第1話 ソリテールの目論見
最初に対峙した瞬間から、フェルンはその魔族のことを警戒していた。魔族相手にそもそも油断など出来ないが、放出される魔力を見るに、一体どれほどの格上なのかを肌で感じたわけだった。
大魔族ソリテールと名乗ったのだ。
魔法を教わる中で、フリーレンからあらゆる大魔族の名前を聞き、一つ一つを頭に入れていたにも関わらず、ソリテールという名は聞いたことがなかった。
つまり、危険だ。
莫大な魔力を持つ大魔族は、例外なく長い年月を生きている。なのに記録がないのは、遭遇した人間が一人も生き残っていないことを意味している。
そのソリテールを相手にも、密度を上げれば攻撃が通るとわかり、どうにか勝利の糸口を掴もうとしていたが、目覚めてみれば見知らぬ場所に囚われていた。
しかも、唇が重なっている。
人間を惑わし、喰らうためにある魔族の口が、今はキスのために使われて、フェルンの唇に触れてきている。
ぞくりと、背筋に寒気が走った。
ソリテールが行う研究とは、やはり性的なものなのだ。胸を揉んだり、服を脱がせたり、快楽を与えることで、人間がどんな顔をしたり、どういう反応を示すかについて知ろうとしている。
今のフェルンは虫籠に囚われた昆虫と同じだ。
人間が籠の中身を観察して、記録用紙にペンを走らせるのと似たような気持ちで、ソリテールはキスをしてきた。愛情でも欲望でも、そして悪意でもなく、純粋な研究という意志に、フェルンは唇を奪われたのだ。
ソリテールは唇を離すと、息がかかってくるほどの、そのたった数センチの距離から見つめてくる。
「ところで君って、胸が大きいよね」
今度は腰に触れられた。
くびれのカーブに手が置かれ、それが上へ上へと滑り動いてくるように、やがて乳房に及んでくる。膨らみに指は食い込み、着衣越しに揉まれ始めて、フェルンはひどく強張っていた。
こんな真似、一度もされたことがない。
生まれて初めての性的接触の相手が、まさか魔族になってしまったことの動揺と、それに感じる快楽で、フェルンは内心の落ち着きを失いつつあった。
妙に気持ちいいのだ。
衣服の繊維を撫でながら、柔らかなタッチで指を食い込ませ、そして握り潰すことのないうちに脱力する。軽やかな揉み方で捏ねられて、フェルンの乳房は少しずつ反応を示している。
乳首が突起を始めていた。
皮膚の内側にむずむずした何かが走り、それが頂点に集まってくる感覚は、まるで目には見えない砂粒ほどの虫が皮下にいて、一点に向かって殺到してくるようだった。
進みゆく乳首の突起で、下着は僅かに押し上げられる。
着衣を這い回る指先で、ソリテールはその突起を見つけ出しいていた。
「これは知っているよ。性的快楽を感じている証拠だ」
厚い着衣の上からでも、ソリテールはそれを正確につまみ、軽く引っ張っているのだった。
「感じてません」
「意地を張っているのかな? 過去に観察した人間でも、似たような反応を見たことあるよ」
ソリテールは言いながら手を離し、ゆっくりと背後に回る。
次は一体どうする気かと、不安と警戒を胸に抱き、心で身構えていたフェルンの尻に、ぺたりと手の平は置かれていた。足首まで隠すロングスカートの、その上から尻は撫でられ、繊維の表面を手が這っての、衣擦れの音が静けさある空気の中に染み渡った。
痴漢をされている不快感をまず感じて、それからすぐにむずむずと、皮下を行き交う快楽の感覚にフェルンは気づく。尻を撫でられてすら、体の方には妙に心地良い感じがある。
「いいえ、感じてないです」
だが、フェルンはそう言った。
拘束されて、無理矢理触られ、それで体が悦んでいることを、わざわざ表明したくはない。たとえ体には反応が出ていても、心の方は硬化していた。
「人間の羞恥心というものかな」
ソリテールは抱きついてきた。
二本の角さえ覗けば、外見上は人間の女性と変わらない、その姿で密着されて、背中にはソリテールのささやかな膨らみが押し潰される。
その感覚に対してフェルンは言う。
「ちっさ」
