第2話 屈辱の手続き

 本当に学校へ来てしまった。
 あの酒場の個室から学園の敷地まで、転移魔法いよって一瞬で移動した。よりにもよって、こんな学園内で見ず知らずの男を隣にしていた。
 部室であった。
 ちょうど、このなかよし部には、チエルとユニの二人が顔を出していた。転移を使い、急に姿を現すクロエに対して、その隣にいる男に向けて、とても不思議そうな顔をしていた。
「あれ? あれれ? 今日は用事だとか何とかかんとか、言ってませんでしたっけ?」
 チエルが首を傾げる。
「つまり用事の途中で用事が発生して、ここに転移してきたと思われ」
 トーンの低い、少しボソボソとした声でユニが言う。
(いや、やばいっしょ)
 クロエの中に危機感が溢れていた。
 どうせストッパーが働いて邪魔できない、抵抗を考えても無意味と思って、みすみす男を連れて来る形になってしまったが、これでまたしても二人を巻き込むことになる。
「えーっとぉ、そちらの? 何やら上等なスーツを着込んだ大人の社会を知り尽くした感じのお方はどちら様です?」
 チエルの視線はクロエへと向くのだが、我こそが答えてやろうとばかりに男自身が前に出る。
「やあやあ、諸君。そちらのお嬢が仰る通り、少しばかり用事がありましてね?」
「用事ぃ? 学園生徒のそれも特定の部活の部員にですか?」
「まあね? 少々、話を聞いてもらえないかな?」
 男は悠々と腕を広げ、何やら語り始めようとしているが、クロエはそこに隙を見た。
(背中……)
 がら空きだ。
 今なら簡単に倒せるのではないか。この場で男を押し倒し、実は彼は悪党で、脅されて仕方なく連れてきてしまったが、チャンスが出来たので反撃したと説明すればいい。
(……おし、やるっきゃないか)
 二人を巻き込むわけにはいかない。
 チエルとユニを自分と同じ目に遭わせてはいけない。
 すーっと、クロエは息を吸い、背中に向かって一歩踏み出し、そして次の瞬間に飛びかかる。

「――――えっ?」

 クロエは驚愕した。
 床を蹴り抜くことで、一瞬にして距離を詰め、その突進の勢いを利用した攻撃のつもりであった。蹴ったその次の瞬間に視界を占めるのは、男の背中や後頭部のはずだった。
 だが、誰もいない。
 男の姿が正面から消え去って、クロエの行動が起こした結果は、ユニとチエルの並ぶあいだに飛び込むものとなっていた。
 さらに、その時である。

「……ぐっ!」

 クロエは呻いた。
 急に床が視界に迫っていた。クロエはうつ伏せに倒れてしまっていた。
 消え去ったどころの話ではない。がら空きの背中を狙うつもりが、男は逆にクロエの後ろを取っていた。背後から足を引っかけられ、転ばされたクロエは転倒で床に体をぶつけていた。
 その衝撃に呻いた直後、続けて背中が踏みつけられる。強い足の力でクロエの体は食い止められ、体を起こすことが出来なくなっていた。
「て、敵! やばい奴!」
 クロエは辛うじてそう叫ぶ。
 だが、その時にはもうとっくに魔法を使っていたのだろう。おそらくクロエが叫ぶより手前、足を引っかけ転ばせにかかる時点で、男はその準備を整えていた。
 ばたりと、ユニが倒れていた。
 すやすやと寝息が聞こえることで、睡眠魔法で意識を奪われたことがわかる。
「うっ、動けない系……!」
 そしてチエルにはまた別の魔法をかけ、身動きを封じているようだった。
「くっ、こい……つ……!」
 こうも戦闘力があるとは思わなかった。
 三人まとめて、いとも簡単に無力化された。
 これでは男の思い通り、水晶に浮かんだ映像通りのことをさせられる。その運命をどうすれば回避できるか、どうにか逆転のチャンスはないか、助けでもやって来ないか。
 隙を見つけるために目を光らせ、逆転の手立てを思いつくため頭を回し、あのとぼけた少年が都合良くやって来ないかと祈る気持ちを抱きもする。
 だが隙というべき隙もなければ、特別な作戦も浮かんで来ないのだった。

