貴澄夏生が見い出した活路とは、主犯格の重心が後方へ動く瞬間だった。
バック挿入の最中、なつきは頭も胸も下につけ、尻だけが高い姿勢でいた。さらに両腕の形といえば、土下座でもするように肘は曲がって、この状態で腕力を駆使すれば、まるでバネで弾き上げるかのように、自分の身体を動かすことが可能だった。
そこでなつきは、自ら尻をぶつけたのだ。
それは結合部に着目すれば、ピストンによって後ろへ下がる肉棒を尻で追いかけ、自分から膣内にそれを飲み込む行為でもある。
だが、実態としては男の腰に勢いよく尻をぶつけて、後ろへ倒してやったのだ。
「畜生! こんな馬鹿な!」
挿入によって得られた勝者の気分を覆し、なつきがこうして立っているのは、主犯格にとって心理的にもショックは大きいはず。
「さあ、仕返しはたっぷりさせてもらうわよ」
なつきは胴着ズボンの紐を解いて、脚からずり落ちることを良しとした。一度緩めて結び直すような暇などないからだ。しかし、持ち上げれば済むパンツについては、主犯格が攻めて来ないかの様子を見つつ、慎重に履き直した。
結果として、空手着の上だけを着用して、下はパンツだけでいるわけなのだが、今のなつきの頭にあるのは、この男をどう懲らしめてやろうかという内容だけだ。
どんな技を決め、どうやって仕返しするか。
「くっふふふふ……」
「?」
「はっはっはっはっはっは!」
「……何がおかしいの?」
なつきは眉を顰めた。
動揺に動揺を重ねていたはずの男が、急に笑い始めれば、気でもおかしくなったのかと思わざるを得ない。
しかし、主犯格は言った。
「お前は既にイッている」
何のことだかわからなかった。
「……え?」
なつきの反応はそれだけだった。
魔羅挿入波などという技があるようだったが、性交中には使われていない。あのピストン運動の中では、一度も絶頂を迎えていない。
いや――。
そこまで思い至って、初めてなつきは気がついた。
女を簡単にイカせる性感拳法の使い手に挿入され、本当にあの程度で済むものか。確かに喘がされてしまったが、もっと恐ろしい何かがあってもいいはずではないのか。
と、次の瞬間。
「――んぁっ、んあああああああああぁあああぁぁぁぁっ!」
なつきは絶頂した。
途端に立っていられなくなり、脚の力が緩んでふらりと膝をつき、疲弊しきったように肩を上下に息をしていた。
「はぁ……はぁ……」
気持ちよかった全ての余韻が、絶頂後もなお膣壁に帯電して、ウズウズと次の挿入を待ち侘びている。
どんなからくによる技か。
仕組みはわからないが、あの挿入の際に時限爆弾を仕掛けられていたのだ。
万が一、なつきが脱出しても構わないために……。
「で、どうする? ギブアップするか?」
「……しない」
なつきは何とか、立ち上がろうと試みる。
しかし、脚に力が入らずに、ほんの少し体が持ち上がっただけで、すぐになつきはふらりと倒れて仰向けに横たわった。
「ギブアップしないってことは、もっとたくさんして欲しいってことか」
「そ、そんなわけ……!」
「言い訳はいい。答えはアソコに聞いてやるよ」
主犯格はなつきの脚を割り開き、ここに来てもパンツを下げるのは、およそ太ももの中央あたりだ。
そして、再び挿入を行った。
ずにゅぅぅぅぅ――。
豊満な尻を持ち上げて、主犯格は肉棒を奥まで埋める。
「――んんっ!」
なつきは歯を食い縛った。
「また挿れられちまったなぁ? せっかく逆転できたかもしれないのになぁ?」
ゆっさりと、ゆっさりと、腰を振り始めた彼は、ニヤニヤと上から語りかける。
紅い空手着は脱がせないまま、黒い帯にも手をつけず、胸の部分だけをはだけさせるのは主犯格の趣味だった。せっかく空手家を犯すからには、その服装のままやる方が、全裸を犯すよりも面白い。
シャツの上から、両手で胸を揉みしだいた。
「んっ! んっ、んんっ、んん――」
決して負けたくない表情で、何としても勝ちたい目つきで、なつきは歯を食い縛っているものの、喘ぎ声を完全に噛み殺すことはできていない。
「で? 次はどうやって脱出する? もっと俺に見せてくれよ」
そうやって、主犯格が顔を近づけた時だった。
「んぅっ!」
掛け声でもある喘ぎ声から、彼の延髄目掛けたパンチが飛ぶ。
「おっと」
それを主犯格は軽々と受け止めていた。
「脳を揺らせば失神させる可能性があるもんな」
「んっ、んんん!」
「当たれば俺がKOする可能性がまだあったな」
「んん! んぅっ、んっ、んんん!」
貫くたびになつきの脚は震えていた。極限まで強張って、痙攣じみてビクビクと、つま先にかけてまで反応している。
これでは何もできまいと、主犯格はわざと動きを止めた。
もちろん、抜くわけではない。脈打つほどに勃起している肉棒は、長さの限り深々と埋まったまま、なつきの穴に蓋をしている。
男の意図はなつきにもわかった。
こんな挿入されてしまった状態から、それでもどうやって戦うのか。彼はなつきの抵抗を見たがっている。
