「まあ、これで? 勘違いは解消されたし、お互い気持ちもわかったし?」
妙に遠回しな告白を交わし合い、琴宮さんは恥ずかしそうな顔で僕に背中を向けてしまい、今は後ろを向いたまま話している。僕もなんだか同じ気持ちで、まともに琴宮さんの顔を見れない気がして反対側の横を向く。
「あとはあの時のお礼くらいよね」
「え、お礼?」
「そうよ。傘とか色々してもらって、私はまだ何も返してないし」
そっか。
琴宮さんはあの雨の日のことを覚えていてくれたのだ。恩を忘れずにいてくれた嬉しさに顔がほころぶ。
「別にお礼なんて……」
「だめ。私の気が済まない」
「うーむ。そういうものか」
「そうよ。それに、勘違いさせちゃっていたお詫びもあるし、だから九条君のお願いを今から何でも聞いてあげる」
ごくり。
男女密室でこれだ。
正直、よからぬリクエストが頭をよぎってくるわけで。
「その代わり、私は今からアンタをレンって呼ぶから。アンタも私のことはアズキと呼ぶようにしなさい」
肩越しに僕を見ながら、そう言った。
「あ、アズキ……」
「……レン」
なんか照れくさい。
気恥ずかしいあまりにお互いに苦笑して、なんとなく目を逸らしつつも、逸らした視線をもう一度ゆっくりとアズキへ向け、するとばっとりと目が合ってしまう。
なんだかドキンとして、僕達はそのまま見つめ合った。
「あ、アズキ? 何かをお願いすればいいんだね?」
「そうよ。その……。何でも聞くから……」
アズキは恥じらいきった真っ赤な顔で、自分のお腹へ手をやって、ブレザーのボタンの一つにそっと指をかける。何かを期待した表情で、色っぽく見つめられると、本当によからぬ願いの内容ばかりが頭に浮かんでたまらない。
大丈夫なのか? そんなことを頼んでも。
「何でも?」
確認するべく、僕は尋ねる。
「うん。何でも」
あまりにも微熱の篭った目で頷くものだから、僕の衝動が刺激され、頭が痺れる。もう下半身でしかものを考えられなくなり、僕はアズキにどんなお願いから始めようかとばかり考え始めてしまう。
ああ、僕って……。
自分は所詮男であると我ながら感じつつ、だけどこのドキドキした空気をもう少しだけ楽しみたい気持ちもあり、僕は初めに告げる言葉はこうだった。
「もっと近くに来て? 僕の隣に」
「……この辺?」
アズキは尻を持ち上げて、肩がくっつくほどの密着距離で、体育座りになりながら僕に体重をかけてきた。肩同士が押し付け合い、二の腕が触れ合い、お互いの太ももまでもが触れ合う自体に発展して、僕は緊張のあまりに全身を強張らせる。
「そ、そう! この辺この辺!」
「えへへっ。ナ、ナ、ナニシチャッテンダローネー? 私達って」
「だね。ナンダロウネー」
「オカシイデスネー」
どうしてカタコトになっているのか。
自分でもわからない。
緊張感というべきか、ドキドキ感というべきか。アズキとの間にできた甘酸っぱい空気の流れが、僕に平常心を許してくれない。妙に胸がときめいて、心臓が高鳴って、そして全身も緊張で強張りきって、もう精神的に普通じゃない。
「他には? これだけってことはないでしょ?」
「う、うん」
「言ってみなさいよ」
「えーと、手を出して?」
ちょうど僕の膝の上へとかざされる形で、アズキは手を運んでくる。僕はその手に自分の手を重ね、手の甲から指を差し込むようにして、上から握った。アズキの温度が手の平から染みるように伝わってくる。
僕らはお互いの体温を感じ合った。
「レンの手って、温かいね」
「アズキこそ」
ついさっきまでは、こんな空気じゃなかったはずだ。
もっと、重大な会議でも開く直前の真剣で重々しい雰囲気というべきか。あの空気からは想像もつかない甘い気持ちが、今の僕には流れている。
「あのね。手、だけでいいの? 他の場所は?」
「でも、いいの? なんかいきなりだと思うけど」
「いきなりって、どこまで触る気よ」
「い、いや……」
「色々とあるじゃない。色々……」
ふて腐れたように唇を尖らせて、アズキは僕を睨んでくる。それは今までと変わらない目つきなのだが、頬の火照った表情からなる、上目遣いでこちらを見上げるような形でのアズキの顔つきは、やっぱり今までとは別物に思えた。
もっと甘い味をブレンドしたような、熱っぽい表情にも見えなくない。
「こっちを向いて?」
「こう?」
僕達はお互いに腰を動かし、膝をつき合わせる形で正面から向かい合う。
肩に触った。
両手を伸ばし、やや抱き寄せるようにして、しかし完全に抱き締めるわけでもない微妙な距離感で、アズキの肩を上下にさすった。
柔らかいなぁ、アズキって。
お肉がふんわりというか。
手も、肩も、触れているこちらの指が心地良くなってくるほど、すべすべとした肌触りと肉の柔らかさが伝わってくる。もちろん肩はブレザー越しの触感だけれど、例え服の上からでも、それが肩なんていう無難な箇所でも、女の子に触るというのは面白いことに思えた。
とはいえ――。
やっぱり、アズキの胸に目がいっちゃう。
よく見るとすごいよ。
何がすごいって。
紺色のブレザーと首のリボンの狭間、つまりはワイシャツの白いエリアが、あまりの胸のボリュームに内側からパンパンに膨らまされている。皺一つなく生地は伸ばされ、内から外へとブラジャーの色が押し付けられて、今は青色をつけているらしいことが、透けて薄っすらとわかってくる。
そのブラジャーはブレザーの内側からはみ出るように透けていて、プルンとした丸みをカップで持ち上げ、寄せ上げているのであろうことが想像できる。二つの乳がくっつき合って、この服の中ではプニっとした谷間が待ち構えているのだ。
そもそも、ワイシャツってやつは中の肌色の気配をごくごくうすーく見せている。
ブラからなる谷間の肌色が、僕の目の前にはある。
「さっきから、どこ見てんのよ」
ギクッ。
僕は胸から目を逸らした。
「いえ、別に……」
「エッチ、変態」
「……ごめんなさい」
この至近距離で見つめていたら、そりゃバレるわけだ。
「そんなに気になる?」
怒った声だ。
まずかったかな……。
「いや、そんな。大丈夫」
「はあ? 気になるかどうかを聞いたの。大丈夫ってなに? イエスかノーでしょ?」
すごく、有無を言わさない勢いだ。
誤魔化しは許さんぞと言いたげな強い目つきで、僕はやっぱり睨みつけられているわけだった。
「い、イエス……」
「変態っ」
「……ごめん」
「スケベ」
「……申し訳ない」
「――け、けどっ。そこまで気になるんだったら? アンタがそんなに、死ぬほど気になって仕方が無いって言うんだったら、何かお願いしてみなさいよ」
「へ?」
「いい? 二度も同じことは言わないから。レンはどうするの?」
ど、どうする?
どうするの僕!
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