「胸のこと? 確かに、この大きさには勝てないみたい」
腹に巻きついていた両手は、直ちに下乳を持ち上げるようにして絡みつく。指を軽く埋め込んでの、揉みしだく手つきで改めて刺激されれば、やはりまた乳房は反応していた。
どうしても感じてしまう。
感じることでフェルンが思うのは、こうしている今にも観察されていることについてである。今でこそ、紙もペンも用意している様子のないソリテールだが、乳首が突起する以上の、さらなる反応を示すたび、それらがノートに書かれるに違いない。
生き物の観察日記を作るようにして、声を出せばそのことが、狼狽すればその反応も、後々になって書き留められる。ソリテールの研究記録の一部として、自分の示した反応が取り込まれる。
良い気分など、するはずもない。
誰が観察対象になってやるものかと、反抗的な意志を密かに抱き、だからフェルンは自らの反応を抑えていた。
しかし、それでもだ。
「我慢、してるね?」
肩に顎を乗せられて、触れ合った頬が動いていた。顎の開閉が肌に直接伝わって、そんな指摘が耳に直接注ぎ込まれた。
「別に、してません」
と、答えはするが、内心は穏やかではない。
我慢している事実ですら、観察対象が示した立派な反応の一つなのだ。
だとしたら、これからどんな顔をして、どんな声を発しても、その全てをソリテールは記録対象と見做してくる。もしも手枷を破る力があり、今すぐに脱出して、目の前から逃げおおせる芸当が出来たとして、その行為でさえも、ソリテールにとっては観察ノートに書くべき事柄なのだ。
こうして捕まった時点で、何がどう転んでも、ソリテールは得をする。
「……っ」
一瞬、声が出そうになった。
閉ざしていた口に力を込め、歯をきゅっと食い縛ることで押さえたものの、今ので小さく軽い喘ぎを出しかけた。
乳首をつねられたのだ。
着衣の上から正確につまんだ上で、適度な力をかけて捏ねる指遣いに刺激され、甘い電流が走った途端、フェルンは反射的に頬を硬くしていた。
「今のはどういう反応?」
ソリテールの指が活発化した。
「…………」
フェルンはそれに合わせて少しだけ、歯を食い縛る力を強め、そうして顎を使う文だけ、頬もまたもう少しだけ硬くしていた。
「やっぱり、感じてるんだね」
「……」
「我慢をしなかったら、どれくらいの声が出ていたの? 大きな声? 小さな声? 胸の感度は良好みたいだね」
「……よく喋りますね」
耐えかねたようにして、フェルンは一瞬だけ口を開き、一言を発するなり閉ざし直した。間違っても妙な声は出さないように、歯を噛み締めているのだが、ソリテールはもうとっくに気づいている。
もしかしたら、どの程度の感覚が走っているのか、心でも見透かしたようにして、具体的に掴んでいるかもしれない。
「感度がいいのは、自慰行為の経験があるからだったりして」
「……っ!」
僅かに狼狽しかけ、しかし直ちに顔を引き締める。表情には何も浮かべず済ませたはずが、それでもソリテールには伝わっていたらしい。
「図星だ」
耳元に囁かれた声で心が凍る。
だが、愛撫の続いている胸は、逆に熱を増していた。
「ほら、赤くなった。私に人間の気持ちはわからないけど、色んな人を観察してきたから、傾向はわかるんだよ。知識はあっても、経験がない人なら、そういう顔はしないって」
「本当によく喋りますね。黙って揉めばいいじゃないですか」
何かを誤魔化したいようにして、フェルンは微妙に早口となりながら、さっとそう告げ、やはりまた閉ざし直す。
「あら、焦っちゃって」
「……うるさいです」
「興味があるんでしょう? 勃起した男性器を受け入れてみることに、ここに出入りすることに」
乳房を揉みしだいていた両手の、おもむろに片方が離れた時、フェルンは次に起こることを予感した。そして、その未来が見えたからといって、防ぐ手立てはないのだった。
スカート越しに、アソコに指が置かれていた。
着衣を介しているとはいえ、性器を指でなぞられて、背筋まで駆け上がってくる電流が迸るに、フェルンはとうとう甘い声を吐き出してしまっていた。
