モスティマのエロマッサージ



     前編

 モスティマはまず警戒しなかった。
 トランスポーターとしての仕事を終え、少しばかりリフレッシュでもと思った時、たまたま評判を聞きつけた店がある。
 マッサージ店だ。
 整体整骨などの医療から、美容エステにかけてまで、多用なマッサージを行う店で、女性にも評判らしい。最初はそこまで興味を持っていなかったが、噂は頭に入っていた。まあ機会があれば、ぐらいには思っていたのだ。
 そして、どこかで楽しんでいこうと街中をふらついていた時、そんな噂の店を見かけたので、気まぐれな好奇心が湧いてきた。
 それも、ちょうど客の女性が出て来るところを目撃してのことで、その女性の肌はツヤツヤで磨きたてのように輝かしく、満足そうな顔をしていた。よほど良いサービスを受けたのだろうと、見ていて感じたのだ。
 あの様子なら、きっと評判に違わぬ店なのだろう。
(ちょーっと気になってきちゃうよねぇ?)
 モスティマは店の看板に目を向ける。
 人気店であれば予約は必須、予約無しでは入れない可能性もあるが、その時はその時で別の店を探せばいい。リフレッシュになりさえすれば何でもいい。美味しいレストランであろうと、面白そうな遊技場であろうと、特にこだわっているわけではない。
(美容に気を遣うほど、恋とか愛とか、そういうことには特に興味を持っていないけどね)
 モスティマは店に近づく。
 自動ドアの中へと進んでみれば、まず真っ先に目につく受付には、綺麗な女性が営業用の笑顔を浮かべていた。
「いらっしゃいませ! ご予約の方でしょうか?」
「いいや? 空いてさえいれば、って感じかなー」
 無理に予約を入れてまで、とは思っていない。
 予約無しでは追い返されるようであったら、素直に背中を向けようと考えていた。
「予約無しですね。現在ですと……あっ、運がよろしいですね。ちょうどキャンセルが入っているので空きが出来ていますよ?」
 受付嬢は置いてあるパソコンを操作して、その画面からマッサージ師の予定を確認していた。
「へえ、もしキャンセルがなかったら、無理そうだったかな」
「そうですね。うちはそれなりの人気店になりますので、ここ数日は予約が埋まっていますよ」
「だったら、幸運を逃す手はなさそうだ。どんなコースがあるか、見せてもらってもいいかな」
「はい、目的によっていくつかコースが分かれています。医療コースの場合は症状に合わせて少し細かく分かれています。美容、リフレッシュについては、部位ごとのコースや全身コースなんかがありますね」
 説明用のシートを取り出し、モスティマに向けて開いてみせる。
「なら、気になるのはリフレッシュコースあたりかなー」
「かしこまりました。リフレッシュコースはストレスケアを兼ねつつ、『快感』さえあれば構わないといった内容になります。美容効果、医療効果などは重視しておりませんが、こちらでよろしいですか?」
「うーん。ま、それでいいかな」
「ご希望によっては複数のコースを組み合わせることも可能ですが」
「いいや、リフレッシュだけで構わないよ」
 肩こりや腰痛の悩みはなく、美容に関する具体的な希望もない。仕事終わりのリフレッシュさえできればと思っていたところ、まさにリフレッシュコースが出て来たのは、モスティマにとってちょうどいいことこの上ない。
 モスティマが具体的に選んだコースは、服の上から揉んで済ませるものだった。
 服を脱ぎ、全身にオイルを塗ってもらうコースもあったが、そこまでするのは少々面倒に思えたのだ。
「かしこまりました。では準備がありますので、呼ばれるまでは待合室の方でお待ちください」
「りょーかい」
 モスティマは専用の待合室に案内され、そこに用意された椅子とテーブルにひとまず落ち着く。施術中の血行を良くするというドリンクをコップで渡されるので、一思いに飲み干したが、どんな成分が入っていたのだろう。
 そして、数分ほど待った。
「何の香りかな? いい匂いだ」
 漂う香りに、モスティマは満足そうに目を細め、鼻孔から吸い上げる。
 テーブルにはアロマポットが置かれていた。
 客の出入りに合わせ、毎回焚いているのだろうか。
「この香りにも効能があるのかな」
 きっと、そうに違いない。
 香りを楽しんでいるうちに、白い施術着の女性がドアをノックしてから現れる。
「お待たせしました。モスティマ様」
 施術着の女性は慣れたように説明を開始する。
「これからマッサージルームへ案内を致しますが、荷物と上着はこちらの部屋に置いて頂くことになります」
 それもそうだ。
 モスティマはフード付きのジャケットを着て、武器となる杖を持ち歩いているが、これらを持ち込むのもおかしいだろう。モスティマは素直に武器を置き、ジャケットをハンガーラックにかけた後、施術着の女性の案内に従ってマッサージルームへ向かう。
 白いシャツと短パンといった装いで施術台に横たわり、仰向けで天井を見上げていると、女性によるマッサージが始まった。
 モスティマは気づいてない。
 女性は密かにほくそ笑み、邪悪なものを浮かべて口角を釣り上げている。企みを帯びた面持ちで身体に手を触れて、まずは手指から揉み始めるが、モスティマはその心地よさに浸るばかりで、女性の顔つきには一向に気づく気配がない。
 モスティマは知らないのだ。
 ここが本当はどんな店か。
 この街に初めて訪れたモスティマには、情報が不足していた。もっと綿密に調べたり、注意深く探っていれば、この店にある本当の噂にも気づいたかもしれないが、しかし何も知ることなく、サービスを受け始めてしまっていた。
 このマッサージルームは個室ではない。
 長い長い、いっそ廊下に近い長方形の部屋構造で、E字のように壁を並べて仕切っている。そこにカーテンをかけることで擬似的な個室にしているが、本当の意味で孤立した部屋ではない。隣接部屋から声が聞こえてきたり、逆にモスティマと女性が会話をすれば、その内容は隣に流れる。
 プライバシーを完全には確保していない。
 そんな店で待っているのは、モスティマに対する極上の羞恥であった。

