第4話 触手による陵辱
プローブによる測定が済んだのか、肛門や膣の中から取り出される。
だが、今まで太いものが収まっていたのだ。
そのせいか、穴がぽっかりと広がったような感覚が残っている。余韻が強く、今なお五感における触覚として、まだ収まったままであるような気持ちがする。少しでも思い出そうとすれば、新鮮な記憶が感覚上に蘇り、物理的な触感を幻として感じてしまう。
負けるわけにはいかなかった。
(諦めない……)
ホタルは唇を引き締めて、腹の底には強い意思を隠し持つ。
必ず脱出のチャンスはある。
相手が隙を見せるか、助けが現れるかして、きっと機会はあるはずだ。ホタルの仲間もそうだが、星が捕まっているのなら、列車のメンバーがアジトに突入してくる可能性も大いにあり、ふとした瞬間に攻撃でも始まって、たちまち混乱が起きるかもしれない。
チャンスの巡る瞬間があると信じて、ホタルはぐっと堪えていた。どんな小さな可能性も見逃さないため、いつ何が起こっても良いように、心の中では備えていた。
「いやぁ、それにしても、見た目が少しだけ変わりました」
男はまたしても、お尻の真後ろに立っていた。
それどころか、尻たぶを両手で掴む。指が軽く食い込む上に、顔が数センチの距離まで迫って来るので、間近から視姦される恥ずかしさで、ホタルは耳まで染め上げていた。
お尻のすぐ後ろに男の顔の気配があり、呼吸音まで聞こえてくる気持ちといったらない。
「あなたのお尻の穴、緩くなっていますよ? ええ、最初はもっと固いというか、広がりに欠ける感じがしましたが、今はとても柔らかく、皮膚が十分伸びそうに見えますね」
それを示すかのように、ビニール手袋を嵌めた指先が当てられる。先ほどと同じ二本であるが、それよりも太いプローブが入っていた手前、その挿入でもはや痛みは感じない。
「ええ、しっかりと、ほぐれています。だからこんな風に、指をピストンさせる、なんて真似も出来ちゃいますね」
男は指を動かし始めた。
「んぐぅ……んっ、んぅ…………」
肛門に出入りしてくる感覚に、ホタルは恥辱の顔で歯をきつく食い縛る。
最悪なことに、少しだけ気持ちいい。
「んっ、くっ……」
感じたことが知れてしまえば、この男は一体どれほど饒舌に指摘して、芝居がかった長々とした台詞を垂れることだろう。その想像が浮かぶだけに、ホタルは間違っても声を出さないように意識して、歯を食い縛っているのだった。
「では下の方はどうでしょう」
指はすぐに引き抜かれた。
プローブの余韻から、指による辱めの余韻に塗り替えられ、抜かれてもなお肛門に感触が漂っている。そのまさに真っ最中に、今度は一方の手でアソコが広げられ、指による挿入が行われた。
やはり、二本だ。
束ねたものが入り込み、そしてもう痛みはない。穴が完全に緩んだわけではないために、内側から拡張される苦しさこそ感じるものの、物の出入りに多少は慣れてしまったのだ。
一本の指の時には愛液が出た。
もう、二本でも濡れるかもしれない。
濡れてしまったら、感じた事実が問答無用で相手に伝わる。
(最低……)
ホタルは嫌な気分になっていた。
自身で決めたパートナーでも、運命的に出会った異性でもなく、こんな見ず知らずの男によって、自分の肉体が作り替えられてしまったのだ。自分という存在に、この男の爪痕が残された最悪の気分に、ホタルは拳を固く震わせていた。
過去を洗い流したい。
出来後をなかったことにしたい。
そんな気持ちにもなってきていた。
「時に、これはまだまだ、始まりに過ぎませんよ? データの収集に、そして調教。あなたという商品の品質をここで磨いて、それを視聴者様にもご覧頂くのです」
その時だった。
指は引き抜かれるのだが、それと入れ変わるようにして、新たに別の何かが触れてきた。アソコと肛門、どちらの穴にも先端が触れ、ホタルの内部へ侵入してくるのであった。
「くぅ……!」
プローブほどに太い、しかし素材の異なるこの感覚は、もっと生々しいものだった。
(なに……これ…………)
人間の肉の一部と触れ合っている気になるが、男はホタルから何歩か離れて、ほんの少しだけ遠巻きに、人の様子を眺めている。彼の男根が入っている可能性は、どうやら一ミリもなく、ならば感触の正体は触手の先端に違いない。
