第3話 囚われの辱め

 かつて、一五代石川五右衛門は、怪盗ファントムを取り逃がす失態を何度も犯し、最後まで捕らえることのできないまま、ファントムは失踪している。
 怪盗ファントムは不破家の人間、つまり一三代――不破霊元の教えを受けた人間だ。
 盗人の正道は、正当性ではなく実力が全て、この勝ち負けにより、石川家の人間は不破家に比べて石川五右衛門の襲名に足りないという事実が出来てしまった。
 一八〇年間、石川家を支えた支持者達は一斉に離れていき、石川家に残ったものはお茶の道具くらいである。
 失墜した石川家の名を取り戻したい。
 その切実な願いを持つ弥栄は、しかしハンターを前に囚われて、身動き一つ取ることができずにいた。
「うぅ――」
 弥栄は悔しさに歯を噛み締め、顎に加わる力で頬を強張らせていた。
「これはなかなか、実に素晴らしい乳房のようだ。薄らかな山の具合は、程良い硬さを帯びて押し込む指を押し返し、その弾力によって指遣いに応えてくる。とても味わい深い膨らみですが、あなた自身も今まさに、私のこの指から快感を味わっているのではありませんか?」
「そんなもの、味わってません」
 取り逃がすだけならいい――よくはないが、まだその方が、今ほど恥ずべき失態ではなかっただろう。狩るべき盗人に身を囚われ、ハンターの目論見通り、この体から貞操が盗まれてしまいかねない。
 乙女の危機でもある状況に、みすみす陥ってしまったのだ。
「誤魔化すことはありません。あなたの中の乙女は、こうして心を盗まれようとするシチュエーションに興奮し、体中を疼かせているではありませんか」
「う、疼いてないです……」
「ではこの硬い感触は何ですかな?」
 ピンと、デコピンのように乳首を弾く。
「――っ!」
 その刺激に、走る電流に弥栄は引き攣っていた。
「感じたのではありませんか?」
「感じて……ないです…………」
 弥栄はすぐさまそう答えるが、インナー越しにつままれた乳首には、細胞を溶かさんばかりの快楽がじわじわ広がり、乳房をまんべんなく侵食してくる。
 弥栄は知らない。
 かけられたローションに媚薬効果があることを、ハンターは明かしていない。媚薬のせいで感じていても、それは弥栄自身にはわからずに、自分が興奮しているせいだと、他ならぬ本人が誤解する。
「弱々しい。その語気の弱さは、あなた自身、己の興奮を自覚しつつある証拠ではありませんか? つまり期待があるのですよ。もっともっと、今ここで奪われてみたいという期待が」
「変なこと言わないで下さい。正直、引きます……」
「傷つきますねぇ? そう引かれてしまっては!」
 ちっとも気にしているとは思えない、満面の笑みでますます指を活発に蠢かせ、ハンターは弥栄の乳房を揉みしだく。食い込んで来る感触に、表面を撫でることでの、ローションのために滑りの良いヌルっとした摩擦、それから乳首を刺激してくる電流で、細胞が喜んでしまっている。
 体がだんだん、熱っぽく疼いていた。
 しだいしだいに感度が上がり、頭のてっぺんから爪先にかけてまで、肌の感覚は鋭くなり、風を浴びてさえ気持ち良くなりだ。
「ほうら、私はこんなにもあなたを愛でているのです! もっと身も心も任せてしまいなさい!」
 ハンターは背後に回り込んで来た。
「ひっ、なにするんですか!」
「もっとあなたを感じるためですよ」
 尻に股間が押しつけられていた。
 ローションまみれを気にも留めず、汚れても構わないようにして、スラックスの膨らみを尻山へと押しつける。腰使いによってお尻のカーブをなぞりつつ、割れ目や頂点に押し込んでくる痴漢行為に、肉棒によって尻は揉まれる。
 さらには背中に抱きつかれ、背後から回り込む両手によって、弥栄の乳房は揉まれているのだ。
「んっ、んぅ……くぅぅ…………」
「あなたも感じていますね? 私というものを」
「だ、だから……変なことをっ、んぅ……んっ、あ…………」
「わかりますよ? その甘い息遣い、あなたが今どこまで高まり、どれほどに私のことを味わっている最中なのか」
「あっ、んっ、やめ……て…………」
「どんどん敏感になっていらっしゃる! おおっ、なんと美しくも甘い声! この手で感じて頂けていることが実感できる!」
 ハンターの言葉使いは、その抑揚がいちいち大袈裟だった。舞台俳優の演技のように、いかにも演技がかった演技でありながら、それが真に迫っている。
 今は密着してきているものの、そうでない時に交える身振り手振りも、演者が感情表現を行うために、現実の私生活ではあまり取らない、オーバーな仕草を意図的にやっているものに近い。
 ならばハンターには役者経験でもあるのか。
 ルックスを考えれば、そう考えてもおかしくはないが、今の弥栄にはそれを細かく冷静に分析する余裕がない。
「あっ、んっ、んぅぅ――――」
 体に走る快楽は、強くなる一方だった。
 いつ絶頂させられるとも知れないほど、体中に甘い感覚が充満して、脳の中さえ快楽の電流が走っている。まだ触られもしていないアソコには、ローションのせいではない、もっと別の理由の湿り気さえ生まれかけていた。
「んぅ――んっ、あぁ……あっ、あぁ…………」
 このまま触られていてはまずい。
 媚薬に気づいているわけではないが、本能的な危機感を弥栄は抱く。
「はぁっ、くぅっ、んぅぅ……んっ、んぅぅ…………」
 弥栄はいつしか脚を強張らせていた。
 内股になりきって、さもオシッコでも我慢するように力んでいるが、尿意があるというわけではない。もっと別の理由で、快感のせいでアソコがうずうずと、今にも触って欲しくてたまらないようにヒクつくせいで、気づけば自然と脚がそうなっていた。
 さらにその時。
 ぺろっと、舌で耳の裏側を舐められる。
「ひうん!」
 その甘い声は、単純に驚いたせいでも、今のが快感だったせいでもある。
「ほうら、嫌な感じがしない」
「!」
 言われて、弥栄は気づく。
「図星なのでしょう? そして、こうして指摘され、始めてあなたは気づいたのですよ」
 最初はあれほど嫌悪感があったはずなのに、もう気持ち悪くは感じていない。不本意な状況に対する感情そのものは消えていないが、触られた際の鳥肌も、唾液を付けられれば感じていいはずの悪寒もなく、体が慣れてしまっている。
「私に、何をっ、んぅ――したんですか…………」
 まだ敵意を残した声音で弥栄は尋ねる。
「何をとは? 強いて言うなら、今まさにあなたの心を盗んでいる最中ですよ」
 そう言ってハンターは、おもむろに腰を両手で掴む。
 それに合わせたようにワイヤーが調整され、弥栄の身体は少しだけ前のめりに、腰が後ろへと突き出される。性知識のある弥栄にとって、それはバック挿入を連想するのに十分なものだったが、ハンターの狙いは挿入ではなかった。

