目次 次の話




 部屋で一人、ノートパソコンを立ち上げデスクに向かい、懸命な検索を繰り返す少女がいた。キーワードを変え、サイトを変え、思いつく限りの手は尽くすが、求めるものが一向に出て来ない末、零れる独り言がこうだった。
「このやり方も駄目か」
 ずっと同じ姿勢でいた疲れから、軽く伸びをした少女は、改めて画面と向かい合う。
「はあ、こうなったら……先輩のアドバイスに従うしか……」
 少女の思い浮かべる手段は、導力ネット法の隙を突くもので、正直なところ後ろめたい。しかし、正規の検索では辿り着けない以上、背に腹は変えられない。
 グレーゾーンに手を出す覚悟を決め、少女は改めてキーボードに手を伸ばす。P4プロトコルの穴を利用した特殊な検索アプリの使用により、通常の検索では辿り着けない検索結果を取得した。
 だが、そうまでして画面上に表示した情報は、あまり喜ばしいものではなかった。
「先週末に主著古物商から強奪? 盗品の可能性もあるため届け出ず……」
 少女が求めるそれ――画面に出ている一枚の画像は、年代物の≪導力器≫である。
 曾祖父の遺品なのだ。
 その在処を突き止めようと思ってみれば、既に何者かに強奪され、行方がわからなくなっているという。
 だとしたら、この手の依頼を引き受けてくれる解決屋を頼るしかない。
 こんな時に役立つアドバイスを、先輩はしてくれている。
 今度はとある一つの合い言葉を入力した。

『4SPG/for SPRIGGAN』

 その検索によって行き着く情報は、アークライド解決事務所という名前と住所である。警察にも遊撃士協会には相談しにくい事を引き受ける請負人、裏解決屋とは非合法すれすれのグレーな稼業だ。
 少女はその事務所へ足を運んで、この件を依頼として持ち込むことを心に決める。
 だが結論から言うと、ヴァン・アークライドは別の依頼を引き受けている最中で、不在であった。

