第7話 ナーファの眼差しから

 ナーファはクロエの乱れる様を見る。
「んぁ! あっ、あん! あん! ああん!」
(随分とまあ)
「あっ! あっ! あっ! あっ!」
(感度の良いこと)
 二本目のペニスに向かって尻を押しつけ、クロエ自身が動くことでの擬似的なバック挿入で、クロエはひどく乱れていた。一心不乱に体が動き、前髪も激しく振り乱し、見ればヨダレまで垂れている。
 なんとみっともない顔か。
 感じて喘ぐ表情も、随分とまあ滑稽なものである。
「んぁ! あっあん! あん! ああん!」
 別に笑いはしない。
 蔑みもしない。
 ただ、ナーファはこう思うだけだった。
(今の自分の顔を知ったら…………)
 こんなものを大勢の人間に晒していることがわかったら、かなりのショックに違いない。そして、ナーファのことを陥れ、今度はクロエにも手をつけているスポンサーの男なら、きっとそういう追い詰め方をするに違いない。
 ナーファの脳裏を掠めるのは、犯され尽くし、精液にまみれた仲間二人の、心の壊れた死んだ眼差しだった。
 殺されたわけではない。
 目立った外傷もなく、二人が受けた仕打ちはあくまで強姦、その行為こそが魂を打ち砕き、仲間二人を生きながらの死人に変えてしまった。
 記憶の処理が施され、二人の中から出来事自体が取り除かれている。だから今でこそ元気にしているものの、男が二人に施した処理は封印である。
 消去でなく、封印。
 思い出すことが出来ないように、記憶にロックがかかっているだけで、それを解除した途端、二人はたちまちトラウマを思い出す。おそらくはフラッシュバックに飲み込まれ、再び生きたままの死人になるだろう。
 そうされたくなければ、言うことを聞け……。
「んぁ! あん! あん! あぁん!」
 こうして目の前で前後して、その動きに合わせて乳房を揺らしている。このクロエという少女も、ナーファと似たような境遇に違いない。
 人質がいるのかはわからないが、好きでこうしているわけではない、それだけはよくわかる。
「んっ、あぁぁ……!」
「おっと? イっちゃう? イっちゃう?」
 表向きには仕事をこなし、言葉ではクロエを煽る。
 だが、ナーファが本当に抱く感情は、もっと同情や仲間意識に近いものなのである。
(クロエさん。耐えて下さいな)
 切実な祈りを抱く。
 かつてのナーファの仲間二人のようにして、今度はクロエが生きた死人にならないか。その心配をかなり具体的にしている彼女なので、どうにか耐え抜き、自分を保ちきって欲しい思いは、表にこそ出さないが強烈なものだった。
(必ず、きっとチャンスはありますから…………)
 しかし、心の中で思うこととは裏腹に、あの男の目が光っている手前、ナーファが実況を続けていた。
「おっぱいぷるんぷるん! 可愛い林檎がいっぱい、いっぱい揺れちゃってて、もう本当に可愛いじゃない!」
 てへっ、と。
 柄にもない笑い方を視聴者にはして見せる。
(本当にこんな……無理までさせられて…………)
 このキャラクターはスポンサーの男の指示で作っている。素とはかけ離れた声音と性格は、良く言えば実生活の自分と配信中の自分を切り離せる。ここにこうして立っているのは、実生活のナーファとは別人であり、学校へ通ったり、アイドルギルドで仲間と過ごす自分こそが本来だと切り分けやすい。
 なのでこのキャラ作りについて、一概に悪く思っているわけではないのだが、存外無理をして作っているので疲れるのだ。
 キャラ作りも良し悪しである。

