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 その朝の時間。
 リーナはシャワーを浴びていた。
 どんなに体を洗ったって、ジョードに抱かれた事実は消えない。汚れを落とそうとしたところで、今日にもまたジョードは現れ、リーナを好きなように楽しんでいく。そんなことは承知だが、それでもリーナは体を洗わずにはいられない。
 不愉快だからだ。ジョードに抱かれた汗や垢がこびりつき、それが自分の皮膚に残っていると思うだけで鳥肌が立つ。どうせまた汚されるのはわかっていても、だからといって洗わずにいるのは耐え切れなかった。
 シャワーを済ませ、バスタオルを巻いて部屋へ戻った時だった。
「やあ? リーナちゃん」
「――チッ」
 厚顔無恥なジョードが現れ、リーナはほぼ反射的に舌打ちしていた。
「僕のために体を洗って待ってくれていたんだね?」
「そんなわけないでしょ!」
 最悪のタイミングだ。リーナが口で否定しても、ジョードは自分の都合の良いようにものを受け取る。さも自分に抱かれるのを楽しみに、体を清潔にして待ってくれていたように思い込んでいるのだろう。
「さて、さっそくシようか」
 ジョードはじゅるりと舌なめずりをする。その欲望にまみれた下品な表情を見て、全身に鳥肌が立っていた。
「昨日散々やったでしょ? アンタはどこまで欲が有り余ってるわけ?」
「無限大だよ」
「最低最悪のクズね。自分が嫌われている自覚もできずに」
「でもね。女の子は愛がなければ感じないんだよ? 僕のテクニックでイっちゃう女の子なんていうのはね? どうせ心の奥底では、本当は僕のことが好きなんだ」
「本気で言ってんの?」
「女の子には子孫を残す使命があるからね。自分では意識しなくても、エッチなテクニックがある男のことが好きなんだよ。リーナちゃんは自覚がなくても僕に惚れているんだ」
 自分の考えを疑わず、ジョードは自信たっぷりに述べていた。
 狂っている。
 こんなことを本気で言い出すような男が、果たしてこの世に何人いるか。世界中を探し回っても、ジョード以上に気持ち悪くて最低な男はいないはずだ。
「こっちは何日もやられて疲れてるんだけど?」
「でも、気持ちいいでしょ?」
「疲れるって言ってんの。たまには本番無しで満足できないわけ? もう手ぐらい使ってあげるから、一日くらい休ませなさいよ」
 本心では手コキの時点で吐き気がする。ジョードなんかの一物を握っていると、まるで腐敗しきった臭い生ゴミにでも手を入れて、気持ち悪いのを我慢しているような、今にも腐汁の臭いと成分が皮膚に染み込むような猛烈な不快感に見舞われる。
 それがアソコに挿入されるなど、もはや拷問の一種といっても過言ではない。
「だーめ」
 ジョードは微笑む。
「く、口だって使うから! 一日くらい」
 口だって嫌だ。一体世の中の誰が、腐敗で黒く変色しきった野菜を食べたいだろう。ジョードの一物を咥えるのは、リーナにとってそれほどの気分なのだ。
「駄目だよ? リーナちゃん。わがままを言っちゃ」
「こんな何日も抱かれて、何で私の方がわがままなのよ!」
「きちんと手ほどきを受け、相手のやり方に従うのは、王国の法律でも決まっている立派なルールだからねぇ? 国法に背くのはよくないよ」
「ふざけたことを……」
 リーナは拳を握り締め、力むあまりに肩を震わせていた。
 何が国法だ。何が初夜権だ。そんなものをありがたがって、神聖な通過儀礼だと信じている馬鹿はイカれている。結局は国民の性的搾取だろうに、ジョードのような輩が現れ、好きな女を抱くためだけに権限を利用する。
 シェーム王国は腐っている。国外脱出の資金さえあれば、こんな国などとっくに捨て、キアランとはどこか別の国で結婚していた。
 だが、それだけの資金力があるということは、自分の力で結婚税を支払って、初夜権による性行為を免除できるということだ。
 だから、この国で初夜を奪われる女は減らない。
 嫌なら未婚を貫くしか道はない。
 それでも、好きな人ができてしまって、一生を添い遂げたいと思ったなら、もうどんなリスクを背負うことになっても、その人を愛さずにはいられない。愛する人にはセックスくらいさせてやりたい。子供だっていつかは生みたい。
(今日と、明日と、明後日)
 それだけ耐えれば、真の夫婦生活を始められる。
 耐えてやる。
 絶対に負けたりしない!
「わがままなリーナちゃんには、ちょっとお仕置きが必要だねぇ?」
「なによそれ」
「お尻を出してもらおうかな」
 ジョードが命令してきたのは、椅子に腰掛けた膝に対して、腹這いで体を乗せてお尻を突き出すことだった。バスタオルを取り外し、全裸でそのようになったリーナは、これから受けるお仕置きの内容を悟って、強く歯を噛み締めていた。

 ――ぺん!

