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 目の前にあったものが理解できなかった。
 まず、夢音は目隠しプレイとだけ聞かされたいた。
 心因性かもしれないので、新しいプレイを試すことで、心の原因を吹き飛ばそう。などという理屈は同じでも、彼氏に見せつけるプレイに関して、事前に承知していたのは俊樹だけだ。夢音には真実を不意打ちで明かす計画になっていた。
(俊樹? え? なんで? どうして?)
 まず、目をぱちくりさせながら困惑して、脳に疑問符ばかりを浮かべる。
 次の瞬間には、消えていた理性が急に戻って来たように状況を理解して、今の今までの全てを俊樹に見られていたことを悟るなり、ショックと絶望で悲鳴を上げた。その場にうずくまって泣き出して、泣き止むまでに時間がかかったことは言うまでもない。
 涙が落ち着き始める頃、やっと俊樹が目の前にしゃがみ込み、事情を語り始めるのだ。
 先生の提案で、新しい刺激を試そうと持ちかけられたこと。彼氏に見せつけるプレイに俊樹が乗らない場合、別の男を用意して複数プレイを行うと言われたこと。
 それらを聞き、夢音はぞっとした恐怖を覚えた。
(……それって、先生以外の……他の誰かともする可能性があったってこと?)
 ありえない。
 夢音の本来の理想は、生涯ただ一人と思い合う一途な恋だ。ミイラ症のせいで阻まれているが、セックスの経験を本当は俊樹一人だけにしたいくらいだ。
 だったら、その二択なら一つしかありえない。
(……う、うん。それはいい。落ち着こう? 落ち着かなきゃ! 私、まだ全然落ち着いてない!)
 胸に手を当てれば、心臓が激しく鳴っている。
 と、そうしてみて、今更になって気づいたのが、他ならぬ俊樹の前で裸になっていることだった。
「きゃっ! あっ、あのっ、俊樹……俊樹に見られるのは……恥ずかしい………………」
 頬が赤らむのを感じて、そういえば裸が恥ずかしくなるのは久しぶりだと、こんな時に妙な懐かしさなど感じてしまう。
 俊樹は咄嗟にベッドから毛布を引っ張り、それを夢音に渡してくれた。
 毛布に身を包んだ直後。
「ま、そういうわけだ」
 背後から、先生の声がかかってくる。
「お前ら、これからそういうプレイをするぞ。彼氏くんの見ている前で、俺は夢音とセックスするわけだ。面白いだろう?」
「面白くは……ないです…………」
「ああなるクセにか?」
 スイッチが入りきった時のことを言われ、夢音は泣きそうになった。
 だが、その時。
「夢音!」
 俊樹が素早く夢音の頬を両手で掴む。強制的に前を向かされ、右にも左にも、どこにも顔を逸らせないようにされた途端、夢音は唇を奪われた。
「んんっ!?」
 一瞬、驚く。
 しかし、俊樹の唇には心を開き、すっと目を細めていきながら、舌をねじ込もうとしてくる俊樹のキスを受け入れる。夢音の方からも舌を差し出し、お互いに絡め合い、唾液を流し込まれるのを感じた時、夢音はそれを飲み込んだ。
「あ、だめ」
 急に思い出し、夢音は俊樹を押し退ける。
「私……さっきまで、この口で…………」
 フェラチオのことを思い出し、それから洗ってもいない唇でキスをしたことで、まるで俊樹を穢したように思ってしまう。
「知るか。夢音の唇なら問題ない」
 それをあくまで頬張るため、俊樹は唇を重ね直してくる。
(俊樹……好き…………)
 うっとりと心を溶かされながら、夢音は俊樹のキスに身を捧げ、先生の存在さえ忘れて浸っていく。ずっとこうしていたいような、たまらなく心地の良い世界に全身が包み込まれて、先生に入れられたスイッチなど、とっくにオフになっていた。
「ねえ、いつからいた?」
「始まる直前。ほぼ最初からだと思う」
「じゃあ、聞いてた? 色々と」
 多くは言わない。
 快楽に追い詰められ、陥落した時の自分について、何といったら言いのかがわからない。もう我慢など考えられなくなり、もう気持ち良くてもいいや、スケベでもいいやと、どこか投げやりになってしまう。
「私、たぶんエッチな子で……そのせいで…………」
 ほとんど罪の告白のように口にした。
 どうか許して下さいと、神にも祈る気持ちを抱きながらも、心の中では何かの処罰を受けても仕方のないような気でもいる。
「大丈夫、夢音は夢音だ」
「いいの? だって……」
「人間、何かスイッチがあるもんだ。夢中になったり何なりして、しばらくその世界から帰って来られないようなスイッチがさ」
「そうかもしれないけど……」
 だからといって、よりにもよって俊樹のいる状況で、自分は何を口走ったのか。オチンポだのオマンコだの、先下品な単語まで使い、最低な台詞を口にしたのだ。
 もしも立場が逆だったらどうだろう。
 目一杯に射精を我慢させられて、そんな俊樹に対して美女が言う。精一杯のおねだりの台詞が言えたら挿入をさせてやると……。
 もし、そうやって俊樹の口から下品極まりない台詞が出て、それを聞く羽目になったとしたら、気が狂って壁に頭でも打ちつける。
「正直、きつかった」
「だよ……ね…………」
 当たり前だ。
 魅力的だと思っていた人間が、何か下品なことをする。幻滅するには十分だ。
「でも、やっぱ俺には夢音しかありえない。ショックは受けたし、キツかった。それでも夢音じゃないと嫌だ。俺なりにどうにか受け止めるから、これからも俺の彼女でいて欲しい」
 目が熱かった。
 瞳から注がれる熱気は、今の自分なんかに向けられるものとして、とても勿体ないもののようにさえ思えてくる。
(でも、私だって……俊樹がいい…………)
 心の操だけでも立てる。
 その努力はしているのだから、この言葉を受け取ってもいいはずだと、我ながら言い訳じみている気はしながら、今度は夢音の方からキスをした。軽く唇を重ね合わせて、そのまま二人で見つめ合う。
「それで……見るんだよね。私が、先生とするところ」
「不安か?」
「……うん。だって、またああなったら」
「そうなっても俺の気持ちは変わらない。安心しろ」
 やはり、目が本気だ。
 夢音はその目を信じ抜くことに決め、先生と向き直る。

