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 桃井俊樹は胸を万力で締められるような痛みを抱えていた。
(夢音……!)
 先生の思いつきは、目隠しプレイからのスタートであった。
 気づかれないように入室して、途中でアイマスクを取り外し、今までのプレイを全て彼氏に見られていたのだという事実を突きつける。
(ふざけたアイディアだ)
 とは思ったが、他の男を用意して、夢音を抱いた人数が増えるのも真っ平だ。
(悪い。半分は俺のワガママだ)
 先生の指示通りのタイミングで処置室に入った時、俊樹が目の当たりにしたのは夢音の裸であった。
 ベッドから両足を下ろした形で座り込み、その背後に先生が抱きついて、まずはひとしきり胸を揉む。やがてアソコを嬲り始めて、夢音はだんだんと感じ始めるが、それを見せつけられる俊樹はたまったものではない。
 女の裸がそこにある。
 それも、夢音の裸――なるほど興奮する。
 だが、それに手を触れているのは自分ではない。先生の手で夢音は感じている。その一連の様子を見れば見るほど、腹の内側にはドス黒い何かが沸騰する。歯を強く食い縛り、しきりに唇を噛みながら、俊樹はその光景に耐えていた。
 目も当てられない……という言葉があるが、俊樹に生じるのは矛盾である。
 夢音の裸体には、俊樹の視線を吸い寄せる絶対的な力がある。その一方で、他人に夢音を愛撫されてい光景など、目を背けたいものの筆頭だ。
 反発と引力が同時に発生するなどありえない。
 俊樹の心に生じるのは、まさしくそんな矛盾であった。
 反発力が発生して、余所へ逸れそうな視線は、しかし引力にも引っ張られ、結局は二つの力が拮抗して、俊樹の視線は前を向き続けている。傍からすれば、単にジロジロと見ている風でしかないところに、矛盾と呼ぶべきものは確かにあった。
 生まれて初めて見た夢音の乳房は、とてもふっくらとして柔らかそうで、インターネットで見た覚えのあるどんなアダルトコンテンツよりも魅力的だ。お茶碗よりも大きいであろう半球ドームは、マシュマロのように柔らかそうで、手を伸ばしたくてたまらない。
 だが、それを先生が揉んでいる。
 乳首まで立たせて、夢音の身体を快感でモゾモゾとさせている。
 さらにはアソコに手を伸ばし、ピストンによってクチュクチュと水音まで聞こえるようになってきたのだ。
(人を本気でぶっ飛ばしたくなったのなんて、初めてなんだけど)
 俊樹は自然と先生を睨んでいた。
 しかも、俊樹に対する苦痛はそれだけに留まらない。
 途中で始まるやり取りから、なんと夢音の口からセックスに夢中になってしまう事実が出て来たのだ。
(そんな…………)
 頭を撃ち抜かれたようなショックを受けた。
 いいや、夢音自身、そんな自分を気に病むことを言っていた。それも、アイマスクと耳栓で俊樹の存在に気づいていない。ここにいる俊樹を意識などしていないはずの状態で、何も知らずに言ったのだ。
 快楽に堕ちる状態まで追い詰めるのはやめて欲しい、と。
 だが、先生はそれを断り、何度も何度も、まるで拷問の一種であるように寸止めを繰り返し、夢音の理性を順調に溶かしていった。
 最初のうちはイクことを自分から我慢して、歯を食い縛る様子まで見受けられた。
 それが時間を経るごとに薄れていき、その結果だ。
「あ…………」
 イケなかったことを残念そうにする顔を浮かべるようになっていた。
 寸止めの後、愛撫の再開まで多少の時間を置くのだが、そのあいだは愛撫が待ち遠しいかのような顔をしていた。
 アイマスクで目が見えずとも、残る部分で表情は十分にわかった。
(くそ…………)
 黒い感情が胸の内側で燃えている。
 それを抑えるかのように、俊樹は胸元を握り絞め、ワイシャツに握力を込めていた。
(よく考えろ! 好きでもない女から奉仕されて、男ならどうだ?)
 我慢をしてみたところで、所詮はフェラチオか何かをされれば、誰が相手だろうと出るものは出るのだろう。
 しかし、夢音は我慢を試みていた。
 心の操だけでも立てようとする姿勢を見てやらなくて、一体どうする。
 そんな奴の手で、何を感じてやがる――など、夢音に対する怒りはお門違いだ。
(夢音、俺も我慢する。今は耐える)
 心の苦痛を堪えぬ抜こうと、拷問に耐える気持ちで全ての光景を見た。
 夢音が寸止めの連続に陥落して、下品な台詞を口にする瞬間さえ、唇を噛みながら見守ったのだ。

「わ、私は……私はっ、先生のオチンポが大好きです。欲しくてたまりません。私にオチンポを入れて、いっぱいイカせて欲しいです。たくさんフェラチオして奉仕するので、どうか私にオチンポを恵んで下さい」

 先生が考えた台詞だ。
 オチンポという単語を与え、何か下品な求め方をしろと、そんな要求に応えたことで出て来た台詞だ。
 ほとんど言わされた言葉も同然だが、今の夢音は……。

