6:性交調査義務

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「本当に……本当に恥ずかしすぎたわ……私が私でなかったみたいに……いいえ、私というものが嵐の中に消え去って、自分を見失っていたみたい……恥ずかしさで……」

 速水奏は未だに衣服を返してもらっていない。
 男子だけが服に着替え、一度は全員が出ていった後、ランダムに選ばれた一人だけが性交体験調査のために引き返す。
 そのためのベッドが用意され、お互いに裸の状態でクラスメイトと付き合わされ、性行為の義務だけを残されて、大人達はこぞって部屋を出て行った。記録用の三脚台のカメラはベッドの周りに複数置いておき、直接の観察はしないらしい。
「速水さん。大丈夫?」
 男子は気まずそうに尋ねてくるが、性交義務を背負ったことで、奏を押し倒しても構わない大義名分を得ているのだ。いかにもそうしたい思いが滲み出て、目がチラチラと裸を伺っているのは見え見えだ。
「大丈夫、とは言いにくいけど、ほら……。どうせ、最後までするのよね」
「う、うん……」
「キス、してみる?」
「……えっ」
 からかって、驚かすことで、ゲームの対戦ではないのだが、少しはポイントを勝ち取った気持ちになる。
 そうすることで、自分自身落ち着きたかった。
「冗談よ。こうしていても帰れないし、始めましょう?」
「じゃあ、お願い……するから……」
 実に困り果てた様子でいて、それでも少年は立ち上がり、勃起しきった肉棒を向けてベッド上に仁王立ちしていた。
「えっと……?」
「いや、口で……」
「……えっ、もしかして、この唇を使って欲しいって?」
 思わぬ要求にかえって笑うしかないような引き攣り顔で、奏は少しずつ視線を向け、血管の浮き出た肉棒を視界に収める。直視することも気恥ずかしい、卑猥な逸物に顔だけは向けながら、反発力で瞳は余所へ逸れていく。
「あ、うん。お願い」
 困ったような気まずそうな顔でいながら、ここぞとばかりに自分の望みはちゃっかりと叶えようというわけだ。
(これ、しなきゃ駄目なのかな……)
 未経験な上、好き合ってもいないただのクラスメイトだ。抵抗感は非常に強く、手で触れることさえ躊躇うが、奏はどうにか肉棒を掴んで奉仕する。手始めに手コキから、やがて唇を近づけると、目を瞑りながら亀頭に触れた。
(なんのロマンもないキスなんて、したくなかったな……)
 亀頭の鈴口に口づけして、チロチロと舐め始める。
 先端を舌先でくすぐり続け、すぐに青臭い味がしてくることで、たまたまあったカウパーの知識が頭を掠める。
 こんなことに従っているのは、身の程を教え込まれたからなのだろう。
 ギョウチュウ検査や性器検査まで受けさせられ、プライドを削り取られたせいで、性交命令を拒む意思など削ぎ落とされた。

