四人による撮影は続く。
策略によってパンチラは撮られ続け、恥辱に震え耐え忍ぶ二人は、束の間の休息を経て傷ついた心を癒やそうとするものの・・・・・・。
第1話「城の上」第2話「風の屈辱」第3話「ささやかなリフレッシュ」第4話「ジャングルジム」第5話「痴漢の恥辱」最終話「イタズラ観光ガイド」
三日目の朝、四人の男達の顔を見るなり押し黙る。
「あれ? どうしちゃったのかな?」
首を傾げる愛野。
「おはよう。お二人とも、何かあった?」
尋ねてくる津馬。
その二人の奥で、火亜と土良井も不思議そうにしながら見て来るが、そんな四人に対する視線には疑惑が籠もっていた。
もしやと、内心では思っている浅倉透。
樋口円香も彼らを疑っている。
ただ、そこに確証はない。
荷物の中から、スパッツや下着がなくなったのだ。
着替えはバッグの中にしまっておくものであり、着替えの時でなければ特に出し入れすることもない。紛失のしようもなく、どうして消えるのかが不思議なものだ。
透と円香、どちらか一人だけがなくしたのなら、何か驚くようなうっかりをやらかして、どうにかしてなくしたものと思っただろう。
しかし、二人同時になくすだろうか。
酒でも飲んで二人して酔っ払えばあり得たかもしれないが、飲み会への出席でも飲酒はしていない。飲み会といっても未成年への配慮があり、アイドルとして顔を出し、軽く歌を披露して、二人の退場後にようやく酒が出て来るといった段取りだった。
一滴たりとも飲んでいない。
だが、二人同時になくすなどありえない。
だったら、盗まれたのかもしれない。
そんな恐怖と不安を抱き、宿の女将に頼んで防犯カメラの確認をしてもらうが、そこには何も映っていないという。
やはり自分達でなくしたのだろうか。
いいや、そんな馬鹿な。
一着ぐらいなら、ここまで疑問にはならなかっただろう。真っ先に自分でやらかしたと思うだろうが、二日分の下着とスパッツである。それが綺麗に二人分。こんなこと、いくらなんでもありえない。
釈然としないまま、二人は女将の元を後にして、ふらふらとロビーの方へと歩んでいく。
すると、同じく部屋を出ていた四人組と鉢合わせ、何となく気まずい思いで顔を合わせることになったのだ。
様子のおかしさが顔に出ていてか、どうかしたのか、何かあったのかと尋ねられたのは、この時のことだった。
(言えないよね)
円香の目配せ。
(だね。言えない)
透もそれに視線を返し、目だけのやり取りを行った。
正直、彼らを怪しいとは思っている。
ただ、それはいかにもセクハラじみた視線であったり、胸や尻を意識していそうなカメラの動きであったりと、ひたすら印象が悪いせいである。初対面の時から透け具合がどうだのと言ってきた愛野に、同じく視線の怪しい三人と続いたため、二人の中で彼ら四人の好感度は極めて低い。
水着強要の件もそれに拍車をかけている。
そして、そんな中で衣類が消失したわけなので、こいつらならやりかねない、といった思いがある。
防犯カメラが何も押さえていない以上、自分達でなくしたとするのが妥当なのだが、どうしても疑念が薄れない。証拠もないのに人を犯罪者扱いは良くないと、頭の中ではわかっているが、印象の悪い彼らに対して疑いの目を向けたくなる。
まさか、それを本人達に直接伝えることはできない。
それに一連の事実を伝えれば、四人だって言うだろう。なら自分達で紛失したのではないかと、当たり前の結論を口にしてくるに違いない。
だから、言う気にはならない。
伝えることで、ますます雰囲気を悪くするのも、あまり良くない。
なので二人は黙っていた。
「別に、何もないですけど」
何かあったのかと問う愛野や津馬に対して、円香はそっけなく返すだけだった。
「ねー。フラフラしてただけでーす」
と、透もそう答えておいた。
それに、時間もない。
「うーん。なら、いいんだけどね? 出発まであと二十分くらいだから、準備をしておいてもらえるかな」
仕事の開始時刻のこともあり、だから今はこの件についてこれ以上掘り下げる時間がない。
二人は部屋に戻っていき、軽く準備を整える。
引き続き夏服のワイシャツとスカートで外に出るが、いつも通りの格好なのに落ち着かない。学校への行き来でも、私服で町を歩くにも、わざわざスパッツを穿くことはあまりなく、それだけでそわそわすることはないのだが、今回ばかりは本当に落ち着かない。
(証拠も何もないし、印象が最悪ってくらいしか根拠はないけど……)
それでも、透はこう思う。
(この人達と過ごすの、なんかな……)
きっと、本当に盗んだわけではないのだろう。
念のため、女将さんには落とし物に衣類が届いたら教えて欲しいとも伝えてある。ふとした拍子に出て来るかもしれない。
しかし、やりかねないだろうとは、やはり思っている。
例えば、ドアがたまたま半開きになっていて、そんな不用心な状態で透と円香がすやすやと眠っていたら、きっと彼らは侵入してくる。機会さえあれば下着泥棒に走りそうだとは感じている。
もちろん、スカートの中身を狙った盗撮行為も……。
そんな人達と一緒に過ごすのに、今のスカートの内側にはスパッツを穿いていない。だったらズボン類を穿けばいいのだが、こんな状況を想像していなかったので、スカートしか持って来ていなかった。
心許ない気持ちのまま、二人は三日目の仕事を開始する。
*
撮影は最終日を迎え、今日の予定では様々な史跡や城を巡ることになっている。
貝塚や城跡、古墳跡地といったスポットを紹介するため、その都度車で移動して、降りた先での撮影をこなしていく。
ハンドカメラの土良井を正面に、透と円香は笑顔やポーズ作りを繰り返す。スポットを悠々と歩いて回る絵を撮らせ、愛野による歴史解説も行われる。画面には登場せず、ナレーターになりきったり、必要に応じて二人に呼びかける。
「透さん。貝塚はご存じですか?」
「あー。確か、載ってたね。教科書に」
「そうそう、その貝塚の跡地なんですね。ここは」
といった具合に、わざとらしい質問を行って、その質問をきっかけに歴史解説を開始するというのが、この撮影における脚本上の構成だった。
そして、表面上は仕事に徹している四人組は、密かにほくそ笑んでいた。
「いやぁ、今日のパンツはどんなものかねぇ?」
小声であった。
二人が自分達に背を向けて、少しばかり先を歩いている時、愛野は仲間内での密かな会話を始めていた。
――映像に自分達の声が入っても、それはどうせカットする。
映像自体、ノーカットで長々と無駄に流すわけがない。
「わかってるくせに」
と、顎髭の津馬は言う。
見た目だけならダンディチックな外見だが、その目はいやらしく歪んでいる。鼻の下を伸ばしきり、ハンサムな顔立ちが驚くほどに台無しになっていた。
「まあまあ、それを実際に撮って確かめるのがオツってもんでしょうが」
土良井は長身でヒョロヒョロとしており、手足も脂肪と筋肉が少なく細い。骨と皮のような外見で、頬も痩せこけている。然るべき舞台でボロ絹を纏ったなら、まさにスラム街の貧民に見えるだろう。
「津馬ぁ、もう獲物は撮ったんだろう?」
スキンヘッドの火亜は強面で、上等なスーツを着込めばヤクザに見える。懐に手を忍ばせ、そこから拳銃を取り出したら、それはそのままテレビや映画に出て来るヤクザの動きに見えるはずである。
「見るかい?」
津馬が自信ありげにデジタルカメラのモニターに映し出す。
「おおっ」
「これはこれは」
「ったく、いつの間に」
それを見た三人は揃って感嘆する。
が、その直後だ。
「いやいや、私も負けませんぞ?」
愛野もスマートフォンを取り出して、自分の方がより素晴らしいものを撮ったと言わんばかりに見せびらかす。
「俺も負けちゃいない」
「はんっ、なら俺もだ」
結局、四人が四人とも、それぞれの手で盗撮を済ませていた。
後ろからスカートに手を忍ばせ、尻を撮るのが最もバレにくく、確実な方法である以上、アングルは限られている。どうしても下着の後ろ側に絵は絞られ、決まったアングルの角度だけが揃ってしまう。
似たような写真が何枚も並んでいるが、それにもいくらかの差異はある。
スカートにカメラを忍ばせる際の、いわば入射角が写真毎に異なるのだ。右の尻たぶが大きく映ったり、左の尻たぶが目立ちもする。横軸の入射角によって、右寄りか左寄りかの違いで見栄えが変わってくる。
そして、縦軸の入射角もある。
より直角に近い角度で入るほど、スカートの中身は見えやすい。逆に立って真っ直ぐ前を見るような角度に近ければ近いほど、覗けて見える面積は減ってくる。
こうした縦入射角、横入射角により、下着の写り方には変化が生まれる。
いずれの角度から入るにせよ、尻を真下から見上げた写真が並ぶ。似たような価値の写真がフォルダに溜まり、ものによっては揺れたスカートのぶれた像が入り込み、下着写りの悪い写真なども混ざってくる。
だが、入射角が違いを生み出す。
その時々の光の入り方で、尻という名の球体は見栄えを変える。影と陽光のグラデーションは、基本的に上弦ほど暗く、下弦ほど明るいわけなのだが、その時の太陽との位置関係、入射角の違いによって、影と光の領域に変化が生まれ、似たような写真でも少しずつ違いが出て来るのだ。
そして、四人はそれらを比べ合っていた。
いわば競技だ。
決まったルールの中で、いかに芸術点の高い写真が撮れるか。後ろから撮った尻の中で、誰が一番良いものを撮っているか。
本気で競っているわけではなく、仲間内だけで通じるノリ、内輪の感覚としての側面が強いながらに、四人はそれぞれの写真を出し合う。
さながら、一番強いカードを出した者が勝ちであるかのように、皆が皆、似たような写真を見せ合った。
透が青、円香がピンクだ。
まだ後ろ側しか撮れていないため、バックが無地のショーツからは、きちんとした柄はわからない。昨日の晩に確認してはいるので、色合いから特定することは可能だが、それをあえて口にするのは無粋なことだ。
言ってみるなら、ネタバレを知った状態で映画を見るのに、知らないフリをしてあえて驚き楽しもうとしている。ミステリーものの犯人を知っているのに、知らずに見ているつもりになりきっている。
そして、二人がどんなショーツを穿いているのか、まるで検討がつかない気分になりきっているわけだ。
今の四人が求めているのは穿いた状態のパンツである。
それはそれ、これはこれ。
温泉の脱衣所や宿泊部屋で、二人の下着を床に広げて写真を撮るのは面白かったが、今は隠し撮りを楽しんでいる。
それにしても、前から撮るチャンスが欲しい。
しかし、一筋縄ではいきそうにない。
段差を上がらせる。階段を上らせる。景色を眺める絵を撮りたいと言い、後ろを向かせて隙を作る。思いつく手口を使ったり、隙あらばカメラを差し込むことは可能でも、前から撮る機会は中々ない。
やはり、正面から撮るのはリスクが高い。
前から撮るなど、バレやすいどころの話ではなく、目撃も何も気にせず堂々と犯行に走るようなものである。ただでさえ、正面からの盗撮というのは無理が出やすい。それこそ、都合の良い風でも吹いて、その瞬間に合わせてシャッターを切るのでなければ、隠し撮りで正面を撮るなどやりようがない。
だが、それでも撮ってみたい。
撮ってはみたいが、どうしても難しい。
だいたい、後ろから撮れる回数さえ、時間が経つにつれて減ってきている。
休憩時間を挟む際も、それまで撮った写真を見せ合い、自慢し合っていたが、四人は揃って感じていた。
「だんだん警戒心が上がってますなー」
飲食店での休憩時。
二人がトイレに行っているあいだに愛野が話題を切り出すと、残る三人はそれぞれ頷く。
段差や階段では、必ずスカートを手で押さえるようになったのだ。初めのうちはそうでもなかったのが、だんだんと後ろを気にする回数が増え、しまいには高い場所へ移る際、毎回必ずスカートを意識するようになっていた。
それでも、どうにか撮ろうと密かなシャッターを切り続けるが、ここ一時間のあいだは一枚も下着が撮れていない。
「次の現場に賭けようか」
と、火亜は言う。
それに周囲の面々は頷いた。
この後に向かう天守閣なら、いい絵が撮れるかもしれない。
*
浅倉透は粘っこい視線を感じて密かに顔を顰めたり、円香と視線を合わせることが多かった。
スパッツを穿いていないから、というだけでは説明がつかない。
