翌日から、神谷沙織は早速のように大河内ショウの元へ訪れ、今すぐにでも特訓を始めるつもりで動きやすいジャージに着替えていた。
コーチの住む別荘は海の手前。
大金持ちならではの大屋敷の窓辺からは、どこまでも広がる青い景色が美しく、また裏手には大きな山がそびえている。沙織はそんな豪奢な部屋に招かれ、そこでこれからの方針を告げられることになる。
「まずは自分の敗北を認める必要がある」
並行一番、ショウはそう言った。
「敗北か……」
「思うところはあるだろうが、言い訳をしたって意味はない」
「……わかっている。それでどうする」
「録画映像がある。まずは試合を振り返るんだ」
「…………」
沙織は閉口した。
案内された部屋には大画面のテレビがあり、サイズでいえば体操マットや座布団数枚分には匹敵する。明かりを落として映画作品でも再生すれば、ちょっとした劇場気分が味わえることだろう。
ショウが再生の準備を済ませ、それから二人は並んでソファに座る。リモコンによって画面がつくと、まず出てくるのは沙織自身が股を広げたあの場面だ。
――どうだ! 見ろぉ! これが神谷沙織の愛液よォ!
映像の中にいる下須井は、鬼の首でも取ったように勝ち誇っている。指には沙織の愛液が絡みついており、あの恥辱が蘇るようで画面から目を背けてしまう。
「神谷。しっかり見ろ」
沙織は膝に置いた拳を震わせながら、苦しい思いで顔を持ち上げ、そこに映る自分自身の耳まで赤い表情に目をやった。あの時は指で顎を掴まれ、逸らしていた顔を強制的にカメラ向きにさせられたのだが、自分のしていた表情を見ると何も言えない。
いかにも許して欲しそうな、これから泣いて命乞いをしてもおかしくない顔つきは、とても自分のものとは信じられない。
え それに、あのリングで受けた屈辱はこれだけではない。
沙織はあのあと、さらに酷い仕打ちを受け、その全てを実況され、丸ごと映像に収められてしまっている。
四つん這いにさせられた。
マットに顔を押し付けられて、あのときの沙織には、下須井が後ろでどんな顔をしていたのかは見えなかった。見たくもなかった。ただ尻だけを高くした姿勢で、情けなくも目を瞑り、震えながら耐えることしかできなかった。
画面の中にいる下須井は、高らかに腕を振り上げている。
そして――
――スパァァァン!
叩いた。スパンキングだ。
黒スパッツの中に響いた衝撃が、ヒリヒリとした痛みの記憶が蘇り、尻に意識をやった沙織は恐る恐るといった視線で隣を伺った。
叩かれたときも最悪だったが、そんな自分の姿を別の誰かと一緒に鑑賞するなど、これは何の罰ゲームであろうか。
――パァン! パァン! パァン!
無抵抗に平手を浴びる画面中の沙織は、マットに顔を埋め込み頭頂部をこちら側へ向けた姿勢で、尻は下須井側である。高い位置にあるスパッツ尻はよく映り、左右交互に打たれるたびに良い音を鳴らしている。
『なんと無残! これが最強のクイーンの姿か!』
改めて聞く実況の煽りも、勝てるのに勝てないことの歯がゆい気持ちを刺激して、余計に悔しくさせてくる。
――へへっ、次はケツを丸出しにしてやる。
スパッツがずり下げられ、剥き出しの尻肌を鷲掴みにされた。その指が強く食い込む感触も、高らかに実況されたのも、全ての記憶が沙織の身体には残っている。さらに生尻にまでスパンキングを受け、ほんのりと手形がついたのは間違いない。
『今度は開帳! 赤ん坊のように抱き上げたァァァァァァ!』
さらには股を抱き上げて、M字開脚の形に持ち上げ、アソコと尻の穴まで大きく画面に映し出されてしまった。
『これは! 本当に毛が生えていない! 剃ってあるぞぉぉぉぉぉ?』
実況が羞恥を煽る。
『ビラが少しもハミ出ていない綺麗な割れ目に、お尻の穴は綺麗なアスタリスクのような六本の皺で出来ている! 黒ずみの薄い清潔感には驚きだぁぁ!』
