前の話 目次




 犬扱いはその日だけに留まらない。
 次の日になると、今度はご丁寧に犬用リードまで用意して、砂浜に散歩へ出かける羽目となっていた。
「いやー気分いいねぇ? 神谷さんよォ」
 沙織の後ろで、下須井はリードを握っている。
「どこまでも最低な奴め」
 四つん這いで歩く沙織は、膝と手の平に砂粒が食い込む感触と、横合いから聞こえる静かな波音の中で、より一層の屈辱に震えていた。
 尻にはやはり、負と犬の字が新たに書き直されている。
 ほんの少しばかり苦しい締め付けのある首輪は、下須井がリードを引っ張るたびに喉にやや食い込んでくる。
「最低なのはお前の方だぜ? よく平気でこんなプレイに付き合えるな。マゾ女」
「……なッ!?」
「本当は楽しんでるんだろ? 素直になれよ」
「ふざけるな! 私は仕方なくやっているに過ぎない!」
 肩越しに振り向く沙織が、それでなくとも鋭いツリ目で睨みつけ、激しい怒気を放出するのは、本来なら誰もが気圧される凄味があった。もしかしたら、並みの一般人なら泣いて逃げ帰るのかもしれない。
 それほどの気迫を持ってして、下須井はヘラヘラと笑っている。
 全裸の四つん這いで肩越しに振り向くなど、尻と顔がセットで視界に入るいやらしいものでしかなく、なまじある凄味は逆に滑稽さを強めている。強気な顔など下須井をますます興奮させるためのエッセンスでしかなかった。
 ニヤける下須井の顔を見て、沙織はそれを痛感していた。
 自分がどんなに怒っても、憎悪を燃やしても、今はまだ無駄だ。
 だが、いずれ必ず……。
「仕方なく? さて、どうだか」
「ふん。勝手に妄想していればいい」
 沙織は歩みを進め、この犬の散歩プレイがさっさと終わらないかと待ち望んだ。
 コーチの別荘地には他に人がいないのが救いだが、それにしても野外で全裸という事実に変わりはなく、しかも犬扱いなのが余計に羞恥を強めている。
「おい、オシッコをだせ」
 ちょうど尿意があるときだった。
「何ィ?」
 沙織は再び肩越しに睨み返す。
「向こうにちょうどいい木が生えてるだろ? 片足を上げて小便を垂れてみせろ」
「貴様は人をなんだと思ってるんだ」
「犬だろ? お前」
「い、いいだろう。だが覚えておけ? 貴様が調子に乗れば乗るほど、あとで返さなければならないツケが溜まっていくんだ」
「はいはい」
 下須井は何一つ意に返さない。
 きっと、放尿したら最後、つけ上がるあまりに下須井の心は雲の上にすら飛んでいくに違いない。対する沙織はどん底を超えた奈落の底か。
 木の元まで移動した沙織は、その根元に向けて片足を持ち上げた。

