第5話 分泌物の行く先
ホタルは開口器具を嵌められていた。
まるで歯と歯のあいだに丈夫な柱が立っているように、支えの力で開口状態を維持させられ、口を閉ざすことが出来ない。
男によって、無理にでもかけられたのだ。
口を閉ざしたり、顔を振ったり、抵抗こそしたものの、身動きの取れない、逃げも隠れも出来ない身では、その抵抗にも限界がある。
何より、後ろから責められていた。
触手が行うピストンは、やがて快楽が生じるに至って、そのせいなのか声が出た。たまたま口が開いてしまい、その隙に咥えさせられ、ホタルは開口器具によって口を閉じることができなくなった。
そんなホタルの口の中へと、細いチューブは入って来る。舌の上に先端が置かれるなり、奇妙な味が分泌され、ホタルは嫌でもそれを味わうこととなる。
(なんなの……これ……)
その味に、ホタルは顔を歪めていた。
「あなた自身の母乳です」
乳房には吸引力がかかっていた。
まるで掃除機のようにして、風で吸い上げようとする力がかかっている。皮膚が微妙に伸ばされて、突起した乳首の先から出るものが、その吸引によってチューブ内部を伝っている。
それがホタルの口に運ばれているという。
(意味が……わかんない……)
ホタルに母乳の出る薬を投与して、さらにそれをホタル自身に飲ませることで、一体どこの誰の性癖を満たしているのか。どうしたら、こんなことを面白く感じられるのか。ホタルにはまるで理解できなかった。
完全に、理解の外側の世界であった。
それに屈辱も膨らむ一方だ。
口にはチューブが入って来て、乳房に取り付けられた器具も触手と繋げられている。膣と肛門にも、ディルドやアナルパールの出入りが続いている。これだけ何本もの触手にたかられて、周りには無数のカメラがある状況など、かつて想像したことすらなかった。
こうまでして、機械的な辱めを受けている。
その屈辱でたまらずに、もしも脱走が出来たなら、この施設を後々破壊したい願望がホタルの中では切実だった。
「ああ、ちなみにですね? 愛液も採取します。あなたの股のあいだには器を置き、そしてその器もチューブと繋がっていますので、溜まったものを吸引して運びます。よく、よく、味わってみて下さい」
三本目の触手が現れた。
その先端が舌に置かれて、これでホタルは自分自身の愛液さえも味わう運命に置かれていた。
後ろからの刺激が増す。
アナルパールの出入りによって、肛門に甘い感覚が広がっている。何となく痺れるような、気持ちのいい刺激が走るたび、肛門括約筋に力が入り、無意識にきゅっと引き締めてしまう。
アソコへの出入りによっても快楽が生じ始めた。
ぬかるみの滑りに沿って、スムーズに行われるディルドの出入りで、膣壁が抉り抜かれるたび、内股まで痺れる電流が駆け抜ける。ピストンによる摩擦が下腹部を熱くして、いつしか汁気が滴るようになっていた。
さらに乳房にも電気は走る。
「んっ……んっ……んっ……んっ……んっ……」
吸盤にぴったりと覆われているような、皮膚にまんべんなく当たった素材を介して、比喩ではない本当の電気が流れている。そのピリっとした淡い電気は心地が良く、突起した乳首が良い具合に刺激を受け、そして母乳は分泌される。
その搾られた分泌物がチューブを伝い、ホタル自身の口の中へとやって来るのだ。
「んっ、んぅ……んっ、んぅ……んっ…………」
開口器具のため、まともに喘ぐことの出来ないホタルの、それでも出て来る声はどこか甘く、悩ましげなものだった。
「ここからは、どんどん、どんどん、気持ち良くなって頂きますよ? なにせ、調教なのですから。品質が仕上がる頃には、一体どれだけ感じやすい肉体になっているのか、今から楽しみではありませんか?」
それは果たして、ホタルに向けての言葉なのか。視聴者に向けての言葉なのか。