「んぅ……くぅ…………」
ホースの内側に内部骨格を搭載して、カーブなど形状を自由自在にする機械触手の、先端に生やされたパーツのはずだ。
もしや今入っているものは、バイブやディルド、その手のアイテムなのではないか。それも肉や皮膚の感触を再現して、生々しく感じられる素材で合成されたものではないか。
「様子が気になりますか?」
「べつに」
ホタルはそっけなく答えるが、男はニヤニヤと指を鳴らして、すると眼前には再びホロウィンドウが浮かび上がった。
パネルを宙に浮かせたように、何もなかったはずの空間に、画面がぱっと現れて、そこに映っているのはお尻を横から撮った映像だった。
確かに触手が伸びてきている。
白いホースが二本ほど、ホタルの穴へと向かって来て、先端を埋め込んでいる。
「んぅぅ……!」
映像の中で触手が動き、そのピストンでディルド部分が見え隠れを始めた瞬間、穴の内側にある感触も連動した。中継映像である以上、映像の中で動く通りの、ピストンによる感覚は、そのままホタルに反映されていた。
「そちらの触手にも、様々な機能が搭載されています」
男は言う。
「膣に肛門、その締まり具合をやはりデータ化します。プローブの時と数値に変化があったなら、もちろんその変化した具合も記録されます。穴の緩さが三から一〇になったなら、その差分の七という数字がデータベースに残るのです」
「んっ、くっ、ぬぅ……ぬっ、んぅ…………」
どちらのディルドも、ゆっくりと動いている。
「んぅぅ……んぅぅ……」
映像の中にある触手は、蛇が鎌首をもたげた体勢で、まるで穴に頭を突っ込んだようなカーブを成している。そのカーブ部分が前後に動き、棒状の物が真っ直ぐに出入りする。
「先端にはカメラも付いています。ライトで腸や膣内を照らし、出入りの様子を記録しています。そういった映像は、調理前の生肉にレンズを押しつけたような感じ、という風に例えるのがわかりやすいですかねぇ? なにせ、赤とかピンクの生々しい部分の映像ですから」
男の長々とした解説が終わるなり、肛門からはディルドが引き抜かれる。
(本当に……最悪…………)
それは男性器に酷似していた。
人間の皮膚に合わせた色合いと、妙にリアルな形状のものが出て行くと、入れ変わるように現れた別の触手が、今度は別の物を肛門に押し当ててきた。
「アナルパールはご存じですか?」
「そんなの、知らないから」
「ではこの機会に覚えて下さい。そちらの映像にあります、そういったものがアナルパールです。アナルという名の通り、お尻に使用するのが主な用途です」
それは棒状の器具だった。
ビーズをいくつも繋げたスティックの、先端にある球が埋まり始めて、そのまま奥へ奥へと押し込まれる。そしてピストンが始まると、前後運動によって根元から半ばにかけての部分が見え隠れを繰り返した。
「んっ……んっ……んっ……んっ……んっ……」
球と球の狭間、玉同士の間にある溝が、肛門の皺に上手いこと引っかかる。その感じが快楽となって、声を聞かせたくないのでホタルは歯を食い縛っていた。
「そちらのアナルパールも同様です。カメラ搭載、圧力検知。肛門に力を入れて、きゅっと締めたりすれば、そのたびに発揮された力が数値化されることになるのです」
人のデータを本当にこと細かに、そんなものに一体何の需要があるのかがわからなかった。
乳房が見たい、パンツが見たい。
男の明快な欲求なら想像できるが、膣圧だの肛門の圧力だの、そんなデータにまで興味を示す人間がいるというのか。
「んぅ……くぅ……」
ホタルにはそれが信じられずに、わけもわからないデータを取られる混乱と不快感の中に置かれていた。
「センサーがとても素晴らしい数字を検知しています。あなたのアソコは名器と言わざるを得ませんねぇ?」
「……なにそれ」
「名器は名器です。まあ、何も知らない無垢な乙女たるあなたには、この私がわざわざ、言葉を尽くして解説して差し上げましょう。つまりですね、男性が女性の中に挿入したら、男根の部分に快楽があるわけでしょう?」
その瞬間、想像がついてしまった。
「……っ!」
頬から恥じらいの炎が出た。
(それって……!)