下に何もなく、捲れれば見えてしまうから、ついつい意識してしまう。という、ただそれだけの話であれば、こうも粘っこい視線は感じない。四人の視線は本当にスカートばかりをチラチラを向いてきていて、いつ中身を撮られるかわかったものではない警戒心を煽られるのだ。
もう既に撮られている。
その事実までには気づいていないが、狙われている感覚だけは十分ある。
「あんまり、言いたくないけどさ」
と、透が口を開いたのは、休憩先の飲食店で一緒にトイレへ行ってのこと。
個室を出て、手洗い場で二人並んで鏡の前に立った時、透はそこに映る自分自身を見ながらぼんやりと、円香に向けて口にしていた。
「言っちゃいなよ。たぶん、私も同じ気持ちだから」
そう円香は言う。
「そうかな? じゃあ、言うんだけどさ」
「うん」
「昨日より、キモくない?」
「キモい」
円香は即答していた。
初対面での印象、水着の強要、ドン引きする機会は最初から今まで何度かあったが、その時の寒気だけでは済まされない。
何と言うべきか。
自分達のことを獲物と見做し、隙さえあれば飛びついてくる獣の中にいる気持ちだ。下手をすれば喰われるので、なるべく周囲を気にしておかなくてはならない。すると、何やらねちっこい視線を送ってくる際の、妙にニヤついたいやらしい目つきが視界に入り、そのたびにゾクっとする。
「……ないね」
「マジ、ない。本当にないから」
円香は透よりもはっきりと、憤然としたものを表面に滲ませていた。
「次で最後だっけ」
「そうだよ。早く済ませて、さっさと戻りたいね」
もう完全に、円香はこの仕事を嫌がっている。
その気持ちは透も同じであった。
下着とスパッツの消失、それに対する確証のない疑い。防犯カメラに何も映っていない以上、自分達でなくしたと結論するしかないのだが、どうも釈然としない気持ちが四人に向き、透の心の中で育つのは、彼らならやりかねないという疑念だ。
やりかねない、きっとやる。
そう、だから嫌だ。
下着泥棒をやったり、盗撮をしてくる可能性のある人物と、どうして一緒に過ごしたいと思うだろうか。隙を見せればやられる相手とは、安心して過ごせない。絶えず警戒していなくて気が休まらない。
「……疲れる」
あの四人といると、疲れるのだ。
だから、まだ仕事が残っているのかという気持ち半分、次で最後だから解放されるという気持ちが半分、それぞれを半々で抱え、透と円香はトイレを出る。
休憩が済んだ後、車での移動によって最後の撮影現場へ向かっていった。
そして、車を降りて城へ向かう。
その坂道を歩く最中、津馬が大きなテレビカメラを肩に担いで、後ろ歩きを行っていた。地方行政の公務員ではなかったのか、スタッフを雇わずこんなことまで自分でするのか。よほど予算が絞られているのか。
様々なことが気になったが、透と円香はスカートの警戒を忘れない。
何せ、坂道だ。
前からカメラが回っていることで、自然と正面に視線を肯定して、きちんと撮影用の表情を作っていなくてはいけなくなる。顔の方に意識を割き、スカートへの意識がおろそかになりかねない。
二人して両手を後ろにやり、始終スカートを押さえていた。
それでも、後ろからの視線は妙に感じて、覗こうとしてきてはいないか、気になって気になって仕方がなかった。
それから、到着後。
『故障中』
そんな看板を立てたエレベーターに、二人は揃って引き攣っていた。
いいや、それともこの四人と密室空間に入る方が気持ち悪かったか。これはむしろ、ラッキーだろうか。
「っていうか。あったんだ、エレベーター」
円香がそう口にする。
「みたいだね。もっとこう、当時のままとか、想像したけど」
城そのものは、何とかという藩主が使っていた歴史があり、愛野がその解説を行っていたが、腐敗による劣化があったため、大幅な改装が行われたことがあるという。そう聞いた時点では、痛んだところを修復したり、床に何かタイルを敷いてあったり、そのくらいに考えていた。
エレベーターが作られるまでの改造ぶりとは思わなかった。
故障中でなかったら、こんな立派な城の中なのに、エレベーターを使うことになっていたようだ。
すると、次に問題になるのは階段だ。
エレベーターが使えないので、頂上までは階段で上がることになる。それ自体は特に構わない。高層ビルでもないのだから、気にするほどでもない。学校の階段を上り下りする時と、さして変わりはしないだろう。
問題は傾斜と構造だ。
「えぇ……」
それを前にした瞬間、透は嫌そうな顔をしていた。
「わかるよ。浅倉」
円香も隣で同意していた。
傾斜が高い。
下から見上げれば、さぞかし中身を見上げやすいことだろう。自然と警戒心が膨み、この先へ行くべきではないと、体内で信号が駆け巡る。危険を察知する器官があって、それが作動しているかのように、透はこの階段を上がることへの抵抗感をあらわにしていた。
傾斜もそうだが、段差が梯子や脚立に近い。
板張り、とでも言えばいいのか。
柱と柱のあいだに板が並んだ梯子そのままの構造で、つまりは下から上を見上げれば、そこからもスカートの中身が見えそうなのだ。実際には足場が邪魔になり、上手く見えない可能性はあるのだが、そんなことは検証してみなければわからない。
「どうしたのかな? 二人とも」
そんな透と円香の様子を気にして、ヘラヘラとした愛野が表面上は気遣ってくる。
「いえ、別に」
透はそっけなく答えた。
「あら、そう?」
「ええ、別に」
それがいかにそっけなく、透にしてはわかりやすい冷たさか。珍しい態度なのか。テレビやライブ映像を通してしか二人を知らない四人にはわからない。
「ま、とにかくね。階段で上に上がってくる二人、っていう絵を撮りたいので、まずは一人のカメラマンが先に上がってね。後から階段を上がる二人のことを、上から撮るっていう形でいくからね」
そんな愛野の言葉に、二人は顔を見合わせる。
(うわぁ……)
心の声がだだ漏れになるような、引いた表情を透はしている。
(……ないね)
円香の面持ちも似たようなものだった。
*
天守閣は貸し切りである。
事前に話を付けてあるため、定休日で客の出入りがない日に合わせ、この撮影スケジュールは立てられている。特に遅刻も何もしていないが、時間に遅れようものなら、こちらの方面に迷惑がかかっだ。
樋口円香も、浅倉透も、二人ともそのあたりは理解している。
だから仕事が嫌だとは言い出しにくい。
しかし、ねちっこい視線が多い中、いつスカートの中身を撮られてもおかしくない予感があるのに、この傾斜のこんな階段を上がるのは不安が大きい。
「ほら、こっちだ」
津馬が大きなテレビカメラを肩に担いで、撮影スタッフさながらに二人を見下ろす。
それ自体はサマになっていたが、透と円香は一瞬躊躇う。
不信感さえなかったなら、特に気にせず上がっていき、いつも通りの気持ちで撮影に臨んでいただろう。
だが、残る三人がニヤニヤと二人を見送ろうとしているのだ。
二人が階段を上がる瞬間を待ち侘びて、いかにも楽しみそうにしている。
「さあ、円香ちゃんから」
愛野が促してくる。
馴れ馴れしいちゃん付けに、肌中がぞわぞわとした。
(凄い嫌なんだけど……)
階段は幅が狭く、一人ずつしか上がれない。
円香が先行することとなり、まず一段目に脚をかける。ここから先は撮影の段階なので、それらしい表情を作っている必要がある。映像を見るのは、収録について知ったファンであったり、広告をたまたま目にした視聴者達だ。
不特定多数の人間に対してまで、セクハラオヤジに対する視線を向けてはいけない。
円香は表情を崩さないようにしながら上がっていき、手でさりげなくスカートを気にするが、あまり後ろばかりに手をやって、使えない絵を撮らせるわけにもいかなかった。
そして、透が上がっていく時だ。
三人は一斉に、それぞれのカメラを構えていた。
撮影のため、絵作りのために視線やポーズの向きを制限して、盗撮をやりやすいようにコントロールする。津馬を上の階に先行させ、残る仲間で撮る作戦は、ものの見事に決まっていた。
唯一の問題は、階段の幅の狭さだ。
一人しか上り下りできないため、どちらかを先に行かせる必要があった。
円香を先に行かせることに決め、円香が上がっている最中は生真面目な顔をする。腕を組み、仕事の様子を難しい顔でもしながら見守っていた。
今ここで焦って盗撮を行えば、透に見咎められる。
そこに目撃者が立っているのに、堂々と盗撮に走る者はいない。
円香が上の階へ消え、透もまた後ろを振り向くことがない。そんな状況が出来上がるまで待ってから、三人はショーツを狙い始めた。
前と後ろ、両方撮りたい。
お尻は散々撮ってはあるが、せっかくの機会である。どんなに似たような写真が増えようと、撮れる分だけ撮っておきたいのが彼ら四人の心情だ。
愛野だけが階段の真下に回り、二人は後ろから撮影する。
果たして、ここからショーツは見えるか。
見上げながら待ち構え、そして愛野は歓喜した。
角度が絶妙だった。
梯子のような構造の、板と板にある隙間から、ショーツはきちんと覗けて見えた。階段の傾斜といい、隙間の間隔といい、スカートの丈の長さといい、全てが絶妙に噛み合ったおかげで生まれる景色といってもいい。
サックスブルーはきちんと見えた。階段を進む際、脚を上げる動作が行われる。そんな脚の上下に伴い、スカート丈が持ち上がった瞬間の中身がばっちり見えた。
スマートフォンの動画撮影モードがそれを確かに捉えていた。
サックスブルー――青の中に少々の灰色を足したような色合いの、白い刺繍の入ったショーツである。糸を使って線の中まで塗り潰した花びらは、よく見れば背景と同色の、青い糸で描くツタの曲線によって繋がっている。
そうして見えたショーツは一度隠れる。
階段の段に足を乗り、もう一方の足が動き出す。その動作に伴って、一旦は直立に近い形となって、そのまま左脚が持ち上がる。太ももがスカート丈の角度を変えるので、再びショーツは垣間見えていた。
透の位置が上へ上へと進むほど、さすがに見えにくくなってくる。
愛野のちょうど頭上を通る頃には、見上げたところで板の裏側しか見えなかったが、この上で後ろからも撮影している。前後のパンチラを撮れたことで、十分な成果を得られたわけだ。
そして、透は視線を感じていた。
(なに……この感じ…………)
下から覗いてくる愛野の視線に、明確には気づいていない。
しかし、上から見下ろすテレビカメラに目線をやり、階段を上がっていく最中、何か粘つくようなものを感じたのだ。目には見えないねっとりとした塊が押しつけられ、実は塗りつけられているような、嫌な間隔が尻とアソコで同時にある。
嫌な予感がした。
もしかしたら、何か本当に最悪なことをされているかもしれない。
どうしても気になった。
目の前のカメラから視線を逸らし、撮影中に異なる方向を見るわけにはいかない。決まった絵を撮ろうとしているのに、それとは違う動きを見せにくい。
それでも、気になったのだ。
粘っこい何かがもわもわと漂って、尻の周りを漂っている。
この嫌な感じが本当に気になって、本当に落ち着かない。体中がそわそわして、貧乏揺すりでもしたくなる。
階段の最上段を踏んだ時、とうとう透は振り向いた。
津馬がテレビカメラを下げ、撮影を区切ったことで、透の中にかかっていたストッパーが外れたのだ。視線を逸らすわけにはいかない理由がなくなり、透はその瞬間に振り向いた。
「……!?」
そして、全身にぞわっと鳥肌が広がった。
明らかに覗いていた。
土良井と火亜の二人が腰を屈めて、カメラやスマートフォンまで手にしながら、どう考えてもスカートの中身を覗こうとしていた。
(気持ち悪い!)
透は本気で引いていた。
彼ら二人は反射的に姿勢を正し、カメラも下げて誤魔化していた。さも何もしていなかった風を装っているが、その下手な誤魔化しこそ、今の今まで取っていた行動をかえって証明していた。
気づけばスカートを両手で押さえていた。
(ない! 本当にありえない!)
見えていたのか、いないのか。
撮られてしまったのか、どうなのか。
それは大きな問題だが、たとえ見えなかったとしても、撮れなかったとしても関係ない。そんな行動に走っていたという一点だけで、もう十分に気持ち悪い。全身から拒否反応が生み出され、それが信号として全身を駆け巡り。
(もう帰りたい!)
