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  • プラチナ 屈辱の健康診断

    
    
    
    ~前編~
    
    
     ロドスより通達。
     某任務の地域にて、新種のウイルスが流行していたと判明。感染力は非常に高いが、幸い治療法は確立している。
     当該地域に出入りを行った者は、指定の隔離施設にて健康診断を受けるものとする。
     通達は以上――。
    
         ***
    
     連絡を受け取って、指定の施設とやらを訪れるが、健康診断実施にまつわる詳細を見てため息をつく。
    「私、女の子なんだけど」
     感染力の高い新種という割りには、たかだか錠剤を飲んで安静に過ごすだけの治療法でいいらしい。気になることといったら、感染拡大を防ぐためにも完治まで外出禁止になる点くらいだ。
     こんなに早く薬が出来ている理由は気になるが、今はいい。
     問題なのは男性だらけの場所で診断を受けるということだ。
     当該地域に向かった女性が一人だけ、他は全員男性だったという経緯に、検査を担当可能な者の予定が一日しか空かないといった事情が重なったことが原因だ。
     日程が被るくらい、まあいいだろう。
     しかし、担当者達の滞在可能な時間さえも限られており、実施時間帯すらずらせない。果ては男女同室でまとめて一括で行いたいとの旨まであり、さすがに文句の一つも言いたくなってくる。
    「どいつもこいつも……」
     プラチナは深いため息をつく。
     何十人もの男が集まり、行き来している屋内では、一人だけ混ざった少女に対する注目は密かに集まっていた。みんながみんな、あからさまなわけではないが、チラチラと気にかけてくる視線はいくらでもある。
     服装については事前に着替えの指示があり、プラチナの場合は薄手のシャツを着ておくように言われている。内側の下着は外しておき、すぐに胸を診察できる状態にしてあった。
    (だから、あんまりこっち見ないで欲しいんだけど)
     柔らかなシャツに乳首が浮き出てきそうで、腕でさりげなく隠していなければ落ち着かない。
     しかも、スカートで来るようにとの指示すらあった。
    (それってさ。たぶん、アソコも……)
     考えたくはないが、わざわざ指示を出してきた以上、その可能性は十分にある。
     さらにあった指示として、髪が長い場合はゴムで束ねておくようにも言われている。プラチナはそのために、今日は特別にポニーテールだった。
     ここに集まった面々は、番号札の配布によっていくつかのグループに分けられる。グループごとに呼び出しを行い、まとまって検査室へ入っていく実施方式となるらしい。
     ロビーで待機していたプラチナは、番号札の一番から二十番をまとめて呼び出すアナウンスに応じて立ち上がり、検査室への案内について歩いた。
     そして、検査室に着くなりだ。
     機材や測定器を扱うための職員達が、こぞってプラチナに視線を集め、女の子の存在に明らかにそわそわしていた。女性を診るとは聞いていなかったのか、どうなのかは知らないが、妙に注目されても困る。
    「アンタ達、あんまりこっち見ないでくれる?」
    「は、すみません」
     文句をつけると、たまたま近くにいた職員の一人は、適当に会釈をして謝ってくる。
     プラチナはため息をついた。
    (さっさと帰りたいね)
     見れば機材の扱いに関して質問を重ねていたり、年配から実施時の注意を受けている若手の姿が見受けられ、どうも経験の浅い者が多そうな気がするのだ。
    「さて、プラチナさん」
     一人の中年がプラチナの元に歩んで来た。
    「アンタは?」
    「私がこの健康診断の責任者です。事情は聞いているとは思いますが、我々は様々なポイントを常に忙しく行き交っている身の上でして、この診断も出発時間に間に合うように済ませなくてはなりません」
    「そんなに急いでいるんなら、これも無駄話だね」
    「確かに、では早いところ診断を済ませてしまいましょう」
    「そうだね。よろしく」
    「そこでなんですが、見ての通り男性ばかりです。ここはお早めに検査を受けて頂き、なるべく早く施設を後にしたいのではと考えますが、どうでしょう」
     診察の順番を一番にして、女はさっさと帰らせようというわけか。
     最初から男女別にしておくなり、プラチナだけが別室で受けられる用意があれば、それが一番ありがたかったのだが、見渡す限りの職員の大半は、経験が浅そうなわけである。ならば人材も足りていないのかもしれない。
    「ちょうど、さっさと帰りたかったところだよ」
    「承知しました。では早速、内科検診の方から受けて頂きたく思います」
     中年はその方向を手で示す。
     プラチナが目を向けると、一人の青年が首に聴診器をぶら下げながら座っていた。
    「よろしく」
     すぐさま青年の前に腰掛けた。
    「はい。ええ、プラチナさん? ですね。よろしくお願いします」
     青年はすぐに聴診器を握り絞め、最初はシャツの上から音を聞く。
     しかし、みるみるうちに難しい顔を浮かべて、プラチナにこう告げた。
    
