第3話 身体測定

 このままでは恥辱の日々がいつまで続くか。
 なんとか手を打たなければ、あの少年にいいようにされてばかりでは腹の虫が治まらない。
 家の中、親指の爪を険しい顔で噛み締めていた時、そこへ一つの話が持ち込まれる。
「有希様、良い知らせと悪い知らせがあります」
 傍らにすっと現れ、影のように控える綾乃の声を背に、有希は即座にこう答えた。
「悪い方から聞こう」
「当該団体は変態の集団です」
「話が見えんな。よし、良い知らせから聞こう」
「あの殿方について、一つ良い手があります。なんでも身辺調査にご協力頂けると」
「話が見えた。協力を得られるのはいいものの……」
「そう、それは変態の集団です」
「具体的には?」
「身体検査や面談による性的情報の聞き取りなど、非常にパーソナルかつプライベートな部分に踏み込み、一人でも多くの女の子について資料を作成したがっています」
「そいつはやべぇな、まるでサ〇ィスティック〇ィレッジだ」
「はい、まるでサ〇ィスティック〇ィレッジかと思われます。現状を解消できる事と引き換えに、わたくし達は別の辱めを受ける事になるわけです」
「ふーむ」
「有希様、いかが致しましょう」
「まるでサ〇ィスティック〇ィレッジな目に遭うなんて、まったくじゃねえって話ではあるけどな? さりとて、あの変態ボーイをなんとかしないと、いつまで最悪の日が続くやらだ。ここは合理的に考えて、肉を切らせて骨を断つ」
「一時の恥を引き換えに、それ以降の辱めを受けずに済む道、ということでよろしいですね」
「それしかあるまい」
 自分で結論を出しながらに、しかし他に何の答えも出せない状況にため息が出た。
 あの少年に関しては、弱みを握り返すのが良いだろう。脅迫に対して脅迫で対抗して、お互いに関わり合わない形を作るのが最善だが、それには相応の調査能力が必要となる。
 そして綾乃は、協力してくれる場所を見つけた。
 見つけたはいいが、そこは変態の集まりだった。
 正直、気が乗るわけではない。乗るわけがないのだが、一日だけの地獄と、もっと長い地獄を選ぶなら、前者の方が苦しまずに済むという話だ。
「畏まりました。それでは、直ちに約束を取り付けて参ります」
「頼んだぞ、綾乃」
 どこぞへ刺客を送り込むような気持ちでそう口に、とはいえ二つの選択肢のどちらも地獄ではある以上、やはり未来に対して思いやられて、深いため息が出て来る有希なのだった。