心が本気で叫んでいた。
ふつふつと毛穴が開き、全身が何かに包み込まれていく。夏の不快な湿気でもわもわとするような、嫌な大気の塊の中にでも立っているように、全身に不快感が行き渡る。
階段を上がりきった先、待っていた円香が首を傾げる。
「……浅倉?」
そして、そんな円香にどんな言葉を返すまでもなく、ただ透の表情を見ただけで、すぐさま何かを察したらしい。ムっとして、何かを言わずにはいられない様子で、ずかずかと早足で透の隣まで歩んで来るなり、階段の下を見下ろしていた。
「浅倉に何かしてました?」
極めて直接的だった。
パンツを撮ろうとした、覗こうとした。そういった疑いこそ具体的には述べていないが、そうであっても直接的で、疑念を隠しすらしていない。
「いやいや! 何も?」
「なんでだ?」
土良井と火亜は、当然のようにそう答える。
それはそうだろう。
あなたは悪事を働いていましたか、などと尋ねたところで、簡単に白状する者はいない。誤魔化すに決まっている。もっと厳しく問い詰めなければ白状するはずがない。
だが、円香は確信しきっているらしい。
透も同じだ。
この四人は本当に盗撮を狙ってくる。
*
最悪すぎる。
本当に最悪すぎる。
水着の強要で大きく信用を損なって、その不信感を引きずっているから、防犯カメラに何も映っていないにも関わらず、四人に対する疑念を抱いてしまう。
性犯罪者――かもしれない、そんな人達と一緒に過ごす気分の悪さは始終あったが、疑念は確信に変わってしまった。
下着とスパッツが消えたのはともかく、彼らは盗撮や覗きをやる。
何となくそうかもしれない、だから気持ち悪い――ような気がする感覚から、より確かな嫌悪感が膨れ上がった。
同じ空間にいるだけで、全身がぞわっとする。
「浅倉、先に上がって」
円香がそう言ったのは、階段を上がるシーンをもうワンシーンずつ撮ると言われたからだ。
「え、でも……」
「いいから、先行きなよ」
円香は思ったのだ。
階段は幅が狭く、一人ずつしか上がれない。
円香と透、どちらかの目が上に消え、見張る人間がいない時こそ、階段を利用して覗くチャンスである。
そんなことはさせられない。
まずは透の背中を見送った。
階段先で控えるテレビカメラに向かって視線を合わせ。滞りなく撮影が済んだ所で、次は円香の番となる。
その時にこそ円香は告げた。
「先に行ってくれませんか?」
愛野、火亜、土良井に対して、円香ははっきりと申し出た。
「ええ!? なんでかなぁ?」
愛野は大袈裟に驚いてくる。
「階段の傾斜があるので、男の人が下にいない方が落ち着きます」
「まさか! そんなことするとでも?」
「関係ありません。その方が安心して仕事ができるって言いたいんです」
あなたを疑っていますとは、はっきりとは名言しない。
ただ、見える可能性があるので気を遣って欲しい。その方が気にせず安心して仕事に集中できる。そういう建前で先に上がってもらおうとした。
「こっちは後ろ姿を撮るんだ」
と、火亜は言い出す。
「聞いてませんけど」
「今決めた。大丈夫、気にするな。撮るのは背中だし、当たり前だがカメラの角度には気をつける。君が先に上がるんだ」
(……信じるわけないでしょ)
円香は訝しげになる。
「どうした? 仕事はきちんとしてくれるんだろ?」
火亜は譲らない態度である。
「前からだけでいいじゃないですか」
「おい、いつまで時間を使わせる気だ? この場所はな、限られた時間の中で撮影許可を貰ってるんだ。こうしている一分一秒だって惜しいんだが?」
声が一気に低くなっていた。
円香は内心、萎縮する。
「だったら早く先に行って下さいよ」
表面の態度は変えないが、火亜は見た目がヤクザなのだ。強面で筋肉も逞しく、いつ怒鳴ったり暴力を振るってくるか、わかったものではない外見である。おまけに声もドスが効いていて、人を怖がらせるには十分な威力があった。
だが、火亜だけではない。
愛野が、土良井が、あからさまに苛立っている。
さっさとしろ、我が儘言うな。
声に出していないだけで、そう言わんばかりの態度が全身から溢れ出ている。大人が三人がかりになって、高校生の女の子をあくまで先に上がらせようとしているのだ。
少女の身では、無意識や本能で恐れてしまう。
今ここに人目はなく、グルの四人相手にこちらは二人しかいない。力ずくの暴力に走られれば、不利なのは自分達の方だ。
従った方が身のためだという計算は、心のどこかで働いている。
円香は火亜を相手に押し問答を繰り返し、どうにか先に上がらせようとはしたのだが、そのうちに愛野も口を挟んでくる。土良井も口を挟んでくる。円香がいかに我が儘を言っていて、子供が大人を困らせようとしているか、仕事に支障が出るかといったことまで説き始め、何故だか円香の方が怒られる立場になっていく。
どちらが正しく、どちらが間違っているかなど関係無い。
たとえ円香が正しくても、数の揃った大人が一人の高校生を相手に圧をかけ、凄んだり苛立ったり、ドスの効いた声を駆使して従わせようとしてきている。
それが逆らう気持ちを削り落とした。
「…………わかりました」
とうとう円香の方が折れ、三人の男達は内心でほくそ笑む。
(なんなの……こいつら…………)
大きな不満を抱きながらも、円香は階段に足をかけ、登り始めた。
視線は上、カメラに合わせる。
カメラの向こう側にいる視聴者に向けての表情を作り、ファンに見てもらう前提の絵作りを開始する。人に見せるための映像なのだから、執拗にスカートを気にしたり、覗きや盗撮を警戒した様子を撮らせるわけにはいかなくなる。
そして、背後から視線を感じた。
じぃぃぃぃ…………。
尻のあたりがムズムズする。
見えない何かが這い回り、皮膚をくすぐり尽くしているような、奇妙な感覚が尻中を駆け巡る。いかにも覗かれているような感覚がして、どうしても落ち着かない。撮影中だから気を遣い、そういった様子を出さないようにはしているが、そうでなければ全身をそわそわさせることになるだろう。
円香は後ろに手を回した。
(時間がどうこう言ったのは向こうの方だし)
だから、手で軽く押さえるくらい、文句なら言わせない。
絵作りに影響が出ない範囲を意識して、本当にさりげなく、別に何も警戒していない、単なる仕草の一環であるかのようにお尻に手を置いていた。スカートの揺れを防ぎ、覗きにくくすることで、少しでも心を落ち着けようとした。
だが、ショーツは撮れていた。
押さえるのが遅く、中身が少しは覗かれてしまっていた。
しゃがんだ姿勢で見上げれば、前後に揺れるスカート丈から、円香のピンク色のお尻はチラチラと見え隠れを繰り返す。
火亜と土良井で当然のようにカメラを向け、そのピンク色を映していたが、愛野も愛野で、前から映したショーツの映像を獲得していた。
下地の上にもう一枚の布をかけ、フロントの三角形を薄ピンクに変えている。洗濯ネットや虫取り編みのような向こう側の透ける白布が重なって、そんな白布には刺繍による花びらの線画が施されている。
それを愛野は覗き見ていた。
撮影を行いながら、足の動きに伴いスカート丈が持ち上がり、見えて来る光景をしっかりと目に焼き付けていた。
*
樋口円香は顔を赤くしていた。
透もだ。
円香の場合、振り向くことはしなかったが、下着を覗かれたに違いないことはひしひしと感じている。その後、残る三人も階を上がって、全員が顔を突き合わせた時、男同士でニヤニヤと笑い合い、得なことをして喜び合う雰囲気に、きっとそうだと確信していた。
手が自然とスカートへ動く。
今は覗きも何もできるタイミングではない。そもそも、今になって隠したところで、既に見られてしまった事実を掻き消すことは出来ない。意味のない仕草であることはわかっているが、それでもスカートを押さえてしまう。
透と二人して、両手で前後を押さえていた。
見られていると確信しきり、赤らんだ顔で俯いていた。
(最悪……!)
円香は歯軋りする。
もう帰りたい。こんな人達と一緒に仕事などしたくない。
「次は最上階での撮影だからね」
などと愛野は言う。
彼らとの仕事が本当に嫌になってきて、その矢先にかけられる声としては残酷である。
最上階へ上がってみると、外は風が強かった。
(無理でしょ。これは……)
円香が心の底から思っていると、隣で透も似たような顔をしていた。
(……無理だね)
かなりの強風だ。
お城の外、ベランダやバルコニーに相当する手すり付きの屋外で、絶景を背にした撮影をするという。
それはいい。
景色と共に映るくらい、それ自体の問題は何もない。
(……下着、狙う気じゃないの?)
円香はもうそのように見做していた。
先ほどまではそうでもなかったのに、高度のせいだろうか。強風の音が中まで聞こえる。聞くにスパッツが恋しくなり、スカートを押さえる手には無意識のうちに力を込める。気づけば強い握力で丈を握って、拳の周りに皺を刻んでいた。
「どうしたの? ほらほら! 外だよ外!」
二人して躊躇っていると、愛野が大声で急かしてくる。
「風、強いんですけど」
険のある声で円香は言った。
「だから何? 仕事だよ? 仕事! さあ、早く出た出た!」
「私達がスカートなの、わかってますよね?」
もはや責め立てる勢いだ。
こんな強風の時に、スカートを穿く少女に撮影を強要するなど、大人として非常識であると糾弾していた。
「え? 何々? これって、きちんと契約にある内容なんだよね。水着の時は私が悪かったけどさぁ! 事務所に提出したスケジュールをね? 君達のプロデューサーに見てもらってね? きちんとOKもらるんだけど?」
愛野も愛野で、それなのに拒もうとするお前達こそ悪者だと言わんばかりだ。
またしても険悪なムードである。
しかし、円香は構わない。
「だったら服装を変えてくるので――」
「ないよ! そんな時間! なんで最初から他の服も用意するとか、そういう準備がなかったわけ!? プロ意識が足りないんじゃない!?」
「…………」
円香はただ睨む視線だけを向け、返す言葉もなく押し黙る。
そもそも、近場に洋服屋もないだろう。
強風現場での撮影があると、想定さえしていれば、もちろんズボン類も持って来た。
だが、明らかにスカートが危ういはずだ。
それでも撮影を強行しようとする彼らには、疑問しか湧いてこない。
「どうしてもやらせる気ですか?」
「私も、ちょっと……」
透も一緒に難色を示す。
「あのね? 今度はこちらが事務所にクレームを入れるよ? 二人が契約内容にある撮影に従ってくれないってね! 今回ばっかりは、君達の方が事務所にも怒られるんじゃないかって、オジサンは思うなぁ!」
愛野は凄んでくる。
言葉こそ発さないが、他の三人も似たようなものだった。
ここに味方はいない。
二人のことを守ってくれるプロデューサーも、事務所のスタッフも誰もいない。泣く泣く撮影を受け入れるしかなく、二人は本当に躊躇いながら、スカートの前後を両手で押さえながら外へ出る。
「まずは昨日みたいに、景色を眺める横顔を撮りたいかな? ねえ?」
愛野の言葉により、二人は両手を手すりに置き、景色の遥か先へと視線を送る形を取らされる。当然のようにスカートを押さえることはできなくなり、いつ強風が来るか、気が気でない。
今は風がやんでいた。
このまま無風でいてくれれば、一体どれほどいいことか。
テレビカメラを構えた津馬が後ろに、ハンドカメラの土良井が右サイドに、一眼レフの火亜が左サイドに、三方向をカメラに囲まれる。過去の撮影の仕事では、こんないつ下着が見えるかもわからない、不快な緊張感を帯びた現場はなかった。
しかし、今は落ち着かない。
円香は山並みの景色に視線をやり、右肩の近くに通るの存在を感じ取る。透もまた、どことなくそわそわして、落ち着きのない様子を醸し出している。一緒に同じ気持ちを抱えたまま、この撮影は行われるわけだった。
そして、その瞬間である。
ビュゥゥ――
急な風の音を聞き、円香はぎょっと目を見開きながら、素早く手すりから手を離し、浮かびかけたスカート丈を手で押さえる。きっと隠すのは間に合った――と、思いたい。いいや、間に合ったに違いない。
隣を見れば、透もおそらく間に合わせたが、それでも落ち着きなく顔を赤らめ、二人して似たような表情を浮かべていた。
見えなかった――はず。
ガードが間に合った確証はなく、ただそう思いたいから思っている。自分で自分を誤魔化して、間に合ったことにしようとしている。
しかし、ばっちりと映っていた。
一瞬限りの三角形は、二人の両手が即座に動いたこともあり、先端が辛うじて見えた程度に過ぎない。小さな面積ではあるが、テレビカメラを担ぐ土良井と、その隣に控える愛野は、ピンクとブルーを目にして内心で歓喜していた。
二人して撮影を嫌そうにしている。
階段を利用したあたりから、円香の態度が露骨となり、透も決して良い顔はしていない。
だが、構うものか。
「さあ、お二人とも。次はこちらを向いてもらえるかな?」
愛野が指示する。
今さっきスカートが捲れかけ、中身が見えたばかりの二人である。いつまた強風が来るかと気にしながら、躊躇いながら向かい合う。景色を背にする形となり、愛野視点では透が右に、円香が左に立って並んでいた。
まずは円香に焦点を当てる。
「では円香さん。ここまで巡ってみて、どうお思いですか?」
「そうですね。今まで何も知らなかったんですが、意外と歴史が多いみたいで」
視聴者に見せるための映像を撮っているのだ。
いくら愛野達に不信感があったとしても、それを画面の中には出せずにいる。表面的には普段通りの素の表情を装って、その裏側にはセクハラに対する嫌悪を隠している。
手はしっかりとスカートを押さえていた。
「なるほどー。この町はやっぱりマイナーですから。でもお二人が来てくれたおかげで、より多くの人達に知ってもらういい機会になったと思うんです」
愛野自身は画面の中に入らないが、それらしい口調でそつなく話す。
喋りながらも、頭の中では考えていた。
何か、スカートから手を離させるための口実はないものか。上手いことを言わなければ、また嫌がったり、揉める流れになったりするのだろう。
それを避け、スムーズに手をどけさせる方法は……。
「あ……!」
その時、愛野は驚きに口をぽかんと開けた。
ちょうど良く風が吹き、円香のスカートを巻き上げたのだ。両手で前側の丈を押さえていたせいで、無防備だった後ろが浮き上がり、火亜が素早くレンズを向ける。
(と、撮ったのか!?)
