第6話 ペニス当てゲーム

「ところで!」
 痴漢リポートタイムの終了後。
「まさかクロエちゃんへの罰ゲームがこれだけなんて、思っちゃったりしてませんよね?」
 と、ナーファは言う。
(そっすね。ありますね。他にも)
 事前に予定を聞かされているクロエなので、いよいよその時間が来たのかと、小さく密かなため息をついていた。

「名付けて! チンポ当てゲーム!」

 こんなふざけたゲームがあるだろうか。
 なるほど、確かにこれなら罰ゲームとしか言いようがない。
 クロエのために用意されたその企画は、壁から何本ものペニスを生やし、それを当てさせるものである。
 生えている肉棒の一本一本は、まるで人間から切り取ったかのような、生きたような生々しさで隆起している。実は壁の向こうに男を並べ、穴に突っ込ませているのだと言われても納得できてしまいそうだ。
 だが用意されているこの壁は、ただの木の板である。倒れないようにL字状に木材を打ち込んでいる。自立するよう作られた壁の裏側には何もない。
 ただただ、壁に作り物の肉棒をくっつけて、魔法で落ちないようになっているのだ。
 このリアルなペニスには覚えがある。射精機能まで付与された肉棒は、刺激を与えることでピクピクと脈打って、本当に生きたような反応を示すのだ。
 これらペニスの一本一本には、元となったモデルがいるらしい。このペニスは誰のもので、こっちはこういう名前の人のもので、という具合に言い当てて、全問正解を目指すらしい。
 さて、そんなこれらのペニスだが、一体どうやって作られたのか。血と肉の通った生々しさは、もちろん魔法で作られているためなのだが、では形や大きさはどうやって決めたのか。
 壁から生えた一本一本、全てがクロエの記憶を読み取り作ったものらしい。かつてクロエが相手にしたケンやその父親、働かされた酒場の客、知っている限りの肉棒と、その持ち主である人物の顔をスポンサーの男は読み取った。
 壁には六本ほど生えているが、この中にはユウキのものもあるらしい。
 彼とは一度も経験がないにも関わらず、どこからどうやって記憶を読み取ったか。クロエの頭の中から出て来た人物を特定して、その張本人に接近することで、肉体情報を直接読み取り、生々しい作り物のペニスに反映したというのである。
 ルールは簡単。
 クロエはこれから、壁に向かって尻を押しつけ、自分から動く形でのバック挿入を披露する。目で見て観察しても構わないが、必ず膣口を使って太さや感触を調べ、その上で回答することが義務付けられている。
「というわけで、右から順番にいっちゃいましょう!」
 と、ナーファが元気に開始を告げるので、クロエは気怠そうに壁へ近づき、そして自らの尻を向けるのだった。
(はぁ……やりたくないわぁ……)
 擬似的なものとはいえ、視聴者にセックスを見せびらかすわけである。特定の人物を再現したペニスというだけでも、結構な抵抗感があるというのに、それを動画で配信され、どれほど大勢いるとも知れない視聴者の目に触れさせる。こんな最悪な地獄があるだろうか。
 この配信現場の周囲では、痴漢グループの女子がスタッフとなり、映写魔法の機材を抱えている。クロエのゲーム開始に合わせ、結合部にレンズを向けるポジションに、一人の女子が膝を突いていた。
 そして、クロエはバックの体勢となり、床を見つめながらにだんだん後ろへ、ワレメに当たる亀頭を体内に受け入れる。お尻を壁に近づけていくほどに、肉棒の太さが膣壁を割り開き、やがて根元までが収まっていた。

「………………っ!」

 クロエはすぐに悶絶した。
(は? な、なん? これ)
 わけがわからなかった。
 壁にお尻が触れた途端、理解できない大きな快感が迸り、足腰がぶるっと震えたのだ。この一瞬で頭が真っ白に、もしやただ収めただけで自分は絶頂するのかと思ってしまった。
(やっ、やば……えっ、ちょっ……!)
 さすがにイキはしていない。
 だが、頭や背中に痺れの余韻が走るほど、今のは強烈な快感なのだった。
(まさか、快感の魔法とかかかってんじゃ――)
 それだけではない。
「おや? クロエちゃん? まだ挿入したばかりなのに、さっそく動きが止まっちゃいましたねー? めちゃくちゃ感じちゃってる感じですか? 実は結構ビッチで濡れやすい体質ですか? もしそうならアタシとは大違いですねー?」
(いやディスんなし)
「動けなさそうですか? 動いた瞬間にイっちゃいますか」
「いくらなんでも、そりゃないから」
「そう? そうなの? 大丈夫? 大丈夫そうなら早いところ動いてみせましょう!」
「……へいへい」
 心底、嫌だ。
 セックスを見せびらかすことの抵抗感に、引き締めた唇を歪めながらに、クロエは前後運動を開始する。

