目次 次の話




 健太の奴隷となってから、およそ一年ほどが経っていた。
 大学生活を謳歌して、表向きには何事もなく過ごす志波姫唯華ではあるが、ひとたび学校やバイトが終われば、健太の家に足を運んで、屈辱的な芸の披露を行ったり、何らかの辱めを受けていた。
 しかし、そんな生活に一旦の区切りが付き、ここ最近は通っていない。
 というのも、健太が中学校に入学したのだ。
 晴れて中学生となった健太は、しばらくは学校で部活に専念したり、友達を作ったりする言っていた。そのまま二人の関係が有耶無耶になり、自然消滅にでもなってしまえば、ずっと年下の少年に従わされる主従関係の日々は終わりを迎えていただろう。
 だが、そうはならないことを唯華は確信していた。
 会っていないなら、そのまま連絡をやめてしまい、音信不通によって関係を切ることもできたはず。そうはしないで、律儀に『課題』をこなしてしまっている自分がいる。こんなことでは、またいずれ健太に会いに行き、自分はその屈辱的な命令にホイホイと従ってしまうことだろう。
 会わないあいだも、乳首やクリトリスを鍛えるように言われていた。
 ネットで購入したという吸引器を渡されており、それを使っている様子をきちんと動画に撮影して、提出するのが日課となっている。
 クリトリスは今、何ミリに至っているだろう。
 そうやって使い込んでいるせいで、乳首もクリトリスも肥大化が進んでいる。乳首も突起するまでもなく元が大きく、色も黒ずみを帯びており、かつてはもっと小さかったはずのクリトリスも、いつかは一センチほどになるのかもしれない。
 健太の好みでは、その方が良いらしいのだ。
 そして、健太好みになろうと励み、毎日の課題をこなし続ける自分がいるのは、我ながら呆れた話だ。
「この調子じゃ、抜け出せないね」
 自嘲気味に服を脱ぎ、唯華はベッドに腰を下ろした。
 高校を卒業して、寮生活ではなくなって以来、家から学校に通う唯華の、ここ最近の唯一の非日常である。一人で三脚台にカメラを立て、一人でその前に裸となり、一人で吸引器を使用する。
 唯華が握っている吸引器は、ハンドマッサージ器のように手で握って使用するタイプで、先端部には吸盤が付いている。冷蔵庫などに付けるそれに酷似したものを乳首に押し当て、スイッチを入れて吸い上げるのだ。
「んぅぅ……」
 これを毎日やっている。
 毎日、毎日、一日としてサボることなく続けている。
 自分でも何をやっているのかと思いながら、止まることができずにいる。久々に健太に会った時、健太は一体どんな言葉をかけ、どんな風に辱めてくるだろうかと、そんな想像ばかりをしてしまう。
 屈辱的な何かを期待して、疼いている自分がいる。
 それでオナニーまでしたことがあるほどに……。
 ここまでマゾヒズムが育っているのだ。
 せっかく、関係を解消するチャンスだというのに、それをしようとしていないのも、楽しんでしまっている自分がいるからだ。
 最初はちっとも楽しくなく、本当に屈辱しか感じていなかったのに、いつからこんなマゾヒストになってしまったのか。もう自分でもわからない。芸をやらされ蔑まれ、それを喜ぶ性癖が芽生えるなど、自分でもおめでたいことだとは思っているが、芽生えてしまったものは唯華自身にも消せないのだ。
 性癖や感性といったものを、文字の書き換えのように簡単に変更できたら、こんな課題などサボっているに決まっていた。
「サボる、か……」
 そうすれば、お仕置きをされるだろう。
 一体、どんなお仕置きになるか。
 そんな想像を連鎖的にしてしまうので、そんな自分に対して唯華は改めてため息をつく。
 本当に末期的だ。
 このままでは本当に、いつまでもいつまでも抜け出せない。
 本当に、いつまで?