性器の形や肛門について、こうも細かく指摘された画面中の沙織は、両手で顔を覆い隠し、その内側で表情を歪めている。これで全ての恥部についての説明が、大衆に向けて行われてしまったことになるのだ。
恥ずかしさで気が狂いそうだったのは言うまでもないが、そんな自分自身の映像を確認するなど、あのリングで浴びた何千何万からの視姦が蘇り、肌中にあった視線の感触が今にも生々しく素肌を走る。
尻の穴という自分では確認できない部位の情報さえ、大衆に知れ渡っているのだ。そう思うだけでむずかゆい。
「有料チャンネルでは胸までは放送されたが、下半身はこの通り修正されている」
ショウの言うように、大きな黒丸で肝心な部分は塗り潰していた。アダルトであればもっときわどく、無修正の性器を見せないだけのモザイクに留めただろうが、尻も腰も丸ごと隠す勢いの修正は、かなりの意味で卑猥さを激減させる。
その方が、沙織にとってはマシではあるのだが……。
「とはいえ、現場では全部丸見えだったようだからな。パシャパシャ撮った奴が何人いたか。流出した画像を悪いが俺も見させてもらった」
「……そうか」
「確かに綺麗なアスタリスクだ。確認するといい」
と言ってショウは、テーブルにノートパソコンを立ち上げ、あらかじめ保存していた下腹部の画像を出す。
「――うっ」
沙織は思わず目を背けた。
「ちゃんと見るんだ」
そして、苦しい思いで目を向けた。
大きく映し出される性器と肛門は、M字の股をアップにしているだけあって、卑猥なこと極まりない。尻穴は本当に『*』のマークと変わらない放射状で、皺の本数も一目で六本あるとわかりやすい。
――黒ずみの薄い清潔感には驚きだぁぁ!
実況の雄たけびが頭の中で今一度再生され、若干桜色じみているのが、まさに驚きの清潔感を証明しているようでなんともいえない。
初々しい十七歳のワレメも綺麗なもので、白くきめ細かい肌をぷっくりと膨らませた中央には、ぶれない直線が滑らかに通っている。
――さあお前ら! こいつのアソコの中身が見たいか!
下須井は観客に対して呼びかける。
――うおぉぉぉおぉぉおおお!
歓声がそれに答えた。
下須井の手は下へ下へと、秘所のところへ映っていき、大切な乙女の園を容赦なくぱっくりと、左右に大きく開いてしまう。
『これは環状処女膜だ!』
実況は専門的な言葉を口にした。
『知識ある方はご存知のように、処女膜とは膣口の内側にある粘膜のヒダ。必ずしも本当に膜が閉じているとは限らず、指が一本かあるいは数本入る小さな穴が初めからあるわけですが、沙織選手の処女穴は、まるで星型のように少しだけギザギザじみた丸穴です』
ノートパソコンの画面を見るに、全くその通りの形状をしている上、愛液が泡立った残りまで付着している。
『濡れたあとなのは言うまでもない!』
改めての指摘が羞恥を煽り、沙織は頬を硬く強張らせた。
「これが今のお前だ。わかるな?」
「ふん。わかりたくもないがな」
「どんな理由があろうと、ああなったものはなったんだ。お前が決して負けを知らずに育ったわけでないのは記録でわかるが、ここ数年以上は負けを知らない。この辺りで、もう一度敗北と向き合うことが、今のお前のスタートラインになる」
あらかじめ下須井ヒロマサと連絡をつける手はずは整えてあり、もしも沙織が頷けば、今日中に呼び出せる予定だったという。決定的な瞬間を今から待つことになり、覚悟や緊張の中で沙織はシャワーを浴びていた。
本当に強くなるには、それこそ生死に関わる危険な特訓はざらにある。軟弱な精神で世界は取れないとはその通りだが、まさかメンタルを試す方法が、自分を負かした男に抱かれろとなるとは想像すらしなかった。
まずはそれだけ、泥水でも啜るほどのどん底を味わえということか。
