• タグ別アーカイブ: クソガキに支配され・・・2
  • クソガキに支配され・・・2

     前作に続く続編。
     まだなお健太に支配され、デート中の辱めを受ける唯華は、やがてバドミントンでの試合を申し込まれる。まともに戦えば唯華が勝つに決まっているが、そのためローター入りというハンデを背負う。
     もしこの勝負に負けてしまったら・・・・。
     

    第1話 久々の再会
    第2話 視聴とお仕置き
    第3話 ローターデート
    第4話 レンタルショップで
    第5話 イキたい唯華、健太の提案
    第6話 敗北
    第7話 奴隷の運命


  • 第1話 久々の再会

    目次 次の話

    
    
    
     健太の奴隷となってから、およそ一年ほどが経っていた。
     大学生活を謳歌して、表向きには何事もなく過ごす志波姫唯華ではあるが、ひとたび学校やバイトが終われば、健太の家に足を運んで、屈辱的な芸の披露を行ったり、何らかの辱めを受けていた。
     しかし、そんな生活に一旦の区切りが付き、ここ最近は通っていない。
     というのも、健太が中学校に入学したのだ。
     晴れて中学生となった健太は、しばらくは学校で部活に専念したり、友達を作ったりする言っていた。そのまま二人の関係が有耶無耶になり、自然消滅にでもなってしまえば、ずっと年下の少年に従わされる主従関係の日々は終わりを迎えていただろう。
     だが、そうはならないことを唯華は確信していた。
     会っていないなら、そのまま連絡をやめてしまい、音信不通によって関係を切ることもできたはず。そうはしないで、律儀に『課題』をこなしてしまっている自分がいる。こんなことでは、またいずれ健太に会いに行き、自分はその屈辱的な命令にホイホイと従ってしまうことだろう。
     会わないあいだも、乳首やクリトリスを鍛えるように言われていた。
     ネットで購入したという吸引器を渡されており、それを使っている様子をきちんと動画に撮影して、提出するのが日課となっている。
     クリトリスは今、何ミリに至っているだろう。
     そうやって使い込んでいるせいで、乳首もクリトリスも肥大化が進んでいる。乳首も突起するまでもなく元が大きく、色も黒ずみを帯びており、かつてはもっと小さかったはずのクリトリスも、いつかは一センチほどになるのかもしれない。
     健太の好みでは、その方が良いらしいのだ。
     そして、健太好みになろうと励み、毎日の課題をこなし続ける自分がいるのは、我ながら呆れた話だ。
    「この調子じゃ、抜け出せないね」
     自嘲気味に服を脱ぎ、唯華はベッドに腰を下ろした。
     高校を卒業して、寮生活ではなくなって以来、家から学校に通う唯華の、ここ最近の唯一の非日常である。一人で三脚台にカメラを立て、一人でその前に裸となり、一人で吸引器を使用する。
     唯華が握っている吸引器は、ハンドマッサージ器のように手で握って使用するタイプで、先端部には吸盤が付いている。冷蔵庫などに付けるそれに酷似したものを乳首に押し当て、スイッチを入れて吸い上げるのだ。
    「んぅぅ……」
     これを毎日やっている。
     毎日、毎日、一日としてサボることなく続けている。
     自分でも何をやっているのかと思いながら、止まることができずにいる。久々に健太に会った時、健太は一体どんな言葉をかけ、どんな風に辱めてくるだろうかと、そんな想像ばかりをしてしまう。
     屈辱的な何かを期待して、疼いている自分がいる。
     それでオナニーまでしたことがあるほどに……。
     ここまでマゾヒズムが育っているのだ。
     せっかく、関係を解消するチャンスだというのに、それをしようとしていないのも、楽しんでしまっている自分がいるからだ。
     最初はちっとも楽しくなく、本当に屈辱しか感じていなかったのに、いつからこんなマゾヒストになってしまったのか。もう自分でもわからない。芸をやらされ蔑まれ、それを喜ぶ性癖が芽生えるなど、自分でもおめでたいことだとは思っているが、芽生えてしまったものは唯華自身にも消せないのだ。
     性癖や感性といったものを、文字の書き換えのように簡単に変更できたら、こんな課題などサボっているに決まっていた。
    「サボる、か……」
     そうすれば、お仕置きをされるだろう。
     一体、どんなお仕置きになるか。
     そんな想像を連鎖的にしてしまうので、そんな自分に対して唯華は改めてため息をつく。
     本当に末期的だ。
     このままでは本当に、いつまでもいつまでも抜け出せない。
     本当に、いつまで?
     大学の卒業が迫り、就職活動が始まっても、唯華はなお奴隷なのだろうか。社会人となり、どこかで働き始めても、まだ唯華はずっと年下の少年に付き従うのか。いくらなんでも、向こう先の数年の未来までなどあってはならない。
     そして、そうとわかっていながら断ち切れない自分がいる。
     どうしたらいいだろう。
     どうすれば、健太との関係を断ち切って、育ってしまった性癖も捨て去り、全てを清算できるだろう。何をすれば、何もかもを帳消しにできるだろう。そんな風に悩んでいながら、クリトリスにまで吸引器を付け、その刺激を感じて楽しんでいる自分がいる。
     健太もいつかは唯華に飽きて、向こうの方から関係解消を求めてくるだろうか。それとも、飽きた時には連絡がなくなって、自然消滅にでもなるだろうか。
     どんな風に断ち切るかのイメージも、今のところ明確には湧いていない。
     ただ確かなのは、断ち切ろうとは悩みつつ、それでいてご主人様との関係にしがみつき、なおも辱めを求める自分がいるということだ。深く根付いた性癖のせいで、思い悩むポーズだけは心の中で取りつつも、解消の努力はしていない自分がいることだ。
     唯華はひとしきり吸引器の日課を行うと、三脚台のカメラを止めて一息つく。
     裸のままでベッドに横たわり、次に行うことといったら、ご主人様に屈辱的な命令をされる妄想で、オナニーをすることだった。
    