「先生。私、早く処置室の出入りを終わらせたいです」

 こんなこと、一刻も早くやめにしたい。
 そのためにも、夢音は先生と再び交わる。

     *

 新しい刺激により、心因性の不妊症を吹き飛ばす。
 そんな理屈がありえるのか。
 正直、物は試しなのだろうが、命に関わる事柄で可能性を試すのだ。死ぬよりはマシだと思うことにして受け入れるが、さすがにこれは恥ずかしい。
 夢音は俊樹と向かい合って座っていた。
 俊樹はソファに腰を下ろしているが、夢音は先生の肉棒である。
 しかも、先生に両脚を持ち上げられ、しっかりとM字を成すことで、背面座位による結合部が丸見えになっている。
(な、なにこれ……こんなところ見せるなんて…………)
 ただアソコを見せるだけでも、どんなに恥ずかしいか。
 それを結合状態で晒しているのだ。
 肉棒の太さに合わせ、穴が幅を広げきり、それを手で隠すことも許されていない。しっかりと見せつけるように言われて、顔から火が出る思いで乳房もろとも晒している。俊樹の視線はこれでもかというほど注ぎ込まれて、頭が沸騰しそうだ。
(やっぱり、複雑だよ……こんな形でって……初めてはもっと………)
 贅沢は言わない。
 場所がどうだの、時間がどうだの、どんなデートの後がいいだの、そんな細かいことは何も言わない。
 ただ、初めて裸を見せるタイミングも、熱意と共に押し倒され、できれば大切にされながら抱かれたかった。
「動け」
 命令と共に下ろされて、夢音の足は床に置かれる。
 そして、さっきまでしていた背面座位そのままに、椅子から腰を上げ下げするような動きの披露を開始した。
「あぁ……んぅぅ……んっ、んぅぅ…………」
 声が出る。
 俊樹の視線を意識して、夢音は手で口を覆った。
「んぅ…………んっ、んぅ……………………」
 手で声を押さえ込み、はっきりとした喘ぎは封じ込む。
「どんな風に気持ちいいか聞かせてやれ」
 先生からの信じられない指示に、夢音は激しく首を振る。
(無理! 無理無理! 見せるのだって、本当はありえないのに!)
「妊娠できなくていいのか?」
 それはよくない。
 妊娠という言い方だが、それは命にかかっている。
(効果、あるのかな……よくわかんないけど……)
 夢音は口から手を離し、喘ぎ声を出しながら上下した。
「あぁっ、んぅぅ……ご、ごめんね……声、出ちゃって…………んぅぅ…………」
「大丈夫! 平気だ。俺は平気だ」
 そう言う俊樹だが、拳に置いた両手が震えている。
(ごめんね……本当に……)
 腰を浮かせ、そして沈める。
 上下運動に伴って、夢音の視界も上下していた。
「あっ、あぁ……あっ、あぁっ、あぁぁ…………」
「ほら、どうした。どう気持ちいいか言ってやれ」
「あっ、んぅ……どうって、それは………えっと、急にはちょっと…………」
 恥ずかしさ、躊躇い、それらは当然のようにあるのだが、それ以前の問題として、そもそも急に説明の言葉が浮かんで来ない。何がどう気持ちいいか、それを詳しく解説してみせるための語彙が即興では出てこなかった。
「オチンポって言うんだぞ?」
「む、無理です! 気がどうにかなってないと無理です!」
 こればかりは即座に拒否した。
 スイッチが入った時の自分がどうであるか、記憶が消えるわけでもないのでわかっているが、冷静な時には本当に言えないのだ。
「いいから言ってみろ。オチンポだ。オチンポだ」
「お、オチ……んぅぅ…………」
