第2話 淫婦の魔手

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 モスティマはベッドの上に寝かされていた。
 このベッドの配置は妙なもので、部屋の中央に置かれている。一台きりのベッド以外に調度品がなく、まるで見世物をベッドに置いて、周りから鑑賞するためであるような、そんな配置に思えるのだ。
 サルカズ女性に肩を貸してもらい、やっとのことで辿り着いた部屋の中である。
 言うまでもなくモスティマの荷物はない。こんな状態では、目の前にアーツユニットがあっても手を伸ばす余裕はないだろうが、それにしても武器に触れる可能性を与えてなどくれはしない。
「さぁて、気分はどう? モスティマさん」
「そうだね。眩暈は治まってきたけど、どうやら手足が上がらないようなんだ」
 ただ腕を上げてみたり、足を動かすだけの、たったそれだけの筋力が剥奪され、四肢に力が入らない。少し身じろぎしてみるのが限界なのも、彼女のアーツによるものだろう。
「それは大変そうね」
「そろそろ、私を狙った理由ぐらいは、話してくれてもいい頃じゃないかな」
「理由? そうねぇ、言葉で語るよりは、体で直接語った方が早いと思うわよ?」
「拷問でもしようって?」
 モスティマは半ば真面目にそう予感していた。
 人を狙い、助けも呼べない状況下で無力化するのは、そういった手合いのはずだと、ごく当たり前に考えていた。
 だから、その瞬間にモスティマは驚愕で目を見開いていた。

 唇を重ねられた。

 仰向けのモスティマに対し、ベッドの隣に立つサルカズ女性は、まるで人工呼吸でもしてくるように重ね合わせて、うっとりと目を閉ざしていた。唇で触れ合うことに、何か甘美な悦びでも覚えているように、頬には恍惚の色が滲み出ていた。
「な…………!」
 驚くあまり、長く唇が重なって、ようやく離れて行く瞬間にかけてまで、見開いた目で始終瞳を震わせていた。
「わかったかしら?」
 サルカズ女性のモスティマを見下ろす顔に、深い影がかかっている。それは明かりを頭上にして、ただ角度のせいで暗いだけではある。自然と生まれた影が彼女の心をそのまま表現しているはずもなかったが、モスティマにはの笑顔が邪悪に見えた。
 可哀想な患者を見る目でも、恨みのある相手を見る目でもない。喰らい尽くすべき獲物を見つけて、ひどく口角を釣り上げた悪魔の笑顔には、目の前の玩具でどうやって遊んで楽しもうかと、かえって無邪気さが現れていた。
 無邪気であるが故の邪悪であった。
 モスティマを面白い玩具と認識して、幼児期のような天使の笑顔で、心の底から楽しみそうに手を伸ばす。手に入れた玩具で遊べることが嬉しくて堪らない、純粋無垢な喜びに見えて、その感情を彼女は人に向けて来ている。
 まずは指先だけで頬に触れ、肌触りを確かめながら、徐々に周囲を触れる手つきに、モスティマは鳥肌を広げていた。
(やばいね……この子は……)
 モスティマは頬に汗を浮かべていた。
 手の平によって頬が包まれ、少しずつ確かめていくような、ゆったりとした手つきで指を首筋にスライドさせる。ジャケットの肩を触り始めて、それから鎖骨を撫で始めたかと思いきや、何の遠慮もなく乳房を揉み始める。
「いいわぁ? あなた」
「私の気分はそれほどよくないけどね」
 同性に乳房を揉まれる。
 友人がしてくる悪戯なら、まだ受け入れる余地があるだろうか。見知らぬ異性の痴漢に遭うよりは、ずっとマシには違いないだろう。だが、こうして今ここで揉んでくるのは、モスティマを付け狙い、拉致同然の真似をして無力化してきた性犯罪者だ。
 女同士であろうと、これを性犯罪と呼ばなくて何と呼ぶか。
「とっても良い感触ね。気に入ったわ」
「それはどうも。ま、胸が目的なら安いものだよ」