     *

 心地良い……うっとりする……。
 モスティマはマッサージの快感に浸っていき、まぶたを閉ざしてぼんやりと意識を薄める。眠いわけではないのだが、気持ち良さのあまりにゆったりと、まったりとくつろいでいたくなり、目を瞑ってしまっていた。
 ここにもアロマの香りは漂っている。
 棚には先ほどと同じアロマポットがあり、そこから匂いは広がっていた。
「なかなかいいよ。思った以上だ」
 と、モスティマは言う。
「あら、ありがとうございます」
「噂は誇張されたりするからね。噂そのままに期待する気はなかったけど、期待しても問題はなかったみたいだ」
「そう言って頂けると、マッサージ師として冥利に尽きますね」
 女性が軽く微笑んだ。
 マッサージは手足などの末端に始まって、最初は手指を中心にもみほぐしていた。
(うん、本当に悪くない。来て良かったみたいだ)
 この店が当たりであると確信しながら、うっとりと心地よさに浸っていく。
 眠りにつこうとするように、安らかな表情で目を閉ざし、のんびりとマッサージの感触に意識をやる。
 体に成分が浸透していく。
 事前に飲んだドリンクと、待合室やこの場所にも漂う香りから、体内に入り込んだ成分は、やがて血流に乗って全身を駆け巡る。それらアロマの成分は、胃が吸収したドリンクの成分と合流を果たし、より効果を現していく。
 まだ、モスティマは何も感じていない。
 ただマッサージが気持ち良くて、くつろげる店だと思っているだけだ。
 成分が現す効果について、まだ何も自覚はしていない。
「モスティマ様、少々外させて頂きますね」
 女性が急にこの場を離れ、モスティマは一人取り残される。
(参ったね。放っておかれるとは)
 まあ、すぐに戻ってくるだろう。
 大人しく待っているうち、聞こえてくる足音によって、マッサージ師が戻って来たことを悟るのだが、身体に触れられた瞬間だ。
「……あれ?」
 剥き出しの太ももを手に包まれ、親指による指圧が行われる。その触れてくる手の感触に違和感があり、モスティマは脳裏に疑問符を浮かべていた。
 そこで、尋ねる。
「ひょっとして、他の人に変わったのかな?」
 手の平から伝わる温度も、手の大きさも、先ほどとは別人に思えた。
「ご察しの通り、マッサージ師を交代致しました」
 男の声だった。
「え、男性とは……」
 モスティマは目を開く。
 すると太ももに触っているのは、穏やかな面持ちこそしているが、中年の男性なのだった。男の手で肌に触れられていると知り、何とも言えない顔で引き攣るが、当の中年の方は首を傾げている様子だ。
「おや、どうしました?」
「あ、いや……」
 モスティマは一度誤魔化す。
 だが、たった今までのくつろいだ気分が霧散して、一気に落ち着かない気持ちになる。体中がそわそわして、手足がしきりに動きそうになってくる。無意味な挙動を取ることで、体を落ち着かせたくてたまらなくなっていた。
 男に太ももを触られることには抵抗感があった。
 中年には何の悪気もなさそうな、下心など微塵も持たない顔で触っており、やましい気持ちはなさそうであると否応無しに感じさせられる。目つきにいやらしさのない、ただ客を癒やそうとしているだけの仕事ぶりに、男は嫌だと突っぱねる気持ちが引っ込みそうだ。
(どうしたものかなぁ)
 男性によるマッサージはNGだと伝えれば、店はマッサージ師を女性に戻してくれるかもしれない。
(う、うーん……)
 一度、考え込む。
 こうしているあいだにも、中年の手で太ももは揉まれ続けて、指圧によって筋肉はほぐされている。その技巧は気持ちが良く、手つきそのものは極上だ。ただただ、男であるという事実だけが、それを台無しにしているような、気にしなければ平気なような、どちらとも言えない微妙な気持ちを生み出すのだ。
 こちらは金を払っている。
 思い切って、先ほどの女性に戻して欲しいと伝えてみようか。
 そう口を開きかけた時である。

 さー…………。

 皮膚の表面をなぞられた。
 それは産毛に辛うじて触り、触れるか触れないかといった絶妙なタッチであった。そんな手つきが太ももの表面をなぞっていくと、肌が溶けるかのような快感が筋肉の内側に漂っていた。
(な……! なんだ? この感じは!)
 さしものモスティマも驚いていた。
 気持ちいい、なんてものではない。
 まるで身体の一部が溶け出して、とろりと液体に変わってしまうかのような、本当に極上の快感なのだ。手の平から伝わる魔法で細胞を溶かされて、皮膚と筋肉がむずむずと震えながら変化して、どうにかなってしまったかのようだ。
「どうです? モスティマ様」
「ああ、うん。そうだね、凄く気持ち良くて……驚いているよ…………」
 だが、モスティマは内心で焦っていた。
 マッサージが気持ちいいという、ただそれだけの話なら、この素晴らしい技巧を素直に褒め称え、このまま浸り込んでいたかもしれない。
(ちょっと……これは…………)
 何かを我慢したような表情で、しきりに下の方を気にかける。
 中年の手が触れてくるのは太ももだが、何かのスイッチでも入ったように、もっと別の部分にも快楽を感じていた。

 ――アソコだ。

 ショートパンツの内側で、秘所がきゅぅっと収縮して、急に喜び始めたのだ。滲み出るヨダレが下着に染み込み、ちょっとした楕円を作っていそうな感覚で、モスティマが動揺しているのだった。
(この気持ち良さって……いや、でもどうして…………)
 一体、どうして自分はそういう感じ方をしているのか。
 太ももが気持ち良かった瞬間に、ピリっと電気が弾けたように、何故だかアソコにまで快感が溢れたのだ。
(どういう……ことかな……)
 モスティマは全身に緊張を走らせる。
 今の異常な気持ち良さは、マッサージの気持ち良さには収まらない。もっと違う何かがある。そう思えてならないが、中年がおかしなことをやったとも思えない。おかしいといったら、男性が女性の太ももに触るという点くらいで、手つきそのものは先ほどまでのマッサージと変わらない。
(私が勝手に感じた? いや、でもそんなこと……)
 モスティマにも性的な好奇心くらいはある。
 自慰行為の経験もあるにはあるが、性感帯でもない場所を触られて、それでアソコが反応するなど今まで一度もなかったことだ。
(もしかして……)
 事前に飲んだドリンクと、アロマの香りに疑いが向く。
(でも、店から出て来た客は――)
 モスティマ自身が目撃している。
 満足そうな爽やかな顔で、ウキウキと店を後にする美女の姿に、あの様子なら期待できそうだと自分も店に入ってみることにした。あの偶然の目撃がなければ、モスティマはここには来ていない。
(偶然、かな。あまりおかしかったら、その時に言えばいい、かな……)
 物怖じしたり、萎縮して自分の主張ができない性格はしていない。
 しかし、いくらモスティマでも、太ももへのタッチでアソコが刺激を受けたとは、はっきりとは言い出せない。
(私にだって、羞恥心はあるからね……)
 モスティマは黙って静かにマッサージを受け続けた。
 中年の手がもう片方の太ももに移り、両手によって包み込まれる。心地良い指圧で筋肉を解きほぐし、脚の奥底に潜む疲れの塊が消え去っていくのをモスティマは感じていた。疲れ成分とでも呼ぶべきものが存在して、それが分解されるにつれ、体が元気になっていく感覚があった。
(普通の気持ち良さだね。じゃあ、さっきのは気のせい。というか、偶然というか……)
 あまり考えたくはないが、無意識にいやらしい想像をして、肉体がそういう刺激を欲してしまったのかもしれない。
 黙っていれば、悟られることはないだろう。
 モスティマはそう思い、静かにまぶたを閉じ直す。
(まあ、いいか。男の人の手だろうと、れっきとしたマッサージ師なんだろうし)
 気にしないことに決め、マッサージの技に浸った。
 腹に手の平が置かれ、腕を上手く振るわせることにより、内臓に向けての振動が送り込まれる。ここでも疲れが分解され、内側が元気になっていくような感覚で溢れかえった。臓器に溜まった悪い何かを掻き消して、癒やしてもらっている気にさえなっていた。
 腕は確かに違いないのだ。
 評判通り、本当に気持ちいい。
 このまま気にせずに施術を受ければ、中年の手であろうとリフレッシュになるのだろう。腰のくびれを掴んで揉み、その次には二の腕や肘の周りを、さらに次には肩や鎖骨周辺を揉んでくる。
 それら中年の指遣いで、部位毎に元気を与えてもらううち、モスティマは新しい違和感に気づいていた。

 ……あれ?

