第10話 まさかの決勝

 試合は順調に勝ち進んだ。
 審判によるボディチェックは毎試合のように行われ、開始直前には必ず尻なりアソコなりを触られる。
 ご丁寧なことに、女同士の戦いであれば、両選手のどちらに対しても、クリトリスや乳首の突起を隠し持った暗器と言い出すような、無理のある言いがかりをつけてくる。
 それは乳首です。
 クリトリスです。
 硬くなっている事実を自らの口で白状させるのは、よほど面白いパフォーマンスになるらしい。
 ナーファも同じ目に遭っているのは言うまでもなく、しかし二人は勝ち進んだ。
 勝つたび勝つたび、相手に対する命令権を獲得するが、クロエのナーファのどちらとも、ただ優越感に浸るだけの賞品には興味がない。
 欲しいのは、もう二度と下らない配信とはかからなくて済む解放だけだ。

「……で、こん時が来たわけだ」

 クロエはリングの上、金網を背に対峙する。
 その相手は――ナーファ。

「ええ、ちょうどぴったり、決勝で当たりましたねぇ」

 他校のナーファが自分と同じ制服を着ていることに、妙な感覚を覚えながらも、それよりもクロエはこれから始まる試合のことを考える。
 審判がニヤニヤしているあたり、やはり決勝でもボディチェックという名のただのセクハラはあるのだろう。
 そして、試合が始まった時、ナーファは目にも留まらぬ速さで攻撃を仕掛けてくるはずだ。素早く距離を詰め、少しでも油断した者の喉を簡単に掻ききってしまう。
 クロエは手汗の滲んだ右手で剣を握り締め、頭の中でシミュレーションを展開する。相手が真正面から来たのなら、自分は一体どうしよう。ああ来たら、こう動こう。だがそう来たなら、その時の動きはこうしよう。そんなイメージを広げている最中、クロエの思考はふとした拍子に停止されることとなる。

『ここでサプラァァアアアアアイズ!』

 実況が雄叫びをあげた。
「え? なんなん?」
 クロエは眉をハの字にした。

『この決勝戦、クロエ選手とナーファ選手による一騎討ちの予定でありましたが、なんと急遽予定変更! サプライズゲストとして、第三の選手が登場します!』

 まったくもって、予想できない展開だった。
 このまま順当にナーファと戦い、勝った方が負けた相手のチャンネルを停止する。ならば負けたいのはお互い様だが、どちらか一方しか敗者にはなれないので、そこは恨みっこ無しというつもりでクロエはいた。
 だが、ナーファではない、第三の対戦相手が来るという。
 その時だった。
 クロエは驚愕に目を丸めた。

 一人の男が降って来た。

 文字通り真上から、金網が被さっているはずなのに、一体どうやって現れたのかと思ってみれば、見上げた先では風穴が空いていた。一人の人間が丸ごと貫通して、内側にひしゃげた穴が無惨にも広がって、その男はクロエとナーファ、二人のあいだに立っているのであった。

 スポンサーの男であった。

 何の冗談だろうか。
「出資者じゃないんすか。あんた」
 スポンサー自ら動画に出るような行動は、もちろん当初から気になっていたのだが、とうとう闘技大会の試合にまで乱入してきたわけだ。
「スポンサーなら闘技大会に出ないと、君達はいつから錯覚していたのだね」
 男はスーツを脱ぎ捨てていた。
 マントを派手に舞い上げるようにして、大胆なまでに放り上げ、ワイシャツさえも捨てた男は、想像以上に筋骨が逞しかった。肩が、二の腕が、腹筋が、あらゆる部位が鍛え込まれた凹凸に満ち溢れ、胸板が立派な厚みで膨らんでいた。
 その時――。
(ちょっ!?)
 クロエはさらに驚く。