    「……で、では胸を出して頂けますか?」
    「はあ? 恥ずかしいんだけど」
    
     男だらけの環境だ。
     露出を求められるなり、口を突いて出るのは反抗的な言葉であった。
    
         ***
    
     精度が悪いか何かで、服の上からは聞こえないとでも言うのだろう。
    「あの、どの道……皮膚も見ますし……」
     などと付け加えてくる。
     そして、診察上の指示に従わなければ、次にどんなことを言ってくるか。
    (わかってるよ。感染してたらまずいっていうんでしょ?)
     つい反射的に吐き出してしまった台詞に、青年は困り切った顔をして、目でベテランに助けを求めていた。
     新種のウイルスとやらに感染して、症状が出た場合の話は聞いている。
    (私だって、それは真っ平)
     治療薬があるというなら、感染の有無は是非とも確かめ、ここで安心しておきたい。
    「わかったわかった。少し我慢すればいいってわけだ」
     本当は冗談じゃない。是非とも突っぱねたい話ではある。
     だが、たかが錠剤を飲んで安静にするだけという割りに、発症した場合の死亡率は高いというのが恐ろしい。
    (自分だけは生き残り、薬を持たない人間は必ず死ぬ。それって、とっても裏を感じてならないんだけど)
     だから引っかかりはする。
     ウイルス流行の裏には、プラチナの知らない何が一体隠れているのか。
     だが、今ここで気にするべきは、自分が感染しているかどうかだ。
    (命を握られた気分っていうんだか)
     プラチナはシャツを掴み、たくし上げる。
     担当職員の面々どころか、他のロドスのメンバーまでいる中で、ただ一人の少女が乳房を出すのだ。こんな状況を歓迎するのは、よほどの露出狂くらいでである。
     そして、言うまでもなくプラチナにそういった趣味はない。
    (やだやだ)
     シャツを持ち上げ、腹部がほとんど露出したあたりで、頬が急速に加熱する感覚を覚えて手が止まる。まるで反発力が働くように、乳房を出す直前になって手が上がらなくなり、どうにか思い切って振り切らなければ、抵抗感で最後まで胸を出せそうにない。
     周囲からの視線も感じた。
    (プラチナがおっぱい出してるんだ)
    (あっちには見えてるってことだよな)
    (どんな胸なんだろう)
    (やっべぇ、興味沸く!)
     もしも周りの心が読めたら、それら男の声という声が聞こえたことだろう。
    (……注目しないで欲しいんだけど?)
     読めこそせずとも、自分に集まる視線の数は、肌中にひしひしと感じられた。
     こうなると、ますます胸を出しにくい。
     最後まで出し切れば、周りから向けられる感情はどんなものになるか、女の身なので想像がついてしまう。乳房への好奇心が一気に集まり、自分も見てみたいかのような気持ちを誰しもが抱くのだろう。
    (はあ、やだやだ。本当に嫌だね)
    「……あの」
     困り切っている青年は、非常に言い出しにくそうに、気の弱い声を出してくる。
    「はいはい。これでいいわけ」
     結局、出さなければ終わらないことはわかっている。
     プラチナは反発力を押し切って、最後までシャツをたくし上げると、茶碗ほどの膨らみを持つ美麗な半球ドームを曝け出す。実に丸っこく、色白で柔らかそうな乳房には、桜色の乳首がよく目立つ。
     恥辱感が沸いてきた。
     美白肌とは対照的で、桜色はいささか注意を集めやすい。
     青年は固唾を飲み、内心の歓喜で今にもニヤけそうな顔立ちから、必死になって表情を繕おうとしているのが見て取れた。興奮と喜びが一瞬でも見え隠れしたおかげで、プラチナに対する性的な気持ちの存在は明らかなものとなっていた。
    (……最悪だね)
     プラチナはますます顔に羞恥を帯びて、青年から目を背ける。
     あくまで診察、他人の肌など見慣れたものとして、単なる物体の一つとして見てもらえれば、一体どんなに良かったことか。女の肌に本当は興奮している男から、それでも診察を受けるなど、いかにも屈辱的である。
    「では聴診から……」
     青年はまじまじとした視線を向けてきながら、聴診器を近づける。
     ひんやりとした感触が胸の中央に当たってきて、その冷気にプラチナの体は一瞬だけ、かすかにプルっと震えていた。
    「………………」
     無言となり、耳に意識の集中を始める。
     しかし、目はばっちりと大きく開かれ、必要以上の視線を乳房に注ぎ込んでくる。荒い息遣いまで聞こえてきて、この胸が青年の興奮のネタになっていることは、プラチナにははっきりと感じ取れてしまうのだった。
    (………ああもう、こっちは本当に恥ずかしいのに)
     プラチナが我慢している一方で、男の方は得をしているかと思うと腹が立つ。
     それに、乳房に触れそうな距離に異性の手が来ている状況は、プラチナに緊張感まで招いてくるのだ。たった数センチでも指が動けば、いとも簡単に触れられてしまうのは、生殺与奪を握られ下手に身動きが取れない気持ちに似ていた。
     拳銃を向けられれば、引き金一つで簡単に命を奪われる。
     それと似て、触れようと思えば触れてしまえる位置に、青年の手は来ている。命とまでは言わないまでも、何かを握られている気分になるもの無理はない。
     十分に聴いたのか、聴診器が遠ざかる。
