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 城内の騒ぎを聞きつけ、一人の少女が頭を抱える。
 透き通るような白い髪と、燃えるような赤い瞳。まるで人形めいた容姿だが、しかし彼女は本物の人間だ。
 ニニム・ラーレイ、ウェイン王子の補佐官だ。
「はぁ……またやるなんて……」
 深々とため息をつく。
 盗賊の件で謝罪に現れ、ナトラに帳尻合わせを頼みに来たロウェルミナの立場は、さすがに低いものだったことだろう。自分の不手際を打ち消してもらおうと、慌てて訪問の予定を取り付けたまではいいとして、ウェインを納得させるだけの交渉材料を揃えていたかどうかは怪しいものだ。
 時間的都合を考えれば、たまたま握っていた手札を即座に切るくらいでなければ、間に合うことはないだろう。
 そして、マイクロビキニの美女が二人して城内を歩いていたなどと耳にしては、ウェインとロウェルミナの交渉がどんな結果を迎えたかなど想像に難くない。
「私相手ならともかく……。いえ、私相手でも良くないけど、とにかく余所の国の皇女にああいうプレイを強いるだなんて、まったく正気を疑うわね」
 ニニムは苛立っていた。
 何もそうした要求に走らなくてもいいではないかと、心の中にはウェインに対する不満不平がこれでもかというほど浮かんで来る。
 しかし、ニニムは怒りを抑え、深呼吸を繰り返した。
「……よし」
 問題の劇場へ向かっていく。
 きっと、まだまだ真っ最中であろう現場の様子は、補佐官として確認しないわけにはいかない。
 帝国士官学校時代の学友として、ロウェルミナのことは気の毒だ。
 とはいえ、冷たいようだが同情ばかりしてはいられない。どうあれ交渉の結果である。既に決定事項となった事柄より、先の未来へ思いを馳せるのは、国政を担うものとして当然のことである。
 ニニムの頭の一部は、もう今後のナトラとロウェルミナの関係性について及んでいた。
「盛り上がっているわね」
 劇場に踏み込むと、観客が沸き立っていた。
「おおお! 皇女殿下!」
「待ってたぜー!」
 舞台を見れば、なんとウェインに引き連れられて、全裸のロウェルミナが登場していた。
 既に数多くの目に遭っていることだろうが、ロウェルミナは未だに羞恥心を残しているように、手で胸とアソコを隠して小さく縮こまっている。
 人混みを掻き分けながら突き進み、どうにか最前列に出てみれば、今にも泣きそうな顔のロウェルミナは、目に懇願を浮かべていた。もう許して下さい、もう十分じゃないですか。あえて台詞で聞くまでもなく、顔を見るだけで切実な気持ちが伝わってきた。
「やっぱり同情しようかしら」
 隣のウェインは得意げにロウェルミナのことを見せびらかし、客席の熱気を高めている。盛り上がれば盛り上がるほど、ロウェルミナはさらに小さく縮まり、この場から消えたそうにしているのだ。
 この様子では止められそうにない。
 ひとまず、ニニムは様子見に徹する。
 あまり期待はしていないが、チャンスがあれば中断させた方がいいだろう。どうせ既に散々な目に遭わせ、交渉成立には十分すぎるほどのプレイを楽しんでいるはずだ。
「皆よ! これより剃毛を行う!」
「……あれね」
 体験したことのあるニニムは、ウェインの手で剃られた思い出を脳裏に浮かべ、密かに恥じらいを蘇らせる。アソコに顔が接近して、アソコをまじまじと見られた際の感覚は、ちょっとしたパニックに近づくほどの恥ずかしさだった。
「さあ、ロウェルミナ皇女。まずはそのテーブルに上がるのだ」
 使用人が用意したのだろう。
 舞台上にはテーブルや水桶が置かれ、石鹸とカミソリも用意されている。
「あ、あの……ウェインが剃るのですか?」
「ああ、その通りだとも」
 ロウェルミナが引き攣るのも無理はない。
 他人の持つ刃物が自分の身体に近づくのは、どうしても怖く感じるものだ。
「あの……どうしても…………」
「なんだ。またお尻ペンペンか?」
 ウェインがそう煽った瞬間だ。
「わっ、わかりました。テーブルに……上がればいいんですよね……」
 何かトラウマでもあるのか。
 お尻ペンペンという言葉を聞いた途端、ロウェルミナはビクっと肩を跳ね上げて、慌ててテーブルに上がり始める。背中が客席を向き、すると尻に視線が殺到してか、男達の熱狂が声となる。
「おおっ、お尻ちゃーん!」
「プリプリでいいですなぁ!」
「あのお尻をペンペンした際の良い音が、未だ私の耳には残っていますよ」
「エロ尻ぃぃぃ!」
 客席のそこかしこから、ニニムの周辺からも、ロウェルミナの尻に対する声が聞こえ、大声で発せられたものは本人の耳まで届く。
 そのせいか、ロウェルミナは反射的に後ろに手を回し、明らかにお尻を気にかけていた。いかにも隠したがっていたが、手の平を当てたところで、お尻の面積を覆いきれるはずもない。
 ただ、テーブルに上がった後は、仰向けに姿勢を言い渡されていた。
 これで客席から見えるものは何もなくなってしまうのだが、代わりにウェインが間近で視姦を行うわけだ。
「さて諸君、ロウェルミナ皇女の陰毛はフサフサのサラサラで、金髪が小さな三角形の形に整っている。試しに触ってみよう」
 ロウェルミナは一体どんな顔で苦悶していることか。
「ふむ! 指通りが良く、実に良い毛並みをしている……が、これを今より剃り落とすのだ!」
 客席に集まる人数全員に見せてやるのは無理がある。
 そこで、ウェインが大きな声で実況したり、くまなく説明することで、ここに集まる者の想像を掻き立てる方法が取られていた。
「そうかそうか」
「なるほど三角形ねぇ」
「楕円に賭けてたんだがなぁ」
 それにより、距離や角度的に見えない者でも楽しめている。
「では剃っていこう」
 ロウェルミナのM字開脚は、ウェインの後ろ姿によって塞がれるが、石鹸を泡立てて塗りたくる様子から、カミソリを当てて剃り始めるまで、全てを逐一実況しているので、見えずともリアルタイムで伝わっている。
「とにかく、お気の毒様」
 今のニニムには、それしか言えなかった。



 
 
 

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