「んぅ……んっ、んぅ……んぅ……んぅ……」
ホタルの眼前には、相変わらずホロウィンドウが表示されている。その中の映像で、ホタルの尻には二本の触手がピストンを続けている。
「んっ、んぅ――んぅぅ――――んぅぅ――――――」
愛液が出てきていた。
「んっ…………」
感じさせられ、濡れてしまっているのは、もう感覚でわかっていることだったが、映像の中にも感じた証拠は現れていた。ディルドの前後運動に合わせる形で、急に引きずり出された一本の紐が、振り子のように一瞬だけ揺れ動き、そのまま滴を床に飛ばしていた。
自分自身の感じた証拠を、快楽の証を、感覚だけではなく、視覚的にも突きつけられ、ホタルはますますの屈辱を覚えていた。
「んぅ……! んっ、んっ、んぅ――んぅぅ――――」
それを契機に、ピストンが激しくなった。
まるで膣内からクリトリスのポイントを狙い、裏側から責めて来ているような、そんな部分が集中的に擦られる。腹の中で角度が変わり、一点への刺激を意識しつつのピストンで、ただの出入り以上の快楽に襲われた。
「んぅぅ――んぅぅ――――んぅぅぅ――――――!」
体が弾ける。
膣内で蠢くディルドは、しかも単なるディルドではなかった。
カメラが搭載されているのも、膣圧を検知するデータ採取の機能についても、男が最初に言っていたことだ。普通の器具でないこと自体はものの始めからわかっていたが、ホタルが想像していた以上に、これは特殊なものだった。
「んんっ!?」
ホタルは驚愕した。
ボコボコと、内側で膨らみ始めた。
膣内に収まっているものの状態など、目で見て確かめることはできないが、おそらくは皮膚が急に膨張したように、針でも生やそうとしているように、急に突起物を生やしている。
(なに? いったい何が……!)
ホタルは戦慄しつつあった。
「おっと、言い忘れていました」
男はわざとらしく述べ、そして芝居がかった解説を始めた。
「そちらのディルドはですね? より細かな触手を生やす機能を搭載しています。内側に何本もの、細い細いチューブを内蔵して、それが飛び出るのです。人工皮膚の内側にはそれらが飛び出すための穴があり、ええそうですね。穴だらけの棒に皮膚を被せたのが、そちらの現在挿入されているディルドなのです」
と、ここで男は一呼吸を置く。
そして、解説を続けた。
「人工皮膚は伸縮自在のような作りで、とてつもなくよく伸びます。それはもう、十メートルは引っ張れるくらいです。内側から直径数ミリの触手が伸びることが可能で、そして変形する皮膚は触手の形状にフィットします。あたかも、人工皮膚そのものが変形して、触手と化して見えることでしょう」
膣内に蠢くのは、そんな細やかな触手であった。
「んぅぅ――んぅぅ――――――」
ホタルが味わっている感覚は、例えるなら棒状のイソギンチャクを突っ込まれ、その触手が膣内で蠢いているものである。そんな風に突起物が伸び出た上で、先端が内部で膣壁をくすぐっている。
「んっ、んぅ……んぅぅ…………」
かなりの、特殊な刺激であった。
男根を出入りさせての、実際のセックスでは味わう機会のない、高度な設備ならではの刺激によって、ホタルは本来ならとっくに喘ぎ声を出していた。
「んっ……んっ……んっ……んっ……んっ……!」
だが開口器具のため、上手いこと声が出ない。
おかげで声量は抑えられ、ホタルが出しているものは、喘ぐよりも呻き声に近かった。
「現在、Gスポットを責めているはずです。膣内でも、とても敏感な部分ですから、今までの単調なピストンに比べて、さぞかし刺激が増していることでしょう。それに触手の蠢く快感も合わさって、あなたはとても……ええ、それはもう本当に、本当の本当に、とっても貴重な快楽を味わっているのですよ?」
(そんなこと……望んでない……!)