      *

 数日後、綾乃が言った団体の施設を訪れると、そこで始めに受ける指示の内容は――身体測定だった。
 スーツを身に着け、社員証を首にぶら下げた男性から、着替えの場所や実施現場など説明を受けるのだが、まるでサ〇ィスティック〇ィレッジのような変態と話に聞く通り、身体測定は普通の格好で行うものではなかった。
 下着一枚の姿である。
 ショーツと靴下だけを残して、他には何も身に着けず、身長や体重の測定を受けなくてはならないという。
「マジで変態AVの展開だろうが」
 更衣室で綾乃と二人きりになった途端、直ちにそんな愚痴をこぼさずにはいられなかった。
「申し訳ございません。このような仕打ち、わたくしのみで受けられれば良かったのですが、先方はどうしても有希様を含め二人ともと仰るので」
「しゃーないじゃろがい。この際だ、贅沢は言えんわい」
 もっと他に、まともな場所から協力を得られれば良かったが、それが見つかるものならとうに見つけているだろう。贅沢を言って地獄の日数を伸ばすより、一日の我慢で済む道を選んだ方がやはりマシだ。
 マシだと思って選びはしたが、かといって気乗りするわけでもなく、どうしても渋々といった気持ちで服を脱ぎ、脱衣カゴの中へと折り畳む。ショーツと靴下だけを残した姿となって二人して、更衣室の外へ出て行くのであった。
「だいぶハズいな」
 有希は腕をクロスして、ぎゅっと我が身を抱くように胸を隠して、その隣では綾乃もまた、同じように乳房を守る。揃って頬を染め上げて、周囲を気にして落ち着きを失うのは、この格好で廊下に出なくてはならないからだ。
 案内を担当する職員から、そう指示が出ているのだ。
 着替えが済んだら更衣室の前に出て、そこで待っていて欲しい。着替えの完了を確認したら、身体測定や他にも控える検査や面談の数々の、実施現場への案内をすると言われており、つまり二人はこれから大人の背中に着いていき、しばし廊下を歩かなくてはいけないのだ。
 そう、この格好で。
 ショーツと靴下、それにあとはスリッパを履いているだけの、他に身に着けているものが何もない姿で、廊下という場所に立たされ歩かされる。
「人権はどうなっているのだという気持ちになりますね」
「まったくだぜオイ、案内人はどこへ行きやがった?」
 どうせ案内するのなら、着替えをここで待ってくれていればよかったものを、職員の男性は一時的に姿を消している。おかげで二人の方が彼を待ち、恥ずかしい格好で立ち尽くす羽目になっているのだ。
 不幸中の幸い、この廊下には誰もいない。
 通行人が通りかかって、じろじろと見られる恐れはなさそうだが、いつまで無人なのかはわからない。ほんの数秒後にも、不意に誰かが現れ二人の前を横切るかもしれないのだ。
 今日のショーツは二人揃ってピンク色だ。
 有希の場合はデフォルメの効いたイチゴのプリントを散りばめて、綾乃の場合は刺繍の赤いハートマークをいくつも刻み、柄に違いはありながら、ベースとなる布の色合いを同じくした下半身で、二人は壁際に並び立ち、頬を桃色に染めていた。
 しばし、立ち尽くした。
 いつ来るだろうか、まだだろうかと、数分ほど待ち侘びていたところへ、先ほどの職員が姿を現し、二人の格好に目を留めて、表情を取り繕うことなくあからさまに、頬を緩めて嬉しそうにしているのだった。
(うっげ、視姦してきやがる)
「お待たせしました。それでは行きましょう」
「はい、よろしくお願いします」
 素の顔は一切出さず、お淑やかなお嬢様を演じた有希は、綾乃と共に男性の背中へ着いていき、少しばかり廊下を歩む。男の前でこの格好でいる事の恥ずかしさと、ろくに服も着せてもらえず歩かされる屈辱で、まるで本当に人権のない存在として扱われ、奴隷市場にでも向かわされているような、惨めな気持ちになってくる。
(マジになんでこうエロ同人とかエロゲーとかAVみてーなシチュエーションがやってくんだよ! ふざけてんのか? 最近の日常はふざけてんのか?)
 廊下どころか階段まで上がっていき、さらにその先の廊下を進み、ようやく着いた部屋の中へ入って一安心――と、いうわけでもなく、目的地に着いたら着いたで、またそこには関係者が揃っているのだ。
 身長計が設置されていた。
 体重計が置かれていた。
 長テーブルの上には、メジャーやノギスにカメラまで並んでいる。
 そして、身体測定に立ち合うための、白衣を身に着けた男性が四人も居並び、案内人だったスーツの職員も、現場の立会人となってこの場に居付く。
 五人もの男がいた。
 誰も彼もが男、男、男、女性の姿がどこにもない、そんな中で有希と綾乃は二人きり、ショーツ一枚の格好で立たされている。
(ぐっぬぅ……これはきっつい……)
 さらに大きな羞恥心が湧いて来て、頬の赤らみが増していく。
「ではお二人とも。これから身体測定を行って、それからさらに詳しい検査と、最後に面談を実施していきます。どうぞご協力を」
「は、はい……」
 有希が細々とした返事をすれば、案内人は身長計を見やって促してくる。
「さあ、最初は身長から」
 と、彼が言った時である。
「では有希様、先鋒はわたくしが」
 綾乃がそう口にして進み出て、スリッパを脱ぎつつ身長計の台へ上がると、柱にぴったりと背中を合わせ、姿勢を真っ直ぐに保ち始める。
 その傍らに一人の白衣の男が立った。
「気をつけだよ? 君嶋さん」
 クロスの形に束ねられ、ぎゅっと胸を隠した腕へと、白衣の男の眼差しは向けられる。
「承知、致しました……」
 本当は承知などしたくない気持ちを噴き出して、それが有希にはひしひしと伝わった。
(ぐぅ……)
 目の前で、綾乃が腕を下ろしていく。
 そしてあらわとなるDカップの、美しく突き出た丸みを前にした時、綾乃の顔はますます染まっていた。
 全員の視線が向いている。
 案内人も、周りにいる四人の白衣の男達も、揃って綾乃の乳房を確かめている。形状の綺麗な膨らみと、その頂点にある鮮やかな乳首の色合いに目を留めて、五人が五人とも露骨なまでにニヤニヤと、嬉しそうな顔をしているのだ。
 しかも綾乃の隣に立つその男は、ただ気をつけの姿勢を取らせるに飽き足らず、そこでべったりと手の平を当てていた。
(んな! なんつーセクハラだ!)
 まるでずれないように押さえる目的でもあるように、鳩尾の辺りに手の平を置いた上、それを微妙に上へとずらしている。やがては親指の側面が乳房を持ち上げ、微妙に角度を上げるまでに至って、綾乃の顔つきの歪みようといったらない。
 どれほど不愉快なことだろう。
 どんなに恥ずかしいことだろう。
 頭にバーが下ろされて、白衣の男は読み取った数値を紙へ書き込む。綾乃の計測が終了して、次は自分の番となった有希の心境といったらない。
(受けに行くんか? あのセクハラを)
 腹に触って、乳房に指を添える行為を目撃して、その上で身長計へ向かっていくなど、こうも嫌な話があるだろうか。
 その時だった。
「ほら、周防さん?」
 と言って――。