    「皮膚を全体的に見たいので、そのまま脱いで頂いても……」
     その要求にプラチナは天を仰いだ。
    「周り、男なんだけど」
    「……すみません。しかし、その」
    「はいはいはいはい」
     事情の説明などもういい。時間の無駄だ。
     こうなったら、速やかに診断を終えてもらうのが一番手っ取り早いと考えるしかない。
     プラチナはそう割り切り、シャツを脱いで見せるのだが、上半身裸になった途端に顔の熱が上がっていった。頬がさらに赤らんで、顔中に羞恥の浮かぶ感覚が自分でわかる。
     これで後ろからの視線圧も強まった。
     青年の目も、視診の意図ではあるのだろうが、口角の微妙に吊り上がってみえるあたりから、ニヤニヤを隠しきれていない。周囲を行き交う職員すら、ついでのようにプラチナの胸に目を向けるのだ。
    (……ジロジロと)
     見られている側にしてみれば、これでは視診と視姦の区別がつかない。
    「後ろを向いて頂けますか?」
    「…………え」
    「あの、後ろを」
    「…………」
     プラチナは閉口する。
     シャツは脱いでしまっており、この状態で後ろを向けばどうなるか。
    (いや、手で隠す)
     咄嗟の思いつきで腕のクロスを作り上げ、頑として見せまいと自分自身の身を固く抱き締める。青年には背中を向けると、プラチナの目の前に集う男という男の数々は、少しがっかりしたような、それでも目を背けられずに見てしまう、吸引力に抗えないまま顔ばかりを並べていた。
    (冗っ談じゃない!)
     プラチナは憤然とする。
    「あんまり見ないでくれる?」
     大きな声ではっきりと、厳しい声色と目つきで男達を咎めてやる。
     すると、途端に気まずそうな顔で目を逸らしたり、どこか適当な方向を向いたりし始めるが、プラチナへの意識をどうしても持たずにはいられないらしい。気になって気になって、チラチラと窺おうとしてくる気配がいくらでもあった。
     さらにだ。
    「一応、ベテランの目でダブルチェックといきますかね」
     先ほどの中年が現れるなり、目の前でしゃがみ込む。
    「な、なに? ダブルチェックって」
    「後ろの子ね。経験が浅いから、皮膚の視診も慣れていないんですよ。経験豊富な私が誤診防止のチェックに入ろうというわけです」
    「へえ? 熱心なもんだ」
     プラチナは声が上擦っていた。
     冗談じゃない、本当に冗談じゃない。
     この状態で腕を下ろせば、どうなるかぐらいはわかっているはずだ。
    「見せて頂けますね?」
     中年は実に穏やかに、余裕の態度で頼んでくる。
    「気遣いって言葉、知ってる?」
    「ええ、存じていますが、こちらの事情は既にわかって頂けているはず」
    「そうじゃなくて、後ろの視線をどうにかして欲しいんだけど」
     せめて、乳房を見せるのは医者だけに留めたい。診断とは関係のない、医療関係ではない職員の視線など、一秒たりとも浴びたくない。
     プラチナの要求したい内容は、せめてその程度のものだった。
    (だいたい、衝立くらい用意して欲しいもんだね)
     そういえば、衝立すら置かれていないことに気づき、プラチナはますます憤りを膨らませる。
    「あー、プラチナさん」
    「……なに」
    「これはあくまで、あなたが感染していた場合の話なんですがね。治療薬を持っているのって、現状では我々だけなんですよ」
    「それで?」
    「簡単な話です。きっちり、詳しく診ておかないと、誤診で見落として、感染者に薬を出さないなんてケースを発生させかねません。どうかご協力を」
     プラチナの求める配慮については無視しながら、中年は実に遠回しに脅迫してきた。
     言葉通りに捉えれば、ただ正論が述べられただけである。
     しかし、薬を持っているのは自分達だけで、感染者相手なら生殺与奪を握ることが出来る。プラチナ自身の命はもちろん、他の人間を人質のように扱うことも可能だと、この中年はそう告げてきているわけである。
    「私はただ、周りの連中に後ろを向いてもらうとか。関係無い人の目から隠れるようにして欲しいってだけなんだけど」
    「うーん。おっしゃることはわかりますが、手間がかかりますので」
    (なにが手間だ)
     要するにこの男は、プラチナの胸が大勢の男に視姦されるよう仕向けたいのではないか。何か恨みでもあって目に物見せるなり、人の恥じらう姿でも見たいのではないかと、プラチナは中年のことを疑い始めた。
    「おっと、あまり時間を取られますと、プラチナさん一人のために何人の人が診断を受け損ねることになるか」
     それもまた、穏やかで優しい口調ながらに、しかし確実に脅迫だった。
    (……なんだっていうの)
     良くも悪しくも、プラチナの診察順は一番だ。
     周りを見れば、数人の医師により、一度に平行して何人かの診察は開始して、ちょうどプラチナの隣でも男がシャツをたくし上げている。
     だが、プラチナのせいで時間を食えば、受け損ねる者が出るのは言う通りなのだろう。
     相手の立場の強さを考えると、下手に逆らえない気になってくる。
     それでも、やはり本当は見せたくない。
    「…………あとでクレーム付けてやるから」
     屈辱にまみれた真っ赤な顔で、ぎゅっと抱き締めるような腕力のこもった腕から力を抜き、だらりと下ろす。
    
