第6話 絶頂

 愛撫が続く。
 アソコの中にある刺激は、棒状のイソギンチャクを挿入され、ピストンと共に細かな触手が踊っていることと同じだ。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 愛液は垂れ続ける。
 ディルドの表面、周囲の三六〇度に触手が伸び、亀頭からさえ細やかなものが踊っている。膣壁の本当に至る所がくすぐられ、その上でピストン運動はGスポットを狙っている。その特定の部位だけに、なるべく集中的に擦り付こうとする前後で、ホタルはビクビクと体を震わせていた。
「んぅぅ……んっ、んぅ……んっ、んぅぅ…………!」
 肛門にも刺激がある。
 アナルパールの出入りが続けば続くほど、玉の繋がりが肛門の皺に擦れての、穴の周りが気持ち良くてたまらずに、甘いものが足腰に蓄積される。快楽による電流が充満して、もはやお尻の筋肉にさえ、目には見えない気持ち良さの塊が漂い始め、今このタイミングで尻肌を撫でられれば、たったそれだけの刺激でビクビクと震えるかもしれなかった。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 愛液の垂れる水音が止まらない。
「んっ、んっ、んっ、んぅ……んぅ……んぅぅ…………」
 頭の中も、しだいに快楽で染まっていた。
 足腰ばかりか、思考の中にまで気持ち良さによる電気が走り、脳がどことなくピリピリする。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 乳房も痺れている。
 胸を包み込む器具の方には、実際に微細な電流が流れており、それによる乳首への刺激が行われている。その刺激によって、ホタルは母乳を出しているのだ。
 母乳の出る薬の力によって、白っぽいものが乳首の先端から滲み出て、それがチューブに吸引されている。チューブは床に置かれたタンクのようなものと繋がっており、そのタンクからまた別のチューブが伸びる形で、ホタルの舌には先端が置かれている。
 性能によるものか、ほんの数滴しかないものがタンクに落ちても、それを見事に吸い上げて、チューブからホタルの舌へと母乳は届く。
 量はほとんど薄れることなく、乳首から口内へと、直接届いているに近かった。
 本来、そのチューブは一本で済む。
 せっかく二本のチューブを乳房に取り付け、二本のチューブで吸引しているのだから、口に差し込むのもそれに合わせて二本にしよう。と、こんな設備を作った誰かの意向が反映されているのが本数の理由である。
 無論、ホタルにはそれを知る由もない。
 男もそれを解説する気配がないので、そのような豆知識がホタルの頭に入ることはない。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 全身に快楽が溜まっていた。
 痺れれば痺れるほど、その電流が蓄積を続けるようにして、下腹部には目には見えないものが溜まっている。内股にも、乳房の方にも、水音のリズムに合わせてだんだんと、快楽が膨らんでいる。
 体内で風船が膨らんでいるようなものだった。
 大きく大きく膨らんで、いつしか破裂するであろうそれが、しかしまだ破裂には遠いため、延々と蓄積を続けている。
「んっ、んぅ……んっ、んっ……んっ…………」
 ホタルの呼吸はとっくに荒っぽくなっていた。
 頬の染まった表情で、熱に浮かされた息を吐き出す今の彼女は、誰の目にも気持ちよさそうに見えることだろう。
 しかし、ふとした瞬間に、ホタルは反抗的な眼差しを取り戻している。
 彼女の目の前には、ホロウィンドウが浮かび続けているのだ。
 宙に浮遊させ、空間へと固定されている画面の中に、ホタル自身の映像と、その視聴人数の表示がある。
 映像部分は時間ごとに切り替わるようになっていた。
 お尻だけを横から映したもの、お尻を真後ろから撮ったもの。四つん這いである胴体の、垂れ下がった乳房を覗いたもの。その姿勢を遠巻きに見つめたアングルに、顔をアップにした映像など、それら数分おきの切り替わりで、ホタルは自分自身の表情を見てしまう。
(あたし……こんな顔……やだ…………)
 感じてしまっている。
 楽しんでしまっている。
 そう見えても仕方のない表情を目の当たりに、ホタルは目つきだけでも引き締めて、反抗の意思を取り戻すのだ。
(まだ……チャンスは…………)
 果たして、助けや脱出の隙はあるだろうか。
 チャンスが来るとして、それはいつになるだろうか。
 この拘束を破り、見事脱出できたなら、この男やこの設備はタダでは置かない。
(全部……壊す……んっ、んぅ…………)
 恨めしさのあまりに抱く、破壊の願望にも関わらず、やはり刺激が気持ちいいので、熱い息遣いによる呼吸音は色っぽく、頬の染まった横顔も、どうしてもいやらしいものである。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 器に溜まる愛液は、しかし直ちにチューブを通じてホタルの口へ送られるので、溜まるようで溜まらない。
 愛液と母乳の混ざった味が、舌には広がりきっていた。
(だ、駄目……気を確かに…………)
 時折、ホタルは自分に言い聞かせる。
 そうしなければ、頭にも快楽の電流が流れるので、どことなくぼーっとしてしまう。気持ち良さに脳が染まって、油断をすれば快楽を楽しみかねない自分がいる。
 それだけ快楽漬けとなった肉体だ。
 どんなに気を保とうとしていても、それがだんだんと緩んでいく。緩むたび、どこかのタイミングで気を引き締め直している。その一番のきっかけであり、引き締める力を強めるものが、ホロウィンドウに映るホタル自身の表情だ。
(みっともない……)
 そう、我ながら思わずにはいられない、快楽に少しでもとろけた眼差しを見ることで、こんな表情を晒してなるものかと、意地のようなものが湧いてくる。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 音が延々と続いていた。
 人体である以上、水分は必ず有限だ。出て来た愛液を、そして母乳を、直ちにホタルの口へ運び直しても、それを吸収するには時間がかかる。こんなことで、擬似的な永久機関になどなりはしない。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 だが、少なくとも今はまだまだ、ホタルの肉体には水分を流出する余裕がある。
 だから、音は続いている。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 無機質な水音は、機械のように一切のリズムを変えず、しかも男は先ほどから喋らなくなっている。あれほど饒舌だった彼の無言は、それはそれでかえって不気味だ。
 静寂の張り詰めた部屋の中、唯一、音と言えるものが同一のリズムを続けていれば、誰しも、それが永遠のものであるように錯覚するだろう。
 水音が耳を打つ。
 そうすると、たったそれだけの、本当に小さな音なのに、脳を打たれ続けている心地になる。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 リズム通りに、脳が水音を受け止める。
 それがある種の催眠状態をもたらすように、ホタルはまたしても目をとろっと、快楽の甘さに溶かしている。その上で呼吸も荒っぽいのでは、まさしく淫らな少女そのものだ。
 また、ホロウィンドウに淫らな自分が映る。
(し、しっかり……)
 ホタルは自分に言い聞かせる。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 また、永遠を錯覚する。
 だんだんと目がトロっと、表情が快楽によって乱れていき、それがホロウィンドウのおかげで引き締まる。

 ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、

 その、繰り返し。
 このサイクルは、かれこれもはや、一体何十回続いているかもわからない。
 そんな時だった。
 それは本当に、ふとしたところへ突然起こった。

「――――――――――っ!」

 ホタルの頭が、胸や足腰が、全身がビクっと弾けた。思考が真っ白に染まり変わって、お尻は一瞬、高らかに跳ね上がっていた。
 潮が噴いていた。
 お尻がビクンと動くことで、箱型の拘束具ががたりと揺れ、器の中には何滴もの、何十滴もの、多量の滴が撒き散らされているのだった。

「イキましたねぇ?」

 男が久々に口を開いた。
「いやぁぁ! いい絶頂ぶりでしたよ! 全身のビクっと弾ける反応といい、潮吹きといい、まったくあなたのイキっぷりといったら、絶頂の鑑ではありませんか!」
 人の絶頂などに対して、男は無駄に称賛の言葉を送ってくる。
 その時のホタルの口には、まるで口内に直接撒き散らされたようにして、愛液がたっぷりと広がっていた。舌の表面がぬかるみにコーティングされ、その上にポタポタと母乳の白濁が垂れている様相となっていた。
 最初の数秒は頭が真っ白になるばかりで、男の口数の多さに対して、どんな反応を示すこともできなかった。
「視聴者の皆様! ご覧になりましたか? お尻がビクっと跳ね上がり、肩がきゅっと引き締まり、そして潮吹きを行う見事な絶頂ぶりを! このような調教を数日、あるいは一週間以上はかけて行います!」
 ホタルはしだいに放心から立ち戻る。
 空っぽだった頭に思考が戻り、自分の絶頂がいかにネタとして弄ばれているかと思った時、改めて反抗の意思を胸にして、ホタルは男を横目で睨んでいた。
「仕上がる頃には、ぐちょぐちょに濡れやすく、どんな愛撫でも簡単にイクような淫らな女になっていることでしょう!」
(誰がそんな淫らになんて……)
「さらに! そんなホタルさんのアソコや肛門を再現したリアルなオナホールも発売します! 我々の送り出す商品は、適切な手入れによって膣粘膜の感触を非常に高い再現度に致しますので、彼女を購入できずとも、この美貌に、可憐さに向け、挿入することは可能なのです!」
(本当に売り物扱い……とっても、不愉快な人達……)
 この場にはいない視聴者や客に対しても、ホタルは蔑むような思いを抱く。
 そんな時だった。
「ところで、ホタルさん?」
 男は急に人の顔を覗き込むなり、こんなことを尋ねてくる。
「一つ、気になることがあるのではないですか?」
(なんの話?)
 開口器具で口の開き具合が固定されているために、喋ろうと
思っても喋りにくい。
「私は知っているのですよ。あなたが元々、どうして私達に捕まることになったのか。もしやあなたにとって、あの少女は仲間だったのではないかと思うのですよ。ほら、そうしたら、こちらとしても気になりますよ? ホタルさんは今でもずーっと、あの少女を気にかけているのではないか、どうなのか、とね」
「……っ!」
 彼は星のことを言っている。
 やはり彼女も、ホタルと同じ目に遭っているのだ。
(許せない……)
 自分が受けた仕打ちだけでも、恨めしさはかなりのものだ。破壊的な復讐心すら抱いているところに、さらに星のことまで挙げられては、怒りはより一層のものとなっていた。
「気になりますねぇ! 気になりますよねぇ! ですから、優しい私が彼女の安否を特別に教えて差し上げましょう!」
 ホロウィンドウが切り替わった。
(星……!)
 そして、ホタルは大きく目を見開くのたった。