即座に火亜の様子を窺う。
(撮ったぜ?)
そう心の中で返して、火亜は目で頷いていた。
(よし!)
それは横からのアングルだ。
後ろから覗き見る写真は散々撮ったが、ここで初めて横からの尻を手に入れた。
「っ!?」
円香はすぐさま両手を後ろにやり、素早く手で押さえつつ、横目で火亜を睨みつける。赤らんだ顔で怒りを溜め込んでいた。
「……撮ったり、してませんよね?」
そして、かなり直接的なことまで聞いて来る。
「まさか。撮っちゃいないさ」
「本当ですか?」
「本当だとも」
「……なら、いいですけど」
円香は火亜から視線を外し、瞳を正面へ向け直すが、その目は明らかに今の言葉を信じていない。不信感の大いに籠もった眼差しで、頬を真っ赤に染め上げていた。
さらに、その瞬間である。
ビュゥゥゥゥゥ――――
突風の勢いだった。
この時、円香は両手ともお尻を守っている。後ろを守ったために、かえって前が無防備になった瞬間を狙い済まして、ここで強風が吹けばどうなるかは明白だった。
モロに見えた。
スカート丈は一八〇度の半回転で腹に張りつき、完全な丸見えとなっていた。ピンク色が曝け出されて、円香の赤面ぶりはますます色合いを濃くしていた。
しかも、円香だけではない。
「やぁぁ……!」
透のサックスブルーまでもが見えていた。
二人のスカートが同時に捲れ、腹に張りついたまま向こう側へとはためいて、ばさばさと布が騒がしく音を鳴らし続けている。
「み、見るなぁ!」
透は悲鳴を上げていた。
即座に両手で押さえ込み、庇わんばかりに後ろを向く。
よほど慌ててしまったのだろう。まだ風もやまない状況で、そんな風に後ろを向いたら、今度はお尻が丸見えになるに決まっている。
「やぁぁぁ……!」
しっかりと見えた。
丸出しのショーツの尻は愛野の目に収まった。カメラにも収まった。透は即座に後ろにも手を回し、しゃがみ込んでまで隠すのだが、そうする頃にはもう遅い。一度記録として残ったものは、後でいくらでも見返すことが可能になるのだ。
「終わり! もう終わりにして下さい!」
円香が必死に叫んでいた。
未だやまない風の中、円香は一生懸命になってスカート丈の前後を掴み、握力で皺を刻みながら下へ引っ張る。これ以上は見せまいと、いくら努力していても、その代わりのように左右で太ももがチラついていた。
「あ、はははっ! そうだねぇ? まあ、ばっちりと見えちゃったもんねぇ?」
「……っ!」
円香の顔に怒りが浮かぶ。
「ま、撮影は十分だし、終わりにしてもいいんだけどね。まだ風がやまないねぇ?」
愛野は嬉々として円香を煽っていた。
「な……!」
その目は見開く。
「……」
透も無言だが、愛野に対して瞳を揺らしていた。
風で捲れた直後にセクハラめいた言葉までかけられるのは、二人にとっても衝撃らしい。しばし見開いた後、みるみるうちに怒りの表情へと変化していく。
「映りましたよね!?」
円香は声を荒げていた。
「後で確認させて下さい! で、でないと……!」
きっと、さもなくば承知しない。ただではおかない。そんな気持ちを存分に込めていたのだろう。
やがて風はやみ、解散のために天守閣を後にする。
二人は始終無言となり、声をかけても目を逸らすようになっていた。
*
旅館に戻って真っ先に要求するのは、全ての映像を確認させてもらった上、下着の映った部分は必ず削除しろというものだ。それも円香と透の見ている前で、コピーなどの小細工をしないように見張った上で、きちんと消してもらうつもりでいる。
その際の返事はこうだった。
「そうだね。ま、どのみち使うわけにはいかないし、約束しようじゃないか」
とは言ったものの、愛野は次にこう続ける。
「ただね? ここいらのお偉いさんと飲み会の約束があってだね。わかるかな? 飲み会といっても、ただ飲み食いして騒ぐためだけじゃない。偉い人同士、繋がりってものを作る必要がある。立派に仕事に関わるんだ」
予定があることを言い出した上、飲み会とはいかに大切な付き合いであり、さしたる理由もなく欠席するわけにはいかないものか。愛野は饒舌に語り始めて、聞くに不満は膨らむ一方だった。
さしたる理由?
円香と透についての問題は、大した話ではないというのか。
そんなことより、もっと優先するべきことがあると言われては、立派に被害を受けた身としては腸が煮えくりかえる思いである。
だが、男四人を相手に回すのは限界がある。
透も押し問答に参戦して、愛野とのやり取りを続けたが、最後には飲み会という理由一つでかわされて、動画や写真の確認は明日とされてしまったのだ。
「ありえない!」
部屋に戻って、円香は叫ぶ。
「……まったくだね」
透も険しい顔をしていた。
あんな恥ずかしい目に遭わされて、下着が見えたことを気遣うでもなく、むしろニヤニヤと笑ってくる。そもそも、ああなる危険性はわかっていたから、外での撮影自体を拒んだのだ。案の定の結果になって、このままでは怒りが収まらない。
「浅倉! あいつら、訴えたいね……!」
「だね。あの人達、絶対コピーとか……」
透はそこまで言いかけて、嫌な想像はしたくないとばかりに自分自身の言葉を句切る。
明日に回されてしまっては、コピーの暇はいくらでもできてしまう。本人達は飲み会で忙しかったとでも言い出して、そんな暇はなかったとでも言い張るだろうが、戯れ言を信じるはずがない。
「どうする? 浅倉、あいつらのこと。事務所に報告するには、色々と……」
「そうだよね。色々と、言わなくちゃいけない……」
スカートが捲れ上がった件に触れずして、彼らがいかに最悪な連中だったかは伝えきれない。
私達はエッチな被害に遭いました。
など、言いにくいものである。
「樋口。言う? プロデューサーさんに」
「いいや、今は仕事中でしょ。確か」
「……うん」
「それに、明日迎えに来てくれる予定だし、言うとしてもその時に」
「わかった」
「とりあえず、確認しよっか」
円香が自分の荷物を漁り始めて、その隣で透も着替えを確かめる。
やはり、スパッツと下着は消えたまま、明日用のワンセットだけが残っている。
「おかしいね。やっぱり」
透は呟く。
「……うん、おかしい」
着替えは確かにバッグの中にしまっていた。
どうやったら、紛失するというのか。
だが、こればかりは防犯カメラに何も映っていなかった事実がある。きっと何か別の理由で消えたのかもしれないが、どうしても四人に対する疑念は消えない。心のどこかでは、彼らの仕業に思えてならなかった。
温泉に行く気は起きない。
覗きや盗撮といったことが頭を掠め、あの四人と同じ旅館にいるあいだは、大浴場には忌避感さえ湧いて来る。
透と交代で、室内の風呂を使った。
夜を迎え、眠ろうとはしてみるも、胸のムカつきが晴れないあまりに眠れない。どうしてもイライラする。そんな時間ばかりが続き、布団に入ってから意識が落ちるまで、必要以上に時間がかかった。
それから、翌日。
約束通り、動画や写真の確認をさせて貰おうと思ったが、彼らの部屋をノックしても出て来ない。ロビーの方にも見当たらない。痺れを切らして従業員に尋ねてみると、なんと彼らはチェックアウト済みであることが判明するのだった。
「ば、ばっくれた……?」
信じられなかった。
「ありえない……ね、うん…………」
透も大きく目を丸めていた。
*
外は天気が良く、青空の下は無風である。
こんなにも晴れ晴れとしているのに、二人の心は曇りきっていた。
「ねえ、樋口」
そこで透は提案する。
「せめて、出かけよう?」
防犯カメラがあれでは、警察には言いにくい。追求すべき四人も姿を消した。これでは今は何もできない。
他にせめて出来ることといったら、この曇りきった心を少しでも晴らすことくらいだ。
今までの嫌な気分も、外を歩けば多少は和らぐかもしれない。
「そうだね。そうしよう」
円香は透の案に乗り、ローカル線に乗って出かけに行く。
幸い、愛野達とは巡っていない、少し離れた町にも観光地区はあり、そこには食べ歩きが出来るだけの店も並んでいる。街中で彼らの顔が頭を掠め、楽しめなくなるといったことはなくて済みそうだった。
駅を出た時から、旅館の周囲とは大違いだ。
一時間に一本しかない電車を降りて、そこに広がる光景は、まるで都会と区別がつかない。映画館やカラオケがあり、高層ビルのデパートが建っており、そうした施設で人口を集めつつ、店通りにはパフェやクレープ、たこ焼き屋さんといったものが並んでいる。
まさしく、遊べるスポットだ。
あるいは逆に、こんなスポットが隣にあるから、今まで愛野達と巡ったスポットは不人気になりやすいのか。その辺りの事情はわからないが、ここなら気晴らしに良さそうだ。
まずは食べ歩きをした。
アイスクリームを注文した後、たこ焼きを食べ、今日ばかりはカロリーなど気にしない。食べた分だけ、数日後のレッスンで消費すればいい。
「あ、あの映画……」
映画館の近くを通りかかって、透が映画のポスターに目をやった。
「なにこれ、『イルカ襲来』って……」
あまりの珍妙なポスターに円香は引き攣る。
二本足というわけでもないのに、尾びれを使って直立して、銃器を構えたイルカが人間に銃口を向けている。そんなポスターに書かれたキャッチフレーズは『イルカがせめてきたぞっ』である。
気になるような、微妙そうな、どちらとも言い難い映画である。
「これ、見よっか」
「えぇ……」
「駄目?」
「いや、いいけど」
これのどこがいいのか。
いや、見れば意外と面白いのかもしれないと思い直して、館内へと足を運んだ。上映時間を確認すると、奇跡的にも十分後の上映があり、その運の良さから二人でチケットを取り、時間直前に入場する。
座席に座り、いよいよ映画が始まって……。
イルカの頭脳は実は人間よりも優れており、深海では高度な文明を築いていた。人々がよく知る普通のイルカは、進化の遅れた猿に過ぎない。真のイルカは高度な科学を持ち合わせ、人類に知られることなく海底都市を発展させていた。
地上を手に入れようと野心を抱いたイルカ達は、武器を手にして攻撃を開始する。
(なにこれ……)
円香の感想はそれだった。
世界征服を目論むイルカと、抵抗して戦う人類による戦争は、あらん限りの映像技術を駆使して大真面目に作られていたが、どうしてこの内容に莫大な予算をかけようと思ったのか。
しかし、下らないことを真面目にやり抜く馬鹿映画として、展開が二転三転していく内容はエンタメ性に富んでおり、さすがの曇りも薄れていた。
(まあ、ある意味……見てよかっった、かな……)
感想を聞かれても正直困るが、楽しい映画ではあったと思う。
上映が終わり、映画館を後にする頃には、あのシーンが笑えた。あそこが意味不明だった。俳優の絶叫が凄かったなど、感想を言い合っていた。
そして、街中の徘徊に戻った時だ。
「森林公園、ね」
そんな看板をたまたま見かけた。
どうやら、この近くにバス停があり、バスで行くことが出来るらしい。バスの運行時間を調べてみるが、数十分ほど時間を潰せば来るらしい。
「行ってみる?」
と、透は尋ねてくる。
「行ってみよう」
映画館では透の見たい映画を見たのだから、今度は自分の行きたい場所へ行くのも悪くない。