 ずんっ、

 と、しかし腰は押しつけてきた。
「ほーら、あなたは私に遊ばれています! ただの玩具に成り下がり、されるがまま延々とセクハラを受け続けているのです! どうします! 何か打つ手はないのですか?」
 ハンターは腰を振っていた。
「やっ、やだ! やめて――うぅ、こんなこと……!」
 まさしく、本当に遊ばれている。
 その気になれば挿入できしてしまうだろうに、ハンターはそれをせず、あえて真似事だけに留めている。わざとらしいセックスごっこで、何度でも尻に腰を打ちつけられ、衝撃に身体を揺らされる感覚は、屈辱以外の何でもない。
 悔しくて悔しくてたまらなかった。
 いっそ本当に犯された方がマシなのか、本気でわからなくなってくるほどに、ひどく屈辱感を煽られていた。

     *

 ハンターはじっくりと味わっていた。
 セックスの真似事で腰を振り付け、勃起したものの硬さを存分に味わわせる。見下ろす背中はピストンに合わせて前後に揺れる。ワイヤーに釣られた両手から、ぶら下がる胴体は振り子のように揺れ方が一定して、前へと揺れた身体は、戻って来る際、その尻をハンターの腰へと着地させ、またバウンドのように向こうへ離す。
 決して挿入はしていない。
 しかし、その気になれば、今頃は本当に処女を奪えているのだと、そう教え込むためだけのセックスごっこで、ハンターは弥栄の魂に屈辱を刻み込む。
「とあるプライドの高い女性は、挿入によって百を超える絶頂を与え、その上で半日以上の寸止めさえ繰り返しても、なお心が折れませんでした」
 ハンターは武勇伝を語り始める。
「ですが、それほどまでに気高く、誇り高い、高潔な騎士さながらの精神を持つ女性も、最後には私をご主人様と呼びながら屈服しました」
 やはり、教えているのだ。
 過去、自分がターゲットにしてきた女性がどうなったかを伝えることで、弥栄に自分の未来を想像させる。自分はこれから、怪盗ハンターの手で陥落し、奴隷や負け犬に成り下がるのだと、じっくり教え聞かせるための言葉であった。
「またある女性は、涙ながらに必死の思いで逸物をしゃぶり、命乞いでもするように奉仕しました。また、とある女性は随分と生意気で、上からな物言いばかりでしたが、私がこの手で身の程を教え込んだ時、最後には全裸で土下座をして、心からの反省を口にしました」
 聞かせれば聞かせるほど、弥栄の心からひしひしと、不安のような畏怖のような、何かが肌に伝わってくる。表情を見るまでもなく、前後に揺れる背中を見るだけで、気配から感じ取れるものがある。
 今、弥栄は心を保とうと意識している。
 自分は決してそうなるまいと、精神的に構えを取って、これから起こる全てを受けきってみせようと決意している。それも、今は抵抗ができないのだから、ただ覚悟を決める以外のことしかできない、実に悲しげな決意である。
「さて、あなたは一体、どのようにして身の程を思い知るのか」
 ハンターはおもむろにバックステップで距離を取る。
 その素早く身をかわすような動作には、特別な意味などありはしないが、距離を取っての着地後には、とっくの昔のようにトランプの束を両手にしていた。それぞれに手札を握り、弥栄に向かって投げつける一枚一枚、円盤の飛行と見間違えんばかりの回転力を帯びながら、ワイヤーや衣服を引き裂く。
 その切れ味を殺傷目的で使っていれば、トランプの回転にたかられた弥栄の素肌は、一体どれほど傷まみれになっていることか。
 しかし、決して血を流させるつもりのない、できるならかすり傷すらつけずに済ませる気でいるハンターの、衣服だけを器用に引き裂く技巧によって、弥栄のそれまで着ていた衣装は、ただの布切れの残骸に替わっていた。
 細やかに引き裂かれ、数センチの破片を足元の周囲に広げた弥栄は、まず数秒のあいだは唖然としていた。
「え――――」
 何が起きたか、直ちには理解できずにいた。
 しかし。

