第1話 放尿ゲーム

 その授業中、周防有希はトイレに手を上げ、静かな廊下へ出て行った。だがさほど強い尿意があったかというと、本当はそうでもない。
 これは少年の命令なのだ。

「さーて? 僕と君達のパワーバランスがはっきりしたところで、ちょっと契約でもしようか。例えば、これから一ヶ月間言う事を聞いてもらうとか」

 下着の写真を撮られ、お尻まで触られた時、少年は調子に乗ってそんなことを言い出していた。握られた弱みのせいで、その理不尽に逆らうわけにもいかず、どんなに嫌でも突きつけられた契約を呑むしかなかった。
 かくして、これから様々な言う事を聞かされる玩具となり、少年を楽しませる立場に陥った有希の元へと、スマートフォンのメッセージで命令が届いたのだ。
『屋上へ来い』
 と、一言そう書かれた内容に時間の指定が添えられて、それがまさに授業時間中だったため、トイレと言って抜け出さなくてはいけなくなった。静かな廊下を渡って屋上に来てみれば、同じように抜け出したのだろう少年は待っていた。
「やあ、有希さん」
 腹の立つような満面の笑みを少年は浮かべていた。
「授業中に呼び出しとは、いかがなものでしょうか」
「放尿してよ」
「なんと言いましたか?」
 言われた言葉が理解できなかった。
「だから、放尿だよ放尿。僕の見ている目の前で、オシッコをして欲しいんだ」
「それはまた、随分とアブノーマルなことで」
「嫌かな?」
「当たり前です」
「ふーん? 嫌なら嫌でもいいけど、もちろん逆らえない立場なのはわかっているよね?」
「…………」
 有希は悔しげに目を伏せる。
「けど、そうだねー? 単に言う事を聞かせるより、ゲーム形式にでもした方が面白いかもね」
 良い事でも思いついたような明るい笑顔に、有希の面持ちは逆に暗くなっていき、二人の表情は対照的となっていた。
「そのゲームとやらで、あなたは自分で言ったルールを守ってくださるのでしょうか」
「じゃないとゲームにならないし? そっちがゲームに勝ったら放尿はしなくていいよ? それに、三日経たなければ似たような命令はできないことにしよっか。じゃないと、一時間後とか翌日とか、また新しいオシッコ命令を出し直せばいいだけなからね」
「それはご親切なことで」
「これからアソコや乳首を愛撫します。十五分間耐えきれたら良し、耐えきれずに出ちゃったら、そのまま放尿しなくてはいけませーん」
 所詮は少年ばかりが得をする内容だ。有希がゲームに勝とうと勝つまいと、どちらにしろ彼は胸やアソコを触るなどして、楽しい思いをするではないか。
「そういうわけで、有希さん? 下半身、裸になった方がいいんじゃない? もしも負けたら、汚れるかもしれないんだからさ」
 目に圧力が宿っている。
 放尿には回避の余地があっても、脱衣の方は強制のようだと読み取って、有希はスカートのホックに手を触れるが、こんな男の前で肌を晒す抵抗感で腕が震え、指が硬さを帯びて動きが鈍い。ただホックを外すだけの作業に手こずって、ようやくサイドファスナーを下げた時、ニタッ、と、人の露出をいかにも楽しみにした眼差しが向けられて、スカートを手放す抵抗感が一気に増した。
(つーか青空の下で脱ぐってなんだ!? これなんて露出系エロ同人だよ! なにガチでそれ系の羞恥プレイを始めてんだよ! お前それぜってーエロ同人から思いついてるだろ!)
 恥ずかしさで脱ぐに脱げない、躊躇いの時間を何秒も何秒も過ごしてようやく、有希はスカートを脱ぎ去った。
「おー? さっきの白いパンツと再会だー」
 少年は嬉しそうにスマートフォンの画面を点灯させ、早朝に撮った写真を表示する。有希が今まさに穿いているショーツと同一の、銀色の刺繍によって描かれた薔薇の線画が輝いて、腰の両側には飾り付けのリボンを生やしたものが、その画面内に収まっていた。
(くっそ、こいつマジで羞恥フェチだよな!?)
 スカートを手放したこの状態も、視線がショーツへ向けられる事も恥ずかしいが、写真を突きつけられる事にも羞恥を煽られ頬が真っ赤に燃えてしまう。
