第4話 シャワールームにて
エイジはスマートフォンを防水ケースに入れ、それを首からぶら下げていた。防水機能は元からあるが、さすがに水没にまで耐えきるとは思えずに、そこはさすがに守りを固め、水中でもスマートフォンが使える措置の上で徘徊していた。
そして見つけた獲物を味わい、好きなだけ触り尽くしたエイジは、勃起が収まらないままにプールを上がり、しばしのあいだアプリを停止していた。
あの場でエイジが痴漢であったことを認識しているのは、触られた本人ただ一人だ。あんな人目のある場所で、他に目撃者もいないのに、いくら被害を訴えたところで信じてはもらえないことだろう。
防犯カメラにすら写らないのだから、エイジが痴漢であった真実は、そもそもこの世界に存在しないも同じである。だから警察の厄介になる余地などないと、エイジは固く信じていた。
周囲への認識阻害はゲージがゼロになれば解けてしまう。
ゼロになった途端、まるで透明人間がパっと姿を現したようになる。つまり痴漢現場が見えい、その時に周囲に人がいたのでは、さすがに何の誤魔化しようもなくなるわけだ。
エイジはギリギリのところで撤退して、ゲージの回復を待っていた。
幸いにも回復は意外と早い。
十分も経たないうちに満タンになってくれるので、しばらく適当にゲームで遊び、SNSの閲覧で時間を潰し、試しにもう一度ciGOを立ち上げる。ゲージの確認の上で次の行動に移るのだった。
行き先はシャワールームだ。
女子更衣室では服やタオルの内側で着替えてみせ、下着姿にすらならない女性ばかりであったが、さすがにシャワールームの個室なら丸裸を見放題だ。
それに友達同士やカップル客でも、個室では単独になるのでやりやすい。
認識阻害を発動して、堂々と女性専用の空間に侵入すると、エイジは一人の茶髪女性の後ろに着いて歩いていく。顔立ちもそうだが、歩行によってたぷたぷ揺れる大きな胸と、肉厚のヒップが目を引くビキニ姿に惹かれたことで、獲物はこの女しかいないと心を決めた。
彼女の体を楽しんでやろうと、その背中にぴったりと着いて歩いて侵入する。
今回は接触を避けたい。
トイレの個室よりは広いながらも、スペースの限られた空間ではポジションに気を遣う。それにだいたい、女性が急に体を大きく動かしたり、思わぬ動作を取っただけでも接触のリスクはあるのだが、そこは天にお祈りでもしようと心に決め、エイジはその裸を視姦した。
だが、女性は水着のまま浴び始めた。
(は?)
脱ぎもしないでシャワーのお湯を捻り出し、気持ちよさそうに浴びているのである。
(は? は? 意味がわかんないんだけど?)
シャワーといったら裸と相場は決まっている。
だというのに、この女は裸を見せないつもりか。
更衣室の時といい、このシャワーの中といい、人がせっかく超常的な力に手を出しているというのに、世の中の女は一体何を考えているのか。
(ああもう、しょうがないなぁ)
こうなったら、脱がせてやろう。
そう決意して、エイジはしゃがむ。女性の真後ろで姿勢を低めたわけなので、するとプリプリの大きな尻が目前に、思わずビキニショーツの視姦でも満足しそうになり、すぐさまエイジは首を振るのだった。
(違う違う! 生尻を見るんだ!)
この時、エイジは考えていなかった。
試したこともなかった。
結果的には何の問題もなく済むのだが、ショーツの両サイドにあるリボン結び、その紐の部分に触っても、果たして本当に認識阻害が解けないのか、検証が頭から抜けていた。
着衣に指が振れても駄目か、きちんと肌に接触して初めて解けるのか。詳しいところを把握せず、自分がリスクを踏んでいることにも気づかないまま、エイジはリボン結びを引っ張った。
そして、脱げた。
両側のどちらのリボン結びにも、そーっと指を近づけて、どうにか肌には触れず紐だけを摘まみ上げ、ひと思いに左右へ強く引っ張ったのだ。
はらりと、ビキニショーツは床へと落ちた。
「え?」
女性は疑問に思った風に下を向き、自身の脱げたショーツを拾い上げる。後ろにエイジがいるとは知らないので、彼女は何の疑問もなく一時的な前屈姿勢となり、お尻の穴やアソコを惜しげも無く剥き出しにしていた。
(ははっ、いいもん見た!)