好きでもない男の身体を洗い、清潔にしておくだなんて、既に良い気持ちがしていない。生け贄にでも選ばれた気分だ。コーチもコーチで、自分で抱くのでなく他の男をわざわざ呼び、そいつのためにホテル代まで用意していた。
そう、ここはラブホテル。
シャワーを済ませた沙織は、指示通りにバスタオル一枚だけで出て行き、大河内ショウに扇情的な姿を見せる。
「ほう?」
品定めの視線に晒されて、途端に気恥ずかしくなった。
谷間が一センチだけ覗けるタオル姿は、高身長のせいか丈の長さが頼りない。ほとんど丸出しになっている太ももから、ほんの数センチほど持ち上げるだけで、尻やらアソコやらが見え隠れするはずだ。
腰のくびれたボディラインも、当然のように浮き出ている。
「奴はもう来るのか」
「ああ、まもなくだ。すぐに来るだろう」
ソファにかけていたショウは、重い腰を持ち上げるように立ち上がり、ゆさゆさと肩を揺らして部屋を出る。きちんと相手をするようにとだけ言い残された沙織は、これからに対する色んな思いを抱えながら、ベッドに腰を沈めていた。
初めての相手が、下須井ヒロマサで決定してしまった。そのどんよりと重くなる気持ちもさることながら、自分をあんな目に合わせた最低漢が、これからもっと調子に乗り、さも楽しげに微笑むのかと思うと煮えくり返る。
(あんな奴が……あんな奴と私は…………)
本当に泥水を啜ってみせる。頭から酒をかけられる。土下座をする。他に思いつきうる屈辱の方が、いくらでもマシな気がしてくる。
やがてして、ドアノックの音が聞こえた。
「よお、本当にいるのか? 神谷よぉ」
下須井ヒロマサの声だ。
「ああ、入れ」
「へへっ、失礼するぜぇ?」
あのゲスな微笑みを浮かべて、無遠慮に踏み込んできた。
「本当に来たんだな」
「来たぜぇ? 面白いこと考えるコーチもいたもんだなァ? 確かにお前は精神を鍛えないと、今まで調子に乗りすぎたからなァ?」
「お前が人に鍛錬の必要を説くとはな」
「鍛えてやれと、他でもないお前のコーチから頼まれちまったもんな。俺もはりきって調教してやるから、せいぜいお前も頑張れや」
下須井は手荷物を置き、さっそくシャワーを浴びに行く。
しばし待ち、楽しみで仕方のない顔の下須井を迎えると、柄でもない緊張感が押し寄せ全身が強張った。
(今からするのか……)
しかも、下須井と。
「楽しかったなァ? この前の試合はよぉ」
隣に座ってくる下須井は、遠慮もなしに沙織の肩に手を回し、しっかりと抱き寄せる。ゾッと鳥肌が広がって、沙織はブルっと身震いした。
「何が楽しいものか」
声も怒りと緊張で震えていた。
「楽しかったじゃねえか。おっぱいもマンコも、尻の穴まで大衆に見てもらってよォ」
「楽しかったのはお前だけだ」
「いいんだぜ? 素直になれよ。未知の体験は女として最高だったろ?」
「……なッ! ふざけるな!」
沙織は本気で怒った。
バトラーとしての厳しい修行を経て、沙織は生死の危険や怪我と隣り合わせの体験を今までしている。だから一般人とは比較にならない丈夫な精神を持ち合わせ、あんな目に遭っても一応のところは今まで通り生きている。
だが、普通なら人生が終わったような絶望に苛まれ、飛び降りるなり引き篭もるなり、そういう反応があってもいい。いや、むしろそれが正常な反応ですらある。あれで完全には心が折れていないなど、常識的な視点からすれば怖いとすらいえる。
もっとも、二人とも常識を逸脱した者同士だ。
沙織から見れば下須井は雑魚だが、その下須井にしても一般男性が何人束でかかって勝てる相手でもない。
「おいおい、楽しくもねェのに濡れる女がいるか?」
「黙れ! 馬鹿にするな!」
「っつってもな。これからヤる相手だしよ」
下須井は沙織の頭を指で掴み、くいっと動かし自分を向かせる。
「貴様ぁ……!」
「いい顔だ。たっぷり楽しませてやるよ」
手始めとばかりに下須井は唇を押し付けて、沙織のファーストキスを奪い取る。
(……お、おぞましい!)