     *

 その情報屋の男は、早速のように『網』から知り得た情報を吟味して、それを獲物と定めていた。
 一人の少女がヴァン・アークライドを頼ろうと、事務所へ足を運んだものの、残念そうに俯きながら出て来て、ため息をついていた。
 そんな目撃情報が入った時から、情報屋の男は考えていた。
 思春期半ばの少女が一体どんな用事で非合法すれすれの稼業を頼ろうとしたわけなのか。上手く付け込み、美味しい思いをするチャンスはないか。
 少女はなかなかの上玉らしい。
 金髪で発育が良く、胸の大きさもさることながら、とても良い制服を彼女は着ている。
 オーベル地区にある共和国きっての名門校、≪アラミス高等学校≫といえば、首都ではその制服の存在感はなかなかのものだ。その学生寮に住んでいる一年生の十六歳。
 名前はアニエス・クローデルだそうだ。
 情報屋を名乗るからには、学校の名簿くらいは入手しており、顔さえわかれば手持ちのデータベースで照合できる。隠し撮りの写真を元に素性を知り、情報屋の男は舌なめずりをするのであった。
 実に良い果実だ。
 是非とも味わいたい。
 情報屋の男はすぐに計画を立て、とある一つの情報を流すことにする。
『探し物が得意な男がいる』
 という、当たりではないが遠からずの情報を、仲間を利用して少女に伝える。身内の女に金を渡して声をかけさせ、こう言わせるのだ。
「何か困ったことがありそうね。そうだわ、彼を頼ってみたらどうかしら」
 こうやって罠を張り、獲物を待つ。
 成功率はそう高くは見積もっていなかったが、街角の壁に寄りかかり、目印となる帽子を被っていると、どうやら無事に獲物は飛び込んで来た。
「あ、あの……」
 不安そうにたどたどしく、本当にこの人で良いのだろうか、人違いではないかと気にしながら、そっと声をかけてくるアニエスの、まず大きな胸に視線をやる。
「なんだい? お嬢さん」
 緑色のブレザーと真っ白なワイシャツは、内側に詰まった果実によって、大きく盛り上げられている。手前に突き出た球体に沿うせいで、赤いネクタイすらも坂道に垂れかかり、手前に向かって突き出ていた。
「人違いでなければいいのですが、あなたが情報屋と聞いて、教わった通りの服装をしていたので……」
「誰かに聞いたってわけだな」
「はい。探し物が得意とかって、だから依頼をしようと……」
「依頼ねぇ?」
 情報屋の男はアニエスの顔や胸を視姦して、腹の底では邪な期待を膨らませる。
 そんな視線に気づいているのかいないのか。
「あ、申し遅れました。私はアニエス・クローデルといいます」
 名前など事前に知ってはいるが、情報屋の男は初対面を装って、たった今初めて聞いた風に頷いていた。
「それで?」
「これなんですが」
 アニエスは電子端末のザイファに画像を出し、それを突きつけてくるのであった。
「ほう? ≪導力器≫か」
「数十年前の品で、私の曾祖父の遺したものになります」
「ご家族の品物ねぇ? 探し出したいわけだ」
 残念ながら見覚えがない。
 懐中時計のような見た目の、円盤状の≪導力器≫からわかるのは、アニエス自身も数十年年前と述べたように、骨董品であろうことくらいだ。
「で、その画像は?」
「その……ちょっと大きな声では言えない、導力ネットの検索方法で……」
「何か手がかりは?」
「一週間前に、首都のとある古物商から盗難されたばかりだそうです」
「盗難ねぇ?」
 情報屋の男が知り得ていることといったら、半グレが首都中の古物屋を当たり、そのうちの一つの店で盗難事件を起こした事と、盗んだ品物でマフィアと取引が行われるも、現場に警察が踏み込んだ事くらいだ。
 その後、件の≪導力器≫が一体どこへ消えたのかは、皆目見当がついていない。
 ただ確実なのは、警察による押収はされていないという事くらいか。とすると、半グレでもマフィアでもない、第三の何者かが介入し、持ち去ったと推測できるため、その第三の人物について手がかりがあれば、探しようはあるわけだ。
(だがま、コッチの目的は――)
 情報屋の男は改めて視姦する。
 はっきり言って、真面目に探してやる気はない。
「あの……」
 胸ばかりを見ているせいか、何やら不安そうな面持ちで、アニエスは彼を見つめ返していた。
「すみません。人違いでしたか? それとも、依頼はお受け頂けないのでしょうか」
(ちょいと鈍感か?)
 これだけ遠慮なくジロジロと、隠す様子も無しに観察しているのに、どうやら気づいていないらしい。
(ま、表情くらいは取り繕ってるからな)
 とはいえ、こうも気づかないものだろうか。
「あの、えっと……」
 無言になりすぎたせいか、アニエスはさらに不安を強めていた。
「依頼なら受けてもいい」
「本当ですか?」
 アニエスの表情がぱっと明るくなる。
「俺は名乗ってなかったな。つっても、名前は使う時と使わない時がある。今のところは『情報屋さん』とでも呼んでくれ」
「わかりました。では情報屋さん、早速手がかりを教えて頂きたいのですが」
「ここで詳しい話は出来ない。着いてきてくれ」
 情報屋の男はここで壁から背を離し、裏路地へ向かって歩き始める。
「は、はいっ」
 随分と素直に着いてきたものだった。
