第2話 始まる調教

 ホタルはカメラに取り囲まれた。
 周囲には三脚台が並べられ、そこにカメラが取り付けられている。
 チューブ状のカメラもあった。
 内部骨格の構造により、好きなカーブの形へ自由自在に変えられる。チューブ状のその先端にレンズを搭載したものが、まるで天井にイソギンチャクを生やしたように伸びてくる。
 その一本一本は、どうやら遠隔操作可能なものらしい。
 手で触れることはしていないのに、男の行うコンピューターの操作に合わせ、チューブの数々はくねくねと、駆動音と共に形状を調整していた。
 おびただしい数のカメラがホタルを見つめる。
 こんなにも多くのカメラを使い、ありとあらゆる角度から撮りたい意味がわからない。
 たった数十分の映像でも、無数のカメラを使えば合計で何十時間になることか。これから、何時間にわたって撮るかもわからない映像で、これだけのカメラなど使い、果たして誰がどのように内容をチェックするのか。
 それとも、望みの映像を自動で切り抜くシステムでも組んでいるのか。
 この状況で、ホタルはそれでも敵の情報を探ろうと頭を回していた。
「なんなの? これは……」
 右を向き、左を向き、どこに視界を移しても、必ずカメラが向いている。上を向いても、ちょうどカメラと目が合うので、ホタルはひとまず俯いて、腕のあいだにある木目だけに視線を注ぐ。
「これから、あなたの体について、あらゆるデータを採取します。それはもう、本当にありとあらゆる、スリーサイズから健康状態の詳細にかけてまで、詳しく、細かく、全てを解き明かすことになるでしょう。処女か、非処女か。生理周期や自慰行為の経験にかけてまで、本当に何から何まで暴きますので、そのおつもりでお願いしますよ?」
「ふ、ふざけないで……」
 肛門を見られ、性器の中身を観察され、もうこれ以上は恥ずかしい思いのしようがないと思っていた。だが男の言葉通りなら、つい先ほどまでの恥ずかしさより、もっと大きく膨らんだものをこれから味わうことになる。
(そ、そんなの……)
 屈辱と恥ずかしさに、自分は一体どこまで耐えきれるか。
 羞恥心のせいで身と心がどうにかなりはしないかと、針や刃物が使われるわけではないのに、まるで拷問を受ける直前のような恐怖が湧く。
「ところで、衣服が邪魔ですね? そんなものがあっては、肉体の全てを細かく、くまなく、隅々まで、調査することはできませんからね。なのでハサミを使わせて頂きますが、これはあくまで着衣を取り払う目的ですから、必要以上に恐れることはございません」
 男の手には確かにハサミが握られていた。
 その刃が開き、銀色が光を放つと、ホタルは強い不安に駆られる。身動きの取れない状態で刃物が迫れば、どうあれ緊張を強いられる。体中のどこもかしこも強張って、ホタルは顔を硬くしていた。
 無力感に打ちのめされた。
 指でスカートがつままれて、持ち上げられる。そこにハサミが入っての、繊維が断たれる音が聞こえてくる。
 衣服が少しずつ布切れに変えられた。
 背中を切る時には髪をどかして、開閉する刃の峰がたまに皮膚に触れてくる。金属の冷たい感触が近づいたり、うなじの近くでジョキジョキと聞こえる時の緊張といったらなかった。
 そうして、最後には下着も切られた。
 ブラジャーのカップが取り去られ、陰部を隠す手段も失われ、ホタルはこれで丸裸だ。
 思えば拘束箱の内側に、ブーツやソックスがない。
 本当に、身に着けているものが何もない。
 せいぜい、ヘアバンドが残っているくらいである。
 完全な無防備にさせられて、男の視線が裸体へと注がれる。その恥ずかしさに耳まで染め上げていた。
「なんとも言えない肌触り」
 男は再び、ホタルの尻に触ってきた。
「やめて……」
「きめ細やかな肌の質感といい、光を反射している感じといい、あなたはどこまで可憐なのですか? これでは……これでは、どれほどの利益が出るか、想像するだけでヨダレが垂れて、そのまま口の中が乾いちゃいそうじゃないですかァ!」
 狂喜していた。
(こ、この人……)
 ホタルは直感的に肌で感じた。
 彼は女体に対する単純な興奮などしていない。ホタルの顔やスタイルを見ることで、頭の中で利益の計算を行って、金の欲に酔っているのだ。
 どうやらホタルには、よほど高く売れる見込みがあるらしい。
「いやぁぁぁ! 最っ高です! あなたのことは? その身柄だけでなく、撮影したデータも販売予定なんですよ。データほど無限にコピーできるものはありませんからねぇ? そうしてあなたの裸はマニア達の手に渡る。その時、彼らはどれほどの大金を叩いてまで、あなたのデータを買うのでしょう。あなたに想像できますか? ほんの数分や数十分の映像のためだけに、何人もの大金持ちが札束を投げ出すところを! あなたという存在が、どれほどの額に換金されるか!」