 叩かれた。
 想像通りだ。

「悪い子! 悪い子!」
 ――ぺん! ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!

 平手打ちの連打が、リーナの柔らかい尻から軽快な打撃音を走らせる。尻肉は打たれるたびにプルンプルンと上下に弾み、皮膚が波打つように揺れていた。

 ――ぺチン、ぺチン、ぺチン、ぺチン、ぺチン、ぺチン!
 ――ぺチン、ぺチン、ぺチン、ぺチン、ぺチン、ぺチン!
 ――ぺチン、ぺチン、ぺチン、ぺチン、ぺチン、ぺチン!

 あまりにも惨めだ。
 どうして、ジョードごときに叩かれなくてはいけないのか。

 ――ぺん! ぺん! ぺん! ぺん! ぺん!

 心が折れかかる感じがわかった。胸の内側には一本の芯があり、平手打ちの一打ごとに芯はだんだん捻じ曲げられ、やがてポキリと折れそうになっている。
 折れたら負けだ。
 耐え抜くために必要なのは、決して折れてやるものかという強い意地だ。リーナは心で強く踏ん張り、こんな下らないお仕置きごっきに負けてやるかと気を張った。
(下らない! 馬鹿みたい!)
 こんなふざけた真似で折れるものか。

 ――ペチッ、ペチッ、ペチッ、ペチッ、ペチッ、ペチッ。

 お尻がほんのりと赤みを帯び、手形のついた尻肌がヒリヒリと痛んできても、リーナは決して心を折るまいと精神的に踏ん張り続ける。
 しかし、次のジョードの一手はフェザータッチだった。