     *

 無力感に打ちのめされる。
(なんで……うちは何も……できないどころか、こんな厄介ごとなんか持ち込んで、みんなに迷惑かけて……)
 クロエは自己嫌悪に陥っていた。

「あっ! あぁっ、やめ――抜いて――――」

 チエルが男に犯されている。
 上半身をテーブルに寝かせての、スカートを捲って剥き出しとなった尻に向け、男は腰を前後に振っている。
「んっあっ、なっ――なんなんですか? この展開はなんなんですか? なんで私は犯されてる系なんですか? なんか前振りとかありました?」
 動揺しきったチエルは、上擦った声で口数を増やしている。いつもとはまったく違う声音から、一体どんな戦慄やショックを感じているかがひしひしと伝わって、もはや見ていられずにクロエは目を背けるのだった。
(うちのせいで……)
 クロエにも拘束の魔法がかかっていた。
 光の輪が何重にも胴に巻きつき、その内側に封じ込められた両腕を広げられない。後ろ手には手首も封じられ、それでなくとも強い男を前に、これでは戦いようがなかった。
「あっんぅ――ななっ、なんで――私は初めてで、こんな感じるわけとか――んっ、あぁ……!」
 尻と腰がぶつかることで、軽快な打音が鳴り響く。

 ぱん! ぱん! ぱん! ぱん! ぱん!

 目を逸らすことはできても、耳を閉ざす術はなく、クロエの尖った耳はピストンのリズムに応じた音を嫌でも聞き取る。
「はははは早く抜いて下さい! あの言っておきますけどそういう抜くではなくてですね? ごくごく普通に抜き取っていただきたいなと!」
 チエルのパニックすら伝わってきた。
 言われて中断するのなら、始めからレイプなどしないだろうに、強姦魔に向かってチエルは無駄なお願いを口走る。
「ごくごく普通に?」
 一旦は腰振りの音が止まった。
 だが、すぐに再開されるのだろう。
「はい! それはもう普通にお願いします!」
「そうだね」
「本当ですか!?」
「そういう抜く――が終わったら、その後でごくごく普通に抜くとしよう」
 やはり、男はチエルの言葉など聞き入れない。

 ぱん! ぱん! ぱん! ぱん! ぱん!

 予想通りの再開に、クロエの胸がずきりと痛む。
「全然! まったく! チエルのお願い聞いてくれてないじゃないですか!」
 チエルは完全に狼狽している。
 口走っている言葉の全てが、恐怖や混乱のせいなのだ。慌てふためいていればこそ、かえって口数を増やしているのだ。
「ではそろそろ、最初の抜きを披露しよう」
「しなくていいです披露なんてしないで下さいお願いします!」
「ああ、もう出る」
 腰振りの音が止まった。
「で、で、出て――本当に出て――私はまだ学生ですよ――え、なんでこんなことに? 意味がわかんなくないですか?」
 ますます心が痛んだ。
 この男を連れて来てしまった後悔の念が厚みを増し、より強い罪悪感がクロエの胸を漂った。今こうして抱く罪悪感の方こそが、あの巻物の効果で生まれる罪悪感より、ずっと大きいに決まっていた。
「さて」
 男はチエルから肉棒を引き抜いて、次はこの子とばかりにユニにまで手をつける。
「や、やめ……」
「やめると思うかな?」
 制止の言葉をかけかけたクロエは、言い切る前に口を閉ざして、ただ憎むべき男に視線だけを返していた。
 じっと、睨んでいた。
 だが眼力だけで男が止まろうはずもなく、仰向けで眠るユニのスカートを、男はこれみよがしに捲り始める。どうだ、お前のお友達を犯してやるぞと言わんばかりに、満面の笑みで下着をずらし、足を持ち上げ挿入を開始した。
「あぁ……私に続いて……ってことは、あれですかね、私達は三人とも全員やられちゃう系ですかね……」
 チエルが悲しげに口走る。
「おっと、こちらも処女のようだ。二人も連続で処女をもらってしまって悪いねぇ?」
 ちっとも悪びれていない顔で男は言う。
「最低のクズだよ。アンタ」
「最高の褒め言葉だ」
 男はユニに腰を振る。
 睡眠魔法による眠りは深く、せめて意識のない状態でやられているのは、不幸中の幸いなのだろうか。
 ゆさゆさと、ユニの体は揺れていた。
 腰振りによって体がぶつかり、ユニへと振動が伝わるたび、前髪がささやかにずれ続けた。
 そして男は遠慮のない膣内射精を行って、最後はお前だと言わんばかりに、ニヤニヤと楽しみそうな顔でクロエに迫る。