 体が熱い。少しばかり汗ばんできた。
 無意識のうちに息が乱れて、熱っぽいものを吐き出していた自分に気づく。瞳も微熱を帯びてきて、まぶたを開けば、とろりと溶けた眼差しが浮かんでいる。
 何よりも、服の内側で乳首が尖っていた。
(な、なんで…………)
 突起した乳首の硬さがブラジャーを押し上げて、カップと乳肌のあいだに微妙な隙間を生み出している。アソコもヒクヒクと疼きだし、もしや愛液が出ているかもしれない。そんな予感とあってはさすがに心身共に固くなり、緊張が蘇る。
 しかも、その時だ。

「なーんかメスの匂いがしねーか?」

 隣室の声だった。
「あら、お客様。女性のマッサージ師も、女性のお客様だって、いくらでもいらっしゃいますよ?」
 隣では男が女にマッサージを受けているらしい。
「そうじゃねぇ、アレだ。ほら、ここではハッキリとは言えない匂い。俺はペッローだろ? 鼻がいいんだよ鼻が」
「あらまあ、いくら嗅覚が優れてましても、それは気のせいでは?」
「いいや、間違いないと思うね。やらしい香りはプンプンしてる。ひょっとして隣じゃねーのか?」
「いけませんよ? お客様」
 隣室の女性は穏やかに客を諫め、他の客をからかうような真似は控えさせようとしているが、それを耳にしているモスティマは完全に引き攣っていた。
(メスの……匂いって…………)
 アソコに意識がいくことで、モスティマは気づいてしまう。

 じわぁ……。

 と、ショーツが濡れていた。
(よ、よくないね。どうしたものかな……これは……)
 濡れたといっても、蒸れた気がする程度である。意識しなければモスティマ自身でも気づかない。そんな程度の愛液でも、嗅覚が優れていれば嗅ぎ取れてしまうらしい。性的興奮の証拠を暴かれたかのようで、羞恥心が込み上げ顔が染まり変わっていく。
「大丈夫ですか? モスティマ様」
 中年が穏やかで落ち着きある顔をしていた。
「え? あっ、ああ、大丈夫とも」
 モスティマは無難に答えるが、中年は既に何かを察しているらしい。不意に顔を近づけて、耳元へ小さな声で囁いてきた。
「ひょっとしたら、ですが。お気になさらず」
「………………」
 言葉が出なかった。
 これでは愛液の存在が中年にまで伝わったことになる。股が濡れたと知られた恥ずかしさに顔面の熱が上がって、今にも表情が歪みそうだ。

     *

 全身が気持ち良かった。
 マッサージが進めば進むほど、ブラジャーの内側で乳首は切なくなっていく。ショーツの中では湿り気が増え、もう濡れた染みが出来上がっているかもしれない。
 モスティマはもはや我慢していた。
 浸ってくつろぐよりも、おかしな感じ方をしていることがバレないように、きゅっと表情を引き締めて、唇も結んで堪えている。
 あまりにも妙だった。
 中年が触ってくる箇所は、内股や肋骨付近を揉む際に、多少は際どくなることもあったが、恥部には一度も触れられていない。
 なのに、どうして普通ではない快感があるのか。
(こ、困ったね……くつろぎに来たはず……なのに…………)
 モスティマは全身をモジモジとさせている。
 落ち着きがなく、体中がそわそわしている。
「メスの香りが強まってるぜ?」
 せっかく我慢していても、壁の向こうからの声に指摘され、モスティマは顔を正反対の方向へと背けていた。右側の壁に視線を突き刺し、桃色に染まり始めた耳を中年に向けた時、耳元に囁く声が降ってくる。
「そういった女性は普通によくいらっしゃいます。どうもこの店は、テクニックがありすぎるみたいなので」
 そう耳打ちしてきた。
「そう、なのか。へえ、それはそれは……」
 何と言ったものかわからない。
 性的なタッチをされたわけではないのに、何故だか愛液が出てしまい、それが中年にも隣室にもバレている状況は居心地が悪い。恥ずかしくて、みっともなかった。
 リフレッシュのはずが、かえって辱めの時間になっている。
 どうして、こうも感じるのか。
 中年の手が内股を揉み始め、アソコとの距離感が際どくなった時、体がビクっと縮んで弾み上がって、ショートパンツの内側がじわりと濡れた。
「なっ、なん……で……」
 モスティマは絶句して、動揺していた。

 今のは絶頂だ。

 イってしまった驚きもさることながら、それだけには留まらない。じわっと、一気に溢れた愛液でショーツが濡れ、とうとうショートパンツにまで水分が浮かび上がった時、なんと次の瞬間には失禁していた。
「あ……あぁ………………」
 最悪、なんてものではない。
 人前で犯す失態として、放尿など度を超している。
 施術台に敷いたシーツには、お漏らしによって生まれる染みが広がり、それを中年が何とも言えない顔で見下ろしてくる。
「おいおい、小便の匂いってそりゃぁ……」
 隣室からも、そんな声が聞こえてくる。
 顔が一気に赤らんだ。
 情けないなんでものではない。幼児期にしか許されない失態をこんな年齢で、しかも人前でしてしまうなど、今ここで人権を失ったも同然である。その焦燥と危機感から、浮かび上がる表情はモスティマらしからぬものだった。
「モスティマ様、まあそうですね。着替えを持って参りましょう」
「そ、そう……だね……助かるな…………」
 精一杯の振る舞いをしてみるが、心の中ではどんな風に思われているか。お漏らしをする客など、店員としてどう感じるか。考えたくもないものが頭に浮かび、モスティマは必死になって思考を逸らす。
「すぐに戻りますので少々お待ちを」
 中年は一旦姿を消し、数分もしないうちに戻って来る。
 だが、中年が持って来たものは着替えではなかった。
「何かな……それは…………」
 モスティマは驚愕していた。
 中年が手にしているのはカメラである。てっきり、何か履き替えるものを持って来るとばかり思っていたら、予想もしないものが出て来た上、中年はそのモニターをモスティマに見せつけてくる。
「……!」
 さらに目を見開いた。
 モスティマ自身がそこには映っていたのだ。
 天井にカメラが仕掛けてあったらしい。そのデータを転送するなりして、今その手にあるカメラの中に動画を収めてある。
 中年はモスティマの顔にモニターを近づけて再生した。
 流れる映像はつい先ほど、モスティマが全身をビクビクと弾ませて、イってしまった上に漏らす瞬間のものだった。腰が弾み上がった直後、シーツには水分の染み広がる円が出来上がり、お漏らしの決定的な証拠を突きつけられた動揺で胸が弾んだ。
「それを……どうする気かな…………」
「いえいえ、特にどうといったことは。ただ、こうして店の備品を汚くされてしまったわけですから、相応のお仕置きをしようかなと」
「お仕置きって……」
「なに、大丈夫ですよ。きちんと気持ち良くして差し上げますから」
 中年はカメラを置き、ショートパンツのベルトに手を伸ばす。脱がされるとわかった途端、モスティマは焦ってその手首を掴み、阻止しようと反射的に抵抗するが、中年はニヤニヤと唱えるのだ。
「お仲間にクレームでも送りましょうか?」
「……!?」
「今はロドスにも籍を置いているのでしたっけ。備品を汚くされたと、証拠と共にクレームを送ることもできるのですが、どうなさいますか?」
「脅迫、ってわけだ」
「念のために言っておきますが、武器もこちらで預かっているわけでして、あまり余計なことは考えない方がよろしいかと」
「……だろうね」
 モスティマは歯を食い縛る。
 ただのマッサージ師の集まりなら、あるいは武器がなくても問題はないだろう。オシッコを漏らしてしまった負い目がある。失禁した上、その失態を隠すために暴れるなど、格好がつかないにもほどがある。
 その上、脅迫材料を握られた。
 抵抗する気力を削り取るには十分だった。
「……好きにすればいいさ」
「では遠慮なく」
 中年に手でベルトを外され、チャックは下ろされる。その隙間から薄水色が見えた時、モスティマの頬はさらに赤らむ。ショートパンツが下へ下へと引きずられ、だんだんと脱がされていく時には、より羞恥心を膨らませていた。
「おや、まあ。こうして見ると、また随分とお濡れになっているようで」
「……っ!」
「見学をご希望のみなさーん! こちらへお集まり下さーい!」
「け、見学!?」
 モスティマは目を丸めた。
「へっ、待ってたぜ。さっきから気になって仕方がなかったんだ」
 その声は隣室から匂いを嗅ぎ、愛液や放尿に気づいてきたペッローの男のものだ。
「では俺も楽しませてもらおうかなぁ?」
「へへっ、これだからこの店はやめられねぇ」
 さらに二人の男の声が聞こえ、カーテンを開けては次々とモスティマの周りに集まってくる。
 モスティマはさすがに悟っていた。