 ナーファが既に動いていた。

 目にも留まらぬ速さで飛びかかる疾風の挙動は、まるで素早い影が迫ったようだ。即座に背後を取ってのける疾足で、ナーファは男のうなじを狙い、短剣の切っ先を閃かせる。
「無駄だ」
 だが、男はその手を蹴り上げていた。柄を握るための拳が強打され、抜け出た短剣が宙を舞い、落ちる刃がリング上と突き刺さる。
 ありえない――と、クロエは最初の瞬間までそう感じた。
 後ろから攻撃を仕掛けたのに、どうして足が拳を蹴り上げるのか。その答えは当然のこと、背面に対する上段蹴りだ。男は勢いよく上半身を寝かせ、前屈と変わらない体勢となっていた。頭をリングに近づけてしまうことにより、背後の上段を狙える体勢を取り、うなじ狙いであった短剣の、その柄の部分をピンポイントに打ったのだ。
 結果、ナーファは武器を失った。
 拾えばいいのだが、拾う暇を与える対戦相手が一体どこの世界にいるだろうか。
 全身に緊張が迸る。
 この男は強い――確かに、間違いなく強敵だが――。

「予定変更じゃね?」

 クロエは自身の剣を握って立ち向かう。
 強敵相手の答えはこうだ。
 ナーファと共にこいつを倒し、勝者となって共にこいつに言うことを聞かせる。

     *

 クロエは切れのある太刀筋で攻め込んだ。
 だが、男はそれをひらひらと、まるで紙切れが風で舞い踊るようにかわしている。胸や頭の高さを狙った横一線なら、背中を大胆に深く反らし、突きを放てば腰がくの字に折れている。
 とにかく、当たらない。
 男はクロエの攻撃を全て見切って、まるで当然のように避けきっている。こうも当たらないのでは、もはや未来を読まれているも同然ではないか。
「うちをお忘れなく?」
 しかし、そこにナーファが加わる。
 それも彼女が迫るのは、クロエが斜めに切り上げて、それを男が跳躍で交わした瞬間だ。バックステップでクロエの剣から体が遠ざかり、その一瞬だけ浮く足が地面に触れる時、続けて彼にはナーファの短剣が迫っていく。
 これだけクロエが攻めたのだから、武器を回収する暇くらい、当然稼げたことだろう。
 しかし、男はナーファの手首を掴んでいた。その握力が鋭い突きを停止させ、肌に触れるはずだった切っ先は、あと数ミリのところでそれ以上前へと進めない。
 ならばクロエは、その片手が塞がった瞬間に隙を見出し飛びかかるが――。

 クロエとナーファ、次の瞬間には二人同時に倒れていた。

 投げつけてきたのだ。
 掴んだ手首を振り回し、人間一人をそのまま投げて寄越してくるという力技で、男はクロエの接近を阻んできた。仲間を斬るわけにはいかず、クロエは剣を慌てて引っ込め、そしてナーファの体を全身で受け止めながら倒れ込む。
 ナーファを体に乗せた状態で、クロエは仰向けとなっていた。
「…………つよ」
 二人がかりでこれだ。
 こんな強敵を一体どうやって倒せばいいのだろう。
「ですが、負けようものなら…………」
「だろーね」
 男が勝者となり、クロエとナーファの二人が同時に敗者となれば、自分達ではとても思いつかない辱めのアイディアを捻り出し、身も心も陵辱してくることだろう。
「同時にいきましょう?」
「ま、異論無し。ってか、秒で決めるわ」
 二人は立ち上がった。
 あえて追撃をしてこない、余裕の姿勢を見せる男は、クロエ達の次の攻撃をわざわざ待ち構えているのだった。
(お望み通り……)
 クロエは、ナーファは、地面を蹴って、猛烈な勢いで距離を詰めきる。まばたきほどの一瞬で、クロエの剣が、ナーファの短剣が、それぞれ届くまでに迫っていたが、男はそれら攻撃を難なく捌いた。
 素手だった。
 チョップを、パンチを、次々と放っていくことで、男は刀身の側面を打っていた。鋭い刃の部分には決して触れず、側面狙いの打撃で打ち飛ばし、軌道を大きく逸らしている。
 何度斬っても、突きを放っても、二人がかりの手数にもかわらず当たらない。
 それどころか、反撃が来た。
 次に剣を振り下ろそうと思った時、それよりも速く相手の拳が迫っていた。鋭いパンチはしかし、辛うじて腕のリーチが届かない、ギリギリの距離にクロエはいたため、そのダメージを受けずに済むのだが――。
「なっ!」
 着衣が弾け飛んだ。
「魔法拳法」
 拳を直接当てるまでもなく、魔力を利用して衣服の破壊を行ったのだ。内側のブラジャーもろとも四散して、無数の布切れや細切れの繊維がぱらぱらと降り注ぎ、クロエの乳房は剥き出しとなっていた。

 うおおおおおおお!