 すっと、モスティマは目を瞑る。
 無力化されて、ろくに戦えない状態に陥れられ、その上で密室に二人きりだ。つい先ほどまでのモスティマが想像していたのは、実はどこかで恨みを買っていたか、ラテラーノに勤めるサンクタの拉致に何らかの意味があったか。それとも、誰かが何かの秘密や物でも探していて、それをモスティマが知っているとでも思っていたか。
 そんな何らかの思惑に巻き込まれてのものと想像してみれば、実際に与えられる危害といったら、拷問というわけではなく、ただ乳房を揉まれているだけなのだ。決して気分は良くはなく、立派な被害そのものだが、想定したものに比べれば極めて安い。
 もっとも、モスティマの内心の緊張は解けていない。
 胸を揉まれることの不快感は大いにあり、その緊張の一部は、好きで受け入れているわけではない点にある。
(ま、胸で済めばね)
 しかし、モスティマは予感していた。
 彼女はつまり、犯罪を犯してまで同性に手をつけるレズビアンであり、ただひとしきり全身を撫で回すだけで済ませるとは思えない。もっと激しく生々しいことをしてくるのではないかと、そんな予感がしてならない。
 だからこそ、服の上からで済むのなら、逆に大喜びしたいくらいだ。
「いい肌触りね? どこも、かしこも」
 乳房を揉んでいた手が移動して、シャツの内側に潜り込む。腹を撫でてくる手つきを感じた時、モスティマは何となく感じていた。
 これはまだまだ、序盤もいいところだ。
 サルカズ女性の中では序章の半分にも至っておらず、本番に突入する頃には、きっと服も下着も脱がされている。穴という穴までしゃぶり尽くす勢いの、激しい欲望の熱気に全身が炙られるようだった。
 指をフックのように折り曲げて、サルカズ女性はモスティマのシャツを持ち上げる。
 徐々に腹が露出していき、ジャケットのはだけたあいだから、黒いブラジャーが曝け出された。漆黒の生地をベースに青い薔薇のワッペンを縫い込んで、紐をレースで飾った一際オシャレなブラジャーだった。
「まあ、いいわね」
「ふーん」
「私のツボを突いてくれるじゃない」
「お気に召しているみたいだね」
 モスティマにとって、彼女の喜びなどどうでもいい。
 ただ、この時間がいつになったら終わるかどうか、それだけに興味がある。果たして解放してもらえるのか、それ以外のことに今は何も関心がなかった。
「いい生地ね。それに、揉み心地もすごくいいじゃない」
 サルカズ女性は興奮にうっとりと目を細め、息遣いを荒くしながら揉みしだく。
 その細やかな五指により、モスティマの胸は揉まれ続けた。

     *  

 サルカズ女性はもっぱら服の上から触るばかりであった。
 シャツはたくし上げられて、その後はショートパンツのチャックも降ろされる。穿いていたものを膝まで下ろされ、下着は上下共々見られてしまっているが、今のところはそれだけだった。
 下着や服の上からの愛撫が延々と、何十分も行われている。
 素肌を直接撫でる時は、触れるか触れないかといった具合の、くすぐろうとでもしているようなタッチで皮膚を刺激する。五指によるフェザータッチがへその周りや腰を撫で、手の平全体を当ててくる時には、技巧あるマッサージのようにしてくるのだ。
 それらの手つきは、全て上手かった。
 サルカズ女性の上手なタッチは、もしも性感帯を集中的にやられていたら、今頃ははっきりと感じていることだろう。
 しかし、今のところは乳首やアソコはやられていない。
 乳房や太ももこそ触られても、それ以上のところに触れられる気配はなかった。
「どう? 気持ち良くなってきた?」
「どうかな。マッサージだとでも思ってみてはいるけど、まあまあってところだね」
「あら、これじゃあ足りないね」
「訂正しようかな。十分気持ちいいよ」
