前の話 目次 次の話




 ロウェルミナは家臣を近くに呼び集め、三人に命じていた。
「放尿を提案しなさい」
 八つ当たりでも何でもいい。
 泣き腫らした顔のロウェルミナは、ニニムの痴態を見ることで気持ちを晴らそうとしている。家臣達もそれに答え、ウェインへの進言に向かっていた。
「ウェイン殿下」
「ニニム殿にこれまでのようなプレイを命じられるのでしたら」
「犬の散歩を行った末、あの柱に用を足させてはいかがでしょうか」
 ウェインは聞くに興味を示して頷いていた。
「よし、犬耳と尻尾だ」
 すぐさまそれらの道具を手に取ってニニムに迫る。
「……殿下?」
 ニニムは見るからに遠慮したそうな顔で引き攣って、ウェインから一歩身を引いた。
「やったことあるだろ? 猫耳だったけど」
「そういう問題じゃなくて」
「もう一回やろう」
「いや、それはもういいといいますか……」
「やれ」
「命令されましても……!」
 明らかに嫌がっていた。
 ウェインが迫れば迫るほど、身体を隠す腕はぎゅっと力が強まって、アソコを覆った手の平も固くなる。
 いかにウェインの言葉であっても、拒否を貫く姿勢が見て取れた。
(……もう十分でしょ! ほら、やって欲しいことがあるなら、二人きりの時に聞いてあげるから!)
 ニニムはそう目で訴えかける。
(ごめん。今ここで)
 ウェインは顔でそう答えた。
(なんで! そんなに私を人前に晒したいの!?)
(どうもそうらしい)
(封印よ! そんなふざけた性癖! 封印しなさい!)
(いや無理だって! どの道、今すぐは無理でーす!)
(ウェインンンンンン!)
 さしものニニムも怒気を上げ、「あとで覚えてなさい」といった感情を途方もなく膨らませる。後の怖さはわかっていても、欲望に飲まれたウェインとしては、もやはやらずに済ませるなどありえない。
「みんな。後ろに回ってくれ」
 ついには家臣三人にまで頼み、背後に並んでもらうことで逃げ道をブロックする。
(いや! 本当に嫌だから! ウェイン!?)
(すまん! ニニム!)
 ウェインは無理にでも犬耳を被せようと迫り、反射的に抵抗するニニムは、その手首を掴んで押し返そうとした。
(後で指全部折る!)
(よし、指を捧げてでも!)
(馬鹿なの!?)
(いいですとも! 馬鹿で結構ですとも!)
(開き直って!)
(すんませーん! 開き直りまーす!)
 武器や体術は学んでいても、純粋な力比べになればニニムが弱い。いくら握力を込め、強く手首を押し返そうにも、ウェインの腕力でだんだんと犬耳は頭に近づく。
 もう一方の手が――左手が二の腕を掴んで来て、そのまま一気に密着直前にまで距離が詰まると、心臓が爆発しそうになった。
(ああもう! 本当にもう! 本当に……こんな時なのに……!)
 ここまでウェインに接近され、顔まで目前になってしまうと、ニニムの顔の赤らみは、裸の恥ずかしさだけではなくなってしまう。もっと別の熱が入り交じり、照れくささで瞳を真横に逸らしていった。
 頭がおかしくなりそうだった。
 一応、本気で怒っているつもりなのに、こんな時でも照れくささや気恥ずかしさが湧いてくるのだ。だからといって、怒りの方が沈むわけでもなく、衆人環視に視姦される羞恥心もあって、あらゆる感情が入り交じり、頭がどうにかなってきていた。
「照れるなって」
 距離の近さをいいことに、小さな声で囁いてくる。
「ふんっ」
「いたっ、本気で踏んだ?」
 ウェインの足がニニムのかかとで腫れたのは間違いない。
「折ってもいいんだけど?」
「よし、足の指も捧げる」
「本当に馬鹿……!」
 ニニムは空いている方の手で拳を固め、ウェインの胸板を執拗に叩く。
 それでも、結局は力負けして、頭に犬耳を装着されてしまう。
 この一瞬で、自分の運命は決定付けられたような気になって、ニニムの抵抗は一気に緩む。
「四つん這いな」
 そう言われ、歯軋りしながらも、ニニムは両手を床に付けてしまう。
(なんで私は結局……こう……)
「客席の方を向け、尻を上げろ」
 ニニムの体勢はウェインに言われるままに調整される。上半身の角度を低め、尻だけを高らかにしてしまう。
 顔が燃え上がりそうだった。
 後ろから見た自分の尻は、割れ目が開いて肛門がばっりち見え、その下にあるアソコも含めて丸見えなのがわかっている。
「さあ! これよりニニムの尻に尻尾を挿入する!」
 ウェインが宣言すると、観衆は応じて沸き立つ。
 欲望の熱気を宿した視線を見ていられず、ニニムは床にべったりと頬を擦り付け、その上で目は硬く閉ざしていた。まぶたの裏側の闇に閉じこもり、観衆の存在だけでも視界から締め出すが、その代償のように身体の感触には意識がいきやすくなってしまう。
 尻たぶにべったりと手が置かれ、ニニムは強張った。
「実に綺麗な尻穴だ! とても清潔だ! 皺の本数はいくつかな? ふむ、一本、二本、三、四、五、六…………」
(なにを数えてるのよ! やめて! やめてってば!)
 ニニムはたまらず手を後ろにやって、慌てて肛門を指で隠そうとするのだが、その瞬間にウェインの手が持ち上がる。
 尻たぶに張りついていた左手が浮いたと思ったら――。

 ぺん! ぺん! ぺん!