 その露出に、会場は盛り上がる。
 実況も盛り上がる。
 そう、ここは…………。

 彼が獲物を辱める陵辱ショーのステージなのだ。

     *

 クロエは肩で息をしていた。
 ナーファも動揺だった。
「っぱないわ……」
「ですわね……」
 やはり攻撃は一度も当たらず、逆に向こうの反撃は、拳が掠めただけでも衣服が弾ける。二人の着ていた制服は、戦いが続けば続くだけ、しだいしだいに布切れへと変化していき、今やお互い全裸である。
 しかも男は息切れ一つしていない。
 こちらはスタミナが目減りしているのに、あちらにはここまで余裕がある以上、このままでは勝ち目はない。何か妙案はないものかと、クロエは頭を回転させてみるのだが……。
(なんも思いつかんわ)
 しかも、今度は男の方から迫ってくる。
 考える時間を与えられない。
 男の攻撃が炸裂すると、二人がかりで防戦一方と化していた。まともに考えれば二人で行う二人分の攻撃や防御の方が、明らかに手数で上回るだろうに、男の目にも留まらぬラッシュは、凄まじい拳速は、二人に防御や回避しか許さなかった。
 そればかりか――。

      *

「んぅ! んっあ! あん! あん! あぁん!」

 クロエは天井を見つめながら、ナーファの喘ぎ声を耳にしていた。感度の低いナーファのはずだが、そういえば男には、とてつもない快楽魔法があるのだったか。
『来ました! この闘技大会、名物中の名物!』
 これではただの陵辱ショーだ。
 疲れや痛みを堪えて身を起こせば、クロエの視線の先では正常位によるセックスが始まっていた。二人の武器はとっくの昔にリング外へ転がって、剣があっても苦戦していたところ、素手で戦い続ける羽目になってのこの結果だ。
『なお! 今大会の特別タッグルールでは、片方が犯されたりダウンしていても、もう片方がテンカウント以内に立ち上がれば、敗北の判定とはなりません! どちらか一方が立っている限り、必ずチャンスは巡り続けます』
(うちがああなっても、ナーファがいりゃええってわけ)
 そう思うと頼もしい。
 クロエは一心不乱に腰を振る男に向かって突進した。まるでうつ伏せに倒れようとするような、這おうとせんばかりの低まった姿勢の角度で肩をぶつけて、その衝撃で男を打ち飛ばす。
 膣に嵌まっていた肉棒が抜け、男は地面に転がった。
(初めてまともに当ててやったわ)
 だが、ふとナーファを見下ろせば、そのアソコからは白濁が零れ出ていた。
「どうだ? 出してやったぞ?」
 なるほど、タックルが決まる直前に、男は射精を間に合わせていたらしい。避けるでも防御でも反撃でもなく、ナーファへの膣内射精を男は優先したのだ。
(それって…………)
 この男、馬鹿だ。

     *

 試合展開はこうだった。
 男は基本的に二人に武器を拾う時間を与えない。どうにか拾うことが出来ても、刃の側面や柄を握った拳狙いの方法で、軌道を殴り変えられる。
 やがては手から武器が抜け、せっかく装備を回収しても、また既に逆戻りだ。
 そして、男は二人に向かって積極的に迫っていき、主に押し倒すことを狙ってくる。