「ほーら、どうする?」
「お、お望み通り……!」
なつきは右腕に力を込めかける――と、その途端に主犯格は、そちら側の乳首をブラジャー越しに摘み上げ、電流を送り込むかのごとき刺激を与える。神経を通じて、筋肉繊維の一つ一つにまで染み渡るような、溶け落ちるかのような快感が、腕に力を込めようとしただけの行為ですら無効化した。
ならば、右、右、左といった順序で、主犯格の意識を片方に引き寄せ、左腕での反撃が出来ないかと試してみるが、それさえも通用せずに同じ方法で無効化された。
乳房に手の平が置かれている。
たったそれだけの理由で、なつきは両腕が使えない。
だとしたら、肉棒が入ってしまっている下半身も、自在に無力化してくるだろう。
「するか? ギブアップ」
「……いやだ」
「へえ、どうして?」
「ま、負けたくない……あんたみたいな人に……」
「なら、こうしてやるよ」
すると主犯格は、指先で皮膚を貫通したいかのような勢いで、強く腹部を突いてきた。
「――ぐぅっ!」
痛みに呻くなつきだが、ダメージを与えることなど二の次どころか三の次。
「今のは絶頂を封じるツボだ」
「絶頂を? どうしてわざわざ……」
「なーに、今にわかるぜ?」
彼は再び動き始める。
「んぐぅぅっ! んっ、んあ! あっ、あひぁぁ!」
すぐに絶頂が迫った。
みるみるうちに痺れが集まり、アソコの部分に集合して、風船が勢いよく膨らむかのように増大していく。
それがやがて弾ければ……。
だが、なつきがイクことはない。
「……え?」
言われた手前、イケないらしいことを知ってはいたが、いざそうなったなつきは、あまりにも意外な感覚にきょとんとしていた。
ピストン運動が停止する。
たったそれだけで、膨らんだ風船が弾けるというよりも、むしろ空気が漏れて萎んでいくとでも言うべきような、そんな風に下半身の中から甘い痺れが散っていく。
ただ、イクことができなかった余韻だけが、アソコの穴に残されていた。
「んじゃ、またいくぜ」
と、主犯格は動き始める。
「――あっ! あん! あんん! むっ、んむぁ! ひぁぁ!」
肉棒が出入りすれば、胸を揉むための両手も動き始める。膣と乳房とで、三つの部分から激しく快感が与えられ、イキそうになるまで時間などかかりはしなかった。
「おっと」
そして、止まった。
「うっ、くぅ……」
なつきにはわかった。
こうやって、寸止めを繰り返すことにより、いつかはなつきの口からギブアップと言わせるつもりだ。格闘というより快感と戦って、快楽に負ける形でギブアップするように、彼はなつきを導こうとしていた。
「負けない……負けない……!」
だから、なつきは意地になる。
「そうかぁ? ま、頑張ってみろよ」
また動き出し、しばしのうちに停止する。
動いて止まり、動いて止まり、何十分もかけてじっくりと、数え切れないほどの回数で寸止めは繰り返された。
「――あっ、あ! あっ!」
徐々に喘ぐ音量は高まり、その乱れ具合が絶頂を暗示していたが――
「あぁ…………!」
急に喘ぐ声が止まって、そこには切なくてたまらない表情が浮かぶ。
「どうだ? ギブアップするか?」
「し、しない!」
「なら、もっともっと寸止めしてやる」
「あぁぁぁ……!」
ついさっきまでは、まだまだ脱出の方法について思いを巡らせ、いかに相手の組みを崩して自分の技に繋げるかという、戦うことが好きだからこそある思考が残っていた。たとえ無意識であっても、逆転の道を探っていた。
それが少しずつではあるが、薄らいでいた。
寸止めのたびにイカせてもらえなかった余韻は蓄積して、停止した肉棒に早くピストンを再開して欲しいと、心のどこかで思うようになってしまう。
いざ動き始めたら、それを嬉しいと思う気持ちを少しでも抱いた自分に驚き、そんな自分自身を戒めながら、負けまい負けまいと歯を食い縛った。
だがもう、時間の問題だった。
いくら精神的に踏ん張っても、心だけはと思っていても、こんな時間が何十分も、果ては一時間以上も続いていれば、限界が来るのは当然だった。
――どうしよう……私、このままじゃ……。
そんななつきへと、時間を空けて久しぶりのように主犯格は訪ねた。
「するか? ギブアップ」
「…………」
もう何も答えられない。
心の中ではイカせてい欲しいが、それを素直に口に出さないことだけが、なつきの中に辛うじて残された理性の欠片だ。
もう自分は堕ちてしまう。
それをなつきは、涙ながらに自覚していた。
「こうしよう。お前に最後のチャンスをやる」
そんな絶対的に有利な男が、ここに来て急に肉棒を引き抜いた。
それどころか、もう一度立ち上がり、足腰を整えて、ゆったりと脱力を効かせた構えを取ることさえも許してきた。
ただし、次に押し倒した際、迅速に挿入するため、パンツだけは投げ捨てられたが。
いずれにしても、次でトドメを刺されるはずだったなつきにとって、これは本当に本当の最後のチャンスだ。
――負けない! 負けない! 負けない!
