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 いい顔だった。
 愛液濡れの手を見せた瞬間の、恥ずかしさだけで死にそうなほどの、まさしく壮絶な表情は、きっとこのペン型カメラにも収まっている。
 後で編集するのを楽しみに、信夫は膣への刺激を再開した。
「んぅぅ……んっ、んぅぅ…………! んっ、んふぁ…………!」
 我慢疲れだろうか。
 唇や頬の筋肉は、始終強張り続けているが、表情筋とて消耗はするだろう。そのせいなのかはわからないが、抑えようとしている声も、やがて大きくはっきりと、明確な喘ぎ声へと近づいていた。
「んぅ……んっ、あっ、んぅぅ…………んぁ…………!」
 髪を振り乱し始めている。
 快楽に翻弄され、その瞬間だけは恥ずかしさも何もかも忘れたように、刺激の方に気を取られている。しかし、ふとした拍子にハっと目を覚ましたように、急に我に返って羞恥に歪んだ表情に立ち戻る。
 くちゅっ、ぐちゅっ、くちゅり――とっくに、そんな音が聞こえている。
 ピストンが活発であればあるほど、指は愛液をかき混ぜることとなり、泡立ちの付着が増えていく有様を目にしつつ、信夫は楽しく腕を動かす。Gスポットに狙いを定め、集中的に攻めているうち、ついには喘ぎ声が聞こえて来た。
「あっ、あぁぁ…………!」
 実に良い声だった。
(いいねぇ? もっと聞かせて欲しいな? 瑠璃ちゃーん)
「あっ、んぅぅ……!」
 すぐに歯を食い縛り、こんなにも大きく喘いでしまった自分への、戒めのような表情を浮かべていた。眼鏡の奥にある瞳は、恥じ入るように伏せられて、ありもしない蒸気は相変わらず信夫には見えていた。
 本当に幻が見えるわけではないが、そうも言いたくなるほどに、赤熱した顔からは温度を感じてならなかった。
「あっ、んぅう……! あっ、あぁ……! んっ、んあっ、やっ、だめ……!」
 声だけを聞く分には、もうセックスではないだろうか。
 我慢の意思は未だ残して、どうにか歯を食い縛ったり、唇を丸め込んだりはしているが、押さえ込む力は徐々に弱って、色めく声が聞こえやすくなっている。
 時間が経つほど、我慢の力は緩んでいた。
「ああぁっ、あぁぁ……!」
 もうすぐだろうか。
 果てはそんな予感すらしてきたところで、瑠璃の反応は激しさを増していく。
「あぁ――あっ、あぁぁぁ…………!」
 声の我慢がなくなっていた。
 それよりも何かに翻弄され、必死なように前髪を振り乱す。首が動くあまりに眼鏡がずれ、胴体もくねり動いているせいなのか、乳房が左右に揺れていた。つい数秒前までは、まだ声を抑えようとする意志を残していたのに、短いあいだにそれさえなくなり、瑠璃はされるがままのように喘いでいた。
 やはり、もうすぐだ。
 確信を得た信夫は、トドメとばかりにピストンの速度を上げ、より大きな刺激を与える。

「あっ、あぁ――あぁぁ――あぁぁぁぁ――――――!」

 声は段階ごとに大きくなった。
 その一声おきに、背中がアーチのように弾んでいた。胴体だけで行うジャンプのように、腹部が一瞬だけ跳ね上がり、即座に背中が沈み直すその挙動で、腰がカクカクと動いて見える。脚の開閉も激しくなり、最初は数センチ程度のモゾつきだったのが、より大きな開閉運動と化しているのだ。
 脚の開き具合を大きくするたび、それがスイッチのようにビクっと背中を弾ませる。弾んだ背中が沈むたび、脚を閉じようとしているが、股の筋肉が快楽電流に反応してか、直ちに開き直してしまう。
 もはやM字開脚の脚を使って、蛾や蝶の羽ばたきを表現しているようだ。
 アソコで広がる電流は、脚をそのように突き動かしていた。