「い、いやぁぁぁ! は、裸!? 裸!?」

 急に絶叫して、顔を真っ赤に両手で肝心な部分を隠してしゃがみ込む。
「これはこれは大変だ。そのようなあられもない姿をされてしまっては、私の内側に潜む狼の本能が、一体いつ表に出ることやら」
「や、やめて下さい……わ、私……そんな………!」
「ですがあなたは一六代石川五右衛門、その腕前をもってすれば、未だそのような狼を組み伏せる可能性をお持ちのはずでは?」
 わざとらしく、実力があるはずの事実を指摘する。
「うっ、うぅ……!」
 弥栄は震えながら立ち上がった。
 一生懸命に強気を保ち、涙目で人を睨みつつ、右腕ではぎゅっと乳房を抱き隠し、アソコもぴったりと覆い隠している。太ももを引き締めて、アソコを少しでも視線から遠ざけようと、腰をくの字にした構えでは、ハンターに太刀打ちなどできないことは、きっと本人もわかっている。
「ほーら、どうしました? きちんと構え、きちんと戦う姿勢を見せなければ、そのような情けのない、震えた子鹿の有様では、私の動きに対応できないはずですよ?」
 その証拠を示してやるように、ハンターは即座に地面を蹴り、一瞬の速度で回り込む。背後に立つなり、今度は剥き出しの生尻にタッチした。
「ひゃん!」
 弥栄は悲鳴を上げ、反射的に尻を引っ込めながら、その勢い余って背中を反らしていた。
「隠すのはよくありません。せっかくなのですから、もっとよく見せて頂きませんとねぇ?」
 上擦った声でハンターは言い、そして指をパチリと鳴らす。
 瞬間、天井が二箇所ほど、急にぱかりと開いて手錠が降る。それは単に落ちてくるというよりも、まるで獲物に食らいつく蛇の動きですらあり、弥栄の両手はたちまちバンザイの形に吊り上げられていた。
 この部屋にまだ仕掛けてあった罠、ロープに繋げた二つの手錠を起動させ、改めて拘束したのだ。
「やっ、また……!」
「おーやおやおや、これでは肝心な部分が隠せませんねぇ?」
 大袈裟に肩を竦めてみせながら、ハンターは弥栄の真正面へと、わざとらしい大股で回り込み、いかにもな視線を送りつけ、上から下まで視姦する。弥栄は恥ずかしそうに顔を背けて、赤らんだ片耳だけを向けていた。
「やはり素晴らしい。とんだ輝きに満ちたお嬢さんだ」
 まず、乳房を見た。
 薄らかな山の形は可愛らしく、まるで控え目なお人好しの性格を象徴したようである。その下にあるアソコは、一生懸命に太ももを動かして、どうにか脚の内側に隠そうとしているのがいじらしい。
 見ていて虐めたくなってくる。
 この可愛い可愛い小動物を見ていると、どうやって鳴かせてやろうか、加虐嗜好がそそられてたまらない。
 ハンターは大股で迫っていくなり、両手を乳房に絡み付ける。
「やっ、あぁ……!」
 揉みしだき、乳首を指で撫で上げた瞬間に、弥栄は可愛い声を吐き出していた。
「いい声ですねぇ? まるで猫ちゃんの鳴き声を聞くかのように、心癒やされる本当に可愛い声ですよぉ?」
 それは本心からの感想でも、わざと選んだ言葉でもある。
 そうやって、自分は可愛い猫ちゃんに過ぎないのだと、教え込んでやるために、猫なで声で愛でてやりながら、指で乳首をくすぐった。上下に動かす指先で、乳首を延々と弾き続けて、その分だけ弥栄の唇からは甘い鳴き声が漏れ続けた。
「あっあぁ……あっ、んっ、あぁ…………」
「下の方も可愛がって差し上げますよ?」
「ひっ、いや――あっ、あぁ……!」
