第7話 怒りの末に

 星が自分と同じ目に遭っていた。
 箱型の拘束具で、丸裸の四つん這い。周囲にはカメラを並べられ、機械触手によるアナルパールとディルドが激しく出入りを繰り返している。
 状況はホタルとほとんど同じだった。
『んっ! あっ、あぁ! あぁ! あん! あぁ!』
 違いがあるとするならば、大声で喘いでることか。星には開口器具が付いていないので、声を出しにくいこともなく、そして下半身に対してはピストンがかなり激しく、強烈な刺激によって髪を随分と暴れさせていた。
 いくらでも振り乱し、汗ばんだ頬や額にいくらかの髪が張りついている。
(離して! 星を離して!)
 気づけばホタルは暴れていた。
 動かしようのない四肢に力を入れ、無理にでも動こうとするあまり、箱型の拘束具をガタガタと揺らしていた。
 そんなホタルに対してである。

 ぺちん!

 お尻への平手打ちが行われた。
「こらこら、いけませんよ?」
 いかにもわざとらしく、仕方のない子供を諫めるような、小さな子に対する声音を使ってくる。
「……っ!」
 ホタルは男を睨んでいた。
「高いんですよ? もう、とっても高価です。個人の働く収入では弁償など、とてもとても……そんな高価極まりない備品を壊してしまったら、一体あなたはどうなるのです?」
 鋭い目つきであるホタルと、ヘラヘラとした男の視線が重なり合い、しばしのあいだ見つめ合う。

『んぁ! あん! あぁん! あぁん! あぁん!』

 そのあいだにも聞こえてくるのが、星の激しい喘ぎ声なのだった。
「ちなみにこれは、彼女のものです」
 彼はポケットから、これみよがしに小瓶を取り出す。その蓋を開け、スポイトで取り出した中身をホタルの口内へ運んでくる。
 何を飲まされるのかと思いきや、先ほどからずっと、チューブを通して与えられているホタル自身の、愛液と母乳の混ざったものと、ほとんど同じ味がするのであった。
 星からも、同じ採取は行われたのだ。
『あっ、あん! あん! あん! あん! あぁん!』
 中継なのか、後から再生しているだけの映像なのか。
 ホロウィンドウの中での星は、今でこそ後ろからの挿入のみで責められて、胸や口には何の器具もないのだが、ホタルとまったく同じ状態には置かれていたのだろう。
 それを思うと、憤りが膨らんでいく。
(星……)
 脱出したい思いも、より大きくなっていた。
 自分だけではなく、彼女の状況についても突きつけられ、脱出のチャンスを望む心の上に、助けたい気持ちが重なっていた。
「ご感想は?」
 本当に苛立った。
 他者の体液をスポイトで垂らしてきて、その感想を尋ねてくる神経が理解できなかった。
「おっと、このままでは喋れませんねぇ?」
 思い出したように男は言う。
「さて皆様! 生配信はこのあたりで切り上げましょう。ここまでのご視聴、本当に、本当にありがとうございます。この私めはとても嬉しゅうございます。また次の配信でも、是非、是非、私のチャンネルをご視聴頂ければと願うばかりです。さあ、皆さんさようなら! また次の配信で!」
 大仰な身振り手振りを交え、大胆な演技を披露したところで、配信は終了したのだろう。
 改めて、男の顔が向いて来た。
 それから彼の手が頬へ伸びると、まずは開口器具が取り外される。やっとのことで口の開閉が自由になり、その途端にホタルは唾を吐き出した。
 普段のホタルなら、まず取らない行動だった。
 だが、散々に舌にチューブで垂らされて、星の体液まで面白半分まで飲まされた。その味が残っている状態で、男に対する気持ちも怒りや恨めしさばかりなのだ。普通以上に反抗的に、ぺっ、と吐き出したい思いにもなるわけだった。
 そして、それは男の頬にかかっていた。
 真正面から人の顔を覗き見るので、そもそもホタルは狙っていた。
「これはまた不良少女で」
 さして怒ってなどいない、面白がった表情だった。
「安心して、あなた以外にはやらないと思う。こういうはしたないことは」
「そうですか。これはまた、私だけが世界でも特別に嫌われているようですが、それもまた仕方のない話。私の仕事は、調教や配信であると同時に、捕らえた商品からの嫌われ役でもありますからねぇ」
(……そう。情報、ありがとう)
 嫌われ役、そういう分担。
 大きな情報とは言えず、あちらとしても知られて困るものではないものかもしれない。
 だが、わざわざ喋ってくれたのだ。
 ホタルはその情報をありがたく頭に叩き込んでいた。

