第1話 謎の怪盗出現?
【予告状】
今宵、官能の輝きに満ちたあどけない宝石
『少女の花園』をいただきに参ります。
――怪盗ハンター
†
「予告状です! 新しい予告状が届きました!」
「ハンター? ミッドナイトでもミス・アルテでもなく、三人目?」
「ええい、次から次へと! 美術館に警備をまわせーい!」
†
俺の通う学校の敷地内には、沙幌時計塔という歴史的建造物がある。なんでも、百年を数えるこの学園の歴史でも、初期から登場する史跡といってもいい建物だそうで、五十年前には国の重要文化財にも指定されているとか。
売店を入れたり、ホールにしようなんて案もあったそうだが、まあそれが実現することはなく、史跡としてひっそりとした扱いを受けている。なんで、中は倉庫みたくなっていて、ほとんど人なんて出入りしないと、俺だって最初は思っていた。
それがまあ、まさか沙幌市史跡研究部なんていう嘘っぱちの部室に使われ、怪盗ミス・アルテの活動拠点になってる上、俺までその怪盗になるなんてのは、さすがに想像がつかなかった。
で、想像と言えば、今朝のニュースも想像がつかなかったよな。
あれのおかげで、教室に着いた途端に小十郎がうるさく騒いでたっけ。
「はぁ、まったくお騒がせよね」
世間を騒がす張本人、有瀬かぐやがそんなことを言ってため息をついている。
「あらあら、お顔にしわが寄ってるぞー」
そんなかぐやの顔をだ、虹夢がこう、真正面から両手で包んで、頬を揉みほぐすみたくしているわけだ。
いいぞ、もっとやれ。
美少女二人、顔を近づけ合っている場面の、まあなんと絵になることやら。
「しかし、これは厄介な話だ」
カリス先生が難しい顔をしている横で、つばめも似たような表情だ。
「そうですねえ。厄介です」
なんて困り果てたムードをしているわけだが、一体何がそこまで困るんだろうか。
今朝のニュースで、俺は新たな怪盗の登場を知った。
その名も怪盗ハンター――その予告状が指定した宝石は、官能の輝き、あどけない、と評してあるように、思春期の乙女をイメージして磨き上げ、芸術家が作品として加工したものである。
「つまり、エロ宝石?」
なんて評価を下したら、かぐやにチョップを食らったのは、また別の話。
「で、かぐやも知らない三人目ってことなんだよな?」
この部室扱いとなっている塔の中、資料庫のような室内の、丸いテーブルを椅子で囲んだうちの一つの席で、俺はかぐやに尋ねていた。
集まるなり早々、みんなで「誰アイツ?」みたいな顔をしていたから、この質問自体は別に答えはわかってるんだけど。
「そ、知らないわよ。そんな怪盗」
ため息をつきながら、かぐやはいっそ呆れかえったご様子だ。
「でさ、俺でもかぐやでもない三人目ってことは、いわゆる模倣犯っぽくね?」
「かもね。確証はないけど」
答えつつ、またため息。
そう、まただ。何回目だ。
「でさ、ぶっちゃけ何が困るんだ? いや、ターゲットが被ったらそりゃ困るんだけど」
「つばめ、説明してあげて」
丸投げらしい。
そんなわけでつばめが説明を開始する。
「まず、御影くんの言うように、狙う宝石が被った時、怪盗同士で取り合いになるってこともあるんだけど、それ以前に警察はミス・アルテやミッドナイトと関連付けて捜査すると思うんだ」
「ああ、そりゃ向こうは知らないからな」
俺が怪盗デビューして、その日のうちにミス・アルテと仲間同士であることがバレてしまった。そんな二人目の登場から、まもなく現れた三人目なんて、向こうからすりゃ、次なる仲間以外の何でもない。
模倣犯じゃね?
って思っているのは、俺たち自身だけってわけだ。下手すりゃ、SNSの連中だって、仲間だと思ってそうだ。
「御影くんはたぶん、怪盗ハンターのおかげで捜査が撹乱されて、メリットになるって思っているよね?」
「その通りだ」
実際には無関係の別勢力なんだから、同時に二つのグループを捜査することになる警察は、人員っていうか、リソースっていうか。色々と厳しいんじゃないかって思うんだよな。
ま、怪盗ハンターがかぐや見たいにバックサポート付きでやってるのか、完全個人かは知らんが、とにかく別勢力だ。
「そういうメリットもあるにはあって、怪盗ハンターの存在が都合良く作用してくれれば嬉しいんだけど、デメリットになる可能性もあるんだよね」
「それがわからん」
「簡単に言うね。僕たちは警察の動きを事前に予測したり、逃走ルートを前もって確保して、下準備を済ませた上で行動に移るよね? せっかく済ませた準備なのに、怪盗ハンターのせいで警察の動きが掻き乱されたら、予測に支障が出て、想定外の状況を起こしやすくすると思うんだ」
「お、なるほど」
考えられる可能性を挙げてみるなら、俺たちが行動している最中に、これまた逃走中の怪盗ハンターが現れて、せっかく警察を撒いたと思った矢先、余計な追っ手を連れてくるかもしれない。
せっかく警戒網を把握していたのに、これまたハンターが現れて、警察の配置を好き勝手に掻き乱してくれるから、予定していた逃走ルートが使えなくなる。
他には何だ? 俺にはあんまりパっと思いつかないけど、こうして考えてみると、まだまだ挙げられるケースはありそうだよな。
「一応、利用できる可能性もあって、ハンターの動きに合わせてこちらも別の予告状を出せれば、最大三箇所で同時に怪盗が現れる。警察もどこにどう人員を割くか迷うと思うんだけど、あくまで上手く利用できればの話だし、ハンターの動きまでは読めないから、利用しようと思って逆に想定外の事態を招くかも」
「――か」
「それに向こうが僕たちをどう思っているかわからない」
「お、なんかわかったぞ。俺たちをライバル視してる奴だったら、挑んできたり、邪魔しに来たりするかもしれない!」
となれば、実に厄介だ。
仲間が増えたり、つばめの言うように利用できたりすればいいが、向こうがどういう奴なのか。ミス・アルテやミッドナイトのファンなのか、それともライバル視してて越えたいなんて思っているのか。
怪盗ハンターの考えがわからないから、こっちも頭を悩ませる羽目になっている。
というか、腕前すら不明だから、上手く盗み出せるかどうかすらわからない。
「やっと理解できたみたいね」
かぐやのため息は、今度は俺に対してだった。