挙動。
 とっても可愛い。
「あ、あの……。その……」
「なに? はっきり言ってよ」
「ふっ、ふっ、太もも! 触っていい?」
「うっ、うう……。いいけど……」
 晴香はやたら仕方がなさそうに許可を出す。
 俺は早速手を伸ばし、すべすべの左右の太ももに両手を這わせ、もっちりしたような柔らかさを手の平全体で味わった。
 す、すごい!
 これが太もも!
 びっくりするほど本当にふんわりしていて、俺は夢中になって揉みまくる。揉んだり、撫でたり、まんべんなく手を這わせまくったりして味わい尽くした。
「で、まだ? そろそろ部屋に戻りたいんだけど」
「お願い! もうちょっと」
「うん。もうちょっとね。はぁ……」
 ため息をつく妹の気持ちは、『はあ、もう。一体いつまで我慢してればいいんだか』といったところだろうか。我慢して我慢して、きっと晴香は辛抱強くキモい男の視姦と手の動きに耐えているのだ。
 何故なら、晴香は俺に惚れているわけではない。
 洗脳操作とも少し違う。
 俺の手に入れてしまった催眠アプリは、他人に対して命令権を得るものなのだ。
 この人の言うことは聞かなければ、彼の指示は絶対だ。相手は目上の人だから、言われたことはきちんと守らなくては――。
 といった風に、ルール意識を与えてしまう。
 言われたことは全てやり切るのが自分の義務だと思い込む。
 それこそ、まるで部下が上司の指示に従う時とよく似た気持ちで、今の晴香は兄の頼みは聞くのが普通だと思っている。パンツを見せるのも、太ももを触らせるのも、仕方がない。従うのが義務であり、ルールなのだから、言われた以上はやるしかない。
 ひょっとしたら、ブラック企業を経営するのにも使えるであろう性能だ。
 泉野晴香の頭の中では、『私は妹なのだから、お兄ちゃんの命令は全て聞くのがこの世のルール』ということになっているのだ。
 そういった力により、スカートをたくし上げることさえも、本人の中では人間社会で生きる上での大切な決まりの一環と化している。
「や、柔らかいね?」
「……そりゃあ、ね。うん」
「お尻触っていい?」
「うぅぅぅっ、揉めばいいじゃない!」
「ありがとう晴香!」
 俺は太ももを揉んでいた手をべったりとスライドして、お尻へと移動する。綿菓子のようにふんわりとした尻肉へ到達して、あまりの柔らかさに指がめり込むかのようで、俺は本当に夢中で揉みしだいた。
「あーもう! キモいキモいキモいキモいキモい!」
 早口で連呼されても、俺の手は決して止まらない。
 肌触りの良いパンツの布地と、それを介したお尻の柔軟性は、俺の股間をギンギンに勃起させて指を暴走させていく。
「だいたい、お兄ちゃんは一生童貞だもんね。今のうちに楽しめばいいじゃん!」
 まるで逆ギレだ。
「うん。楽しむ」
「ああキモい! 本っ当によかったね! 私みたいな妹がいてさ!」
「うん。良かった!」
 俺は太ももに頬ずりして、すりすりと顔で味わう。
「お兄ちゃんさー。あとで風呂掃除やってくれる?」
「へ?」
「あと食器洗いも洗濯物の片付けも、それと私の部屋に掃除機かけといて欲しいなー」
「あ、あの……」
「だって当然でしょ? こんな事させてあげてるんだから、料金の代わりとして私が当番になってる仕事を全部やりなさい!」
「当番って、それじゃあ掃除機は含まれない――」
「――うるさい! つべこべ言わない!」

 俺の妹にはルール意識が刷り込まれ、俺の命令を聞くのは法律も同じと思っている。
 それに加え、もう一点。
 恥ずかしい経験をすればするほど、羞恥心は加算され続けていく。脱ぎ続ければ慣れていくのが本来だが、俺の催眠アプリでは脱げば脱ぐほど、次にもう一度脱ぐのが恥ずかしくなり、いつかはパンツ一枚が全裸に匹敵するとのことだ。
 これで一生、晴香は羞恥心を失わない。
 花も恥じらう乙女のように、永久に肌を出すのが恥ずかしいのだ。
 だからこそ、俺は思った。

 もし、お尻の穴を視姦されたら?

 乙女心を持つ少女にとっては、下着だって恥ずかしい。
 胸やアソコだけでも十分な恥じらいに陥るだろうに、男だって恥ずかしいようなあの場所をジロジロ眺め、観察したら、思春期真っ盛りの晴香はどうなるのだろう?
 お嫁に行けなくなるだろうか。
 いや、彼氏すら作れなくなるだろうか。
 どんなに大きな恥じらいに悶えて、顔をどれくらい赤くするのか。
 羞恥心の塊みたいな年頃にとって、それこそ恥ずかしさが死因になりうるくらいの激しい赤面ぶりを披露してくれるはずなのだ。
 考えるだけでワクワクした。

 もうじきギョウチュウ検査の時期が来ることを思い出したのは、そうした変態欲求を膨らませていた矢先のことであった。




 
 
 

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