         *
    
     今日、久々に奴隷と会う。
     今でこそ奴隷と見做し、好きなように扱い楽しんでいるが、かつては仮にも憧れの念を抱いたことのある対象――志波姫唯華と数ヶ月ぶりに会うことになっている。
     まだ中学生に上がったばかりの、ついこの前までランドセルを背負っていた子供にとって、ただの一ヶ月が一年のように長く感じる。健太にとっての久しぶりとは、まさに数年来の再開を前にした感慨深さに近い。
     健太はウキウキとした気持ちで机に座り、ノートパソコンを立ち上げていた。
     ここには動画の数々が入っている。
     唯華が今まで毎日のようにこなした『課題』の、一日ずつのファイルがフォルダさえ開けば並んでいる。
     このどれも、健太はただの一度も確認をしていない。
     今日という日のため、楽しみは後に取っておくつもりで、あえて中身は見ていない。すると、唯華が課題をサボっていても、それを指摘できなくなる――その時はその時で、お仕置きの口実が出来るわけだが、ともあれ、そこで代わりにチェックを行う人間を用意していた。
    「お前、帰っていいぞ」
     健太が言うと、ベッドから一人の影が立ち上がる。
     同級生の女の子だ。
     気の弱い子に目を付けて、押しに押すことでどうにかデートに誘い出し、無理にでも押し倒して動画を撮った相手であり、つまり脅迫で従えたペットである。親や友達に相談している気配もなく、従順であり続けているこのペットに、代わりに動画を受け取らせ、サボっていないかのチェックをやらせてあった。
     そして、このペットを介して健太が受け取り、今までの動画全てをノートパソコンの中に保存しているが、我ながらよくぞ耐えてきたものだと思っている。気になる動画が数を増やして、こんなにもサムネイルが並んでいるのに、健太はその一つも見ていないのだ。
    「……じゃあ、帰るね。健太くん」
     ペットはショーツを穿き直し、着替えを済ませ始めている。
    「ああ、今日も気持ち良かったぞ」
    「……うん」
    「また気が向いたら呼んでやるよ」
    「…………うん」
     このペットは始終こうした具合である。
     何かを頼んだり命令すれば必ず頷き、逆らいたがる気配すら見せてこない。指示待ち人間がそのまま奴隷となり、健太の下についたようなものである。
    「また、ね。健太くん」
     律儀に挨拶をしてから、ペットはとぼとぼとした足取りで部屋を出る。
     使用済みのコンドームなど、あるべき痕跡の残ったベッドのゴミをティッシュに包み、健太は蓋付きのゴミ箱に片付けた。
     初体験は中学校の入学前に済ませてある。
     いずれ唯華を抱きたいと思い、練習と思ってペットで童貞卒業を済ませておき、そのまさに数週間後に小学校も卒業した。それから、今の今までペットとは何度かの関係を繰り返し、その一方で唯華には乳首やクリトリスの吸引器を渡してある。
     一体、どんな風になっているだろう。
     大きくなった乳首、大きくなったクリトリスを好む健太にとって、唯華がどんな変化を遂げて現れるか、楽しみでならないのだ。
     インターフォンが鳴るのは、ペットが去って数十分が経ってのことだった。
     待っていましたとばかりに立ち上がり、健太は颯爽とモニターを確認する。そこに映る唯華を見るなり、健太はすぐさま玄関のドアを開いて招き入れ、久々に見る唯華の、まずは美麗な顔立ちを堪能した。
    「お久しぶり、大きくなったものだね。健太くん」
     キャミソールを透かせたブラウスに、高そうなスカートという装いの唯華を見上げ、健太はごくりと生唾を飲む。
     改めて見ると圧倒される。
    「そっちこそ、課題はきちんとやっていたそうじゃんか」
     すっかり従えきっていた時には、あまりそんな風には思わなかったが、こうも美麗で知的な顔をした唯華である。そのデキる女の風格を見ていると、バドミントンに限らずどんなスポーツでも部員をまとめ、慕われながらメンバーを率いて全国大会に挑む姿が簡単に想像できる。
     スーツで仕事をこなす姿、法廷で検事か弁護士となったり、国会で弁論を交わす姿。
     エリートらしいイメージさえ浮かべれば、どれもが簡単に当てはまる。
     本来、自分ごときでは決して勝てない、弱肉強食におけるウサギとライオンの関係でありながら、今までそれを従えてしまっていたのかと、今更になって過去に驚く。初めて唯華を脅した時のドキドキも蘇り、本当によくぞあんなことが出来たものだと、改めて自分に関心した。
     同じことをもう一度繰り返し、もう一度成功させろと言われても、そんな自信は湧いてこない。
    「ま、上がってよ。一緒に今までの成果をチェックしたいからさ」
    「そうですね。健太様」
     思い出したように敬語を使い、様付けで呼んでくる。
     やはり久々に会っているせいか、主従関係が薄れている。自分はご主人様の奴隷であり、格下のペットに過ぎない気持ちが時間と共に抜け落ちて、そのうち反抗してきそうな予感がひしひしとしてきていた。
    (……何か企んでないだろうな)
     などと、思わず警戒してしまう。
     しかし、それは杞憂だったのか、部屋に着くなり脱衣を命じると、唯華はすぐさまブラウスのボタンを外し始める。特に抵抗感のある様子もなく、呆気なくボタンを外しきるが、キャミソールのおかげでまだブラジャーが隠れていた。
    (ん?)
     ベッドに腰掛け、ストリップを眺めていると、健太はふと気がついていた。
    (顔が、赤い?)
     僅かにだが、恥ずかしそうにしている気配がある。
     キャミソールを掴み、たくし上げることに抵抗のありそうな、微妙な頬の赤らみが浮かんでいるのは、一体どういうわけだろう。裸などとっくに見せ慣れて、そういった羞恥心は失っていたはずだと思うが、さては久々なので恥じらいが蘇っているのか。
     床に二着目が畳んで置かれ、唯華はブラジャーのみの上半身を曝け出す。
    「やっぱ、年上だよな」
     刺繍に満ちた花柄のブラジャーを見ることで、健太は鼻の下を伸ばしていた。
     同級生の、同い年の肉体も悪くはないが、こうして唯華を見ていると、やはりこの魅力には勝てないと感じてしまう。
     先ほどまでの久しい緊張感は、こうして命令に従わせ、着々と脱がせてやっているおかげで順調に薄れていた。
     次にスカートのホックが外れると、それは唯華の足の周りにばっさりと、ドーナツ状のリングを成して落ちていた。
    (お、顔が――)
     やはり、赤らみが強い。
     全裸など何度も見せているはずだが、久々なせいで恥ずかしさが蘇り、下着姿を晒すことにも少しは抵抗感があるらしい。もうずっと見ることのなかった表情に対しても、数年来の再開であるような感慨深さが湧いてくる。
     決して大袈裟な恥ずかしさではないだろう。
     いくら久々であっても、慣れが全て丸ごと消えるはずもなく、羞恥心は多少蘇っている程度のものに過ぎないはず。
     とはいえ、下着でも恥じらいが湧いている様子なら、その下を見せる時には、さらにもう少しだけ顔が赤くなりそうだ。
     唯華は背中に両手を回す。
     カップの部分が僅かに緩んだことで、ホックが外れたことを察するが、唯華のブラジャーを脱ぐ動作は、実にたどたどしいものだった。再開前の、健太の中に残った最後のストリップの記憶では、もっと気にせず、あっさりと脱いでいるはずだった。
     乳房を見せたくないようにして、片腕でカップの部分を押さえつつ、肩紐を一本ずつ、そっと下ろしていっている。その躊躇いながら脱ぐ様子は、まだ裸を見せ慣れていない頃なら説明のつくものだが、いくら久しぶりだからといって、さすがに今更なような気もしてくる。
    (いいや、いいけどね)
     何をそう恥じらうのか。
     わからないといえばわからないが、羞恥心の現れた様子を見るのは面白い。
     ただ、一度は慣れきったにしては大袈裟だろうと、だんだんと疑問が湧いてはいるのが、健太の今の感覚だった。
     そして、次の瞬間には理解した。
     考えてもみれば、もっと早い段階から想像できても良さそうな心理であったが、その簡単なことに意外と気づかないのが人間だ。それを目の当たりにした瞬間から、そういえばそうだったことに初めて気づき、それから健太は納得していた。
     ブラジャーが床に放られた時、その乳房の先にあるのは黒色化した乳首であった。
     乳輪にかけてまで、すっかり黒ずみの及んだ乳首は、かつてに比べて肥大化しており、乳輪の部分さえ微妙な膨らみを帯びている。以前はピンク色だった時期もあった中、これは随分と変貌していた。
     再会前から、いくらかは黒かったが、やはり見違えていた。
    「なるほどねぇ?」
     自分好みに仕上がった乳首を見ることで、健太はニヤニヤと納得ながらに頷いていた。
     つまり、だから抵抗感があったのだ。
     変わってしまった中身を晒すことの恥ずかしさで、ブラジャーを外す手つきがたどたどしく、いかにも躊躇いに満ちていたのだ。
     ではショーツの中身はどうか。
     唯華はショーツの内側に指を入れ、するすると下ろし始める。その動作もやはり、変わった中身を晒すことへの抵抗感が滲み出て、今までに比べてたどたどしい。
     真っ黒な茂みが現れていた。
     その一本一本が色濃く太いであろう陰毛の、ふっさりと生え揃った部分は、前に拝んだ時よりも、いくらか領域を広げている。
     それらの恥部を晒していることで、唯華はどことなく、居心地でも悪いかのような、気まずそうな顔で頬を朱色に染め上げている。
    「いいじゃん」
     健太は歓喜していた。
     ここまで自分好みに乳首を変貌させ、陰毛も濃くしてきた唯華の裸に、健太は早速のように興奮して、ズボンの中身を膨らませる。先ほどまでペットを抱き、いくつかのコンドームを消費していることなど関係無く、股間はみるみるうちに元気になって、今にも挿入したい欲望に駆られていた。
     だが、まだだ。
     せっかく、志波姫唯華の肉体を頂くのなら、もっと相応しいシチュエーションがあるはずだと、健太は密かに企んでいた。
    