 彼の目指す裏路地は、表通りの雑踏から遠く離れる。少しくらいの大きな声では、表には届かないのもさることながら、多少入り組んだ建物の隙間なら、誰かに目撃される確率も少なくできる。
 そんな場所まで進んで二人きり、アニエスの面持ちは改めて不安そうなものへと変わっていた。
「ここは……」
 立ち止まると、その不安に満ちた小さな声が背中へとかかってくる。
「ああ、こっちとしても、大きな声では喋りにくい情報が色々とあるんでね。こんなところに場所を移したってわけなんだが」
 情報屋の男はアニエスを振り向いた。
(さーて、どういくか)
 もう少し信用させて、油断を誘ってから襲うのも、交渉の話術によってストリップに持ち込むのも面白いが、彼の趣味に似合ったやり方は他にもある。
(ここで頂くか)
 ちょうど良く置かれた木箱に視線を走らせ、情報屋の男は心を決める。
「やっぱり、盗難だからでしょうか。何か良くない人達が関わっているとか……」
「そんなところだ。おい、もうちょっとこっちへ来い」
 情報屋の男は木箱を指す。
「え? はい」
 アニエスはきょとんとしながら、そして不安自体は浮かべながらも、何の疑問もなく木箱を背に、情報屋の男と向かい合う形で立ち尽くした。
「にしても、随分な発育だな」
「発っ……って、何を言い出すんですか」
 やっと視線に気づいたように、アニエスは今更になって警戒心を顔に滲ませ、小さく身構えていた。
(んじゃ、行くか)
 その瞬間だった。
「――っ!」
 情報屋の男は急に両手を伸ばして肩を掴んで、木箱の上に押し倒そうと試みる。その突然の行為に対して、アニエスは驚愕に目を丸めているのだった。
「やっ、やめて下さい!」
 押し倒し、そのまま襲いかけた時である。
「――ぐっ!」
 情報屋の男は両手で腹を抱え、痛みに呻いて腰をくの字に折り曲げていた。
「チッ、≪魔導杖≫か……」
 まさか武器を持っていたとは、非力な小娘と思って油断していた。
 腹に一発、いいものを喰らってしまった。
「すみません。学校の選択科目で護身術を履修しています。だから今のは……反撃させて頂きました」
 なるほど、模擬戦の経験くらいはあるわけだ。
 かといって、本当に護身術を活かして身を守り、人を攻撃したのは初めてなのだろう。自分のした事に怯えた風な、冷や汗の浮かんだ緊張の顔で、アニエスは杖を握り締めていた。
「最初の一言がすみませんとは、お人好しなもんだな」
 だが警戒心を一気に膨らませたご様子で、次におかしな真似をすれば、もう一度攻撃を加えると、目が警告を発している。
「元々、裏解決屋にお願いする予定でした。それなりに覚悟はしてきています。だから――」
 人を平然と傷つけて、怪我をさせられるような育ちはしていないくせに、必要とあらば覚悟を決めて戦うとでも言いたげだ。
「わかったわかった。俺が悪かった」
 とは言ってみるが、平謝りでは構えを解く様子はない。
「それで、今のはどういうおつもりで?」
 面持ちが険しくなっている。
 一丁前に、説教でも始めそうな雰囲気だ。
「どうもこうも、言わなきゃわからないことかねぇ? アンタだって、どうせわかってるんだろ? 発育もいいんだからよ」
 ペラペラと喋りつつ、情報屋の男はさりげなく、密かにポケットへ手を忍ばせる。指先にカプセルを絡め取り、バレないようにさりげなく、口元へ運んで噛み潰した。
「やっぱり……。でしたら、情報は? それも本当は何もないんでしょうか」
 気づいている様子はない。
「おいおい、俺は情報屋だぜ? 足で何かを探すのは得意さ。役立つ情報をいくらでも持ってるからな」
「だったら、おかしな真似はしないで協力して下さい。お金だってきちんと用意していますから」
 声音が硬い。
 一度襲われかけた手前、こうして同じ空間で過ごすには、もう抵抗を感じるのだろう。
「へへっ、どうしよっかなぁ……」
 情報屋の男はくの字にしていた腰を正して、背筋を伸ばし直そうとするのだが、急にふらっと来たように、突如として片膝を突いているのだった。
 演技である。
 痛みは確かだが、ここまでフラつくほどではない。
「えっ、私……そんなに強く……」
 動揺を誘うのは成功だ。
「おおっと、悪い悪い。想像以上に響いていたみたいでな」
 さらに演技を重ねる彼は、腹を手で押さえたまま、痛そうに苦悶しながら立ち上がる。唇の端からは、先ほど噛み潰したカプセルからの、ただの血糊を流血に見せかけいた。
「ち、血が……!」
(ばーか、騙されてやんの)
「すみません! やりすぎました! すぐに手当てを――」
「おおっと、手当てはいい。それより交渉だよなぁ?」
「でも……」
 一体、どこまで人がいいのか。
 強姦未遂の男に対して、よくぞ罪悪感を持てるものだ。
「アンタはいいとこのお嬢様なんだろうな。だったら金は用意できるんだろうが、俺の望む見返りは、この痛みのおかげで金なんかじゃなくなった」
 悪びれてもらえるのは都合がいい。
「お金じゃないって、ではどうすれば」
「簡単だ。別の方法で払えばいいだけだ」
 情報屋の男はそして、この瞬間に合図を出す。周囲に対する胆振手振りで、出て来いと伝えた瞬間だ。