    「医者以外は見るな!」
    
     すぐさま一喝すると、おおよその男が視線をどこかに背けていく。自分に集まっていたものが散り散りに、視姦の圧が少しのあいだは消え去ったが、数秒もすればチラチラと気にしてくる気配は蘇る。
    (くぅぅぅぅ……! これじゃあ何回言えばいいんだか!)
    「ふーむ」
     中年も、視診の名の下に乳房をジロジロと眺めてくる。
    「アンタが壁になってくれたら、せめて後ろからの視線が遮られると思うんだけど?」
    「いやいや、こちらの方が見やすくてね」
    (こいつ……!)
     プラチナは歯軋りした。
    「失礼します」
     その時、青年は後ろから聴診器を当ててきて、聴診まで始まってしまう。
     二人の医師により、前後からの挟み撃ちを受けながら、周囲の視線は確実に乳房に集まって来る。あれほど大きな声で言ったにも関わらず、一人また一人と、もうさっきの言葉は忘れ、プラチナの乳房を見始める。
     視線の量はしだいに増え、その分だけプラチナの抱える羞恥心も膨らんでいた。
    「こうやってね。聴診と視診によって、既に症状の気配が出ていないかを確かめる。ウイルスにはいくつも型があるから、感染といってもタイプによって症状に差異がありますからね」
     などと解説を交えつつ、中年は目を見開きながらの視診をしてきていた。
    (あれがプラチナのおっぱい)
    (すっげぇ、綺麗だ)
    (美乳だろ美乳)
     周囲の男は鼻の下を伸ばしきり、また怒鳴られるかもしれないことなど忘れ、何人もが視姦を行っていた。
    「終わりましたので、またこちらを向いて下さい」
     後ろから声がかかり、プラチナはさっさと男達に背を向ける。
     再び聴診器が当たってきた。
    (……また?)
     見落としが心配なのか、何なのかはわからないが、再び胸の中央に当てて来る。数秒も音を聞けば、ペタペタと位置を変え、乳房のすぐ下の位置から音を聞こうと試みる。
     そのうち、次の瞬間だった。
    「――んぁっ!」
     声が出てしまった。
     聴診器が乳首に掠め、それが思わぬ刺激を生み出したのだ。感じたのもあれば、驚いたということもあり、プラチナは肩を跳ね上げてしまっていた。
    (今のは?)
    (か、感じたのか?)
    (感度いいってことか?)
     周囲の男に広がる劣情は、まるで室内の空気を変質させるかのようにして、プラチナ本人にも伝わっていく。きっと今ので興奮するなり、下品なことを考え始める男がいくらでもいるのだろうことを、肌中が感じ取っていた。
    「すみません」
     謝りながらも、青年は乳房の頂点に聴診器を置き、乳山を押し潰してきた。
    (ちょっと……!)
     まるで聴診器を使って揉まれるようだ。
     潰しては脱力して、すると乳房の弾力が聴診器を押し返す。潰して、脱力して、潰して、脱力して、それを延々と繰り返す青年のやり方に、みるみるうちに甘い痺れが溜まってくる。
     性の経験はなく、せいぜい過去に何度かオナニーに興味を持ったかどうか程度のプラチナである。その自分の感度がここまで高いなど、想像だにしていない。思いもしない快感に驚きを隠せなかった。
    「や、やめてくれる?」
    「ああ、すみません」
     青年は聴診器を引き下げる。
     だが、それでまるっきり安心するかといったら、そうでもない。辱めを受けた余韻が乳房に残り、ピリピリとしたかすかな電流が未だ走り続けている。心の中にも、好き勝手に遊ばれたような屈辱感がこびりつき、やめてもらった程度で晴れ晴れとするわけがない。
    「では触診の方を行っていきますので」
    「触診って……」
     プラチナは大いに引き攣った。
     青年の両手が迫りかけ、その瞬間に体が後ろへ引けそうになっていた。
    「はい、逃げちゃ駄目ですよ?」
     そこで中年が背後に立ち、肩に両手を置いてくる。
     プラチナは反射的に固まってしまい、結局は動くこともできずに、手が乳房に触れてくるのを受け入れてしまっていた。
    (うっ、やだぁ……!)
     表情がしわくちゃに歪んでいく。
     お椀ほどある乳房は、青年の手にしっかりと包み込まれ、指の蠢きによってよく揉み込まれていた。踊る指遣いによって柔らかな変形を繰り返し、脱力すれば弾力が指を押し返す。
    「んっ、んぅ……んっ、んぅぅぅ…………んっ、んぅ………………」
     揉まれれば揉まれるほど、先ほどの甘い痺れが強まった。
     せっかく、少しは引いたと思ったものが、こうも早く蘇り、その快感に肩がモゾモゾと動いてしまう。息遣いも荒くなり、喘ぎ声というほどではないが、呼吸の中に色気ある声が混ざってしまう。
    「なあ、感じてないか?」
    「そうみたいだ」
     ヒソヒソと話す声がプラチナの耳には届いていた。
     目を向ければ、そこで機材を見ていた職員達が、プラチナの様子に気づいて小さな声で話し始めていた。
    「あーあー。診察で感じるなんて」
    「よっぽろ感度が高いんだろう」
    「しょっちゅうオナってるんじゃないか?」
     それらの声を聞けば聞くほど、プラチナの胸で屈辱が膨らんでいた。オナニーが大好きであるかのように見做される恥ずかしさに、顔から火が出そうになっていた。
    (なにがしょっちゅうだ!)
     プラチナは職員達を睨む。
     それに気づいた職員らは、気まずそうに作業に戻る。
    「んぅ!」
     だが、ひときわ大きな声が出てしまい、せっかく離れた職員達の視線が再び集まった。
     乳首をつままれたのだ。
    「アンタ……な、なにするの……んぅ……んっ、んぅ…………」
    「あの、これも必要な触診でして。感染していると、型によっては乳首に症状が出て、特別な痛みが出るんです」
     申し訳なさそうな顔をしながら、青年はしきりに乳首を虐めてくる。
    「んっ、んぅぅぅ……! 痛くなんて、ないから…………」
    「ところで、これは突起している状態ですか?」
    「は、はあ!?」
    「いえ、その。ウイルスの影響で肥大化するケースがあるので、性的興奮による突起とは必ず区別をつけなくてはいけません。これは突起状態でしょうか?」
     言葉だけなら、必要な質問の一環として尋ねてきたに過ぎないものだ。
     だが、顔を見れば違う。
     その顔は明らかに何かを期待している。期待通りの答えであって欲しいかのような、怪しい下心がひしひしと感じられ、周りからさえ似たようなものが伝わって来た。
     背後の中年、順番待ちのロドスのメンバー、周囲を回る職員達の、全てがプラチナの回答を聞き逃さないように意識している。露骨に目を向け、集中して聞こうとしている者は言うまでもなく、一見して興味がなさそうに、目すら向けていない者でさえ、プラチナの声を聞き逃さないため、耳に神経を集中している。
     部屋全体がそういった空気に包まれていた。
     プラチナの乳首が突起している理由は、ウイルスなのか性的反応によるものか、その真実を決して聞き逃してはならない。
     重大な発表を待つ空気がみるみるうちに形成され、こんな中で答えなくてはならないプラチナには、これはたまったものではない。
    (なんでこんなことになるんだか! 最悪っ、本当に最悪!)
     こうしているあいだにも指は動いて、乳首を弾いたりつまんだり、青年は刺激を繰り返す。
    「んぅ……くっ、ぬぁぁ……! や、やめ…………!」
    「どちらですか?」
     青年はあくまで尋ねてくる。
     こうなったら、なるべく小さな声で答えよう。
    「さっきまではこうじゃなくて……つまり、せ、せ、性的に………………」
     ただそう答えるだけでも、炎が燃え広がるかのようにして、顔中に羞恥の熱は広がっていた。今まで白かった耳にさえ、赤らみは及ぼうとしていた。
    「き、聞こえませんね!」
     青年は震えた声で言ってくる。
    「はあ!? 絶対聞こえてた!」
    「いいえ! もう少し大きな声で!」
     できるわけがない。
     自分はエッチな快感を感じていますなど、そんな宣言を誰が大声でするものか。
    「だ、だから、性的に……大きくなってるから……」
     先ほどよりは大きめに、かといって小声の範囲を超えないように声量だった。
    「すみません。聞こえません」
    「喧嘩売ってる!?」
    「いえ、すみません。けどもう少しだけ……」
    「だから感じたせいで大きくなってるから、もうこれ以上言わせないで」
     とうとう普通の声で答え、あくまで大声は出さなかった。
     もっとも、それで十分だった。
    「聞いたか?」
    「ああ、確かに言ってたな」
    「感じたせいか……」
    「へえ、あのプラチナがねぇ?」
    「確かにあの反応はエロかったもんなぁ?」
     四方八方にヒソヒソとした声が広まり、それに合わせてプラチナの胸にある羞恥心も、急速に膨らんでいた。屈辱感も合わせて膨張して、顔の温度がますます上がる。拳が硬く強張って、暴れてやりたい衝動さえ抱え始めた。
    「ねえ、もういいんじゃ」
     プラチナは怒気を帯びた声で言う。
     すると、背後から青年へと、中年が指示を出す。
    「さあ、そろそろ」
    「……本当にやるんですか?」
    「もちろん、立派な方法の一部だからね」
    「ええ、なら……」
     そのやり取りには不安を煽られた。
     中年は立派な検査方法だと語りつつ、それを実践しなくてはならない青年には、疑問と迷いがある様子だ。そんなものを見せられては、自分は一体何をされるのかと、薄々の恐怖を感じずにはいられない。
     青年の手が遠のいた。
     代わりに顔がぐっと近づき、至近距離から視診される恥ずかしさが込み上げる。
    (……って、見るだけ?)
     てっきり、何か特別なことをやられるのかと思い、その直後に青年がしてきたのが視診である。乳房をこうもジロジロと、嫌には嫌でも、不安に対して拍子抜けではあった。
     だが、次の瞬間である。
    
