四日目。
リーナはジョードと裸で抱き締め合って、舌で口内を蹂躙されていた。
「んっ! んくっ、んくぅ……」
息が苦しいほどに貪られ、ブタのように醜い男の最低な唾液がリーナの口へと移される。おまけに尻を揉みしだかれ、胸にはジョードの肉体が密着している。おぞましい状況に全身の肌が粟立って、背筋に寒気が走っている。
(最悪! こんなの最悪よ!)
リーナは震えていた。
こうしてお互いに直立して、立ったまま抱き締め合う。激しい口付けと同時に尻を揉まれるというシチュエーションは、恋人であり、これからは夫である男――キアランから受けたことのある思い出の一つだ。
彼の愛を受け取るのが嬉しくて、あの時はリーナの方からも、相手の舌を啄ばむように深いキスを楽しんだ。息苦しくなったキアランが口を離しても、逃がすまいとして、リーナの方からキアランの頭を掴み、自分の顔へくっつけるようにして強引にキスを続行させた。
情熱的でエッチな思い出――。
それと全く同じ方法でされているのに、相手がジョードというだけで、リーナは屈辱で全身を震わせていた。
キアランから唾液を送り込まれ、飲まされることには、何ら抵抗を感じなかった。
しかし、嫌いな男の唾液となれば、まるでナメクジやゴキブリのような、不快感の強い生き物でも口に入れなくてはいけないような、背筋の凍るような体験に等しかった。
「んぷっ、はぷぅっ」
唇を貪られ、リーナは逃げるように身をくねらす。
顔が離れると、ジョードの方がリーナの後頭部を掴んで、太い唇まで連れ戻される。唾液でたっぷりとぬかるんだ舌が、リーナの舌をべろりと舐め、口内まで侵入して、あまりの気持ち悪さにリーナは今日も涙していた。
「どうだい? 僕のキッスの味は」
「と、とても美味しいです。ジョード様」
声が震えた。これは言わされている台詞なのだ。
ジョードが喜ぶ受け答えをしろと、そう強要されていた。
(美味しいわけないでしょ? このブタ野郎!)
何がどうなったら、こんな奴のキスを甘く感じることができるのか。
たとえ一生をかけた調教だろうと、ジョードごときで自分が悦ぶのはありえない。
「そろそろ僕のおチンチンが欲しくならない?」
「欲しいです。ジョード様の……」
(欲しくない! 欲しくない! 欲しくない! 欲しくない!)
心の中では連呼する。
だが、ジョードの技巧で秘所を愛撫されたなら、甘い痺れで下腹部が疼いてくる。すると調子に乗って刺激を強め、より巧妙に愛液をかきとろうとしてくるので、ジョードごときの指で感じる自分自身の股が呪わしかった。
ジョードのクセに上手いだなんて最悪だ。
(嫌よ! 感じたく……ない……!)
他に愛する人がいるというのに、よりにもよってジョードの手で濡らされるのは、それ自体が屈辱に他ならない。股が濡れれば濡れるほど、リーナの胸で屈辱の感情は膨らんでいき、今すぐジョードを呪ってやりたくもなってくる。
嫌いな男の手で気持ち良くされるなど、快楽こそが拷問だった。
「濡れてるねぇ? ビショビショだねぇ?」
「……くっ! くはぁん!」
指を挿入され、リーナはガクガクと膝を震わせた。
また、まただ。
気持ち良くなってもいいのは、キアランにしてもらった時だけなのに、最低な男に弄ばれるほど死にたくなることはない。
「気持ちいい? 嬉しい?」
「馬鹿言わないで!」
「違うでしょう? もっと他に台詞があるんじゃないの?」
「っ! き、気持ちいいです! 嬉しいです! ジョード様!」
リーナは怒りで声を荒げる。
「ではでは、僕のチンポに自ら跨ってみせるんだ」
ジョードはおもむろに仰向けとなり、そそり立つに肉棒を真っ直ぐ天井へ向けていた。今までの三日間は、全てジョードの方から挿入されたが、今度はリーナが自らこの膣内にジョードのものを迎え入れろと言っている。
さぞかし、楽しいことだろう。
処女を聖なる貴族に捧げることは、神聖なる儀式と思っている国民も数知れないが、これが単なる国民搾取と気づいている人間もまた数知れない。初夜権などと言いながら、ゆうに七日も拘束して、好きなプレイをやり放題だ。
人を玩具のように扱って、愛情の欠片もありはしない分際で、夫でも何でもない分際でリーナに快感を与えてくる。
ただ貞操を没収されるだけでも、最悪に最悪を重ねても足りない最悪さだが、ジョードごときに女を喘がせる技巧があるなど、さらにもう一段階たちが悪い。
「やればいいんでしょ。ジョード様」
リーナは膝立ちになり、秘所と肉棒を接触させる。ずれないように指先で押さえ、亀頭の半分までを膣に飲み込み、あとはズプンと腰を落とすだけとなった。
ニタァァァァ……。
ジョードは気色悪いほどの笑みを浮かべていた。
これから、やりたくもない性交奉仕を始めるリーナの姿が、ジョードにとってはさぞかし面白いのだろう。
(こいつを満足させなきゃいけないなんて……)
リーナの騎乗位セックスを今か今かと、ジョードは愉快そうに待ち構える。この腰を落とせばジョードはさらに喜んで、ただでさえニヤけた顔を一層歪めるはずだ。リーナ自身の体でジョードが喜ぶ顔だなんて絶対に見たくなかった。
にゅぷぅぅぅぅ……。
見たくないものを見るために、リーナは腰を沈めていった。
「……はくぅっ」
肉棒と膣壁の摩擦を通じて、甘い痺れが下腹部全体に走ったリーナは、感じたくもない性感に顔を顰める。
「えっへへへ」
ジョードが笑った。
頬の垂れ下がった醜い顔で、いやらしい笑みから声を上げ、リーナの背中に寒気が走った。
(気持ち悪い! 本当に気持ち悪い!)
