第2話 玩具にされて

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 あの時――。
 まず、出会って最初に行ったのは、軽い挨拶や自己紹介だ。
「僕、健太って言います! 今日はお忙しいところを来て頂いて、本当にありがとうございます!」
 とても嬉しそうな顔をして、元気に名乗って挨拶する。
「へえ、いい挨拶だね。お姉ちゃんに教わったの?」
「教わったっていうか、ちゃんと挨拶するようにとか、色々言われたけど……」
 その唇の尖った表情に、姉の口うるさいところに不満のありそうな、ここにはいない姉に対する不平が滲み出ていた。そのくらいは言われなくても、といった気持ちがひしひしと滲み出ていて、唯華はそれを可愛いと感じたものだ。
「そっかそっか。うん、そうだね。礼儀正しくて関心するよ。健太君」
 早速少年の名前を呼ぶと、健太は照れ臭そうに赤らんだ。
「一応、自己紹介しておこうかな。私は志波姫唯華。部活はもう引退したけど、バドミントン部の元主将だよ」
「え、引退……?」
「高校三年生は部活を引退するものだよ」
「そうなんだ。なら、バドミントンは続けるんですよね」
「うーん。どうかな?」
 少なくとも、オリンピックを目指すまで頑張ることはない。
 こうして健太にバドミントンを教えに来たのも、ほんの気まぐれのようなものだった。
「ま、今は練習しよっか。君がどこまでできるか、最初にチェックさせてもらうよ?」
「はっ、はい!」
 健太は緊張しきった顔で背筋を伸ばし、綺麗な気をつけの姿勢で唯華の指示を待ち始める。まるで素直な生徒のようで、見ていて悪い気はせず、まずは素振りをさせてフォームを見た。羽根をラケット上でポンポンと、ひたすらその場で上下させてもらう。
 基本的な部分を確かめた後、フォームのお手本を見せて真似をさせ、まずは真っ直ぐ狙った方向に打たせることから入り、遊び感覚のラリーを行う。ラケットを扱うのは初めての、まるで経験のない素人なのがだかったが、元の運動神経は悪くないのか、吸収も割りに早い。
 ラリーはもっぱら近距離で済ませていたが、しだいに距離を開いていっても、問題なく続くようになっていた。バックハンドやフォアバンドの基本フォームも、何度か注意しているうちに問題はなくなっていき、打ち方もしだいに綺麗になっていた。
 これなら、きっとすぐに上達する。
 そんなお墨付きを与えると、純粋な笑顔で嬉しそうに笑ってくれて、唯華自身も嬉しくなった。
 だというのに……。
「ところで、ちょーっと待っててね」
 ふとトイレに行きたくなり、健太を待たせてその場を離れた瞬間から、運命の歯車は狂い始めた。
 想像できるはずがない。
 あれほど可愛く、素直で純粋に見えた男の子が、あんな真似をしてくるなど……。