 普通の店じゃなかったとはね……。

 天井にカメラを仕掛けているのも、今の呼び声で客が集まり、モスティマのことを見学しに来る展開も、真っ当な店ならありえない。
 ここは始めから、そういった裏のある店だったのだ。





     中編

 モスティマは開脚していた。
 中年が施術台に上がってきて、モスティマはその両腕によって脚を持ち上げられたのだ。中年の身体を背もたれ代わりに、後ろから膝を抱えられ、大胆なM字が出来上がると、種族様々な男達が一点に視線を集める。
 薄水色のショーツが濡れていた。
 愛液と尿の混じり合った湿りの染みは、シーツにも円を広げて、メスと尿素の香りを漂わせる。
「へぇ、随分と気持ち良くなってるみてーだな」
 犬耳を生やしたペッローの男は、鼻をヒクヒクとさせながら、あからさまに匂いを嗅ぐ。
「お姉さーん。美人だねぇ?」
「エロくていいよ?」
「あ、俺達には見学しか許可されてないから、輪姦とかそういうのは安心していいよ」
 この店にはこの店のルールがあるらしい。
 それに従う客達は、好奇心たっぷりの目でモスティマの股を視姦して、濡れた部分を一心不乱に脳に焼き付けようとしてきている。
「ど、ドリンクとお香が怪しいもんだ……」
 モスティマは目を瞑り、今更になっておかしな点を指摘する。
「もう遅いですよ? モスティマ様」
 中年の声は穏やかで優しい。孫か娘を愛するかのようにさえ聞こえるが、次の瞬間に取る行動は、モスティマのシャツを脱がせようとするものだ。
 両膝から手を離し、M字開脚のポーズからは解放されるが、その代わりに台に跨がる形となって、開脚そのものは続いている。大きく開いた股がシーツに接して、まだ溢れ続ける愛液が染みついていた。
「ほら、バンザイしようか」
「参考までに、断ったらどうなるのか。今のうちに聞いておこうかな」
 モスティマは精一杯に強がっていた。
「もちろん、色んなところに映像が出回るかと。私達はさっさと店を畳んでトンズラできるので、多少の面々は敵に回しても怖くないんですね」
「へえ、それはそれは」
「参考になりましたかな? さあ、脱ぎましょうか」
「…………」
 モスティマは静かに力を抜き、シャツが脱がされていくのに合わせ、だらりとしたバンザイのポーズを取る。
「ひゅー!」
「いいもん着けてるじゃーん?」
 たくし上がっていくシャツから、薄水色のブラジャーが外気に晒され、視姦の圧は強まっていた。
「さあ、次はお背中を見せて下さい」
 中年の身体とモスティマの背中のあいだに隙間が生まれ、ブラジャーのホックに指が来る。次の瞬間にはどうなるか、未来を悟ったモスティマは一瞬先に対する覚悟を決める。
(ま、人生……こういうことも、あるってわけか……)
 心の中ではそう呟き、気丈さを保っているが、こんな展開をちっとも納得してはいない。
 ブラジャーのホックが外れ、乳房に吸着していたカップが緩む。さらに肩紐が一本ずつ下ろされていくことで、乳房とのあいだで隙間が広がり、中身が視線に曝け出されるまで、あと数秒となくなっていた。
 顔が赤らむ。
 込み上がる羞恥心で、自分がどんな表情をしているか、モスティマ自身には想像もつかなくなっていた。
(まったく、こんなことになるなんて……)
 ブラジャーが取り外される。
 同時に、頬が発火でもしたように熱くなり、赤らみは耳まで及んでいた。

「おおっ」
「エロいねぇ?」
「揉んでみてー!」

 丸っこい半球ドームのような乳房に、歓声が集まっていた。
「モスティマ様。あなたを特別ルームへご案内します」
 耳の裏側に唇が近づいて、モスティマはぶるっと震える。
「へ、へえ? どんな待遇があるのかな」
「ここはいずれもマッサージ店。全てのお客様に対して快楽を約束しています。ま、モスティマ様としては、あまり想定していなかった種類の快楽になるとは思いますが」
「それはそれは……」
「さあ、最後の一枚も脱ぎましょう。オシッコが染みついていますからね。しかし、人前でお漏らしをした気分はいかがですか?」
「恥ずかしさで、時間を巻き戻したくなるってところかな……」
 モスティマの心境はまさに言葉通りである。
 時間でも巻き戻して、今の一連の出来事を全てなかったことにしてしまいたい。
 しかし、アーツユニットは手元にないのだ。
「そうだねぇ? 巻き戻したいねぇ?」
「俺だったら情けなさで自殺しちゃうね!」
「で、どうなの? 実際。人前でオシッコしちゃった気分ってのは」
「はははっ、やめてやれよ! 可哀想じゃないか!」
「おおっと、これは失敬!」
 見学者達は完全に馬鹿にして笑っていた。
 これだけの言葉を投げかけられ、屈辱でならなかった。
「モスティマ様。こちらへ」
 施術台を降りるように促され、モスティマは見学者達と対峙する形で直立する。
 その真後ろに中年は立ち、しゃがみ込むなりショーツのゴムに指を差し込む。最後の一枚が下がり始めて、顔からさらに火は噴き出る。
 するすると下がりゆくショーツから、すぐに青色の繁茂が顔を出す。
 当然のようにアソコに視線は殺到して、中年の視線に至っては、至近距離から尻をまじまじと観察している。
(そりゃ死にたくもなるってもんさ……)
 ショーツを脱がされ、丸裸になっての心境はそれだった。
 裸は見世物とされ、見学者達の嬉々とした眼差しに晒されている。自分の肉体が商品にでもされてしまったような、惨めでならない心境に打ちのめされ、モスティマは自然と目を伏せる。
「ではご案内致しましょう。特別ルームへ」
 中年は腰に手を回し、モスティマのエスコートを行った。
 裸で歩かされたのだ。
 カーテンの外へ出た先に、誰がいるわけでもなかったが、普通は服を着て行き来する場所である。こんな場所で自分だけが裸になり、他の周りの男達は全員が服を着ている。その状況が恥辱感を大いに煽り、恥ずかしさで頭の中まで熱くなっていた。