「あぁぁぁぁ――――――――!」

 そして、ついに来た。
 次に胴体が持ち上がり、脚の開き具合も極限のものとなった時、背中をアーチとしたままに、瑠璃は腹部を痙攣させる。ビクビクと震える身体から、潮のように愛液を巻き上げて、その飛散した滴を信夫は頬に浴びていた。
 何滴かの愛液が頬に付き、白衣にも染み込んでいた。
(こんなに激しくイクとは思わなかったよ)
 信夫は瑠璃の絶頂を見届けて、一旦は指を引き抜く。
 すると、人差し指の先端と膣のあいだに、長々とした糸が引いていた。てっきり電子機器のコードに匹敵するかと思うほど、なかなかに太いものが伸びていき、手を離せば離すだけ、それは自重によって垂れ下がる。
 その下垂するアーチは、診察台の革に触れ、直後には二本の糸と化す。膣口から革への糸と、革から指先への糸といった具合に分断されつつ、V字のようにしばしは伸びる。手を最後まで離していけば、やがてはぷちりと消失するが、なかなかに丈夫な糸と言えただろう。
 股の周囲には、水溜まりが広がるような愛液の円が形成されている。
 牝の香りが広がって、換気をしなければ部屋に臭気が残りそうですらあった。
「はぁ……はふぁ……あぁ……はぁ……はぁぁ…………はぁ………………」
 瑠璃は大きく息をしていた。
 全力疾走の直後のように、肩を大きく動かすような呼吸によって、普段の呼吸以上に肺を大きく膨らませている。両脚はだらりと垂れ下がり、太ももだけを診察台に乗せながら、膝から先は床に向かってぶら下がる有様だ。
 見るからに果てていた。
 今日はもう、これ以上は一切動く気力がなさそうにすら見えるのだが、信夫はまだまだ遊んでやろうと、クリトリスに視線を注ぐのだった。

     *

 信夫はクリトリスを触り始めた。
 せめてもの気遣いで、数分くらいは休憩を与えたが、せっかくの汁気が乾き出さないうちに再開して、ワレメから見える突起に指をやる。見るからに敏感で、触れればビクっと反応しそうな、うずうずとした肉芽に指を置くなり、ビクっと太ももが一瞬だけ、筋肉を強張らせたように反応していた。
 指を一旦、離してみる。
 それから、また置く。
「あぁ――!」
 今度は声と一緒に、もう少しだけ大きく弾み上がって、直後にだらっと垂れ下がる。膝から下は死体のように、床に向かってぶらぶらと揺れているが、また試しにクリトリスにタッチをすると、その瞬間だけ命を吹き返したように反応する。
「あぁっ!」
 反応を見るのは面白かった。
「あっ!」
 タッチをすることで、脚が必ずビクッと反応して、声すら聞かせてくれるのだ。
「あぁっ!」
 押せば音の鳴るスイッチのように、瑠璃は喘ぎ声を放っている。
「あっ!」
 そのたびそのたび、肩すらビクっと反応しているせいで、眼鏡もずれているのだったが、ずれた拍子にかえって綺麗な形にかかり直して、髪だけが乱れたままに、瑠璃は辛そうな切実そうな顔をしていた。
「あの……わ、私…………」
「君、診察中に絶頂したんだよ? 士堂さん」
「……そ、それはすみません。とんだ粗相を」
「気にしなくて大丈夫だよ? なんたって、アソコを弄っていたんだからね。体が反応するのも無理はないことだよ。オナニーをするようなアソコなら、尚更ね?」
 思い出したようにオナニーについて言及すると、瑠璃は改めて赤らみ直し、耳すら赤く染め変える。元の赤熱した顔に戻って、今度はイってしまった自分に対する思いを、人前でみっともない姿を晒してしまったことへの思いを、実にひしひしと感じさせてくれていた。
「もうしばらく、クリトリスのチェックをするからね?」
 と言って、信夫は二本の指で揉み潰す。
 突起している肉芽を器用につまみ、圧するような刺激を加える。
「んっ、んぅぅぅ――――!」
 瑠璃はまた、唇を丸め込み、声を我慢しようとしていた。我慢しきれず、抑えていても出てしまう、そんな声が聞こえていた。
「硬さとか、反応なんかを見ていてね」
 という説明が、本人に届いているのかいないのか。
 まあ、どちらでもいい。
 信夫としては楽しめれば何でも良いので、これがどういう診察たりうるかは、必ずしもわかってもらう必要がない。
「んぅぅぅ……!」
 左手も愛撫に参加させ、クリトリスの両側に指を置く。押し込む力で皮を剥き、飛び出させようとしてみながら、右手では上下に弾き始めた。
「ん! ん! ん! ん! ん!」
 胴体がくねくねと上下左右に動き回って、そのついでに乳房を揺らし、瑠璃は反応を繰り返した。
「んぅ! んあっ、あっ、あぁ!」
 我慢しきれなくなっていき、はっきりとした喘ぎ声まで聞こえ始めた。
 その喘ぎ声のトーンの高さに気づき、信夫はもしやと思って愛撫を活発に、指先でクリトリスをいじめ抜く。ピンと伸ばした指先を上下に動かし、そんな触り方によって突起もまた上下に動き、絶えず角度を動かし続ける。
「あぁぁ――! あっ、あぁぁ――
 脚が活発にモゾモゾして、再び髪を振り乱すようになり、信夫はそれに予兆を感じる。また再び来るに違いないと思って続けていくと――。