 大学の卒業が迫り、就職活動が始まっても、唯華はなお奴隷なのだろうか。社会人となり、どこかで働き始めても、まだ唯華はずっと年下の少年に付き従うのか。いくらなんでも、向こう先の数年の未来までなどあってはならない。
 そして、そうとわかっていながら断ち切れない自分がいる。
 どうしたらいいだろう。
 どうすれば、健太との関係を断ち切って、育ってしまった性癖も捨て去り、全てを清算できるだろう。何をすれば、何もかもを帳消しにできるだろう。そんな風に悩んでいながら、クリトリスにまで吸引器を付け、その刺激を感じて楽しんでいる自分がいる。
 健太もいつかは唯華に飽きて、向こうの方から関係解消を求めてくるだろうか。それとも、飽きた時には連絡がなくなって、自然消滅にでもなるだろうか。
 どんな風に断ち切るかのイメージも、今のところ明確には湧いていない。
 ただ確かなのは、断ち切ろうとは悩みつつ、それでいてご主人様との関係にしがみつき、なおも辱めを求める自分がいるということだ。深く根付いた性癖のせいで、思い悩むポーズだけは心の中で取りつつも、解消の努力はしていない自分がいることだ。
 唯華はひとしきり吸引器の日課を行うと、三脚台のカメラを止めて一息つく。
 裸のままでベッドに横たわり、次に行うことといったら、ご主人様に屈辱的な命令をされる妄想で、オナニーをすることだった。

     *

 今日、久々に奴隷と会う。
 今でこそ奴隷と見做し、好きなように扱い楽しんでいるが、かつては仮にも憧れの念を抱いたことのある対象――志波姫唯華と数ヶ月ぶりに会うことになっている。
 まだ中学生に上がったばかりの、ついこの前までランドセルを背負っていた子供にとって、ただの一ヶ月が一年のように長く感じる。健太にとっての久しぶりとは、まさに数年来の再開を前にした感慨深さに近い。
 健太はウキウキとした気持ちで机に座り、ノートパソコンを立ち上げていた。
 ここには動画の数々が入っている。
 唯華が今まで毎日のようにこなした『課題』の、一日ずつのファイルがフォルダさえ開けば並んでいる。
 このどれも、健太はただの一度も確認をしていない。
 今日という日のため、楽しみは後に取っておくつもりで、あえて中身は見ていない。すると、唯華が課題をサボっていても、それを指摘できなくなる――その時はその時で、お仕置きの口実が出来るわけだが、ともあれ、そこで代わりにチェックを行う人間を用意していた。
「お前、帰っていいぞ」
 健太が言うと、ベッドから一人の影が立ち上がる。
 同級生の女の子だ。
 気の弱い子に目を付けて、押しに押すことでどうにかデートに誘い出し、無理にでも押し倒して動画を撮った相手であり、つまり脅迫で従えたペットである。親や友達に相談している気配もなく、従順であり続けているこのペットに、代わりに動画を受け取らせ、サボっていないかのチェックをやらせてあった。
 そして、このペットを介して健太が受け取り、今までの動画全てをノートパソコンの中に保存しているが、我ながらよくぞ耐えてきたものだと思っている。気になる動画が数を増やして、こんなにもサムネイルが並んでいるのに、健太はその一つも見ていないのだ。
「……じゃあ、帰るね。健太くん」
 ペットはショーツを穿き直し、着替えを済ませ始めている。
「ああ、今日も気持ち良かったぞ」
