第9話 試合直前

 その大会はろくなものとは言えなかった。
 どうやら、アダルト配信を行うチャンネルの持ち主や、それに出資するスポンサーから資金を集めて開催される、エロ配信の出演者限定の武闘大会なのらしい。
 ということは、敗者は勝者のどんな言うことでも聞くルールは、体を差し出すだの、奉仕してみせろだの、そのあたりの命令を想定したものなのだ。
 だが、チャンネル停止命令が出来ないわけではない。
 出場するには同意書へのサインが必要となり、命令に背けば契約違反として違約金の支払い命令が発生する。その取り立てはとてもとても怖いお兄さんが集団で行うものらしく、到底逃げ切れるものではないらしい。
 といったわけで、クロエとナーファの対戦カードが組まれ、どちらかが勝利した時、勝った方が相手のチャンネルを停止させ、もう二度と配信をさせないようにする約束をお互い交わした。

「なんなん? このガキらは」

 手続きに進んだはずだった。
 地下に隠された闘技場の、その参加受付を行うため、会場に顔を出したクロエとナーファなのであるが、書類への書き込みを済ませた直後に言われたのだ。
 ――では、あちらの部屋で指示に従うようお願いします。
 他にも何か手続きがあるのだと思って、言われた通り二人で部屋に入ってみれば、十歳前後の男児がずらりと、妙にいやらしい目つきで待ち構えていた。
「さあ、なんでしょうね」
「いや知らんの?」
「知らんのですよ。うちは」
「あそ、そりゃしゃーない」
 知らないものは仕方がないのだが、クロエとしては思い出すものがある。
 そう、ケンだ。
 あの幼いながらに邪な眼差しを浮かべ、女の子の体を狙うオスのケダモノを、クロエは目の前の男児達から感じ取っているのであった。
「YO! YO! ここは衣装登録のコーナーだよん?」
「イロイロ? シチャク? してもらって?」
「コレ! って衣装に?」
「ケッテー、オッケー?」
 全員のテンションが高かった。
「なんすかこのノリ」
「わかりませんわ」
 とにかく良い予感がしない。
 衣装登録、なるほどそれはいい。いいのだが、いやらしい目つきの男児が集まるここで、この場所で、これから行う意匠登録の方法とは、果たしてどのようなものになるか。

「……ま、こうなるわ」

 クロエは全裸となった。
 ナーファも一糸纏わぬ姿となり、次々と衣装を渡されては、あれでもないこれでもないと、試着を繰り返す羽目になる。
 その際、お互いの穿いたショーツを交換させられた。
「ご感想は?」
「は?」
「お互い体温残っちまって? 相手の体温感じるその感じ? どんなもんだYO! 感想は? ヘイ!」
「いやいちいち騒ぐなし、感想言われても特にねーからな」
 とにかく、何度も着替えさせられた。
 まるでコスプレ大会にでも出させられているような気になりながら、着るたび着るたび、繰り返し行うストリップを視姦され、まったくいい気持ちがしない衣装登録の時間を過ごす。

「んで、これがなんであんだか」

 最終的に決まったのは、聖テレサ女学院の制服だった。
 大会側の備品なのだが、それそのものはクロエが普段来ているものとまったく同じなわけであり、つまりクロエは普段通りの格好で大会に出ることとなる。
「うちには新鮮だわ。余所の学校の制服なんて」
 ナーファもまた、同じく聖テレサ女学院に決まるのだが、他校生である彼女としては、普段は着ることのない衣装で、それはなるほど新鮮なことだろう。
 だが、今更どれだけ着替えやストリップを視姦されようと、どうということはない。
 それよりも――。

     *

 試合直前の方が問題だった。
 地下施設に観客を集めて行う闇試合は、逃げ場のないリングの上で行われる。試合の出場者がリングに入ると、吊り下げ式の金網が下ろされて、すっぽりと覆われてしまうのだ。
 クレーン設備で持ち上げなければ、金網そのものには出入り口は付いていない。
 決着が付かない限り、決して出ることの出来ないリングの中で、クロエが気にかけるものは金網ではなかった。

「んっ、んぅ…………」

 開始直前、クロエはボディチェックを受けていた。
 対戦相手が目の前にいる状況で、急にスカートをたくし上げるように言われて、何かと思えば暗器などルールに違反した部位はないかのチェックが言い渡されたのだ。
 審判の指が下着越しの割れ目に絡む。
(これって、単なる…………)
 イタズラ感覚ではないだろうか。

『おおっと! これは早速始まりました今大会の名物! 開始直前のボディチェックだああああああ!』

 クロエは辟易のため息をつく。
(はいはい、名物ね。こーゆーもんなのね)
 しばしアソコを弄られた。
 最初のうちは下着を介して、少し擦り続けてからは内側へと潜ってきて、指がクリトリスに直接当たる。
「おや? 何か突起物があるようですが」
「はい?」
 クリトリスを愛撫しながら言ってくるので、クロエは険のある顔で尋ね返した。
「これは一体何でしょうか?」
「いや何って、体の一部ですけど」
「具体的には?」
「具体的って……」
「言えなければ、暗器の疑い有りとして失格になりますが」
 その瞬間、対戦相手がニヤニヤと嬉しそうな顔をしていた。
 トーナメント形式の大会で、クロエがあたる一回戦目の相手は男性である。もし彼がクロエに勝って、どんな言うことでも聞かせるとしたら、もちろん体にまつわることになるだろう。

「……く、クリトリス……ですけど………………」

 仕方なく、クロエは答える。
 不戦敗になどされては笑えない。

『おっと! クリトリス! クリトリスが突起しているとのことです! 暗器を疑われるほどの硬さとは、彼女は一体! 試合前からどれほど興奮しているのでしょうか!』

 なんと恥辱を煽る実況だろうか。
 それに、対戦相手の男もそうだ。
「そんなに俺のチンポが楽しみか?」
 下品なマイクパフォーマンスを展開して、観客はそれに盛り上がる。客席に集う男達は、たちまちクロエが負けて犯される姿を見たいと思うようになり、男の勝利を願うコールが広がっていた。
(はあ、これで戦うんか)
 女の子のことは辱め、男のことは素晴らしき展開をもたらす英雄として扱う。
 まったく、素晴らしい闘技大会ではないか。