「……知らないから、そんなの。触らないで」
「そうはいきませんよ? 何故なら、あなたには知って頂きたいのです。その肉体にはどれだけ価値があるのか。例えばこのお尻、白くて見た目が柔らかそうです。見ているだけで、ふわふわとした綿の塊の感触が頭をよぎり――そして、揉むと実際に柔らかい」
 確かめるかのように、男は指を食い込ませる。握り込まれた尻たぶは、五指に合わせて変形していた。
「それに肌がサラサラです。ツルツルです。きめ細やかな砂を撫でるような、本当にサラっとした感じが、こうして撫で回している私の手の平には返ってくる」
 今度は這い回らせていた。
 揉むのはやめても、その代わりに活発に這わせ尽くして、ホタルのお尻には触れられた感触が広がった。何を塗られているわけでもないが、好き勝手に撫で回される状況は、まるで汚い泥でも塗り広げられているような気分であった。
 じわじわと皮膚が蝕まれる。
 不快感による侵食で、お尻の肌がまんべんなく泡立って、ホタルは顔を顰めきっていた。
「では胸はどうでしょう」
 今度は乳房に手が伸びる。
 四つん這いの胸を揉むため、胴の下へと潜らせた手によって、乳房が包み込まれている。やはり皮膚を侵食される気分になって、接触した部位が泡立って仕方がない。
「なんとも、なんとも! 揉んだ心地も素晴らしい! 少々の硬さ、少々の弾力! 柔らかいながらにこちらの指を押し返す瑞々しさと、乳首のくにくにとした感触! これほど良い乳房を揉んでいたら、指がいつまでも、いつまでも止まってくれなくなるのでは?」
 男は乳房だけでなく、指で乳首も刺激してきた。つまむことで指圧して、その圧力に挟まれた、こりこりと左右に転がされ、軽い力で引っ張られた。
 乳輪をぐるぐるとなぞる刺激を与えられ、指で前後に弾き続ける愛撫も受けた。
 それら刺激によって少しずつ、少しずつ、ホタルの乳首には血流が集中して、ついには硬く突起しているのであった。
「おおっ、なんとも! 感度も良いようですねぇ?」
 突起によって、男の声が上擦っていた。
「そんなこと知らないから、早くやめて」
 怒気を含んだ低い声音でホタルは言うが、男はお構い無しに続けてくる。
 太ももが撫でられた。
 背中や腰にも手の平が這い回った。
 肩や二の腕すら揉んで撫でられ、体中の至る所に男の手垢が広がった。目には見えないものを塗り込まれ、くまなく汚染されるような気分のあまり、全身の皮膚がむずむずと痒くてたまらない。
 シャワーを浴びたい。
 一刻も早く汚れを洗い流して、この男に触られた事実をなかったことにしたい。
「ところで、処女ですね」
「……っ!」
 その指摘に、ホテルは歯を食い縛る。
 見て触るだけに飽き足らず、性経験の指摘によってまで辱めを受けたホタルは、屈辱で眉間に皺を寄せ、険しい顔で頬を硬くしているのだった。
「わかりますよ? あの小さな膣口は、間違いなく男性を知らないものです。よしんば性行為を嗜んだ覚えがあっても、それはおそらく自慰行為か、あるいは前戯までで終わったきりです」
 気分が悪かった。
 最初に性器を覗かれた時から、処女か非処女かの情報まで掴まれていたのだ。
「気持ち悪い……」
「率直な感想をありがとうございます。では改めて確認していきましょう」
 男は再び真後ろに回り込む。
 お尻の近く、そのさらにアソコの付近に気配が迫り、ホタルは恥じらいを煽られる。頬を熱っぽく燃やして唇を噛み締めて、羞恥を堪えているうちに、指で左右に開かれていく。ピースの形に合わせるうように、くぱっと、改めて肉ヒダが開帳された。
「この美しく血色の良い中身、カメラに撮影させてもらっていますよ?」
「や、やだ……」
 カメラの存在に言及されると、今この場の恥ずかしさだけでなく、データが人の手に渡る未来まで頭に浮かぶ。やめて欲しくてたまらない、強い拒絶の意思が膨らんで、しかし止める手立てが何もないのだ。
「ええっ、ええ! やはり、やはりあなたの性器は美しく最高ですねぇ! このせっかくの処女ですが、残念ながらうちで行う品質管理の流儀では、このまだ何も知らない幼き膣口に、ねじ込まなくてはならないのです!」
 実に嘆かわしいかのように言ってみせる芝居への、腹立たしさが膨れ上がる。
「そんなことをしたら、ただじゃおかない」
「説得力って大事ですよねぇ? 今のあなたのその状態で、どうタダじゃおかないことができるのですか? できることがあるのなら、今すぐにでもやっておかないと後悔するのでは?」
 その時、指が割れ目に触れていた。
 ピースが一度は性器を離れ、しかし直ちに二本の指が置かれ直して、挿入の直前となっていた。指先が少しだけ、ほんの数ミリだけ埋まった状況は、まるで凶器を突きつけられたかのようだった。
 刃物を突きつけられ、下手な抵抗をすれば殺される。