    
    


     
     
     


  • 第2話 視聴とお仕置き

    前の話 目次 次の話

    
    
    
     健太は唯華を隣に立たせ、いよいよノートパソコンに収めた数々のデータに手を付ける。
    「サボらずに毎日やってたみたいじゃん?」
     尻に手を置き、ぐにりと指を食い込ませる。椅子に座った健太にとって、隣に立った尻の高さは丁度よく、実に揉みやすい位置なのだった。
     唯華は何を言うでもなく、ただ返事だけをした。
    「そうですね。毎日、やっていました」
    「おかげで乳首は大きくなったし、クリも成長してるんだろ?」
    「はい」
    「いいじゃんいいじゃん。それじゃあ、動画見てみよっか」
     健太はこの時を待ち侘びていた。
     ただ課題のチェックをやるのでは趣がなく、もっと良い楽しみ方はないかと思い、今日この瞬間まで取っておいたのは、きっと正解だったのだろう。フォルダに並ぶ動画ファイルの、サムネイル表示を眺めることにさえ、ワクワク感が大きく膨らんでいた。
     この楽しみでならない感覚は、一人きりで眺めた時にはなかったものだ。
     フォルダ内に並べたファイルの数々というだけで、もう既に高揚感が湧いていた。
    「それじゃあ、これから」
     動画のファイル名は全て日付となっている。
     課題の一日目のファイルをクリックすると、ベッドから両足を下ろし、座り姿勢となって唯華が画面の中に現れる。
    『んっ、くぅぅぅ…………』
     吸引器を乳首にかけ、その刺激を受けている姿が画面にあった。
    「あっはははは! オナニーじゃん!」
     健太は隣の尻をペチペチと打ち鳴らし、楽しく叩いてやりながら、動画の中の光景を笑ってやった。愉快な気分になりきって、面白おかしくてたまらないものに対する目で、健太は動画を視聴していた。
     ハンドタイプの吸引器で、スイッチの付いたグリップを握った状態で、画面の中にいる唯華は、乳首に吸引部分を当てている。冷蔵庫に使う吸盤に酷似した形状の、しかし乳首を吸い上げるためにあるそれで、自らの乳首に刺激を与えている姿は、使っている道具がそれであるだけで、オナニーに見えるに決まっていた。
     道具を乳首に当て、刺激を感じて喘いでいる。
     それがオナニーでなかったなら、一体何だというのだろうか。
    「で、何? 気持ち良かったわけ?」
    「……その通りです」
    『んぁっ、くぅ……あぁ…………』
    「へー? 言い声じゃん」
    「…………」
    『あっ、んぅぅ……』
    「いい声だなぁ?」
     健太はわざとらしく喘ぎ声を褒めてやる。
    「…………」
    『んっ、んぅぅ……』
     それに対して、隣に立つ生身の唯華は沈黙を守っており、ノートパソコンの中からだけ、喘ぎ声は聞こえてくる。
    「おい、どうしたんだよ返事は」
     うんともすんとも言わないので、健太はまた、さらに尻を叩いてやった。
    
     ぺちっ、ぺちっ、ぺちっ、ぺちっ――
    
     尻を叩いて鳴らしてやると、見上げた唯華の横顔には、恥辱を滲ませたような歪みが見え隠れした。
    「あ、ありがとうございます……」
    「そうだよなぁ? 褒めてやってんだから、そういう風に言わないとなぁ?」
     動画時間が進んでくると、今度はクリトリスの吸引が始まっていた。
    『んぁぁ……! あっ、あぁぁ……!』
     声は乳首の時よりも大きくなっている。
     使っているのは、同じくグリップを握りつつ、スイッチを入れる電動タイプだ。自動的に吸引を行って、引っ張り上げる刺激を受けている姿は、吸引部分の映りが小さいために、電気マッサージ器の振動でも当てているように見えてくる。
     映像としては、それが延々と続いているだけであり、特に面白い変化はない。
     映画でもドラマでもなく、そしてAVとして作られているわけでもない。単なる記録映像は、同一の絵が代わり映えなく続くだけに決まっていた。
     そんな毎日の記録がまだまだ数を残している。
    (全部見たら結構かかるな)
     さすがに飛ばし飛ばしにする必要があるだろう。
     今はまだ高揚感を胸にしているが、同じものだけを二十分も三十分も見ていれば、さすがに飽きがくるだろうと、健太は心のどこかで予感していた。
    「さーて、次いってみようか」
     健太は現在の動画から次の動画へ切り替える。
     始まるのはやはり乳首に吸引器をかけ、その刺激に喘いでいる映像である。オナニーをして見える映像をニヤニヤと、しかしスキップ機能で飛ばし飛ばしに確かめて、また次の動画へと移っていく。
     それを繰り返しているうちに、乳首の成長に気がついた。
    「へえ?」
     半分以上の動画を見て、後半に差し掛かってきたところで、最初の動画を改めて確認すると、やはり乳首の大きさに違いがある。一番最初の動画より、終盤の動画の方が、いくらか大きくなっており、試しに拡大機能まで駆使したところ、やはり肥大化に間違いはない。
    「いいじゃんいいじゃん」
     唯華が自分好みにカスタマイズされている。
     その感覚にいい気になって、愉快でならない顔で唯華の様子を見てみると、不意に健太は気づいていた。何やら唯華は足をモジモジさせており、横顔を見る限りでも、何かの我慢を感じられる。
     もしやと思い、ものは試しでアソコの方を覗き込む。
    「あれぇ?」
     すると、濡れていた。
     剛毛が水分を吸っていた。ワレメから染み出るものを根元で吸収して、水気によって束ねられた陰毛は、毛先を太いトゲのように尖らせている。
    「なんで濡れてんのぉ?」
     ニヤニヤしながら、わざとらしく健太は尋ねる。
    「それは……」
    「それは?」
    「動画を、見ているうちに……興奮、してしまいました…………」
     唯華が答えた瞬間だ。
    
     ぺちん!
    
     また、叩いた。
    「あーあー。すっかり、エロい女になっちゃったよねぇ?」
     嘲るような、馬鹿にしきった顔で尻叩きを繰り返す。
    
     ぺちん! ぺちん! ぺちん! ぺちん!
    