 モスティマはすかさず答えを言い直す。
 まさか、このまま服や下着の上からだけで済むなどと、甘いことは思ってこそいないのだが、万に一つでもそれで満足してもらえる可能性があるのなら、それに越したことはない。
 確かに彼女は、上手いのかもしれない。
 だが、いくら手先の技術があろうと、本心から受け入れているわけではない。好きで体を許しているわけでも何でも無い、自由を奪われ、他にどうしようもないから触らせているだけの状況で、心から愛撫を楽しんでいるわけがなかった。
(さっさと終わらないかな)
 というのが本心ですらある。
「余裕って感じね?」
「そりゃあ、もっと酷い暴力を覚悟したからね」
「そうなの。私がギャングか何かの仲間と思った?」
「そんなところだけど、実際どうなのかな?」
「私は本当に、ただの案内役場の勤め人よ? ただ、いつも素敵な女の子を探し求めているだけの一般人ね」
「ただ運が悪いだけときたもんだ」
 相手の言葉を全て鵜呑みにできるとは限らない。
 とはいえ、その言葉の通りなら、こうなった理由を突き詰めれば、たまたま彼女の視界に入ったから、などという話になる。獲物を物色している肉食獣の目に付いたから、それだけの理由でモスティマは今こうして体中を触られている。
 再び、乳房が手の平に包み込まれた。
 相変わらずブラジャーの上からばかり、直接触られずに済む分だけ、マシといえばマシであっても、プライベートゾーンには変わらない。心を開いた相手でも何でもないのに、不快感はそれ相応のものだった。
「いつまで我慢していればいいんだか。そんな顔ね」
「ご明察だね。飽きないものかな」
「安心なさい? 嫌でも楽しんでもらうことになるんだから」
「嫌でも、ねえ」
 そんなよほどの快楽を与えてくるとでも言うつもりか。それはまったく、遠慮したいところであるが、こっそり手足の様子を確かめても、激しい動きが出来る状態にはなさそうだ。上半身を起こしたり、立って歩いたりできれば上出来といった程度にまで、モスティマの筋力は調整されてしまっている。
(で、このアーツって……)
 本当に筋力低下なのだろうか。
 相手の筋肉から出力を奪う、そんな原理のアーツと考えていいのだろうか。
 何か、違う気がする。
「……っ」
 その時、モスティマは頬をぴくりと強張らせた。
「あら、反応しちゃったかしら?」
 得意げに尋ねてくるサルカズ女性の、その指は乳首をつまんでいた。ブラジャー越しではあるものの、ついに乳首の場所を集中的に擦り始めて、モスティマはその刺激を感じる羽目になっていた。
「反応ってほどでもないね」
「そうかしら? 一瞬、快楽が走ったように見えたわよ?」
「それは気のせいってもんさ」
 わざわざ、相手の悦ぶ反応を見せる気もしなかった。
 それで解放される保障でもあるならいざ知らず、ますます調子に乗って楽しんでくるかもしれない。それは下手に我慢して、意地を張っても同じことかもしれないが、どちらに保障があるわけでもない以上、やはり反応してやるつもりはない。
 体のどこが反応しても、ブラジャーの内側で乳首の突起が始まっても、それを伝えてやる必要など感じなかった。
「いずれ、素直になるわよ? あなた」
 誇らしげに、勝ち気な笑みまで向けて来る。
「自信たっぷりだね」
「今までのは全てお遊び、準備運動。だんだんと本番が近づくわよ?」
 つままれた乳首へと、ブラジャー越しの刺激がくる。指圧の強弱によってしばし揉まれて、爪を使った刺激を与えられると、乳房には甘い痺れがかすかに走る。
「…………」
 モスティマは静かに唇を結ぶ。
 いつかは呼吸が乱れてきて、声でも出そうな予感はするが、まだまだその領域には程遠い。この程度の刺激なら、目でも瞑って過ごしていれば終わるだろう。
 ブラジャー越しの刺激が続く。