 アソコに触るため、さらに身体を迫らせると、悲鳴に近しい声が一度は上がるが、割れ目を指で撫でた瞬間、もう脚をもじもじさせて、やはり喘ぎ声を吐き散らす。
「んっ、んぅぅぅ……!」
「濡れていますねぇ? 弥栄ちゃん? これはローションではないでしょう? このヌルヌルとしたアソコの具合、私の手袋をぐっしょりと濡らしかねない分泌量は、まさしくあなた自身の体液ではございませんか?」
「やっ、あぁ……い、言わないでぇ……!」
「おや? おやおや! 一六代石川五右衛門! 狩るべき盗人に逆に狩られ、クリトリスさえも反応させているではありませんか!」
「あっ、んぅぅ……! んぅぅ……!」
「おやおやおや! これをさて、あなたの先代がご存じになったとしたら、一体どのように思われるでしょうねぇ? 母親らしく娘を慰めるのでしょうか? それとも厳格な母として、厳しい言葉で責め立てた上、五右衛門失格とでも告げるのでしょうか?」
「んっ、んぅっ、やぁっ、あぁ……!」
「いやぁ、いずれにしましても、有瀬家がこの有様を見たとしたら、石川家はもはや地の底まで失墜したと見做すのでしょうなぁ?」
「あっあぁ……!」
「ほうら、あなたのお豆は喜んでいる」
 ハンターはクリトリスに狙いを定め、硬い突起を指腹で撫で回す。強く押し潰そうとしてみたり、逆に振れるか触れないかといった具合の繊細なタッチで責めてみたりと、気ままに手つきを変えながら、ハンターは弥栄のクリトリスをいじめ抜く。
「んっ、んっ!」
「とても甘い声をお出しになる! そのように乱れて頂いては、とてもとても興奮を禁じ得ないわけなのですが、さて次のローションでも用意しましょう」
 ハンターはおもむろに距離を取り、部屋にあらかじめ置いていたものをまた、その手に掴んで持ち上げる。今度はバケツでなく、瓶詰めの液体を手の平に、手袋を濡らすことも厭わず垂らし、彼はそのローションにまみれた手によって乳房を愛でる。
「んっ、ん! んっ、んぅぅ……!」
 弥栄は震えた。
 ひんやりとした感じもそうだが、このローションにもまた媚薬成分は含まれている。しかも先ほどよりも強力で、即効性もある成分は、たちまち皮膚から肉体に浸透を開始している。
 バケツで浴びたローションの痕跡をところどころに残した上から、また改めて塗られることで、乳房が光沢を帯びつつある。ヌルヌルとしたローションの層が乳房の表面には出来上がり、すっかりパックされた表面を眺めることで、ハンターは口角を釣り上げる。
「実に素晴らしいですよ? 男というものは、このようにヌルヌルのオッパイを見て興奮するものなのです。いやぁ、なかなかの輝きぶりではありませんか! 何より、あなたを輝かせているものが、満月の月明かりである点に風情がある」
「んっ、やぁ……!」
「さあ、あなたの可愛らしいアソコの穴も、このぬかるみによって慰めて差し上げましょう!」
 ハンターはしゃがみ込む。
 天に突き立てた中指を入口に押し当てて、上へ上へと沈めていく。先端から徐々に埋めていくにつれ、肉ヒダの生温かい感触と、ヒクヒクと蠢く気配に指は包まれ、やがて根元まで挿入しきったとき、ハンターはそのままピストンを開始していた。
 愛撫のためでも、ローションを内側に擦り込むためでもある。
 そのピストンによって、弥栄の腰はわかりやすくモゾモゾ動き、太ももからも落ち着きはなくなって、聞こえる声はますます甘いものとなっていく。
「あっ、んぅあっ、あっ! あぁっ、あっあっあっ!」
 もう効果が出始めている。
 今に弥栄はその力に翻弄され、より大きな声で鳴き叫ぶことだろう。