     叩いているうち、唯華は表情を歪めていき、何かを我慢している風を強めていく。その堪える気配を見れば見るほど、健太からすれば快楽の我慢であることが明白だった。
    「そんなに気持ちいいのか?」
     健太はさらに叩き続ける。
    
     ぺちっ、ぺちっ、ぺちっ、
    
    「くっ……」
     唯華はその時、歯を食い縛った。
     拳にぎゅっと力を込め、目つきを鋭くしつつ耐え忍ぶ。
     そこから健太が感じたものは、ある種の反抗心だった。
    「なんか久々に会って、いつもより反抗的になったか?」
     付き合いの浅い者なら、小さな変化から見え隠れする微妙な機微など、決してわかりようはないだろう。いくら久々とはいえ、形はどうあれ付き合いの長い健太であればこそ、唯華の横顔から反発の気持ちを読み取っていた。
    「わからせてやる。こっちへ来い」
     健太はおもむろに立ち上がり、唯華の腕を引っ張りベッドに導く。床に膝を置きつつも、ベッドに上半身を乗せてしまっての、四つん這いに近い姿勢を取らせていた。突き出された尻を背後から鷲掴みに、健太は肛門の黒ずみを視姦して、それから性器の方を覗き込む。
    「へえ?」
     改めて近くで見れば、愛液の存在はより明確だった。
     先ほどよりも量が増え、陰毛が水気を纏っている。
     指をやり、その水分によって束ねられた陰毛の、トゲとなった部分をなぞってみれば、先端と指のあいだに髪の毛よりも細い糸が引く。さらにじっくりと覗き込み、両手でワレメを開くことまでしてみれば、黒ずみを帯びたビラがあらわに、包皮から飛び出て肥大したクリトリスまでよく見えた。
     クリトリスの確かな成長を確認して、健太は満足そうに頷きながら触り始める。
     ピクッ、と。
     尻が反応していた。急に電流を流されて、筋肉が弾んでしまっているように、クリトリスを触った瞬間から揺れ動いていた。
    「面白いじゃん」
     健太はその反応を楽しんだ。
    
     ふりっ、ふりっ、ふりっ、ふりっ、
    
     と、あたかも左右に振りたくり、お尻をフリフリすることで、オスに対するアピールでもしているような光景が出来上がっていた。
    
     ふりっ、ふりっ、ふりっ、ふりっ、
    
     という、尻の動きだけではない。
     見れば肛門も、きゅっ、きゅっ、と、収縮を繰り返している。健太はそれらの反応を目で楽しみ、ニヤニヤとしながらクリトリスをくすぐり続け、やがてもう一方の手で膣口に挿入を行っていた。
     膣穴への指ピストンと、クリトリスを嬲る指先の、二点による刺激を行うことで、しだいに喘ぎ声が聞こえ始める。
    「はぁ……あっ、はふぁ…………」
     最初は息の乱れから始まって、それがしだいに喘ぎ声へと変わっていった。
    「あっ、あぁ……あっ、んぅぅ…………」
     色気ある声を耳にして、健太はまるでオーケストラを楽しむように目を瞑り、うっとりとした表情で音色に浸る。
    「んぅ、んぅぅ…………」
     健太はその音色に没入した。
     ただただ、色っぽい声を聞き、耳で楽しんでいるというそれだけなのだが、健太の表情を傍から見る者がいたとすれば、世界観への没入と映ることだろう。メッセージ性や物語性の籠もった音楽を聴き、その情景をまぶたの裏に浮かべでもしているように、健太は喘ぎ声を楽しんでいた。
     実際、思い浮かべているものはある。
     かつて、本当に憧れていた気持ち――生まれて初めて志波姫唯華の試合を見た瞬間の衝撃と、そんな唯華からバドミントンを教えてもらえる感動に、その憧れを貶めて、こんな風に扱っている背徳感に優越感。
     それらが一連のストーリーとなっている。
     唯華自身はただ快感に喘いでいるだけであっても、健太としてはそんな物語性を感じ取り、感受性のままに喘ぎ声を楽しんでいた。
    「んあっ、あぁ……あっ、んぅぅ…………」
     本当に没入していた。
     自分の中に広がる世界観に、まさしく健太は浸っていた。
    
    「あぁぁぁ――――――!」
    
     そして、唯華が絶頂する。 
     そのビクっとした反応と共に目を開き、音楽の終わった余韻と共に、ぐったりとした唯華の背中を眺める。自分自身の手の平を見てみれば、両手とも指がまんべんなく愛液を纏い、光沢を放っていた。
    「イったね」
    「はぁ……はっ、はい…………」
    「勝手にイクなんて、お仕置きが必要だよ」
     そんなルールは告げていない。
     たった今になって、急に言い出したことであり、そのせいか唯華は肩越しに一度だけ、文句のありそうな顔で睨んで来る。
     だが、今の絶頂で自分の立場を思い出したのだろう。
     反抗心に満ちた瞳は、たちどころに粛々としたものへと移り変わっていた。
    
         *
    
     健太が思いついたお仕置きは、絵を描かせるというものだった。
     まさか、ごく普通にペンを持たせて、ごく普通にイラストに挑戦させても、そこに大した面白みはない。お絵かきをお仕置きとする所以は、その方法にこそあるのだった。
    
    「うっ、難しい……です…………」
    
     唯華は尻で絵を描いていた。
     たまに使う機会のあるペンを、そんな風に使わせるのは、我ながら気にならないわけではないが、後でしっかり除菌ペーパーで拭き取れば、衛生的には問題がないだろうと考えていた。
     肛門にマジックペンを刺し、紙の上で尻を上下左右に動かしている。
     ずれないように、大きな紙の四隅を物で固定し、イラストとしてはキャラクター的なデフォルメをしたクマの絵を命じている。線を描き、点で目や鼻を表現してくれれば構わない。まさかプロのイラストレーターであったり、芸術家が手がけるレベルなど求めはしないが、そこそこにクマに見えるものを描くように言い渡している。
     そして、その様子を三脚台のカメラで撮影しつつ、スマートフォンの動画撮影モードも片手にして、ニヤニヤと楽しく見守っている。
     これほど愉快なことがあるだろうか。
     滑稽な芸をやらせて、それを眺めて笑いものにする。
     その優越感がたまらずに、健太は高揚しきった眼差しで、紙に引かれるガタガタな曲線に目をやった。
    「あーあー」
     当然、下手だった。
     唯華に絵心があるかは知らないが、肛門に挿入したペンで、足腰を使って描くという経験は、まともな絵描きにはないだろう。ロクな線も引けず、点を打つ場所もいい加減になるのは無理のない話だが、無理なことをやらせた上で、いまいちな結果を嘲り楽しむことこそ、滑稽な芸を命じる面白さの一つである。
     描き終わった直後の紙を抜き取り、健太は唯華の目の前で、これみよがしにクマの絵を眺めてやる。
    「なんだこれぇ」
     嘲ってやった。
    「マジで下手クソだな。どんんだけ絵心がないんだ? 幼稚園児でもマシなものを描くと思うけど? なあ、こんなんじゃ合格は出せないよ?」
     線だけで描くクマの絵は、顔や耳などは丸を描き、目と鼻は適当にぐりぐりとやって点を作ればいいわけだが、顔を成すための曲線が歪んでいる。訳のわからない波打ちが混じり、ミスで加えた線や点で見栄えも汚く、耳を入れるポイントもずれている。
     結論から言うと、クマには見えない。
     ミスで作った点のため、鼻の穴が二つになって、豚に見えやすくなっていた。
    「ねえ、これなんの動物?」
     わざとらしく健太は尋ねる。
    「クマ……です………………」
    「は? これが?」
     愉快で愉快で堪らない。
     唯華に向かって絵を突きつけ、本人に見せつける。何に見えるかもわからない、絵心を欠片も感じさせない歪な線が、それでも辛うじて動物に見えるのは、クマを命じたのが健太自身だからなのだろう。グチャグチャな線の固まりは、幼稚園児がクレヨンを扱って、画用紙に乱雑な線を走らせたそのものだ。
     いや、健太の場合、幼稚園時代に絵の上手い子のいた記憶がある。いくら上手くても幼稚園での話のため、中学生となった現在のクラスメイトの方が、よっぽど驚くべき画力を披露しているが、ともかく上手い子がいたわけだ。
     さすがに遠い記憶のため、脳裏に浮かぶ映像は朧気だが、手元にある唯華の絵よりずっとマシだったことだけはよくわかる。
     もっとも、そんな過去の事実はさほど重要なものではない。
    「幼稚園児の方がマシだよ?」
     蔑む言葉を投げかけて、侮辱することこそが楽しいのだ。
    「…………」
     唯華は押し黙っていた。
     何かを言いたげに、一瞬だけ口を開きかける反応だけを見せ、やりきれない顔で唇を閉ざして俯いている。
    「なあ、クマを描けって言ったよな?」
    「……すみません」
    「描き直してくれる?」
    「はい……」
     唯華は一体、どんな気持ちでいることか。
     肛門にペンを刺し直し、新しい紙の上に腰を下ろすと、尻でぐるりと弧を成そうと動き始める。自分の股を覗き見て、ペン先の位置は確認しつつも、足腰を駆使した描き方では、やはり線が歪になる。
     二回目なので申し訳程度には慣れたのか、先ほどよりはまだマシな線ではあるが、妙な波打ちやブレなどで、綺麗な線とは言い難い。微妙な丸の中に、さらにもう一つの丸を描き、目と鼻の点をグリグリと描き込む姿の、なんと滑稽なことであろうか。
     ぐいんぐいんと、腰を回すかのように動くことにより、肛門のペンを駆使しているが、出来上がる点もまた形が歪み、耳も口も位置が悪い。
     出来上がった二枚目のクマは、先ほどに比べて申し訳程度にマシなだけであり、やはり上手な絵には程遠い。
     しかし、上手い下手の問題ではないのだ。
    「やり直しー」
     そう言ってやる瞬間の気持ち良さが、やはりたまらないものなのだ。
    「わかりました……」
     頬の内側で歯を噛み締め、悔しさを見え隠れさせつつ再び尻を動かして、三枚目のクマを描き始める。バドミントンのおかげで体幹がよいおかげか、足腰の使い方は慣れさえすればすぐ身につき、加えて線と点だけで構成する記号的なクマの顔は、そもそも絵心の必要な種類の描き方ではなかった。
    「はい駄目ぇぇ! やり直しー!」
     そう言ってやる瞬間の快楽で、健太はテンションを上げていた。
     興奮気味にやり直しを言い渡し、唯華は無念そうに四枚目を、五枚目を描き始め、六枚目に至ってもまだ健太は合格点を与えない。
     七枚目になって、やっと合格を言い渡した。
    「いいじゃん。ま、これくらいにしておいてやるよ」
     それから、健太は唯華の尻からペンを抜き取る。
     嗅げば臭いだろうと思い、肛門に収まっていた箇所には触れないように気をつけつつ、そっとつまんだ指にぬめり気を感じ取る。先ほどからずっと出ていた愛液は、表皮を伝い広がることで、ペンまで濡らしているようだった。
    