 膣に指を突きつけられ、男はいつでも挿入可能な立場にある。
 命を握られているわけではないが、何かを握られている心地の悪さに冷や汗が浮かんだ。
「……痛い、やめて」
「大丈夫ですよ。そんな大袈裟な。まあ、実際に入れてみて、本当に激痛が走って仕方が無さそうなら、もう少し段階を踏んでも構いませんがねぇ」
 男は指を入れ始める。
「くっ……」
 ホタルは歯噛みした。
 身動きさえ自由なら、こんなことは決してさせないのに、拘束具の存在が呪わしい。
 指が埋まり始めている。
 無難に人差し指と中指の束か、それとも別の指なのか。どの指を合わせた二本か、感触だけではホタルにはわからない。ともかく、埋まり始めたものの先端が膣へと収まり、まずは第一関節までが隠れていく。
 入ってくればくるほどに、その太さに合わせて膣口は拡張され、無理に押し広げられている苦しさをホタルは味わう。
「おや、固いような感じがしますねぇ? この感じですと、自慰行為の経験もないか、あるいは表面しか触ったことがない。あってせいぜい、一本だけを入れたことが数回、といったところなのでしょうねぇ?」
「本当にいちいち気持ち悪い……」
 苦悶しながら、ホタルは言う。
 その都度その都度、人の性的な経験について見定めたり、言い当てようとしてくるのが気持ち悪い。人の心を覗き込み、知り尽くそうとしてくる相手に対する薄気味悪さで、背筋がぞっと震えてしまう。
「狭いですねぇ? 直径が足りないせいで、単に挿入しているだけでも、いささかの締め付けを感じます。あなた、この狭さで初体験を迎えるのは大変でしょう? 私が良い具合にほぐして差し上げますよ?」
「頼んでない」
「遠慮はいりません。ほら、指を一本にしてみましょう」
 男は指を引き抜いた。
 第二関節まで収まっていた感覚が、一瞬にしてすっぽ抜け、今まで内側から押し広げられていた余韻が残る。まだ穴が緩んでいるような、締まり直したような、どちらともつかない感覚だった。
 直後、一本だけとなった指が迫り直して、ホタルの中へと潜り始めた。
「うぅ……」
 その感覚に、浮かぶものは苦悶や眉間の皺ばかりだ。
「ふうむ、なるほど? さすがに、先ほどと比べてとてもあっさり、それはもうスムーズに入っていきます。ああ、これは粘膜が出て来たおかげもありますねぇ? おそらく、快感によるものではなく、防御のために出て来る保護粘膜なのでしょう。しかし、この汁っぽい気配も、気持ち良さによるものへと変化するのは時間の問題ですよ?」
「なんでそんなに口数が多いの」
 べらべらと口の止まらない、不思議なほどの饒舌さに苛立っていた。
 言葉の全てが人の羞恥心を煽ったり、性的経験を探ろうとする気持ちの悪いものなのだ。生理的に受けつけない言葉がいくらでも並べられ、拘束があるので耳を塞ぐ手段がないなど、この状況がストレスでなければ何なのか。
 そんな意味でも、ホタルの顔には苦悶が滲み出ていた。
「せっかくです。あなたも、もっと何か喋られては? そう、例えばこの、根元まで入った感想とか」
 指が収まりきることで、ホタルの股には拳の部分がぶつかっていた。
「あなたと話すことなんてない」
「それは残念」
 ピストンが始まった。
 指がゆっくり抜かれていき、第一関節だけが収まる位置まで後退すると、前へ前へと進み直して、また拳が当たってくる。そんな前後運動が繰り返され、指と膣壁の狭間で摩擦が延々と続いていく。
 少しだけ、滑りが良かった。
 だが、今はまだ少しだ。
 保護粘膜に守られて、擦れて痛いほどではないが、今のところ乾いた状態に近い。薄らとした水気に過ぎない、乾燥したところに擦れる痛みの、その手前のような負荷を感じていた。
 快楽など感じない。
 何がどうしたら、こんな状況で悦ぶものか。
 そう思っていたホタルだが、愛撫が続けば続くだけ、しだいに体の反応が表れ始める。
 まず、汁気が増えていた。
 刺激が重なるにつれて愛液は分泌され、しだいに滑りが良くなっていく。生じるものは違和感でも痛みでもなく、苦しい感じでもなく、快楽になり始めていた。
(やだ……感じるなんて……)
 愛液の分泌に合わせて、指の動きはスムーズになっていた。
「くっ……」
 潤滑油が負荷を取り払っていく分だけ、入れ変わるようにして快楽が表に出る。このまま続けば、このピストンが愛液をかき混ぜる状態に至るのも時間の問題なのだろう。
 甘い痺れが走っている。
 アソコから生まれた快感は、内股へと駆け巡り、太ももの神経を少しばかりピリピリさせる。その感覚でホタルは微妙に、本当に小さく薄ら、脚やお尻をピクピクと反応させていた。
「んっ、んぅ……」
 無念そうに目を瞑り、ホタルは指のピストンをただ受け入れる。拒みたくとも拒むための手段がなく、堪えるという選択しか取れない悔しさの中で、彼女は快楽を感じているのだった。