     ぺろっ、
    
     突如として、想定すらしなかった行為を受け、乳首に唾液の染みた感触が残っていた。
    「……は?」
     まず呆然としてしまう。
     そのあいだにも、もう片方の乳首を舐め上げられ、全身に鳥肌が立っていた。
    「……なっ! なにすんだ!」
     椅子を倒す勢いで立ち上がり、プラチナは必死の形相で胸を隠した。
    「いえあの……」
    「味覚による検査ですよ。れっきとした方法なんです」
     狼狽する青年をフォローするように、中年が穏やかに説明した。
    「あ、ありえない……」
    「いえいえ、症状が乳首に出る場合、味による判定が可能であるとわかっています。というわけで、どうでしたか?」
    「はい。異常なしです」
     さも当然のことをしたと言わんばかりである。
     ……冗談じゃない。
     たとえ今のが事実としても、身体を舌で舐められるおぞましさには、いくらなんでも背筋に寒気が走ったていた。乳首に残る唾液の感触に、嫌悪感からみるみるうちに鳥肌が広がって、乳房全体が泡立つ感覚さえ覚えていた。
    「プラチナさん。次はスカートを脱いで頂きます」
     人がここまで引いている状況で、何事もないように次の指示をしてくる中年の神経がわからない。
    「どうしました? プラチナさん。あまり時間を取られてしまうと……。それに、治療薬を出す出さないを決めるのは我々ですよ?」
     脱ぐしかなさそうだった。
     プラチナはスカートのホックを外し、残り少ない衣服を手放す。
     ショーツ一枚となった途端、頭が弾け飛びそうなまでに羞恥が膨らんだ。
    
    


    
    