    
    


     
     
     


  • 第3話 ローターデート

    前の話 目次 次の話

    
    
    
     その数日後、健太は待ち合わせの場所に立つ。
     唯華と会うのが楽しみで、ウキウキとしながら広場の像を背にしつつ、さりげなくキョロキョロと周囲を見渡している。人々の行き交う雑踏から、今に唯華が現れて来ないかと、そわそわしつつある感覚は、傍から見れば思春期の少年そのものだろう。
     しかし、健太の抱く感情は、デートを前にドキドキしている純情な少年と評するには、実に歪なものを抱えている。
     奴隷の登場が楽しみなのだ。
     ペンでクマの絵を描かせ、わざと不合格を言い渡し、何度でもやり直させる快感を味わっていたように、今日の遊びが楽しみでならない気持ちによってこそ、健太はそわそわしているのだ。
     少しでも早く彼女に会いたい。
     そんなありふれたものではなく、命令通りの服装をした唯華の登場こそを待ち侘びている。
    
    「……お待たせ」
    
     現れた唯華は、扇情的な服装をしていた。
     かといって、その露出度が常識を逸脱しているわけではなく、ヘソ出しのシャツは季節的にも涼しすぎることはない。胸元の開け具合で鎖骨こそ見せてはいるが、下着まで見えているわけでもない。
     丈の短めなスカートも、太ももを丸出しというよりは、あともう少しだけ丈を長くすることで、際どいながらもセクシーなファッションの範疇に収まっている。
     露出狂の格好をして来いとは言っていないが、セクシーな服装で来いとは言った健太にとって、実にちょうど良い具合の色気が出ているのだ。
    「やっ、待ってたよ。お姉ちゃん」
    「い、行こう。健太」
     顔を合わせるなり、早速のように二人一緒に歩き始める。
     傍目には姉弟に見えるだろうことを意識して、その時だけはそういう設定を装って、姉らしくタメ口を使ってもらっている。
     主従関係を表向きには隠しているのだ。
     脅しのような手口を使い、無理に従わせているなどと、わざわざ周りに知らしめたいはずもなく、もしも唯華といる最中にクラスメイトにでも会ったりしたら、その時のための説明も頭の中には用意していた。
     見知らぬ他人に対しては姉弟で通すとして、クラスメイトには後でバレかねない嘘は避け、半分以上は真実を語る。実際の姉に頼んでかつて唯華と会わせてもらい、バドミントンの教えを請うたのをきっかけに、さも姉弟のような仲になったと、脚色を織り交ぜるつもりでいた。
     遥か年下の奴隷となっている事実など、唯華としても知られたくはないだろう。そう言っておけば、唯華も勝手に合わせてくるはずだ。
     ともかく、今日の予定はデートである。
     ただのデートではなく、ご主人様が奴隷に面白いことをやらせて、それを楽しむ遊びを交えてのデートである。
    「で、お姉ちゃん」
     駅近くの高層ビルへ向かう途中、その道のりで健太は尋ねる。
    「どうしたの?」
    「服、ちゃんとしてる? 中身とか」
    「ああ、もちろん。でも、こんなところで確認なんてしないよね」
     そうされては困るかのように、チラチラとした視線で健太の顔色を窺ってくる。
    「うーん。どうしよっかなー」
     ノーパン、ノーブラで来るように言い渡してあるのだ。
     その上でシャツも白を選んでもらい、透けやすい色を凝視さえしていれば、黒ずんだ乳首を確認できないこともない。微妙に厚めで、英字プリントの入ったものを着てくるなど、姑息な手段で隠そうとしているようだが、見たところプリントと乳首の位置は重なっていないため、だから乳輪の円が薄らとしたグレーとなって確認できる。
     唯華は周囲を気にしていた。
     いつ誰にバレないものかと、常に焦り続けているような、不安でならない面持ちで視線を泳がせ、ぎこちなく笑顔を装っている。あまり不自然だとかえって注目され、そのために気づかれかねないのは、頭ではわかっているのだろう。
     その気持ちは健太も同じだ。
    (大丈夫だよな……)
     自分で命じておきつつだが、健太としてもいつバレないものかとドキドキしている。自分が悪いことをしているのでも、自分自身が似たような羞恥を味わっているわけでもないが、それでも周りの視線が気になっていた。
     唯華のノーブラが誰かにバレて、殊更に注目される状況を想像すると、怖いような見たいような、不安と欲望が表裏一体となった感情が浮かんでくる。
     バレて欲しいけれど、バレて欲しくない。
     どちらつかずというよりは、コインの表裏のようにして、それで一つの感情なのかもしれなかった。
     デートプランはいたってシンプルで、適当に店を見て回り、少し歩いたら休憩して、また次の場所へ向かってと、特に綿密にはしていない。その時、たまたま行きたい店を見かけたら、予定になくても行ってみるようなつもりで、あえて大雑把に考えていた。
     書店を巡り、一緒に眺める。
     雑貨を、洋服を、様々なものを眺め歩いて、買ってみるでもなく次の店へと移っていく。そのうち、ベンチを見つけて腰を休めて、隣同士で座って過ごすあいだにあるものは、決して仲良しらしい空気感ではなかった。
     当たり前といえば当たり前だが、親しい間柄の感覚で会話が弾み、盛り上がるといったことはない。
    (ま、知り合いなんて意外と会うことはないし)
     だから、そう深くは気にしていないが、クラスメイトに会った際の誤魔化しに支障は出ないかという気持ちがありはした。
    (おっと、そろそろいっちゃおっか)
    「お姉ちゃん」
     満面の笑みで、健太は告げる。
    