特別自然が好きかと言われても、そういうわけではないのだが、晴れ晴れとした空の下で森林浴は、リフレッシュには向いていると思ったのだ。
適当に店を巡って、ある程度の時間を潰したところでバス停のベンチに座る。
バスに乗り、十分少々で降りたところで、森林公園の入り口となる大きなアーチを見上げていた。
「美しい自然、ってやつ?」
などと、透が口にする。
「だね」
円香は答え、足を進めた。
時期のせいか、人は他にいないらしい。
二人は森のあいだに通ったアスファルトの道を進んで行き、木漏れ日の空を見上げて自然の空気に浸ってみる。そよ風が葉を揺らし、森のざわめく音が聞こえてくると、それが何だか耳に心地良い。
歩いていると、アスレチックエリアに差し掛かった。
ジャングルジムに滑り台、ターザンロープに平均台など、様々な遊具の集まる広場は、時間や日にちさえ違ったなら、小学生がはしゃぎ回っているのだろう。
「ジャングルジム、登ってみる?」
透が言い出す。
「いいけど」
真っ先にジャングルジムに興味を示す透に付き合い、円香は一緒になって上がっていく。小さい頃なら、もっと高く思えたのかもしれないが、高校生の今ならあっさりと頂上に辿り着き、そして地上を見下ろすことになる。
「え……」
だが、気づいてしまった。
なまじ高所から辺りを見渡し、それが目に飛び込んだ瞬間から、円香は全身を強ばらせ、顔中を引き攣らせた。
そんな円香の表情に透が気づく。
「どうしたの? 樋口」
透は円香の視線を目で追って、その瞬間に同じように強張り引き攣った。
――四人の男の影がこちらを見ていた。
木陰から覗き見る形で、四人分の頭が飛び出ている。距離があるからバレていない、とでも思っているのか。それとも、角度が絶妙なので、こちらからは見えていない、とでも思っているのか。
実際、顔まではわからない。
思い違いかもしれない。別人かもしれない。
だが……。
四人の男といったら、今は思い出したくなかった面々が浮かぶのだった。
せっかく晴れていた心が曇り直して、胸の内側はどんよりとした灰色になっていく。
「気分、悪いね」
透はそう言ってジャングルジムを降りていく。
「ほんと、最悪。なんなの、あいつら」
円香も不機嫌だった。
さすがに別人だとは思うのだが、よりにもよって四人組とは、掻き消したはずの胸のムカつきや、不快だった時の気持ちが蘇る。写真や動画を撮られ、彼らの手には未だ自分達の下着が残っている事実まで思い出し、せっかくのリフレッシュも台無しになっていた。
「行こう。樋口」
すぐにジャングルジムを降り、四人組に背を向け早足で歩いていく。
少しでも距離を離すため、嫌な気分を誤魔化すためにも、森のあいだに通った道を進んで森林浴に励んでみるが、もう先ほどまでのような心地良さは得られない。どうしても嫌な顔が脳裏にチラつき続けるので、リフレッシュどころではなくなってしまった。
自然と足は出口へ向く。
もう帰ろうと進んで行き、出入り口のアーチが見えて来た時である。
「……うわっ」
円香が引き攣る。
「なんで?」
透も強張る。
先ほどの四人組らしき影がずらりと並び、ちょうど出入り口を塞ぐようにして待ち構えていた。待ち伏せなのか、何なのか。どちらにしても気持ち悪い。
「確か他にも出口ってあったっけ」
「あー……。なんか、看板で見た」
「駅も、あるよね」
「あると思う、うん。遠回り、しちゃおっか」
反対側にも出入り口がある。
四人組を避け、そちらから出て行こうとするのだが、さすがに距離があるので歩き疲れるかもしれない。あんな四人組さえいなければ、わざわざ遠回りすることもなかったのに、恨めしくもなってくる。
まるで二人の心境に対応したように、頭上では青空が雲に隠れて、しだいに灰色空へと変わり始めていた。綺麗で清々しかった木漏れ日は失われ、風まで強くなってくる。
坂道に差し掛かった。
この自然公園は小さな山を整備して、子供達が遊べるようにしたものだ。二人が行ったアスレチックの他にも、鯉の泳ぐ池、バーベキューのできる川原にキャンプ場など、行っていないエリアはいくつかある。
それら多数のエリアを内包するだけの土地面積は、山を丸ごと利用してのものなのだ。
アスファルトで道のりを整備して、ところどころの森林を伐採して広場に変えている。
ともかく、山を利用して作った森林公園なので、坂道がいくつもある。この山そのものはさほどの高さではなく、誰でも軽々と頂上まで行けるのだが、道のりによっては坂道の傾斜が異なっている。
背後から四人が着いて来ていた。
「え、うそ……。ありえない……」
それに気づき、透は引いていた。
ふとした気配に気がついて、何気なく肩越しに後ろを見ると、四人の影がこちらに向かって進んで来る。
「たまたま道が同じだけ、ならいいんだけど……」
そう言ってはみる円香だが、とてもそんな風には信じていない。
透も同じように感じている。
試しに立ち止まった。
本当に道が同じだけなら、こちらがここで止まっていれば、勝手に追い抜いていくだろう。物は試しで止まってみて、肩越しに四人の様子を確かめる。四人は少しだけ近づいて来て、立ち止まった。
「…………」
「…………」
二人して沈黙する。
少し進み、また止まる。
すると、四人組もまた止まる。
「……やだ。ありえない」
透は嫌悪感をありありと浮かべていた。
その時、思い出したように吹く風で、スカートへの意識が強まって、二人して後ろに両手を回す。急な突風でも来て捲れることがないように、決して見せないようにガードしながら歩いて行く。
そして、二人が進み始めれば、四人もまた進み始める。
堂々と着いて来る存在の気持ち悪さは、ゴキブリの巣を覗いてしまったほどの、全身が泡立つものだった。真夏の暑さにも関わらず、何故だか背筋に寒気が走り、体温が下がり始めた感覚さえしてきていた。
(マジない……本当にない……)
円香の肌中がざわついている。
(なんなの……)
透も我が身を抱き締めたい思いでいたが、風のある中でスカートから手が離せない。
そのうち、雨まで降り始めた。
「なんなの……!」
円香が苛立つ。
「雨の予報なんて、なかったのにね……」
透の機嫌も悪くなる一方だ。
予報では晴れ、空も青空だったのに、折り畳み傘すら持っていない。幸いにも霧のような小雨なので、まだそれほど気にならないが、来ているワイシャツは少しずつしっとりと、湿り気を帯び始めている。
徐々に雨は強まって、キャミソールが透けてくるまで時間の問題だ。
そして、肩越しに振り向けば、四人組の影は先ほどよりも距離を詰め、きっとニヤニヤしながら二人のことを眺めている。顔がわかるほどの距離ではないが、どうしてもそんな気がしてならなかった。
雨はさらに強まってくる。
二人してキャミソールはピンク色だが、ワイシャツからはその色がだんだんと透け始める。
「やだ……」
透は悲痛な顔で足を速めた。
円香もそれに合わせて早足になっていく。
愛野達のせいで散々な思いをした手前、同じく四人組である背後の連中には、透けたキャミソールを見せたくない。逃げる思いで足は早まり、いつ走り出してもおかしくない。
そして、背後の四人は追いかけてきた。
あまりにもペースを上げたので、四人も早足にならざるを得なかったのだろう。追われる恐怖を煽られて、お互いの顔を見合わせた透と円香は、とうとう小走りを始めていた。
もちろん、お尻から手は離さない。
スカートを捲るほどの強風は吹いていないが、それでも坂道で走るのだ。より見えやすくなるはずで、お尻への警戒心は上がっている。
徐々に山頂に近づいていた。
高度の低い山なので、歩いて数十分と経っていない。本当に少しの時間で頂上が見えて来て、そこへ到達すれば上り坂から下り坂への移行となる。
透は振り向き、確認した。
「……いない?」
その声に円香も振り向く。
「やっと諦めた?」
「だといいけど」
「なんでこう……最悪……」
四人がいつ、どのタイミングで消えていたのか。
いずれにしろ、振り切れたのならそれに越したことはない。
だが、安心感で一息つけるわけではない。ホッとしたいところだが、雨が髪に染み込んでくる。スカートも湿り始めて、靴の中まで濡れるのは時間の問題だ。四人組のことがあってもなくても、この不快感には変わりない。
第一、振り切ったところで不快感は胸に余韻として残るのだ。
心にモヤモヤと漂う雲は厚みを増し、リフレッシュはより一層のこと台無しだった。
……二人は気づいていない。
地図をしっかりと頭に入れていたなら、その可能性に気づくこともあっただろう。
しかし、初めて訪れた自然公園の、おおよそのルートさえわかれば不自由はなく、細かな別れ道など注意深くは見ていない。
だから、二人とも可能性を想定すらしていない。
先回りという展開を想像もしていないのだ。
その時、強風が吹く。
今まで四人がいたのは後ろ側、だからお尻ばかりを守っていた二人にとって、前が捲れるような風は想定外のものだった。
「やっ! ちょっと!」
と、透。
「もう!」
円香も声を荒げる。
真正面に人はいなかった。誰にも見られていないからいいものの、捲れた布が腹に張りつくまでの風により、数秒ほどは丸見えになったのだ。
それを二人して、両手でばっと押さえ込む。
風に対して、自然に対して怒りを抱いた。
「イルカに全部破壊されればいいのに」
周りにある全てが壊れるところが見たい。
そんな願望さえ湧いてくる。
「それは面白いね。ったく……」
円香も自然に対する憤然とした気持ちを抱え、八つ当たりのように石ころを蹴り飛ばす。
山頂を通り抜け、下り坂へと移っていった。
そこで二人は初めて気づく。
――ぞくっ、
悪寒が走った。
「…………」
「…………」
そして、絶句していた。
まるで喋ってはまずいような空気となって、透も円香も沈黙しきった。余計な声を立てて刺激したくないような、お願いだから何事もなく済んで欲しい気持ちでいっぱいに、押し黙ったまま早足で通り過ぎていく。
曲がり道があったのだ。
それも、カーブと角度の具合で二人の位置からは見えにくい、近づいて初めて存在の確認できた曲がり道の、樹木の影には四人の影が潜んでいた。
ここで初めて先回りに気づいていた。
つまり、彼ら四人はつきまとってきている。ストーカーなのか不審者なのか、どういう連中なのかは知らないが、目を付けられて何も良いことなどない。
一刻も早く距離を取りたい。
この坂道を下りきり、自然公園を出た先には、ちょうど駅があったはず。電車に乗ってしまえば逃げ切れる。
そんな風に思って足を早めていた時だ。
ぶわっ!
と、またも風が吹き、二人同時に思い出す。
あれほど警戒していたはずなのに、お尻を守り忘れていた。四人の影を見た衝撃で、するべき警戒が頭から吹き飛んで、一瞬消えてしまっていたのだ。
スカートが浮き上がり、初めて思い出した二人は、やはり同時に両手を後ろへ、思いっきり叩きつけんばかりの勢いで隠していた。
だが、見えてしまったらしい。
「ピンクと白だったねぇ!」
聞き覚えのある声だった。
だが、覚えなどどうでもいい。
下着を見られたのはおろか、大声で色の指摘までしてくる男など、まともであるはずがない。
ぞわぁぁぁ…………!