    
     ~後編~
    
    
     次はスリーサイズの測定だった。
     担当者は別となり、今度は眼鏡をかけた別の青年と、さらに金髪の青年が補助につき、プラチナは二人のあいだに挟まれる。
     メジャーを持った眼鏡青年の前で、プラチナは頭の後ろ両手を組んだ。
    (ジロジロ見て……)
     眼鏡青年は明らかに乳房に視線を奪われ、表情を取り繕おうとしながらも、興奮を隠しきれていない様子である。隣に立つ金髪青年も似たようなもので、バインダー留めの書類に目をやって、真面目なフリをしながらも、チラチラと乳房を盗み見ていた。
     それだけではない。
    「……パンツだ」
    「白だな」
    「ああ、覚えておこうぜ」
     小さな声だが、そんな会話が周りから聞こえてくる。
    (…………覚えなくていい!)
     プラチナは憤然としていた。
     穿いているショーツは純白の輝かしい生地であり、滑らかな布地には柄のレースが縫い込まれている。
     どんな下着だったかを頭に焼き付け、素晴らしい思い出として持ち帰ろうとする視線は、周囲からいくらでも感じられた。
    「……み、見ないで欲しいなー」
     大きな声を出してみる。
     すると、プラチナの視界にいる限りの男達は、総じてわざとらしく目を逸らし、明後日の方向を向いてみせるのだが、気になって気になって仕方のなさそうな様子は隠せていない。
    「では」
     眼鏡青年は抱きつくかのように腕を背中に回してくる。
    (……うっ、やだ)
     先ほどの、ぺろりと舐められたトラウマが蘇り、顔が乳房に接近しただけでも寒気が走り、体がぶるりと震えてしまう。密着まではされないが、今にも胸に顔を埋めてきそうな距離感は、トラウマを差し引いても緊張を誘うものだった。
     メジャーが背中に引っかかる。、
     そして、眼鏡青年は胸に巻きつけてくるのだが、目盛りを合わせようとする際に、さりげなく乳首に擦りつけてきた。
    「…………んっ」
     声が出かけて、プラチナは咄嗟に歯を食い縛り、顎を力ませていた。
     それが一度だけならいい。
     本当に良いとは思わないが、一度くらいならただの偶然として流してやることは出来ただろう。それが二度も三度も続けられると、わざとやっているとしか思えない。
    「んっ、んぅ……ちょ、ちょっと……?」
    「あ、動かないで下さい」
    「だから、擦られると……んっ、んぅ……!」
     プラチナはしきりに体をよじらせてしまっていた。
     感じてしまうのだ。
     擦られるたび、乳首から何かが弾けたように快感が広がって、身体が丸ごと反応してしまう。肩が軽く引っ込んだり、胴を捻るように動いてしまう。
     眼鏡青年はそのせいで目盛りを合わせられないかのように振る舞って、しきりに乳首を責めてきているが、プラチナに言わせれば、それさえやめてくれれば動かずにいられるのだ。
    「お、怒るよ!? んっ! んぅ……!」
     自分でも驚くほどに感度が高く、声が出るほど感じてしまう。
    「ですから、動かれると……」
    「一回っ! 一回胸から離れて!」
    「はあ、では」
     そのいかにも仕方なさそうに言うことを聞き、これで満足かとばかりの顔を向けてくる眼鏡青年に、ますます腹が立ってくる。
    (っと、なんなのアンタ)
     睨まずにはいられなかった。
     とにかく、甘い痺れの余韻は残るが、これで一旦は落ち着いた。
    「…………乳首には、気をつけて」
     プラチナは実に躊躇いながらそう言った。
     気持ちいいので、身体が反応する。嫌でも体は動いてしまう。そう宣言することの恥ずかしさと屈辱感に、心がプルプルと震えてくるが、そう伝えでもしなければ、また同じことをやられてはたまらない。
    「へー?」
    「やっぱ感じやすいんだ」
    「乳首オナニーよくやるってことかな?」
    「そうじゃないか?」
     本人達は小声で話しているつもりだろう。
    「聞こえてるんだけど!」
     プラチナは怒りに声を荒げた。
     何が乳首オナニーだ。
     そんなことは……本当に、本当にたまにしかしない。だから、自分自身の手で感度を鍛えているわけではない。それに性交の経験もなく、処女の自分がここまで感じやすいことに、プラチナは本当に驚いているのだ。
    (こんなの…………)
     プラチナは思ってしまう。
    (これじゃあ、私にそういう素質があるみたい…………)
     少なくとも、乳首オナニーなどと言い出す男なら、そんなプラチナの事実を知ればきっと言い出すに違いない。極稀にしかオナニーをしないのに、それでも感度が高いということは、エッチの素質があるからだと。
    (ふざけんな。そんなの、なくていいから)
     プラチナが憤然としているあいだに、眼鏡青年は乳房に目盛りを合わせてくる。
     乳首の近くにメジャーが来るせいで、また擦られ、感じさせられるのではないかと、プラチナは緊張と共に身構える。乳輪に食い込む形で、乳首の近くに目盛りが合わさるだけで済み、その一点だけは安心した。
     しかし、わざわざ乳首の近くに目盛りを合わせ、数字を確認しようと顔を近づけてくる。より至近距離から乳房を観察されるかのようで、頬が炎に炙られるかのごとく、恥ずかしさの熱が上がっていた。
     眼鏡青年は数字を声に出し、それを金髪青年に伝えてやる。
    「了解、と」
     金髪青年は紙にペンを走らせ記録した。
    (私のスリーサイズ…………)
     胸囲の書かれた書類を横目で睨み、その記録を後々どうしてくれようかと、プラチナは頭の中に計画を立て始める。
     しかし、今は……。
    「次はアンダーバスト」
     乳房の真下に目盛りを合わせ、やはり金髪青年に数字を伝える。
    「ほい、と」
     それは紙に書き込まれる。
    「ウエストですね」
     緩めたメジャーを下へとずらし、今度はヘソの近くへ巻きついた。
     同じく声に出して読み上げて、金髪青年がそれを書き込む。
     アンダーとウエストは比較的手早く済まされたが、次にメジャーをずらす時、眼鏡青年は再び抱きつかんばかりに腕を回してきた。
     クランタ族であるプラチナには、馬に酷似した耳と尻尾を持っている。尻尾の上からメジャーを巻いてはヒップの測定に支障が出る。きちんと尻に巻きつけるため、眼鏡青年は腕を後ろにやってきたわけなのだが、そうなると顔がアソコに接近する。
    (うぅぅぅ………………)
     ショーツ越しとはいえ、性器に対して顔が近い。
     こんな状況で心穏やかでいられるはずはなく、いかにも落ち着かない。
     尻尾の下にメジャーを通し、無事に巻きつけてきた後も、すぐには目盛りを合わせることはせず、眼鏡青年はショーツをまじまじ見つめてきた。
    (……なに、早くしてくれる?)
     そう思うが、じっくりと見つめてくる。
     長々とした視姦が我慢ならずに、プラチナは口を開いた。
    「早くして欲しいんだけど」
    「ああ、すみません」
     言われて初めて気づいたように、はっと目を覚ました顔で、眼鏡青年は慌てて目盛りを合わせて数字を読む。
     それが書類に書き込まれたことで、スリーサイズの測定は完了する。
     この時点では、まだプラチナ自身は気づいていなかった。
     どうして青年がアソコのあたりを凝視して、少しのあいだ心を囚われていたのか。単にショーツに見惚れたわけではなく、他にも理由があったのだが、プラチナがそのことに気づくのは、この次の検査でのことになる。
    