 ジョオオォォォォォォォォ――――

 一本の黄色いアーチが、木の根にかかって滴を散らし、地面にみるみる染みていく。
(人前で……私は…………)
 惨めで惨めで仕方がない。自分がもう人間ではない気さえしてくる。
「これで満足か」
「ああ、犬畜生のお姿が拝見できて満足だぜ?」
「くっ……!」
「さて、今度は俺が犬の世話をしねーとなァ? 風呂でお前を洗ってやる」
 浜から別荘までの道のりも、当然犬扱いのまま帰ることとなり、脱衣所まで来てようやく首輪は外される。もちろん身体を洗うために外したに過ぎず、人として普通に直立する許可は出ていない。
 かくして風呂場にて、下須井は自身も全裸となり、手の平に石鹸を泡立てていた。
「最初は前足から洗おうかねぇ?」
 そう言って下須井は、沙織の右肩から指の先にかけて泡を塗る。お楽しみはとっておくかのように、次は左腕を丁寧に洗う。両足に移っても、太ももからつま先にかけてのみで、尻や性器には触れてこない。
 人に身体を洗ってもらうなど、恥ずかしいというか情けないというか。自分でやればいいことを人にされるのは、実に格好のつかない話である。
 背中や腰までまさぐられ、くすぐったいような不快感に耐えた沙織は、全身を泡の塊に包まれていた。元より美白の肌に泡の白色が上塗りされ、腕にも足にもまんべんなくまとわりついている。
 続いて尻が撫で回される。
「肛門ちゃんも洗ってやるよ」
 下須井は左手で尻たぶを鷲掴みにしたまま、右手の指で肛門を触り始めた。
「――むっ、うぅっ」
 ぐにぐにと指腹で撫で込むようなマッサージが、沙織をさらに情けない気持ちにさせる。上下に泡を塗りつけて、さらに皺をぐるぐるとなぞるようにしてくる動きは、くすぐったくてむず痒い感覚を与えてきた。
「どうだ? 人に清潔にしてもらう気分は」
(い、嫌過ぎる…………)
 いかに石鹸を泡立てようと、もはや泥を塗られている気分でしかない。
「仰向けのM字になれ」
 その通りに脚を開けば、ニタニタと上から見下ろしてくる下須井の顔と視線が合う。人の勝ち誇った表情など癪でしかなく、沙織はじっと顔を横向きに背けた。
「……なったぞ」
「こっちを見ろ」
「…………」
 そう言われれば、無言で睨み返してやるしかない。
「両手の手首をクイっと曲げろ。招き猫みたいにするんだ」
「何故だ?」
 純粋に意図がわからず、しかし沙織はそうしてみる。
「犬が仰向けになったら、だいたいそういう感じだ」
「……なッ!?」
 途端に屈辱を覚えた。
 そういえば動物の中には、降伏を示すために腹を見せる行動があるという。ならば仰向けで局部丸出しのポーズを取る沙織は、まさに完全敗北を全身で表現しているといってもいい。
「ほらほら、オッパイも洗わないとなァ?」
「――ぬぅぅぅッ」
 乳房に泡が塗りたくられ、脇の下からくびれにかけても、腹全体も石鹸にまみれていき、これで余すところなく洗われたことになる。
「神谷犬ちゃんよ。最後の場所は、やっぱしコイツで洗ってやるぜ」
 当然のように肉棒が突き込まれた。
「――くっ! むぅぅッ」
「オラオラオラオラ」
 ――パン! パン! パン! パン! パン!
 太いものの出入りを感じながら、好きに腰を振ってくる下須井の顔を見ていると、甘い痺れと共に被支配感が沸いてくる。自分は下須井の奴隷であるような、飼われた犬であるような気持ちが沸いて、その落ちぶれた感覚に涙が出る。
 ――ずぷん! じゅぷん! ずぱん! ちゅぱん!
 大胆なストロークに膣壁を抉られるほど、それが気持ちいいほどに、沙織の心は深いところへと沈んでいく。
(私はこんな奴で感じているんだ……)
 歯を食い縛っていなければ、沙織は確実に喘いでいる。
 無念でならない。
 それでも、そうされているしかない。抵抗はできるができない。胸中に広がる敗北感と、下須井の支配を受けているんだという被征服感をじっくりと噛み締めて、沙織は肉棒の出入りに意識をやった。
 ――ずぷっ、じゅぷっ。
 下須井のペニスは根元から先端にかけての太さが均一で、ほとんどカーブの反りがない。壁と壁の閉じ合わさった狭さの膣口を左右に広げ、拡張するように突いてくるピストンのたび、内股に電流がほとばしる。
「――んっ! むっ、んむぅっ、くむぅぅ!」
 頬に力の入った表情は、見るからに声を堪えているのが丸わかりなのだろう。
「我慢しちゃってェ!」
「――くぅっ、くむぅっ!」
「ホラホラホラァ! イッちまいな!」
 下須井の腰振りにより、沙織の股には着実に何かが集まっていた。快楽の風船が秘所で少しずつ膨らむように、だんだんと予感が高まっていき、やがて沙織は絶頂した。

「――くぁぁぁぁぁあ! あっ、あうぁっ」

 ビクビクと腰を震わせ、両手をよがらせた沙織は、力尽きたように全身脱力しきって手足を投げ出し、肩で深く息をする。
「イッたな? 神谷。俺のチンコでよォ」
「…………黙れ」
「イったんだよ。ワンちゃんが。いいから舐めろよ。四つん這いでな」
「ゲスめ……」
 沙織が四つん這いのポーズを取ると、下須井は椅子に座って股を左右に大きく開く。その股座へ顔をやり、肉棒を頬張り、嫌な言葉の責め苦を受けながら奉仕に励む。
「へへっ、犬がエサ喰ってるみてぇな光景だぜ」
 誰が犬だと、心の中で言い返して、沙織は頭を前後に動かした。
「――じゅっ、じゅむっ、じゅるるぅぅ」
「ご主人様からビーフジャーキーを貰っている姿そのものだぜぇ?」
(いいだろう。耐え続けてやる。これしきの屈辱……)
 沙織は犬であり続ける。
 コーチによる特訓が始まるその日まで――。



 
 
 

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