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 ショウは極めて真面目な口調で、少しばかり熱い感情さえ込めて言っている。決してセクハラめいた目的で映像を見せつけたわけではないのだろうが、たとえコーチとしての自分とプライベートの自分で切り替えが出来ていようと、画像がPCに保存してあるのは、つまりそういうことに他ならない。
 コーチとしては真面目なのかもしれない。
 だが、プライベートでは沙織の画像を性欲目的で保存している。自分の性器と肛門を握る男につき、その下で特訓を受けるなど良い気分はしない。何かの拍子や練習終了時など、沙織の前でコーチとしての仮面が取れる瞬間があったなら、セクハラの予感さえよぎってくる。
 しかし、あの屈辱を晴らせるときが来るのなら……。
 それでも彼の指導を受ける価値はあるのだろう。
「私が進む先のゴールは頂点以外ありえない。お前こそわかっているか」
「当たり前だ。神谷沙織を世界一にするのは俺だ」
「ならいい」
 映像はまもなく終わりを迎え、タイムアップによって文句無しの敗北判定が出されてしまう。
『負けた! 史上初! クイーン敗北! これこそがクイーンの負けた姿!』
 大げさな実況。
 映像の中の沙織は、最後には腰を振られていた。もちろん本当に犯されたわけではないが、押し倒された挙句にボクサーパンツの股間を刷り当て、レイプごっこと言わんばかりに楽しそうに笑っていたゲスな表情を思い出す。
 挿入までされずに済んだのは、あくまでもリングの上だからだ。
 お構いなしに挿れられていれば、あのときの沙織はなすすべもなく処女を奪われ、レイプショーまで行う羽目になっていただろう。
 自分は敗者だ。負けたのだ。
 だが、どん底を味わうのはこの先だった。

     ***

「獅子が子を崖に落とすということわざなんてあるが。神谷、お前にはもっとどん底に落ちてからスタートしてもらう」
 特訓を始めるにあたって、ショウが言い出したのはこうたっだ。

「体を差し出せ」

「な、何? 何を馬鹿な!」
 さしもの沙織も唖然としていた。
「俺が信用できないならそれでもいい。だが、俺ならお前を世界一にしてみせる。どうするかは自分で決めろ」
 あの映像を一緒に鑑賞など、罰ゲームもいいところの体験では足りず、なおも沙織を貶めようというのか。
 しかし、真剣な眼差しがそこにはある。
(そういう目的ということじゃないのか?)
 沙織は迷った。
(ただの体目的だとしたら、どうしてそんな目ができる。そんな本気で真面目な……)
 どう考えてもおかしいことを言っているのに、普通なら即刻拒んで立ち去るのに、それをさせずに迷わせるほど、大河内ショウの瞳には有無を言わさぬ炎が宿っている。
 どうする?
 信用するということは、これから抱かれるということになる。それは同時に処女を捧げることにもなる。いくら格闘の世界に生きたとはいえ、ちっとも乙女心を持たないわけではない佐織だ。小銭を投げ捨てるような気軽さで明け渡すのは無理だ。
 しばらくはその場で考え込んだ。
 そして、迷いに迷った末の答えを沙織は出す。
「……いいだろう」
 覚悟を決め、沙織は言った。
「私に触れるだけの気概があるなら抱かれてやる」
 それで世界一を目指せるのなら、あの屈辱も晴らせるなら構いはしない。
 しかし――――。

「決まりだな。これから、さっそく下須井マサヒロと寝てもらう」

「な、何ィ?」
 覚悟に覚悟を固めたはずの沙織の顔は、一瞬にしてひどく引き攣り、悪い冗談を聞かされて困り果てた表情を浮かべていた。
「聞こえなかったか? 相手は下須井ヒロマサだ」
「馬鹿な! あいつは私を――。その下須井に抱かれろというのか!」
「どん底に落ちてからだと言ったはずだ。なら、その相手は俺じゃなくて下須井が適任だ」
「それはそうだが……」
 納得がいかない。
 何故、あんな奴と。
「嫌ならやめるか? 俺は今のままのお前を指導する気はない。やっても無駄だ」
 断言され、沙織はムッとした。
「なんだと?」
「確認しよう。まず目先の目標は、あの卑怯な条件を乗り越え、それでも勝てるようになることだが、最終的な目標は世界の頂点。この認識に間違いはないな?」
「そうだ。私はあの屈辱を晴らし、それから前に進む!」
「はっきり言おう。世界にはお前より強い奴が普通にいる。当たり前だな。お前はまだ十七で、それよりも経験を積んだ猛者は数多い。逆に言えば、世界にでも行かなきゃ神谷沙織より強いバトラーはいないってことにはなるが、どちらにしろ今のお前は指導できない」
「…………」
 閉口した沙織はただ睨んだ。
 文句しかない顔つきで、歯向かう眼差しで――。
「軟弱な精神では無理だ」
「私は軟弱ではない!」
「本来ならな。だが、俺が求めるのは、たとえあんな目に遭おうと毅然と振る舞い、どんな大衆の視線もいやらしさも撥ね退ける最強のメンタルの持ち主だ。まずは、あれ以上の屈辱を覚えてもらわないことには話にならない」
「ならば、その上で這い上がれば文句はないのか」
「その通りだ」
 二人は睨み合った。
 それが当然と言い切るショウと、下須井など真っ平と思う沙織の視線は、真っ向からぶつかり合って火花を散らす。
 完全に馬鹿にしている。
 こんなことすらできないようでは、到底世界は取れないと、ショウの目は言っている。
 冗談じゃない。負けてたまるか。

「いいだろう! 受けて立ってやる!」

 沙織はこうして怒声を上げていた。
「よし、今度こそ決まりだな」
 とんでもない決断をしてしまったのだろう。
 しかし、それで世界が取れるなら、頂点に立てるのなら……。
 やってやる。
 どんなことだって、やり抜いてみせる!




 
 
 

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