「あ、おパンツは僕が預かっておくね」
(くっそマジで……。こいつおパンツとか言いやがったぞ)
 有希は唇を噛み締める。
 本来、こんな命令に従わされて、それで何も言えないような上下関係やパワーバランスなどないはずなのに、握られたネタのおかげで逆らえない悔しさで、気がどうにかなりそうだった。
(おいおい、なんでこんな『悔しい!』って連呼したくなる体験しなくちゃいけないんだ?)
 ショーツの両側に指を差し込み、しかし下げる事にも大きな躊躇いに見舞われて、しばし石のように固まり動けない。抵抗感と戦って、ようやく下げ始めるまで十数秒の時間を要し、有希は瞼をきつく閉ざして、引き締めた唇を歪めた表情で、するすると布を下ろしていく。
 隠したい気持ちが体に表れ、自然と腰はくの字へと、アソコを少年から逃がしたいように引っ込んでいた。
「いいねぇ? ゴムがお尻の上を滑って、美しい膨らみが見えてくる瞬間!」
(てんめっ、実況してんじゃねーぞ!)
 下げているその間、背後へと回り込まれて、実況のせいで視姦されている部位もわかって、すると急に尻肌が気になって気になって仕方がない。お尻にレーザーでも当てられて、一点が少しずつ温まってくるような、視線を皮膚が読み取る感覚だった。
 そして膝の位置まで下げて、後は穴の中から片足ずつを持ち上げ取り出して、とうとう下半身裸となった時である。
「ああ、僕の目の前でお尻が丸出しになっちゃった」
 脱ぎ終わりの瞬間さえも実況され、その恥ずかしさに苦悶しながら直立の姿勢となって、右手に脱いだものをぶら下げた。
(すーすーする。やべぇっつーの)
 人前で下半身裸となった恥ずかしさもさることながら、お尻やアソコの肌に日光が当たってくる。風が吹けば股の隙間を流れていく。普通の格好では感じる事のない感覚に、体中がそわそわとして落ち着かない。
 背後に立つ少年からの視線も気になり、尻をまじまじと見られる恥辱にも苛まれる。
 その上、これだ。
「さて、おパンツを預かろう」
 正面に回り込み、少年は満面の笑みを浮かべた。
(ぐぬぅぅ……!)
 前に立たれた瞬間に、有希はさっと素早く左手でアソコを覆い隠して、改めて腰をくの字に少し引っ込め、最も恥ずかしい部分を守る。守っていても、やはり下半身裸という事実そのものが恥ずかしく、手で隠す程度では慰めにもなっていない。
 有希はショーツを差し出した。
 預かろうとしてくる少年の手に、脱ぎたての白いショーツを預ける瞬間の、より一層の屈辱で顔中が歪む。悔しさやら恥ずかしさやら、胸を締め上げる感情で、ただ手渡すのではなく乱暴に、相手の手の平をペチンと叩く勢いで手放すのだった。
(やべぇよ、脱ぎたてを渡すって、想像以上にハズいじゃねーかよ)
 有希は顔中に苦悶を浮かべ、頭に羞恥の熱を溜め込む。いつ脳が沸騰してもおかしくないほど、激しく狂おしい恥ずかしさに囚われて、表情どころか手足の挙動からさえ落ち着きは失われた。
「脱ぎたてだねぇ? 体温が残ってるねぇ? 温かいねぇ?」
 少年はわざとらしく左右に広げ、指の間にぶら下げる。たった今まで有希の下腹部を守っていたものが、相手の手に渡った光景は、防具を奪われ無防備になる心許なさと、弱みを握られてしまった気分を同時に煽り、有希は頬から熱が噴き出していた。
「さーて、クロッチはどうなっているのかな?」
 自分の行為を見せびらかすようにして、少年はショーツの布を裏返しに、穿けばアソコと触れ合うその部分に視線を送る。下り物の痕跡を確かめて、さらには指でなぞってみせたり、顔に近づけ匂いを嗅いでみせる真似までして、それら辱めに耐えきれず、有希は顔を背けていた。
「……と、とんだ変態なのですね」
「そうかもしれないね」
 ショーツが少年のポケットにしまわれた。
「あっ…………」
 大切なものが遠くへ行ってしまったような、待って欲しくてたまらない思いに駆られる。下半身裸の格好が本当に心許なく、そのポケットに隠れたものが恋しくて恋しくてたまらなかった。