 二文字だけで顔から炎が出るほどで、もう堪えきれない。
「すみません。それは許してやってくれませんか」
 俊樹からも助け船が出る始末だ。
「なに言ってんだ。彼氏の前で、俺に命令されて下品な言葉を使うのがいいんじゃないか。目的を忘れてるのか? こんなことでも、生きるためにやることだぞ?」
「お、オチン…………うぅっ、うぅぅぅぅ…………オチンポ………………」
 ようやく単語を口にして、脳の内側で火花が弾ける。
「さあ、言ってみろ。どんな風に気持ちいいんだ?」
「オチ……ンポが、その……アソコに擦れて……ほら、穴に差し込むんだけど、横の部分が膣壁に擦れるのが刺激になって……。この体位だと、自分の好きなペースで動けるから、好きな具合で気持ち良くなれて…………」
 どうにか語彙を搾り出し、俊樹に向かって説明する。
(頭が壊れそうだよぉ……なんなのぉ……このプレイ…………)
 尻を落とした勢いを利用して、バウンドのように身体を持ち上げる。夢音は自らの上下運動を駆使して、自分自身の膣をほじくって、肉槍の穂先に膣壁のいたるところを削らせている。
「んあっ、あぁっ、あっ、あんっ、声もっ、我慢しないとっ、で、出ちゃっ、止まらなくて……あっ、あっ、あぁっ、あっあっ、あっ、あぁ……!」
 夢音が動けば動くほど、俊樹の表情は険しくなる。どことなく苦悶が浮かび、胸を痛めているのがよく伝わる。
(あぁ……俊樹ぃ……!)
 この姿を見て、心を抉られているのだ。
「あぁっ、あっ、あっ、あぁっ、あっ、あっ、あぁっ、あぁぁっ、あうっ、んっ」
 こんな風に感じてみせるのは、俊樹に刃物を突き立てるようなものではないか。心を切り刻んで痛めつけ、苦しめているも同然ではないか。
「んっ、んっ、んあっ、あんっ、あぁんっ、あっ、んぁっ、んっ、うふぁっ、あぁぁっ」
 それでも、声は止まらない。
 口を手で塞いでしまうか、歯をきつく食い縛るのでもない限り、喘ぎ声を決して抑えることは出来ない。
「夢音、俺は平気だ。平気じゃないけど、平気でいてみせる」
 俊樹の言葉に夢音は顔を引き締めた。
「あっ、んっ、わっ、私もっ、心はっ、あんっ、あんっ、俊樹っ、だけっにっ、んんぅっ」
「夢音……!」
「俊樹ぃ……!」
 こんな状況なのに熱い視線を交わしてしまい、しかしこのタイミングで不意に頭の中身が弾け、一瞬真っ白になっていた。

「あぁぁ――――――!?」

 イったのだった。
「あぁ…………はぁっ、はぁっ………………」
 絶頂すれば休憩が欲しくなり、少しのあいだ座り込む。先生に腰を掴まれているせいで、肉棒からは逃げられず、結合を維持して先生の足を椅子代わりに腰を休めた。
「せっかくだ。桃井、夢音にキスしろ」
「え…………」
 先生の唐突な指示に、夢音は軽く驚き肩越しに振り向いた。
「なんで、わざわざ?」
 俊樹は先生に対して反抗的だ。
 確かにさっきは先生の目も忘れて唇を交わしたが、お互いのことに夢中になったせいである。指示まで出して、あえてキスをしろと言い出す理由がわからない。
「せっかくの彼氏付きのプレイだ。ちょっとは参加させた方が面白いだろう?」
 夢音には理解しきれない。
 だが、わからずともわかったのは、これが先生なりの思いつきの趣味趣向で、せっかく思いついたプレイを試そうとする姿勢であることだった。



 
 
 

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