調教とはいっても、ただ性的に身体を開発するのとは目的が異なっている。
いわば儀式だ。
自分を辱めた相手から、さらなる調教を受けることにより、己が敗北者であることを海よりも深く実感する。どん底の中のどん底の気持ちを味わい、その上で這い上がることが、コーチが神谷沙織に課したことなのだ。
翌朝の沙織が受けた仕打ちは――。
その内容は、まずはストリップの披露に始まる。
早朝のジョギングに着たジャージ姿で、前のジッパーを下げて一枚目を脱ぐ。その下のシャツを脱いでスポーツブラジャーの上半身を晒し、ジャージズボンを脱げば下着姿。あとは両方の下着を取り去ると、汗ばんだ裸が下須井の視線に晒された。
「ひゅう! やっぱイイ体だよなァ?」
当の下須井は一枚も脱いでいない。
服を着た男の前で、自分だけが全裸でいるのは、身分差を形としてそれを実感させられるような屈辱がある。
「ふん。好きに見ていろ」
沙織は表面上、毅然としていた。
恥じらっては負けだ。頬の染まった顔など下須井を喜ばせるだけであろうし、まして普通の乙女のように羞恥に震え、ビクビクと恥ずかしがっては、どこまでも舞い上がるに違いない。
「よーし、四つん這いになれ」
「チッ」
偉そうな命令口調が癪に障るが、コーチからは何でも指示に従うよう言いつけられている。自分にこんな地獄を体験させておきながら、それで頂点が取れなければ、煮るなり焼くなり好きにしてやろうと心に誓う。
その上で尻を向けると、頭は低くしろというので枕に沈めた。
「尻の穴までよーく見えるぜ?」
自分からは相手の顔が見えず、下須井だけが一方的に沙織の恥部を眺めている。接近してくる顔の気配が、尻のすぐ後ろに迫り、そっと手の平を置いて撫でてくる。
「……うっ」
表面をじっくりと味わうような撫で方に、尻中に鳥肌が立って寒気が走る。手の平の接触点から何かが滲み、皮膚に汚辱が染みてくる感覚に、ゾッと顔色を変えていった。
「こんなに綺麗なアスタリスクがあっていいのか?」
両手が尻たぶを鷲掴みに、二つの親指が菊門を左右に伸ばす。
「そんなところをまじまじと……」
「お? 恥ずかしいか?」
「黙れ、なんとも思わん」
尻穴ばかりに集中してくる視線に耐え、沙織は静かに終わりを待っていた。この苦行も時間さえ経てば必ず終わる。ひたすらに耐え忍び、開放の時を待てばいい。
「では負け犬の儀式を始める」
「儀式だと?」
「ああ、こうだ」
何かの先端が、沙織の尻たぶを突いていた。柔らかな肉はクレーター上にへこみ、そのスライドによって皮膚に黒いラインが伸びていく。
それはマジックペンだった。
下須井は何か文字を書いているのだと、沙織はすぐに悟っていた。
「好き勝手な真似を……」
まず左の尻たぶに感じたのは、ノの字を成すようなカーブだ。それから横線。次にまたノの字。これはカタカナのクを成したということか。さらに縦線、横線が走っていき、何か四角い漢字を書いたのだとわかる。
右の尻たぶに書かれる文字は、左よりも画数が少なかった。横線を一本書いたら、「人」の字を成すかのようなカーブラインが二本走る。そして、点を打つような短い線が一本。
――犬?
その一語がよぎるなり、沙織はみるみるうちに怒気を浮かべた。
「へへっ、負け犬って書いておいたぜ?」
「どこまでも侮辱を……!」
「そういう儀式だもんな。仕方ないなァ?」
下須井は屈辱の文字を刻むに飽き足らず、用意していたスマートフォンのシャッター音声を鳴らしていた。
「と、撮ったのか!?」
「ああ、そうだ。よーく見ておけよ?」
目の前にスマートフォンが置かれ、その画面を横向きにした中には、沙織の巨尻がアップで映し出されている。肉厚の丸いカーブがでかでかと画面面積を占領して、中央には皺六本の肛門が丸見えで、その下には秘所の割れ目が控えている。
アダルト画像としては、さぞかし尻好きの心をくすぐる一枚だろう。
ただし……。
左尻に『負』――。
右尻に『犬』――。
負犬の文字が、太いマジックペンのラインで書かれている。
「くっ! 貴様ァ……!」
沙織は強くシーツを握り込み、極限までの握力で拳がひどく震え始める。歯を深く噛み締めることで表情は歪み、力んだ肩も硬くなる。
「おら、四つん這いだ。自分の負け犬の文字をよーく見ておけ」
そう、これは儀式だ。
スマートフォンは四つん這いの両手のあいだで、沙織はじっと己の負け犬画像に目を落としている。自己の戒めのために敗北の記憶を保つのは、それ自体決して悪ではないが、ここまで屈辱的な形でそれをやるとは思わなかった。
だが、焦ってはならない。本当に怒ってはならない。
下須井ヒロマサなど、単なる修行道具だ。自分自身の心を追いつめ、精神を鍛えるために利用しているにすぎない。
だから、だから……。
「……くっ!」
いくら頭でコーチの意図がわかっていても、歯軋りの力が緩むことはない。意識的に平静を取り戻そうと考えても、無限に湧き出る感情が、ほとんど条件反射的に全身という全身の筋肉を力ませていた。
「負け犬には首輪がいるなァ? ほれ、用意してあるから動くなよ?」
下須井の無骨な指が髪を掻き分け、邪魔な黒髪を横にどけ、赤い首輪を巻きつける。軽く苦しい程度の締め付けの調整が、本当に苦しいほどではないも、首輪の存在を実感させる。屈辱に耐え切れなくなりそうで、沙織はより強く歯を軋ませた。
「よくも変態プレイを思いつくな。ゲス男め」
「ははっ、コーチのアイディアなんだぜ?」
「何ィ?」
「とにかく屈辱を与えろって言われてるもんでね。首輪もペットショップで買ったもんだ」
「ワンとでも鳴いてやろうか」
負けじと肩越しに睨み返した。
……負けたくない。
あまりの屈辱に心が壊れそうにもなってくるが、どんなに無様な目に遭っても、魂だけはこの胸の中に保ち続けたい。心が折れて駄目になるなど、それは精神的な意味で下須井に屈服することのような気がしていた。
だから負けない。
だいたい、それを指示するコーチもコーチだが、本当にそれを実行してくる下須井にことも許せない。必ず耐え抜いて、どいつもこいつも見返してやる。
「おう? 是非鳴いてくれよ」
――ペチン! ペチン! ペチン! ペチン!
