第3話 濡れ場の撮影
全裸での撮影だった。
少し薄暗くしたホテルのベッドに横たわり、腰にシーツをかけたケビン役の男がジュディスへと覆い被さる。この絡みの様子をカメラマンが撮影しているわけなのだが、リアリティを求めるため、色気を求めるためといった理由で俳優二人、本当に全裸であることが求められたのだ。
ジュディスはショーツも穿いていない。
下半身は映さないのに、ケビン役の男もまた肉棒を剥き出しにしているから、これだけ肌が近づけば、それは当然のようにジュディスの体に当たってくる。
「ジュディ……」
ケビン役の男はジュディスのことを役名で呼ぶ。
「いいわ……ケビン、もっと…………」
ジュディスもまた、ケビン役の男を役名で呼び返した。
演技に入り込まなくてはいけない。
二人は愛し合っているのであり、このシーンのジュディは大きな戦いの直前だ。悪の陰謀が果たされれば、彼の住むこの町も危機に晒される。自分が戦うことで、一体何を守ろうとしているのか、愛し合うことで確かめる場面なのだ。
ケビン役の男の手は、ジュディスの肌をまさぐっている。
リアリティ追求のため、愛撫の手つきを実際に放映するわけではないが、感じた表情自体は本物を用意する。そんなピッグマン監督のこだわりに従う形で、ケビン役の男はその腕を下へ下へと、そして指先を縦筋の上に置くのであった。
「ひゃ……!」
本当に刺激が走った。
演技を意識するまでもなく、ジュディスは色っぽい声を吐き出してしまっていた。
(これも……仕事……)
愛撫が始まる。
ジュディスは俳優としてのプロ意識を胸に抱いて、彼の指遣いを甘んじて受け入れていた。
(思ったより……恥ずかしいけど……)
実のところ、ジュディスは処女だ。
ただでさえ経験がないために、ストリップの恥ずかしさはそれ相応のものだったが、男の指がワレメに置かれ、上下になぞられているこの状況も、なかなかに心を騒がせる。大事件が発生したせいで、動揺せずにいられない感覚で、ジュディスは全身をそわそわさせていた。
愛撫が続けば続くほど、縦筋は蜜の分泌を進めている。ケビン役の男の指にそれは絡んで、だから筋をなぞる動きは潤滑油によってスムーズに、いつしか塗り伸ばされる感触が走った。
痺れが骨盤や尻すらムズムズさせる。
(頭が……どうにかなりそう……)
脳はぐつぐつと煮えたぎっていた。
いくらシーツで隠れているとはいえ、周りのスタッフ全員が起こっている出来事を承知している。感じた表情を撮るために、カメラマンの担いだカメラも向けられている。
役に入り込まなくてはいけないと、わかっていても周囲の視線が気になった。
その時である。
(え……)
ジュディスは軽く目を丸める。
打ち合わせでは、アソコをなぞることになると言われていた。その後は正常位のポーズを取り、実際に入れるわけではないが、ケビン役の男は腰を振る。肉棒を叩き込まれて、揺らされる肉体に向かってカメラを向け、セックスによがる表情を撮るのがここでの予定だ。
それを了承し、覚悟していた。
とてもとても、物凄く抵抗はあったが、演技のためならというプロ意識がジュディスの中では優先された。
だが、予定にはないことが起こっていた。
指が挿入され始めたのだ。
まず困惑が広がっていた。
(え? え? え?)
何が起こっているのかわからないような、戸惑いに満ちた心境の中で目を見開く。
そんなジュディスに向かって、指の前後運動は始まった。
(や、やだ!)
ようやく、自分のされていることを理解する。
このケビン役の男は、この状況をいいことにか、打ち合わせにあった以上の行為を始めている。
(やめて……!)