正座の脚をV字に広げた騎乗位の姿勢で、腰を上げたり沈めたり、上下運動を開始した。
ずちゅっ、ずぷぅっ、ぬぷんっ、
一日目の初めては、未経験の穴を内側から広げられ、きついような苦しいような圧迫感が膣内から襲ってくるのが辛かった。しかし、この三日で男の一物に慣らされて、リーナの膣はすんなりと受け入れている。
悲しくなった。
(キアラン……)
できることなら、愛する男の一物で覚えたかった。なのにリーナの膣内に入っているのは、もはや殺してやりたいほど憎らしい男の肉棒なのだ。
「いいねぇ? リーナちゃん。とっても上手だよ?」
(よ、喜んでる……こんな奴が…………)
リーナは小刻みに尻を揺らし、上下に震わせるかのように動いている。肉槍が膣壁を貫くように摩擦して、その刺激に愛液がみるみる溢れる。まるでよだれを垂れ流すように、リーナの秘所はトロリトロリと分泌液を流していた。
「ほら、ご主人様にちゃんと聞かなきゃ。お加減はいかがですかジョード様って」
「……お、お加減はいかがですか。ジョード様」
「すっごく最高だよ。リーナちゃんが僕のために頑張って、僕のことを気持ち良くさせようと励んでいるんだからね」
(最っ低!)
そう命令しているのはジョードなのに、さながらリーナ自らの意思をもって、愛情を篭めた奉仕でも受けているような言い回しを聞かされると、腹の底から煮えくり返る。
「さあ、もっと愛する恋人同士のようなことを言ってよ! リーナちゃんは僕のことがとてもとても大好きで、僕のチンポを気持ち良くしてあげたくて仕方がない! そんな気持ちを込めたトークをしてよ!」
「どうしろっていうのよ! そんなの!」
「ジョード様を愛していると言え!」
「ブタ野郎……!」
こんなゲスのことが好きだなんて、たとえ表面だけの嘘を言葉にするだけでも、ジョードの喜ぶ顔を想像すると、ただ台詞を言えというだけが拷問的な仕打ちに思えてくる。
「さあ言うんだ!」
「……このっ! 愛してます! ジョード様!」
「もっともっと!」
「ジョード様。愛してます!」
言葉を口にするたびに、針を一本ずつ刺されるような苦痛を胸に感じる。涙が流れ、頬に細い滝が伝っていた。
「だったら、たっぷり愛情を込めないとねぇ?」
「はいはい。やってるわよ!」
リーナはV字の股のあいだへ、ジョードの腹へ両手を乗せ、腕に重心を預けるような形で上下運動のペースを速める。
――パチュッ、ジュプッ、ズプン! ズプッ、ズプッ、ズプン!
尻が上下に振られるごとの水音も、ペースを増して部屋に響いた。
「――あっ、くっ! んのぉ! んくぅっ!」
感じたくない。ジョードなんかで感じたくない。
だけど、動けば動くほど、望みもしない快楽の電流は背中を駆け上がり、リーナは喘ぎ声を漏らしてしまう。
(感じてない! 感じてない!)