 叩かれた。
「やっ! あっ、殿下……!」
 ニニムは可愛い悲鳴を上げてしまう。
「いいねえ! 今の声!」
「やっ! っていうの、普段は絶対に聞けません!」
「もう一回聞きたいもんだ!」
 すかさず、客席から様々な声が聞こえ、脳が締め上げられるような苦しさを味わった。
「動くなよ?」
(ウェインの馬鹿ぁぁぁぁぁ…………!)
「七、八、九、十、十一、十二! 十二本か? Yの字みたく、いくつか枝分かれもあるが、細かいものを省けば十二本だな!」
(いやぁぁぁぁぁぁ!)
 自分でも見ないような場所を詳しく観察され、その結果を発表される恥ずかしさに、頭が爆発しそうになった。
「では尻尾を入れていこうではないか」
 肛門に物が押し辺り、挿入されそうになった途端、ニニムは素早く尻を振る。阻止せんばかりにフリフリと左右に振りたくり、すると再び左手が持ち上がる。

 ぺん! ぺん! ぺん!

「まったく聞き分けがない! しかし、こうして尻を振るのは、まるで誘ってくるかのようで色気があったなぁ!」
(うぅぅぅぅぅ! こっちはそんなつもりないわよ!)
「では今度こそ!」
 尻たぶに置かれた左手には、ぎゅっと肉を鷲掴みにするよう握力がこもってくる。
 改めて肛門に押し辺り、埋め込まれる。挿入によって広がる穴に、ずっぽりと器具が埋まったことで、ニニムは犬の尻尾を生やすこととなっていた。
 さらにはクリトリスにリードを結ぶ。
 この犬のお散歩で、ニニムは客席の中を進まされた。
(うぅぅぅ! いやぁぁぁ!)
 四つん這いであるく姿を何十人とも知れない数に視姦され、途方もない屈辱の中に飲み込まれる。歩行によって、尻の内側の筋肉が可動する光景が注目を集める。
(いや……本当にいや…………)
 周りを見ないためにも床だけに視線を注ぎ、目尻に力を入れた様子も、恥じらいの象徴として観衆を喜ばせるエッセンスとなってしまう。
 極めつけは放尿だった。
「さあ、出すのだ」
 柱の前まで連れられて、命令される。
「で、出ませんよ……?」
 もちろん、放尿など真っ平での言葉であったが、急に出せと言われても困るのも、本当の話であった。
「まあポーズだけでも」
「いやですって……」
「命令だぞ?」
「ですが…………」
「聞かぬのなら、聞くように躾けないとな」
 そんな風に言われただけでも、お尻ペンペンによる辱めが頭を掠める。尻に平手打ちを浴びた際の、肌がほんのりと赤味を帯びる痺れの感覚まで蘇り、それを振り払わんばかりにニニムは激しく頭を振った。
「どうする? 散々叩かれた上で放尿するか、今すぐに素直に出すか?」
「でも……出ない……」
「はははっ、ポーズを取るだけでも」
「うぅぅぅぅ…………」
 意地でも放尿を求めてくるウェインと、尿意が出ないかもしれない一点だけを理由に逃げようとするニニムのやり取りは、しばしのあいだ平行線となる。元々の主従もあるが、服を脱がされ四つん這いにまでさせられて、気が小さくなっていたこともあり、延々と抗い続けることはできなかった。
 結局は押し負けて、ニニムは柱に向かって片足を振り上げる。
 犬同様のポーズ一つで、津波のような恥辱が押し寄せ、心がどこか遠くえ押し流されていくような感覚に見舞われる。
(嘘……なんでよ…………)
 不都合なことに、ちょうど良く尿意があった。

 チョロロロロロロロロロロ………………。

 出て来るのは少量だけで、とても勢いのないアーチだ。
 柱をほんの少し汚しただけで、すぐに伸びが足りなくなり、床だけに注がれ飛沫を散らす。最後に数滴ほどポタポタと垂らしたところで、簡単に途切れていたが、こんな量でも観衆は大喜びだった。
「すっげー! 生放尿!」
「しかと見たぜ!」
「忘れませんよー!」
「一生の思い出です!」
「おい、こっちからは全然見えなかったぞ!」
「俺がじっくり教えてやるって!」
 一つ一つの声がニニムを苛む。
(何が思い出よ……お願い、忘れてぇ…………)
 もしも不可思議な奇術が存在したら、ここにいる観衆全ての記憶を消してやりたいと、ニニムは心の底から思うのだった。



 
 
 

コメント一覧

    コメント投稿

    CAPTCHA