 チロッ、チロォ……チュッ、チュム、チュゥ……。

 手で触ることさえ初めてなのに、上手なフェラチオなどできるはずもなく、不慣れな舌使いで淡々と舐め込んでいる。
「く、咥えて……」
 少年は不安そうに頼む。
「仕方ない……ね。やってあげるよ」
 奏は肉棒を頬張るが、口を塞がんばかりの太さにも、当然のこと慣れていない。鼻息しかできない状態で、排泄に使う器官が口に入って来ることへの抵抗感も手伝って、奏は少しばかり頭を前後しただけで、すぐに吐き出してしまっていた。
「もうちょっと、お願い」
 そう言われればやるしかなく、奏は竿を頬張り直す。
「んずっ、ずぅ…………んっ、んぅ……んぅずぅ…………ぷはぁ…………」
 呼吸が辛く感じて、息継ぎがしたくて竿を吐き出し、咥え直して前後に動く。その繰り返しをひたすら続け、この短時間で慣れることもなく、素人の拙い技術を延々と披露する。
 しかし、少年も異性に口でしてもらうのは初めてで、フェラチオの上手い下手などわからない。それ以前に顔見知りのクラスメイトに咥えてもらう状況だけで、十分に興奮しているために、暴発など時間の問題だった。
「で、出る……!」
 慌てた声とほとんど同時に、射精に備える余裕もなく、奏の口内にはドクドクと色濃い味が注ぎ込まれる。粘度の高い粘液が、プルっとしたゼリーの固まりのような状態で、奏の下に青臭い味を広げていった。
「んぅ……」
 その味に顔を顰め、奏はティッシュ箱に手を伸ばし、すぐさま吐き出す。
「ごめん。大丈夫?」
「いや、なんていうか。もっと早く言って欲しかったかな」
「そうだね……」
 と、これだけのやり取りで会話は途切れ、気まずいだけの空気が流れる。
 正直、もう帰りたい。
 早くこの時間から解放されたいが、まだ肝心なことをやっていない。最後の項目を済ませるためにも、奏はそれを切り出した。
「……終わらせようか。ロマンも何もない形になるけど」
「そうだね。じゃあ、するから」
 少年はコンドームの装着を開始する。
「優しく、ね」
 奏はそう言って横たわり、恥を堪えて股を広げた。
 まだまだアソコをあけっぴろげにするのは恥ずかしく、顔がどこまで赤いか自分でも想像がつかないが、パニックじみた状態にならずに済む程度には、おかげさまで慣れたらしい。
(甘い時間の中で恥じらう夢は奪われて、引き換えに度胸がついたとでも思えばいい? AVに出る予定なんて、一生ないのにね)
 無念の中に沈んでいるうち、その瞬間は迫っていた。
 少年が肉棒を握り、奏の穴に挿入しようとする。
 切っ先にワレメを開かれて、ずにゅぅぅぅぅ――っと、押し込まれる感覚に、破瓜の痛みで顔を顰める。初めての痛みはどの程度か、もしもトラウマになるような激痛だったらと怖かったが、思ったよりは軽い痛みで済んだことにはほっとする。
 少年の肉棒が収まって、腰が股へと押しつけられた。
「す、凄い……!」
 快楽に感激してか、少年はすぐに腰を振り始めた。
「んっ、んぅ……! んぅぅぅ…………!」
 初めてで感じるはずもなく、それでも異物が出入りしてくる違和感と、穴を内側から広げられている苦しさで、奏は苦しげに声を吐く。
「んっ、んっ、んぅ……んぅぅぅ…………!」
 悩ましげに髪を振り乱し、汗ばんだ横顔を曝け出すと、その色香が少年をドキリとさせる。まるで二つか三つは年上の、色気ある女に誘い込まれているような、そんな錯覚を少年は見ていた。
「あぁ……! あぁぁ……!」
 初めてしている緊張と、処女を失った動揺で、奏自身はそれどころではない。
 一心不乱に腰を振る少年に翻弄され、防衛のために滲み出る保護粘膜で滑りが良くなり、摩擦の痛みはみるみるうちに軽減されていく。かといって、最後まで快楽を得られることはなく、苦しい感じに耐え抜くことで、ようやく射精という名の終わりを迎えた。
 コンドーム越しの熱気を感じて、肉棒が引き抜かれた時には、これで全ての項目が埋まったのだと、奏は本当に安心していた。
 そして、安心の次に襲ってくるのは、ここまで尊厳を削り取られて、処女まで失ったことへの喪失感だ。心を深々と抉り抜かれ、虚無の部分を作られてしまったような、ぽっかりと空いた穴の感じが胸に漂う。
 その後、やっとのことで服を着ることを許されて、下着一枚さえもが必要以上に愛おしく思えていた。
 最後にはレポートを書かされた。
 ここまでの体験をどう感じ、性行為に対して何を思ったか。事細かな記述が求められ、自分は最後の最後まで、実験動物のような観察対象として扱われていたことを痛感するのだった。

 慰めのキスを求めても、許されるかしら……?