 ぺちん!

 有希のお尻は叩かれた。
(んな!?)
 叩くような勢いで音を鳴らして、案内人の手の平がそのまま尻へと張り付けられていた。身長計へ向かう前から、そんな思わぬセクハラを受けてぎょっとして、歯を強く食い縛る風に頬を歪めて引き攣っていた。
(こんのエロ野郎ども)
 怒りを腹に潜め、しかしそれを顔には出さず、どうにか愛想を保って前に進んで、たった今まで綾乃が計測を受けていた身長計に進んで行く。
 台の部分に足を乗せ、踵を合わせ、柱にも背中を沿い合わせる。そして今まで乳房を隠し続けていた両腕も、気をつけの一言で下げさせられるとわかっているので、仕方ない気持ちでいっぱいに、泣く泣くと下ろしていき、有希はこの衆人環視の中に乳房を公開するのであった。
(ああもう、ハズすぎんだわ)
 四方八方から視線が集まる。

 じぃ……。
 じぃぃぃ――。
 じぃぃぃぃぃ……。
 じっ……。
 じぃぃぃ……。

 と、五人分。
 身長計の周りを囲み、その誰もが乳房の見える位置に立ちながら、そんな五人の中でも一人は計測のために真隣から、比較的至近距離からまじまじ見つめ、やはり腹に手を置いてくる。
(ぐぬぅぅぅ…………)
 手の平の温度が当たってきて、それが上へ上へとずれて来て、乳房が微妙に持ち上げられる。その恥辱に顔を歪めているうちに、頭にバーを下ろされ計測が済まされて、ようやく一つ目の項目が完了した。
 だが次に待っていた体重計測でも、気をつけの姿勢が求められ、先鋒となる綾乃が両腕を下ろしていた。

 じぃぃぃぃぃ………………。

 と、本当にまじまじと、男が乳房に視線を突き刺し、嬉しそうな観察を行っている。口角の吊り上がりを隠しもせず、しかも五人全員で見えやすい位置に並び立ち、綾乃に体を向けていた。
 これでは集団視姦ではないか。
 その羞恥を味わう背中を見つめていると、ひしひしと伝わってくるものがある。頬が真っ赤に燃え上がり、顔が熱を帯びているのがわかってしまい、もらい泣きならぬもらい羞恥で、順番待ちをしている有希ですら、視姦をされる真っ最中のように恥ずかしい。
「はーい、いいよ?」
 数値を書類に書き込み計測を完了して、その次の瞬間にまたセクハラは始まった。

