仁藤晴美は学校入学で初めて同じクラスになった頃から、佐藤日和のことが気になって仕方がなかった。
きっかけはしょうもないものだと思う。
クラス初日の自己紹介で日和が教卓前に立ったとき、まず目がいったのは胸である。他の女の子の膨らみは控えめだが、日和の胸元は普通の子よりも一段大きい。乳房によるブレザーの盛り上がりは文句無しの学年トップだ。
中学初日からして大きな胸から目が離せなくなっていたが、それ以外にもなんとなく惹かれたきっかけはたくさんある。
休み時間に自分と同じ本を読んでいることに偶然気づいた。同じ図書委員になり、一緒にカウンターの仕事をした。図書室で何度も顔を見かけたりしているうちに、性格の近しい親近感に好意を覚え、そのまま惹かれていくうちに、いつからか自分は日和が好きなのだと自覚していた。
一年生の頃から好きだったが、だからといって特別な行動を取るのは気恥ずかしく、二年生になってもなんとなく喋れる友達程度にしかなれなかった。このままではいけないと思い積極的になったのは今年からだ。
晴美が初めて着替えを覗いてしまったのは、そんなある日である。
朝、部屋の空気でも入れ替えようとカーテンを開いたら、ちょうど向こう側に日和の下着姿があるのを見てしまった。
「えっ!?」
全くの偶然だ。
着替えを覗こうなんて意志はなかったが、いざ見てしまえば晴美も男。
オロオロと焦ったようになりながらも、ブラジャーだけの背中を気にせずにはいられない。
覗いてしまって、バレただろうか。
声を上げた瞬間に日和は頭をピクンと反応させ、なんとなく肩越しにこちらを伺っているような気がしなくもない。そういう顔の角度を日和はしていた。しかし、悲鳴を上げるわけでもなければ、怒ったり慌てふためいたりするわけでもない。ただ背中を向けた姿勢のまま、動くことなくベッドに尻を置いている。
しばらくすると位置をずらし、カーテンの開きかけのフレームに合わせ、後姿をまんべんなく鑑賞可能な場所へお尻を置きなおした。
(あんまり見てちゃ、悪いよね)
どちらにせよ、知らないうちに部屋を覗かれたなどと知ったら、女の子ならショックを受けてもおかしくない。罪悪感を抱いて晴美はそっとカーテンを閉じるのだが、悪い悪いとは思いつつも好奇心が止まらない。
(ど、どうしよう……。覗きなんて犯罪だし、駄目なのはわかってるけど……)
カーテンに隙間を作り、すぐ向こう側にある柔肌を覗きたい。
申し訳なく思いながらも、結局は晴美はブラジャーの背中を見てしまう。女体の魅力による視線吸引力はすさまじかった。
その時だった。
日和はなんとブラジャーのホックを外し、胸を晒して前を向いたのだ。ボールを生やしたかのように丸い乳房がたぷんと揺れ、淡い桜色の乳首が目に焼きつく。甘く美味しそうな果実を前に目を離すなどできなくなった。
ネット上でなら簡単に見られるそれだが、本物を生で拝むなど貴重なことこの上ない。感動した晴美はもう目を背けられない。後ろめたさからやめようとはするものの、いかにも張りが良く弾力のありそうな日和の胸は、晴美の視線を吸い寄せる。いくら逸らそうと思っても、魅力的な乳房の持つ視線吸引力に勝てるわけがないのだった。
心なしか火照っている日和の表情がまた色っぽく、ズボンの内側が膨らんで硬くなるのにそう時間はかからなかった。
もっとも、鑑賞できた時間はものの数秒。
日和はすぐにカーテンを閉じてしまい、なので晴美は脳裏に焼き付けた記憶を頼りに自慰行為に走ったが……。
その後も、晴美は何度もカーテンの向こう側を覗いていた。
(これは偶然開けっ放しにしていただけで、外の天気を見たいだけで……)
後ろめたさを誤魔化すための無理のある言い訳をしながら、晴美は毎日のように覗き行為を繰り返す。
露骨に見よう見ようとカーテンに食いつき続けたわけではないが、またあのラッキーに出会えないものかと、男である以上はどうしても期待する。さりげなく様子を伺い、今日は、今回はどうだろうかと毎朝のおりに確かめ続けた。
それから一週間は何のチャンスもなかったが、継続の成果もあって、やっとのことで朝の着替えの瞬間に巡り合う。
(や、やった!)
