第9話 おぞましいお触り

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『あらあら、負けちゃったねぇ? だけど運命の罰ゲームを与える前に、杏子ちゃんには最後のチャンスを与えちゃおっかな? 敗者復活ゲーム!
 た・だ・し!
 とびっきりエッチな内容になるから、覚悟してちょーだいね?』

 チャンスを与えると称した辱め準備として、杏子には体操着と白スパッツが与えられた。
 加えて、何故だか一杯の水を飲むように言われ、杏子はコップを手に取っていた。
 さらにショーツが返却されるが、それを手にとって思い出すのは、あの少年がクロッチ部分をべろりと舐めていることだ。今は乾いていても、一度はあの唾液が染み込んで、穿けばそれが杏子のアソコに接触する。
 間接的に舌が触れてくるのかと思ったら、気持ち悪くてたまらない。
 かといって、闇の力を相手に逆らうのは限界があり、それに他の下着が無い以上、背に腹も変えられない。
 杏子はノーブラで体操着を着た。
 そして、ショーツと白スパッツを穿き、スカートは手放す。
 指定通りの服装になったところで、少年の案内通りにエレベーターに乗って階を移動し、廊下を進んで部屋へと入る。
 それを見た瞬間、

 ぞわぁぁぁぁぁ…………!

 これまで以上の鳥肌に襲われた。
 全身余すことなく悪寒が走り、まるでゴキブリかナメクジの巣窟にでも入ってしまったような、気持ち悪さ一つで絶望感を覚えるほどの状況に泣きたくなった。杏子にとって、これ以上のおぞましい光景などなかった。

 部屋中にびっしりと、壁にも天井にも余すことなく真崎杏子の写真が貼られていた。

 大きく印刷してポスターに変えたものが何枚も、小さな写真が何千枚も、壁と天井の素材が一片たりとも見えなくなるまで、本当にみっしりと詰め込まれている。
 それらは杏子の学校生活を隠し撮りしたものであったり、パンチラを撮ったものであったり、ゲーム中のものであったり様々だ。

「さあ、入っておいでよ」

 そこに少年本人は立っていた。
「あ、アンタ! 気持ち悪いのよ! なんなのよこれは! こんなのありえない! ちょっとは常識ってものがないの!?」
「可愛い反応をするんだね? 僕はますます杏子ちゃんを大好きになってきたよ」
 怒る杏子に対し、少年は満面の笑みを浮かべてくる。
 その猫なで声に引き攣って、杏子は思わず後ずさりまでしていた。
「ほらほら、早くおいでよ」
 冗談じゃない。入りたくない。
 ここまで気持ち悪い部屋を見せられて、その上で入って来いなど、まさにナメクジの巣に入ることを強要されるかのようなおぞましさがある。
 だが、杏子は進んだ。
 そうするしかないからだ。
 他にどうしようもないからこそ、杏子は肌中の戦慄を堪えて部屋に踏み込む。床を踏んだだけでもぞわぞわと、全身に寒気が走り、気色悪さだけで身が竦む。恐怖で動けなくなったり、怯むとはよく言うが、気持ち悪さによってそうなりそうだった。
「ふざけないで……」
「おっと、逃げちゃ駄目だよ? 杏子ちゃんはこれから僕と一緒に遊ぶんだからね」
 少年は杏子に手をかざす。
 たったそれだけのことで、杏子は動きの自由を奪われた。まるで目には見えない手錠がかかったように、両手が勝手にくっついた上に吊り上げられた。手錠にロープをかけて天井に引っ張るかのように、杏子の両腕は強制的に真上へ伸びていた。
「なっ、なにするのよ!」
「ルールを説明するよ?」
「ちょっとはこっちの話を聞きなさいよ!」
「いいかい? このゲームは敗者復活ゲームだ。ゲームをクリアしたら、最後にもう一回だけ僕との対戦メニューを用意する。では肝心の復活ゲームの内容だけど、これからいっぱいお触りするから、絶頂したら負けってどうかな?」
「ふざけてるの……?」
 杏子は凍りついていた。
 触る? 絶頂?
 そして、今の杏子は身動きが取れない。慌てて気づくのが遅れたが、では両足はどうだろうかと思って試してみるも、足さえ地面に根が張ったように動かない。
 迫る少年に対して、杏子が出来るのはただ身を捩ることだけだった。