     *

  特別ルームとやらは地下室だった。
 中年のエスコートに従って、モスティマは階段を降りていく。その後ろに見学者達は着いてきて、辿り着いた部屋の中には、中央にぽつんといった具合に、先ほどと似たような施術台が置いてある。
 上の階と違うのは、マッサージを行うだけにしては異常に広い。
 ミニシアターといったところか。
 見学者のために座席が用意されており、その正面には大きなモニターが置かれている。男性が両手を伸ばすよりもなお大きい、数メートルはある画面サイズは、一体どんな用途で設置されているものなのか。
 モスティマにとって、それは想像するまでもない。
 何故なら、施術台のすぐ前には、三脚台のカメラが設置してあり、しかもコードで機材と繋がっている。モスティマがマッサージを受ける様子はリアルタイムで放映され、モニターへの拡大でじっくりとよく見えるというわけだ。
「これはいい趣味だ。本当に、こんな店だとは知らなかったよ」
 モスティマは促されるまま施術台に上がっていく。
 中年はその隣に立った時、まずは集まった男性客への挨拶を開始していた。
「では皆さん。今日の女性はモスティマ様になります。彼女はペンギン急便のトランスポーターであり、近頃ではロドスにも籍を置くオペレーターでもありますが、今日はそんな彼女が私のマッサージを受けて下さいます」
(下さいますって、私はね……)
 好きでここに来たわけではない。
 ただ、武器が手元になく、脅迫材料を握られて、自分一人だけの状況だ。中年を始めとしたマッサージ師の面々に、集まっている客の中に、もしも複数の手練れがいたら、果たして対応できるかどうか。
 逆らう気持ちを削がれているのは、ほとんどがそのせいだ。
 情報がなく、警戒もしていなかったとはいえ、まったく油断もいいところだ。
「さて、まずはこちらをご覧下さい」
 中年は近くのテーブルに置いてあるパソコンから、映像再生の操作を行う。

 モニターに流れるのは絶頂の瞬間だった。

 モスティマ自身も見せられた映像が、先ほどの手持ちカメラとは比べものにならない画面サイズで流れている。腰がビクっと弾み上がって、その次の瞬間には漏れてしまう。ショートパンツのアソコが小便によって色を濃くして、シーツに円の広がる光景は、この場に集まる全員の前で公開された。
 心なしか、先ほどよりも人数が増えている。
「へぇ?」
「お漏らししちゃったかー!」
「ま、安心しなよ姉ちゃん!」
「この店は利尿剤入りの媚薬を使うんだ!」
「そうそう! 利尿剤!」
「よかったなー! 自分の失態じゃなくて!」
 座席に座る種族様々な男達は、口々に囃し立てて盛り上がる。
 自分のお漏らしが公開されたこともさることながら、こうして様々な声をかけられ、観衆に煽られるのは、より大きな恥辱を生み出す。
「ではモスティマ様。まずは四つん這いになって頂きましょうか」
 施術台は座席に対して横向きだ。
 モスティマがポーズを取れば、尻の丸っこいカーブと、そして姿勢のために真下へと垂れ下がる乳房がよく見える。モニターに拡大されていることもあり、乳首の先までくまなく視姦されていた。
「ではまず、先ほどのお漏らしにつきまして、最初にお仕置きをしておきましょう」
 中年が真横につく。
 さながら、これから調理する光景を人に見せてやるかのようだ。
「利尿剤って聞こえたけどな……」
「おやおや、あれは言いがかりというものでは? いずれにせよ、オシッコで備品を濡らした以上は、こうした罰ゲームを受けて頂かなくては困ります」
 その瞬間だ。

 ぺん!

 モスティマは尻を叩かれていた。
 その衝撃に、大きく目を見開いていた。 

 ぺん! ぺん! ぺん!
 ぺん! ぺん! ぺん!

 尻を打たれる微妙な痺れと、ちょっとした赤らみが表皮に溜まる。
(な……! なっ、な……!)
 その仕打ちにモスティマは動揺していた。

 ぺん! ぺん! ぺん!
 ぺん! ぺん! ぺん!

 屈辱的なお仕置きで、尻肉が打ち揺らされている。
「あらまぁ! 幼児期の子供が受けるお仕置きだぜ? それって!」
「どんな気分ですかー?」
「俺達は興奮してるぜ?」
「最高の気分だァ!」
 観衆は盛り上がり、その一方でモスティマの胸には屈辱が膨らみ続ける。

 ぺん! ぺん! ぺん!
 ぺん! ぺん! ぺん!

 その仕打ちに歯を噛み締め、シーツに突き立てた両手には、無意識のうちに強い握力を込めていた。握り絞めたシーツに皺を刻んで、強張った頬には力む余りのプルプルとした振動が見え隠れしていた。
「さて、お仕置きはこのあたりにして、モスティマ様には当店自慢のオイルを使用した最高の施術を受けて頂きます。リフレッシュになること間違いなし! モスティマ様には存分に感じて頂きたいと思います」
(本当に……とんでもない店だ……)
 仰向けの指示を受け、モスティマはシーツに背中を沈めていく。
 その横で瓶を手にした中年は、手の平に透明なオイルを垂らしていた。
 そして、そんな中年の様子を横目で見た時、モニターには天井から見下ろしたような自分自身の映像が映っていた。三脚台のカメラだけでなく、天井にもカメラはあり、二つのカメラが状況に応じて切り替わっているらしい。
 手の平のオイルが腹に乗る。
 ひんやりとした感触が肌に馴染んで、オイルはすぐさまモスティマ自身の体温で温まる。皮膚にオイルが浸透するにつれ、ぬらぬらとした光沢が広がっていた。
 中年はその都度オイルを足していき、手足の末端にかけて塗り伸ばす。腹部の次は太ももに、そこから爪先へ続いていき、最後には指の隙間まで細かく浸透させていく。足裏を揉まれるくすぐったさをひとしきり感じた後、次にオイルが塗られるのは手指であった。
(……とんでもないけど、マッサージを貫くのがこの店の在り方のようだね)
 わかりやすくレイプをしたり、肉体の要求をするというより、マッサージの内容に従わされている。手指が終われば手首へと、肘に二の腕、肩から鎖骨にかけてへと、垂らされたオイルが隙間なく塗り込まれる。
 とうとう乳房のあいだに垂らされる。
 もう次の瞬間には、そこが触られてしまうのだという緊張感に軽く強張る。
(こんな形で触られてしまうとは……我ながら情けない……)
 モスティマの乳房に両手が迫り、中年の手によって触れられる。オイルを伸ばすためのタッチは、表面を軽やかに滑り抜けるものであったが、想像以上の刺激が走り、モスティマは驚きながら肩をモゾモゾと動かした。
(あうぅぅ……こんなに気持ちいいなんて……)
 悔しいが感じてしまう。
 とっくに固くなっていた乳首に指が掠めて、その瞬間に電流が弾けたような快感が迸り、気持ち良さの信号が神経を伝って体中を飛び交った。スイッチでも入ったように、まだ触れられてもいないアソコが汁を出し、ちょっとした光沢を帯びていた。
 中年はそれに気づいてニヤっとする。
「おやまあ、触りもしないうちから愛液が出ていますよ?」
 指摘され、恥ずかしさで顔を歪めた。
「……び、媚薬でも使ったんじゃないのかな?」
「苦しい言い訳ですよ? モスティマ様、あなたがいやらしい体をしているから、既にアソコが濡れているんです」
 穏やかに優しく諭す口調によって、中年は媚薬の事実を認めない。
 モスティマにも確証はない。
 だが、客から聞こえた利尿剤の声といい、服を着ていた時から妙に感じさせられたことといい、思えば違和感がありすぎる。
「さあ、うつ伏せになって下さい?」
 その指示でモスティマは身体の向きを変え、背中と尻を上にする。
 すぐさま背中にオイルが垂らされ、ひんやりとした感触はやはりモスティマ自身の体温に馴染んでいく。肌中を手の平が這い回り、オイルの光沢は広がっていた。
 肘の部分、膝の裏側。
 背中を集中的に撫で回した次には、仰向けの際の塗り残しを潰すため、四肢にオイルを塗り直す。
 こうなると、もう中年の手が触れていない箇所は、もう本当に僅かしか残っていない。このまま全ての肌面積が触られ尽くし、一度も手の当たらずに済む箇所など、たったの一ミリさえも残らないのだろう。
 尻の上にオイルが垂らされる。
 尻たぶに両手が乗り、塗り伸ばすために撫で回され、これでモスティマの全身が光沢を帯び尽くしていた。皮膚にオイルが浸透して、よく湿った表面に光が反射する。胴体から指先まで、余すことなくキラキラとした反射の光を纏った上、オイルのヌメっぽさでどこかヌルヌルとしているのだ。
「はぁ……はっ、はぁ……はぁ……あっ、あぁぁ…………」
 モスティマは完全に息を乱していた。
 胸に触れられたのは、まだオイルを塗る際の一度だけ、あとは尻を揉まれたくらいで、未だ決定的な愛撫はされていない。きちんと乳首を弄り倒したり、アソコを指で虐めるような、れっきとした刺激が何もない。
 それなのに、こうも乱れた息を吐き出している。
(駄目だ……気持ち良すぎる……これでアソコをやられたら、私はどうなってしまうんだろう…………)
「では改めて、四つん這いになって頂きましょう。そうですね、頭はあちらにお願いします」
 中年が出す指示は、モニターに顔を向けながら、客席には尻を向けての四つん這いだ。
 施術台の向きが横なので、身体をそちらに向ければ膝から先がはみ出すが、問題なく四つん這いになれるだけの幅はあるらしい。そうして尻を高らかに、男達の視線を下半身で受け止めると、モスティマは真正面から目を背けた。
 モニターには自分自身の下腹部が映るのだ。
 大きくアップになった尻がオイルで輝き、割れ目に連なりアソコの肉貝さえもが実物以上の大きさに拡大されている。
(もしかして、これって…………)
 嫌な予感がした。
 みんなに見せびらかす形を取らされて、おびただしい数の視線を感じてならない。これだけでも既に十分な恥ずかしさだが、これで済むとも思えない。
 中年の手が両方の尻たぶに乗せられる。
 それがモニターに映ることで、モスティマ自身の目でも確認できる。
 そして、次の瞬間だ。