「んぁっあん!」

 今度はクロエが挿入された。
 うつ伏せに倒されての後ろから、素早く剛直をねじ込まれる。
「あっ、あん! あん! あん! あぁん!」
 快楽魔法のせいで刺激は強い。
 もちろん、セックスに夢中になっていれば、自由に動ける相方がその隙に武器を拾うか、それよりも攻撃を優先するかの選択を行って、武器か素手かで迫っていく。
 だから挿入が行われても、必ず途中で肉棒は抜け出ていくのだが、果たして真に中断させたと言えるのか。男は毎回のように射精を間に合わせ、二人の膣内を順調に穢していく。
 ナーファが騎乗位で犯された。
 両手首を掴み、握力によって腕を封じながらに下から突き上げていた。
 クロエが正常位で犯された。
 順当の真正面から押し倒され、その上での挿入を防ぎきることができなかった。
 この数十分、クロエの膣も、ナーファの膣も、一体どれほどの精液を受け止めてしまったか。快楽魔法のおかげで愛液を引き出され、股がぐっしょりと濡れるばかりか、散々に出されたものが膣壁の狭間を伝って流れ出ている。
 二人の内股を汚すのは、愛液と精液、二種の体液なのだった。
(あー……。避妊については……ま、この野郎をぶっ飛ばしてから悩むってことで)
 クロエは今なお、闘志を失ってはいなかった。
 何故だろう。
 どうして、こんなに犯されながらでも、ここまで戦い続けることが出来るのだろうか。
(あ、そっか。そうね。うちもまあ、バカだわ)
 ユニやチエルの顔が目に浮かんだ。
 いくらユニは睡眠魔法で意識がなく、チエルには忘却の魔法で出来事を無かったことにしているとはいえ、この男はクロエどころか仲間にまで手を出した。
(そりゃ許せんっての)
 だから何度も、何度でも、クロエは立ち向かう。
 そのうち、男の射精にはブレが生じた。
 必ず膣内に出そうとしてきたのに、微妙に中出しが間に合わず、しかし射精自体はして、体にかかるということが増えてくる。
 もう少し、あと少し――。
 スタミナは相手の方が遥かに多い。体力勝負で勝てる道理など、ほとんどないかもしれないが……。

     *

 クロエは知らない。
 ナーファもまた、クロエが抱いた思いとまったく同じものを胸にしていたことに――。
 一方はなかよし部、一方はアイドルギルド。
 しかも、ナーファの場合は、記憶封印によって誤魔化されているものの、仲間の心を完全に壊されている。
 だが、それでも二人の思いは一致していた。
 仲間をあんな目に遭わせたこんな男は、絶対に許すことができないと――。

 …………
 ……

『奇跡です! なんという奇跡でしょう!』

 実況の声が遠く聞こえる。
「あー……さすがに疲れ過ぎたわ…………」
 だがどうやら、粘り勝つことが出来たらしい。
 この勝利は、正確にはスタミナ勝ちではない。疲れの溜まるペースはクロエやナーファの方が遥かに速く、体力でも勝ち目はなかった。
 だが、相手の目的は辱めだ。
 陵辱ショーを盛り上げて、観客を沸かせつつ、自分も快楽を楽しむことこそ、男の生き甲斐か何かだったのだろう。相方が自由に動ける状況で、それでも一方を押し倒して犯すなど、戦略的にはどれだけ馬鹿げていることか。
 男はそれにこだわった。
 どれほど馬鹿げていようとも、それこそが己の美学であるように、徹底的に膣を狙った。そして一度入れれば必ず射精して、そんな陵辱を何度も何度も、二人相手に執拗に繰り返せば、精巣の中身が尽きるのも無理はない。
 さしもの男の体からも、ごっそりと体力は抜けていた。
 それ以上に疲れていたクロエが、それでも剣を振り回し、側面でこめかみを打ってやれたのは、ただただ気合いで粘ってのこととしか言いようがない。

『勝利した二人には、彼に対する命令権が与えられます!』

 手にしたかった目的なのに、それもまた随分遠く聞こえる。
「なんか眠いわ……ここで死ぬんか……」
 命尽きるまで戦ってしまったのかと、あまりにも疲れていたクロエは、本気でそんなことを考えてしまっていた。