「制限時間は十分! 絶頂我慢ゲームスタートだ!」

 少年がニヤニヤと躙り寄る。
(来ないでよ…………)
 少年の手はまず真っ先に、体操着の胸へと伸びてくる。今にも乳房を触られそうな杏子の心境は、ナメクジを体にくっつけられそうな危機感によく似ている。ゴキブリ、ミミズ、触れないものが接触しようとしてくる。こんな形での絶体絶命のピンチに陥って、抵抗の手段もない。
「あはっ、柔らかいおっぱいだなー」
 とうとう少年の手が乳房を包み、体操着越しに触り始めた。
(いやぁぁぁぁ! 無理! 無理無理! 無理よこんなの!)
 まるで一瞬にして腐食が広がり、身体の一部が黒く腐り落ちてしまったようなおぞましさが乳房に充満していた。胸どころか、そこからさらに全身へと、細胞を腐敗させるための信号が神経に乗って行き渡り、体中のいたる箇所が犯されるかのようだ。
「乳首が立ってるね?」
「っ!?」
「気持ちいいんだ?」
「気持ちいいわけないでしょ! なにふざけてるのよ! 冗談も大概にしなさいよ!」
「でもほら、乳首がこんなに硬くなって、服の上からもばっちりと目立ってきてるよ? これは杏子ちゃんが僕の手で感じてくれている証拠じゃないか」
 少年は両手で揉みしだく。
「だからふざけないでってば! ありえないこと言わないで!」
「じゃあ乳首を刺激してみようかな」
「くっ! くぅぅぅ……! んっ、んあっ、あぁ…………!」
「ほーら、気持ちいい」
「や、やめて………………」
「次はお尻を触ってあげよう」
 少年は背後に回り込み、まるで電車の痴漢がそうするように、べったりと手の平を乗せて撫で回す。スパッツの生地を摩擦するスリスリとした音が立ち、杏子の尻は腐り始める。細胞が何かに犯され、死んでいくような感覚がしてならなかった。
「お尻も大きくて可愛いね? スパッツがぱんぱんに膨らんでいて、とってもセクシーで、僕はもう既に勃起してしまっているよ」
「うるさいわよ! せめて黙りなさいよ!」
「気持ちいいのを誤魔化したって、杏子ちゃんが僕の手で感じている事実は変わらないよ? ほら、次はアソコを触ってあげる」
 少年は正面に回って来る。
 ニタニタと気色悪い笑顔で杏子を見つめ、視線だけですら怖気がする。単に見つめられるというだけで、何か気持ちの悪いネトネトとした液体でも塗られるような、それほどまでに嫌な感覚がしてならない。
「杏子ちゃんのオマンコの様子を見てみようね?」
 アソコへ手がやって来る。
「いやぁぁ……! や、やめて……! 本当にやめて……!」
 全身が震えていた。
 極寒の地にでも立たされているように、あるいは全身が痙攣するように、杏子は汗を噴き出しながら涙目で震えていた。
「へへへっ、腰が反応してるね? アソコも濡れてきてるよ?」
「濡れてなんて……馬鹿なこと言わないで………………」
「ちゃんとアソコを意識してごらん? 僕の指にはもう水気が吸いついてきているんだ。杏子ちゃんはもう間違いなく愛液を漏らし始めているんだ」
 ねっとりとした声で、まるで力ずくで顔の方向を変えられるかのように、性器へと意識を引っ張られる。
(…………いやぁ!)
 杏子は心で絶叫した。
 感じている自覚はなかった。乳首も立っているのだが、杏子自身には本当に自覚がなく、気持ち悪さの方に夢中で快感に気づいていなかった。
 だが、本当に濡れているのだ。
 ショーツの内側が汗ばんで蒸れるかのように、ぐっしょりとなり始め、さらに愛撫が続いていることで、愛液は量を増やし続ける。ショーツが水分を吸収して、それがスパッツにまで及んでいるうちに、もう完全に無自覚でいることはできなくなった。
「ほら、自分で確認してごらん?」
 少年は指をパチンと鳴らし、浮遊カメラと浮遊モニターを操作する。

「いやぁぁぁぁ…………!」

 杏子は絶望の顔を真紅に染め上げ、涙目で頭から煙を噴き出す。
 モニターに映った杏子の股は、白いスパッツを完全に透かせきり、ショーツが完全に丸見えとなっていた。まだ水気の及んでいない、太ももの部分は透けていない。きちんと白い生地に隠され、肌色の気配すら見えない。
 濡れない限り、透けることのない生地だ。
 逆に言うなら、濡れさえすればここまでくっきりと透けるスパッツは、もはやショーツを隠す意味合いなど持たなかった。
「杏子ちゃん? そういえば、僕はこのパンツのアソコをいっぱい舐めたりキスしていたから、僕の唇と杏子ちゃんのアソコが関節キスをしているね?」
 聞くに毛穴が広がって、背筋に氷が触れたような寒気と、細胞全てが怯え固まるような怖気が走る。
 どうしてここまで薄ら寒い台詞が言えるのかがわからなかった。
(無理……本当に無理…………こんなのっ、痛みとか他の苦しみを味わう方がずっとマシじゃない…………!)
 杏子は本気でそう思っていた。
 これほどの拷問など、他にありはしないとさえ感じていた。