「ひっ! ひゃん!」

 触れるか触れないか。そんなタッチの指先で、さーっと撫でる。
「あれぇ?」
「――やん! うぅん!」
 刺激に喘ぐリーナは、腰をくねらせることで尻を左右に振りたくる。本人はくすぐったいような愛撫で反射的に動いているだけなのだが、視覚的にはお尻が自ら喜んで、撫でれば撫でるほど左右にフリフリとはしゃいで見えた。
「気持ちいいでしょ」
「馬鹿にしないで! 不愉快なだけなんだから!」
「でも、声が出ちゃうでしょ?」
「――ひっ、ひあぁぁっ」
 ほんのりとした淡い晴れて、元々表皮が敏感になっているのだ。テクニックのあるジョードの指先は、嫌いな男なんかの快楽は拒否したいリーナの気持ちなど無視して、肉体だけを素直に反応させていた。
「ほらほら」
「ひぁっ、ふぁぁっ、うぁぁっ!」
 嫌よ嫌よとお尻を振る。
「あーあー。濡れてきちゃって」
 ジョードは秘所に手をやって、割れ目から染み出ていた愛液を指先にすくい取る。
「好きで濡れたんじゃない! 最低よ!」
「素直じゃないねぇ?」
 膣に指が侵入すると、より一層の刺激がリーナを責める。
「はぁっ、くあぁっ!」
 この数日でリーナの感度は鍛えられ、ジョードの方でも弱点を発見している。どの膣壁の部位を狙い、どんな加減で指の出し入れするべきか。全てを熟知しているジョードは、いともかんたんにリーナのアソコを愛液まみれにして濡らしていく。
 ねっとりとした粘液の滝が流れ、汁が太ももから垂れ始めるまで、そう時間はかからなかった。
(……なんでよ!)
 リーナは自分自身の体を呪う。
(なんで! なんで感じなきゃいけないの! なんでこんなクズの手で! 濡れなくちゃいけないのよ!)
 疼いてしまう自分自身の体が許せない。
 そうだ。ジョードごときでこれだったら、本当に愛する者とするのはもっと気持ちいい。こんな奴の愛撫がキアランを上回ることは絶対ない。
 リーナはそれだけを信じて耐え抜いていた。
「そうだ。ゲームをしようよ」
「何よ。ゲームって」
「君が勝ったら、望み通り明日は本番は休みにするよ」
「本当なんでしょうねぇ?」
 ジョードのことだから疑わしい。
 だいたい、ゲームの内容にしたって、どうせロクなものではなさそうだ。
「嘘はつかないよ。まあ、あくまで挿入がお休みになるだけだけどね」
 他のことはいくらでもするということか。まずフェラチオはあるだろうし、パイズリや尻コキまで命じてきかねない。だが、一日だけでも挿入が無しになら、そちらの方がマシなのは間違いない。
「言ってみなさいよ。ゲームの内容とやらを」
「チンポ当てゲームだよ」
「……最低」
 やはり、ロクなものではなかった。
 ルールは単純。
 リーナは目隠しをした状態で、次々と挿入される物体の中から、どれがジョードのペニスなのかを言い当てる。さすがに簡単すぎるのではと思ったが、どうやらジョードはペニスの触感に酷似した肉の張り型を持っており、その異物感は本物のペニスと区別がつかない。
「どう? 本物そっくりな感じでしょう?」
「……そうね」
 ベッドへ移動したリーナは、秘所に張り型を入れられて、確かに実物と変わらない肉っぽさを感じていた。
 魔法によって作られたらしいこの張り型は、女性が自慰行為を行ったり、道具を使ったプレイをする際のセックス用品である。動物の肉から取り出したタンパク質を素材として、血の通った皮や亀頭が完璧に再現されており、膣内でビクンとヒクつきさえする。
 太さ、長さはジョードのペニスと同じため、注意深く確かめなければ、決して本物を言い当てることはできないだろう。
「難しい問題になるから、始める前に僕のチンポをしっかりと覚えないとね」
 ジョードはおもむろにリーナを押し倒し、根元まで挿入する。
「――くはぁっ! ああん!」
 最奥まで埋め込まれたリーナは、髪を振り乱すように仰け反った。
「ほら、しっかり記憶するんだよ?」
「くぅぅぅ…………」
 リーナは強く歯を噛み締めた。
 ジョードの太さや長さ、細かい形状をアソコで記憶しろだなんて、それもまたリーナには酷な話だ。この地獄が終わったら、こんな奴と肌を重ねた記憶など、なんとしても忘れてみせようと考えていた。何事もなかったように、綺麗さっぱり過去を切り捨て、夫と幸せになることこそが、初夜権に対する唯一の勝利だと思っていた。
 しかし、ゲームに勝つには記憶しなくてはならない。
(どうすればいいのよ。こんなの……)
 勝利を放棄してしまえば、真面目に覚えようとすることはない。ただし、せっかく六日目は挿入されずに済むチャンスが、ふいにってしまうということだ。既に何度もセックスをしているのに、たった一日の挿入限定での休みが、それほど貴重なのかがわからない。
(セックスもイヤ。覚えるのもイヤ!)
 だが、どっちも嫌では通らない。
 どうすればいい?
 答えがなかなか浮かんで来ない。
「ほーら、ちゃんと締め付けて?」
 ジョードはそう言ってニヤけていた。
 ペニスが根元まで埋まっていると、亀頭が最も奥で留まって、竿の部分からは脈打つ感触が膣壁に伝わる。生温かい、熱く脈動する異物感が、膣口に栓を閉じたまま動かない。ピストン無しでハメ込んだままにするつもりかと思ったが、たまに思い出したように腰を動かし、またしばらく動きを止める。
 覚えさせようとしているのだ。
 自分のペニスをリーナの膣に刻み込み、生涯の記憶とさせるため、股で記憶力を試すようなゲームを提案してきている。
「私、忘れるから」
 宣言してから、リーナは膣圧で肉棒を握り込む。ぬかるんだ肉壷からプレスがかかるのは、ジョードにとってはペニスの表面積を余すことなく圧する心地良い刺激なのだろう。リーナにとっては、肉棒を潰さんとすることで、膣壁の触覚がより如実に形状を捉え、ピクピクと脈打つ細やかなリズムさえ正確に掴めてしまう。
「アンタのことなんてね。おとといの晩御飯のように簡単に忘れて、腐った過去は道端にでも切り捨てて、前を向いて歩いてみせるわ」
「へえ?」
「こんなゲームごときで覚え込ませたって無駄なんだから」
「でも、今はきちんと覚えないとねぇ?」

