「で、殿下?」
ニニムは身の危険を感じていた。
周囲を取り囲むのは、皇女の家臣三人にウェインを合わせ計四人。
そして、まだ泣き止んでいない様子のロウェルミナがそこにいる。
「……ニニム、悪いが付き合ってもらう」
大勢の者が見ている前では、ニニムは一人の少女ではなく、一人の従者でいなくてはならない。私的な場では関節技をかけてもおふざけとして許されるが、公的な場で王子殿下に危害を加える素振りは許されない。
「まずはストリップだな」
「しかし殿下…………」
上手く言葉が出ない。
ウェインと二人きりの場であれば、まだしもいい。気を許し合っている相手なら、受け入れる余地はあるのだが、ここにはそうでない人間が多すぎる。
以前、一対一の状況でストリップを披露したのも、相当に恥ずかしかった。
それを観衆の前でなど、是非とも遠慮願いたい。
「どうやら、いらぬ干渉をしてしまったようです。私はこれで」
さすがに逃げようと考えたが、振り向いた途端に家臣が動き、三人揃って壁を作っていた。
(……ああ、そう)
ニニムは状況を察する。
まだ収まることのない観衆を納得させ、演目はクライマックスを迎えたことにして解散させるには、一度フィッシュと交代させるつもりだったのだろう。ニニムがそこにむざむざ姿を見せてしまった点もあるのだが、もう一つの問題はこの家臣達だ。
どうやって納得させたのか、彼らも内心ではロウェルミナの痴態に興味があったのか。
詳細はわからないが、ともかくウェインは家臣さえも説得して、ロウェルミナを辱めるプレイに参加させている。とはいえ、従者の立場である以上、主君の大泣きにはさすがにたじろぎ、その矢先にニニムである。
この三人が求めているのは、言ってみれば皇女殿下を慰めるための生け贄だ。
ナトラ側の誰かを同様に辱めれば、少しはロウェルミナの気持ちを癒やすに違いないというわけだ。
(まっぴらよ)
状況はわかったが、誰がこんな大勢の前でなど。
前回のプレイで散々な思いをして、もう一度同じ体験をしたいなど、何をどうまかり間違っても思うはずがない。
しかし、ニニムの裸を衆目に晒し、ニニムが恥じらう姿を見ることで、ウェインは普通に興奮していた。ニニムへの参加の強要は、決してウェインの癇癪に触れることはない。ウェインが真に怒るとしたら、強姦にまで発展するような、より具体的な危害が加わり始めた時だろう。
この場を切り抜ける手を考え始め、その時だった。
「皆さん! 彼女を逃がさないで下さい!」
ロウェルミナが家臣に命じた。
(……ロワ!)
(さすがに許しません! あなたに八つ当たりさせて頂きます!)
まだ微妙に泣き止んではいない目が、思いっきりニニムを睨む。
(私を睨んだって……!)
ニニムはそもそもの元凶をキッと睨む。
(うげっ)
ウェインがたじろぐ。
私的な場で、二人きりになった瞬間の時を悟ったウェインは、今のうちから冷や汗をかき始めるが、もうこの場はどうにもならない。
(ぶっちゃけ……またストリップさせたいというか何というか……)
そんな気持ちがあるせいで、ウェインはニニムを守る立場に回らない。
(後で覚えてなさい)
おかげで大きな恨みを買うことになり、ウェインはすっかり肝を冷やす。
「おおおおお!」
「緊急参戦ですか!」
「あの美しい肌を再び拝めようとは!」
その一方で観衆は沸きたって、ニニムへの期待が既に大きく膨らみ過ぎていた。ここで何もなくニニムが退場したら、一体どんな野次が飛び交うことか。
(暴動になっても困るし!)
というのはウェインの考えすぎだが、少なくともブーイングの嵐が起きるに違いないと考えるのは、何も大袈裟な判断ではないわけだ。
「ではニニム殿」
「さっそく……」
ニニムを舞台中心に押しやるためか、家臣の手が背中に触れる。
「触らないで下さい」
ニニムは反射的に払い退け、振り向き様に彼らを睨む。
自分はあくまで仕方なく参加する身であり、決して好き好んでストリップを始めるわけではない。そして、主君でもない人間が肌に触れてくることなど許しはしない。
(まったく、本当にウェインは!)
腹の底では、後でどんな関節技をかけてやろうか考えながら、ニニムは舞台中心へと足を進める。
「で、では! 我が補佐官! ニニム・ラーレイのストリップを開始する!」
(って流れにするしかないっていうか! 見たいっていうか! うん、見たい!)
これである。
人の恥じらう姿にすっかりハマったウェインは、ニニムのストリップを見たくて見たくてたまらない欲望に負けのだ。
(最低)
(すみません)
侮蔑の視線をウェインに突きつけ、するとウェインからは申し訳なさそうな眼差しが返って来る。
(……また、こうなるなんて)
ニニムは手始めに手袋を取り外す。
すると、脱いだものを受け取るため、ウェインが小脇に現れるので、手袋をウェインに手渡す。ノースリーブのシャツから胸元のリボンを外し、次に脱ぐのは腰巻きの衣装である。
その衣装はいわば、ボタン留めの腹巻きからマントを生やしたものだ。ニニムはそのボタンを取り外し、脱ぎ去って、次に続けて脱ぐのはロングブーツだ。肌の露出がなく、羞恥心を伴うことのないものは、迷うことなく次々と脱ぎ去っていた。
脱いだものを逐一ウェインに預けていき、それらは後ろのテーブルに置かれ続ける。
(……ここからね)
まだ、露出を伴う覚悟は固まらない。
ニニムはスカートを穿いたまま、内側のガーターベルトだけを外そうと思いつく。靴下を吊り上げるためのクリップを外し、靴下を脱ぎ去って、素足を一本ずつ床に下ろした。
スカートを持ち上げる。
「お? おお?」
客席はもちろんのこと、周囲の男四人の視線にも、期待の熱が感じられた。
(まだ見せないわよ)
ニニムは確かにスカートを上げたのだが、露出したのは太ももだけだ。下着が見えないギリギリの所で、腰の両側から指をねじ込み、器用にガーターベルトだけを下げ始める。さながらショーツを脱ぐような動作で、それをウェインに手渡すのだった。
「これで次こそシャツかスカートってわけですな!」
「もう誤魔化しは効きませんぞ!」
「ブラジャーとショーツ!」
「どっちから見せてくれるんだー?」
客席から次々に言葉を投げ込まれ、それらがニニムの胸を締め上げる。
ニニムはシャツのボタンに触れた。
「お! 上からか!」
「ニニム殿のブラ! 何色なんだ!?」
(脱ぎにくいじゃない!)