 指圧の強弱と擦り抜かんばかりの愛撫は、適当な間隔で交互に繰り返され、いつまでもいつまでも乳首は嬲られ続けている。乳房の中には甘い痺れが走り始めて、ピリっとしたかすかな電気の気配が満ち始める。
 いよいよ感度が上がってきて、さすがに肉体のスイッチが入り始めているのかとモスティマは予感する。
 しかし、その時になってサルカズ女性は手を離した。
 急に乳房への愛撫をやめ、どうするのかと思いきや、下の方に手を移した。下腹部のあたりや内股など、性器に近い部分の露出した肌に触れ、指や手の平で撫で回す。指先だけで触るときには、やはり産毛だけを辛うじて触っているような、くすぐるようなタッチをしてくるのだ。
(随分、時間をかけてくれるみたいじゃないか)
 乳首に触ってきたのさえ、胸を何分もかけて撫で回し、時間が経ってやっとのことだ。ならばアソコに触るのも、周りばかりを散々に愛撫して、数分なり十分以上なりが経ったところで、ようやくとなるのだろう。
 モスティマはその来たるべき刺激に備えていた。
 アソコに触れそうで触れて来ない。ショーツのかかった肉貝の膨らみに、指が接近してくることはあっても、はっきりと触れてくることは決してない。布の外端にほんの少し触れたと思ったら、もうその位置から指は遠のき、別の場所を愛撫する。
(そんなにしても、面白いとは思えないけどね)
 声が出る瞬間は、ひょっとすれば来るだろう。
 触られてさえいれば、生理的な反応はあるので濡れもするかもしれない。
 だからといって、絵に描いたような派手な喘ぎで、いかにも淫らに狂った感じ方をするとでも思うのだろうか。
 こうも時間をたっぷりかけて、熱心に愛撫してくるからには、本人はそれを目指しているのではないかと思うが、そんなことになるものかとモスティマは考えていた。
(馬鹿馬鹿しいね)
 付き合っていられない。
 だから付き合いたくないわけだが、いくら時間が経ったところで、モスティマの身体にかかったアーツは、時間経過によって解かれるわけではないらしい。よしんばそうだったとしても、その都度かけなおされて終わりのはずで、手足が自由になる機会はやって来ない。
 どうしたところで、嫌でもこのベッドに寝そべって、サルカズ女性の愛撫を受けているしかなさそうなのだ。
(しょうがない。とにかく、マッサージでも受けていると思って、ゆっくりさせてもらうとしよう)
 モスティマはそのつもりになりきって、体を休めようと意識していた。
 せっかく、横になっているのだ。
 少なくとも、痛みを伴うことはされていないのだから、だったら今をリフレッシュの最中だとでも思えばいい。どこかのエステにやって来て、そのサービスを受けているのだ。
 動けないからそうしようという、それは合理的な割り切り方だった。

     *

 モスティマのアソコが濡れ始める。
 黒いショーツだからわかりにくいが、アソコの周囲を弄られ続け、ついには愛液の分泌が始まっていた。触れそうで触れてこない、さながら焦らし続けるようなタッチによって、膣の奥には熱が溜まって、うずうずとした期待感が蓄積していた。
 早くきちんと触って欲しい。
 モスティマの心とは裏腹に、肉体にはそのような反応が現れていた。
(これは参ったな……)
 表情にこそ出さないが、感じ始めてしまったことで予感する。いずれ実際にアソコを触られた時、このサルカズ女性に調子付くきっかけを与えることになる。それはなかなかに面白くない展開だ。身体のどこかにスイッチでも付いていて、感度をオフにできたらいいが、そう都合よくコントロールなどできはしない。
 もう時間の問題だ。
 今はまだ気づいていないサルカズ女性は、やがてアソコを触る始める。そしてショーツを脱がせた上で、ワレメを直接確認してくるはずなのだ。