先ほど、この男は言っていた。
(嫌だ……嫌すぎる…………)
膣や肛門の形状をデータ化して、ホタルの穴をまったく再現したものを製造可能であると。だとするなら、細かなざらつきや凹凸にかけて、全てが正確に読み取られているのだろう。
「内部形状ですよ。あなたの膣内はですね、リングをいくつも重ねて作った内側のような、まあそういう感じのですね? ザラつきのようなものがあるのです。そうした穴に挿入しますと、そのザラザラに撫でられて――とても、ええ、とっても、気持ち良くなるわけですよ」
お前の性器はそのように気持ちいいのだと、こうも具体的に伝えられては、ますます恥ずかしくなる一方だ。それに男の、だから自分も是非、あなたに挿入してみたいものだという、いかにも下心を感じさせる声音が薄ら寒かった。
「んっ……んっ……んっ……んっ……んっ……」
そして、この長々とした言葉を聞かされるあいだにも、ピストンは続いていた。膣にも、肛門にも、一瞬たりとも中断することのない、延々とした出入りが繰り返され、そしてホタルはその感覚に慣れてきていた。
最初はまだ、痛みがあった。
物が膣壁や腸壁に擦れてくるのは辛かったが、膣壁の方には保護粘膜が分泌されている。粘膜の力で痛みから膣は守られ、そして肛門への出入りがディルドからアナルパールに変わってから、物がだいぶ細くなったので、負担は大幅に軽減され、むしろ気持ち良くなっていた。
さらに乳房にも器具が装着された。
胸の形状をすっかり多い、吸盤が張りついているような、軽く引っ張られる感覚が、山なりである皮膚の部分にまんべんなくかかってくる。
これは一体何なのか。
どうせ、ろくなものではない。
「ところで言い忘れていましたが、実はあなたには薬を飲ませてあるのです」
「やっぱり……」
予想通りであった。
最初に目が覚めてから、体調や筋力の具合に違和感があった。本来の力を発揮できそうにない、妙な不調の感じの正体は薬ではないかと想像した。
その予感が当たっていたと、男の言葉によって証明された。
だが、しかしホタルはぎょっとする。
「力を少々弱らせつつ、その他にも――母乳の出る効果を」
意味がわからなかった。
何を言っているのかがわからなかった。
一瞬では言葉を受け止めきれず、母乳という単語を脳が反射的に弾いていた。
「どうも我々の商売には、そういった需要の傾向にありまして、そのような薬を……っと、喋り過ぎましたか。これはこれは、私としたことが、つい、うっかり」
(……もっと喋ればよかったのに)
組織と取引のある会社の名前でも出て来れば、それは立派な情報だった。脱走の役に立つ種類のものではないが、こうして自分に敵対した者の情報なら、知るだけは知っておきたかった。
男は肝心なところで言葉を中断させている。
母乳が出る薬とやらは、どこからかの取り寄せか、それとも自分達で製造しているのか、残念ながらそれがわからない。手に入った情報としては、あまりにも曖昧で、武器としては力に欠けたものである。
きっと、曖昧なところで言葉を止めたのも、この男ならわざとなのだろう。
「これから、そちらの胸の器具からは、母乳の吸引が行われます。薬の効き具合、つまり出の具合がデータとして採取され、そして母乳はチューブを伝って、ある場所へと溜まります」
(どうやったら、そんなおかしなことを思いつくの?)
ホタルにはこの男が、何よりも彼の顧客が信じられない。
「その、ある場所とは? さて、どこでしょう?」
クイズのように言われても、知るわけがない。
「答えは……」
それは口頭ではなく、触手の登場によって示された。
目の前で細い二本のチューブが鎌首をもたげ、まるで蛇のように鎌首をもたげていた。