「始めるよ? 有希さん。手すりの方へ移動しよう」
 わざわざそんな場所へ移動させられ、立ってみればグラウンドでは、体育の授業でサッカーボールを追いかける男子の姿と、マラソンで校庭の周りをぐるりと走り、校舎に沿った道のりをコースに含めるクラスが目に飛び込む。
(なんつー状況だ)
 グラウンドとは距離が遠い。
 有希の目には人間が豆粒ほどにしか見えない以上、サッカーに勤しむ男子が屋上の手すりに気づいても、それがどこの誰なのか、まして服装まで判別する事はできないだろう。校舎手前を走る生徒も、角度のために有希から真下の姿は見えず、向こうからも手すりに立つ人影は見えないはず。
 と、頭ではわかっていても、大勢の人を前にしながら下半身裸という、露出狂の真似をしている状況に苛まれ、苦悶の表情がますます歪む。
(マジックミラー号で恥ずかしいわけだよクソッタレめ)
 外からは中が見えない、そうわかっていようとも、マジックミラー越しに人々が集まって、そのすぐ前で裸になれば羞恥心を煽られるわけである。
 有希の心境はまさにそれだ。
 見つかるまい、気づかれても小さな人影にしか見えまい、下半身裸であるとバレるはずがあるまいと、そう思ってはいても恥ずかしいのだ。
 そんな羞恥を抱く有希の背中へ、少年は抱きついてきた。
(ぐおっ、き、キッツ……!)
 好きでもない男の体がべったりと背中に当たり、尻には肉棒の膨らみが押しつけられる。背後から回る左手で乳房を掴まれて、有希は完全に引き攣っていた。
「さあ有希さん? 制限時間は十五分だ」
 右手ではスマートフォンを見せつけられ、その画面ではタイマーがセットされていた。
「始めるよ? 三、二、一――」
 と、合図と共にスタートボタンに親指が置かれ、カウントが始まると共にスマートフォンはポケットの中へと引っ込んで、とうとうゲームは始まった。
 右手がアソコへやって来て、ワレメを指先でなぞられる。左手に掴まれた乳房が揉まれ、指の蠢く愛撫によって、感じたくもない快楽が与えられてモゾモゾと、肩や胴が動きそうになってしまう。
(キッツい、マジでキッツい……!)
 抱きつかれ、体を触られる苦痛に顔中が歪んで鳥肌も広がって、しかし性感帯への刺激ではあるせいか、胸にも性器にも快楽の気配が現れている。揉まれる左の乳房では、頂点に血流が集まって、乳首が突起しつつあるくらいだ。
(……っじたく、ないんだけどなぁ?)
 好きでしている事でもないのに、あえて気持ち良くなりたいとは思わない。だが指先がワレメを走れば刺激が巡り、乳房を揉みしだく柔らかな手つきは、やけに手慣れた風に快感を与えてくる。
「そうだ、言い忘れていたけど、愛撫への抵抗は禁止ね。ゲームバランスゲームバランス。両手はしっかり手すりを掴んで、僕の腕を邪魔しないようにね」
「え、ええ……そうですね……」
 不承不承、有希は手すりを握り締め、愛撫に対して無抵抗に徹していた。握っていなければ、確かに腕が反射で動き、思わず抵抗してしまう瞬間があるかもしれなかった。
 指先が制服の布を引っ掻いて、ブラジャーの裏に隠れた乳首を刺激する。アソコをなぞる指先で、膣に快楽を感じている。それら二箇所の愛撫の耐え難さに、手すりを握る拳に力がこもり、肩から指先にかけて強張っていた。
 そして――。
「ひっ……!」
 制服とブラジャー越しに乳首を摘ままれ、指による圧迫が刺激となって声が上がった。
「可愛い声だねぇ?」
(くっ……! うっさいわ!)
「んっにゃっ……!」
 アソコを愛撫してくる指の、下から上へと登るタッチがそのままクリトリスをくすぐって、硬く突起した肉芽への刺激で腰が震えた。
「いい鳴き声だよ? 有希さぁん?」
(っさいわ!)
 煽る言葉に苛立って、しかし声が出ている事は確かで返す言葉もなく、悔しげに歯を食い縛ると、そこで愛液の分泌は始まった。まだ濡れてはいなかったアソコに汁気が現れ、すぐにでも指でそれが掻き取られ、塗り伸ばすような軽やかなタッチが肉貝を行き交っていた。