「では、余計なものを取り払ったところで、調教の続きでもやりましょうか」

 男が邪悪な笑みを浮かべていた。
 これ以上なく楽しげな、鼻の下が伸びきってもいる、いやらしさの入り交じった表情で、ホタルは星の映像を思い出す。
 気づけば、ホロウィンドウは消えていた。
 彼の長々と喋るあいだに、役目を終えて閉じたのだろう。その内容、髪を激しく振り乱す星の、大きな喘ぎ声がホタルの耳には残っている。
 きっと自分は、今からそれと同じになる。
 そんな人の様子を見て、彼は楽しい気持ちに浸るのだろう。
(負けない……)
 必ずや耐え抜く覚悟を身に固め、ホタルはじっと構えていた。

     *

「んぁ! あぁぁ! ああぁぁぁ…………!」

 激しい快感だった。
 それから、男の操作によって機械触手の蠢きは活発となり、全身を駆ける快楽電流もおぞましいほど強烈となっていた。
「あっぐぁ! あっがっ、ぐっ、んぅ! んぁぁ!」
 膣や肛門へのピストンだけではない。
 乳房の今まで装着されていた器具は外され、代わりに行われている刺激は、触手の先端に筆を搭載しての、乳首やその周囲に対する筆責めだった。
「ぐっ! んぅっ、んぅぅぅ!」
 乳首が、乳輪が、膨らみの部分がくすぐられ、ホタルは激しく身をくねらす。乳房を責めるためだけに、幾本もの筆を差し向ける何本もの触手が群がっていた。
 筆責めは背中にも、肩にも、二の腕にも、一見して性感帯とは程遠そうな部位にまで行われ、その上で激しいピストンがどちらの穴も抉り抜く。

「んぅぅぅぅぅ――――――――!」

 ホタルの頭が真っ白になっていた。
「はーい、二回目ですねー」
 絶頂の回数を楽しそうにカウントする声は、ホタルの耳には届いていない。放心のあまり、そんな余計な声を聞き取る余裕もなく、ホタルはただひたすらに息を乱して、深呼吸を繰り返していた。

「んぁああああああああ――――――――――!」

 しばらくすれば、またイっていた。
「三回目ですよー!」
 そして、口頭によるカウントは行われた。
「あっ、あぁん! あっ、あっ、あっあぁ!」
 ホタルはもはや、快楽を苦痛にさえ感じていた。
 気持ち良くて、気持ち良くて、本当にたまらないことが、かえって息を苦しくする。途方もない大きさの感覚が神経を行き交うことで、快楽のはずなのに、どうしてか負担でもあるような感じがある。
 少しでも体を楽にしたくて、ホタルは無意識のうちに胴体を動かしたり、前後させたり、筆責めの刺激から体を逃がそうとしていたが、四方八方に触手はある。体が動いても、それについて触手も動く。
 刺激からの逃げ道はなく、それでも無意識の挙動は繰り返されるので、ホタルは自分でも気づかないうちに体を振りたくり、それが感じた素振りとなって男の目を楽しませる。

「くぅぅぅぅぅ――――――!」
「四回目」

「あぁぁぁ――――――!」
「五回目」

 何度も、何度も絶頂した。
 そのたびに潮を噴いたり、大量の愛液を垂れ流し、ホタルの体は水分不足に近づいていた。気持ちいいという理由によって、だんだんと水を飲みたくてたまらなくなっていた。

「……えーっと、あれ? 今のは何回目でしたっけ? いけませんねぇ、数えるのを忘れてしまうだなんて」

 しまいには、男がそんなことを言い出すまで、ホタルへの責めは続いていた。
 そして、ようやく触手が停止して、ディルドやアナルパールが引き抜かれる頃には、ホタルは本当にぐったりしていた。こんな体勢でさえなかったら、ベッドにでも飛び込んで、深い眠りに落ちてしまいたい、睡眠欲にもまた駆られていた。
 だが、ホタルは心に呟く。
(星……絶対、助ける……あたしも、ここを逃げ出す……)
 それから必ず、ここを破壊してみせる。
 その近いを胸に抱いて……。

     *

 ぽっかりと穴の空いた感覚がある。
 アソコに肛門、どちらも元から穴なのだが、今の今まで物が収まっていたおかげで、抜かれてすぐには中身が閉じない。しばし開いた感じが残り、肛門をきゅっと締めても、やはり余韻はなお残る。
「抜き取る瞬間は、押し出す感じがありましたねぇ?」
 またしても、ホロウィンドウが現れていた。
 そこに映る下腹部の様子は、ただ触手が後退していくだけではない、膣圧や肛門括約筋の締め付けで、強く押し出す拒絶の意思が表れていた。
「この映像の瞬間ですよ? ディルドやアナルパールが受けた圧力は、処女だった穴への挿入と同等です。いやぁ、これはこれは、偶然にも数値が近くて面白い」
「そんなことが面白いのはあなただけ」
 ホタルは反抗的にそう述べる。
「回復力もなかなかと見受けられます。あなたもしや、実はただの女の子ではありませんね? でなければ説明のつかない芯の強さ。ああ、それに、あなたの所持品であるあの奇妙なデバイスもありましたか」
 彼はそうして鉄騎の存在に触れるのだが、ホタルはそれによって表情を動かさない。
 ただ、睨み続けていた。
「いやぁ、感服しますねぇ? ではあなたの強靱なる意志に免じて、星さんと会わせて差し上げましょうか?」
 彼の言葉をただの親切と受け取るホタルではない。
「是非会わせて欲しいけど、何を企んでいるの?」
「趣味趣向ですよ。彼女の調教を受ける場面を、すぐ間近で見て頂くというのも、なかなか乙なものではないかと思いまして」
「……最低」
 それしか、感想は出て来なかった。
 男の言うことを、そのまま言葉通りに受け取っていいものか。どうにも相手の思考を読み切れず、だからその判断もつかなかった。