「……うん」
「また気が向いたら呼んでやるよ」
「…………うん」
 このペットは始終こうした具合である。
 何かを頼んだり命令すれば必ず頷き、逆らいたがる気配すら見せてこない。指示待ち人間がそのまま奴隷となり、健太の下についたようなものである。
「また、ね。健太くん」
 律儀に挨拶をしてから、ペットはとぼとぼとした足取りで部屋を出る。
 使用済みのコンドームなど、あるべき痕跡の残ったベッドのゴミをティッシュに包み、健太は蓋付きのゴミ箱に片付けた。
 初体験は中学校の入学前に済ませてある。
 いずれ唯華を抱きたいと思い、練習と思ってペットで童貞卒業を済ませておき、そのまさに数週間後に小学校も卒業した。それから、今の今までペットとは何度かの関係を繰り返し、その一方で唯華には乳首やクリトリスの吸引器を渡してある。
 一体、どんな風になっているだろう。
 大きくなった乳首、大きくなったクリトリスを好む健太にとって、唯華がどんな変化を遂げて現れるか、楽しみでならないのだ。
 インターフォンが鳴るのは、ペットが去って数十分が経ってのことだった。
 待っていましたとばかりに立ち上がり、健太は颯爽とモニターを確認する。そこに映る唯華を見るなり、健太はすぐさま玄関のドアを開いて招き入れ、久々に見る唯華の、まずは美麗な顔立ちを堪能した。
「お久しぶり、大きくなったものだね。健太くん」
 キャミソールを透かせたブラウスに、高そうなスカートという装いの唯華を見上げ、健太はごくりと生唾を飲む。
 改めて見ると圧倒される。
「そっちこそ、課題はきちんとやっていたそうじゃんか」
 すっかり従えきっていた時には、あまりそんな風には思わなかったが、こうも美麗で知的な顔をした唯華である。そのデキる女の風格を見ていると、バドミントンに限らずどんなスポーツでも部員をまとめ、慕われながらメンバーを率いて全国大会に挑む姿が簡単に想像できる。
 スーツで仕事をこなす姿、法廷で検事か弁護士となったり、国会で弁論を交わす姿。
 エリートらしいイメージさえ浮かべれば、どれもが簡単に当てはまる。
 本来、自分ごときでは決して勝てない、弱肉強食におけるウサギとライオンの関係でありながら、今までそれを従えてしまっていたのかと、今更になって過去に驚く。初めて唯華を脅した時のドキドキも蘇り、本当によくぞあんなことが出来たものだと、改めて自分に関心した。
 同じことをもう一度繰り返し、もう一度成功させろと言われても、そんな自信は湧いてこない。
「ま、上がってよ。一緒に今までの成果をチェックしたいからさ」
「そうですね。健太様」
 思い出したように敬語を使い、様付けで呼んでくる。
 やはり久々に会っているせいか、主従関係が薄れている。自分はご主人様の奴隷であり、格下のペットに過ぎない気持ちが時間と共に抜け落ちて、そのうち反抗してきそうな予感がひしひしとしてきていた。
(……何か企んでないだろうな)
 などと、思わず警戒してしまう。
 しかし、それは杞憂だったのか、部屋に着くなり脱衣を命じると、唯華はすぐさまブラウスのボタンを外し始める。特に抵抗感のある様子もなく、呆気なくボタンを外しきるが、キャミソールのおかげでまだブラジャーが隠れていた。
(ん?)
 ベッドに腰掛け、ストリップを眺めていると、健太はふと気がついていた。
(顔が、赤い?)