 ぞろぞろと男という男の数々が湧いて出て来た。

 L字状の一本道の、この袋小路。
 角の裏で今まで控え、合図を待っていた男の群れは、たちまちアニエスの周囲を囲み、逃げ場を奪って追い詰めていた。
「え、え……?」
 見事に戸惑っている。
(可愛いもんだなぁ?)
 この用意は最初からあった。
 見事、極上の餌が釣れ、目の前にアニエスが現れた時から、人混みに溶け込んでいた仲間が遠巻きに様子を窺っていた。裏路地へ移動するにも、十分な距離を空け、後ろから着いてきた上、そして角のところで待機していた。
 獲物を逃がす予定はない。
 ばっちりなセッティングの中に、アニエスはみすみす一人きりで飛び込んでしまったわけだ。
「えっ、そんな……これって……」
 アニエスはきょろきょろと視線を走らせ、明らかに動揺していた。
「もう一度言う。欲しいのは金じゃない。別の方法で払ってもらうが、その代わりおじいちゃんの遺品とやらがどこへ消えたかは知っている」
「本当……ですか…………?」
 嘘に決まっている。
 だがアニエスを騙すには十分なだけ、はったりを効かせるだけの情報は掴んでいる。
「とあるマフィアが半グレを利用してな。お小遣いの約束をして、お遣いをやらせたわけだ。ところが引き渡しの現場に警察が踏み込んで来たどさくさで、半グレでもマフィアでもない、第三の誰かに持ち去られた。今はその誰かさんの手の中よ」
 情報屋の男が掴んでいるのはここまでだ。
「その方を追えば、見つかるということですね」
「ああ、そいつの正体も知っている」
 なんて、ここからが嘘だ。
 もうこれ以上の情報は掴んでいない。正体など知りもしないが、極上の果実を罠にかけ、味わってやるにはここまでで十分なのだ。
「では……」
 不安と警戒心にまみれた面持ちで、強張りながら開いた口をすぐさま閉ざす。金での交渉は受け付けないと、そう聞かされたばかりのアニエスには、下手なことが言い出せないのだろう。
 とっくに予感しているはずだ。
 その手の交渉をする覚悟など、急には持てまい。
「いやぁ、にしてもいてーいてー」
 圧力をかけるべくして、情報屋の男は大袈裟に腹をさすり、また再びくずおれる。がくっと力が抜ける形での、急に膝を突く動作にビクっとしているあたり、我ながら真に迫った名演技らしい。
「あの……やっぱり、手当てを……」
「ああ? 手当てするからいいってか?」
「それは……。申し訳ありません。ですが、あれは正当な自衛行為です」
 なるほど、線引きはしっかりしているらしい。
 さも自分が被害者のように振る舞うことで、罪悪感を植えつけてコントロールする方法では、それのみで性交渉に持ち込むことは無理がある。
 とんだしっかり者というわけだ。
 しかし、心を揺さぶる効果は十分に発揮している。
「だが痛かったぜ? そうだ、アンタの依頼はいくら積まれようと断るってのもいいな。幼稚な対応ってのも、意外と気分の解消にはいいかもしれねーからな」
「ま、待って下さい! お金なら……本当に、払えますから!」
「どうしよっかなー」
「お願いします……」
「情報は鮮度が命だ。俺の握っている情報も、いつまで真実でいられるかねぇ? 案外、明日には古くなってるかもなぁ?」
「それは……。あの、ですから、どうすれば……」
 曾祖父の遺品とやらには、よほど執着心があるらしい。ただ家族の絆という理由だけでそうなのか、他にも理由があるのかは知らないが、諦めて手を引く考えがないのなら、力ずくの輪姦よりも、交渉でどうにかしてみるのも面白い。