 ぐにぃ……!

 尻の割れ目が開かれた。
「おうおう! 丸見えだぜ?」
「綺麗なアナルだなぁ?」
「皺の本数が数えられそうなくらい、くっきり映ってるぜぇ?」
 モニターにはでかでかと、実物よりもずっと大きく拡大された肛門が映っていた。自分では見えない場所を拝まされ、そして大きく映っているだけに、いかに視姦されているかを実感できて、脳が蒸発して消えそうなほどの熱い羞恥が込み上げた。
(こ、これは……いくらなんでも、恥ずかしすぎる……!)
 さしものモスティマも苦悶していた。
 モニターから目を背け、見ていられないとばかりにまぶたを閉じる。あらん限りの力を込めて、眼球を圧迫するほどの筋力をかけてまで、モスティマは強く目を閉じていた。
「ほら、モスティマ様? みんながあなたのお尻の穴を見ています」
「だ、だ……だろう……ね…………」
「はははっ、耳まで真っ赤になっていますよ? よっぽどお恥ずかしいのでしょうねぇ?」
「そりゃぁ……人並みの羞恥心くらい……」
「ではこのまま、お尻を中心にやっていきましょう」
 中年はマッサージを開始する。
 オイルを手の平に足しながら、塗りつけんばかりに撫で回す。目を閉ざし、まぶたの裏側だけを見ながらうなだれるモスティマは、自らの視覚を封じていることで、かえって皮膚に意識がいって、触れられる感触を如実に感じ取ってしまう。
 中年はみんなに見せびらかしていた。
 自分の身体が壁になり、邪魔で見えないことがないように、隣り合う位置取りから揉みしだき、丁寧に指圧している。ツボ押しのように指を押し込み、ぐいぐいと痛みを与えるほどの力をかけ、ふと力を抜いたと思えば、表面を軽やかに撫で回す。
 それは『マッサージ』だった。
 場所がお尻であるだけで、施術の意図を感じさせるタッチである。
 だというのに、別の気持ち良さでたまらない。
(うっ、うぁぁ……き、気持ちいい……こんなの……またイってしまうじゃないか……)
 絶頂が時間の問題であることを悟り、モスティマはシーツを握り絞めていた。
 イってしまえば、一体どれだけの言葉を投げかけられ、恥辱を煽られることになるだろう。嬉々とした声かけで、ただイカされる以上の屈辱が待っているのは、もはや目に見えた展開だった。
(ぐぅっ、ううぅぅぅ……い、イったりしたら――――)
 モスティマは股を力ませ、快感を我慢しようと試みる。
 だが、アソコの表面には愛液が滴り溢れ、一度もオイルを塗っていないとは思えないほど、輝かしい光沢を帯びてしまっている。
「アソコに注目して下さい」
 実際に中年が言い出した。
「先ほども言いましたように、性器にはまだオイルを付けていません。なのに、どうしてこんなにヌルヌルなのでしょうね? そうです。それは全て、モスティマ様のエッチな素質によるものなのです」
(なっ、なにをそんな!)
 どうせ媚薬を使っているくせに、モスティマ自身の素質であると言い切られ、その恥辱でより一層の苦悶が浮かぶ。
「おや、そろそろイキそうな気がします。実際にイって頂きましょうか」
 絶頂させるという宣言にモスティマは身構える。
(まさか、私をイカせるなんて、そんなに簡単だっていうのかな……)
 まるで銃口を突きつけられ、死の運命から逃れられなくなったような心境だ。銃弾をかわす能力がなく、ただ脳天に撃ち込まれる瞬間を待つしかない。そんな状況に置かれた気持ちで、モスティマは己の絶頂を待ち構える。
(我慢、できるんだろうか……)
 とても自信が湧いてこない。
 薄々、運命を悟りながらも、モスティマは駄目で元々のつもりで我慢の意識を強めていく。

「ワン!」

 中年はカウントを始めた。
 それと同時である。

 ぺん!

 尻を叩かれていた。
 カウントと共に、その都度叩くつもりらしい。

「ツー!」
 ぺん!

「スリー!」
 ぺん!