咄嗟に抗いかけるジュディスだが、その直前にケビン役の男はさっと唇を近づける。
耳元に向かって囁いてきた。
「……監督は承知している」
たちまちジュディスは凍りついた。
「え…………」
「打ち合わせはフェイクでね。ピッグマン監督は俺に言った。指を挿入しろと」
だとしたら、様子がおかしく見えたとしても、周りは止めに来ないだろう。
「ちょっと、だからって……いくらなんでも……」
ジュディスは小声で答えた。
マイクに余計なやり取りを拾わせないため、こんな時なのに撮影に気を遣っていた。
「プロだろ? アンタも」
それは挑発的な言葉であり顔だった。一人前の俳優なのに、こんなことで騒いだり、少女のように泣き言を零すのかと、彼は目でそう言っていた。
「そうね。その通りよ」
ジュディスは挑発に乗っていた。
売り言葉に買い言葉かと、自分でも思っていながら、それでもアソコを触られる恥辱感より、映像のクオリティを優先した。感じた顔を本物にするという、ピッグマン監督のこだわりが映画や原作ファンの評価に繋がるかはわからないが、それが仕事ならやるべきことをこなしてそうと、ジュディスは改めて役に入り込む。
「んっ! ちょっと、責めすぎよ」
ジュディスでなく、ジュディとして、脚本に書かれた台詞を唱えることが、彼女なりの答えなのだった。
「おっと、すまないね? 僕のジュディ」
ケビン役の男が注ぐ眼差しは、挑発に乗った獲物に対するものである。
(……かかって来なさいよ)
羞恥心をぐっと堪え、ジュディスは彼の愛撫を受け入れる。
指が入っていることにさえ耐えればいい。
いや、感じて喜べばいい。
ジュディスとしての内心はどうあれ、愛する恋人からの愛撫なのだから、ジュディとしては悦びを感じていなくてはならない。目の前の男は本当に彼氏であり、長年連れ添ってきたパートナーなのだと思いながらに指のピストンを受け入れた。
くちゅり、くちゅりと、マイクが拾うことはなさそうな、小さな水音がジュディスの耳には届いている。
その音はだんだんと激しさを帯びていた。
(ちょっと――強すぎ……!)
ケビン役の男は上手かった。
穴に収まっている指先の、膣壁に与える圧力があまりにも心地良い。ジュディスがこの不本意な接触をどう思おうと、肉体の持つ生理的な反応はいくらでも引き出される。
「――――っ!」
その時、頭が真っ白になった。
ビクっと体が反応して、手足か背中のどこかが弾み上がる感覚で、ジュディスは自分が絶頂したことを思い知る。
(こ、こんなの――初めて――――)
自分ではイったことなどなかった。
まさか、この状況のせいだろうか。
本当は不愉快に思っているはずなのに、しかしベッドにはカメラを向けられ、監督の視線も注がれての、人に見守られながらの性行為という、普通では起こり得ないシチュエーションに、体の方は燃えているのかもしれない。
しばらくのあいだ、指は静止していた。
その休憩を経て、再びピストンが始まると、ジュディスはしだいに次の絶頂へと導かれる。
「んっ! あぁ…………!」
また、頭が真っ白になった。
今度は明確に背中が弾み、一瞬だけのアーチを胴が作った。直後には大きく息をして、呼吸の深さで胸を上下させるジュディスに対して、少し休憩を挟んだら、また次の愛撫は再開する。
「――――――っ!」
複数回、ジュディスはイカされた。
経験が豊富なのか、このシチュエーションのせいなのか、その両方か。とにかく体は反応が良く、指が動けば快楽が存分に膨らんで、甘い息を吐き出さずにはいられなかった。
そして、何度かの絶頂を味わってからである。
ケビン役の男は肉棒の挿入に取りかかった。
(いよいよね……)
ジュディスはぐっと緊張する。
だがジュディとしては、何十回目とも知れないセックスなのだから、慣れた風でいなくてはならない。できるだけ当たり前に受け入れる表情で、彼の腰の動きに合わせ、ジュディスは脚をM字に開いていく。
(頭が……沸騰しそう……)
ジュディスは目を瞑る。
剥き出しの肉棒が肌に触れていることに、いい気分などしていない。フリとはいえ、本当に挿入するわけではないとはいえ、ケビン役の男はこれからジュディスに腰を振る。肉棒が出入りしているものとして、ジュディスはそれに反応した喘ぎ声を上げることになっている。
ワレメに亀頭が当たってきた。
この時にはもう、体には疲弊感が溜まり始めていた。何度もイカされたことで、ジュディスの体力は目減りしていた。
(や、やだ……)
フリなのだから、性器同士の接触は避けて欲しいが、今はカメラが回っている。
素股くらいは、このまま覚悟するしかないか。
(かけられないといいけど……)
少なくとも、このまま肉棒を擦りつけられる。ワレメに乗った状態で肉棒は前後するのだと、ジュディスはそう覚悟していた。
だが――。
(えっ――――――)
ジュディスは衝撃を受けた。
まさか、そんな話は聞いていない。
(ちょっと……どうして………………)
心がみるみるうちに凍りつく。
下腹部が痛かった。
過去これまで、一度も男を受け入れたことのなかった部分が太さによって拡張される。その収まってくる感覚は、愛液のおかげで滑り良く入ってくるとはいえ、快楽を感じるというわけにはいかなかった。
痛みに引き攣りながら、ジュディスは大きく目を見開く。
まさか、本当に挿入するなんて――。