 つい先ほどまで、無理に強姦するつもりでいた情報屋の男だが、このしっかりものを言葉で折ってみたいと思い始めていた。
「どうってなぁ? 金だの手当てだのより、もっと他にいい詫びの入れ方があるよなぁ?」
 改めて胸に視線を注いでやる。
 直接は言葉にしないが、露骨には要求してみせていた。
「……っ!」
 今度こそ視姦に気づいたらしく、アニエスは我が身を抱き締めんばかりに腕で胸を覆い隠す。
「別に他の情報屋を探すって手もあるだろうが、アンタはそういうのにどこまで詳しい? 間に合うかねぇ? 間に合うといいなぁ?」
「そういう要求には……応えられるわけ……」
「ま、俺には関係ねぇわな。遺品がどこへ消えようと、二度と発見出来ない闇の中に行っちまおうと、俺達の誰一人困らない。困るのはアンタだけだ」
「…………」
 きゅっと唇を引き締めて、アニエスは深く俯く。
「どうすんだ? ああ、ところで商売敵が利益を挙げるくらいなら、面倒なことにならないように、色々と根回ししておかないとな。なぁ? お前ら」
 情報屋の男はここに来て周囲の仲間に視線を走らせ、それぞれに頷く動作を取らせていた。
 こうして大勢で一人の少女を囲むのは、何も圧力をかけて脅すためだけではない。
 人員による根回しで、他のどの情報屋もアニエスからの依頼は受けないように仕向ければ、彼女は正真正銘二度と遺品に辿り着くことはできない。
 ちょっとした組織力のアピールだ。
 ただ安直に脅したり、輪姦に持ち込む以外にも、大の大人がずらりと並ぶ光景には、それなりの効果があるわけだ。
(ヴァン・アークライドもお留守だしな)
「すごく、汚いんですね……自分が先に襲ってきたのに、そこまで私のことを恨めるものなんですか?」
 逆恨みと思っているらしい。
 最初から獲物を味わう予定でいたとは、どうも気づいていないご様子だ。
「どっちが先だの関係ないぜ? 恨めるんだよ。理屈や筋に関係なくな」
「そうですか……」
 小さく答えたアニエスは、深々と俯くことで前髪を地面に垂らす。汚い世界のやり口にショックを受けて、打ちのめされでもしていたのか。
 やがて顔を上げた時には、哀しみに満ちた眼差しに、少しの決意を宿してこう言った。
「あなたのお望みは、私みたいな女の子に対するもの。ということでいいのですよね」
 直接言葉にしないのは、果たして恥じらいの表れか。
「ああ、そうじゃないか?」
「本番はしないと約束して下さい。そうすれば応じます」
 だが覚悟を感じた。
「そいつはすげぇ。たかが遺品じゃないのか? そこまで腹を括れるもんか?」
「……あの探し物は、私にとって絆なんです。ひいおじいちゃんだけじゃなく、お母さんやおばあちゃんとの」
「泣ける話だな。そんなに見つけたいか?」
 そう問いかけた時、アニエスの眼差しは真剣なものへと切り替わった。
「初めてだけは許して下さい。ですが、それ以外のどんなことにも従います。ですから、おじいちゃんの遺品を見つけ出すのに協力して下さい」
 まったく、本当に泣ける話だ。
 こちらには真面目に遺品を探してやる気も、与える情報もないというのに、本当に涙の出る話もいいところだ。
「なら着いてきてもらうぜ」
「わかりました」
 これで獲物は手に入った。
(本番無しか)
 まあ、それもそれで面白い。
 少なくとも最初のうちは、その約束通りに遊んでやろう。



 
 
 

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