     *

 クロエの中に肉棒が出入りする。
「ぐっ、うぅ……んっ、んぅ……!」
 床の上に押し倒され、正常位による挿入で膣内を抉られる。こんな男を連れてきてしまった罪悪感、チエルやユニを穢された怒り、彼に対する剥き出しの感情にも関わらず、クロエの膣は愛液を噴き出していた。
「んっぐっ、あっあぁ……!」
 潤滑油によって滑り良くピストンする肉棒は、下腹部に強い刺激を走らせる。
 クロエは堪えた。
 どうにも出来ない状況で、耐えるという選択しか取れず、きつく歯を食い縛っていた。
「んっんぅ――んぅぅ――――」
 男はニヤニヤしていた。
 どんな感情を抱こうとも、腰さえ振れば喘ぐことを面白がっている。男の思い通りであることが悔しくて、なんとか声を抑えたい気持ちになるのだが、あまりの強い刺激が完全に抑えきることを許さない。
「んっ、んっ! んっ! んっ!」
 食い縛った歯の奥からも、声は出てしまっていた。
「そら、出すぞ」
 そして男は遠慮無く、躊躇いもなく膣内に放出してきた。チエルやユニに続き、クロエの中にも男の熱っぽい精液が広がって、肉棒が抜ければこっぽりと零れ出る。
「よ、よくも……!」
 何が手続きだ。
 この男はただ、クロエだけでなく、人の友達にまで手を出したかっただけではないか。
「いやぁ、いい気分だ。実にいい気分だよ」
 さぞかし、満たされたことだろう。
 三度も射精して、腹の立つほどすっきりとした顔をする男は、ようやく下着とズボンの中に性器をしまう。
 しかし、これで終わりではなかった。
「ところでクロエ、一つ忘れていないかな?」
「は? 何を」
「水晶の中身だよ」
「……っ!」
 あの浮かび上がった映像では、クロエはチエルに小便を引っかけていた。友達を尿で汚す真似など、本当にさせようというのだろうか。
「こんだけいい思いすりゃ満足っしょ」
 低い声音に怒気を含めてクロエは言う。
「もし言うことを聞けば、今までの出来事は全て忘却させ、なかったことにしても構わない」
「へえ、ご親切に」
「さあ、どうする?」
 言うことを聞くしかない。
 だが、本当にそれしかないのだろうか。他に何かないのだろうか。犯された上に放尿までさせられるなど、頭の中では回避の道を探るのだが、やはり妙案は出て来ない。
「で、約束は守るんか?」
「その言葉を同意と受け取らせてもらおう」
 同意などしたくない、誰がするものかと腹の底では思っているが、やはり他に道はない。この男に忘却の魔法を使わせなければ、意識のある状態で犯されたチエルには、最悪のトラウマが刻み込まれることになる。
 しかし、だからといって……。
 ふとした拍子にチエルと目が合う。
 この一連の会話を聞いていたことで、とても不安そうな顔をしていた。