「んぐっ、くぅ……! んあっ、あっ、やっ……!」
 アソコが快感から逃げたいように、腰が奥へと引っ込む反応で、有希は股間にお尻を押しつけていた。密着度合いを自分から上げたいなど、思ってもいない事なのに、抑えきれない肉体の反射でぐいぐいと、股間と尻の押し合いを起こし、割れ目の部分で肉棒を如実に感じていた。
(ってか、出そう……お、オシッコ……マジでヤッバい、どうすんだこれ……!)
 尿意が強まっていた。
 トイレに行きたい感覚などないと思ったが、出そうと思えば出せる程度には、膀胱に中身が溜まっていたらしい。なかったはずの尿意が現れ、しだいしだいに危うさを感じる有希は、出すまいと下腹部で力んだり、内股気味に足に力を加えて引っ込めようとしていた。
「あ、オシッコの我慢が始まったね?」
 そして、それは直ちに悟られていた。
(エスパーかお前は!)
 と、声に出したわけでもないのに――。
「エスパーじゃないよ? 様子で丸わかりだっただけだよ?」
(こんのっ、マジでこいつ……!)
 愛液を掻き取るうちに、オイルでも帯びたように濡れた指先が、改めてクリトリスに集中する。敏感な部分ばかりを狙ってくすぐる刺激によって、ますます腰が震えたり、ピクっと後ろや左右へ動いてしまう。
「ぐっ、ぐぬぅ……! ぬっ、ぐぅ……!」
 ピクッ、ピクッ、と、電流の駆けた筋肉がどうしても反応して、右へ左へとお尻が動く。
「あれ? 有希さん? 僕のオチンポをお尻で撫でてくれているのかな?」
 調子に乗った言葉の通り、そんな動きをすれば確かに尻を駆使した愛撫となり、スラックスの中身を気持ち良くする形ではないか。
「そんなつもり、わたくしには……ぐっ、あっ、くぅ……!」
 ますます愛液が滴って、内股に何滴かの滴が伝う。尿が出ているわけではないが、膝を通って靴下まで向かう水気の筋に風が当たって、その部分がひんやりした時、もう既にお漏らしをしてしまっている気分になり、膨らむ恥辱感で有希は耳まで染め上げていた。
(くっそ! いま何分なん? もうよくね? もうよくね?)
 早く終わって欲しいあまりに、もう十分以上は経っていて欲しい願望を抱くのだが、少年のタイマーはポケットの中に隠れている。時間がわからないもどかしさで、実はまだ一分しか経っていなかったらどうしよう、そんな不安が湧いていた。
「手が塞がってるから、時間は確認できないかなぁ?」
(心を読むな心を!)
「エスパーじゃないよ? そろそろ時間が気になるだろうと思っただけだよ? 音が鳴るまで待つことだね」
「ぬおっ、ぐっ……! くっ……! うぐぅ……!」
 指先で巧妙に引っ掻く刺激にクリトリスが襲われて、そのひと掻きのたびに強い電流が腰を貫く。
「んぐぅ……!」
 声が出ると同時に、ピクっと動く。
 お尻をくいっと動かしてしまう反応の繰り返しで、有希はまたしても肉棒を慰めているのであった。
 ピクッ、ピクッ、ピクッ――。
 そして、その直後には尿意の段階が増していき、下腹部を力ませたり、内股に力を込める我慢を今まで以上に意識して、何とか押さえようと懸命だった。我慢の努力をしなければ、もはや今すぐにでも漏れそうなほど、外に出そうな感覚は強まっていた。
(マジで……もう……や、ヤバ…………!)
 有希の脳裏に、一つの選択が浮かんでくる。
 ギブアップ、どうかトイレでさせて下さい。
 負けを認めて懇願すれば、少なくとも青空の下での放尿だけは避けられないかと考えていた。
「オシッコはあくまで屋上でしてもらうからね? トイレに行けるのは、有希さんがゲームに勝った場合だけだよ」
「くっ……!」
 有希の目尻に涙が浮かぶ。
 あと残り何分なのか。
 もしやゲームに勝ったとしても、ショーツとスカートを穿き直し、それからトイレへ移動するのは、もう間に合わないのではないか。勝とうと負けようと、どちらにしろトイレでは出来ない段階に達していないか。
 そんな恐怖を抱いた時、とうとう有希は一滴だけ、愛液ではないものを出してしまった。