「はじゅぅぅぅぅ! じゅるっ! じゅむっ、じゅりゅりゅぅぅ――――!」

 夢音は激しいフェラチオを行っていた。
 アイマスクなど関係がないように、床に座った夢音はそこにあるペニスをしっかり掴み、頬張るなり大きな水音を立て始めたのだ。
「はじゅっ! はじゅじゅ! ずりゅ! ずじゅぅぅぅ!」
 そうする夢音の後ろ姿に視線を注ぐ。
 滑らかな背中が先生の股に向かって前後して、首はより活発に振りたくられている。先生のペニスがどんなものかは、夢音に隠れて見えないが、いかに淫らな奉仕をしているかはよくわかった。
(くそっ、なんでこんな……夢音……!)
 先生と目が合った。
 ニヤッ、と。
 勝ち誇った眼差しから聞こえるようだ――お前の女を味わってやっているぞ。と、自慢げに誇らしく語る言葉が、顔にありありと浮かんでいた。
(お前の骨くらい簡単に折れるんだぞ!)
 俊樹は睨み返す。
「へっ」
 先生は鼻で笑いつつ、我が物顔で夢音の頭に手を置いた。優しく可愛がらんばかりの手つきでゆっくりと労るように撫でていた。
 夢音が自分のものであるような振る舞いに腸が煮えくりかえる。
 怒りで内臓がねじ切れそうだ。
「ちょっとこっち向け」
 フェラチオを中断させ、顎の下へと手を回す。
 直接見えることがなくとも、先生が一体どんな風に夢音のことを可愛がり、くすぐってやっているかなどよくわかる。喉から顎にかけてを指で撫で、まるで猫でも愛するようにしているのだ。
(ペットじゃねぇんだぞ!)
 俊樹が怒りを燃やせば燃やすほど、先生が浮かべる勝ち誇った表情は、どんどん得意げになっていく。
「そろそろ欲しいか?」
 勝利を確信しきった顔で、俊樹のことをチラチラと窺いながら、先生は夢音に尋ねる。
「はい、欲しいですっ――ちゅっ」
 きっと、今のは亀頭にキスをしたはずだ。
「いい子だ。俺に尻を向けながら、いやらしいオマンコに俺のオチンポを咥えたがっていることを宣言しろ」
 夢音は早速立ち上がる。
 体がこちらを向くことで、魅惑の乳房が改めて目に飛び込み、続けて陰毛に目がいった。生えた本数の少ないささやかな茂みは、その下にある肌を隠しきることもなく、小さく薄い三角形として形を整えていた。
 夢音は膝に両手を置きながら、フリフリとお尻を振る。
 先生には尻が魅惑的に動いているのだろうが、俊樹にとっては乳房が左右に小さく振り回され、横揺れを披露していた。

「わっ、わたしのっ、いやらしいオマンコは……先生のオチンポを欲しがっています……今すぐに入れさせて欲しいですっ」

 その瞬間、先生の顔がかつてないほど邪悪に見えた。
 ニタァァァァァ――と、人間の顔とはここまで歪み、ぐにゃりと口角が吊り上がるものなのかと、こんな時に表情の凄まじさの方に驚くほどだった。
「そのまま来い」
「はいっ」
 夢音は先生に向かって尻を近づけ、肉棒の上に座っていくかのように結合を果たしていた。
「あぁぁぁ……! あぁっ、気持ちいい……!」
 夢音は幸せでならないような顔をする。
(くそ! 夢音!)
 俊樹は激しく歯を鳴らし、拳に爪が食い込むほどの握力を込めていた。
「あん! あん! あん! あん! あん! あん! あん! あん!」
 椅子から腰を上げ下げするかのように、夢音の方が動いてのセックスが始まると、そこにあるのは幸せの絶頂にある顔だった。アイマスクがあろうと、どんなにとろけきった夢見心地な目をしているかはよくわかる。
「あぁん! あっ、あん! あん! あぁん! あぁん!」
 満たされた顔で髪を振り乱し、額や頬に浮かんだ汗で、そんな髪のいくらかが肌に張りつく。
(頼む! 夢音! そんな奴でそんな顔をしないでくれ!)
「あぁん! あっ! イク! イク! イキます! イカせて下さい!」
「ああ、いいぞ? 許可する!」
「あぁっ、ありがっ、んんぅ! とうっ、ございますっ! せんせぇっ、んんん! んぁっ、あぁぁん! あ、イキます――――――!」
 その瞬間、腰を沈めきったまま上下運動は停止して、その代わり力強く腰を押しつけたまま、夢音は全身を激しく痙攣させていた。

「んんんんん…………んぅ…………はぁ……………………」

 何かを出し切り、すっきりとしたような、実に気持ちよさそうな顔で頬を火照らせていた。
 先生はそんな夢音の腹に手を回し、抱き寄せながら耳へ囁く。
「それじゃあ、そろそろマスクを取ろう」
 そして、いよいよアイマスクに手をかける。
 脱がされたマスクから、閉じていた夢音の両目が開かれて――。

「え………………………………」

 夢音は壮絶な顔で絶句していた。
 そして、思い出したようにみるみるうちに青ざめて、絶叫しながら泣き出すのだった。



 
 
 

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