 モスティマは心の中で身構える。
「わかるわよ?」
 その時、サルカズ女性は言う。
「うん? 何がかな?」
「あなたはもう濡れている」
 勝ち誇った顔で、言い当ててやったと言わんばかりに、サルカズ女性はモスティマを見下ろしていた。
 まず感じたのは、見抜かれていたことへの驚きと、それを指摘されてしまったことの恥ずかしさだった。
 だが、モスティマはすぐさまいつもの表情に立ち戻る。
 一体、何がそこまで誇らしいのか。
 生理的な反応を引き出すことで、何を大手柄でも立てたような顔をするのか。
「はいはい。濡れた濡れた」
 モスティマはそう返す。
「ふふん? あなたの態度がこれからだんだん変わり始める。まだ、これはほんのきっかけに過ぎないのよね」
 サルカズ女性はモスティマのブーツを脱がせ始める。
 そして、今になってショートパンツを下ろしていき、膝にかかっていたそれを完全な形で脱がせきる。下半身はショーツのみになったところで、そのショーツのゴムにも指を入れ、彼女はゆっくり、実にゆっくり、下ろし始めた。
 愛液が接着剤の役目を果たし、クロッチがアソコに粘着していた。
 下ろせば下ろすだけショーツの生地は裏返り、黒が裏地の白へと変わっていく。最後には完全に裏返しに、それまでアソコに付着していた布は、ぴんと引っ張られることにより、ようやく離れ始めていた。
 ワレメと布のあいだに粘っこい糸が引く。
 性器を見られ、しかも愛液まで確認されている恥ずかしさに、モスティマは薄らと赤らみつつあった。そんなモスティマの顔を見てか、サルカズ女性はくすりと笑い、嬉しそうにショーツを脱がせきる。
 剥き出しになったアソコへと、サルカズ女性の顔が迫った。
 一気に距離を詰められて、至近距離からの視姦が始まり、モスティマはますます羞恥を煽られ赤らみを広げていく。
「やーっぱり、やらしーことになってるじゃない」
 サルカズ女性は嬉々としていた。
 嬉しくてたまらないものを見て、興奮に上擦った声を上げていた。
「それはよかったね。ご満足?」
「気取っちゃって。いつまで持つかしら? ふふっ」
 サルカズ女性は心の底から楽しみそうに、モスティマの身体に抱きついてくる。急な密着に引き攣っていると、その背中に回った腕に抱き起こされる。お次はジャケットを脱がせるらしく、袖があっさりと両手の向こうへ遠ざかり、シャツもたくし上げられていく。
 さらにはブラジャーのホックも外された。
 背中でぱちりと外れた瞬間、直ちに緩んだブラジャーのカップは、サルカズ女性の手によって取り去られる。乳房さえもが曝け出されて、あっという間に丸裸となってしまったモスティマは、恥じらいを抑えようと唇を引き締める。
「さあ、次からは直接触るわよ?」
 サルカズ女性は改めて抱きついてきた。
 そのドレスの繊維が素肌に直接当たってきて、モスティマの胸に向かって彼女の乳房も当たって来る。乳房同士で潰し合い、モスティマの耳には頬が触れ、両手は改めて背中に回し直されている。
「ねえ、モスティマ? あなたはどんな声で鳴くかしら?」
 ゆっくりと押し倒していく形で、再びベッドへ寝かされる。
 またしても仰向けになるモスティマの、その表情をサルカズ女性は真上から覗き込む。彼女の妖艶な顔立ちが視界を塞ぎ、垂れ下がってくる髪が影を成す。モスティマの表情を愛おしそうに眺めつつ、指先を乳首に触れさせてきた。
 その瞬間、今まで以上の痺れが走る。
「んぅ…………」
 危うく、はっきりとした喘ぎ声さえ出そうであった。
「あら? いいのよ? 遠慮無く鳴いて」
「そう言われましてもねぇ?」
「ふふっ、少し焦っているわね。このままじゃ、どこまで感じることなっちゃうか、だんだん不安になり始めているわ」
「ご想像にお任せするよ」
 とは答えてみるものの、サルカズ女性の言葉は当たっていた。
