第6話「僕達は結ばれて」

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 も、もも、も、も……。

 と、僕は緊張しながら「も」を連呼。
 しかし、本当に「揉ませて」と言い出す勇気は出せない。緊張して緊張して、胸の内側がおかしな状態になっていき、もうたまらない。だいたい、ついさっきまでは誤解し合っていた間柄なのに、いきなり先を望みすぎては、今度は本当に嫌われるのではと不安もあった。
 結局。
「ブレザー! 脱いで?」
 まず僕が頼んだのは、たったのブレザー一枚という、まだまだ無難の域を出ない範囲内。
「ふん。そんだけ?」
 余裕だといわんばかりにボタンを外し、アズキはワイシャツの白い肩を剥き出しにして脱いでいく。別に裸になるわけでもないというのに、ただ女の子が脱ぐ動作をしているだけで、僕にとっては目に毒だ。
 ま、まともに見れない……。
 いっそ後ろでも向いていたいほど、衣擦れの音と共に白い姿が見えてくるのは、刺激の強い光景に思えてしまった。
「で?」
 アズキは上目遣いで僕に顔を近づける。
 いつまでも無難な場所ばかりを指定していては、なかなか先のことはできない。
 ここは思い切って――。
「え、えとっ、その……。こ、腰とか。触っていい?」
 無難なようでそんな事は全く無い、無断で触れれば一発で痴漢かセクハラにされそうな、かといって胸やお尻に比べれば、ずっと危うさの低い部分を指定する。
「……うん。触れば?」
 照れながらもぶっきらぼうにアズキは答えた。
「失礼します」
 僕は両手で腰を掴み、くびれの部分を上下にさすった。
 すごく、興奮した。
 アズキの肌を守っているのはたったのワイシャツ一枚。ブレザーの上から触るより、薄い布越しの方が、よっぽど生肌の触感が伝わるのだ。
 何よりも、アズキは僕を受け入れている。
 いくら胸でも尻でもない、まだまだH度合いの低い箇所とはいえ、腰のくびれ一つとて、単なる友達だったりクラスメイトの関係だけでは、触る機会などありはしない。もっとスキンシップの許される、それこそ友達以上の存在か、はたまたは恋人同士でもなければ、男が異性の腰を撫で回す権利などありはしない。
 だが、アズキは僕にそれを許している。
 ただ女の子に触る面白さだけでなく、僕とアズキは本当に仲が深まり、これから二人でやっていくのだという実感が沸いてくるのだ。
 アズキの体に触る権利が僕にはある。
 そんな権利をくれたアズキは、僕のことをそれだけ想ってくれている。
 そういう実感。
「なんか。くすぐったいというか」
 何かを我慢した顔で、アズキは腰をよじり始める。
「くすぐったい?」
「とでもいうか。なんというか。変な感じが」
 どうもアズキは火照っている。
 僕はそんな顔に惹かれた。
 きっと何かを感じているに違いない、どこか色っぽいような、熱の篭った表情がもっと見たくて、僕はより活発にくびれを探る。揉むように指を動かし、背中の腰まで撫でてやろうと手の平をスライドさせ、アズキの背後へ手をやったことで、僕の身体はよりアズキに接近する。
「ちょっ、ちょっと……」
 アズキは困ったような嬉しそうな、どちらともつかない声を上げた。
「駄目?」
「駄目ではないけど……」
「次は背中だから」
「……うん」
 僕はさらに体を接近させ、こちらの胸板でアズキの乳房が潰れるほどに、しかし完全に密着するわけでもない、かなりギリギリの状態へ持ち込んだ。
 ちょっと腕に力を入れれば、ぎゅっと抱き締め合えてしまう。
 胸板に意識を集中すれば、押し当てられた胸の感触がよくわかる。
 顔もすっかり接近していて、息がかかってくるほど間近で、アズキは僕をじっと見ている。
「撫でるから」
「いいよ」
 僕は胸の柔らかさに意識をやりつつ、アズキの背中を撫で回し、アズキのワイシャツ越しの素肌を存分に味わう。まんべんなく這い回ると、アズキは身をよじるかのような反応をみせ、顔をどんどん赤くしていた。
 背中を上り、うなじのあたりを指でくすぐる。
「ひんっ」
 可愛い声で鳴きながら、アズキはびくんと肩を跳ね上げた。
 ならば、ブラジャーはどうだろう。
 肩甲骨を撫で回し、ブラジャーの肩紐を見つけて指を置き、下着のラインをすーっと指でだどっていく。
「んっ、んん……」
 アズキは唇を丸め込み、くすぐったさにでも耐えるような我慢の表情をした。
 では、これは?
 まるで指でそーっとさすっていくような、優しい手つきで背中をくすぐる。くすぐったい刺激を与えるための怪しい指で、背中を縦横無尽に駆け巡り、やがてはうなじの生肌をくすぐり始める。
「ひゃあっ、ああ! ちょっと……! 駄目ってば……!」
 アズキは途端に肩を持ち上げ、首から背中にかけてを強張らせ、色っぽく何かを堪えた艶かしい表情を披露する。
 触る場所、触り方。
 それによって、アズキは色んな反応をしてくれる。
「次は耳ね」
 耳を触って、裏側を撫でてみる。
「ひうっ、うぅぅぅ」
 可愛い声で耐え始める。
 なんか反応を楽しめる感じがして面白いぞ?
「レン? アンタさっきから遊んでるでしょ」
「ごめん。ちょっぴり」
「……もうっ、ばーか」
 むくれた顔も正直可愛い。
 もう、いっそ抱き締めたい。
「アズキ……!」
 僕は腕に力を入れ、アズキを抱き寄せ締め付けた。アズキも僕を抱き返し、背中を掴み、離れまいとしてしがみつく。
 温かい。すごく落ち着く。
 僕もアズキを離したくない。
 ずっと、こうしていたい……。
「ねえ、レン……」
 求めるような顔をして、アズキは僕を見上げながら、そっと目を閉じていく。顔を上向きにした唇を差し出して見える頭の角度は、もうそのためのサインとしか思えない。勘違いこそしたけれど、これだけわかりやすいサインまで疑ったり、見落とすほど、僕はそこまで鈍感じゃない。
 僕はアズキに唇を重ねた。
 初めてのキスだった。
 ふっくら、まろやかな唇の感触がこちらに伝わり、抱き締め合った身体を通じて全身の温もりが僕に伝わる。
 そして、背中を掴んでくる手の力から、僕に想いを捧げるアズキの気持ちが伝わってきた。
 僕もアズキが好きだ。
 それを伝えたい。
 この好意が伝わって欲しい。
 気持ちが通じるようにと念じながら、僕は重ねた唇をさらに押し付け、抱き締める腕にも力を込めて、さらにアズキを締め付けるのだった。