    「次、アダルトショップ――」
    
         *
    
     志波姫唯華は足を竦ませ、今にも逃げ帰りたい思いに駆られていた。
     ビルを出て、町中をしばらく歩いたところにあるのは、大きく『18禁』と書かれた紙を貼りつけて、年齢制限をアピールしている店だった。ネット検索で見つけた地元の店は、避妊具は言うまでもなく、ピンクローターやディルドから、首輪や鞭といったSMグッズにコスプレ用の衣装まで、プレイに使うものなら何でも揃えた店だ。
     AVなども扱っている。
     店の利用者の目当てなど、言うまでもない空間がそこにある。
     肩越しに振り向けば、健太は電柱の近くでスマートフォンの画面を眺め、SNSか何かをやっているフリをしていた。スマートフォンを高い位置に握り締め、画面を見るフリをしながら、そのまま唯華の様子を見守ることが可能な角度で、きちんと店に入るかどうかを監視していた。
     目が合うと、顔で告げてくる。
    「さっさと行けよ」
     と、声にこそ出てこなくても、そういう意図がはっきりと伝わって来る。
     唯華は店の入り口に向き直り、いざ一歩前へ出た瞬間、まるで先回りするようなタイミングで、一人の中年が入って行くのを見てしまった。さらにはそれと入れ替わりに青年が店から出て来て、唯華にチラっとした視線を送りつつ、どこかへと歩み去っていた。
     そのチラっとした視線には、どうして女がこんな店の前にいるのかと、不思議がる目つきに感じられた。
    (あんまり、普通ではないんだね……)
     やはり、入りにくい。
     アダルトショップである以上、そういうことを考える男が出入りしている。そこに女が入り込めば、一体どんな目で見られるか。意外と気にせずにいてくれる男も多いだろうが、そうではない、痴漢やらセクハラ、ナンパをする男がその場にいたら、良いことは起こらないはずなのだ。
     そこの姉ちゃん、興味あるわけ?
     といった具合にニヤニヤと、好奇心たっぷりの眼差しで、性的な言葉を投げかけてくるかもしれない。道端の女性に急に抱きつくとったニュースを一度は見たことがある中で、それらしいことの起きやすい空間へと、わざわざ自分から踏み込むのだ。
     その気持ちは決して穏やかなものではない。
     自然と表情は暗くなり、いかにも惨めな気持ちで唯華は進む。
     出入り口に近づくことで、陳列棚に飾られたポスターやアダルトグッズが目に入り、かつてレンタルショップのアダルトコーナーでAVの物色をした思い出が蘇る。境界線の向こうには別世界が広がっていて、未知の空間に踏み込むことを躊躇うような、恐れに近い感情で、進んで行く足の動きは明らかに鈍っていた。
     しかし、どんなに躊躇いに満ちた足取りで、重々しく歩いていようと、進んでいる以上は必ず辿り着いてしまう。元々、そう何歩もない距離に立っていたために、唯華の足はあっさりと境界線に辿り着き、そしてアダルトの空間へと入り込む。
    (また……来ちゃった……)
     唯華はみるみるうちに赤らんで、耳を染めつつも俯いていた。
    (注目されないといいけど……)
     その願いは実に切実だった。
     特別な注目はされたくない、目立つことなく空気のように扱って欲しい。その願望が巨大なまでに膨らむ理由は、単に女の身でアダルトショップにいるからという、それだけの理由ではなかった。
     ノーパン、ノーブラという理由もある。
     白いシャツから黒ずんだ乳首が透け、目を凝らせばブラジャー無しとわかる態も、人の視線を少しでも避けたい心理を加速している。
     だが、下着を身に着けていない状態は、家を出たその時からだ。乳首に人の視線が来たらどうしようと、気が気でないのは最初からだ。もちろん、その上でアダルトショップに入るのは、羞恥心の増幅に大きく関わっているものの、まだ他にも理由はあった。
     人の視線を浴びたくない、より巨大な理由が今の唯華にはあった。
    
     ブィィィィィィ…………!
    
     リモコン式のローターが膣の中で振動している。
    (やだ……音が……!)
     最悪なことに、静音式ではなかった。
     ここに来ると決まった時、入れておけと命じられ、手渡された卵形のアダルトグッズが膣内で震えている。音が漏れやすいおかげで、静かな店内では駆動音が響いており、他の客の姿が視界に入ってくるたびに、この音で振り向いたり、唯華に注目をしてこないかと、本当の本当に気が気でない。
     いかにも落ち着かない、全身がそわそわとした状態で、唯華は店内を歩いていた。
     ここで商品の購入を命じられているために、だから陳列棚から選ぶべきものを選び出し、それをレジに持っていかなくてはいけないのだ。
     健太が命じてきた内容はこうだった。
    「コンドーム、買ってきてよ」
     避妊具を買うということは、まさかとは思うが、そういうことを考えているのではないか。不思議とそれはしてこなかった健太が、とうとう本番行為について考え始め、最後までしてやろうという目論見を抱き始めたのか。
     そんな恐れが胸に漂い、だから唯華は躊躇っていた。
    (それを買っちゃうの? 自分の手で?)
     自分の処女を破るためのゴムを、わざわざこの手で買うというのだろうか。その迷いや葛藤がありながら、唯華はこうして店の中に入っているのだ。
     自分でもおかしいとは思いつつ、店内の陳列棚から目的の商品を探している。
    
     ブィィィィィィィ………………。
    
     駆動音を振りまきながら店内を歩くのさえ、唯華には恥ずかしくて辛すぎる。いつバレるとも知れない状況で、しかも避妊具をこの手で買うなど、一体どこまで貶められればいいのか、いよいよわからなくなってきた。
     ふざけた芸を散々やらされ、つい先日も肛門のペンでお絵かきなどという真似をして、それでもなお、まだ唯華の尊厳を削り取るためのネタが残しているのだ。
    (本当に……いつまで、どこまで言うことなんか聞いて…………)
     従っている自分自身に対する馬鹿馬鹿しさについては、つくづく思っているものの、唯華はコンドームの棚を見つけると、そこに手を伸ばしてしまう。そういえばサイズが解らず、直径はどれがいいのか迷ったが、ゴムである以上は融通が利くはずと、無難にMサイズの箱を手に取った。
     成長期でこれから伸びる可能性はあれども、今のところの健太は唯華よりも背が低い。ならば肝心な部分の大きさも、平均的なサイズなど知りはしないが、まさか極太ということはないはずだ。
     レジへ向かって行く最中、一人の男とすれ違う。
    
     ブィィィィィィィ…………。
    
     きっと、駆動音に気づいたのだ。
    「うん?」
     すれ違いざま、男は唯華に反応を示していた。
     それは単に女がいることを不思議がっているだけではない、もっと別の何かに対するものを含んだ――つまりは、何かの振動している音に気づいての、首を傾げた表情なのだった。
    (バレ……た……?)
     心が冷える。
     男は何も言ってこない、して来ない。
     見知らぬ他人の事情には踏み込まない、しかし心の中では微妙に気にかけているという、いたって普通の反応を男はしているはずだった。その気づかれてしまった可能性に、ドキリとした感覚が胸に走って、心臓が今にも破裂しそうであった。
    (大丈夫……大丈夫……)
     唯華は自分に言い聞かせる。
     こんなことが、一体なんだというのか。
     高校時代、過酷な練習で立つこともできないほどに疲れた時の方が、たかだか恥ずかしい秘密を知られたよりも辛かった。まして、本当に気づかれているとは限らない。唯華の思い過ごしであり、あくまで女の存在を珍しがっただけかもしれないのだ。
    (気にしちゃ駄目……気にしちゃ駄目……)
     そんな風に心で唱え、気に病んでならない気持ちを精神の外へと締め出そうとしてみるも、それ自体がかえって気にしている証拠となる。気にしない、気にしないと、そういった意識を持てば持つほど、むしろそのことで頭で膨らみ、脳裏から離れなくなっていた。
     バレたかもしれない。
     気づかれた上、なんだこの変態女は、何かのプレイか、とでも思われたかもしれない。
     あらぬ想像すら浮かんでしまう、もうこうなったら「ぬがー!」と、大きな声で叫んで壁に頭でも打ちつけたい。
     そういった感情にさえ駆られながらも、唯華はレジへと辿り着く。
    