腐敗した生ゴミでも食わされようとしているがごとく、沙織は全身全霊で唇を閉ざした。そんな沙織の硬い唇に対して、下須井の唇はリング状に大きく開き、沙織の唇をこれでもかというほど激しく貪る。
下須井の舌先が、沙織の唇の合わせ目をべろべろ撫でる。自然と頭が後ろへ逃げようとしていくが、がっしりと後頭部を掴まれて、やっと息継ぎのために二つの口が離れた頃には、沙織の唇は唾液濡れの光沢を帯びていた。
(私のファーストキスが……)
戦いの道に生きすぎた沙織の乙女心は一般的な少女と比べて薄い。メンタルが強いので傷ついても変わらないという見方も可能だが、何にせよ初めてはきちんと恋人と、という常識的な夢想くらいは普通にあった。
まして、相手は下須井なのだ。
「ご馳走になったな。神谷よォ」
それを奪った男の顔は、いかにも下品な表情を浮かべている。欲望の権化が何かを満たしてせせ笑っているそのものの表情だ。
「ふん。もう少し上品に出来ないのか」
「セックスに下品も上品もあるか?」
「人としての品があれば抱き方も変わる。お前は最悪だ」
「処女がよく言うぜ」
指摘され、沙織は目を伏せた。
「……黙れ」
「へん。黙々とやってたって楽しくねーのさ。お前の方からも、俺にキスしろ」
「誰がするものか」
沙織は目を背けたまま、じっと壁でも見つめていた。
「おい、コーチに言われなかったか? お前は俺に奉仕する義務があるんだよ」
「…………」
「あんまり言うことが聞けないようなら報告しろとも言われている。へへっ、なかなか厳しい奴のとこに行ったもんだな」
「まあいいだろう。死にはしない」
意を決するしかない沙織は、両手に下須井の顔を包んで見詰め合う。が、視線が絡んで気持ちのいいことは何もないので、さっさと目を瞑って唇を近づけようとするのだが、心理的な抵抗から沙織の顔はそう簡単には動かなかった。
もしも汚物を食べろだとか、飲尿しろと言われたら、それを口に運ぶまでにはどれほどの心理的な労力がいるだろう。
向こうからキスをされるのと、自分からするのでは違う。
磁石の反発じみて後ろへ逃げようとする自分自身の頭を制し、無理をしてまで唇を接近させていく労力は、華奢な腕で重量物を持ち上げることにも匹敵する。そうまでしてキスを行う沙織の全身には、当たり前のように鳥肌が広がっていた。
(……とんだ拷問だ)
ただ重ねるだけのキスをしていると、下須井は何も言わずに口を半開きに、舌を極限まで伸ばしてくる。ディープキスを求めた露骨な合図だ。
(やるしかない、か)
どん底を味わえ、汚物を喰らえ。
下須井マサヒロという男は、自分が糞味噌の代替品だということを知っているのか。はたまた別の言い方をされ、のこのこやって来たわけなのか。沙織には与り知らぬところだが、これはそういう試練なのだ。
(やってやる。このぐらいは何ともない)
沙織も舌を伸ばして絡め合った。
唾液をたっぷりとまとった舌の感触が、そのまま沙織の舌にまとわりつく。さながら親鳥が子にエサを与えているような、啄ばむようなキスの応酬は、遠慮とたどたどしさばかりで、いかにも仕方なくやっているのがよくわかる。
嫌いな食べ物を我慢するより、ずっとずっと嫌だ。
「はむぅ……んぷぅ…………」
それでも、沙織は自分の唇に下須井の舌を挟み、お互いの舌先を触れ合わせたり、啄ばんだりと色んな方法を試していく。
「咥えろ」
その一言で、沙織はバスタオル巻きの下半身に目をやった。天を貫くような勃起が、タオルをテント状に持ち上げている。キスだけでも糞尿を食わされる気持ちがしたのに、ペニスを口に入れるだなんて出来るのだろうか。
「て、手で……」
「おう? 天下の神谷沙織様も、さすがにフェラチオの度胸はないってか?」
咥えたら咥えたでいい気になり、勝ち誇った笑みで沙織のことを見下ろすだろうに、やらなければやらないで馬鹿にしてくる。
