第2話 身体検査の撮影
主人公であるジュディはプロローグでゾンビ達を掃討するが、魔界都市計画の証拠は得られなかった。ゾンビの死体でも持ち帰れば、怪物の存在こそ証明するが、肝心なのはどこのどんな組織が具体的に関与しているかだ。冒頭で潜入した研究所は、黒幕にとって傀儡に過ぎない。
ストーリー順としては、そこから一度は表の顔が描写され、ケビンとの日々がいくらか続く。
やがて次の任務が来て、今度こそ魔界都市計画の証拠を得られるかもと、ジュディは潜入調査へ向かうのだ。
*
ジュディス・ランスターの目の前で、エキストラ役の男性が服を脱ぐ。全裸となって尻まで晒し、ジュディスはその後ろ姿を拝むのだった。
劇中のシチュエーションとしては、主人公のジュディは記者に扮して製薬会社に取材を行う。だが様々な細菌や物質を扱う区画が多いため、衛生関係には敏感なだけでなく、機密情報を守る観点から、身体検査は必要以上に厳しいのだ。
(確か小道具にも、ご丁寧な同意書があったわね)
数日前に撮ったシーンには、同意書を見て顔を顰めるものがある。公的な文面で綴られた小道具を握り締め、実に複雑そうな表情をするわけだ。
恋人がいる身で、見ず知らずの男に裸を晒す。
その葛藤もありつつ使命を優先する主人公は、同意書に偽名のサインを行い、アポイント当日に製薬会社を訪れる。他にも数人の記者がサインをしており、主人公の見ているその前で、全裸になってまでのチェックを受ける。
男の裸を描写に置くことで、下心など無関係に本当に厳しいのだと、原作の読者や映画視聴者に伝えるわけなのだ。
(次はあたしね……)
というこの心境は、原作に書かれたものとまったく同じだ。順番待ちの、自分の前の男が裸になり、そのチェックが済んだ瞬間に、門番のように控える職員達の視線が向けられる。
普通なら個室に一人ずつ入っていく方法でも良さそうだが、こうすることで主人公ジュディの目に男女平等を見せつけている。その上で自分の順番が回って来て、ジュディは覚悟を決めるわけなのだ。
(いいわ。覚悟、決めてあげる)
スーツ姿に扮したジュディスは、男という男の視線の数々がある中で脱ぎ始める。ジャケットのボタンを外し、袖の中から腕を引っ込め脱ぎ去ると、それを受け取ろうと職員の一人が手を突き出す。
手渡すなり、チェックが始まっていた。
着衣の中に何かが仕込まれていないか、ポンポンと軽く叩いていく形で調べつつ、ポケットにも手を突っ込み、そして金属探知機をかざしもする。
(撮影よ。ただの撮影。あたしは女優なんだから……)
周りの男は、もちろん職員だけではない。
劇場で映画鑑賞者の目に映るのは、劇中の登場人物だけなのだが、出演するジュディスからしてみれば、さらにカメラマンや監督など、数々の制作関係者の視線が集まっている。
視線の数だけ抵抗感は膨れ上がる。
ベルトの内側に収まったシャツを引き出し、ジュディスはボタンを一つずつ外していく。
上半身がブラジャーのみの姿となる。
ベルトを緩め、パンツスーツも脱ぎ去って、完全な下着姿となれば、次に脱ぐのはブラジャーだ。ジュディスは大いに躊躇いながら、両手を背中に回すのだった。
(撮影、ただの撮影……)
かなりの視線を感じた。
待ち侘びる職員、後ろに並ぶ役のエキストラ、撮影現場を囲むカメラの数々、照明などのスタッフに、遠巻きに見守る監督の眼差しまで、多くの視線がジュディスに集まる。
視線など浴び慣れているのだが、このストリップの状況においては緊張していた。
ホックを外す。
乳房を晒す瞬間へと、一歩近づいた瞬間に、頬の温度が上がったように赤らみが増すのであった。
(撮影、撮影に過ぎないわ。このくらいで恥ずかしがったり、騒いでいる場合じゃない)
この撮影をこなすことで、アクションやCGに力を入れた大作が出来上がる。きっと世界中の注目を集め、各地の映画館が賑わうことになるだろう。
プロとして、この手の撮影に同意した以上、いざ本番となって急にやっぱり無理だと言い出すわけにはいかない。
(み、見たければ……見ればいいわ……)
乳房くらい何だ、大したことはない。
そう強がり、ジュディスはブラジャーを脱ぎ去った。職員役の男は下着にも腕を伸ばしてくるので、それを脚本通り手渡すと、目の前でカップ部分を指で探るチェックが始まっていた。
ついに乳房を晒してしまった。
映画では乳首を映さないとはいえ、こうしてジュディスの周りにいる男達は、生の乳房をしっかりと拝んでいる。カメラマンがカメラ越しに、乳房をばっちりと映す位置から視線を注ぎ、静かに観察してきている。
(大したことない……何よ、全然平気じゃない、問題ないわよこのくらい……)
本当は恥ずかしかった。
顔の赤らみはより強まり、耳まで染まり始める勢いだが、素直に恥じらってしまっては身が持たない。強がって強がって、このくらい大したことはないと自分に言い聞かせることで、ジュディスは己を保っていた。
ショーツを脱ぎ始める。
少しだけくの字となって、後ろへと突き出されるお尻を捉えるため、カメラマンが背後に控える。カメラに向かって生尻をだんだん晒していく形で、ショーツを膝まで下げた後、ジュディスは片足ずつを持ち上げて脱ぎきるのだった。
ショーツを手渡す。
たった今まで身に着けていたものが男の手に渡り、自分の見ている目の前でベタベタと触られる。しかもとうとう全裸となって、心許ない格好で立たされての恥辱感で、ジュディスは自然と表情を歪めていた。
(平気、大丈夫、問題無い……)
カットの合図が入り、下着がこの手に戻って来るまで、ジュディスは延々と自分に言い聞かせていた。
だいたい、このくらいで大事のように捉えていては、次の撮影では本当に身が持たない。ストーリーとしては、このあとで製薬会社の中を見て回り、次の展開へと繋がる伏線がシーンとして入るのだが、撮影スケジュールとしては、もっと先の場面の撮影へ急に飛ぶこととなっている。
――セックスシーンだ。
この映画は大衆向けとして撮られているので、セクシャルな場面は局部を映さない。あくまで起こっている出来事を説明するため、挿入シーンも匂わせるだけで済ませるはずだが、ピッグマン監督の考えでは、それにしたってどういう撮影になるかがわからない。
その不安を抱えながらに、返してもらった下着を身に着け直し、次の撮影現場であるホテルに向かい――。