 チョロ……。

 と、たった一滴。
「ん? あれ?」
 それが指に付いたのか、少年は何かおかしいと思ったような、いかにも首を傾げた声音で尋ねてきた。
「有希さん? もう限界?」
「ま、まだ……!」
 思わず即座に答えてしまうが、そこで走ったクリトリスへの刺激により、ぎょっと目を丸めてますます我慢の限界が近づいて、もはや傍からみっともなく見えるほど、はっきりと股を閉ざして全力の我慢を始めていた。
 腰をくの字に、下腹部に力を込めて、股を全身全霊で閉じ合わせていた。
「わー? 我慢してる我慢してる」
 それだけ強く堪えなければ、もはや放尿を押さえる事など不可能だった。
 そして――。
(詰んでる……じゃねぇか…………)
 とうとう恐れた状況になった。
 今が残り一分だったとしても、果たして今からトイレへ行って間に合うだろうか。階段や廊下で限界を迎え、ここで出すよりもっと酷いお漏らしにならないか。
 人の行き来する廊下で漏らすのと、見ているのは少年だけのここで放尿する事を天秤にかけるなら……。
「ぎ、ギブです……もう、出させて…………」
 泣きそうな思いで敗北を宣言した。
 すると――。
「じゃあ手伝ってあげるよ。僕の言う通りに足を上げてもらえるかな?」
「え、え……?」
 手伝いとはどういう事か。
 一体、何を考えているのか。
 その想像がつかずに困惑する有希へと、まずは右足を上げるように指示が出て、すると膝の裏側に右手が差し込まれる。今度は左足を上げるように言われて、ならば出来上がる形といったら、つまりM字開脚ではないか。
 なんと惨めな状況だろう。
 有希は足を左右にぐいっと広げ、アソコを大胆に晒したポーズとなって、少年に体を抱えられていた。M字開脚という恥ずかしい形で持ち運ばれ、これから壁かどこかに尿を引っかける羽目になるのだ。
(くっそぉ! 死にてぇ!)
 本当に惨めであった。
 少年の足が出入り口へ向かっていく。その両手で運ばれて、きっとその壁へ用を足すことになる自分を思うと、心の底から泣けてくる。
「さあ、出して?」
 壁を前にして、有希は我慢を緩めていく。恥ずかしさと屈辱で死にそうな、気がどうにかなりそうな思いの中で、ついに黄色いアーチを解き放ち、チョロチョロと引っかける水により、壁を汚し始めるのだった。

 チョロロロロロロロ………………。

 黄色い曲線が壁にぶつかり、着弾地点で細かな滴を散らしながらに、表面を伝った水流が下へ下へと、そこに水溜まりを形成していく。トイレではない場所を汚すという、品性ある人間としてすべきではない行為に涙が滲み、みっともないあまりに両手で顔を覆い尽くした。
 さらに、その時である。
 少年が移動を始めた。
「え……!」
 ぞっとした。
 尿が出ている真っ最中で、だから思わず我慢で中断しようとするのだが、放水は止まってくれない。黄色いアーチが放出されているままに持ち運ばれ、移動に応じて水で線が引かれる形となり、有希の前に迫ってくるのは手すりであった。
「ま、まさか……!」
 青ざめた有希の成すアーチは、なんと手すりの向こう側、校舎に沿ったアスファルトへと降り注ぐ。
 心臓が跳ね上がった。
 顔面は蒼白になった。
 壁や床を汚すだけなら、まだしも人に知られずこっそりと済ませられた話だろうに、手すりの向こうへ尿を撒いてしまったのだ。
 ようやく尿意は薄れていき、緩んだアーチはやがて消え、性器には拭き取るべき滴が残る。
 だが有希の顔には絶望が残っていた。
「なんか降って来たぞ?」
「なに? 誰かなんか捨てた?」
 地上から聞こえる二人ほどの男子の声に、青ざめたはずの有希は改めて真っ赤になった。
 尿を、見られた。
 きっとそこには水が染み込んでいて、そこに男子の視線が突き刺さるなど、お漏らしの痕跡をニヤニヤと観察されるかのように恥ずかしい。
 なにせ、実際にお漏らしそのものだ。
 まさか彼らは、それがオシッコだとは思いもしないだろうとわかっていても、それでもやはり堪らなかった。
「ほら、謝りなよ」
 少年が囁いてくる。
「謝るって、今のはあなたが……」
「だーめ、謝って? それも含めてプレイだから」
 にったりと笑った声で囁かれ、いっぱいいっぱいになりながら、有希は必死に取り繕った。

「やっべ! ジュース零しちゃったわ! ごめーん!」

 自分の正体を悟らせないためと思って、学校ではほとんど誰にも見せる事のない、素のノリで振る舞った。そうすれば、犯人が周防有希だと誰も想像しないだろうと計算していた。
「気をつけろっつーの!」
「濡れたらどうすんだよ!」
 地上からそんな大声がかかってくる。
「ごめーん!」
 有希もまた大声で返したところで、ようやく少年の手から体は下ろされ、今まで彼のポケットに収まっていたショーツも突き返される。
(くっそぉ……)
 有希は悔しかった。
 屈辱で膝を突き、大地に両手を突いて震えていた。こんなにも深い敗北感を味わって、悔し涙まで出て来る日が来ようなど、今まで思ってもみない事なのだった。