「くそっ、やればいいんだろう!」
ベッドの横に両足を下ろしている下須井。その大きく開いた股元へ、床に膝を下ろして座る沙織は、下須井のバスタオルを取り外し、生まれて初めて直視するペニスに大きく表情を歪めていた。
***
沙織の目と鼻の先。視界の中央を占めているのは、嫌に立派な太さの勃起ペニスだ。はち切れんばかりに膨らむ肉棒は、天井へ向けてそそり立ち、皮の下から血管を浮かせている。
少し視線を上げていけば、よく鍛えられた腹筋に肉厚の胸板。それから、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべた下須井の顔が、沙織をよーく伺っている。
(こんなものを口に入れるのか……)
沙織は視線をペニスに戻した。
性的な知識がないでもなく、男性器に刺激を与えるにも色々と方法があるのはわかる。その中には口でする方法があるのも知っている。
しかし、相手は下須井。
いざ口を近づけようと思ったなら、想像を絶するほどの心理的抵抗が働いて、顔が前に進むどころか後退した。
「おいおい。ビビってるのか?」
「馬鹿な。気持ち悪いから躊躇うだけだ」
というのは事実に過ぎない。汚物、生ゴミ。あるいは蛾だのナメクジだの、そういうものを口に入れろを言われて、平然と頬張ることのできる人間がいるだろうか。
これが恋人のペニスか何かなら、まだしも愛おしく思えただろう。女にだってそういうことに興味は持つし、好きな人とのセックスについての夢想もする。下須井のペニスであるという事実こそが、最大限の躊躇いを与えているのだ。
「ほらほら、まずは両手で握ってみな」
「……こうか」
根元を手の平に包み込むと、異様に硬い肉の感触が伝わってきた。生温かい温度が手肌に染みて、ピクっと脈打っているのもわかる。
「いいぜぇ? 亀頭の口に優しくキスしな」
命令口調が気に食わない。
だが、自動的に後ろへ下がる頭を無理に押し出し、前へ前へと唇を近づけて、沙織はそっと亀頭に口付けした。
その瞬間、鳥肌が広がった。
唇のまわりが、顎が、頬が、みるみるうちに毛穴を広げて冷や汗を噴き出し、肌中がSOS信号を放っている。
「したぞ」
たまらずに、ほぼ反射的に唇を離した沙織は、嫌悪感を隠しもしない顔で下須井を見上げた。
「もっとだよ。舐めろ、咥えろ、たくさんしろ。フェラチオらしく努力しろ」
「くぅ……やればいいんだろう…………」
コツも何もわかりはしない。
ほとんど手探りで、まずは再び唇を押し当て、生理的拒否反応を抑えて亀頭の約半分を揉み潰す。舌を伸ばし、先端をペロペロ舐め、またキスをする。単純なキスと、唇を駆使した亀頭マッサージと、舌先で舐める行為の三つをとにかく繰り返した。
ぺろっ、ぺろっ、ぺろっ、ぺろっ、ぺろっ、ぺろっ…………。
つむじあたりに注がれる下須井の視線を感じつつ、拙く舐める沙織の舌には、亀頭の味ばかりが染みていく。舌の根にまで鳥肌が広がって、嗚咽しかけてなおも舐め、また唇を使って噛みほぐす。
「はっはっは! いい気分だぜ!」
下須井は沙織の頭をポンポン叩いた。
沙織の胸にじわじわと広がるのは、決定的な敗北の気持ちである。勝者と敗者の関係をわかりやすい構図に変え、こんな風に奉仕をして、下須井が喜べば喜ぶほど、沙織の胸にある屈辱は、まるで破裂する限界が存在しない風船のように、永遠に膨張していく。
「神谷ァ! お前はどうだ? 俺のチンポは美味しいかァ?」
(……黙れ、まともな味がするものか!)
沙織は睨み上げ、下須井は楽しげにする。
「おら、もっとしゃぶれ! 咥えろ! 一生懸命、この俺を感じさせな!」
頭をポンポン叩かれ続け、ますます敗北感に呑まれていく。
顔を前に進めた沙織は、肉竿の約半分までを飲み込んだ。太さのあまりに口内のほとんどが肉棒に占領され、舌もやむなく密着している。
(くそ! 私がこんなことを!)