     *

 史上最低の時間が始まった。
 人前で放尿を披露するだけでも、いっそ殺して欲しいほどに恥ずかしい。しかもクロエがオシッコを出す先は、よりにもよってチエルの体だ。
「これは何のプレイなの? どこまでマニアックなんですか? どんな恐るべき変態さんなんですか?」
 チエルが狼狽するのも無理はない。
 放尿を浴びせられ、平然としている人間など、一体どこにいるというのだろう。
 クロエとチエルは二人まとめて裸にさせられていた。そして床にぺたりと座り込むチエルに向け、クロエは尿を放っていた。がに股気味に腰を沈めて、アソコをなるべく前に突き出し、滑稽な姿勢でアーチを放てば、それはぴったり額に着弾していた。
(何も言えんわ……)
 ひたすら無念である。
 自分の尿道口から出ているものが、チエルのおでこに当たっている。たちまち濡れる前髪から、多少の滴が細やかに跳ね返り、霧の粒よりも小さなものが、その座った太ももや周囲の床にぱらついている。
 額に注がれ続ける尿は、鼻で二手に分かれて表皮を伝い、二本になって流れる川は顎先で合流する。ぽたぽたと、勢いよく滴は垂れ続け、それは膝のあいだで水音を鳴らしていた。
(マジでなんも言えん……)
 こんなことをした以上、煮られようとも焼かれようとも、何も文句を言う気になれない。チエルがどんな仕返しをしてきたり、どんなお詫びを要求したとしても、それを拒むことなど出来ないだろう。
 記憶は消してもらえる約束なのだから、そのどちらの展開もないのかもしれないが、それにしたってクロエの胸中は、いっそそうして欲しい思いでいっぱいだった。
 放出していた尿が止まる。
 勢いが失われ、もう一滴も出なくなったところで、今度こそ地獄は終わりだと思っていた。男が約束を守るようなら、これから記憶を消し去る魔法が使われるものとばかり考えていた。
「じゃあ交代」
「は?」
 そんな話は聞いていなかった。
「まさかひょっとしてですけど? 私に今のと同じことをやれと? え、一体どこまで変態なんですか? なんで生きてるんですか?」
 まったくその通りだと、クロエは心の中で頷いた。
(マジでなんでこんな奴が生きてんの)
「君達はその変態を喜ばせる運命にある。嬉しいだろう?」
「ちっとも嬉しくねーわ」
「逆らうかね?」
 ニヤっと、男は笑っていた。
 その自信たっぷりな笑みは、逆らいたければやってみろと言わんばかりのものだった。

     *

 結局、立場は交代した。
 今度はクロエが正座して、その真正面にチエルが立つ。チエルの少しがに股気味に腰を落とした姿勢は、ちょうどクロエが立ったものと同じであった。
 突き出されたアソコから、チエルの尿は放出される。
 それが額にぶつかって、多少は跳ね返るものがパラパラと周囲に散る。膝の上に置いた拳の、手の甲には滴の降り注いで来る感触があった。
 額を伝い、鼻を伝い、顎や首すら伝って流れる尿は、乳房の狭間を通過する。アソコにまで至った筋から床に向かってポタポタと、勢いを帯びた滴の水音が連続する。
 やがて、尿は止まった。
「…………死にたいです」
 チエルの率直な感想だった。
(そりゃそうだ)
 クロエもまったく同じ気持ちであった。
「では二人とも、感想は?」
「は?」
「感想を聞かせてくれたら終わりにしよう」
「そんなん、こんな変態プレイを考えた奴をぶっ飛ばしたいとか、ありえないことをやって、いっそ死にたいとか、そーゆー感じに決まってね」
 思っていることをクロエはほとんど率直に口にしていた。
「君はどうかな?」
 男の視線がチエルを向く。
「えーっと、なんで生きてるんですか?」
 感想とは言えないが、しかしストレートな言葉であった。
「なるほど、君は延長線を望んでいるらしい。変態と過ごす時間をよほど気に入ってもらえたみたいだね」
 男の両手が自らのベルトに触れる。
「の、望んでません! 二度とできない新鮮な体験だったと思います! いっそ私が死にたいです!」
「よろしい」
 どうやら、ズボンの中身が再び解き放たれることはなく済んだらしい。