エイジは勝ち誇っていた。
自分が裸を見られているとも知らずに、はしたないポーズまで取ってくれようとは、なんと素晴らしい女性だろう。
エイジはつい先ほどまでの苛立ちを忘れていた。
たった一瞬でもお尻を突き出し、面白い景色を見せてくれるという、自分への貢献があったが否や、エイジの中での女性への評価は変わっていた。
水着のままシャワーを浴びていたうちはずる賢い女と見做し、それがたった今から優しくて素晴らしい女性になったのだ。
こうなったら、次に目を付けるのは背中のリボン結びである。
脱げたショーツを見つめながら、首を傾げている女性の背中に手を近づけ、垂れ下がった紐を改めて、やはりそーっとつまむのだった。
そして、引っ張る。
今度はブラジャーがはらりと落ちる。シャワーがかかっていることもあり、体表を流れ落ちるようにタイルへと滑っていき、女性のぎょっとした顔が目に浮かぶ。
「え? な、なんで!?」
それは困惑するだろう。
原因がわからない以上、どこかに引っかけるか何かして、知らないうちに紐が緩んでいたとでも思うに違いない。
「んー……。まあ、いいか」
なんと女性は蛇口の上にビキニを置き、そのまま裸で浴び続けた。
(全裸! 全裸だ!)
エイジは急いでカメラを起動する。
説明書によれば、認識阻害が働いているあいだは、身に着けている衣服や手に持った物品も認識されない。エイジが喋っても相手に声が聞こえない以上、ならばカメラ使用時の音が鳴っても女性は気づかないわけだ。
動画撮影モードを開始する。
艶めかしい背中を撮り、だんだんと姿勢を低めていきながらお尻を映す。そして壁沿いに移動して、だんだんと女性の横へ、乳房が見えるポジションに入るなり、画面の中に乳首を収めてほくそ笑む。
(大収穫だ!)
本当にいいものを手に入れた。
しかもエイジは撮影だけに飽き足らず、なんと水着を膝まで下げ、剥き出しにした肉棒をしごき始めた。
(あーあ、夢にも思わないだろうね)
エイジの優越感といったらない。
(こんな風にズリネタにされてるなんて)
盗撮の警戒なら、あるいはすることがあるだろう。
だが、透明人間が実はすぐ近くにいる状況など、どこの誰が想定するだろうか。すっかり、自分一人しか存在しない気になっている女性への視姦は気持ち良かった
一体、どこにかけてくれようか。
鼻の下を伸ばして微笑むエイジは、お尻にかけてやろうと心に決めて背後へ戻る。
ドピュッ!
と、射精感の溜まった肉棒から解き放とうと、ラストスパートとばかりにペースを上げて解き放った。
その瞬間に腰が引っ込む。
「へっ!? なになに!?」
精液は女性のお尻にべったりと付着している。その唐突な感触にぎょっとして、腰を引っ込める勢いで背中を反らし、仰け反った姿勢になりながら、直ちに後ろを振り向いていた。
女性と目が合う。
だが、認識阻害が働いている。
彼女の目にエイジの姿が映ることはなく、今のお尻にかかってきた感触は一体何か、想像もついていないことだろう。
慌てふためいた様子が面白かった。
決して原因を突き止められない、その混乱を傍から眺めることの、なんと気分のいいことか。
「ってか、マジでなにこれ」
女性は自身の尻をなぞって、指に精液を絡め取る。お湯を出しっぱなしにしている中、それはすぐさま流れ落ちていくのだが、きっと男の体液にしか見えないことは感じただろう。
「え……」
女性は固まっていた。
何故精液が、どういうことだと、とてもとても不思議に思っていることだろう。
それから、改めて後ろを向く。
「幽霊?」
彼女は本気で戦慄していた。
「ぷっ!」
思わず噴き出しそうになった。
まさか、そういう発想になるとは思ってもみなかった。
(なるほど幽霊か! うんうん、そう思うかもね!)
こんなに愉快なことがあるだろうか。
犯人はこうして目の前に実在しているのに、あろうことか幽霊と思い込むとは、しかも女性は微妙に青ざめ、肩を縮こまらせている。
本当に幽霊だと思って、このシャワールームを不気味に思い始めているようだった。