 そのスリーと同時に、モスティマは腰をぶるっと震わせていた。見るからに痙攣して、尻を小刻みに振動させた後、ワレメから愛液の糸を伸ばしていた。
「ほーら、イキましたよ?」
 まるでショーだった。
 驚きの瞬間を期待させ、カウントで煽るパフォーマンスに合わせた絶頂で、自分がいかに思い通りにイカされたか、モスティマは心から思い知っていた。
「糸が引いているのがわかりますか?」
 中年が客席に問いかける。
「わかるぜぇ!」
「ぶっとい糸が出てるじゃねーか!」
「モスティマちゃーん! 可愛いイキっぷりだったぜー?」
「そんなに気持ち良かったのかなー?」
 男達からかかってくる声の一つ一つが辱めとなり、モスティマの心を締め上げる。恐る恐る目を開けて、モニターに視線を向けると、自分のアソコからどんな糸が伸びているかが見えてしまった。
 麺類ほどの太さはありそうな、透明な愛液の糸が伸びていた。
 滴の玉が垂れようとしたものの、玉が落ちるというより糸が伸び、重力に従い下へ下へと徐々に長くなっている。伸びるにつれて質量は失われ、最初の太さから段々と、髪の毛ほどもない細さとなり、やがてぷちりと千切れて滴は落下する。
 シーツの上に染みが出来ているのだった。
「はっはっはっは!」
「興奮するぜぇ? お姉ちゃーん!」
「もっとエロいところを見せてくれよー!」
(くっ、くぅ……私がこんな思いをするなんて…………)
 悔しさが溢れ、シーツを握る力により一層の握力が籠もっていく。
「では改めて、仰向けになって頂きましょう」
 中年が行うのは、どこまでも『マッサージ』であった。
 乳房を揉んだり、乳首を弄ったり、果てはクリトリスを触るような、わかりやすい愛撫をしてこない。むしろ、先ほどまで尻に触っていたのが特別だったのか、明確な性感帯は避けてきている。
 乳房にギリギリまで指が近づき、微妙に触れることはあっても、鎖骨や肋骨、脇下の肉をほぐしてばかりで、はっきりとは揉んでこない。アソコの近くにも指は迫るが、内股をもみほぐし、鼠径部をなぞったり、腹を揉むばかりで、ワレメに直接触ることはない。
 それでいて、モスティマはしきりに絶頂していた。
「あっ、あぁぁ……!」
 触れられれば触れられるほど、感度のゲージを思い通りに操作されているかのように、呆気なく体は高まり、そして弾ける。ビクっと腰が弾んだ時、そのたびにシーツに愛液は染み込んで、もうオイルと愛液のどちらで濡れているのか区別がつかない。
 イクたびに四つん這いにさせられた。
 罰ゲームと称して尻を叩かれ、またマッサージに戻るとイカされる。
 もう何回イってしまったか、既に回数もわからなくなっていた。





     後編

 モニターの中で尻を叩かれ、軽快な打音が鳴り響く。
 ゆうに十回以上はイカされて、その果てにモスティマは自分自身の映像を見せられていた。
「ほら、みっともないでしょう?」
 中年が指す映像の中で、モスティマは四つん這いになっている。振り上げた手の平で尻をプルっと震わされ、その際の盛り上がった歓声も聞こえてくる。
(こ、これが私…………)
 とても直視できない映像だ。
 モスティマは目を伏せるが、耳に伝わる音だけでも、スパンキングの記憶が蘇る。尻に残った打撃の感触も思い出し、体中が疼いてしまう。
「ではモスティマ様。次はいよいよ、アソコやオッパイを刺激していきましょう」
「へ、へえ? ようやくか」
 弱り切った顔など見せず、表面上は挑発の視線さえ返してみせる。
「あれだけ連続で絶頂したモスティマ様です。さぞや敏感になっていることでしょう」
 そして、中年は指示を出す。
 ここから先のマッサージは、座り姿勢で客席と向かい合い、後ろから揉まれる形となる。施術台に上がった中年が、背中に密着してくる形となって、M字開脚まで披露させられる。あけっぴろげなポーズで股に視線を集めることで、改めて恥じらいが湧いてきた。
 しかも、手錠までかけられている。
「よがり狂って、反射で暴れるかもしれませんからね?」
 などと言い、腰の後ろで両手を拘束されたのだ。
 そんな状態で後ろに密着されているせいで、手の平にはズボン越しの膨らみが当たってくる。固く興奮しきった逸物を避けんばかりに、モスティマは拳を作って震わせる。撫でたり、握ってやることなどないように努めていた。
「おっしゃー! イキまくれー!」
「失禁したっていいんだぜー?」
 座席と向き合うと、ニヤニヤとした男達の表情がもろにわかって、自分がいかに見世物として消費されているかが如実に伝わる。
「では胸からいきましょう」
 背後から両手が来る。
「ぬぅ……ぬぁぁ…………!」
 乳を揉まれ、その瞬間に激しい電流が走っていた。背骨に雷が通過したような、身体の一部が弾け飛んだかと思うほどの快感に、モスティマは一瞬にしてイカされていた。
(そん……な…………)
 ただ乳房を掴まれただけである。
「おいおい、エロすぎだろ!」
「どんだけ素質あんだよー」
 イった姿に男達は大喜びだ。
 だが、煽ったり喜んだりしてくる男達の反応には、もう構っていられない。そんな余裕は今の絶頂で嫌でも失われた。
 指が食い込むだけでイったということは、それ以上の愛撫をされれば……。

「んぅぅぅぅぅ…………!」

 乳首を上下に弾かれて、それだけで体中が震え上がった。
 芯から湧き出る快感に、モスティマは気づけば天井を仰ぎ見て、顔を上向きにするあまり、後頭部をそのまま中年の肩に乗せていた。愛液がじわりと溢れ、乳房には激しい電気の流れた余韻が走る。
「さて、アソコに触らせて頂きますよ? モスティマ様」
「……さぞかし、凄いんだろうね」
 心まではやられていない。
 快感で駄目になっているのは体だけ、精神は保っている。
(そうだよ。心くらいは保たないと、せめてもの格好すらつかないってもんさ)
 息を荒くしながらも、モスティマは次の快感に備える。
 ……いや。
 快感どころか、もはや津波に備えるような心構えだ。天災の津波なら、まず避難しなければ助からない。ところが今は逃げ場がなく、真正面から受け止めて、濁流に押し流されることのないように、自分を保ち抜かなくてはならないのだ。
 それほどの心持ちで、アソコに近づく指に備える。

「――――――――っ!?!?!?」

 爆発的な勢いで快感が弾け、頭が真っ白になっていた。
「あっ、ああぁぁ…………!」
 そして、モスティマはまたも失禁していた。
 愛液の潮が吹き、一瞬の噴水か霧吹きのように飛沫を散らし、その直後に出て来たのが黄金のアーチであった。我慢の余地や隙もなく、不意を打って出て来たオシッコは、弧を成し床へと着弾している。

 ジョロロロロロロロ………………。

 さしものモスティマも、両手で顔を覆い隠してしまいたかった。
 自分の顔がどこまで赤く、どこまで羞恥に歪みきっているかが想像もつかない。
「おぉ? お姉ちゃんは何歳児でちゅかぁ?」
「ペンギン急便は強いって聞いたことがあったけどなぁ?」
「あらあら、とんでもないところを見ちまったぜぇ!」
 盛り上がってくる声が辛い。
 放尿はやがて途切れて収まるが、床にはモスティマの漏らした水溜まりが残っている。
「これはまたお仕置きですねぇ? モスティマ様」
 そして、尻を高らかにしたポーズを取らされた。
 後ろ手に手錠が突いたまま、だから両手を突くことの出来ないモスティマは、四つん這いの姿勢で顔と肩を下にしていた。尻だけが高らかとなり、ただの四つん這いよりもいささか情けなさの目立つポーズとなって、そこに平手打ちが行われる。

 ぺん! ぺちん! ぺちん! べちぃ!
 べちっ、べちん! べちぃ! べちぃ!

 モスティマはシーツを噛み締めていた。
 屈辱を堪えるため、強く食い縛った歯のあいだにシーツを加え、繊維を歯で刻まんばかりに力強く顎を震わせる。

 ぺちっ、ぺちっ、ぺちっ、ぺちっ!