     ブィィィィィ…………。
    
     と、ローターが震えているせいで、その音が聞こえていないか不安でならないまま、唯華はレジにコンドームを置いていた。
    (やだ……声、出ないように……)
     唯華は歯を食い縛る。
     店員の男は黙々とレジ打ちの作業を行い、そして唯華も現金での支払いを行って、おつりを受け取る。その一連の流れの中で、唯華は内股気味となり、太ももをきつく締め合わせたいかのようになっていた。
     ローターが気持ちいいのだ。
     愛液などとっくに分泌されており、ただ表皮が汗ばむような濡れ方で済んでいるから、言うなればオシッコが漏れそうな危機感といったものには駆られていない。人前で床を汚してしまう可能性についての心配こそしていないが、濡れていること自体はやはり気にして、唯華はついに太ももをぎゅっと擦り合わせる。
     我慢のため、そうすれば少しは音や振動を抑え、堪えやすくなるのではと思ったための行動だった。
     精算を済ませるあいだだけでいい。
     我慢を強めることで、店員とやり取りを行う一瞬だけでいいから、恥辱や快楽が表情に浮き出た状態を隠したかった。
     紙袋に入った箱を受け取り、唯華はすぐさま店員に背を向ける。
     その瞬間だった。
    
     ブィィィィィ!
    
     音が大きくなった。
    「やっ…………」
     思わず悲鳴を上げそうになり、唯華は慌ててそれを噛み殺す。叫んだり、大きな声を出してしまえば、余計に目立つと即座に気づき、咄嗟の判断で歯を食い縛っていた。
     しかし、それでも音が大きければ、周りに必ず伝わってしまう。
    「ローター……」
     後ろから、小さな呟きが届いて来た。
     小さな小さな、驚きのあまり無意識に呟いてしまっている声が、唯華の耳まで届いていた。
    (バレた……!)
     もうたまらない。
     買い物を済ませた以上、もうここに用はないと、唯華は途端に足を早めた。小走り気味に出て行って、少しでも早く店員から離れようとしたものの、店を出たなら通行人が視界に飛び込む。
    「やだ……外も……」
     当たり前の話であった。
     アソコから大きな駆動音を出した状態では、すぐ近くを通りかかった人達は、その音を気にしてチラリと唯華を向いてくる。ちょうど店を出た直後の、唯華の目の前を通り過ぎていった一人のサラリーマンは、微妙にぎょっとした顔をしていた。
     きっと、気づいたのだ。
     バレてしまった恥ずかしさで、休息に顔は赤らみ、そしてサラリーマンの通りすがった向こうから、電柱で待ち侘びていた健太の姿が目に入る。
     買い物は終わった。
     だが唯華には、まだデートの続きが残っているのだ。
    
    
    
    
    


     
     
     


  • 第4話 レンタルショップで

    前の話 目次 次の話

    
    
    
     その後も、デートと称した辱めは続いていった。
     再びレンタルショップに赴いて、AVを借りてくるように言われたことで、男の中に混じって物色を行うことになる。男と同じことをして、男に奇異の目で見られる感覚に耐えながら、ローターの刺激にも耐えるのだ。
    
     ブィィィィィ…………。
    
     やはり、音が漏れているはずである。
     店内には音楽が流れているため、曲に紛れて聞こえにくいのが幸いだが、耳さえ澄ませば気づくだろう。そして、誰かの携帯電話がマナーモードの振動を起こしているのかと、最初はそう思うのかもしれないが、止まることなく延々と続く駆動音で、いつかはローターを疑い始めることになる。
     そうなる前にここを出たいのが心情だが、しかし唯華はいくつかのディスクを手に取って、ラベルやタイトルを眺めては元に戻すといったことを繰り返していた。
    (んぅ……くぅぅ…………)
     ほどよいタイミングで止まるのだ。
     唯華に刺激を与えるだけ与え、いかにも快感が膨らんだところで停止する。その数秒後には再びスイッチが入るわけだが、その停止と起動の繰り返しもまた、唯華の中から我慢の力を目減りさせ、忍耐力を削ってくる。
     寸止めになっているのだ。
     まさか、姿も見えないのに絶頂のタイミングが読めるはずもなく、ただの偶然がほとんどで、大半は単に快楽が膨らんだところで止まるだけだが、いいところで止まってしまうかのような、もっと欲しかった瞬間の停止がされているようでたまらない。
     もちろん、本当の意味で欲しかったわけではない。
     やめないで欲しい、続けて欲しかった感覚は、あくまでも生理的な反応の一部である。肉体的な反応は、刺激さえあればしてしまうので、体としてはいいところで止まって焦らされる感覚があるという話である。
     気持ちとしては、ずっと止まっていて欲しい。
     一度止まったら、そのまま動かないでいて欲しいが、停止時間はものの数秒、長くても十秒ほどがいいところだ。
    
     ブィィィィィ……。
    
     こんな駆動音が続いていては、いつどのタイミングで気づかれたり、人に注目されるかもわからないのが辛かった。
     だから、できれば早々に選び終え、早めにアダルトコーナーを出て行きたいが、健太には一〇分以上はいるように言われている。早く出ていき過ぎれば、怒られてお仕置きをされるだろう。そして、では一体どんなお仕置きがされるのか、それを想像すると少しばかり興奮してしまう自分に気づき、唯華は自分の中にある性癖の歪みに葛藤する。
     いつまでも、こんな言うことを聞き続けていいはずがない。
     だが、それを聞いてしまっている自分がいる。膣内にローターを加え、リモコン式のスイッチで弄ばれることを良しとして、受け入れている自分がいる。
     それどころか、停止の瞬間を寸止めであると感じるほど、肉体的には興奮している。
     いや、本当は心でもそうだ。
     マゾヒズムが育ってしまっていることで、理性では思っているのだ。こんな自分でいるべきではない、早くかつての自分に、健太と出会う前までの自分に戻るべきだと訴えるが、本能では今この状況を悦んでいる。
    「あれぇ? イキそうだった?」
    「悪い悪い。また寸止めしちゃった」
     言われてもいない、そもそもこの場にはいない健太の、しかし言ってはきそうな言葉が脳裏に浮かび、それが健太の声で再生されている。
    「イキたいんだったら、おねだりしてみてよ。どうかイカせて下さい、健太様って」
     絶頂に向かったこの肉体の状況が伝われば、健太はきっとそんな風に言うだろう。
    (なんで、妄想しちゃってるわけ……)
     息を荒くして、肩を上下させながら、唯華はますます肉体を興奮させる。
     このままでは様子のおかしさが周囲に伝わり、余計な注目が集まるのは時間の問題だ。見られたくない、注目されたくない、そんな意識のあまりに焦ったようなそわそわとした挙動が滲み出て、かえって人目を引きそうな自分自身の様子を自覚して、唯華はそれを懸命に堪えていた。
     赤くなり、恥辱の浮かんでいそうな表情を引き締めて、背筋もしっかり伸ばしておき、堂々としていようとするのだが――。
    