全身の毛穴が広がって、寒くもないのに鳥肌が立っていた。
「前からはお花が可愛かったねぇ! ワッペンかな? 何か縫い付けてある感じだったねぇ!」
背中が凍りつくのは透の方だった。
透のショーツは白い。
裏地はクリーム色で、微妙に黄色がかった白の無地となりつつも、お尻のゴムに沿ってアーチ状のレースを連ねてある。前から見れば、青に紫など複数の色が混じり合い、いくつもの花を縫い付けてある。
「ピンク色もエッチだったねぇ!」
円香が激しく引き攣った。
ピンク色のショーツはフロント側に透けた布を使っている。アソコや陰毛に触れる部分、中央の六角形は普通の布だが、鼠径部から腰へ連なる部分、サイドへ繋がる部分の布は、洗濯ネットのように内側が透けており、肌色がはっきりと見えるのだ。
「樋口っ、走ろう!?」
もう限界であるように透は叫ぶ。
「信じらんない!」
円香はすぐに走り始めた。
そして、駆け出すにあたっても、お尻の警戒を忘れない。先ほど忘れてしまった手前、今度は忘れてはならない意思で力強く押さえ込み、片手はガードに回したままに駆け下りる。
早く電車に乗りたかった。
駅に着き、ものの数分以内に奇跡的にやって来る電車は、まるで救いの神のように思えていた。
*
さすがに走ってまでは追ってこなかったのか。
二人は息を切らせながら、すっかりうなだれていた。両手を膝の上につき、髪から滴り落ちる水滴をポタポタと、車内の床に垂らしている。
「はぁ……もう、やだ…………」
透はそう吐き出していた。
「ほんっとだよ! なにあいつら!」
円香の心も荒れている。
リフレッシュを台無しにされて、怒らないはずはない。腹のむかつきもさることながら、下着を見られてしまった上、大声で指摘してくる聞き覚えのある声は、本当に気持ち悪くて仕方がなかった。
耳に気色の悪い物体でも付けられたかのように、肌中がぞっと震えて、未だに鳥肌が立ったままである。
夏場の気温で、濡れていながら寒くはないが、それでも体中が震えている。
最悪だった。気持ち悪かった。
そんな理由で体の震えが止まらない。
「ねえ、座っちゃう?」
と、透は尋ねてみる。
座席の利用が憚られるほど、衣服に水気が染み込んでいるのだが、走ったせいかさすがに疲れ、座りたい欲求に駆られてくる。
「そうだね。もう、座っちゃおう……」
スカートから水気が移り、座席が吸い込んでしまうだろうが、そういったことに構う気力は残っていない。
こんなにも最悪な目に遭って、せめて座席くらいは使いたかった。
どうせ、他の客は乗り合わせていない。
だったら、今ばかりはどうでもいい。
透と円香は並んで座り、天井を無言で仰ぎ見る。会話を弾ませる気分もせず、心の中には嫌なものが溜まってばかりだ。
「なんだっていうの……」
円香はぼやき続けていた。
(本当だよね……)
透も奥歯を噛み締めて、愛野達や先ほどの四人組への恨めしさを胸に溜め込む。
リフレッシュどころか、かえって悪いものが溜まったわけだった。
「あー! いたいた!」
「いやー! 良かった良かった!」
その時、二人は信じられないものを見る目で、声の聞こえた方向に顔をやる。
どうやら、隣の車両には人がいたらしい。
それはいい。別の車両に人がいて、たまたま移動してきただけなのなら、特に構うことではない。
だが、彼らは明らかに透と円香を目当てにやって来て、無事に二人のことを発見できて安心している。
――愛野達四人であった。
「はははっ、急に走り出すもんだから、追いつけなかったらどうしようかと思ったよ」
「……っ!」
「――っ!」
透と円香は戦慄して、素早く席を立ち上がる。
四人組という理由で、愛野達の存在をダブらせはしていた。下着の色を大声で指摘してきた時も、その声に聞き覚えがあるとは思った。
だが、まさか本当に……。
「行くよ! 浅倉!」
「うん!」
二人は即座に背中を向け、別の車両へ逃げようとしていた。
相手が仕事で一緒になった人物であり、地方行政に関わる立場ある人間であることも、今の二人にはどうでもいい。
一緒にいたくなかった。同じ車両で過ごすなど真っ平だった。
二人の中で、彼ら四人は性犯罪者として決定していた。盗撮狙い、セクハラな言動、風を利用して下着を見ようとする手口。そんなことを目論む天敵として、もはや身の安全を優先すべき対象だった。
「おおっと! 逃がさないよ!」
「せっかくなんだ! 楽しもうよ!」
愛野が、土良井が、真正面に回り込む。
透と円香は前後を塞がれ、囲まれた形となり、いとも簡単に逃げ場を失った。
「何なんですか! もう放っておいて下さい!」
円香は叫ぶ。
「これ以上は警察に言いますよ!」
透までもが声を荒げた。
二人して、四人組を完全に敵視していた。
「おいおい、随分なことを言うじゃねぇか」
そこへ強面の火亜がずかずかと迫っていき、二人はさっと離れようと動くのだが、前にも後ろにも道はない。他に行き先もなく、窓際に引っ込むことしかできなかった。
「来ないで!」
透が叫ぶ。
だが、火亜は透の手首を掴み、窓際へと押しつけて、力尽くで動きを封じる。その隣では円香も同じく、津馬によって封じられ、二人して両手が壁に封印される。
「やめて! 何するの!」
円香は一心不乱に喚いていた。
「ほーら! 撮っちゃうぞー!」
「ほれほれー!」
そんな二人に対して、愛野と土良井は一緒になってスマートフォンを取り出していた。スカートの中身を撮ってやろうと、しゃがみ込むなり差し込んで、がむしゃらにシャッターを押し始める。
「やめて! 何してるの!」
透が喚く。
二人は必死にもがいていた。
壁に押しつけられた両手には、男の力を押し返そうと腕力がしきりに籠もり、しかし押し返せるはずもなく、ただ無意味な力の強弱だけがつき続ける。スマートフォンによる撮影を阻止しようと、無我夢中で脚を締め付け、膝を振り回して足掻いている。
「誰か! 誰か来て下さい!」
円香はとうとう助けまで求めるが、その瞬間に愛野は言う。
「ざんねーん! 私達しかいませーん!」
愛野が元気そうに楽しげに伝えてくる言葉は、二人にとって絶望をもたらすものだ。
「あんまり騒がない方がいいよ? いや、騒いでもいいけどね? ほら、二人はアイドルでしょ? こういうの、まずいんじゃないかなーって、思ってさ」
土良井は嬉々としてスマートフォンの画面を弄り、表示した画像を本人に見せつける。
「やっ……!」
透は勢いよく目を逸らした。
それは天守閣の外で撮影した際の、スカートが大胆に捲れ上がった写真であった。下着が丸見えになった瞬間の、随分と大きく目を丸め、動揺している自分自身の表情がそこには写し出されていた。
「やっぱり! アンタ達は!」
敵意を剥き出す円香に対し、土良井は別の画像を表示して突きつける。
「……っ!」
見せつけられた円香は、同じく天守閣での丸見え画像から目を背けた。
*
二人は力尽くの拘束を受けながら、並び立たされていた。
拘束具があるわけではない。
腕力のある男の手で、腰の後ろに両手を回され、身動きを封じられている。腕と握力だけを駆使した拘束だが、さながら手錠がかかったように動けない。
そんな形で円香は火亜が、透は津馬が捕らえている。
「最低……」
円香は小さくぼやいていた。
二人が受ける拘束は、単に身動きを封じただけではない。腰の後ろに両手を回させられていることで、必然的に膨らみに手が当たる。接触を拒否せんばかりに、透も円香も握り拳を固めているが、当たってくることは避けられない。
接触した部分で皮膚が泡立ち、ぞわぞわとした怖気で細胞が震えている。
火亜も津馬も、何とペニスを露出しているのだ。
チャックを下げて中身を取り出し、勃起した逸物を押しつけんばかりにしてきている。剥き出しのそれが拳に当たり、皮膚が汚染されるかのようなおぞましさに、二人の額には冷や汗が噴き出していた。
「ははっ、可愛いねぇ? お二人とも」
愛野が嬉しそうに笑っている。
「やっぱり、アイドルは素敵だよ」
土良井も同じく嬉々としていた。
そんな愛野と土良井もまた、おもむろにズボンを弄り、チャックを下げて逸物を外気に晒す。肉棒を視界に入れることを拒んだ二人は、一緒になって目を瞑り、顔まで横に背けていた。
愛野は円香に迫る。
土良井は透に迫る。
「そーれそれそれ!」
「ほれ! ほれ! ほれ!」
二人して、腰を前後に振るような真似をしながら、亀頭をスカートになすりつけていた。さらには肉棒で捲ってみようとしてみたり、丈から見える太ももにくっつける真似をして、悪戯を楽しんでいる。
「いや! 気持ち悪い!」
透は激しく顔を振り、必死になって拒んでいた。
「やめて! こんなの犯罪だから! いい加減にして!」
円香も必死に喚き散らした。
しかし、それで止まる四人ではない。
「そら、捲っちゃうぞー?」
愛野は楽しそうにスカート丈を持ち上げる。
「こっちも、ほーら!」
土良井も透のスカートを捲り上げ、一緒になってショーツを確かめる。
円香のピンク、透のクリーム色が同時にあらわとなっていた。
「へえ? 円香ちゃんのパンツはやっぱりエッチだ! 透けた部分のさ、裏側に何かもう一枚布があるよね? ローライズ? 紐パン? なんか二重になってるねぇ?」
愛野は円香のショーツについて語り始める。
「こっちもカラフルなお花が可愛いよ? ああでも、ちょっと雨で濡れてるねぇ? せっかくの色が暗くなっちゃったぁ?」
土良井も透のショーツを語り、ニヤニヤと視姦する。
「いやっ」
「やめて!」
赤らんだ顔で二人は喚く。
だが、その喚き散らす声を塞ぐため、愛野と土良井はおもむろに立ち上がり、その両手で頬を包み込むなりキスをしていた。
「んん!」
「んんん!」
二人は壮絶な顔をしていた。
こんな形での口づけに喜びなどあろうはずもなく、全身の細胞が震えていた。気持ち悪さに悲鳴が出そうになっていながら、唇が重なっているせいで、絶叫らしい絶叫は上がらない。
しかし、表情では確実に叫んでいた。
重ねるだけに飽き足らず、愛野と土良井は大口を開けて貪った。舌までねじ込もうと力を込めるが、二人はそれを拒んで必死に歯を食い縛る。唇を結び、舌の侵入だけでは頑として阻止しようと、顔を左右に振ろうとさえしていた。
首を振り、キスを妨害しようとしていた。
だが、両手で頬を包まれて、その挟んでくる力に固定され、透も円香も顔を左右に向けられない。
二人して、目も瞑っていた。
まぶたに強い力が籠もるあまり、目の周りが歪んでいる。歯を食い縛るための力で、顎も震えて強張っている。頬の固くなった表情で、悲痛なものを浮かべながら、体中から拒否反応を放っていた。
「美味しいなぁ? 円香ちゃんの唇は」
「透ちゃんの唇も最高だよぉ?」
ベロベロと舐め回し、丹念に味わっている。
口の周りが唾液に濡らされ、二人が放つ拒否反応はますます強いものになっていく。拒絶の意思を必死に放ち、その信号が体中から解き放たれている。
「可愛いなぁ?」
「ますます虐めたくなっちゃうね!」
しかし、愛野と土良井はそれを可愛いものとして捉え、ますます興奮している始末である。
『この電車は強風のため徐行運転となります。お急ぎのお客様には――――』
二人に絶望をもたらすアナウンスだった。
気づけば雨も強くなり、激しい雨粒が窓にぶつかり大きな音を立てている。耳には強い風の音も聞こえてくる。
キスをするほどの距離感である。
そこまで身体が接近すれば、露出しているペニスも当たって来る。愛野と土良井は亀頭や竿を擦り付けることも意識して、腰を微妙に上下左右に、肉棒を駆使してスカートの生地の素材を味わおうとしている。
後ろからも唇は迫った。