         *
    
     プラチナは診察台に横たわる。
     ショーツ一枚の姿できっちりと腕を下ろして、気をつけの形で男達に囲まれるなど、これほど落ち着かない状況は他にない。膨れ上がる羞恥心で、顔から炎が出そうなのもさることながら、全身がそわそわして、手足がしきりに動いてしまう。
    (ああ、とにかく早く終わって欲しい。さっさと帰りたいね)
     今のプラチナには、こんな恥ずかしい空間からはいち早く抜け出したい、それ以外のことを考える余裕はなかった。
    「次はエコー検査でね」
     中年が現れて、説明を開始する。
    「おっぱいにジェルを塗って、信号の通りを良くします。その上で器具を押し当て、乳房の中身を読み取っていく。機材で検査結果を読み取って、この場で健康状態が確認できるというわけですね」
    「…………早くして」
     プラチナは中年から顔を背けた。
    「では君、頼むよ」
    「は、はい! 頑張ります!」
     いかにも緊張しきった声で、銀髪の青年がピンと背筋を伸ばし、大きな声で元気な返事を返していた。
     その周囲には機材を扱う職員が配置につく。
     順番待ちの、検査の列に並ぶ最中のメンバー達も、プラチナの裸を少しでも覗き見ようと、さりげなく一歩近づいたり、しきりに視線を寄越していた。
    「で、では! 失礼します!」
     銀髪青年はジェルを手に乗せ、それをプラチナの胸に塗ろうとしてくる。
    (……うっ、あぁ、そっか。また胸だ)
     乳房に両手が近づくことで、みるみるうちに全身が強張って、プラチナは快感の予感に身構えていた。
     手が触れる。
    「んっ」
     ぴくんと、筋肉が弾んでいた。
     銀髪青年は見るからに緊張しきった顔で、気まずいような照れたような、まともに異性を直視できない様子でそわそわと、しきりに目を逸らしながら塗り広げる。ひんやりとしたジェルは、プラチナの体温と、手の平の温度によって、瞬く間に温まっていた。
    「んぅっ、んぅ……んっ、んくぅ……くっ、くふぁ…………」
     肩がモゾモゾと動いてしまう。
     どうしても息が乱れて、気持ち良さを隠しきれない。
     当然のように銀髪青年にもそれは伝わる。自分の手で少女を感じさせ、乱れさせている状況を、一体どのように思っているのか。きっと面白いとでも思っている。
    「んぁぁ……あっ、くぅぅ…………!」
     胸が揉まれているも同然だった。
     ジェルを塗り広げるために、手でじっくりと塗り伸ばす。ひとしきりやったと思いきや、さらに量を増やして塗り込んで、プラチナの乳房はぬかるみによって表面をコーティングされていく。
     乳房の皮膚は余すことなく、何ミリかにもなるジェルの厚さに包み込まれていた。
    「では準備が済んだので、次はエコーをやっていきます」
     銀髪青年は手を拭くと、バーコードの読み取り機にも似た器具を握っていた。
     それを乳房に近づけ押し込んでくる。
    「ぬぁっ、くふぁ……!」
     やはり感じてしまう。
     器具を押し込み、潰さんばかりにスライドしてくる。その読み取り機はコードで大型の機材と繋がっており、乳房から読み取った情報を職員がチェックしているはずだった。
    「あぁぁ……! あっ、あぁぁ……!」
     プラチナはそれどころではない。
     こんなことでも感じてしまい、湧き出る快感に翻弄される。胸から多大な電流が発され続けているように、肩や腰がビクビクと動き続けた。
    「あぁぁ……! あっ、あっ、あぁぁ……! い、いい加減にぃ……!」
     銀髪青年は止まってくれない。
     やっとのことで片方の乳房を終え、もう片方の乳房に押し込みスライド往復を繰り返す。そうすることで、つまずくかのように乳首に毎回引っかかり、擦れてきて、快楽の電流が全身に拡散するのだ。
     エコー検査が終わっても、ジェルの拭き取りが残っている。
     胸に布巾を擦りつけられ、布越しに刺激を受ける。
    「あぁっ、あぁっ、あっ、あぁぁ……!」
     それは表面のジェルを布に吸わせて、本当に拭き取っているだけの行為だったが、プラチナにしてみれば十分な刺激がある。
    「あぁぁ……! あっ、あぁぁぁ……!」
     プラチナは髪さえ振り乱していた。
     最後まで拭き取ることで、乳房からはジェルの光沢が失われるが、頂点で突起している乳首は、より一層の敏感さを見せている。もはや空気に触れるだけで気持ち良く、風さえ浴びたくないほどに感度は上がってしまっていた。
    
         *
    
    「最後の検査ですよ? プラチナさん」
     中年の声がかかってくる。
     同時に、プラチナの腰に両手を伸ばし、銀髪青年はショーツを脱がしにかかってきた。
    「ちょっと……!」
     プラチナはそれに驚き、手で食い止めようとするのだが、素早く脱がす銀髪青年の動きに間に合わない。ショーツはいとも簡単に脱がされて、プラチナは完全な丸裸とされてしまった。
    
     カァァァァァ…………!
    