「んぅぅ……!」

 やはり、気持ちいい。
 迸る刺激が強烈で、クロエは少し動いただけで休憩を求めていた。腰の動きを一時的に停止していた。
「あれあれ? また動きが止まりました!」
「あー……。ほら、まだ準備が? ね」
「そうでしょうか? すっごいクチュって音が聞こえたし、覗けて見えた竿の部分がめちゃくちゃ愛液で濡れてましたよ? もうクロエちゃんってば、すっごーくびしょびしょで、床に雨を降らせる勢いじゃないですか!」
「盛んなし、盛りすぎだし」
「ほらほら、止まっていたらゲームになりませんよ? どんなにびしょびしょで、ぐしょぐしょで、動けば動くだけイっちゃうとしても、動かなければルール違反! きちんとやらなきゃ、めっ、なんだからね?」
「はいはいはいはい」
 クロエは苛立ちながら前後運動を開始する。
「んっあっ、あぁぁ――あっ、あぁ――あぁぁ――――――」
 どうしても声が出た。
「おおっと! なんとエロい!」
 実況されてしまうとはわかっていても、巨大な快感に嫌でも唇をこじ開けられた。
「んあっ、あん! あん! あん! あん!」
 喘ぎ声を吐き散らし、前後運動に伴い乳房を揺らす。
「んぁっ! あっやっ、んぁっあぁ――――!」
「すっごくきもちよさそーう!」
 もう実況を気にしている余裕がない。
 嵐に翻弄されるようにして、クロエの頭は、心は、激しい快楽の波に飲み込まれる。

「あっんぅぅぅ――――――――――――――」

 絶頂するまで、そう時間はかからなかった。
 急に頭が真っ白に、眼球の奥で火花がチカチカ輝くような、視界の点滅している感じがあった。
(い、イったわ……これ………………)
 自分の絶頂を実感する。
 さすがにイった後まで文句は言われないだろうと、クロエは体を前へやる。膣に収まっていたものが外に抜け出る際、亀頭と縦筋のあいだに糸が伸び、アーチの下垂となっているのが感覚でなんとなくわかるのだった。
(これを……あと五回とか…………)
 別の意味でも地獄ではないかと思いながらに、クロエは答えを口ずさむ。

「……っと、A」

 すると、沈黙。
 正解なのか、不正解なのかを焦らすため、延々と続きそうな静寂がしばらく続く。そのあまりの静けさに耳鳴りがして、ようやく次にナーファが声を出す時、しかしなおも焦らすのだった。
「正解は……………………」
 沈黙がまた続いた。
 この溜めに溜めてばかりいる時間は、一体いつまで続くのか。
「……………………」
 沈黙するクロエ。
「……………………」
 ナーファもまた沈黙を続けている。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 静寂だけで、果たして何秒経ったのか。
 この場が静かなことに対して、コメント欄の方は随分うるさい。何が面白くてか次々と、打ち込まれた言葉が津波の勢いで押し寄せていた。
『ざわ……ざわ……』
『はよしてくれ、こっちまで緊張してきた』
『焦らさないでくれぇぇぇ!』
 量のあまり流れが速く、あまり上手くは追い切れないが、何となく目に留まり、何となく記憶に引っかかったのがそのあたりであった。
 やがて、ナーファは息を吸い上げる。
 正解なのか、不正解なのか、二つに一つの答えを叫ぶため、いかにもわざとらしく、吸い上げる音を立てていた。

「――――――――正っ解!」

 長かった。
 本当に、ここまで長かった。
(んで、これって毎回全部やんの?)
 ひとまず一本目は正解とわかって安心するが、それを思うと今のうちからげんなりとした気持ちになる。
 このペニス当てゲームでは、六本のペニスに対して十人分の顔写真が用意されている。どれもモザイクや目線が入っており、個人の名前は出さずにAさんBさん、正解を重ねれば重ねるだけ、二本目や三本目のペニスで答えは絞り込まれていく。
 AからJまで、ペニスの本数以上に写真があるのは、最後の一本が消去法で自動的に正解にならないためだ。
 顔写真は必ずクロエの知っている人物になっている。
 一本目の正解であったAはケンの父親で、Bの顔写真はバイト先の道具屋の店主、Cは酒場で相手をさせられたチンピラで、さらにはユウキが、スポンサーの男が混ざっているなど、最低でも一度は見た顔だけが並んでいる。
(はあ、あいつのに当たるかもしれないとか……)
 クロエはため息ながらに二本目のペニスへ移り、壁に尻を押しつけるのだった。