 乳首に指が掠めてきた一瞬で、ビリっと弾けるような電気が流れたのだ。その甘い電流は神経を伝って胴まで流れ、腹に届いてくる勢いだった。これほどの快感があるというなら、しかも乳首でこれだというなら、敏感な膣やクリトリスに同じことをやられた時、自分は一体どうなってしまっているか。
 そのさすがの不安を表には出さずにいたつもりが、どうやらサルカズ女性は敏感に察していたらしい。
「ほら、我慢しないと、声が出ちゃう」
「…………っ」
 モスティマは歯を噛み締めていた。
 今度は両方の乳首を触られ、どちらも指につままれる。すりすりと、つまんだ状態で優しげな摩擦を与え、かと思えばデコピンのような方法で、ピンと弾いてくる刺激に、乳房の内側には電流が走り続けた。
(ま、まずいね……思ったより…………)
 覚悟していた以上の快感に、モスティマは焦燥していた。
「声、出してもいいのよ?」
 サディスティックな悪魔の笑みがそこにはあった。
 獲物を罠にかけてしまい、あとは思い通りになるのを待つだけの、勝者の持つ余裕の態度が滲み出ていた。
「……気が向いたらね」
 そうは答えてみるが、既に声は出そうであった。
「…………んっ、んぅ」
 かすかに、息が乱れる。
 乳輪をなぞったり、乳首に指を置いて押し込んだり、そんな刺激の数々が繰り返されればされるほど、走る痺れのピリっとした感覚に身体が反応する。
「ほーら、我慢しなくたっていいのよ?」
「んぅ…………んぅ…………」
「だんだん可愛くなってきているわよ? リンゴみたいなほっぺたで、美味しそう」
 愛おしいものでも眺めるように、サルカズ女性はうっとりとした眼差しで顔を近づけ、そして頬をぺろりと舐める。
「うっ……」
 急に舐められたことに引き攣った。
 モスティマの頬には、皮膚に唾液の通った光沢の筋が残されていた。
「じゃあ、次はこっちを食べてみようかな」
 サルカズ女性は乳房を頬張る。
「んぅ……んぅぅ…………」
 ますます声が乱れそうになってきた。
 身体に唾液を付けられていることへの嫌悪感に、モスティマは頬を固く強張らせているものの、吸い上げんばかりの刺激に肉体は反応している。
「ちゅぱ……ちゅぱ……」
 と、吸い取る音が聞こえるたび、乳房全体に痺れが走る。
「うっ……くっ………………」
 気持ち悪いはずなのに、やはり肉体は反応する。
 心では受け入れていない、思い返せば名前すら聞いていない相手によって、身体を吸われたり、唾液を付けられるなど、抵抗感しか湧いて来ない。それ相応の拒否反応が出てもいいはずが、それとは裏腹の快楽に体はビクっと弾みそうですらあった。
「んぅ……んぁ…………」
 サルカズ女性はもう片方の乳首にも吸いついてくる。
 唾液濡れとなった片方の乳首には、先端に触れる大気がひんやりと感じられ、もう一方には吸われての刺激が走る。歯の当たり方も巧妙で、決して痛みを与えてこない、適度な加減でしきりに掠めてきているのだ。
「あっ、んぅぅ…………」
 舌も当然のように使われている。
「ちゅぅ……ちゅぅ…………」
 吸い上げる際には、唇の力を駆使して揉むようにされ、それもまた刺激となっている。
 モスティマの乳房はますます感度を上げていた。
「ひぁ………………」
 余っている方の乳房に手が来ると、小さな声がとうとう上がる。
「あらぁ? 今のは喘ぎ声かしら?」
「べ、別に……んっ…………」
「ふふっ、もう声を我慢しているのね?」
 サルカズ女性はさらに嬉しそうな顔をして、嬉々として乳房を吸い上げる。ちゅぱっ、ちゅぱっ、と吸引の音が続くにつれて、モスティマの表情は少しずつ変化していく。紅潮した頬で何かを我慢して、堪えんばかりにしている顔付きは、本人がどんな気持ちでいようと関係無く、確かな色気を醸し出していた。