第2話 胸での絶頂

 とても美しい乳房であった。
 魔族の感性からしても、ちょっとした果実よりも大きく実り、丸く膨らんでいるものが、自重によって少しだけ下垂しつつも、垂れすぎるほどには垂れていない、その形状を美しいものとして認識していた。
 だがこの感覚も、人間を食料と見做す延長かもしれない。
 人間の料理にも、見た目を彩ったものが存在する。こうして乳房に魅力を感じているのは、本当に食い千切ってみたい背景を持つからではないか。
 だとしたら、人間の感性を自分は未だ理解していない。
(ああ、だけど、そういえば)
 ソリテールは気づく。
 今の自分も、本能的な欲望をわざわざ我慢している最中なのではないか、と。
(そうだ、試してみたいんだった)
 ソリテールは突起した乳首に視線を注ぐ。
 表皮が少しだけ汗ばんで、微妙にしっとりとして見えるところに、ますます食欲をそそられるが、殺すにしても今すぐである必要はない。
 ソリテールは唇を近づけた。
「ちゅっ」
 そして、乳首を口内に含んでいた。
「んんっ」
 フェルンの反応する声を頭上に聞き、快楽を感じている事実について、よくよく神経を傾けつつも、ソリテールはちゅぱちゅぱと乳首をしゃぶり、舌や唇で刺激を与えた。
 母乳を試してみたいのだ。
 過去の研究では、あまり注目してこなかったが、人間の女性は出産の後で乳を出すようになるという。乳房を生やし、割れ目のような性器をした肉体の形状は変わらないのに、どうして出産の前と後で機能に変化が発生するのか。
 果たして本当に、赤ん坊がいなければ母乳は出ないのか。
 人間の赤ん坊がそうするように、乳首にしゃぶりつくことで、ソリテールは母乳分泌のための刺激を与える。
(やっぱり、出ない?)
 しばらくはちゅぱちゅぱと音を立て、吸引力をかけて引っ張ってみるなどしていたが、フェルンの息遣いが荒っぽくなっていく以外、他に反応は見受けられない。
(まだ結論を出すには早いかな)
 もう少しだけ続けてみようと、今度は舌を伸ばして上下に舐める。舌先で乳首を持ち上げ、そのまま舌を通過させ、元の角度に戻った乳首を、今度は上から叩いてやる。
 舌が上下するたびに、乳首もまた上下に動き、乳輪には唾液の浸透していくものの、なおも母乳は出ないらしい。
「んっ、んぅ……あっ、んっあぁ…………」
 あるのはただ、甘く乱れた息遣いだ。
 フェルンの呼吸には、思わず出してしまうような、小さな声がたびたび入り交じるようになっていた。
(さすがに反応がはっきりしてきたじゃない)
 一度は口を離して、フェルンの顔を眺めてみる。
 ぷいっと、背けていた。
 しかし、頬が真っ赤に染まりきり、恥辱に歪み切った表情から、感度が増していることは見て取れた。
「いっぱい感じてくれているみたいね」
「別に……」
 ここまで反応を示していながら、なおも口先では誤魔化しを続けるらしい。
 そんなフェルンを煽らんばかりにこう告げる。
「あ、もう片方もやっておかないとね」
 ソリテールは二つの乳房を見比べていた。
「…………」
 無言のフェルンだが、無表情を装った顔はすっかり赤く、言われた途端にぴくりと眉が動いたことにも、ソリテールは気づいていた。
 乳首の周りにすっかり唾液を帯びきって、光沢を放っている片方と、まだ濡れていない乾いた乳首の、左右それぞれに視線を走らせ、それからソリテールは顔を近づけ舐めしゃぶる。
「ちゅっ、ちゅぶぅ……ちゅぱっ、ちゅぱっ…………」
 吸い取ろうとする力をかけた。その際に軽く歯を引っかける刺激も試し、歯も舌も唇も、全てを駆使して乳首を苛め、与える快感によってフェルンをよがらせる。
「ん……あっ、んぁ……あぁ…………!」
 息遣いが荒くなっていた。
 呼吸にはやはり小さな喘ぎ混じりの音色が混ざり、きっと人間の男性にとっては、実に耳心地良いものなのだろう。
 そうだ、片方が空いている。
 一方の乳首をしゃぶり続けることで、もう一方への刺激は中断されていることに気づいて、ソリテールはおもむろに指を近づける。
 ソリテール自身の唾液に濡れた乳首をつまみ、指先で乳輪をなぞって刺激した。
「んぁっ、あぁ――あっ、あぁぁ……!」
 声がよりはっきりと、誤魔化しようのないものへと変わる。
「…………」
 かと思えば、静かになった。
 歯を食い縛り、声の我慢を始めている。しかし体の反応までは抑えきれず、舐めるたび、指で弾くたび、肩がくねくねと動いて見える。
(そうだ。絶頂ってものがあったね)
 ソリテールはおもむろにそんな知識を思い出し、乳首への責めを活発にした。舌はより激しく動かして、指遣いも元気なものに、そして快楽を与える魔法も出力を上げてやる。
「んっ! あっ、あぁ――――」
 声の我慢を封じるのは簡単だった。
「あっ、あぁやっ、んんぅぅ…………!」
 さすがに堪えきれないほどの刺激を与え、喘がせてやりさえすれば、こうして人間は声を出す。
 だんだんと、フェルンは限界を感じているはずだ。
 書物で得た知識と、そして今まで観察してきた女性という女性の数々の反応から、ソリテールはその兆候を察知している。
(もうすぐ?)
 そう予感しながら、ソリテールは唇の内側で吸引した。そのまま顔を後ろに引けば、それだけ乳房の皮膚が伸びるまで、強く吸い上げる力をかけながら、甘噛みの前歯に乳首を挟み、そして指での責めもやはり活発だった。
 その時である。