「んっくぅぅぅぅぅ――――――――――――」

 盛大にイっていた。
 大きな猫背になることで、反りの良いアーチを成しながら、クロエは絶頂を果たしていた。丸く力んだ背中から、しばらくすれば急に力が抜け出ていき、そして思い出したような深い呼吸が始まっていた。
「はぁ……ふはぁ……ふぁは……はぁ……………………」
 今の今まで、ずっと息を堪えていたような、久々に呼吸が出来たような深さである。肩が大きく上下して、まばたきを忘れたまぶたは、驚愕に見開きでもしたように開放されきっていた。
「さーてさてさて? 二度もイっちゃったクロエちゃん? 今回の正解はどれかなどれかな?」
「し、知らんっての……ぶっちゃけ、当てずっぽうで……Cかなと……」
 クロエの記憶を読み取ったり、本人の肉体から情報を読み取ることで、その人の持つ実物通りのペニスを作り出しているとは聞いている。
 だが、過去に触れたペニスの形状や大きさなど、いちいち細かく覚えているとは限らない。
 というより、忘れたいのが普通である。
「正解!」
 本当に当てずっぽうか、それとも少しは記憶があってのことか、どちらにせよ無事に二本目を突破した。
 だが、あと四本も残っている。
 その事実一つで、クロエを辟易させるには十分だろう。もう嫌だ、こんなことはやりたくないと、泣きながら逃げ出す瞬間があったとしても責められない。
 クロエは続けた。
 三本目のペニスも膣に咥え、壁に向かってお尻を前後に動かしている。今までよりも小さなペニスだったので、答えは簡単だったのか。子供の写真にかかったアルファベットをクロエは唱えていた。
 四本目でも今までと同じく狂い、高らかな声で喘ぎ散らした。それを見た視聴者のコメントといったらない。
『wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
(なんですかこれは)
『草』
『マジ草』
(草がどうしたんですか)
『顔おもろ』
(好きでおもろい顔してるわけじゃないんですよ?)
『ヨダレと一緒に鼻水出しそう』
(出したら笑うんですかね? ま、笑うんでしょうね。この視聴者さん達は)
 ナーファはチャンネル視聴者を低く見ていた。こんな配信チャンネルを見ているのは、しょうもない男達ばかりに違いない。下らない男達のために体を晒し、心を削っていくことの、なんと馬鹿馬鹿しいことだろう。
「――――――――――っ!」
 クロエはまた絶頂する。
 この時のビクっと体が震えるタイミングは、壁とお尻の隙間が広い瞬間で、潮吹きの滴が散っていた。壁に直接噴きかかり、木製の板が細かな水気を吸い込んでいた。
 だが、ナーファはそれに触れない。
(まあ、いいか)
 潮吹きの事実をあえて見逃し、ただイったことだけをナーファは茶化した。本当は茶化したくない、自分だってこういう扱いを受けたことがある。思うところでいっぱいである彼女は、本当にただただ仕事として、表面だけの言葉でイキっぷりをネタにしていた。
「次はどんな風にイっちゃうのかな? かなぁ?」
 もっとも、クロエとは昨日今日会ったばかりの、お互いの腹の内を何も知らない間柄だ。ナーファがどういうつもりでこなしていようと、それがクロエにはわからないことだろう。
 スポンサーの男と一緒くたにされ、恨まれていたとしても、きっと不思議なことではない。
 こうして一本、また一本と捌いていき、クロエは今のところ正解を重ねている。この分なら最後までクリア出来そうだが、五本目のペニスを収めた時だ。

「ぬあっがぁっ、なっ、あぁ………………!」

 今までとは反応が違っていた。
 衝撃に目を見開き、何が起こっているかがわからないような困惑混じりに、瞳を戦慄に震わせながら、クロエは恐る恐る前後していた。
 明らかに慎重だった。
 そうしなければ、どれほど強烈な刺激が走るかがわからないようにして、本当に気をつけながら、そーっと尻を壁に近づけ、そして触れれば離していく。
「ふっ、くぅ……んぅ……んぅぅ………………!」
 それだけゆっくり動いていても、堪えきれないような声が聞こえて来る。
(これは…………)
 一体どれほど快楽魔法を強くかけてあるのだろう。
 強烈な快楽のあまり、もはや苦しそうにしか見えなかった。あまりにも気持ち良すぎれば、気が狂いそうになるのかもしれなかった。
 そして、どうやら五本目はスポンサーの肉棒だった。
 クロエは最後の最後まで動きを控え目に、今までで一番早く切り上げながら答えを呟いていた。
 では残る六本目は誰のものか。
 クロエはとても複雑そうな顔をしていた。その答えの人物がクロエにとってどういう人か。ナーファには預かり知れないが、もしも身内の顔が答えになっているのなら、心には何か痛烈なものは走るのは仕方がない。
 快楽魔法が強くかかっている様子はなしに、しかし動けば動くほど、クロエは苦しげな顔をしていた。痛いわけでも、感じすぎるわけでもないのに浮かぶ苦悩と共に、六本目の答えであるアルファベットがぼっそりと呟かれた。
「……ん、J」
 正解だった。
(クロエさん…………)
 とにかく、これで彼女は六本分を全て終え、しかも全問正解である。配信は切り上げて、今日のところはもう解放してやってもいいのではないか。
 そんな風に考えていたナーファの前に、スポンサーの男は現れた。スポンサーなのに堂々と配信の中に映り込み、ニヤニヤしながらクロエに向かって言うのであった。

「おめでとう! 今からご褒美を上げよう!」

 そう言うが否やベルトを外し、ズボンを落とす。
 一体、何をご褒美にしようとしているのかは、誰の目にも明らかなのだった。