 ずるぅぅぅぅぅぅぅ…………。

 ジョードは恐ろしくゆっくり、ナメクジが這うようなのんびりとしたペースでピストン運動を開始した。

 ずにゅぅぅぅぅぅぅぅぅ…………。

 ただ亀頭が膣口の位置に戻っていくだけで、十秒以上もの時間がかかり、また最奥まで戻るのにも長い時間がかけられた。
「くぅぅ……うぅぅ…………うぅ…………」
 肉棒が出入りするたび、リーナの股には何かが集まっていた。快楽の電流としか言えない甘い痺れが、少しずつアソコの周囲に充填され、快楽は段階的に高まっていく。

 ぬにゅぅぅぅぅぅぅ…………。

 階段を一つずつ上っていくように、着実に快楽は強まっていた。
「な、なに……これぇ………………」
「イキそうな顔だねぇ? ヨダレが出てるよ?」
「はぁ? 冗談言わないでよ!」
 リーナは意地になって虚勢を張った。ジョードなんかに気持ち良くされるのは、同時に快感と同じだけの屈辱感が込み上げる。ましてや絶頂するなんて、それでジョードが調子付くかと思うとゾッとする。
 しかし、リーナは確実に絶頂の予感に近づいていた。
「――あぁっ、ひゃぁぁっ」
「大丈夫? ちゃんと形を暗記しているかなぁ?」
「し、してるわよぉ……! 馬鹿にしないでよぉぉ……!」
 まともな声が発せず、喘ぎ交じりに声が震えた。
「でも、イキそうだねぇ?」
「そんなこと! そんなことぉ……!」
「しょうがないなぁ」

 ぴたり。

 と、長かったピストン運動が停止して、再び肉栓を閉じたままの状態となった。
「……え?」
「イキたくなさそうだから、一旦ストップしたよ?」
「そ、そう。それでいいのよっ。アンタからの快感なんて必要ないものっっ」
「そう言う割には、しっかりと咥え込んでるねぇ?」
「――へ?」
 指摘され、リーナは初めて自分の行動に気づいた。

 膣圧に強弱をつけることで、リーナはジョードの肉棒を揉むようにしていたのだ。

 無意識のうちにだ。
 それではまるで、実はジョードとのセックスを楽しんでいる自分が存在するようで、あまりのもゾッとする。認めるわけにはいかない。そんな自分がいたかもしれない可能性に、リーナはただそれだけで涙目になっていた。
「………………記憶ゲームだから」
「そうだね。記憶ゲームだね」

 ずにゅぅぅぅぅぅぅぅ………………。

 スローペースの抜き差しが再開され、また段階的に少しずつ、絶頂の予感へと近づいていく。
(ヤダ! イキたくない! ジョードなんかでイキたくない!)
 もうイこうかという直前になったリーナは、必死になって首を振り、拒絶の意思を表情に浮かべてジョードを睨んだ。
「しょうがないなぁ? お望み通り、イカせるのはやめてあげるよ」
 また、ぴたりと止まる。
 しかし、時間が立つとスローのピストン運動は再開され、またイキそうになった直前で寸止めのように動きは止まる。
「――はぁっ、はぁ、っはぁ、はぁぁっ」
 息遣いが荒くなっているのは、間違いなく興奮によるものだった。
(ジョードなんかでイキたくない…………)
 それは間違いない本心だ。
 しかし、肉体は確実に絶頂を求め始めて、リーナは無意識のうちに腰をくねらせる。肉棒が少しでも膣内を掻き回し、刺激になるようにと動いていたが、ハッと夢から覚めてたようにリーナは自分の行動を自覚して、自分自身の過ちを戒める。
(馬鹿! 自分から動いてどうすんのよ!)
 リーナは意識的に動かないように努め始めた。
 そんなことをしていては、余計にジョードを喜ばせる。それではジョードにお得な気分を与えてしまう。もっと淡々と記憶して、無感情なまま記憶ゲームの答えを言い当て、明日は挿入無しの約束を守らせた上、七日目を乗り切ったあとは全てを忘れる。それこそがジョードに対する勝利なのだ。
(待ってて、キアラン)
 処女なんて初めから捧げることはできなかったが、せめて他人に抱かれた日数くらいは減らすことができるかもしれない。
(何度も何度も寸止めして、イカせて下さいって、私が言い出すのを待ってんでしょ? そんなことは絶対に言わないんだから!)
 リーナは強い決意を固めた。



 
 
 

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