反抗的な意思をホタルは抱いた。
好きで味わっている快楽ではない。
誰もこんなことは頼んでいない。
しかし、そんなホタルに対して、滅多に出来ない体験を男は押し売りしてきている。
「んっんっ……んっ……んっ……んっ……んっ……!」
ホロウィンドウの中身が切り替わった。
膣内の映像が映し出されて、その隣には視聴者の人数も表示されている。これが不特定多数の何者かに、他の何人もの男達にも見られているかと思っただけで、恥ずかしさや屈辱で頭がどうにかなりそうだった。
「んぅぅぅ…………!」
触手蠢く責めにより、ホタルは下腹部に力を加えてしまう。ぎゅっと締め付けるような力を反射的にかけた途端、膣壁に細やかな群れの当たる感覚が強くなり、余計に気持ち良くなって、足腰が今にも震えそうなのだった。
映像が切り替わる。
今度は真後ろからお尻を撮ったものだった。
「んっ……んっ……んっ……んっ……んっ……」
鎌首をもたげたチューブは、そのカーブの角度をそれぞれ横へずらしている。逆V字のようにして、二本がそれぞれの穴に頭部を埋め、ピストンを続けている。
「んぅ……んぅぅ……んぅぅ…………」
その狭間、股の間に滴があった。
膣壁から引きずり出され、垂れてきたものが糸を伸ばして、下へ下へと向かっていく。
そして、置かれた器の上にぽたりと落ちる。
最初はペースが緩かった。
何分か、何十秒か、いくらかの時間をかけて、やっと一滴の滴が生まれる。それが重力に引かれて糸を伸ばし、器に垂れるまでの時間がかかっていた。
そのスパンが徐々に短くなっている。
「んぅぅ……」
まずは生まれる滴の質量が変わった。
糸が伸びきり、千切れて器へ垂れるまで、毎回のようにかかった時間が縮んでいる。糸の伸びるペースが変わり、伸びるや否や落ちようになっていく。
「んっ、んっんぅ……んぅぅ…………」
生まれる滴の重さが、時が経つにつれて増しているのだ。
そして、糸が千切れて垂れた次には、もう次の糸が伸びようと、ワレメに玉が付着している。表皮に滴が生まれてから、実際に糸が伸びるまで、最初はまだ時間がかかっていたが、そのペースもまたしだいに縮む。
「んっ……んっ……んっ……んっ……んっ……」
糸が伸び、それから次の糸が生まれるまで、だんだんと数秒もかからなくなっていた。
前の糸が消えたなら、直ちに次の糸が伸びるようになる。
それどころか、だんだんと糸の存在が継続するようになっていた。半ばで千切れ、性器から数センチは残った先端に、伝い流れてくる水分が次の滴を成長させる。
そう、千切れてもなお、残った部分が股のあいだでぷらぷらと揺れているのだ。
さらにスパンが短くなれば、もはや緩めた蛇口であるように、一滴ずつポタポタと、器に向かって愛液は垂れ続けた。
ポタッ、ポタッ、ポタッ、ポタッ、ポタッ、ポタッ、
そうやって、器の中には溜まっていく。
本当に最初の頃、この器がまだ置かれたばかりの時は、時間をかけてやっと一滴を受け止めていた。一滴ずつ、一滴ずつ、地道に滴を積み重ね、水溜まりと呼べるものが形成されることさえ遠い道のりのような状態だった。
ポタッ、ポタッ、ポタッ、ポタッ、ポタッ、ポタッ、
だが、今やそんなペースで垂れている。
こうなれば水溜まりは簡単に出来上がり、滴は水面にこそ落ちていた。
ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、ピチャッ、
滴が器の底を打つ音から、水面を打つ水音へと変化して、水溜まりが面積を広げていく。
そして、そんな器には、チューブの触手が先端を置いている。それが中身を吸い上げて、せっかくの出来上がった水溜まりを薄めていくと――。
ホタルの口の中へと、愛液は伝っていった。
開口器具で無理にこじ開け、開口状態を維持したその口内、三本のチューブのうち、二本は母乳の分泌を続けている、一本はこうして器の中身を運搬して、ホタルに自分自身の愛液を与えている。
ホタルの舌の表面では、母乳と愛液が混ざり続けた。
その味わいたくもない味が、絶えず舌に広がり続けた。
嫌なものを飲まされる屈辱感、不快感に、顔中を歪め尽くさんばかりのホタルだが、開口器具の存在が表情の変化を微妙に邪魔して、その顔つきを滑稽なものにしているのだった。