「んぁ…………!」
小さな、小さな声だった。
その本当に小さな、しかし確かに快楽のせいで出してしまった喘ぎ声を聞かれたことで、フェルンはますます赤らんでいた。
「人間の本を読んだことがあるのよ」
胸が、アソコが、同時に刺激され、どちらにも甘い電流が走っている。既に乳首が突起している一方で、今度はアソコの方でもクリトリスの突起が始まりかけ、それさえも見抜かれて、耳元に指摘の言葉を囁かれるのではないかと、フェルンは気が気でなくなっていた。
性的な辱めの只中で、きっとフェルンの抱く感情も、体に出ている反応も、全て何もかもがソリテールの思い通りだ。
「感度は鍛えれば鍛えるほど良くなると、そう書いてあったかしら? ってことは、君は自分でアソコを慰めた経験がある」
自慰行為の経験は、もうこうして見抜かれている。
「外側だけをなぞったの? それとも、指を挿入したの?」
こうして囁かれる言葉の一つ一つが辱めとなり、フェルンは羞恥に顔を歪めていた。頬に熱を帯びさせて、赤らみをしだいに強めていた。
「人間にとって、この女体はいかにも魅力的」
ソリテールは語り始める。
「人間の世界には、えっちな本もたくさんあるね。だから男性の理想もすぐにわかったわ。君の体つきは、まさにえっちな本に描かれた官能的な絵のようだよ」
両手が胸もアソコも離れていき、その変わりに腰や太ももをまさぐる手つきで、あからさまにスタイルを確かめていた。体つきを把握しながら、その上でかけられる言葉によって、フェルンはますますの恥辱を味わっていた。
「君をむしゃぶり尽くしたい人なんて、腐るほどいるんじゃない? 君と一緒にいた彼も、興味津々だったりして」
ソリテールはシュタルクの存在に一瞬触れ、それから両手共々を乳房に戻す。
乳首が集中的にやられていた。
「んっ、んぅ……!」
そして、気づいた。
フェルンの体に走る刺激は、どうもアソコ以上に乳房の方が上回る。自慰行為の経験では、こんな風に感じたことなどなかったのに、今だけは胸の感度が上回っている。
恐る恐る下を向き、フェルンは自らの乳房を見下ろした。着衣を大きく膨らませ、聳え立っている双乳の山へと、絡みついているソリテールの指からは、微量ながらの魔力が放出されていた。
魔法が使われている。
無理にでも感じさせられているのだ。
「言っておくけど」
すぐさま、ソリテールはこう述べた。
「必要以上の出力ではかけていないよ。何も感じない人に快楽を与えようと思ったら、もう少しだけ魔力が必要なの」
元から感度が良いことを遠回しに指摘され、まるで反応の度合いを具体的に知られたような、嫌な居心地の悪さをも感じ始めた。
「じゃあ、気になるよね。出力が上がったら、どのくらい気持ちいいのか」
その瞬間である。
「――――――っ!」
指の腹で乳首を掻かれ、強く走った刺激によって、フェルンは大きく目を見開いていた。声こそ出さなかったものの、反射的に顎の力を強めていなければ、どんな嬌声を上げていたか、自分でもわからなかった。
「惜しいね。とってもいい声が聞けそうだったのに」
ソリテールが背中を離れる。
かつかつと、靴での足音を鳴らしながらに、正面に回り込んでくるソリテールに対して、フェルンはぷいっと顔を背けた。赤らみを帯びて、強烈な快楽も走った直後の、今の顔を魔族だろうと誰であろうと、見せたくはなかった。
だが、表情どころの問題ではない。
フェルンは次の瞬間にも、もっと恥ずかしい思いを味わう。
着衣が弾け飛び、乳房がぷるっとあらわになった。
受けるのはまず衝撃だった。
「え……!」
一度ぽかんとして、それから直ちに真っ赤に染まり、顔中を歪め尽くした。
魔法で衣服を破壊されたのだ。
まるで風船が破裂したように、しかし一部分だけが弾けることで、床に布切れや繊維が散らばって、乳房だけが外気に露出していた。
隠したいと思っても、手枷で両手が使えない。
どんなに胸を視姦されても、それを防ぐことの出来ない状態に、フェルンは狼狽しつつあるのだった。