「くっ! あっ、あぁぁぁ――――」

 フェルンは仰け反っていた。

 大きく高い声を上げ、背中を後ろに反り返り、天井を見上げるあまり、胸が余計に強調されていた。
「おお」
 顔を離したソリテールは、その立派な果実のぷるっとした揺れを見やった上で、絶頂の余韻の只中にあるフェルンの様子を観察した。
 息遣いは荒い。
 はぁ……はぁ……と、少し上がったような呼吸の音が、この静寂に満ちた空気の中に染み入っている。
(ここまでやっても、やっぱり母乳は出ないようだね。それは少し残念だけど……)
 先ほどは片方の乳首だけが乾いていた。
 今は両方の乳首が唾液を纏い、その光沢を放っている。
「そういえば、この手で女体を刺激するのは初めてだったけど、無事に感じてもらえたみたいで嬉しいわ」
 ソリテールは指を近づけ、乳輪の縁をなぞってやる。円周を綺麗に辿り、指先に僅かに付着してくる自分自身の唾液を掻き取ると、ぷいっと向けられた横顔には、硬い頬がより大きな歪みが見て取れた。
 母乳はもういい。
 このあたりで乳責めは切り上げようと考えるソリテールは、次のステップに移ろうと饒舌に語り始めた。
「私は色んなセックスを見てきたよ。愛し合う様子、レイプで上がる悲鳴、逆レイプも見たことがあるの。男女一組さえ揃っていれば、精神魔法で恋人同士にも他人同士にもできるから」
 そう言って聞かせるなり、フェルンの肩がぴくりと動く。
「予感したでしょ。私の考え」
 ソリテールは的確に言い当てた。
 ただ同室には置いていないだけの話で、フェルンと同時に捕らえたもう一人がいることは、彼女としても気になって仕方がないだろう。
 安否はもちろん、精神魔法と聞いてフェルンが抱いた予感は、きっと当たらずとも遠からずだ。
「……それを、やる気ですか?」
 硬く強張った声で、フェルンはわかりきったことを問いかけてきた。よほど抵抗があることの現れなのだろうが、そこに人間という生き物の難しさがある。
 単純に考えれば、抵抗がありそうに見えるのは、相手の男が嫌だというのが理解しやすい。だが過去の観察では、元から肉体関係にある男女を捕らえ、力と言葉による脅迫でセックスを披露させる時、わかりやすく抵抗感を示していた。
 人前でやるセックス、誰かに強要されて行うセックス、相手が意中の異性だったとしても、状況によって人は嫌がる。フェルンが今こうして示す抵抗の気配から、彼女の持つシュタルクへの気持ちを探りきれない。
 だが、旅の仲間同士だとわかっていれば十分だ。
 日頃顔を合わせている男から、操られているとはいえ迫られれば、女性は一体どんな反応を示すのか。その観察をソリテールはこれから行う。
 シュタルクという男体を使い、フェルンという女体を犯す。
 そのため既に、シュタルクのことは精神魔法に浸してある。