 ペチンッ、ペチンッ、

 あたかも終わりの合図に過ぎないように、一人の白衣の男が隣から、綾乃のお尻を叩いているではないか。それも二回も、良い音の鳴る勢いで手の平を打ち込んで、そのまま張り付けがっしりと、ついでのように数秒ほど揉みしだく。
 その瞬間、綾乃は肩を弾ませていた。ペチンッ、ペチンッ、と聞こえた際のリズムに合わせ、ちょうど二回ほど肩が高らかに持ち上がり、いかに嫌がっているかが、恥辱を感じているかが伝わって、有希としてはその男に何か言ってやりたくなるのだが、開きかけた口を噤んで、吐き出しかけた言葉を喉の奥へと封印する。
 自分達の方から話を持ちかけ、条件に同意してここにいる形である。こうなる事はわかっていたのに、後から文句を言えば協力は得られなくなるだろう。そして、あの少年からの辱めは今後も継続され、地獄を味わい続ける事になる。
 ここで味わう一日限りの地獄と引き換えに、少年から味わう継続的な地獄を終わりにするのが目的だ。
 大局を見失わないようにと自分を抑え、有希もまた体重計へ上がっていき、デジタル目盛りに表示された数値が書類へと書き込まれる。
 しばし、立たされていた。
 数字を確かめ書き込むだけなら、十秒とかからないだろうに、気をつけの姿勢になってから、二十秒も三十秒も経過して、それまでずっと、乳房に視線は注がれ続ける。
「はい、いいよ?」
 やっと終わりが告げられるが、その言葉と共にまたしても、お尻を叩くための手の平はやって来た。

 ペチンッ、

 まずは一回叩かれる。
 そして直ちに二回目が――。

 ペチンッ、

 その二回目では、そのまま手の平がべったり張り付き、ショーツの上を這い回った挙げ句に、がっしりと尻たぶを握ってくる。ものの数秒のセクハラだが、その数秒が非常に強い不快感をもたらして、しかし有希は文句も何も言わないように、自分を抑え続けていた。
(耐えろ……耐えるんだ…………)
 次に始まるのはスリーサイズの計測だ。
 四人ほどいる白衣の中から二人ほど、長テーブルに置かれたメジャーを手に取り、綾乃と有希のそれぞれの前に立つ。どうやらスリーサイズは同時に行うらしく、長く伸ばしたメジャーを持ち上げ、まるでネックレスをかけてくるように、目の前の白衣は有希の頭にそれを被せる。
 隣では綾乃の背中にメジャーがかかり、ほとんどタイミングを同じくして、有希の背中にも引っかかり、二人は両手を頭の後ろに組んでいた。恥ずかしくも乳房を晒し、真正面からまじまじと視線を注がれ続ける感覚に耐えながら、折り畳むように合わさる目盛りによって指が当たった。
(コイツめ……)
 なるべく脇の方で合わせるなど、乳房に触れないように気遣う手はあるだろうに、わざとらしく乳首の付近で目盛りを合わせ、だからメジャーを摘まんだ指がどうしても、少しばかり乳房に埋まってくるのだ。
 目と鼻の先にいる男がバストサイズを把握して、すぐ後ろの男に数字を伝える。すると書類に書き込まれ、メジャーの位置が下へずれると、今度はアンダーバストの計測だ。これでトップとアンダーの差が割り出され、カップサイズが判明してしまうわけである。
 有希のサイズがぼそりと呟かれたその直後、隣からは綾乃のサイズが聞こえていた。
 次はウエストの計測だ。
 くびれた腰にメジャーは巻きつき、胴体の目盛りが合わさる位置は臍の近くだ。乳房に指が当たってくるよりも、ずっとマシではあるものの、測られた腰囲が声に出されて書き込まれ、最後はヒップサイズである。
 その時、目の前の白衣はメジャーを巻き直した。体をぐっと近づけて、まるで腰に抱きついてくるかのように、尻の後ろに腕を回してきた。
「……っ」
 隣から、ピクっと肩の跳ね上がる気配が伝わり、そのまさに直後に有希もまた、同じくピクっと肩を高くしていた。
 お尻に触られたのだ。
 メジャーを指に挟んだ両手の平が、左右それぞれの尻たぶにべったりと張り付いていた。普通にかければ良いだろうに、わざわざ撫でるようにメジャーを沿わせ、手前に引っ張り出して目盛りを合わせたのだ。
 お尻に嫌な余韻が残る。
 綾乃もこれと同じようなセクハラを受けたのだろう。
 白衣の男が数字を伝え、そのまた後ろの白衣がそれを書き込む流れによって、スリーサイズの計測は終了する。
 これで身体測定は終了だが……。