――気をしっかり保って、集中して……。
NGボンバーは乱発できないが、あと一発なら――。
しかし、寸止めの余韻を溜め込んで、肉体的には挿入を欲しがっている。あの丸出しにしている肉棒が恋しくて、わざと負けようかと思う気持ちが、心の隅に巣を作る。
――来る!
そうとわかるや否や、なつきも動いた。
拳と拳がすれ違っていくように、なつきの技と主犯格の指先が、お互いの身体に触れ合っていた。
「――ぐっ!」
主犯格は痛みに呻いていた。
「んぁぁぁ!」
だが、甘い痺れによって不要な脱力をさせられて、なつきの放ったパンチは本来よりも遥かに軽い。軽くなるとわかっていれば、避ける必要もなくなる。彼はあえてボディに拳を受け、なつきの手首を掴む機会を作ったのだ。
掴んだ直後にチョップを打ち、それによって肘関節を曲げさせつつ、引き寄せてから押し飛ばす。足のふらついているなつきは、普通ならそんなことでは転ばないが、この状態では糸も簡単に尻餅をついていた。
すかさず、犯しにいく。
当たり前のように押し倒され、脚を押し開かれるなつきは、恐ろしく簡単に挿入の危機を迎えていた。
「い、嫌っ!」
そこでなつきは、自分自身に言い聞かせたいかのような掛け声で、どうにかして平手を放って主犯格の胸を押し飛ばした。
飛ばしたが、それになつき自身も巻き込まれた。
まず、亀頭までは入ったのだ。そこから押し飛ばされる主犯格は、咄嗟になつきの胴着を掴んで、後ろへ倒れる勢いになつきを巻き込む。腰を突き上げ、さらにもう少しだけ肉棒を挿入しながら、主犯格は驚くほど起用になつきの身体をコントロールしていた。
――騎乗位。
肉竿が半分まで入っている状態で、腰さえ落とせばいつでも騎乗位によるセックスが楽しめる状態へと、なつきは導かれていた。
「あっ……」
セックスできる。
そう考えてしまった自分に気づいて、必死なまでにはしたない考えを振り払い、目の前の男を倒すのだということだけで頭の中身を埋め尽くそうと努力した。
「NGボン――――」
「イカせてあげるぜ?」
何の技術でも、避けるでも何でもない。
ただの言葉こそが、なつきのNGボンバーを食い止めていた。
次の瞬間――
魔羅挿入波!
今度は肉棒でダイレクトに、膣壁を抉る一撃によって、下から上へと貫かれたなつきは男の胸に倒れていた。
もう、駄目だった。
あれは実際に勝てるチャンスだった。技さえ出せばこの距離で直撃させていたはずが、あの一言で止められた。自分自身で勝利を逃したばかりか、主犯格は初めからこうなることを見越していたのだと悟り、なつきは心底から敗北を認めざるを得なくなっていた。
「ギブアップ?」
「……ギブアップです」
「何でだ? 今のが俺の聞き間違えなら、勝負を続けてもいいんだぜ?」
「い、イキたくて……って、言わせないでよ……こんなこと……」
「あーあー。あの貴澄夏生が本当に負けてやんの」
「だって……」
こうなってはもう、なつきはただ主犯格にイカせてもらえることだけを待ち望んだ。彼が体位を変えようとすると、静かに応じて快楽に浸り始める。
あとは何度も絶頂させた。
なつきを延々と喜ばせ、お互いに精魂尽きる頃には主犯格も射精して、赤かった胴着を精液で汚していた。
それから……
**
数日後。
その道場の畳で見られる光景は、またしても空手着のなつきが押し倒され、正常位から犯されているものだった。
「また挿入が決まっちまったなぁ?」
「このレイプ魔! 女の敵!」
「自分からヤられに来たんだろ? お前もエロくなったもんだ」
「なってないわよ! 私はあんたの技を破ってみたくて――って、ああん! きゅ、急に動くなってば! 人の話を聞きなさい!」
「はいはい。体に聞いてやるよ」
「――あっ! だめぇぇえええ!」
殴り込みにやって来るたび、なつきはこうして犯されている。
もしかしたら、本当に技を破って勝ちたいのかもしれない。そういう部分がなつきにはあるのだが、今の喘ぐ姿を見せられれば、そんなことを信じる人間はいないはずだった。
――貴澄夏生、格闘家として快楽に敗北。
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