沙織は頭を前後に動かし始めた。
前へいくにつれ、亀頭が喉を塞がんばかりになる。頭を引けば唇の裏にカリ首がぶつかり、貼りつく舌は前後に肉竿を刺激する。
――レロォォ……ズルゥゥ…………。
口内にものが入っていることで、生理的に分泌される多量の唾液が、肉棒の表面をコーティングしてぬかるみに包んでいく。唾液が泡立っているためか、非常にかすかではあるが、泡のプチプチと潰れる音もしていた。
癒着した舌と肉棒のあいだに、たった一ミリでも隙間が出来る際には、二つを粘着させていた唾液が濃密な糸を引く。そして、すぐに舌は竿に張り直され、密着のままに前後へ這い続けることになる。
とっくに心が悲鳴を上げていた。
岩盤に少しずつヒビが入っていくように、プライドに亀裂が走り、今にも砕けそうな心を気力だけで繋ぎとめている。
(そうか。そういう鍛錬か)
尊厳を足で踏みつけ、プライドに泥を塗る。恥辱という名の苦行に耐え、傷つきながらも茨の道を通り抜けてみせることこそ、下須井との性交渉に隠されたテーマだ。そうでもなければ、自分がこんなものを頬張っている事実に納得いかない。
(そうだ。下須井など踏み台だ。私が前に進んでいくための――)
――ジュッ、ジュルッ、ジュジュゥ……。
屈辱に味がついたとでも思って、沙織は甘んじてそれを啜った。肉竿の角度を支えるために両手に、指圧的な力を加え、全ての吐き気を堪えて一生懸命に奉仕する。
「お? やる気が出てきたじゃねーか」
いい子いい子とばかりに頭を撫でる手つきには、当然のように沙織を馬鹿にしたい気持ちが込められている。いい気になっている。調子に乗っている。全て沙織の口で気持ちよくなっているからだ。
「好きに穢せばいい。それでも、私はかつて以上の輝きを手に入れ、今日のお前を見返して余る功績を残す!」
「ほーう?」
決意の熱を帯びた睨み顔と、相手を値踏みする調子の良い表情で、お互いの視線が絡み合っていた。
睨み上げたまま……。
一旦離れた口を近づけ直し、そっと押し付けるようなキスから、少しずつ唇の輪を広げていくようにして、今一度亀頭を飲み込んだ。色気のない怒気ばかりの表情で、口にはペニスを含む沙織の顔は、果たしてどこまで下須井を興奮させているものか。
「ズチュ、ンジュゥ……ずるっ、ずりゅぅぅ…………」
どれほど興奮されようと構わない。己の心にヒビが入れば入るほど、それはより高く飛ぶためのバネとなるのだ。
――悔しい! 悔しい! 悔しい!
だからこそ、いくらでも奉仕してやる。
「パイズリはわかるか?」
「ふん。さしずめ、こういうことだろう?」
自分のバスタオルを脱いだ沙織は、恥じらいはあるものの全裸を晒す。常識的な羞恥心から耳の先まで染めながらも、プルっと弾力の強いゴムボールじみて硬い乳房で、しっかりとペニスを包んで刺激を与えた。
胸板の中央に硬い感触が埋まり、乳房で覆って逃がさない。勃起の熱量ばかりか、今まで沙織自身がまぶした唾液のぬかみもあり、その全てが肉棒との接着部位に広がっている。
――むにっ、むにっ、
睨み返す視線は変わらないまま、胸でペニスをしごき始めた。
「どうした? 急に覚悟なんか決めちゃってよォ」
「ふん。どん底の泥水に浸かって鳴れただけだ。お前という泥水にな」
「言うねぇ? 処女の神谷沙織ちゃんよォ」
「どうせ最後までするつもりだろう。その処女も今日でくれてやる」
両手掴みの自分の乳房を上下させ、無心にしごいている沙織は、やがて身体ごと上下に揺すって刺激を与える。
いつ射精するのか。精液とは臭いのか。
どうしようもないことを気にしながら、両手で強く乳圧をかけ、それだけ強く肉棒の熱気を皮膚に感じる。
――むにっ、むにっ、
真下を見れば、谷間から見え隠れする亀頭がある。
「ヤらせろ」
と、一言。
そして沙織は仰向けになった。
コメント投稿