リーナは必死に否定して、声を漏らさないために口を塞ぐ。
「リーナちゃんも気持ち良さそうだねぇ?」
「――っ! 違う!」
「だったら、どうして口を塞ぐのかなぁ? さっきの声は何かなぁ?」
「何でもないわよ!」
こんなものは生理反応だ。
敏感なアソコだって、今まで恋人の手に触れられたことがあるから、エッチな快感を覚えて反応している。
(そうよ。キアランよ! 先に私に仕込んだのはキアランなんだから!)
必死になって、愛する顔を思い浮かべた。
ブタごときの肉棒でこれなら、初夜権限の行使が終わって、ようやくキアランと床を共にする時が来たなら、もっともっと気持ちがいい。愛する男の肉棒なら、天国にも等しい気持ちを味わえる証拠じゃないか。
「気持ち良いですジョード様と言え!」
「気持ち良いです。ジョード様」
キアランの方が絶対に良い。そうに決まっている。
「よし、イカせてあげるよ」
ジョードはおもむろにリーナの腰を掴み、下から突き上げる腰振りを開始した。
「――――――あっ! くはぁ!」
仰け反った。
秒刻みで膣奥を連打するような校則のピストンで、快感が頭上にまで迸り、口を塞ぐ余裕もなくリーナは喘いでいた。
「あん! ああん! 嫌ぁ! やだぁ! 感じたく――感じたくなんてぇぇ!」
「気持ち良いですと言え!」
「気持ち良いです! 気持ち良いです!」
そう叫ぶリーナは、そんな自分自身の言葉を否定するため、首は横に振っていた。髪が振り回されるほと必死に振り、必死になって否定していた。
やがて、腰に何かが集まるような感覚を覚え、リーナの脳裏に一つの予感が掠めていった。
これが絶頂? 絶頂の前触れ?
「さあ、イけ!」
「――んぁ! ああああああああああああ!」
大いに仰け反ったリーナは、脱力してジョードの胸へ倒れていく。本当は後ろへ倒れようとしていたが、腰を掴んだ手で引き寄せられ、身体を密着させる羽目になってしまったのだ。
(最悪……)
こんな奴にイカされた。
他に愛する男のいる肉体が潮を噴き、力の抜けたリーナは動く気力を発揮できない。だけどジョードの脂汗が、自分の皮膚に絡みついて気持ち悪い。未だ限界まで膨らんだままのジョードの肉棒は、リーナの絶頂など関係なく、リーナの中に入ったままだった。
「さあ、イったところで今日の復唱タイムだよ?」
ぐにっ、とジョードはリーナの尻を掴む。
「……また?」
「私はジョード様が大好きです。一回ごとにキスをするんだ」
(まさか私の方から?)
「さあ早く!」
「私は……ジョード様が大好きです……」
いや、嫌いだ。
だから、ただ台詞を言うだけで心が痛い。
「さあ、キスだよ? ちゃんと頬張るようなディープキスをするんだ」
「最低っ、本当にクズよ。アンタ」
リーナはその醜い顔から生えた歪んだ唇へ向かって、自分の唇を接近させた。目を瞑りながら重ね合わせ、涙ながらに舌を差し出す。すると、ジョードの方からも舌を伸ばし、リーナの舌に絡めてきた。
気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い!
ジョードの唾液の味が自分の舌に広がるのは、まるで自分の舌が腐敗していくような最悪の心地悪さだ。
「さあ、もう一回」
「私はジョード様が大好きです」
そして、またキス。
台詞を言って、キスをする。その繰り返しの回数は五十回を越え、そのせいでジョードの唇や舌の感じを完全に覚えてしまった。どういう口技を駆使し、どんな舌遣いのキスをするか。細かいクセが、嫌でも頭に入ってしまった。
染み込んで来る。
ジョードの体温や愛撫の手つき、舌や唇の感じが染み入って、この肉体に記録されていくのがよくわかる。
(嫌よ。覚えたくない……)
リーナの気持ちなんて関係ない。
肉棒を入れっぱなしにしたまま何時間も繋がったり、これだけのキス回数が重なれば、欲しくもない記憶が全身に刻み込まれる。
ジョードが帰ったあとも、キスやセックスの余韻が残り続けた。
やっと眠れて、夢の中へと意識が落ちて、初めてリーナは悪夢を忘れる。けれど、朝に目が覚めたなら、体がジョードを思い出す。
(でも、五日目が終わればあと二日じゃない)
なんとかなる。
乗り越えられる。
(待っててね? 私のキアラン)
どんなに体を汚されても、最後には全てを忘れ、夫との幸せを築いていけば、ジョードに負けたことにはならない。
そう、ならないのだ。
だから、勝ち目は残っているのだ。
そういう考えを持つことで、リーナは自分の心を支えていた。
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