 ピチャッ!

 と、また軽い潮が噴き、その滴は瑠璃自身のセーラー服や太ももに降りかかる。白いセーラー服の何カ所かに、水滴の染み込んだ跡が残って、太ももには粘液の滴が乗せられていた。
「わ、私また――――」
「いいよ? 何回イっても」
 信夫はそのまま、休みも与えず刺激を繰り返す。
「え――あっ、んぅぅ…………!」
 そして、瑠璃も喘ぎ続けた。
「あっ、あのっ、もう――そのっ、んぅっ、んあぁぁ…………!」
 食い止めたいかのように両手を伸ばし、自らのアソコに指を届かせようとしてくるも、他ならぬ自分自身の、体のビクビクと跳ね回る反応に阻まれていた。腹がビクっと弾み上がって、その反応に瑠璃自身の両手が打ち上げられ、たまらず行いかけていた妨害は、そうやってキャンセルされてしまっていた。

     *

 瑠璃は完全に翻弄され、為す術もないように喘ぎ続ける。
「あぁ……あっ、あぁぁ…………!」
 脳まで電流を流され続け、ものを考える余裕もない瑠璃が、どうにか感じ取っているものといったら、クリトリスを嬲り続ける指先の動きくらいだ。人差し指が上下に動き、根元から弾き続けてくる刺激は、神経を焼き切らんばかりの激しい快楽となって爪先まで流れている。
 ビクっと一瞬だけ跳ね上がる太ももは、だらっと垂らした膝から下をぶらぶら揺らす。
「あっ!」
 またビクっと、太ももが弾む際、足首も上下に反り返って、直後の脱力でぶらぶら揺れる。

 ピチャァ!

 と、また潮が上がっていた。
 頭が真っ白になり、何も考えられないままに、胴なのか脚なのか、体のどこかを痙攣させて絶頂していた。
 そして、絶頂の余韻も冷めやまぬうちに、クリトリスへの刺激はそのまま続行される。本当なら真っ白な頭に思考が戻り、再びものを考える余裕が得られる頃には、脳に新しい快楽電流が送り込まれている。

「あぁぁぁぁ――――――」

 そしてまた、絶頂。
 いつしか瑠璃は、両腕さえも診察台の両側から垂らしていた。肘までは乗っていても、そこから先をだらっと床に向けてしまい、身体がビクっと反応する瞬間だけ、死体のような四肢が性器を取り戻す。
「も、もう――お願いします――――もう――――」
 それは無意識の言葉であった。
 無意識ながら、瑠璃は懇願していた。
「これ以上――げ、限界――んぅぅぅ――――!」
 しかし、懇願にも関わらず、医師は刺激を続行してくる。