ただでさえ、こんな大観衆の視線に耐えなくてはならないのだ。
こんな風に多くの声をかけられては、ボタンを外す手は鈍り、脱ぎにくくてたまらない。単にボタンを外すだけの動作に手こずった。
(ああ! もう!)
まるで固くて外れにくいものを扱うように、一つボタンを外すだけで普通よりも時間をかけ、上から順々に隙間を作る。
一つ外し、二つ外し、ボタンの外れた数に応じて、切れ目のような小さな隙間から、内側の肌が覗けて見えそうになってくる。
(いやっ、ちょっと……まだ……)
それをニニムは必死に隠した。
衆人環視の前で裸を見せた経験は、もう既にあるはずなのに、自分でも不思議なほどにブラジャーを見せることへの抵抗が湧いてくる。あるいは経験があるからこそ、トラウマというべきか、二度とまっぴらな気持ちが働いているのかもしれない。
ボタンを外す際、だからチラチラと覗けそうなたび、片方の手でシャツを抑え、片手だけでボタンを外そうと苦心する。
そうやって、やっとのことで全てのボタンを外しきる。
すぐさま、傍らにウェインが立った。
このまま順当に、シャツを脱いで手渡そうと思いつつだった。
「……だめっ」
ニニムはそれができずにしゃがみ込む。
この手で衣服を左右にはだけ、胸を解放することが恥ずかしかった。
その代わりのように、しゃがみ込んだ姿勢で少しでも見えにくいようにと意識しながら、スカートのホックを外す。見えないように、見えないように、尻を地べたにつけることで露出面積をどうにか減らし、座り込んだままの姿勢で脱いでいく。
スカートを膝の位置まで上げた辺りで、片手で太ももを抱き締めた。
両膝に胸を押しつけ、さらに足も束ねることで、すねや足によるガードでショーツへの視線を遮断する。
そのままスカートを脱ぎきって、ウェインに手渡した。
そして、立ち上がる。
言うまでもなく、隠しながらだ。
右手では必死に胸が見えないようにシャツを閉じ、左手では下へと引っ張り、腰をくの字に引っ込めながら、客席からショーツを隠していた。
だが、後ろから見れば、もう尻が突き出されているわけなのだ。
「ほうほう、白ですか」
「白ですぞ! パンツは白です!」
「客席からは隠せても、こちらには隠せませんなぁ!」
家臣三人が実況を開始していた。
(なっ! ちょっと! 言い触らさないで!)
この三人を止めてもらいたい一心で、勢いよくウェインを向くが、当のウェインは気まずそうに目を逸らした。
(いやぁ、ごめんごめん)
(ああもう! 楽しんでるってわけね! 本当に後で覚えてなさい!)
ニニムはウェインへの報復を決め、いよいよ下着の露出を覚悟した。
くの字だった腰を正して、きっちりと背筋を伸ばすと、とうとう客席からも色が確認できたらしい。
「本当に白だぁ!」
「おおっ、いいじゃないか!」
「白! 白!」
(馬鹿じゃないの!? 本当に馬鹿じゃないの!?)
多少はシャツの影に隠れて、それも客席からの距離である。随分と小さく見えるはずのショーツに大喜びする光景に、引けばいいのか、呆れればいいのかもわからずに、ただ両手はそれぞれ反射的に、下着を隠そうと動いていた。
右手がシャツを握り絞め、左手はショーツの上へ移っていた。
かといって、もうシャツを脱ぐ段階だ。
今度こそシャツを脱ぐため、胸の手前をぎゅっと握った。左右へ広げていくことで、少しずつ手前を解放していき、それを脱ぎ切り下着姿になった時には、より一層の歓声が上がっていた。
下着姿から全裸になるまで、やはり時間がかかったのは言うまでもない。
いきなり乳房を晒す覚悟が持てず、少しでも段階を踏むために背中を向け、腕と胸の隙間から引き抜く形で、隠しながらブラジャーをぐ。ショーツを脱ぐのも、しゃがむことでお尻が見えにくくなるようにして、恥じらいをぐっと堪えながら、ショーツでさえもウェインに手渡す。
そして、両手で恥部を必死に隠し、耳まで真っ赤に染まりきった極上の赤面顔を浮かべながら、ニニムは客席に身体を向けるのだった。
「ニニム、気をつけ」
そこにウェインの指示である。
両手を下ろす時、目の前から殺到してくる大量の視線に耐えきれず、もう堪らないかのように天井を向き、客席には顎の裏だけを見せながら、ニニムは全てを曝け出した。
乳房に視線が絡みつく。
以前の剃毛から、まだ毛の短い陰毛があらわとなる。その下にあるワレメにも、必死で目に焼き付けようとする血走った眼差しがいくらでも向けられていた。
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