 尻たぶが振動を受けるたび、プルプルと揺れていた。
 そうして叩き続けた手がふと止まる。
 これでスパンキングの時間は終わり、また好きなようにイカされた挙げ句、罰ゲームの繰り返しで何度目とも知れないスパンキングが始まるのだろう。
 そう思っていると、妙な気配がした。

 ぎしっ、

 それは施術台の上に体重が乗り、台の骨格が軋んだ音だった。
「なにを……考えているのかな……」
「おや、まだ余裕を残していますとは、さすがはモスティマ様です」
 よしよしと、可愛がらんばかりの手が置かれ、高らかな尻は撫で回される。そんな軽く撫でているだけの手でさえも、異常なまでに気持ちいい。うっかり心を許してしまえば、表皮を走る快感の心地良さに、思わず目を細めるところだろう。
 モスティマは予感しきっていた。
 尻の真後ろで、おそらくは膝立ちになっている中年は、裸の女を見下ろしながら一体何を考えているか。
「こんな店でも、マッサージを貫くものと思っていたけど、結局はそうなるのかな?」
 モスティマは余裕を気取る。
 冗談じゃない、真っ平だと思う気持ちを本当は胸にしながら、それを表には出さなかった。
「ほほう。既に私の考えにお気づきのようで」
「いっぱい恥をかかせてもらったおかげで、勘が冴えたのかな」
「ではモスティマ様の直感通り、これから挿入をさせて頂きます」
 中年の亀頭が入り口に触れてくる。
(まずいね……)
 もう、避けられない。
 今更になって抵抗しようにも、全身が快楽にとろけきり、ろくな力さえ入らないことに気がついた。出せる力は、せいぜい立ったり歩いたり、日常生活に支障が出ない程度のことしかできない。
 戦ったり、走り回ったり、激しい運動をこなせる状態ではなくなっていた。
「皆さんも気になるでしょう? これだけイキやすいモスティマ様は、一体どんな風に喜び喘ぐのか。見てみたいでしょう?」
 中年は客席に呼びかける。
「おう! 見たいぜ!」
「見せてくれー!」
「犯せ! 犯しちまえぇ!」
 客は興奮で沸いている。
 ギラついた眼差しの熱気が伝わるようだ。

「では……」

 中年が腰を押し進める。
 そして、モスティマの中にはとうとう肉棒が埋まり始めた。

 ずにゅぅぅぅぅぅ…………!

「――くっ! くぅぅぅぅ!」
 膣内に収まって、たったそれだけでブルっと震え、愛液を噴き出していた。本当は潮吹きだったはずの愛液は、しかし尻と腰が密着していたため、激しく滲んで中年の陰毛を濡らすに留まっていた。
 中年がピストンを開始する。
「――――――っ!?!?」
 声にならない叫びが上がる。
 モスティマ絶叫し、声にならない声を上げ、唾を飛ばしながらイキ果てるのは言うまでもなかった。

     *

 翌日になっても、モスティマの体には快感の余韻が残っていた。
 目が覚めたのもマッサージ店の中である。
 あのバック挿入により、モスティマは瞬く間に失神して、そのまま店内で解放される羽目になったらしい。
 まともな目覚めなどではない。
 まどろみの中から意識を取り戻し、はっと気づいた時には椅子に拘束されていた。肘掛けに両足を縛り付け、脚をM字の形に固定され、背もたれに体重を預けたまま身動きが取れず、下手に動けば椅子ごと倒れて終わりである。
 こんなポーズを取らされるからには、服など着せてもらえていない。
 ただ、白いショーツだけは穿かされていた。
「お目覚めですかな?」
 そんな状態で中年と顔を合わせて、モスティマは真っ先に敵意を向けた。
「おかげさまでいい朝だよ。朝食には是非、パンとコーヒーが欲しいものだね」
「もちろん、モスティマ様にはこれからもお客様になって頂くわけですから、それなりのおもてなしはさせて頂きます」
「これからも? ああいう目に遭って、また同じ店を利用したがる客なんて……」
 そこまで言って思い出す。
 女性をこんな風に扱う店のはずなのに、ではモスティマが目撃した女性客は何だったのか。あの客は真っ当な扱いを受け、モスティマはそうでなかったということなのか。
 いいや、そうじゃない。
 何かが違う。
「もしかして、この店の評判っていうのは……」
「お気づきになられましか? そうです。この店で快楽付けになった女性は、ああいった扱いで喜ぶマゾヒズムに目覚め、不思議とリピーターになってしまうのです。わざわざお金まで払って、辱めを受けに来るのですよ」
「なるほど、とても面白い店だ。人生何があるかわからないものだね」
「さて、モスティマ様。ご注文通りの朝食を用意しても構いませんが、その前にせっかくの映像をご覧になりませんか?」
 中年は答えなど聞いてこない。
 モスティマの返事を確かめることもなく、目の前のモニターに昨日の痴態を再生する。

『おああぁあああああああ!』

 映像の中、モスティマは絶叫していた。
 こんなにも乱れ狂っていたことに、その時までは気づきもしなかった。ただ、思えば喉に疲れが残っているような気がした。
 中年によって激しく突かれ、全身をビクビクと震わせる。
 一体、何度イカされたのかは想像もつかなかった。
「随分なものを」
 己の痴態を見る恥ずかしさに、モスティマは密かに目を伏せる。
「しかし、お体は興奮なさっているようですよ?」
 中年の指摘通り、モスティマの白いショーツは濡れていた。映像を見ただけで、あるいは見たからこそ、その時の快感が脳裏に蘇る。
「困ったものだね。私には次の仕事があるんだけどな」
「もちろん、解放致しますよ? ただその前に、あなたにはもっとたくさんの快楽を与え、この店の常連になって頂きたいと思っています」
 どうやら、またマッサージを受けさせるつもりらしい。
 この中年の手にかかれば、自分がどうなってしまうかは、嫌というほど思い知っている。

『あ! あぁああ! あああああああああああ!』

 画面の中にいる自分自身が、信じられない喘ぎ方で吠えている。
 あれではケダモノだ。
(私がああなっていたなんて……)
 中年がモスティマへ躙り寄る。
 そして……。

 ペン! ペン! ペン!
 ペン! ペン! ペン!

 スパンキングの音が鳴り響く。
 施術台へ連れていかれて、やはり絶頂してしまったモスティマは、その罰ゲームと称したお尻叩きで尻を打ち鳴らされている。
 手錠のかかった両手を下に、肘をついての四つん這いで、乳房やアソコにはなかなか触れない『マッサージ』に翻弄された。指先一つに導かれ、一体何度イったかもわからない。

 ペン! ペン! ペン!
 ペン! ペン! ペン!

 叩かれることさえ、もはや快感になり始めていた。
(これじゃあ……私は本当に……)
 快感を覚え込まされ、もう一度同じ目に遭いたい性癖を植えつけられそうな、危機的な予感を本格的に抱き始める。
「ならないと思うけどな。私が、常連になんて」
「そうでしょうか? お尻は喜んでいるようですが」

 ペン! ペン! ペン!
 ペン! ペン! ペン!

 叩かれることで刺激が溜まり、モスティマは軽くイっていた。尻をブルっと震わせて、ワレメから愛液の糸を垂らしていた。

 なる……もんか……。
 常連に、なんて………………。

 ペン! ペン! ペン!
 ペン! ペン! ペン!

 スパンキングの音は響き渡る。
 それを見ている客達は、興奮に息を荒げていた。