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 冗談じゃない。
 何が悲しくて胸だの尻だのを好きに触られなくてはならないのか。それも付き合ってすらいない豚男にだ。本心では顔も見たくないほど気持ちの悪い相手なのに、大事な部分を触られるなど考えただけでもゾッとする。
「葉山さんが言ってたよ!」
 栗木は大きな声で、大仰な身振り手振りを交えてくる。
「今日は友達の印として、これからお尻もおっぱいも自由に触らせてくれるって! パンツも見せてくれるって言ってたよ?」
「いや、そんなの聞いてねーし……」
「どうして? 葉山さんは言ってたのに」
「んなこと言っても……」
 本当なら罵倒を浴びせ、蹴ったり踏んだりしてやるところだ。しかし、明日美にそれができないのは、ただイジメ撲滅委員会が怖いからではない。
 これはそういう選択を迫られているのでは?
 と、そう気づいたのだ。
 葉山はわざと栗木にだけそんな事を吹き込んで、そして明日美には「栗木とちゃんと仲良くなれたら」などという条件を出してきた。なるほど、ここで栗木の言う事を聞けば条件は満たされて、葉山は明日美の起こしたイジメ問題から手を引くのかもしれない。
 ――冗談じゃない。思い通りにさせてたまるか。
「あー……そうだな! 触るのは無理だけどさ、パンツぐらいなら」
 さりげなく、栗木のお得を減らしてやる。
「ふーん? じゃあ見せて?」
 こいつ、調子に乗りやがって!
 腹立たしいことこの上なかったが、表面上は笑顔でスカートをたくし上げる。黒い布地に薄っすらと薔薇模様の浮かぶ下着を見せてあげた。
「なるほどねぇ」
 栗木はじっくり覗きこむようにして屈み込み、下着の柄を伺ってくる。
「……ど、どうだ?」
 どうして自分が栗木なんかの機嫌を気にしているのか。下手に出てしまった自分自身さえも憎らしくなるが、ここはニコやかにすべきだと引き攣る表情をキープする。今にも怒りがこみ上げて、眉間のあたりが震えるほどだが、耐えないわけにはいかなかった。
 ここを耐えれば助かるはず。
 そう信じて、明日美は下着の観察を許していた。
「へー? 今日は黒なんだ。黒っていうか、厳密には暗い灰色って具合だね」
 栗木は声に出して語ってくる。
「生地は肌触り良いし、アソコの貝が微妙に山になっているのがわかるね。あ、山ってほどではないから、丘って言った方がちょうどいいかな?」
「し、知るか……」
 布地越しとはいえ、明日美は性器を観察される。
「お尻の方を見せてくれる?」
「お、おう!」
 それでも機嫌を取るのが最良なのだ。明日美は今にも怒りに引き攣りそうな表情で、さすがに維持しきれていない笑顔で背中を向け、お尻を向ける。尻が出るよう、スカート丈の後ろを上手く手前に押さえ込んだ。
「やっぱり、明日美ちゃんのお尻って可愛いね」
 ペチンッ!
 と、さもスキンシップでもするような、軽い気持ちで叩いてきた。
「おい! やめろって」
「いいでしょ? いつもやってるんだから」
 栗木は明日美のお尻をドラムのように扱ってリズムを取り、左右交互に楽しげに打ち鳴らす。このままスパンキングをされ続けるのかと思えば、途中で尻たぶを鷲掴みに、ぐにぐにと揉みしだく。
「次はブラジャー見せて?」
 要求され、明日美は嫌々ワイシャツのボタンを外す。乳房をプルンと解放した時点で手を止めて、露出は最低限に控えておいた。
「ああ、見せたぞ? まだ満足しねーのかよ」
「だって、おっぱい揉みたいもん」
 栗木は駄々を捏ねてくる。
「お断りだっつーの」
 そこはさすがに避けたかった。確かにお尻は触られているが、胸はまだ一度も触れられていない。いわば占領されていない領地のようなもので、奪われた領地はともかく、まだ侵攻されていない部分だけでも守りたい。
 しかし、栗木は聞く耳を持たなかった。
「揉むもんね」
 問答無用で手を伸ばし、片乳を掴んできたのだ。
「……っ! てめぇ!」
 明日美はつい、その栗木の手を反射的に払いのけてしまった。
 そして、すぐに気づいた。
 栗木ときちんと仲良くするよう葉山に言われていたというのに、自分はその矢先に相手を拒絶したことになってしまう。人の体をベタベタと、拒否は当然だと思いたかったが、当然の意見が通じないような理不尽な相手から、言いつけを守れなかったのだ。
「……僕を拒んだね?」
 栗木は静かに呟く。
「だったらなんだよ! そ、そうだ! パンツならもう見せ慣れてるし、お尻だって触られちまってるからな。そこまで! そこまでだったら許すから、他は勘弁してくれって!」
 おかしい、まるで自分が言い訳をしているようだ。
「僕がやめてって言っても、明日美ちゃんはやめなかったよね?」
「そ、それは……」
「だったら、僕もやめないから!」
 栗木はそして、明日美を机へ押し倒した。
「お、おい! よせって!」
 明日美が声を荒げ、じたばたするのも押し込めて、半ば乱暴にブラジャーをずり上げる。生の乳房が晒されて、明日美はそれを腕で隠そうとするが、手首を掴まれ封じられた。両手を押さえ込まれ、力任せに抵抗を封じられる形で、明日美の胸は視姦された。
「いい形だねぇ……」
 醜い豚が嗤ったような、おぞましい表情でよだれを垂らす。汚らしい唾液が顔へ向かって垂れてきて、全身に怖気が走った。
「よくない! 離してくれよ! 尻ぐらいなら触っていいから!」
「じゃあ胸もいいよね」
 栗木は胸元へ顔を埋め、舌をまっすぐ張り伸ばし、乳房全体をベロベロと舐め回した。乳肉が、乳首が唾液に濡れ、汚い水分を吸った皮膚が空気でひんやりする。どれほど溢れる唾液なのか。しゃぶられ、舐められ、いいようにされていくうちに、みるみるうちにまんべんなく唾液はまぶされ、乳肌は余すとこなく汚液にまみれた。
「てめぇ……」
 豚の分際で、ましてや家畜の分際で、ここまで人間を辱めることが許されるのだろうか。少し有利な条件を得たからといって、調子に乗って女の子の乳を吸う。クズ以外の何者でもないような男なのは間違いない。
 そんなクズが大胆にも開き直っているわけだ。明日美の中に抵抗の気持ちは消えなかったが、殴る蹴るの暴力でも振るわれたらと思うと恐ろしく、泣く泣くもがき暴れるのをやめて大人しく脱力していた。
 いっそ殺してやろうか。
 なんていう、とんでもない気持ちを危うく本気で抱きかける。こいつさえ、栗木のような豚さえ存在しなければ、自分はこんな目に遭わなかったのだ。



 
 
 

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