ふぅー……。
息を吹きかけられる。
生温かい息が耳の裏側に触れた時、細胞が悲鳴を上げていた。
「…………っ!?」
透がますます壮絶な顔をする。
「――――っ!?」
円香が放つ拒否反応も、まるでゴキブリやナメクジに触ってしまった瞬間のような、不快感の強い生物に対する表情そのものだった。
耳の裏を舐められながら、唇も貪られる。
唾液が塗られれば塗られるほど、おぞましさのあまりに細胞に腐食が広がるような感覚を覚えている。ゴキブリを磨り潰した汁、ナメクジの体液、およそ気持ち悪いとすべき液体を塗られているのと同等かそれ以上の怖気を二人して感じている。
もはや地獄の我慢大会だ。
気持ち悪さだけで涙が出て、耐えきれずに逃げたくなる。そんな拷問じみた不快感の中に立たされて、二人には逃げるという道がない。少女一人に対して大人の男が二人がかり、逃げようなどない。
「それにしても、透けちゃってるねぇ?」
愛野が唇を離すと、円香の胸をジロジロと眺め始める。
「二人ともキャミはピンクなんだねぇ?」
土良井も大喜びで胸を視姦していた。
そのキャミソールも生地が厚いわけではなく、雨水を吸い込めば中のブラジャーを透かしてしまう。
まず二人とも、肩紐を透かしていた。
内側の肌色が見えるワイシャツから、キャミソールの紐と共にブラジャーの紐も肩を通って、二本の紐が同時に見える。細い紐同士が綺麗に重なり合うはずもなく、角度のずれたそれらは形さえ浮き出ている。
水分で衣類が肌に張りつくため、ワイシャツの中身は形が浮かびやすくなっていた。
さらに円香の場合、下着がピンク色であるために、それがキャミソールのピンクと重なることで、色合いを濃くしていた。
透の場合、黄色じみた白の上からキャミソールが重なると、ピンクとクリーム色の組み合わせで、ブラジャーの領域はやや肌色じみていた。
その濡れ透けを愛野と土良井はしばし視姦し、スマートフォンで撮影する。
そして、愛野と土良井は次にシャツのボタンに手をかけた。
「これ以上は……本当に警察に……」
円香はなおも抗議の目を向けるが、それに対して愛野は言う。
「なら、破っちゃおうかなー。いや、ハサミもあったか。ほら、後で着替えられなくなっちゃうよ?」
ニッタリとした顔だった。
二人に対して四人がかり、力ずくで押さえ込まれれば抵抗してもしきれない。少女二人をどうとでもできる自分達の優位を確信しきり、少し脅せばそれが通ることをわかっている顔だった。
ボタンが一つずつ外されていく。
「やっ、やだ…………」
透の力ない声も、土良井には届かない。
すぐに全てのボタンが外れきり、二人のブラジャーがあらわになると、愛野と土良井はすぐさまスマートフォンを取り出した。
撮影を開始していた。
彼らはシャッター音声をオフに出来るアプリを使っているが、今はわざわざアプリを切り、あえて音声を鳴らしている。自分は胸を撮られていると、そんな実感を与えようと、好きなだけ撮影音を聞かせているのだ。
「とっ、撮らないで……! 下さい……!」
「だめだめ、撮影中だよ!」
透の精一杯の声に対して、土良井はさも仕事中にふざけないで欲しいかのように言う。
シャッター音声が鳴るたびに、二人は苦悶を浮かべていた。苦痛でも与えられたかのように、頬や眉をぴくりと弾ませ、顔だけでも映されまいと必死になって背けている。ただ横を向き、窓の外に視線をやるためだけに、もはや命を賭けている勢いだ。
アイドルだからまずいのは当然だ。
しかし、こんな被害に遭った上、顔まで撮られたい女性など、そもそもいるはずがなかった。
「じゃじゃーん!」
さらに愛野はハサミを取り出す。
「やだ…………!」
円香は戦慄していた。
それで刺したり、切りつけたり、外傷を与える目的などないことはわかっている。ここまで痴漢目的で好き放題にしてきた愛野なら、ハサミの用途など自然と想像がつく。
かといって、刃物を近づけられて、ちっとも恐怖が湧かないわけでもない。
愛野はブラジャーを切ろうとしていた。
邪魔なキャミソールもろとも二つに裂いて、下から上へとだんだんと切れ込みが伸びるにつれ、まずは一枚目が二つに分かれる。内側から現れたブラジャーにもハサミが入り、そして乳房があらわとなった。
「いやぁぁ…………!」
それは恥ずかしさによる苦悶であった。
生の乳房を見られてしまい、ブラジャーを撮られる以上の羞恥心が込み上げて、悲痛な表情を浮かべていた。
「ひ、樋口……!」
隣でそれを見ている透も気が気でない。
人の心配をしているうちに、愛野から土良井へとハサミが渡り、次は自分がこうなるのだと悟った時、透は改めて窓の向こうに視線をやる。せめて目を合わせたくないように、必死になって窓にぶつかる激しい雨粒を観察していると、すぐにキャミソールが二つに分かれた。
ブラジャーの下にハサミが入り、肌に金属が触れたことで、透は全身を緊張させる。
「…………っ」
頬も引き攣らせ、次の瞬間にはじょきりと裂かれる。
まるでフロントホックのブラジャーだったかのように、二人の乳房は外気に晒され、愛野と土良井の前に乳首をあらわとするのであった。
じゅぶっ、じゅる! じゅぶるぅぅぅ!
それは唾液の音だった。
愛野が、土良井が、円香と透の乳房にそれぞれ吸いつき、一生懸命になって乳首を吸い、ベロベロと舐め回す。
(やぁぁぁぁ! 無理! 無理無理無理!)
円香は壮絶な顔をする。
(いやっ、やだ! やだやだやだやだ!)
透の壮絶さも負けてはいない。
キスで唇の周りを濡らされ、耳裏に唾液を塗られる嫌悪感も相当なものだったが、乳房というより一層のプライベートゾーンを好き放題にされるのは、さらなるものを膨らませる。
乳首は両方とも唾液濡れだった。
衣服を濡らした雨水は、もちろん皮膚にも届いていたが、それ以上に唾液こそがヌラヌラとした光沢を与え、乳首を両方とも輝かせる。
「ちゅぱっ、ちゅぱっ」
咥えては離し、咥えては離し、舌先でチロチロ虐め、中年の汚い唾液の糸が引く。
「美味しいよママぁ!」
土良井の甘えきった猫なで声は、悪ふざけのノリだったが、そんなことは関係無い。
ぞぉぉぉぉぉぉぉ……!
透の肌中がざわついた。これでもかというほど鳥肌が広がり、全細胞が悲鳴と共にざわめきながら、全身が泡立っていた。
(き、キモすぎる…………)
自分が言われたわけでなく、透が言われるのを隣で聞いていただけで、円香でさえも耳が腐り落ちるような嫌悪を覚えていた。
(こんな下らなくてキモイ奴なんかに……)
円香にとって、この四人全員が、既に虫以下の存在だ。地べたを這いずる哀れな死にかけの虫と見做して、心の底から見下しながら侮蔑の視線を送ってやる。そうすべき対象に、しかし今は好き放題にされている。
しかも、気持ち良かった。
(なんで……こんなのに…………)
ベロベロと舐められると、生理的な反応によって性感が起動して、性的な快楽が発生する。腹の底では気持ち悪いとばかり感じているのに、どうして少しでも快感が生まれ、少しでも感じなくてはいけないのかがわからない。
(キモい……キモいのにぃ……!)
透の心も同じ悲鳴を上げていた。
気持ち悪い……それは間違いなく感じている。汚物を肌に塗られているほどの拒否感は確かにある。それでいて気持ちいいという矛盾に苛まれ、壮絶な苦悶を浮かべていた。
「おい、そろそろ俺らにも遊ばせろ?」
不意に火亜が言い出した。
「そうそう。俺らにも回せっての」
と、津馬も言う。
まるで玩具の貸し借りのような言い草に、それが二人の屈辱をますます煽る。
そして、二人は体勢を変えさせられた。
「ほーれ! バック挿入だ!」
「入っちゃうぞー? 入っちゃうぞー?」
火亜が、津馬が、ふざけていた。
本当の挿入はしていない。尻にペニスをぶつけながら、腰を振ってやることで、彼らがしていることはセックスごっこだ。
(やだ……! やだ……やだ、やだ……!)
透の顔に悲鳴が浮かぶ。
二人が取らされた体勢は、座席に体を突くことで、尻を後方に突き出すものだ。しかも座席には愛野と土良井が座っており、さながら股間に顔を埋めようとするような状態にさせられている。もしも挿入していれば、前の口と後ろの口で二穴同時攻めだった。
尻の割れ目に沿って、それぞれにペニスの竿が乗っている。
クリーム色のショーツに、ピンク色のショーツに、腰を振りたくってくる火亜と津馬の肉棒が擦れている。彼らはこの摩擦から、ショーツの素材とその内側にある尻の感触を股間で味わっていた。
そのセックスごっこにより、身体が前後に揺らされる。
(キモい! 無理! 無理無理無理!)
円香は自分の眼球を押し潰す勢いで目を閉じて、全身から拒否信号を放っている。股に顔をくっつけさせられ、そんな状態で身体が揺らされれば、ペニスに向かって頬ずりするかのように擦れて当たる。鼻や唇も、しきりに擦れて接触する。
(もうやだ! なんで! なんでこんな!)
透も同じように目を瞑り、その力強く閉ざしたまぶたから、涙の滴を浮かべつつあった。
「いいケツしてんじゃねぇか! ええ? 円香ちゃんよォ!」
火亜は大いにテンションを上げ、尻たぶを掴んで撫で回す。手の平を駆使してショーツの繊維を存分に味わい尽くし、さらには平手打ちまでかまし始める。
ぺん! ぺん! ぺん!
何も悪いことをしていないのに、子供の体罰のような真似をされ、円香はより一層の激しい苦悶を浮かべた。痛みを与える目的ではない、さほど強い力もかかっていない平手打ちだが、恥辱を煽るには十分だった。
「へへっ、俺もやってみるか」
津馬は隣を真似したくなったかのように腕を振り上げ、透の尻も叩かれ始める。
ぺん! ぺん! ぺん!
ぺん! ぺん! ぺん!
二人の尻が叩かれていた。
愛野と土良井は、それら尻の打たれる様子を撮るために、片手でスマートフォンを操作しながら動画撮影を開始する。
もちろん、もう片方の手では頭を押さえ、二人それぞれの顔が自分のペニスから離れないように、逃げないように力を込めている。逃げようとする力を感じれば、それ以上の力で握力を込めたり、押さえ込むなどして、顔とペニスの接触を保ち続けた。
(なんで……なんで…………!)
透はもう泣き出している。
目尻から溢れた滴は、やがて頬から流れ落ち、涙の筋が出来上がっていた。
*
悪ふざけの内容は移り変わる。
彼ら四人にとっては、はしゃいでふざけて騒ぐノリであっても、円香と透が味わう屈辱は想像を絶するものだ。
「ほらほらほらほら!」
火亜と津馬により、身体が持ち上げられていた。
赤ん坊を抱えるようにしたM字開脚で、二人はショーツ越しのアソコを嫌でも見せびらかす形とされ、愛野と土良井によってスマートフォンを向けられる。執拗なまでにパシャパシャと、シャッター音声を鳴らし続けて、その音が透と円香を苛んでいた。
「へっへっへっ、気持ち良くしてあげるよぉ」
愛野はニヤニヤしながら円香のアソコに触り始める。
「いっぱい感じていいんだよぉ?」
土良井も透のアソコを触り始める。
ショーツ越しの摩擦によって、指と繊維による摩擦の音が鳴り、二人のワレメには愛撫による刺激が与えられる。
「ふざけないで! 気持ち良くなんてなるわけないでしょ!」
円香はほとんど金切り声を上げていた。
感じるわけがないからやめて欲しい、そんな意図が存分に込められていたが、彼らがそれを汲み取るはずもない。
「いや! いやだ! もうやめて! お願い!」
透も喚く。
しかし、上がりに上がったテンションで、土良井は鼻息を荒くしながら擦り続ける。透の叫びなど聞こえてすらいないように、爪や指腹で刺激を与えた。
最悪なことに、二人は感じていた。
(なんで……! なんで、なんで!?)