そう歓喜したものだが。
(でも、やっぱり悪いよね……)
目を逸らすのだが、好奇心に押し負けチラチラ伺う。
やはり、朝という時間帯が着替えに遭遇しやすいのだ。パジャマから制服へ着替えるまでに日和は必ず上下を脱ぎ、一旦下着姿になり、それから衣服を身に纏う。まるでわざわざ見せ付けてから制服を着るような手順なのだ。
久々のラッキーに出会えてからは、ほぼ毎日のように着替えを覗いた。
日和はいつも後ろを向き、ボタンを一つ一つ外して色っぽく背中を出す。ズボンを脱ぐ時は必ずベッドを足場に立ち上がり、腰を折り曲げ、お尻を突き出す姿勢になっていく形でパンツと太ももを見せるのだ。
あるときは純白、あるときはイチゴ。
毎朝、下着の柄を把握してから登校前の日和を待ち伏せ、一緒に並んで通学する。
その制服の下には必ずついさっき見た下着があるわけで、そう思うと緊張するような、特をした気分のような、やっぱり後ろめたいような気持ちがした。
「ねえ、白と水色ならどっちが好き?」
そんなことを聞かれたのは、そんな毎日を繰り返していたおりだった。
次の朝の下着は水色だった。
そして、登校中にまた聞かれる。
「縞々模様と水玉模様ならどっちが好き?」
「水玉、かな」
翌朝の着替えを覗くと、下着には青い水玉模様がついていた。カップの越し乳房は必ず見れるわけではない。色や柄はいつもパンツで確かめているのだが、白い布地の上に水玉をプリントした柄が、日和が意味もなく四つん這いになったおかげでよく見えた。
ピンクと黄色から選ばされ、黄色と答えると、イエローカラーの紐が通った下着の背中を鑑賞できた。
青か赤かと聞かれ、青と答えると青い下着姿が鑑賞できた。
水色の縞々パンツが見れた。
クマさんパンツが見れた。
白と灰色のチェック模様のパンツが見れた。
日和は必ず、登校中に色や柄の好みを二択で選ばせ、すると翌朝の着替えでは選んだ方の下着が見れる。一度や二度なら偶然だが、ここまで同じ法則性が一貫していれば、誰だって日和の行動を察するのは当然だ。
日和は覗きに気づいている。
気づいた上で、わざと気づかないフリをしている。
それどころか下着の好みまで選ばせて、覗かれるのも承知でカーテンを半開きにしたまま部屋が丸見えの状態で着替えを始める。
何故なのだろう。
怒るわけでも悲鳴をあげるわけでもなく、カーテンの締め忘れ気を使うわけでもない。もし自分が女の子で、同じ立場だったなら。着替え前にカーテンに気をつけるだけで、わざわざ面倒な自体に発展させることはしないで済ませるが、日和は見せてくれるのだ。
どうして、見せてくれるのだろう。
(露出狂?)
思いつく答えはそれだった。
女の人が全裸の上からコートを着て、道行く人々に裸を見せつけ去って行くという話を新聞だったかネットだったか、どこかしらで聞いた覚えがある。
決めつけるのは失礼だ。
しかし、下着を見せてくれているのは紛れもない事実である。
日和は本当にどうして下着を見せてくれるのか。
真意が気になる。
散々覗き行為をしておいてこう思うのは自分勝手極まりないのだろうが、もしも日和が自分以外の誰かにも露出を行い、下着を見せているとしたら、それは嫌だ。好きになった女の子の脱衣を拝むのは自分一人だけがいい。
日和に露出趣味の疑惑を抱いた晴美は、引くよりもまずいるかどうかもわからない敵に対する嫉妬心を抱き、そんな自分の気持ちを自覚して、我ながら勝手な奴だな、などと自分自身に対して呆れ気味になってしまう。
(確かめたいな)
日和は一体どういう思いで、カーテンをわざと半開きにしているのか。
直接聞くのは抵抗がある。
だが、もしも本当に日和が露出趣味の持ち主で、下着を見せている相手が晴美一人ではないとしたら……。
それは嫌だ。やはり確かめよう。
コメント投稿