     ブィィィィィ…………。
    
     その振動がどうしても気になった。
     ディスクを物色するはずの唯華の右手は、しきりにアソコの近くへいき、無意識のうちに性器を手で押さえようとしてしまっている。太ももを引き締めて、手で押さえてしまっておけば、少しは振動を和らげて、刺激が弱まるはずだった。
     あからさまにやれば人目を引く。
     だから少しでもさりげなく、かつ堂々と振る舞おうとしていた。誰にも気づかれない範囲で、瞳だけを動かしながら周囲を伺い、極限まで怪しまれないように意識して、振動を抑え込もうとしているのだった。
    (また……)
     止まった。
     抑え込む努力の途中で、逆に止まった。
     焦らされた感覚に陥り、また十秒もすれば起動する。
    
     ブィィィィィ…………。
    
     膣口に収めたローターは、卵形でつるっと滑りやすい材質で、ただでさえ下腹部を引き締めていなければ、いつ外に落ちてしまうかもわからない。脱力すれば、愛液のヌルヌルとした滑りに引かれ、徐々に下垂していく感覚で焦燥を煽られるのだ。
     股からローターが転がり落ちたら、近くにいた男はどんな目を向けてくるであろうか。
     その恐怖心が唯華の中で具体的な形となって膨らんでいる。セクハラ目的で声をかけ、何かしてくる変質者が、ここにいない保障はない。しかも、性被害にまつわる「油断があったのではないか」「隙があったのではないか」という落ち度論の存在を考えると、自らアダルトコーナーに入った上、股からローターを落とす流れは、いかにも自業自得と言われそうで気が気でない。
     痴漢を働く人間がここにいないで欲しい願いは、唯華にとって切実なものだった。
     いっそ、外に出してしまいたい。
     誰にも見つからないようにこっそりと、健太にもバレないうちに取り外し、楽になってしまいたい衝動にも駆られていた。
     膣内でたびたび位置が気になるのだ。
     ぎゅっと引き締めれば、壁の狭間に飲み込むように奥へ入り込ませていられるが、脱力すれば徐々に下がって、いつしかぽとりと落ちそうになる。その少しでも落下の迫った状態が気になって気になって、いっそきちんと手で直したい気さえしてくる。
     そうまで気になる以上、取り出してしまえればどんなに楽か。
     だが、実際にはスカートの中に手を入れて、アソコの中身を引っ張り出す機会など、よく見れば監視カメラもあるのにありえない。たとえカメラの存在がなく、誰にも見えないタイミングがあったとしても、ふとした拍子に振り向かれたり、覗かれたりはしないかと怖くてならず、結局はそんな真似などできないだろう。
    (そろそろ、時間ね)
     もう引き上げても良いはずだ。
     時間を確認した唯華は、さっさとAV選びを終わらせようと、手早くタイトルを確認する。どれがいいのか、どういうものが好みであるか。聞かされている趣味と照らし合わせているうちに、唯華の隣に一人の中年がやって来ていた。
     それは唯華の気づかないうちに、今になって暖簾の向こうから現れた新しい客だった。
     そして、自分の隣に来たことで、唯華は初めて新しい客の存在に気づくのだが、構っている暇はない。隣の中年がどれくらい唯華に関心を寄せているかなど、引き上げる直前の今ならどうでもいい。
     さっさと出ていくために素早く選ぼうとする唯華の、その様子を中年はジロジロ見ていた。
     今の唯華は快楽で頬が火照って、息も荒い。
     どことなく色気に満ちた横顔で、興奮気味にAVを選ぶ美麗な女の、しかもよく見ればシャツから乳首が透けている。そんな存在が近くにいれば、堂々と視姦を始める男が現れても、決して不思議はないのだった。
     チラチラとした視線が唯華の胸や顔に絡みつき、目によって堪能されていた。
    (こりゃプレイ中かなぁ?)
     などと、そこまで気づかれてしまっていることに、唯華の方が気づいていない。
     気づかないまま選び終わって、唯華はディスクを片手に暖簾へ向かう。アダルトコーナーの外にさっさと出ようと、早足になった瞬間だった。
    「……っ!」
     唯華は咄嗟に歯を食い縛り、手で口を押さえていた。
     そうしなければ、確実に声が出ていた。
     急に振動が強まったのだ。
     ローターの勢いが切り替えられ、周囲に聞こえても不思議ではない、今までよりも大きな駆動音が鳴った時、唯華は耳まで赤く染め上げていた。
    
     ――ば、バレた……また……!
    
     ちょうど、出ようとした瞬間に、二人組の青年と鉢合わせたのだ。暖簾から入って来た二人組は、唯華を見るなりぎょっとした表情をした上に、後ろからも何やら数人分の視線を感じて、ついに注目が集まってしまったことを唯華はひしひしと感じていた。
     まず、二人組の驚いた表情は、アダルトコーナーに女がいたという、その事実に対してだけとは思えない。いかにも気まずそうに、いけないものを見てしまった顔で、無言で唯華の隣を通り過ぎていく二人組に、唯華もまた気まずくなっていた。
     駆動音に、間違いなく気づかれていた。
     振り向けば、他の誰かの視線も集めているのかもしれない。
     怖かった。
     後ろを見て、本当に視線が集まっている事実に直面するのは、唯華にとって恐怖に他ならない。後ろなど振り向かず、このままさっさと前に進んで、一刻も早く健太と合流し、レンタル手続きを済ませるべきだと頭ではわかっていた。
     しかし、人間の心理とは厄介だった。
     怖い怖いと思うほど、かえって怖い物見たさの気持ちが働いて、首が後ろに向かって動いてしまう。見えない力に引っ張られ、首が勝手に動きでもしているように、唯華は少しずつ後ろを向き始めていた。
     そして、唯華は見てしまった。
    
     ジィィィィ…………じぃ…………
     じぃぃ……ジィィ…………
    
     このアダルトコーナーの中にいる限り、全ての男の視線が集まっていた。
     二人組の青年も、先ほどまで隣にいた中年も、二十代や三十代の男達も、揃って唯華を見つめていたのだ。
     二人組にいたっては、何かヒソヒソと話している。
     本人達は小声のつもりだったとわかる声量でも、こんな時に限って耳に神経が集中して、聴覚が鋭くなり、それらの声を聞き取れてしまっていた。
    「バイブだよな」
    「ぜってー彼氏にやらされてるわ」
     プレイの一環で恋人にアダルトコーナーへ送り込まれて、AVを選ばされている最中と見做されていた。完全には当たっていないが、半分以上は当たっている。恥ずかしい真実を見透かされてしまった羞恥心で、頭が爆発しそうな勢いだった。
    (最悪……!)
     唯華は小走りで外へ出た。
     アダルトコーナーを背にして少し進んで、すぐに健太と顔を合わせるも、そこにあるのは安心感とは少し違う。
    「あれぇ?」
     嬉しそうな顔の健太を前に、唯華に与えられる感情は、先ほどまでとはまた別の種類の恥辱であった。
    「なんかあったぁ?」
     唯華は確信した。
    「わざとなんだね」
     ああまで音の出るローターでは、気づかれる確率が高いに決まっている。健太はきっと、わかっていて切り替えたのだ。
    「へぇ? バレちゃったのぉ?」
     健太は嬉々としていた。
     唯華が恥ずかしい目に遭って、その事実に健太は大喜びのようだった。
    「そいつはお仕置きだねぇ? あ、それ早く借りてきてねー」
     パン! と、いいながら尻を叩いてくる。
     こんなに惨めな扱いを受けていて、どうして何も言わずに従っているのか。だんだんと、自分でもわからなくなってくる。
     セルフレジで行うレンタル手続きの最中も、ローターは絶えずオンとオフを繰り返し、焦らしながらの攻めを繰り返す。
    
     ブィィイィ!
    
     と、音が急に強まって、体がビクっと反応した時、隣の女性がぎょっとした顔で唯華のことを見た上に、逃げるような足取りで早々と去っていく。
     その変態か不審者に対するような反応ほど、唯華にとって辛いものはないのであった。