透はその事実に動揺している。
乳首を舐められた時もそうだったが、肌中が気持ち悪さを感じているはずなのだ。今も細胞が拒否反応を起こし、体中の神経に嫌悪感の信号を走らせている。触れられた部分から腐食が広がるようなおぞましさに、肌という肌が泡立っている。
どうして性的な快感が少しでもあるのか、まるで理解できなかった。
愛撫を受けるうち、二人のアソコは徐々に愛液を漏らし始める。最初は水分の気配だけを醸し出し、雨で濡れていたせいで膣分泌液の感触はわかりにくい。もう少し量が増え、ほんの少しでも糸が引くようになってから、愛野と土良井はようやく濡れ具合に気づき始める。
「いいねぇ! 感じてくれて嬉しいよぉ!」
「僕も僕も!」
そして、しっかりとした染みが出来上がる。
ワレメのラインに沿って滲み出た愛液は、ショーツに水分を浮かべるにつれ、楕円形の染みを作り上げる。
愛野は、土良井は、濡れた記念に一枚撮った。
スマートフォンの画面の中に、愛液で湿ったアソコは大きく映り、それを一緒になって本人に見せつける。
二人は赤らみながら顔を背けた。
(もうやだ! なんでこんな目に!)
さらには電気マッサージ器を持ち出していた。
愛野が、土良井が、その棒状の器具の先端部を押し当てる。先端の丸いマッサージ器は、スイッチを入れると振動して、それがアソコに刺激を与える。
「んんぅぅぅぅ……!」
「やぁぁぁぁ……!」
その快感に、むしろ上げるのは悲鳴であった。
こんな連中に、こんなにも惨めな思いをさせられながら、快感まで与えられる。その状況に喜びの声など上がらない。無理にでも感じさせられ、強制的な快楽に体中が震えることで、悲痛な表情を浮かべていた。
「やめて! お願いやめて!」
透は必死に首を振り、嫌だ嫌だと訴えながら髪を激しく振り乱す。
「いい加減にして! やめてってば!」
円香も同じように叫んでいた。
だが、四人の男達全員が、そんな悲鳴や嫌がる様子を可愛いものと認識している。かえってテンションの上がる反応であり、泣き叫ぶ様子にニヤニヤしている。
二人のアソコに何かが溜まっていた。
振動が膣内にまで伝わって、内側の肉が鳴動する。ちょうどクリトリスの位置だったせいもあり、敏感な肉芽がみるみるうちに突起して、愛液の分泌量を増やしていく。
何かの弾ける予感があった。
見えない何かが急速に膨らんで、風船が破裂する直前のように大きくなる。
「あぁぁ――――――」
「いやぁぁ――――――」
二人は絶頂していた。
ビクンと、大きく脚を跳ね上げて、次の瞬間にはじわりと愛液を滲ませる。細い楕円形だったショーツの濡れは、見るからに染みの面積を広げていた。
「ははははっ! イっちゃったねぇ?」
「イったイった! 気持ち良かったねぇ?」
愛野と土良井が嬉々として煽る。
「やだ……もうやだ…………」
「もう帰りたい…………」
恥辱に濡れ、二人は俯く。
「遠慮しないの! もっといっぱいイカせてあげるから!」
「さあさあ遠慮なく!」
二人は何度も執拗にイカされた。
電気マッサージ器の威力があれば、簡単によがってイキ散らすとわかってから、まるで玩具の反応を楽しむように、何度もクリトリスに当て直す。ビクビクと脚が跳ねるたび、四人揃ってはしゃいでいる。
ショーツの濡れはクロッチからさらに広がり、もはやフロント全体が愛液を吸い込んでいた。
下着の内側では、敏感な肉芽は腫れるかのように大きくなり、濡れすぎた布地は単に愛液を吸水するだけではない。吸水の限界を迎え、なおも愛液が増え続けることで、表面をヌルヌルとした粘液でコーティングしたようになっていた。
電気マッサージ器の先端と、アソコとのあいだで糸が引く。
愛野と土良井は、ここまでイカせ、濡らせてやった記念に、またもスマートフォンによる撮影を繰り返した。
*
火亜が円香で、津馬が透で遊んでいる。
座席に顔を埋めさせて、またしても尻を突き出すポーズを取らせ、一緒になって縦横無尽に撫で回す。手の平で尻の感触をよく味わい、おまけに津馬は舐め始めた。
ねろぉぉぉぉ…………。
と、唾液をたっぷりと纏った舌は、パンティラインに沿って斜めに直進する。ゴムと皮膚の両方に舌先が触れ、だから半分の唾液は吸水される一方で、もう半分の唾液は皮膚に直接塗られていく。
「いやぁぁぁ………………!」
透は悲痛な声を上げ、肌を泡立たせていた。
津馬も同じくライン沿いに舐め始め、その気持ち悪さに円香は全身を震わせる。先ほどはイカされることでビクっと弾んだ二人だが、今は純粋な嫌悪感だけでブルっと震え、怖気を感じているのだった。
二人の尻に唾液が擦り込まれる。
透は涙を流し、円香は必死に耐え忍ぶ。
ほとんど拷問に耐える思いで、二人は地獄の時間を過ごしていた。尻を存分に撫で回し、舐め尽くしてくる彼らに対して、耐えることしかできなかった。
そして、二人のショーツがずらされる。
尻たぶの片方が出るように、割れ目の内側にゴムが入ったと思いきや、円香に対する火亜と、透に対する津馬で、隙間にペニスをねじ込み始める。
ゾクゥゥゥゥ…………!
背筋全体に寒気が走る。
ペニスが触れてくることへの嫌悪感で、全身の細胞が騒いでいた。
「へへっ、楽しませてもらうぜぇ?」
「ま、悪く思うなよ」
火亜と津馬が行うのは、ショーツと尻のあいだに差し込んで、そこでペニスをしごく行為であった。パンツコキとも、尻コキとも言える方法で、二人の尻の割れ目に沿って、それぞれの肉棒が前後していた。
肉槍がショーツを内側から突き上げて、その瞬間だけ亀頭の形に沿って布は膨らむ。ピストン運動の流れで引っ込むと、突っ張った直後の布はたるんでしまう。
円香は強く歯を食い縛り、透は顔を座席のシートに埋め込んでいた。
必死に耐えていた。
抵抗して暴れても、力ずくで押さえ込まれるのは目に見えている中、愛野がハサミまで所持していたことへの恐怖もある。ただただ必死に耐え忍び、地獄が過ぎ去るまで辛抱強く待ち続けることしかできずにいた。
火亜と津馬が射精する。
(うぅぅぅ……!)
円香が引き攣る。
(気持ち悪い! 無理!)
透が悲痛な顔をする。
愛液ではフロント側しか濡れておらず、雨によっても少しばかりしっとりとした程度であった。そこに大量の精液が吐き出され、尻の表面をドロドロに穢されたことにより、ショーツがいとも簡単に粘液にまみれていた。
肉棒が抜けた時、ショーツは一瞬にして吸水量の限界を迎え、布に吸いきれない分を表面に滲ませる。ねっとりとしたコーティングを帯びて、白濁は表面に染み出ていた。
「お? 我々もドピュっといきたいですなぁ?」
「いっちゃいましょうかぁ!」
愛野が円香を抱きすくめ、土良井も透に腕を回し、力ずくで強引に押し倒す。二人は並んで床に寝かされ、今後は前側に肉棒をねじ込まれた。
性器のワレメと、ショーツの布と、そのあいだに肉棒は挟まった。
そして、仰向けで脚を開いた正常位じみた体勢で、尻が床につくせいで、皮膚には先ほどの精液がますます染み込む。肉棒が触れてくる気持ち悪さと、にじゅりと粘液の音が立つことへの嫌悪感で、耐えがたいものが二人を包み込む。
愛野と土良井は楽しい遊びのように腰を振り、性器に肉棒をなすりつける行為を満喫した。
ピストンを行えば、愛液のおかげで表面をぬるりと滑る。執拗な摩擦を与えていると、肉棒との隙間でそれは泡立つ。徐々に射精感を高めたところで、一緒になってショーツの内側に射精して、二人の下着はますます精液濡れとなっていた。
(無理……気持ち悪いよ……)
透は悲痛の眼差しを浮かべる。
(こいつら……早く死んでよ……)
円香は呪いさえ胸に抱いた。
男達四人はその後も辱めを繰り返し、わざわざ円香の手に握らせて射精した。透の胴体に跨がって、パイズリしながら射精した。亀頭の周りに残ったヌルヌルとした汚れを拭き取るために、ワイシャツやスカートを利用した。
そして、記念撮影も忘れない。
円香の頬に二本の肉棒を押しつけて、亀頭でほっぺをぷにりとした写真を撮る。ショーツをずらし、肛門を撮って本人に見せつける。しまいにはスカートを脱がせ、ショーツも膝まで下げた上、全裸同然の写真まで撮り始めた。
「はい! チーズ!」
と、男だけは笑顔でピースサインを作っての撮影で、土良井と津馬が二人して透を立たせ、それぞれの腕を回していた。恥じらいもなくペニスを露出し、乳房もアソコも丸見えの透を真ん中に立たせての記念写真は、彼らの中ではかげがえのない宝物となる。
似たような撮影を円香によっても行った。
円香が真ん中に、腰と肩には愛野に火亜の腕が回って、両側だけは楽しそうにピースをする。円香は暗い面持ちで俯き気味だった。
やっと解放される頃には下着がドロドロだった。
もはや、ドロっとした粘液の中に浸して取り出した直後のように、精液をまんべんなく吸水しきって、本当にベトベトのものを穿かされた。ワイシャツやスカートのところどころにも精液が染み込んで、そんな二人を残して停車駅を降りる四人は、とてもとても満足そうにしているのだった。
今日、プロデューサーが迎えに来る。
彼に心配はかけたくない。
二人はどうにか立ち直ったフリをして、一生懸命の笑顔で出迎える。プロデューサーはそこに違和感を覚え、何かあるなら相談でもしてもらおうと、踏み込むきっかけを探っていたが、二人はそれをかわし続けた。
あんな出来事を言えるはずがなかった。
二人一緒に、あの過去は記憶の奥底に封印しようと約束して……。
それから、数日後。
二人のスマートフォンにとある動画のリンクが届く。
それを見た透は、円香は、あの日の恥辱を思い出し、顔面蒼白になっていた。
「透と円香のイタズラ観光ガイド!?」
URLの真上には、そんな題名のようなテキストが添えられている。
リンクの末尾がmp4であることから、きっと動画が流れるのだと予感しながら、二人は恐る恐るそれを見た。
スパッツの逆さ撮りが映っていた。卓球をしていた際のブラジャーがばっちりと映っていた。天守閣でショーツがもろに見える瞬間が映っていた。
いや、それどころではない。
URLは複数あるのだ。
もう一つの動画を開いた時、そこに映っていたのは自然公園のアスレチックでジャングルジムに登っていた際のスカートだ。
あの時、周りには誰もいないと思っていた。
それが知らないうちに盗撮され、無防備な尻がチラチラと見えている。望遠カメラでもあったのか、よじ登っている最中のスカートが風に揺れ、尻の端っこが見え隠れするシーンが延々と流されていた。
二つ目の動画は主に公園内での出来事が中心で、坂道を上がっていき、山頂に辿り着いた瞬間の強風時、スカートが派手に捲れた瞬間も押さえられている。
そして、最後のリンクを開いてみれば、電車内での出来事が流れて来る。透けブラ、逆さ撮り、痴漢行為の数々に加え、ペニスを両側から頬に押しつけ、記念撮影を行った際の自分自身の顔さえ拝む羽目になる。
――誰かに言ったら、分かってるよね?
最後の一文が恐怖を煽る。
脅迫めいた言葉の上に、添付画像まで付いていたのだ。
それは更衣室で着替えている際の盗撮写真だった。
もうとっくに旅館を後にして、別の現場で着替えた際の写真である。
彼ら四人は直接姿を見せることなく、影から付け狙った上で、密かに新しい写真を撮っていたのだ。
ならば、今もどこかであの四人は円香と透の二人を探り、ストーキングを行っているのかもしれない。
背筋が凍りついていた。
あんな人達に、ずっと付け回されていなくてはならないのだろうか?
そんな絶望感に包み込まれて、頬には一筋の涙が流れる。
透は、円香は、このことを誰に打ち明けることも出来ず、ただただ必死になって意識の外に追い出して、気にせず普段通りに振る舞うことに命を賭けていた。
あるいはその方がいいのだろう。
人間の犯人なら、警察に行けばそれでも捕まるかもしれない。
だが、二人は想定すらしていない。
彼ら四人の正体も、決して捕まりようのない存在であるという事実も……。
第1話「城の上」
第2話「風の屈辱」
第3話「ささやかなリフレッシュ」
第4話「ジャングルジム」
第5話「痴漢の恥辱」
最終話「イタズラ観光ガイド」
コメント投稿