     それでなくとも、既に耳まで真っ赤であったプラチナの顔には、限界を超えてもなお赤くなろうとするかのように、体中から何かが集まっていた。もう変色しきれない代わりのように、顎から頭の頂点にかけ、みるみるうちに温度が上昇していった。
     陰毛と性器があわらとなることで、脳が茹で上がりそうなほどまでに、プラチナの羞恥は増していた。
    「ほら、これで最後ですから」
     中年は慰めのように言ってくる。
    「……だ、だ、だったら! 本当にさっさとして!」
     面白いほどに裏返った声を荒げる。
     プラチナは思いっきり、勢いよく顔を背け、天井に対して耳だけを向けていた。顔を真横に寝かせきり、強くまぶたを閉ざしていた。
    「あ、これって」
     銀髪青年の声だ。
    「ああ、愛液だね」
    「胸にしか触っていなかったのに、いつの間に濡れていたのか」
     青年の疑問に対し、他の職員が答えるやり取りは、プラチナ自身も気づかないうちに出ていたらしい愛液について暴くものだった。
    (もしかして、あの時から……!)
     プラチナは思い出す。
     スリーサイズの測定時、アソコをやたらに凝視された。
     それはあの時点で愛液の染みが浮かび上がって、眼鏡青年はそれを気にしていたのかもしれない。
     そう思うとますます頭の熱が上がって、脳が沸騰しそうになってくる。
    (あああああああああ!)
     最悪だ。本当に何もかも最悪だ。
     周囲の声、中年の言葉、胸を刺激される状況、あらゆることに気を取られ、気づくことができなかったというだけで、自分は一体どれほど濡れていたのか。
    「プラチナさん。けっこう、ぐっしょりですよ?」
    「聞いてない! そんなこと一言も聞いてない!」
     これまでにない大声を発していた。
    「そうですか。ま、ともかく最後はアソコの検査をしますので、大人しくしていて下さいね」
     そこでプラチナへの声かけがやみ、中年は周囲の職員や青年へ指示を出す。それに応じて周囲の気配が動き回って、新しい機材の準備や器具の用意が速やかに行われていく。
     しかし、その中に紛れ、自分のショーツが弄ばれているような気がしてならず、本当に落ち着かない。体中がそわそわして、細胞の一つ一つが細かく騒ぐ。
    「では足を開きます」
    「せーの」
     と、次の瞬間だ。
    
    「やっ…………!!!!!!」
    
     左右から二人の職員に足を取られ、力尽くで開脚をさせられた。
     M字となった脚の、あけっぴろげなアソコに視線が集まり、尻の下には馬のような尻尾が敷かれている。覗こうと思えば肛門まで見える体勢に、プラチナの頭はますます燃え盛り、もはや羞恥のあまりに焼け消えそうな勢いだ。
    (あああああ! 無理! 無理無理!)
     あるいは脳がマグマと化したといっても過言ではない。
     そんなプラチナのアソコへと、ぴたりと、指が置かれた瞬間である。
    
    「――――ひん!」
    
     プラチナの全身がビクっと弾み上がっていた。
    「では膣内を検査していきます」
     銀髪青年の指が入ってくる。
    「あ……あ……あぁ……あぁぁ…………!」
     指一本分の太さが膣穴を押し広げ、根元まで収まっていく。
     プラチナは股に視線を感じて激しく顔を歪めていた。
     検査のため、じっくりと覗き込み、遠慮なく視線を注いで指先で内部を調べる。それをやられる恥ずかしさに、今にもアソコが弾け飛びそうになっていた。
    「んっ! んぅぅぅぅ!」
     指が内部で回転する。
    「んぁぁ…………!」
     ピストンされ、プラチナはますます喘いだ。
     ワレメから溢れる愛液は、股のあいだから肛門を伝って流れ落ち、尻に敷かれた尻尾の毛並みに染み込んでいく。
    「あ! あ! あん! あん!」
     ピストンが加速していた。
    「すげぇ」
    「感じてる感じてる!」
    「このままイっちゃうんじゃないか?」
     野次馬となった周囲の声が降りかかる。
     もし、ここでプラチナが目を開き、身の回りを確認したら、診察台を包囲している男という男の壁に気づくことになるだろう。
    「あぁぁぁ……!」
     銀髪青年はクリトリスまで弄り始めた。
    「あん! あん! あん! あ! あん! あぁん! あぁぁん!」
     喘ぎ声はより高く、ピストンから聞こえる水音も大きくなり、ついにはプラチナの中で何かが弾ける。
    
    「あぁぁぁあああぁぁああああああ――――――――!!!!!!」
    
     絶叫していた。
     同時にアソコから上がる噴水は、青年の頭上さえ越える勢いだった。
    
         *
    
     プラチナはもう何かを諦めていた。
     すっかり尊厳を削り取られて、もはやプライドを保つ気にさえなれない中で、膣にプローブを入れられている。指ほどの太さをした器具を挿入することで、超音波検査から得られる映像を職員がモニターで確認していた。
     その周囲からは、おびただしい視線が集まっている。
     順番待ちの列さえ離れ、プラチナの裸を見ようと群がる男の輪は、そのどれもがニヤニヤとしたいやらしい視姦の眼差しで肢体を見る。
     その中で、最後には四つん這いのポーズさえ要求され、肛門さえも視姦される屈辱を味わうのだった。
     尻穴に指がねじ込まれ、直腸検査さえもが行われる。
     その途方もない屈辱に、歯が折れそうなほどに力強く食い縛り、痙攣のように顎を震わせ続けていた。
     それら検査が済まされるなり、引ったくる勢いで衣服を奪い返していき、恐ろしく高速で着替えた上で、涙目で出て行ったのは言うまでもない。
    
     許さない! こんなの絶対に許さない!
    
     拳を強く握り締め、肩にかけてまで震わせていた。
     視姦され尽くした余韻が全身に残った上、肛門やアソコの中には指を入れられていた感覚さえもが如実なまでに残っている。
     こんな屈辱は今までに味わったことがなかった。
    
     ……絶対、絶対……ただじゃおかない!
    
     その後、検査結果が報告され、プラチナは未感染だったことが明らかになる。
     施設で行われた検査内容は、全てデータとしてまとめられ、スリーサイズも含めて記載されているはずなのだが、それを確認してみれば、不思議とデタラメな数字が並んでいる。裸体で検査を行った事実も末梢され、その場で検査を行っていた人間達も、この件については不思議と口を開きたがらない。
     プラチナが一体何をしたのか。
     それは明らかにされていないが、あらゆる手段を駆使したことは間違いなかった。