     *

(…………星)
 ホタルは歩く。
 元の衣服はハサミによって切り裂かれ、その代わりタオル一枚を巻いたのみの格好で、ホタルは男の隣を行く。
 会わせるなどと言い出してから、彼はホタルの拘束を解除したのだ。
 自由になったその瞬間に暴れたり、脱走したい気持ちはあった。
 だが、そうしようにも男に隙は見受けられない。彼もそれなりの手練れであり、何度も絶頂をさせられて、体力を削り抜かれた今の体で、しかも鉄騎を纏うデバイスも手元にないのでは戦いようがない。
 もっとも、彼はそんな計算だけで解放したわけではない。
 拘束が解かれる直前、彼は座薬を持って来て、それを指で挿入してきたのだ。肛門を触られる屈辱感、どんな効果かもわからない薬を入れられた不安感で、ホタルの心中はあまり穏やかなものではない。
(たぶん、今はまだ無理……)
 肛門に余韻があるため、バスタオルで歩くホタルの手は、無意識のうちに後ろへ回っている。
 きっと、抵抗を封じるための、何らかの効果がある。
 筋弛緩剤かもしれない。
 能力を封じる効果かもしれない。
 とにかく、ホタルにとって都合の悪い作用を持った薬だとしか考えられない。
 そんなものが肛門の中に収まり、腸で溶け出し、成分が肉体に回っている。
(最悪……)
 いい気分など、するはずがなかった。
「さあ、こちらです」
 廊下を歩いた末、ホタルはとあるドアの前まで連れて来られる。その向こうにこそ、どうやら星はいるらしい。
「あぁぁ! あっ、あぁぁあああ!」
「星……!」
 ホタルは驚愕した。
「あっ、あん! あぁん! あん! あん! あん!」
 ドアの向こうから、彼女の声が聞こえて来る。
 星は今なお、機械触手による陵辱を受けている最中なのだ。
(は、早く助けないと……!)
 なまじ手足は自由な状態で、星がすぐドアの向こうでそうした目に遭っているのだ。今すぐにでも飛び込んで、拘束を破壊して連れ去りたい。
 共にここを脱出したい。
 今すぐにでも、行動に移りたい衝動に駆られるが、ホタルにはその力がない。このタイミングで動いても、失敗は目に見えているだろうと、頭の冷静な部分が判断を下している。
 衝動的には動けなかった。
 失敗すれば、警戒はますます厳重になり、チャンスなど巡って来なくなるだろう。
 だから下手に動けない。
 かといって、いつまでも行動を起こさずにいても、運命を好転させることはできない。
(何か……何か…………)
 頭で焦る。
 何か良い手はないのか。
 すぐそこに、すぐ近くに星がいるのに、本当に何の手もないというのだろうか。

 その時、奇跡は起こった。

 いや、あるいはそれは、奇跡などとは言わないのだろう。
 仲間がホタルの状況に気づき、計画的に起こした行動と、それのもたらす結果とは、ただの必然なのかもしれない。

     *

「おやおや、逃げられてしまいましたか。これはまた、大きな損失になりそうです……」

 男は頭を抱えることとなった。
 この失態を誰にどう追求されるか、気が気でない焦燥感を誤魔化すためにこそ笑っていた。
「いやはや、私達もまだまだですよ。星穹列車と星核ハンターを同時に敵に回していたと、ギリギリまで気づかないだなんて、そりゃあ逃げられちゃいますよねぇ」
 どちらが先に行動を起こしたのか。
 果たして、両者のあいだに協力関係はあったのか。
 いずれにせよ、アジトの各所で爆発が起こった。混乱の隙に乗じて飛び込んで来た者達に見張りは倒され、男が焦っているうちに、ホタルのいたその場所にはカフカが現れる始末であった。
 そして彼女達によって星は連れ出され、今頃はどこへ行ってしまったのか。
 彼女の身柄は星核ハンターの手の中か。
 はたまた、星穹列車に返されているのか。
 それはもはや、男には預かり知れない話である。