 僅かにだが、恥ずかしそうにしている気配がある。
 キャミソールを掴み、たくし上げることに抵抗のありそうな、微妙な頬の赤らみが浮かんでいるのは、一体どういうわけだろう。裸などとっくに見せ慣れて、そういった羞恥心は失っていたはずだと思うが、さては久々なので恥じらいが蘇っているのか。
 床に二着目が畳んで置かれ、唯華はブラジャーのみの上半身を曝け出す。
「やっぱ、年上だよな」
 刺繍に満ちた花柄のブラジャーを見ることで、健太は鼻の下を伸ばしていた。
 同級生の、同い年の肉体も悪くはないが、こうして唯華を見ていると、やはりこの魅力には勝てないと感じてしまう。
 先ほどまでの久しい緊張感は、こうして命令に従わせ、着々と脱がせてやっているおかげで順調に薄れていた。
 次にスカートのホックが外れると、それは唯華の足の周りにばっさりと、ドーナツ状のリングを成して落ちていた。
(お、顔が――)
 やはり、赤らみが強い。
 全裸など何度も見せているはずだが、久々なせいで恥ずかしさが蘇り、下着姿を晒すことにも少しは抵抗感があるらしい。もうずっと見ることのなかった表情に対しても、数年来の再開であるような感慨深さが湧いてくる。
 決して大袈裟な恥ずかしさではないだろう。
 いくら久々であっても、慣れが全て丸ごと消えるはずもなく、羞恥心は多少蘇っている程度のものに過ぎないはず。
 とはいえ、下着でも恥じらいが湧いている様子なら、その下を見せる時には、さらにもう少しだけ顔が赤くなりそうだ。
 唯華は背中に両手を回す。
 カップの部分が僅かに緩んだことで、ホックが外れたことを察するが、唯華のブラジャーを脱ぐ動作は、実にたどたどしいものだった。再開前の、健太の中に残った最後のストリップの記憶では、もっと気にせず、あっさりと脱いでいるはずだった。
 乳房を見せたくないようにして、片腕でカップの部分を押さえつつ、肩紐を一本ずつ、そっと下ろしていっている。その躊躇いながら脱ぐ様子は、まだ裸を見せ慣れていない頃なら説明のつくものだが、いくら久しぶりだからといって、さすがに今更なような気もしてくる。
(いいや、いいけどね)
 何をそう恥じらうのか。
 わからないといえばわからないが、羞恥心の現れた様子を見るのは面白い。
 ただ、一度は慣れきったにしては大袈裟だろうと、だんだんと疑問が湧いてはいるのが、健太の今の感覚だった。
 そして、次の瞬間には理解した。
 考えてもみれば、もっと早い段階から想像できても良さそうな心理であったが、その簡単なことに意外と気づかないのが人間だ。それを目の当たりにした瞬間から、そういえばそうだったことに初めて気づき、それから健太は納得していた。
 ブラジャーが床に放られた時、その乳房の先にあるのは黒色化した乳首であった。
 乳輪にかけてまで、すっかり黒ずみの及んだ乳首は、かつてに比べて肥大化しており、乳輪の部分さえ微妙な膨らみを帯びている。以前はピンク色だった時期もあった中、これは随分と変貌していた。
 再会前から、いくらかは黒かったが、やはり見違えていた。
「なるほどねぇ?」
 自分好みに仕上がった乳首を見ることで、健太はニヤニヤと納得ながらに頷いていた。
 つまり、だから抵抗感があったのだ。
 変わってしまった中身を晒すことの恥ずかしさで、ブラジャーを外す手つきがたどたどしく、いかにも躊躇いに満ちていたのだ。
 ではショーツの中身はどうか。
 唯華はショーツの内側に指を入れ、するすると下ろし始める。その動作もやはり、変わった中身を晒すことへの抵抗感が滲み出て、今までに比べてたどたどしい。
 真っ黒な茂みが現れていた。
 その一本一本が色濃く太いであろう陰毛の、ふっさりと生え揃った部分は、前に拝んだ時よりも、いくらか領域を広げている。
 それらの恥部を晒していることで、唯華はどことなく、居心地でも悪いかのような、気まずそうな顔で頬を朱色に染め上げている。
「いいじゃん」
 健太は歓喜していた。
 ここまで自分好みに乳首を変貌させ、陰毛も濃くしてきた唯華の裸に、健太は早速のように興奮して、ズボンの中身を膨らませる。先ほどまでペットを抱き、いくつかのコンドームを消費していることなど関係無く、股間はみるみるうちに元気になって、今にも挿入したい欲望に駆られていた。
 だが、まだだ。
 せっかく、志波姫唯華の肉体を頂くのなら、もっと相応しいシチュエーションがあるはずだと、健太は密かに企んでいた。



 
 
 

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