「あぁぁ――――――!」

 またイって、巻き上がった滴はどこかへと降りかかる。
 それが自分自身の身体だったとしても、瑠璃にはそれを感じ取る余裕もなく、ただただ髪を振り乱していた。
 そして、次の絶頂の時だった。
(ま、また…………!)
 激しい刺激と、脳を満たさんばかりの電流の中で、それでもどうにか思考を取り戻し、何かものを考えようとした時だった。
 また、絶頂が近づいていた。
 アソコの中で見えない何かが膨らんで、弾けようとしているような、限界を迎えようとしている感覚は、尿意の限界に似ている気がする。似ているが違うはずのその感覚で、自分はまたイクのだと思った時だ。

「あぁぁぁぁ――――――!」

 瑠璃は確かにイっていた。
 絶頂の潮と同時に、これまで以上に両脚を高く跳ね上げ、宙にキックすら放っていた。その勢いのあまりにV字開脚まで披露して、足首までピンと伸ばした真っ直ぐな両脚から、まず先に潮を噴き、床に撒き散らした直後である。
「えっ、おっと!」
 一瞬の困惑と共に、医師は素早く身をかわしていた。

 ジョォォォォォォォ……………………!

 放尿だった。
「え、え……!」
 瑠璃は戦慄していた。
 イった拍子に膀胱が緩んでか、思わぬ形で尿が出て、瑠璃はお漏らしをしてしまっていた。アソコの濡れ具合や絶頂を、比喩ではお漏らしと言えるのだが、オシッコを出すという正真正銘のお漏らしは、恥ずかしさの度合いがまるで違った。
 性器に刺激を受けている最中は、愛液が出るのはある意味で仕方がない。
 だが放尿など、一体どう言い訳をつけるというのか。
「い、嫌! 見ないで下さい! すみません! お願いします! すみません!」
 瑠璃はもう必死であった。
 一体、どんな表情かもわからない自分の顔を、両手でべったりと覆い隠して、まぶたの筋力が許す限り極限まで、目を固く閉ざしきっている。見ないで欲しい懇願と同時に、とてつもない粗相をしていることの謝罪も無意識のうちに交えていた。
「すみません――すみません――お願いします――み、見ないで……!」
 そう言っているあいだにも、まだ放尿は止まらない。

 ジョロロロロロ――――。

 自分の出している尿の勢いなど、感覚でわかるに決まっていた。
 一体、どんなに綺麗な放物線を成しながら、床にビチャビチャと撒き散らしていることか。その水音は容赦なく耳に届いて、床に出来上がる水溜まりの、その水面を延々と打ち鳴らしている有様が、嫌でも脳裏に浮かぶのだった。

     *

 その後、瑠璃が死人のような顔で青ざめて、すっかり血の気の引けた顔をしたのは言うまでもない。恥ずかしさというよりも、まずはやってしまった絶望感で泣きたくなり、そんな瑠璃に向かって「いいよいいよ」と、笑顔で許してくる医師の対応は、かえって心が痛むのだった。
 高校生にもなってお漏らしをして、その床掃除を大人にやらせる。
 こんな体験があるだろうか。
 どこかにタイムマシンでもあって、歴史を改編することが出来たなら、どうにかしてこの出来事だけは消し去りたいと、本気で思うくらいであった。
 放尿に驚く顔と、床掃除という以外は、あまりにも普通の対応だった。
 診察の結果として、病気の内容はこうだから、こういう処方箋を出すと説明され、それで終了なので帰される。本当の本当に、あまりにも当たり前の対応に、むしろ瑠璃の方が本気で思った。
 本当にそれで良かったのかと、心の底から思っていたが、小便を垂れ流した責任をどう取るのかと言われても、必死に謝ること以外には思いつかない。
 ここは親切な対応に乗っかって、是非とも帰らせてもらうことしか、もう瑠璃にはできなかった。
 そして、帰った後になって赤面した。

 かぁぁぁぁ――――

 やってしまったことの思いがぶり返し、一人家でのたうち回る。
 壁に頭を打ちつけたいと、初めて本気で思うのだった。



 
 
 

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