     *

「しっかし、随分と黒くなってきたよなー?」
 かつては桃色だった唯華の乳首に、健太はぐっと顔を近づける。
 笑ってさえいれば可愛い顔付きは、邪悪な表情によってあどけなさを台無しに、仰向けとなった唯華に向かって体つきの指摘も無遠慮だった。
「豆も大きくなっちゃってさー」
 健太が乳輪を指でくすぐり、乳首をつまむ。
「んっ、んぅ……!」
 唯華はすぐに感じた。
 健太は胸が大好きで、初めて触ってきた場所も、一番熱心に開発をしてきたのも胸だった。敏感になった唯華の乳首は、健太のタッチで簡単に甘い痺れを解き放ち、みるみるうちに突起していく。
「ほーら、もう硬くなった。とんだエロ乳首だ」
 大豆よりも大きく膨らみ、乳輪もやや大きな黒ずみは、しだいに快楽を膨らませ、放つ電流も強まる一方だ。やがてついには甘い痺れが激しくなり、とてもじっとはしていられず、身体をやたらにくねくねと、反射的に動かさずにはいられなくなっていた。
「んぁ……あっ、んぁぁ…………」
 胴を捻るようにして、肩をモゾモゾさせてしまう。
「んじゃあ、頂こうかなー」
 健太はご馳走を楽しみにするように、まずは右側の乳首から口に含むと、表面を軽く擦ってくるような、コツを知り尽くした歯の当て方で、巧妙な摩擦を与えてくる。唇の筋肉を駆使した圧と、舌先で舐め回してくる刺激の中に、さらに甘噛みを組み合わせ、健太の乳首責めは神業の域に達していた。
「んぁぁ……!」
 二年も唯華をしゃぶり尽くし、なおも飽きずに奴隷として扱い続ける。
 長期的な経験を積み重ねて、単純に上達しないわけがない。
 そんな健太がコツを身に着け、どうすれば唯華が感じるかを知り尽くすのは、当然といえば当然のことだった。
「じゅるぅ……じゅぶぅ…………」
 音まで立てて激しくしゃぶる。
「んぁぁ……!」
 唯華は喘ぐ。
 その唇が離れる頃には、表面に唾液のぬかるみをまとった乳首から、舌先とのあいだに濃密な糸が引く。健太の顔が隣へ移り、それに伴いぷっちりと千切れた瞬間、左の乳首が口に含まれ弄ばれ、唯華の肉体はますます火照る。
「あっ、んぁ……あっ、あぁ…………」
 唯華自身、正直なところ興奮していた。
 もしかしたら、弱みを握るような展開で付け込まれ、思い通りに従わされる状況に、初めから興奮する素養があったのかもしれない。言うことを聞かされて、奴隷扱いされることで興奮する。そんなマゾヒズムがあって、それが今でもこんな関係を許しているのかもしれない。
 思えば、この状況を回避するのは、決して不可能ではなかった。
 弱みを握られたその時から、逆に強気に出ながら言えば良かった。バラ撒くならバラ撒けばいい。その代わり、そんな脅迫をしたことは、姉や両親にも全て伝える。その行為は全て家族に伝わることになる。
 とでも言い返せば、当時十歳だった健太を萎縮させ、しまいには弱みのネタを消させることもできただろう。
 だが、後になってそんなことを考えても、とっくに遅い。
 心のどこかでは受け入れている自分がいるのに、今更無意味だとはわかっていても、たまにその時のことを思い出しては考えてしまうことがある。日常の中、ふとした拍子に発作的に浮かび上がるこの気持ちは、今日は今この瞬間にふっと浮かんで膨らんだが、それは泡が弾けるようにぷちりと消え去る。
「んぁぁ……!」
 あとは喘いだ。
 乳首をやられる気持ち良さに翻弄され、唯華は髪を振り乱す。
 小学生の健太こそが、大学生の唯華を相手にしながら、この場の支配者となっていた。裸の上に覆い被さり、健太自身も裸となって、大いに胸を楽しんでいる。乳首を扱うことで快感の波に唯華を沈め、思う存分に弄ぶ健太こそ、全ての状況を操作している主だった。
「ちゅぅ……ちゅぅ……」
 確かに、健太は赤ん坊のように乳を吸う。
 そこに甘えん坊の顔はなく、むしろサディストが人を虐めて楽しんでいる時の笑みこそがそこにはある。
「んぁ……あっ、はぁ…………!」
 そして、唯華は乱される。
 みるみるうちに体は火照り、もっと大きな快楽を求める気持ちが湧いてくる。いつの間にアソコが疼き、知らず知らずのうちに太ももを擦り合わせていたことに、唯華自身よりも先に健太が気づいた。
「へえ?」
 不意に乳首への愛撫が止まり、アソコへと手が伸びる。
「……ひん!」
 指でワレメをなぞられて、その瞬間に唯華は滑稽な声を上げていた。
「もうこんなに興奮してんの?」
 悪魔の笑みが眼前に迫っていた。
 唇が重なりかねない距離感で、健太は間近から唯華の顔を覗き込む。アソコを弄った際の反応を見るために、ニヤニヤと楽しそうに表情を観察して、唯華の感じた様子に満足そうに口角を吊り上げていく。
 触られたその瞬間から、唯華のアソコは濡れる直前に置かれていた。
 いつ愛液が染み出してもおかしくない、いずれは触るまでもなく濡れたかもしれない秘所からは、指の愛撫でみるみるうちに粘性の水分が広がっていた。健太の指にぬかるみはまとわりつき、すぐにでも指とアソコのあいだには糸が引くようになっていた。
「んあぁ……はっ、ふはぁ……! あっ、あぁぁ…………!」
「興奮しちゃってさぁ、期待してるわけ?」
「あっ、あぁ……! し、してますぅ……!」
「ふーん? してるんだ? へえ?」
「してます……! い、イキたい……!」
 唯華の身の捻りは激しくなっていた。
 ただ指でなぞられ続けているだけで、まるで電流を流し続ける苦痛でも味わうように、手足がのたうち回っている。しかし、唯華が浸っているのは確かな快感だ。愛液がさらに溢れて、健太の愛撫はまさに指で液体を塗りつけているような形にまで至っていた。
「さぁて、それじゃーさ。そろそろ、罰ゲームの本番といこうか」
「ば、罰ゲーム……」
 そうだ。
 まだ、罰ゲームは始まっていない。
 その前戯として乳首やアソコで遊ばれたに過ぎず、健太の遊びはこれからが本番だ。
「ちょっと待ってろ?」
 健太は一度、唯華の元を離れていく。
 机の引き出しを開いた中から、罰ゲームに使うための道具を手にして、改めてベッドに上がった時、健太が膣に埋めてくるのはピンクローターなのだった。
 アソコの穴に、桃色の卵形が挿入された。
「スイッチ! おーん!」
 健太は楽しそうにスイッチを入れる。
 たちまちローターの振動は始まって、膣壁が内側から振るわされると、先ほどまでとは比べものにならない激しい快感に襲われた。
「あぁ! あぁぁぁぁぁ………………!」
 快感のあまり、首が反り上がった。
 仰向けの姿勢でそうなることで、まるで首の力で身体を持ち上げるようになっていた。
「今から、寸止め耐久ゲームをやるよ。一時間我慢して、イキたいイキたいっておねだりせずに耐えきれたら、ご褒美をあげるからさ。まあ頑張ってよ」
 人を玩具と見下しながら、心の底から楽しむ笑顔で、健太はローターのスイッチを握る。
 こうして、罰ゲームの時間は始まった。
 今から一時間、唯華がイキそうになるたびに、タイミング良くローターのスイッチは切られてしまう。数分ほど時間を置いて、しばらくすれば再びスイッチの入るローターは、まるで絶頂を正確に検知して、自動的にオフになる仕組みでもあるように、あまりにもタイミングよく止まり続ける。
 だが、それは手動なのだ。
 スマートフォンでタイマーをセットして、目で様子を見ながらスイッチを弄る。
 健太にとって、これはゲームの一種なのだと、唯華はとっくに気づいていた。リズムゲームでは画面上を流れるマークに合わせて、タイミングよくボタンを押したりするが、きっとそれに近い感覚で、健太は寸止めゲームを楽しんでいるのだった。