尻に平手打ちが繰り出された。
「ワン、ワン」
これで満足だろう?
と、言わんばかりの決して乗り気でない声量で鳴いてやる。
「ははは! 楽しいねぇ?」
ベルトを外し、ズボンを脱ぎ出す衣擦れの音が、尻の後ろから聞こえてきた。目を瞑っていても戦える強さの沙織にとって、下須井のトランクスの中身が極限まで勃起しているのも、それを下げた途端に太く長い一物が反り返り、まさに尻へ向かってくるのもよくわかる。
「……楽しいのは貴様だけだがな」
ペニスが、突き立てられた。
四つん這いの姿勢では、肩越しにも相手の顔は見えにくいが、どうせさぞかし勝ち誇っているのだろう。楽しそうな顔なのだろう。下須井の方は上から沙織の背中を見下ろすのだ。これに何の征服感もないわけがない。
「神谷、お前はちゃんと自分の敗北を戒めるため、その負け犬の姿をよーく見ながら俺に犯されろ。この犬みてぇなポーズでな」
「ふん。なるほどな」
犬のポーズで首輪までして、尻に負け犬と書かれた画像を見ながら犯される。沙織に対する侮辱でしかない嗜好のセックスで、心の気丈さを保ってみせろというわけだ。
「おらおら、挿れるぜェ?」
亀頭が押し込まれてくるのに合わせ、沙織の秘所は丸い輪のように形を広げる。だんだん肉竿の根元まで飲み込んで、すっかりペニスを含んだ下の口は、初めは感じるというよりも、異物から膣を守るための活性油から分泌していた。
腰のくびれを掴んだ両手が、沙織の身体角度を固定している。
ゆさゆさとした小刻みなピストンが始まると、その都度ぶつかってくる腰が、豊満な尻山をむにむにと潰してきた。ぴったりと閉じようとする膣壁は、亀頭によって左右に割り開かれ、後方へ引いた分だけまた閉じる。
(……私は犬ではない)
そう広くない膣口は、とても自然に竿を締め付け、だから出入りによって生まれる摩擦は強く膣壁に跳ね返る。身体は前後に揺れ、視線を落とした先にある負け犬画像が揺れて見える。
これは貶める目的のセックスだ。
馬鹿にして、侮辱して、犬と蔑むためにペニスは動き、沙織に立場を教え込もうとピストン運動を繰り返す。
(犬ではない。犬ではないんだ)
言い聞かせていなければ、本当に自分は犬に過ぎない気になってしまう。こうして精神的に追い詰める行為には、そういう効果が間違いなくあるのだった。
――じゅぷん! つぷん! にゅぷっ、ずぱん!
しだいに愛液が出始めて、粘液を突き捏ねる音が強まる。
「――っふうッ」
下半身に走る甘い痺れが、沙織に喘ぎを上げさせた。
「おうおう。いい声が出てきたなァ?」
「ば、馬鹿め……苦しいだけだ…………」
沙織は歯を食い縛った。
そこにあるのは快楽というなの屈辱だ。感じれば感じるほど下須井は思い上がり、つけ上がり、そして自分はそんな奴に喘がされたことになってしまう。冗談じゃない。下須井なんかで何も感じたくはない。
しかし、上昇するピストンペースに電流が弾け、背筋をかけてうなじに及ぶ。
「ん! んん! んっ、んん……!」
おかしいほどに顎を力ませ、唇を閉じ合わせていても、喉奥からの息漏れの喘ぎは、確かに下須井の耳に届いてた。
「へっ、負け犬が感じてやがるぜ」
「感じてなど――んぅ――んっ――ん――!」
喋ろうとすれば、危うく本当に喘ぎかけ、慌てて口を閉じ直す。食い縛る歯を強め、ますます頬を強張らせ、沙織は懸命に耐え忍んだ。
「おら! 尻にぶっかけてやるぜ!」
引き抜いた下須井は、沙織の巨尻に多量の精液をぶちまけた。
白濁濡れに汚れることで、太いマジックペンのインクが染みた尻肌の上で、負と犬の二字がところどころ白く塗りつぶされる。黒ずみの薄い綺麗なアスタリスクの肛門には、ちょうどスライムの粘膜でフタをするかのように付着していた。
「また撮ってやるから動くなよ?」
下須井のスマートフォンが、尻の後ろで何度も何度も、いっそ聞き飽きるほどにシャッター音声を鳴らし続ける。その画像は当然のように見せ付けられ、自分のみっともない尻を拝む羽目となる沙織は、ひたすら屈辱に震えていた。
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